このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

メソポタミア組短編集

ハロウィン、それはカルデアにとっては自称アイドルの英霊が暴れまわり起こる珍事に対応しなければならない試練の日だ。しかし、英霊たちは、マスターとともに特異点対処に赴くことになった者以外はそれぞれの形でハロウィンというものを楽しんでいた。

「ハッピーハロウィン!トリックオアトリート!」
それはカルデア中に幼いサーヴァントたちの菓子を求める声が響くなかでのことだった。
「トリックオアトリート」
「なぜお前まで菓子をねだるのだ、エルキドゥ」
その問いを投げたのはかの英雄王ギルガメッシュだった。もとより子どもに懐かれやすい王だが今日はいつもに増して子どもサーヴァントたちに囲まれていた。そしてその中にこっそりと混じっていたのは誰であろう、王の親友エルキドゥだった。
「なぜもなにもみんなが楽しそうだったから仲間に入れさせてもらったんだよ」
「菓子を頂戴する権利があるのは幼き者のみ。諦めるのだな」
「幼い……ならこれでどうだい?」
エルキドゥの緑髪がするすると短くなっていく。
「ええい、霊基を変えてまで菓子が欲しいか仕方ない」
友の頑固さに負け、他のサーヴァントたちに渡した飴の余りを出そうとしたところだった。
「シドゥリの作ったバターケーキがいいな」
「そんなもの、我が蔵にもあるわけなかろう!」
えー、という落胆の声が部屋に響いた。
「ギルの宝物庫だよ? 探せば見つかるって。ほらほらちょっと蔵開けてみてよ」
これ以上反応しても長引くだけと悟ったギルガメッシュは大人しく蔵を開いた。普段なら武器が射出されるカルデアと蔵とのつなぎ目にエルキドゥは迷わず手を入れた。そのまま遠慮なく蔵を漁るエルキドゥだったが気配感知スキルを持ってしてもやはりケーキは見つからないらしい。
「ほれみたことか。だいたいシドゥリのケーキは毎度毎度出来上がって半日と経たないうちに食い尽くしたではないか」
「うーん、そんな気はしてたんだけどね……。あ、これは」
そう言ってエルキドゥが蔵から取り出したのは1枚の粘土板だった。楔形文字の刻まれたそれをまじまじと見た二人は目を合わせ、互いの意思を確認すると食堂へと向かった。

「ハッピーハロウィン!グッドモーニング凡百の英霊ども!フェイカーはいるか!」
ハロウィンということもあり英霊たちが集まってがやがやとしていた食堂だったがその中でもギルガメッシュの声は大きく響いた。やがて声を聞きつけてキッチンスペースからやってきた赤い弓兵に英雄王は先ほどの粘土板を突きつけた。
「ここに書いてあるものを作れ」
「は?」
そこですかさずエルキドゥが通訳にまわる。
「この粘土板にはね、あるお菓子のレシピが書いてあるんだ。で、僕たちで翻訳して計量も現代の基準に直すからそのお菓子を作って欲しいんだ。突然でごめんね」
「……そこまでされては断りづらいな、いいだろう請け負った」

数十分後、台所の弓兵はこの安易な選択を悔いることになる。
「……そうだね、ここにバターを200グラム」
「1ホールに200⁉︎ カロリーの暴力ではないか!いや、我々は英霊だからそれは気にしなくてもいいのだが……」
「これぐらい入れないとご馳走って感じがしないじゃないか」
「はあ……」
「シドゥリの味を再現してみせろよ雑種。さもなければ即刻退去させてやる」
「……」
もはや何も言うまい、と黙々とレシピの再現を試みた結果。
「……なんなのだ、この暴力的なケーキは。バターが染み出しているじゃないか」
焼きあがったケーキは弓兵には常識外のものであったが王とその友からしてみれば懐かしいものであった。
「すごいな、この時代でもここまで再現できるなんて。計算以上だ」
「ふむ、まあ見られるものにはなっているではないか」
バターの香りに誘われて食堂には甘いもの好きの英霊たちが集まり始めた。気を利かせたエルキドゥがホールケーキを切り分ける。
わざわざ僕たちの頼みを聞いてくれた赤い弓兵の彼に、そして4000年の時を経て彼女のケーキをもう一度食べられることに感謝を。
「……いただきます」
3/5ページ
スキ