キスガス

「これ、キースに」
 珍しくガストから飲みに誘われたと思ったら、そんな言葉と共に大きめの包みを渡された。
「なんじゃこりゃ」
「開けてみてくれよ」
 せがまれるままに包みを開けば、中から出てくるのは明らかに高級そうなウイスキーの瓶とチョコレート。予想外のプレゼントに、キースは眉を跳ね上げる。
「おお、こりゃあ嬉しいプレゼントだな。ありがとさん」
 笑顔で礼を述べれば、ガストは嬉しそうに頬を緩ませる。
「喜んでもらえて良かった。せっかくのバレンタインだからな」
「さすがお前は俺の好みをわかってるよ。じゃあ今日はこれを飲むか」
「ああ」
 キースは言うが早いか、上機嫌でグラスの用意を始めた。冷凍庫からロックアイスを取り出して、二人分のグラスに入れるとそこにウイスキーを注ぎ入れる。すでにソファに座っていたガストの隣に腰掛けると、ガストにグラスを渡してから自分のグラスを軽く掲げた。
「乾杯」
「乾杯」
 琥珀色のウイスキーを喉に流し込めば、豊かな風味と酒精が口の中に広がる。上質なウイスキーだ、かなり値が張ったのではないだろうか。そんなことを考えながらガストの顔を見れば、嬉しそうに微笑み返された。
「これ、すげえ美味いな」
「いろいろ調べていいの選んだんだ。こっちも美味いと思うぞ」
 差し示されたチョコを口に含めば、ちょうどいい甘味と苦味が舌の上で溶ける。なるほどこの酒に合うつまみだ。追いかけるようにウイスキーを口にする。二つの味が溶け合ってもっともっとと舌が強請る感覚がする。いつもは深酒を諌める恋人も、今はなぜか横で微笑むのみだ。
「ありがとな、ガスト」
 言いながら、また一口キースはウイスキーを含んだ。

「へへぇ、がすと〜のんでるか〜」
「おう、飲んでる飲んでる」
 うわ言じみた問いかけを流しながら、癖のある髪をくしゃくしゃと撫でる。膝の上に乗せられた頭は酒のせいかいつもより暖かく、年上の相手にも関わらずまるで子供に膝枕をしているような錯覚に陥る。
(かわいいなあ)
 キースが自分を甘やかしたくなる気持ちが、少しわかった気がする。愛しい相手に甘えてもらえるというのは、こんなに幸福な気持ちになるものなのか。いつもは止める深酒を、わざわざ止めずに酔わせた甲斐があったものだ。いたずらっ子の笑みが口元に浮かぶ。
「ん〜」
 もっと撫でろと言いたげに、キースが頭を掌に押し付けてくる。
「悪い悪い」
 笑って、再び頭を撫でた。いつもは自分が甘やかしてもらっているのだ。たまにはこういう趣向も悪くはないだろう。ガストは愛おしさを込めて、キースの額にキスを落とした。
「愛してるぜ、キース」
「お〜、おれもだぞ〜」
 酔っているにも関わらずすぐに返ってくる同意の言葉に、ガストは幸せの笑みを溢したのだった。
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