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メソポタミア組短編集

カルデアのマスターが冥界下りを始めたまさにその頃、主人を地の底まで送り届けたウルクの魔術王は他のサーヴァント同様シュメル熱に臥せっていた。どこかの金羊が揶揄するところの「やせ我慢・アンド・ド根性」も限界に達した彼はせめて弱った姿を見せぬようにと今は使われていない部屋へと転がりこんだ。

ギルガメッシュが目を開くとそこにはウルクの街が広がっていた。かつて自身が治め、友や神官、多くの民の生きた街。ただひとつ違ったのはそこには人ひとりいないということだ。青い空に見慣れた街並み、しかし民だけがいないその場所を夢の中だと悟るのは早かった。だがサーヴァントは普段夢を見ない。相反する二つの事実からギルガメッシュが導いた答えはひとつ。何者かが自分になんらかの魔術的干渉をしている。わざわざウルクの街並みまで見せてきている、術者は相当のものであろう。警戒を強めたギルガメッシュは視界の端、やや離れたところにあるジッグラトの頂上に黒い塵のようなものがあがっているのを捉えた。身体強化魔術を自身に施した彼はジッグラトへと急いだ。

陽光さすそこにいたのは黒。暗い霧に全身を覆われたそれはシャドウサーヴァントか。マスターとともに行った資材調達の際に幾度となく戦ったが油断はできない。いつものように王の財宝から出した魔杖で魔術を行使した。対するシャドウサーヴァントは跳躍して放たれた魔術を回避し、そのまま距離を詰め魔力をこめた腕でギルガメッシュに斬撃を浴びせる。その戦闘方法に、その動きに覚えがあった。ああお前は。そういうことか。だが手加減するわけにはいかない。ギルガメッシュは出せるだけの魔杖でシャドウサーヴァントを囲み魔術を撃ち込んだ。さしもの相手も前後左右、頭上まで囲まれては避けられず攻撃をまともに受ける。限界を迎えた出来損ないの体はゆっくりと崩れだした。同時にそれを覆っていた霧も綻び、シャドウサーヴァントの中身が露わになっていく。中性的な美しい風貌に淡い緑の髪、真白の貫頭衣。見た目こそ英雄王の認める唯一の友とほぼ同じだがただ一点、かの者と異なる箇所があった。瞳だ。すみれ色の瞳が自分はお前の友ではないとギルガメッシュに訴える。

「ギル……ガメッシュ……」

キングゥから微かな声が漏れる。今際の際に伸ばした手はギルガメッシュにはわずかに届かず消えていった。彼だったものがそよ風に溶けていくのを見届けたギルガメッシュはひとりごちる。術者は我だったのか、と。おそらくマスターを冥界に送った際、魔法陣を通じて流れ込んだあちら側の空気にキングゥの魂の気配か、残滓そのものかが混じっていたのだろう。加えて、生前を思い起こさせるシュメル熱。彼はカルデアに来て以来最も故郷に由来するものに触れていた。現代では夢は無意識の願望を見せると言われているらしい。我が望んだのはそういうことだったのだろう、ギルガメッシュはそう自らを納得させた。やがて彼の意識も遠のき始める。現実へと帰っていくなかで彼は思った。この一夜の夢をもう一度、いつかどこかの世界で彼に会えればいい。
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