キスガス

 休日にダーツに誘って以来、ガストはたまにウエストセクターの部屋に遊びにくるようになった。ダーツをしたり、酒を飲んだり、トランプゲームに興じたり、半分はキースの趣味に付き合ってもらっているようなものだ。それでもガストは毎回笑顔で部屋を訪れ、キースと過ごして、満足そうに帰っていく。随分と懐いてもらえたものだ、と、自惚れ混じりの独り言を胸中でこぼすと、不意にガストが声を上げた。
「よっしゃ!」
 ダーツ盤に視線を向ければ見事なブルズアイ。対戦しているはずなのに、褒めて欲しいと言わんばかりの表情でこちらを見るガストの頭をわしわしと撫でてやる。まるで子供のようにころころと笑い声を上げるのを聞いて、キースは自分の心が満たされていくのを感じた。
(これが見たくて誘ってるようなもんだよなぁ。我ながら下心ありすぎだろ)
 盤の中心に突き立ったダーツのように、ガストの笑顔が心を射止めて離さない。しばらくそれを堪能していると、ガストが次はそっちの番だと急かしてきた。
(んじゃまあ、頑張りますかね)
 自分の矢でもガストの心を射止められるように。らしくもなく詩人のようなことを考えながら、キースはダーツを手にとった。
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