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カルデア・アラカルト

7月3日
ライダー坂本龍馬について回る少女、お竜はカルデア内を文字通りふよふよと漂っていた。やがて一つの部屋を見つけて止まる。その部屋はアサシンクラスに割り当てられた部屋の一つでアジア系の男性アサシンが寝床とする部屋だった。扉に耳をたて中の気配を探る。よく知った気配が一つ。
お竜は一切の躊躇なく扉を開けた。

「おい、クソ雑魚ナメクジはいるか?」
「……あ?」

部屋には以蔵一人。ちゃぶ台のような小さな丸机の上に置かれた手入れ油や打ち粉、床に転がった紙パックの日本酒。
安酒を飲みながら刀手入れか、気楽なナメクジだ。そう思いながらお竜は以蔵のもとへ近づいていく。二尺ほどまで寄っていくと
「なんじゃあ、ヘビ女。おまんは龍馬にくっついてるんじゃながか?」
怪訝そうな顔をした以蔵が尋ねるとお竜は心外だというように腕を組んで
「む、お竜さんだって四六時中龍馬のそばにいるわけじゃないぞ。カエルを獲りにも行くしカエルトークに興じたりもする」
キャットなんかとは気があうぞ、と答えた。
やがて元に戻って、
「そんなことより、だ。ナメクジ、お前今日なのに案外大丈夫そうだな。」
数秒の沈黙の間に以蔵はゆっくりと首を傾げた。
「今日?七月の三日がどうしたが?」
「……気づいてないならいい。邪魔したな」
ふわっと身を翻して部屋を出ようとするお竜の手を以蔵は立ち上がって掴んだ。
「おまん、自分から話ふっかけてきちょってそれはなか、最後まで話さんか」
お竜は一瞬目を見開き、チッと小さく舌を打った。
「なら教えてやる、今日は閏五月十一日だ。」
以蔵は少し考え込んで、やっと答えにたどり着いたのか聞き取れないほどの小さな声であ、と漏らした。目には隠しきれない恐怖が浮かび上がり体がカタカタと震え出す。そんな以蔵にとどめを刺すようにお竜は彼の喉仏のあたりに触れた。

「お前のこれが落ちた日だ。」

以蔵の息がヒュッと音を立てた。
だから知らないほうがよかっただろう、とお竜は続けたがそんな言葉は以蔵には届かない。彼の脳裏に浮かぶのは京で幕吏に捕らえられた瞬間、あの拷問、落ちた首からみた自分の胴体……。荒れた呼吸の隙間からどうにか言葉を紡ぐ。

「堪忍しとおせ」
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