第陸話
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無事岩山を抜け、またジープに乗って西へ向かう私達三蔵一行。
後部座席ではポーカーが繰り広げられていた。
「あっ!ちょいタンマ!テメェ今カードすり替えただろ?!」
「てねぇよ!目のサッカクじゃねーのー?」
「なぁ、瑞希も見たよな?!」
『え?ごめん、わかんなかった』
どうやら悟浄がカードをすり替えたらしい。
悟空に同意を求められたけど、分からないものは分からないので素直に答えておく。
むしろよく気付いたね。
「ほーら、瑞希ちゃんもそう言ってんじゃねーか」
「じゃあ今捨てたカード見せてみろよ!」
「ケッ、ヤダね」
「このエロ河童ぁ!!」
「あぁ?!やるかチビ猿!!」
『ねぇ、怒られる前にやめようよー』
今日も真ん中の席で喧嘩に巻き込まれまいとなるべく身体を小さくしながらささやかながら「やめよう」と声をかけるが、恐らく2人には聞こえていないだろう。
お願いだから私の頭上で取っ組み合いしないでくれないかなぁ?
次からどっちかに場所変わってもらおうか…。
「降りてやれ降りて!」
『ほら怒られた!』
「今日もまた賑やかですねぇ」
「あっ、バカ危……」
頭上でのやり取りはよくわかんないけど、何かの拍子に悟空が前の座席に突っ込んで行った。
ゴンッという音とともに車体が傾き、重力に抗う事なく急降下するジープ。
更に重力に抗わず悟浄に抱き着く様な形でもたれてしまった私の上から、目を回した悟空が乗っかってきて圧が凄い。
落下より先に圧死するのでは…?
『「きゃああああああ!!!/どわああああああ!!!」』
-ザボンッ-
幸いな事にすぐ下に川があったらしく、落下死は免れた様だが、如何せん叫びながら落ちたもので息がもたない。
急いで顔を上げ酸素を取り込むが、少し水を飲んでしまったのかゲホゲホと咳き込んでしまった。
息も絶え絶えに騒がしい隣を見ると、そこにはまた喧嘩を始める2人の姿。
もうやめなってば…。
「おい!テメェのせいだぞ、このバカ猿!」
「なんでだよ!元はと言えばお前が「死ね!このまま死ね!!」」
「「がぼぼごぽご」」
言い合いを続ける2人に無言で近付き、頭を掴んだと思えばそのまま川へ押し込む三蔵さん。
いいぞ、もっとやれ。
酸素を求めて暴れるもんだから飛沫が飛んでくるので、のそのそと八戒の元へと避難した。
『はっかーい…』
「瑞希、怪我はありませんか?」
『怪我は無いけど服重い…』
水を吸って重くなったカーディガンの裾を絞ってみるが、現状はあまり変わらない。
いっそ脱いで絞った方が…なんて考えてると、何処からかくすくすと控えめな笑い声が聞こえてきた。
声の主を探すと、そこには綺麗な長い髪をひとつに束ね籠を抱えたお姉さんがこちらを見て笑っている。
私達の視線に気付いたのかお姉さんが謝ってきたが、三蔵さんは「一緒にしないでくれ」と自身の額に手を当てていた。
「もしかして洗濯にいらしたんですか?スミマセン、水を汚しちゃって」
「それよりどーすんだよ、替えの服までズブ濡れじゃんか」
『誰のせいだと…?』
「「あれは悟浄/悟空が…!」」
『2人ともだよ』
まだ言うか!
2人が車内で暴れたからでしょうが!
やめようって言ったじゃんか!
「服を乾かすならウチの村まで来ませんか?笑っちゃったお詫びに熱いお茶でも」
お姉さんの有難い申し出に甘えさせて頂いて、そこらに散らばった荷物をかき集め、私達はお姉さんについて行く事になった。
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お姉さん改め、旬麗さんの家に着き、各自着替える事になった私達一行。
案内された部屋で濡れた服を脱ぎお借りした服を着る。
スタイルのいい旬麗さんの服が私に着れるのか…?と不安になったが、とりあえず着ることが出来た。
黒のタートルネックに白のフレアスカート。
普段着ない様な格好にソワソワする。
-コンコン-
「瑞希ちゃん、服大丈夫?」
『はい、大丈夫です!』
控えめなノックの音と旬麗さんの声に元気よく答えてドアを開ける。
「とっても似合う!髪もまとめましょ!」
「ここに座って!」と言われた通りに引かれた椅子に座ると、あれよあれよのうちに濡れていた髪は乾かされ、旬麗さんとお揃いのポニーテールにされた。
「下ろしたままも可愛いけど、この髪型も凄く似合うわ」
「なんだか妹が出来たみたいで嬉しい」とにこにこ笑う旬麗さんを鏡越しに見てヘラりと笑う。
綺麗な人にそんな事言われたら照れちゃう…。
『あ、他の4人は?』
「隣の部屋で着替えてもらってるわ。さ、お茶の用意も出来てるから行きましょ」
「はーい」と素直に返事をすると、綺麗に笑ってリビングに案内してくれた。
リビングに着くとまだ誰も来てなかったので、旬麗さんが淹れてくれたお茶を運ぶ事にした。
お茶を冷ましがてらゆらゆらと上がる湯気を眺めてると、さっき自分達が入ってきたドアが開く音がしてそちらに目を向ける。
いつもと雰囲気の違う皆の姿に無意識に「おぉ…」と声が漏れた。
「あ、タオル足りた?」
「助かりました。スミマセン、服までお借りして」
「ううん、サイズが合って良かった」
『皆いつもと雰囲気違うねぇ』
普段もこういう服装しないのかな?
三蔵さんはお坊さんだからともかくとしても他のメンバーはこういうのもいいのでは…?
悟空の肩のとか刺さったら痛そうだし。
「瑞希も着替え終わってたんだな」
『先お茶頂いてまーす!皆似合ってるね』
「瑞希ちゃんも似合ってんぜ」
『へへへ、ありがとう悟浄』
悟空と悟浄と話していたら、今度は玄関の方からドンドンとドアを叩く音が響いて、その後に「入っていいか」と女性の声が聞こえてくる。
声の主は旬麗さんのお知り合いらしく「どうぞ!」と元気に返事をすると、まるでその言葉が返ってくるのが分かっていたのか直ぐにドアが開いた。
そこに立っていたのは籠を持った壮年の女性。
お隣さんで
料理が凄くお上手なんだとか。
「お昼ごはん作ってきたよ!皆で食べとくれ!」
「うまそー!これ食っていーの?!」
「あぁ、もちろんさ」
『ホント美味しそう!』
半おばさんは持ってきてくれた料理は本当に美味しそうで、悟空はキラキラと目を輝かせている。
ついでにヨダレも垂れてる。
「オヤまぁ、色男揃いじゃないか!可愛いお嬢さんまで!アタシもあと10年若ければねェ♡」
ポッと顔を赤らめる半おばさんに「20年の間違いでしょ」と呆れ顔の悟浄。
そういう事言わないの!
しばし雑談を交えながら並べられたご飯に箸を伸ばす。
お腹が空いてたから余計に美味しい。
「へぇ、じゃあアンタ達は西へ向かってるのかい。この村はいい所だよ、しばらくいるといい」
「少々訳ありでな。先を急いでいる」
「いいさ、若いうちは旅をするモンだ。それにね、アタシはアンタ達に感謝してるのさ」
「感謝?」
感謝されるような事をしただろうか…?
私達洗濯するはずだったのに川の水汚して、その上服まで借りてご飯貪ってるだけですが…?
感謝して大丈夫?
「あぁ…なんせ、旬麗の笑顔なんて久しぶりに見れたからね」
「…え?何それマジで?」
半おばさんは続けて旬麗さんにとても仲の良い恋人がいた事。
彼が妖怪だった事。
でも人間と妖怪の交わりが禁忌とされていると知っていながらも、村の人達は皆2人を祝福していた事を話してくれた。
でもそれが一年前、妖怪達の暴走がきっかけで崩れた。
村に住んでいた妖怪はもちろん、旬麗さんの彼も例外ではなく「完全に自我を無くす前に」と旬麗さんを振り切って飛び出して行ったきり、今もまだ帰って来ていないんだそうだ。
そして、旬麗さんはその日から笑顔を無くしたと…。
じゃあ、皆が着ているこの服は…。
「じゃあこの服はその方の物なんですね」
「綺麗に洗濯してあるだろ?あの子は…旬麗は恋人がいつでも帰ってこられる様に…淋しさを紛らわす様に、いつもああやって洗濯しているのさ。その大事な服をアンタ達に貸したのも"笑ったお詫び"じゃあなくて、笑顔を与えてくれたお礼なんだろうよ。アタシ達はね、茲燕が生きてる事を願うばかりだよ…」
「"ジエン"…?!その男"ジエン"ってのか?!」
「あぁ、そうだよ。いなくなる四年程前にこの村に来たからね。本名かどうかは知らないけど…なんだ、知り合いかい?」
「……いや、どうだろうな」
半おばさんから出た"ジエン"という名前にあからさまに反応を見せる悟浄。
知らない人の名前を聞いた反応では無いのは確かなのに、半おばさんからの問いに曖昧な返事をする悟浄に違和感を感じたものの、あまり聞かれたくなさそうなその反応に首を傾げる事しか出来なかった。