第漆話
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とある町外れの飲食店で昼食をとる事になった私達。
店内はとても賑わっていて、あちこちから注文が飛び交っていた。
こんな目が回る様な忙しさの中、ウェイターがお姉さん1人ってのはなかなかに酷では…?なんて思いながら、八戒が広げているメニューを横から覗き込んで見る。
「きゃあッ!!何するんですか?!!」
お姉さんの悲鳴に目を向けると、酔っ払いのオジサンに絡まれてるようだった。
何処の世界にもいるのね、あーいうオジサン。
減るもんじゃないって言うけど減るよ。精神が。
というかこの忙しいのに頑張ってるお姉さんの邪魔すんな。
どうしよう、止めに行くべき…?なんて思っていると、隣に座る悟浄がおもむろに灰皿を掴み、オジサンに向かってブン投げた。
いや、マジか。
投げられた灰皿は見事にオジサンに当たりいい音を奏でると、そのまま落下してカランカランと音を立て何処かへ転がって行った。
当の悟浄は「ビール2本な」なんて言ってて、もうオジサンへの興味はない様だ。
まぁ私もオジサンに興味がある訳ではないし、次々と注文が決まっていっているのでメニューに向き直る事にした。
「モツ焼き、モツ焼きっ」
『私春巻き食べたい』
一切野菜類に目を向けない私と悟空に三蔵さんから「野菜を食え」とまるでお父さんの様に注意が入る。
お野菜に関してはきっと八戒が頼んでくれるよ…うん。
それ食べるよ…。
「おーーいッ、お姉さんオーダーよろしくっ」
「あ…ハイ!」
「レバニラ、カツ丼、ハルマキー、ピザー、八宝菜、エビシューマイ」
なんだかんだもう慣れつつあるけど、ホントに5人で食べきれるの…?って量の品数をどんどん頼んでいく。
私がこのお姉さんだったら間違いなく「大丈夫ですか…?」と口を挟んでしまうだろう。
程よく?注文し終えた所でお姉さんが笑顔で「ご注文は以上でよろしいですか?」と言うのを遮り悟浄が灰皿を頼むと一瞬お姉さんが、え?という顔をした様な気がしたがすぐ「かしこまりました」と再度笑顔を見せて奥へと引っ込んで行った。
元々置いてあるはずの物を頼まれたらそりゃそうなるわな。
すぐに持って来てくれた灰皿を受け取り、喫煙組が煙草に火をつけると三蔵さんが口を開く。
「…どう思う」
漠然とした質問に疑問符が浮かぶ。
悟浄も同様だった様で、「どうって何が」と返していた。
どうやら西を目指して旅を始めてから約1ヶ月。その間に倒した妖怪は星の数程になるらしい。
少数とか単独で襲ってくる他、私が最初に遭遇した様に大人数で来る事もあればその数にも納得が行く。
そして、そのほとんどが"紅孩児"が送り込んだ刺客。
三蔵さんはその"紅孩児"が牛魔王の息子なのはわかるものの、本来は誰の指示にも従わないはずの妖怪達が自害するまでの忠誠を誓うのが意外に思えたらしい。
「ここしばらく静かだったからな。そろそろ又何かしら攻撃を仕掛けてくるだろう」
「…結局僕らまだ何も知らないんですよね。牛魔王蘇生実験の目的も、それを操るのが何者なのかも…」
確か牛魔王蘇生実験の阻止が旅の目的なんよね。
でもなんの為に牛魔王を蘇生しようとしてるのかはまだ分からないわけか…。
その"紅孩児"ってのが牛魔王を蘇生して何がしたいのかって事よね?
周りの喧騒とは正反対にシンと静まり返る一行。
それぞれが考えを巡らせてる様だったが、その沈黙もお姉さんの控えめな呼び掛けに破られる事になる。
「あのー…ご注文の品ですぅ」
「わーい♡」
数秒前までのシリアスな雰囲気もご飯を目の前にした悟空の前では無力。
どんどん運ばれてくる料理に目を輝かせていて、もう考える所ではない様だ。
「ま、腹減ってちゃ戦もできねってか」
「その様ですね」
『お腹空いてると考えも鈍るしね』
「いただきまーす!」
悟空の元気な声を皮切りにそれぞれが置かれた料理やお酒に手を出していく。
私も頂きますと手を合わせて目の前の料理に箸を伸ばすと、再度「きゃあ!」と言うお姉さんの声が耳に届いた。
それは皆も同じ様で、声の主の方に目を向けると先程悟浄の投げた灰皿を喰らったオジサンがまたもお姉さんにちょっかいを出してる所だった。
懲りないオジサンである。
嫌がるお姉さんに対し、「一緒に飲もう」等と言っているがそんなの嫌に決まってるし、お姉さんとお酒が飲みたいのならそういうお店に行けばいい。
果たしてこの世界にそういうお店があるかどうかは知らないけど…。
見かねた悟浄が「女の扱い方が下手だ」と口を挟み始めると、案の定と言うべきか即座に声の主である悟浄に向かってすっこんでろとブチギレるオジサン。
「まーた灰皿くらいたいワケェ?カコーーーンてな」
『あれいい音したよね』
「!てめェかさっきのは?!」
さっきの灰皿を投げたのも悟浄だと知って更に怒り心頭に発した様だ。
灰皿の事は覚えてるのに、嫌がるお姉さんのお断りは直ぐに忘れてしまうとは何ともまぁ都合のいい頭だろうか。
怒りに任せてズンズンとコチラに迫ってきたオジサンは私達が囲っているテーブルを力いっぱい蹴り倒し、テーブルの上に乗った数々の料理はガシャンガシャンと大きな音を立てて床に散らばった。
まだ一口も食べてないと言うのになんて事をするんだ。
食べ物を粗末にするんじゃない。
「てめぇっ!やっちゃイケねぇことやったな?!!絶対許さねぇッ!」
これまた案の定と言うべきか、ワナワナと震えた悟空が涙目でブチ切れ始めた。
食べ物の恨みは恐ろしいのである。
あっとゆう間に悟空と悟浄がオジサンだけではなく店全体と乱闘し始める事態になってしまった。
「オイ、妖怪どころか人間とまで争ってどーする」
「血気盛んですねぇ」
『これ止めなくていいの?』
一応被害が及ばなさそうな…なんかあってもどうにかなりそうな三蔵さんと八戒の方へ避難し、無駄な質問だとは分かってはいるが止めなくていいのか聞くも、三蔵さんは面倒臭そうにため息をつき、八戒は苦笑いを零すだけに終わってしまった。
お前が止めろとか言われても流石に馬鹿力の悟空と大の大人の悟浄や他のオジサン達の間に割って入って仲裁なんてできるわけも無いので、黙って見守る事にした。
騒ぎを聞きつけたのか、奥からこの店の店主と思わしき眼鏡のオジサンが
そんな叫びもうるせぇと一蹴して乱闘を止める様子がない。
「勝負をつけたきゃいつものヤツにすればいいじゃないか!な?」
「いつもの勝負ぅ?何だそりゃ」
この店での勝負の付け方ってものがあるらしい。
腕相撲等の力比べだろうか?
それなら悟空が瞬殺して終わりだろう。
「酒場の男の勝負といやぁ決まってんじゃねーか」
-ドン!-
「飲み比べよ」
飲み比べ…。
相手のオジサン、既に出来上がってるように見えるのは私の気の所為なんだろうか?
それともシラフ相手に既に顔が赤らむ程飲んでるのに勝てる程の酒豪なのか…。
乱闘にせよ飲み比べにせよ、私の出番はなさそうなので壁の花を決め込んでやろう。
ドン!とドヤ顔で酒瓶を片手に勝負種目を発表するオジサンに一瞬でも「うわぁ…」って顔をしたのを見逃してはもらえなかった様で、「あからさまにイヤな顔しなかったか?」と言われ口ごもってしまう。
「ま、最初っから勝負にゃなんねぇか。そっちにいるのはガキ2人と見るからに貧弱そうな坊主だもんな」
『え、私も頭数に入ってるの…?』
困惑していると横から三蔵さんがご主人を呼ぶ声が聞こえ、見るとゴールドカードを取り出す所だった。
「見るからに貧弱そう」と言われたのが相当お気に召さなかった様で、呼びつけたご主人に「この店中の酒一滴残らず持ってこい」と言った三蔵さんの顔からは苛立ちと殺意が見て取れた。
ご主人もそれを察してか店のお酒をかき集めにそそくさと奥へと引っ込んで行ってしまった。
三蔵さん、まだ飲んでないのに目が座ってますよ…?
「…飲む前から目が座ってますけどー?あ、いつもの事ですね」
「わーい酒だ酒だー♡」
(※お酒は20歳になってからです。)
『悟空はダメでは…?』
悟空も未成年だよね…?
私と見学だよね???
「ヨォシ、勝負は5対5!先に全滅した方が負けだ!いいか!!」
「おうよ!」
いや、おうよ!じゃないよ?!
私も悟空も未成年!
なんで誰も突っ込まないの?!
ていうかこれ"男の勝負"なんだよね?!
私が数に入るのおかしくない?!
『ちょ、ちょっと待って!男の勝負に私も入ってるのおかしくない?!』
「ダーイジョブだって。俺が瑞希ちゃんの分も飲んでやっから♡」
『そもそもそういう問題じゃ「なんだ、嬢ちゃんにはまだ早かったかー?」
『上等だ、クソがァ!!』
(※お酒は20歳になってからです!!!)
半ば必死になって抗議していると、ニヤニヤと煽るオジサンについ勢いでノってしまった。
あれよあれよのうちに総勢10人が5人ずつ対面になれるようにテーブルと椅子が設置され、どんどんお酒が並べられていく。
これだけ血の気の多い人達が居るんだ。普段から客同士の飲み比べが行われてるのだろう、準備にそう時間はかからなかった。
ご主人の「始め!!」と言う掛け声に飲み始めて数十分。
相手側は既に4人が脱落し、残す所積極的にお姉さんに絡んでいたオジサン1人になっていた。
こちらは悟空のみが脱落し、三蔵さんと悟浄は目が座っている。
八戒は?と視線を向けるといつも通りの笑顔でグラスを口へと運ぶ八戒の姿。
すっごく余裕そう。
私はというと少しふわふわとして眠くなってきた。
「口だけじゃねーようだな」
「こんくらい何だよ。こっちゃまだまだ余裕だぜ?なぁ悟空」
「ぐーー」
『悟空ならもう寝てるよ』
「起きろこのサル!」
ぶん殴られる悟空を見て、私も寝たらあーなるんだろうかと睡魔で鈍くなる思考でボーッと眺めていると、残り1人となったオジサンから挑発が入る。
こちらが1人リタイアしたくらいで何故そこまでドヤれるのだろうか…。
「残念だな、俺はこの辺じゃ飲み比べで負けたこたぁねーんだよ」
「じゃあどうせだからもう少し強いお酒下さーい」
八戒は顔に出ないとかそういう事ではなく、本当にお酒が強い様だ。
今だってまるで水でも飲むかの様にお酒を飲み続けている。
一番八戒と付き合いが長い悟浄でさえも八戒が酔った所を見た事ないと言ってる所を見ると相当なのだろう。
「あなどれねー。…お前も平気そうだな」
『んー、でもちょっと眠くなってきました…』
「瑞希ちゃんは俺の肩でも膝でも貸してやっからいつでも寝ていいんだぜ?」
悟浄の申し出を大丈夫でーすなんて軽く流しつつ、グラスに注がれた液体をボーッと見つめる。
あー、瞼が重い。少しでも気を抜こう物ならテーブルと仲良しになりそうだ。
そんな私を尻目にオジサンがまたも三蔵さんを煽り始める。
オジサン1人なのに強気過ぎではないだろうか?
「おいどうした坊主?そろそろ限界か?手が震えてるぞ。その女顔にゃお酌役がお似合いだぜ」
「……くっ、クックックッ、愚か者が…俺を愚弄するとはいい度胸だ」
『三蔵さん?』
「魔戒天もご」
「わーーっ、民間人相手にイキナリそんな大技かまさないで下さい!」
思考力どこに置いてきたんですか三蔵さん?!
普段でさえそんなにバカスカ出さない大技を惜しげも無く披露しようとする三蔵さんの口を凄い勢いで駆け寄ってきた八戒が抑える。
三蔵さん、普通に話してたから顔は赤いけど割と大丈夫かと思ってたけど、相当酔いが回ってる様だ。
そもそも空腹でお酒飲むのって良くないんじゃなかったっけ?
酔いが回りやすい?とか聞いた事ある。
ぽやぽやと回らない思考で伸びまくっている経文を見つめて居ると、痺れを切らしたのかはたまたもう飲むのが限界なのかオジサンが勢いよく立ち上がり騒ぎ始めた。
だから何故そんなに強気なのか。
「まだるっこしい勝負はヤメだヤメ!チカラでツブしてやらぁ若造ども!」
「望むところだァエロジジィ!やってやろうじゃねぇか!」
「あああ、お店がーー」
『結局こうなるなら飲み比べした意味は…』
「まぁまぁ皆さん落ち着いて…」
元々混ざる気は毛頭ないのだけど、流石にこの乱闘に混ざる程元気なわけもなく、皆から少し離れようと立ち上がった瞬間、何処からかブワッと霧が立ち込め始めた。
一気に今までとは違った意味でザワつく店内。
目が霞んで目の前が暗くなって行くのに抗う事もできず、八戒の「吸っちゃ駄目です!」という声を最後に意識を手放した。