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キスガス

 からん。
溶けた氷が涼やかな音を立てる。ガストはテーブルの上のロックグラスを手に取り、琥珀色の液体を一口飲み込んだ。強い酒気に喉を焼かれて、思わずけほ、と小さく咽せる。
「結構強いな、これ」
「まあ、慣れてないとキツいだろうな。だからお前にはこっち」
 隣に座るキースがテーブルに置かれたもう一つのグラスを持ち、ガストの前に置いた。深紅の液体の中に果物が入ったそれを、ガストはゆっくりと飲み下す。上質なワインの風味と果実の甘さがじんわりと口の中に広がるのを感じて、自然と口角が上がった。
「ん、うまい」
「そりゃ何よりだ。お前のために作ったやつだからな」
「…………ありがとな」
 お前のため、その言葉で込み上げてくる喜びを悟られぬように、またグラスの中身を口に含んで誤魔化す。
「ガスト」
 甘く、優しい声音で呼ばれる。その声が意味するところを、ガストは理解していた。グラスを置いて顔を向ければ、するりと伸びてきた手のひらに髪を梳かれて唇を奪われる。ウイスキーの苦味とサングリアの甘味が混ざり合って、ガストを陶然とさせた。
「お前って、結構思ってることが顔に出るよな」
 にやりと笑って告げられる言葉。どうやら誤魔化しは無意味なようだ。全く、敵わない。
「キースの前だけだよ」
 言い訳がましく口から溢れた言葉を拾って、キースがくく、と愉快そうに笑った。
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