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キスガス

 キースとのキスは煙草の味がする。
 舌に刻まれた苦味を味わいながら、ガストはぼんやりと思った。ひとつ息を吸い込めば、すっかりと嗅ぎなれた煙の香りが肺を満たしていく。自分では吸わないのに、すっかり染められてしまったものだ、と僅かな笑みが口元に浮かんだ。
「ん」
 すると、気を散らすガストを咎めるように、もう一度キスが降ってくる。迎え入れるように舌を差し出せば、熱い舌が絡みついてきた。途端に刺すような苦味が口の中に広がる。しかし、普段なら顔を顰めるようなその味も、今だけは気にならなかった。
(ああ、すきだ)
 愛おしい相手から与えられる、唯一無二の味わい。ガストはまるで飴を舐めしゃぶるように、夢中になってキースの舌を味わう。
 ちゅ、と、甘い音を残して離された唇。二人の間に繋がる銀糸の先で、見下ろすオリーブグリーンの瞳は自分と同じ熱に蕩けていた。
(キースも、俺と同じように思ってくれてるかな)
 自分がそう思うように、キースもまた、自分とのキスを好きでいてくれたらいい。そんなガストの想いに応えるように、また唇が重ねられる。愛しい苦味が再び舌を包む。
(にがくて、あまいなぁ)
 自分だけが味わえる甘露に心を浸して、ガストはゆっくりと目を閉じた。
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