第漆話
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悟空の大きな声と身体を揺さぶられる衝撃で無理矢理意識を浮上させられる。
いつの間に寝てしまったのか、意識を手放した時の記憶は朧気だ。
頭を押さえながら痛ぇと訴える悟浄を横目にまだ覚醒仕切らない身体を無理矢理起こし、周りを見回せば私達以外の皆が横たわっている。
その場で異様な光景に驚き一気に眠気も覚めた。
『何…これ…』
「これは…どうなってるんだ一体」
私が零した言葉に同調する様に近くで三蔵さんの戸惑う様な声が聞こえた。
もしかして人為的に眠らされた…?
あれ…?
『ねぇ、八戒がいない…』
「!…おい!なんで…なんでアイツが戦ってんだよ?!」
どうにか情報を得ようと店内を見回せば八戒の姿がない事に気付いた。
何かに気づいた悟浄声を上げ、その視線の先に目を向けるとこちらに背を向け立つ八戒とそれに対峙する様に立つ先程とは装いの違うお姉さんが目に入った。
何か話してるみたいなのは分かるけど、こちらからはその会話までは聞こえない。
一体何が起こってるのか。
少し様子を伺うように動向を見守っていると、自害しようとするお姉さんの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「もはやこの命など必要ない…!」
その言葉を聞いて止めようとする八戒に「来ないで!」と制止して自らの喉元に刃物を突き立てようとするお姉さん。
いても立っても居られず外に出ようと走り出せばそれは他の皆も同じだったみたいで、皆で外に飛び出したその時、ゴオッという轟音と共に私達とお姉さんの間に突風が吹き荒れた。
土煙も舞い、堪らず目を瞑り腕で覆うようにして顔を守る。
再び目を開けた時にはそこにいたはずのお姉さんの姿はなく、代わりに上空から「紅孩児様!」と言う驚いたようなお姉さんの声が聞こえた。
『紅…孩児…?!』
そこに居たのはお姉さんを横抱きにして屋根の上に立つ、褐色の肌に赤い髪、頬に紋様のある男だった。
あの人が紅孩児…。
「三蔵一行だな?…我が部下を引取りに来た。要件はそれだけだ。貴様らとはいずれ又会うだろう。その時まで命を大事にしておくことだな」
本当に用はそれだけだと言わんばかりに立ち去ろうとする紅孩児と目が合うと、少し目が見開かれた様な気がした。
「お前は…」
何かを言いかけた紅孩児に「待てよ!」と遮る悟空。
「せっかく来たんだから…エンリョしねーで遊んで行けって!」
言うが早いか間髪入れずに飛び出していく悟空に「
悟空は叫び声を上げながら着地出来ずにそのまま背中から倒れ込む。
倒れた悟空に駆け寄ると、痛みからか顔を歪めている。
すかさず今度は悟浄が錫杖を伸ばせば、三日月型の刃は紅孩児によって止められてしまった。
「子供だましだな」
「オイオイ…マジかよ」
今度は俺の番だと何かブツブツ唱える紅孩児に危機感を覚え、手探りで悟空を揺すって声をかける。
紅孩児から目を離す事が出来ない。
『悟空、大丈夫?動ける?なんかヤバい』
圧倒的な力を見せつける様な圧。
明確な殺意。
あ、これマジでヤバい。死ぬかも…。
このままここに居たらやばい。そう直感する。
だからと言って身体が動くかどうかなんて別の話なワケで…。
悟空の傍らに座り込んだまま眺める事しか出来ずにいると、視界を遮るように八戒が立ち、防護壁が展開される。
バチィッという強烈な音が辺りに響く。
今まで難なく敵の攻撃を受け流し、弾いてきた八戒の防護壁がバチバチと音を立てる。
苦しそうな声を漏らす八戒にハッとして、動かなかった身体が再び動き出す。
『八戒、ゴメン!』
これじゃ本当に足手まといだ。
「そこまでだ」
攻撃が止んで再度紅孩児の方へと目を向けると、紅孩児の後頭部に銃を突きつける三蔵さんがいた。
いつの間にそんな所まで登ったんですか…?
三蔵さんに背を向けたまま会話を始める紅孩児。
今のまま脳天撃ち抜いたら倒せるのでは?と一瞬掠めたものの、倒せたとしてもきっとお姉さんや他の妖怪達が黙ってないだろう。
それに蘇生実験の目的も分からなくなってしまう。
聞いた所で口を割る事もないだろうし、理由がわからなければきっと繰り返されるだけだ。
それじゃ意味が無い。
三蔵さんが撃たないのはそういう…諸々の理由もあっての事だろう。
2人の話が終わったのか、音も立てずに去って行った紅孩児とお姉さん。
お強い妖怪は瞬間移動が出来るの…?
また何か飛んでくるんじゃないかと思って見てたけど、そのまま去ってくれるならそれでいい。
改めて傍らで横たわる悟空に視線を移して声を掛ける。
『悟空大丈夫?』
むくっと起き上がった悟空には私の問い掛けは聞こえていない様で、「あいつ強ぇっ…」と目をキラキラとさせていた。
「無茶苦茶強ぇじゃんかよ…!」
「……あの顔は…」
「新しいオモチャを見つけたガキの顔だな」
「楽しそうで何よりです」
『嬉しそうだね』
悟空の反応に皆が口々に感想をこぼしていく。
「ま、オレ的にも、カッコ悪ィままは御免だけど…。しかし結局何も聞き出せずじまいだな」
「いえ、ひとつだけわかった気がします。"紅孩児"が妖怪達にとってカリスマ的存在するである理由が…」
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ギャーギャーと煩い声に目を覚ませば、夜も遅いというのに悟空と悟浄が言い争いをしていた。
今何時だと思ってんの?
『ねぇ、何騒いでるの…?』
「ゴメンな、瑞希ちゃん。サルがうるさくして起こしちまったな」
「聞いてくれよ瑞希!コイツが寝てる間に…!」
『いや、何時だと思ってんの?元気すぎでしょ』
「俺部屋代わってもらってくる!!」
捲し立てるように2人に一気に話しかけられてもう何が何だか…。
悟空はそのままの勢いで三蔵さんと八戒の部屋に乗り込みに行っちゃうし、悟浄も悟空を追い掛けて部屋を出て行ってしまった。
とりあえず私も一言物申してやろうと後をついて行くことにした。
「三蔵ー!やっぱ俺こっちの部屋がいい!!コイツ寝てる間に足の裏に落書きしやがったんだぜ?!」
「こっちゃテメェのイビキがうるさくて寝れねーんだよ!」
『私は2人の喧嘩で起きたんだけど…?』
「瑞希は兎も角、俺ゼッタイ悟浄と同じ部屋はイヤだかんな!」
物申してやろうと思って来たけど、雪崩込むようにして2人の部屋に突撃してギャーギャー捲し立てる私達に、三蔵さんの怒りの拳が握られるのにそう時間はかからなかった。
悟空と悟浄はまだ気付いてない様子で言い合いを続けている。
「あ…そろそろやめた方が」そう言いかけた時、三蔵さんの怒号が響いた。
「るせぇんだよッ!二日酔いに響くじゃねーか!黙らせるぞてめぇら!!」
「「うわぁ、八つ当たりだー!」」
『2人共もう部屋帰って大人しく寝よ?』
「夜遅くにごめんなさい」と三蔵さんと八戒に頭を下げると「おやすみなさい」と2人の背中を押して部屋に戻った。
今日は色んな事がありすぎて疲れた。
個々のベッドに入るのを見届けて電気を消す。
明日からまた西に向かう。
紅孩児の目的は分からないけど、また近いうちに会う。そんな予感を抱えながら本日3度目の眠りについた。
to be continued…
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