第陸話
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-翌朝-
たまたま早く起きて外に出れば、旬麗さんが何やら血相を変えて森へと入って行こうとしていた。
呼び止めようとはしたものの、聞こえなかったのかはたまたそれどころでは無いのか、スピードを緩める事無く走っていく旬麗さんに何事かと思ってつい勢いで追いかけてきてる訳だが…。
旬麗さん足速いな?!
「…ッ、……燕、茲燕…どこ…?」
『旬麗さん、待って…!』
「瑞希ちゃん…」
『外出たら旬麗さんが走ってくの見えて…。何かあったんですか?』
「茲燕が…茲燕が西の森で人を襲ったって…!きっと何かの間違いよ!」
『わ、分かった!分かったから一旦落ち着いて下さい』
-ガサ…-
『「?!」』
「…茲燕?」
『旬麗さん下がって』
「でも…!」
『本当にそのジエンさんとは限らないから…お願い』
音のした方へ向き直り、旬麗さんを背に庇う様にして立つ。
戦うとかはちょっと無理だけど、襲われそうになったら旬麗さんだけでも逃がさないと…。
ガサガサと音が近付くに連れて緊張が走る。
どうする…私に何が出来る?
また無意識にネックレスを掴むと、ほんのり暖かくなるネックレス。
でも今はそんな事気にしてる余裕もない。
一際大きな音ともに現れたのは3人の妖怪だった。
野生動物なわけないよねーーー!!!
熊とか出てこられたら終わりだし、野生動物ならどうにかなるとは思ってないけど!
だとしても3人は無理よ、3人は!!
1人ならどうにかなるってわけでもないけど!
「きゃああああ!!」
旬麗さんの悲鳴が辺りに響く。
とにかく逃げないと!と、考えるより先に旬麗さんの手を引っ掴んで妖怪とは逆方向に走り出す。
『旬麗さん!ジエンさんいた?!』
「居なかったと思う!」
今何処に向かって走ってるのかわからないけど、とりあえず走り回る。
村の方に行けば皆いる?
でももし私達が居ないって分かって、こっちに向かってて村に居なかったら?
それこそ大惨事だ。
そもそも村はどっち?!
どうすればいい?!考えろ考えろ考えろ!!!
「きゃっ!」
『旬麗さん!』
掴んでいたはずの手が離れ、後ろを振り返ると何かに躓いたのか倒れ込んでいる旬麗さんの姿。
その後ろには後を追い掛けてくる妖怪。
いくら旬麗さんが軽くても、旬麗さんを抱えてあの3人から逃げ切れるとは到底思えない。
そうなればやる事は1つなわけで…。
ザッと旬麗さんの前に立ち身構える。
「瑞希ちゃん、逃げて!」
『ここで旬麗さん置いて逃げたら、皆に合わせる顔ないもん』
大丈夫だと言い聞かせる様に、ニッと笑いかける。
上手く笑えた自信はない。
そうだよ、強くなるって決めたんだ。
守られずに済むように、いつか皆を守れる様にって決めたんだ。
だから私は逃げない…!
[待ってたよ…]
『え?』
知らない声に反応する様にネックレスが眩しいくらいに光始める。
光はそのまま私の手へと吸い込まれ、気が付くとそこには刀が握られていた。
不思議と手に馴染むそれからは暖かさを感じる。
『何…これ…』
唖然としていると、先程の妖怪が追いついて来た様で私達の前へ立ちはだかった。
咄嗟に柄から抜いた刀を妖怪達に向ける。
「手こずらせやがって…もう逃げらんねェだろ?昨日の今日でこんな上玉が2人も手に入るなんざツイてるなァ、オイ」
妖怪に向かって刀を構えてはいるが、こんな小娘が刀を持った程度で彼らの驚異にはなり得ないのだろう。
ジリジリと距離を詰められる。
さっきまで持ってなかった刀に気付いたのか「何処で拾ってきたんだー?」なんてゲラゲラと馬鹿にした様な笑い声に、刀を持つ手に力が入った。
『それ以上近付かないで。近付いたら…』
「近付いたらどうなるってンだy「「瑞希!旬麗っ!」」」
『?!』
-バキャ ドサ-
勢い良く茂みから飛び出して来た悟空と悟浄が目の前の妖怪の頭と顔を両サイドから同時に蹴り、そのまま3人で倒れ込む。
悟浄が出て来た方から「今のがクロスカウンターってやつですね!」なんてポンっと手を打つ八戒も現れ、その逆からも「何やってんだよ、あのバカコンビは」なんて呆れ顔の三蔵さんまで現れた。
『皆…!』
「瑞希、大丈夫ですか?」
『正直死ぬかと思った』
八戒の問いにヘラりと力のない顔で答える。
マジで力抜けた。
立ってるのがやっとよ…。
「このサル!前方をよく見て飛び込んでこいよ!」
「人の事言えンのか?!ああ?!」
ねぇ、そこの2人は助けに来てくれたんだよね…?
え、喧嘩しに来たの?
違うよね?ねぇ?!
突然の登場に驚いたのか、妖怪達は「なんだよテメェら?!」やら「突然湧いて出やがって!」やらと騒いでいる。
そりゃビックリするよね。
私もビックリしたもん。
「あんたの恋人じゃないんだな?」
「えぇ…背格好はよく似てるけど違います」
再度しっかり妖怪達を見て旬麗さんが返す。
どうやらジエンさんは銀髪で、この辺で銀髪の妖怪はこの3人組のうち1人の妖怪位らしい。
ジエンさん、余っ程旬麗さんを傷付けたくなくて遠くまで行ったんだろうな…。
この辺にジエンさんが居ないと分かると、旬麗さんは力なく返事をしてそのまま気を失ってしまった。
すかさず八戒が「気が緩んだんでしょう」と旬麗さんをジープに乗せる。
私も倒れそうと言えば「瑞希は歩いて帰りますよ」と返ってきた。
悟浄が「俺がジープまで抱えてってあげよーか」なんて言ってくれたがお断りさせて頂いた。
自分で言っておいでなんだけど、良く考えたら恥ずかしい…。
そのまま話しながら妖怪を背に帰ろうとすると、銀髪の妖怪からストップがかかってしまった。
空気を読め。
「オイ、待ちやがれ!その女共は俺達の獲物だ!勝手に持ち帰るんじゃねェよ!!」
「なんならテメェらもミンチにして喰ってやろうか?」
『危うくミンチになる所だったの?私達…』
妖怪達の挑発に知りたくなかった真実が含まれてて絶望すると共に、4人が来てくれた事に本気で感謝した。
私の絶望を他所に挑発に乗りかけた悟空を悟浄が制止する。
悟浄は悟空と一緒に挑発に乗るかと思ったけど、今日はそんな気分ではない様だ。
「大人しく帰ってクソして寝ろや」と吐き捨て、再度帰ろうと前方に向き直る。
「さ、行こか」
「おばさんも心配してるでしょうしね」
「瑞希もいねーんだもんなー」
『偶然走ってく旬麗さん見掛けたもんで…ごめんね』
等ともういつものペースで話しながら歩き出すと、悟浄の捨て台詞にキレたのか妖怪が下卑た笑みを浮かべて今度は悟浄を狙い撃ちと言わんばかりにベラベラと喋り始めた。
「聞いた事あるぜ。人間と妖怪の間にできた禁忌の子供は深紅の瞳と髪を持って生まれるってな」
「なんだ、じゃあアイツ、出来損ないじゃねェか」
「アソコの毛も赤いのかよ、えぇ?出来損ない」
流石に我慢ならなくなって、1人の妖怪の首筋にずっと握りしめてた刀の刃先を当てる。
横を見ると私が刀を向けている妖怪の顔を八戒が掴み、その奥では三蔵さんがもう1人の妖怪の口に銃口をねじ込み、逆側をではもう1人の妖怪の胸倉を悟空が掴んでいた。
「ほら、"口は災いの元"ってよく言いますよねぇ?続きが言いたきゃ
「ヒィッ!わ、悪かった…助け…」
「詫びるくらいなら最初っから言わなきゃいーんだよ、バァーーカ」
そーだそーだ!
挑発して謝る位なら最初っから言うな!!
言っていい事と悪い事の区別もつかんアンタらの方が余っ程出来損ないだ!!
八戒が笑顔を絶やさずギリリと締め上げれば許しを乞う様に音を上げる。
興味が薄れたと言わんばかりに解放すれば尻もちをつく者まで居た。
あ、三蔵さんちゃんと銃拭いてる。
ばっちぃもんね!
きちんと拭いてバーカと中指立てれば、後ろで悟浄が「変な奴らだよ、お前ら」と笑っていた。
その笑顔が見れたので、今回は良しとしよう。
さてジープに戻ろうと歩き出すと、またも後ろから「くたばれぇ!!」と怒号にも似た声が響き、振り返ると観念したと思った妖怪達が小刀を振りかぶってこちらに走ってきていた。
直後、悟浄の錫杖が妖怪達を切り裂き、血飛沫を上げながら肉塊と化したソレが崩れ落ちる。
「何、そんなに興味あんの?アソコの毛色♡
ま、確かめられンのは"イイ女"だけだけどな」
「きしし、ちゃんと黒いよな、黒!」
『ねー、それ言わなくていいヤツー』
誰も望んでないよ、その情報!
案の定悟浄に「言うな」って殴られてるし。
結構凄い音したけど頭大丈夫かな。
…大丈夫か。
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旬麗さんを送り届け、半おばさんに別れを告げると「せめてもう一泊くらい…」と引き止められた。
そんな半おばさんの申し出を丁重にお断りして、二言三言挨拶を交わし再び西へ向かって走り出した。
しばらく走っていれば、必然的に話はジエンの話になるわけで…。
「じゃあ今回は悟浄の兄貴とは別人だったんだ」
「多分な…兄貴は銀髪じゃねぇし…ま、イイってことよ。お互い生きてりゃその内どっかでスレ違うくらいはするだろ」
『もうどっかで会ってるかもしれないね』
昨晩と違ってちょっとスッキリした顔をしてる悟浄になんだか少しほっとした。
「しっかしアレだな。フリーのイイ女はなかなかいねぇよ」
「くだらねーな」
「お前ねー、女に興味無いなんて病気だぜ、ビョーキ!それともホモ?ヤダァ、コワーイ」
「…撃っていいか?」
「ホモソーセージ?」
『悟空お腹空いた?』
「一発じゃ死にませんよ」
三蔵さんに関しては興味が無いっていうかお坊さんだし、色欲を捨ててるだけでは…?とは思ったけど黙っておこう。
八戒の地味に酷い一言もスルーしてこおう。
「そういえば瑞希さっき刀持ってなかったか?」
『あーうん、なんか出た』
「なんか出たって…」
『私がこっちの世界に来た時に観世に貰ったネックレスあったじゃない?それ握り締めてたらあったかくなる事は前からあったんだけど…』
今思えば初めて妖怪に襲撃された時もそうだった。
その時はそんなに気にしてなかったけど、よく考えたら…いや、よく考えなくてもネックレスがあったかくなるってなんかおかしな話な訳で…。
『確かあの時は旬麗さんを守らなきゃって思ってて…そしたら急にネックレスが光って気付いたらあの刀握ってたんだよね』
「で、その刀は?」
『いや、それが気付いたら消えてて…。悟空と悟浄のと同じ感じなのかな?』
もしかして2人と同じ類の物?と思って聞いてみるも、2人とも首を傾げるばかりだった。
そもそも私みたいにアクセサリーしてる訳じゃないからちょっと違うのかな?
聞けば悟空と悟浄のは、まだ皆が旅に出る前に2人が宝物庫の掃除してる時にチャンバラして壊した壺の中にあった伝説の武具らしい。
なんで宝物庫でチャンバラをするのかっていう突っ込みはしないでおいた。
だって三蔵さんの肩がワナワナと震えてたから…。
『でもまぁ、今後出せるかはまだ分からないけど、素手よりはマシな気がする』
「使いこなせなきゃ意味ねーだろ」
先程まで静かに怒りに震えていた三蔵さんが口を開く。
使いこなせるか、か…。
自分の手をグーパーさせながらさっき感じた妙に手に馴染むあの感覚を思い出す。
元の世界で刀を握る事なんてまず無かったし、そもそも一般人がそう易々と刀をぶん回す程物騒な世界でも無かった。
『練習は必要だと思いますけど、大丈夫だと思います』
何より全く何も持たずどうするか考えるより、何かあるならそれを活用しない手はない。
それに、元々使い方を知ってる様な、なんならずっと使っていた様なそんな錯覚さえ覚えさせるあの感覚を頼らずにはいられなかった。
大丈夫だと伝えるも、三蔵さんからは何も返っては来なかった。
多分行動で示せ。って事なんだろうと自分を納得させた。
そんな話をしていると、隣からぎゅるるる…と力ない音が聞こえてきたので何か食べる物はないかと自分の鞄を漁り始める。
ないなぁと諦めかけた頃、またも隣から「ああッ!」という悟空の大きい声に反応して目線をそちらへ向けると、悟空の手には旬麗さんに出会う前にやっていたポーカーの時にすり替えられたと思われるカードが握られていた。
ホントにすり替えられてたんだ…。
「テメェやっぱしカードすり替えてたな、イカサマ河童!」
「っせーな!過去の事にこだわんなよ、モテねェぞ猿吉!!」
また取っ組み合いの喧嘩を始める前に少し前の方に行って両サイドからの被害を避けようとしたのも束の間、ドンッと背中に強い衝撃を受けてそのまま前に乗り出してしまった。
後ろで縮こまってればよかった!
グラリと車体が傾き、またも重力に逆らわずに落下し始める。
「オイまさか」
『嘘でしょ…?』
「だああっ!!」
-ドボン-
「やっぱり撃つ!!」
to be continued…
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