第肆話
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ガンッとまるで何かを叩きつける様な音がした部屋を開けたと同時に悟浄が錫杖の鎖を伸ばし、三蔵さんから妖怪を引き離した。
驚きの表情でこちらを睨む妖怪。
え、上半身裸ですけど…。
流石に露出し過ぎでは?
観世もなかなかの露出だけど、こちらさん上半身布すら纏ってないよ?
服を着ろ。
「やめとけやめとけ、そんなボーズ。硬ーし生臭ーし」
「煮ても焼いても食べられない人ですから」
「余計なお世話だ」
話しながらも三蔵さんに絡まって身動きを封じている糸をブチブチと切っていく。
誰もあの露出狂さん(仮)に突っ込まないの?
そういう空気じゃないっていうのはわかるけど、流石に…ねぇ?
「…礼は言わんぞ」
「期待しちゃいねーよ。……《借り》は返すモンだろ?」
「当然だ」
着崩れた服を整え妖怪達に向き直る三蔵さん。
未だ欠伸をする悟空。
こんな時でも余裕そうに笑う悟浄。
いつもと変わらぬ笑顔の八戒。
それが心強くて。
格好良い。
「何を悠長に…この人質がある限り貴様らに手は出せまい!」
「じゃ、返してもらいましょうか」
「なッ…!」
「はい、という訳で人質は無事保護致しました。ゲームは互角 でなきゃ」
朋茗さんを小脇に抱えた妖怪がこちらを指さして騒ぐが、いつの間にかその妖怪の後ろに回った八戒が朋茗さんを取り返し、妖怪の腕を捻る。
鮮やか過ぎる手際に一瞬何が起こってるのか分からなかった。
よいしょっと朋茗さんを横抱きにする八戒さん。
「殺っておしまい、下僕達!」
「料理の上手な奴を人質にするなんざ最低だぞバッキャロー!」
うがーーっと威嚇する悟空。
すっかり餌付けされてる…。
三蔵さんと悟浄も呆れてますよ、悟空!
如意棒をぶん回しながら、バッタバッタと妖怪をなぎ倒していく悟空。
それに便乗する様に「気持ちよさそう」と錫杖で切り倒していく悟浄。
鉄パイプを持って殴りかかってくる奴を「害虫駆除」と称して吹っ飛ばす八戒。
強…。
「お前も来たのか」
『自分だけ待ってるだけなんて出来ませんでした』
「ここで投げ出す程度のモンなら置いて行く所だ」
こちらにチラリと視線を向け、そう言い放つ三蔵さん。
どうやら先程の私の判断は間違ってなかった様だ。
「お前はここにいろ」
『え?あ、はい』
そう言うと私の返事を聞くより前に、三蔵さんはスタスタと露出狂さんの元へと向かって歩いていく。
露出狂さんはというと、仲間が次々と3人に倒されていくのに怒りを露にしていて、三蔵が近付いて行ってるのに気付いてない様だ。
何をするつもりなのかと目で追っていると露出狂さんの顔面を思いっきりぶん殴る三蔵さん。
あ、これがさっき言ってた《借り》を返すってヤツ?
「なるほど…」と納得してると、殴られた拍子に倒れた露出狂さんの身体がメキョやらボゴッ等の人体が鳴らして大丈夫?って音を鳴らしながら変形していく。
「まさかメタモルフォーゼ!!」
「あ?!」
メタモルフォーゼ?!
何それ?!とか思ってる間に露出狂さんの身体はどんどん変形していき、とてつもなくデカい蜘蛛へと変形を終えた。
今までの体積を大幅に越えた大きさの巨大蜘蛛に目眩がする。
「うっわーーマズそう!!」
「いいねオマエ、そーゆー思考回路で」
本当に…。
どうやら悟空の判断基準は食べれるか食べれないか、美味しいか不味いからしい。
私としてはどれだけ美味しいとしてもこのフォルムは食べる気にならない。
虫は滅茶苦茶苦手!というわけではないが、この大きさは許容範囲外だ。
ドン引いてる間に巨大蜘蛛、もとい蜘蛛女から吐き出された糸が三蔵さんを始め、朋茗さんを抱えた八戒、悟空、悟浄、私に絡みつく。
悟空が「切れねぇぞコレ!」とモダモダと暴れるが、糸が切れる事はない。
悟空が切れないって事は私が切れるわけもなく、もしもの時にせめて朋茗さんを抱えて逃げられる位の体力は残しておかねばとジッと耐える事にする。
「変化のおかげで妖力増強してやがる」
なるほど、さっき三蔵さんを拘束してた糸とは強度が段違いって事か…。
ともあれこんな時に朋茗さんが起きてなくて良かった。
女の子があんなの見たら発狂もn「きゃああああああああ?!!」起きちゃったかぁ…。
朋茗さんの叫び声に反応してなのか、新たに糸が放たれる。
反射的に頭をガードするが、朋茗さんを抱えている八戒はノーガードだった様で、放たれた糸は八戒の首に巻き付き締め上げていく。
「ぐっ!く……っ!」
「きゃあああ八戒さん!」
ダメだ、このままだと八戒が…!
と思ったその時何処からか銃声が鳴り響いた。
放たれた弾は蜘蛛女の複数ある目のうちの1つを射抜く。
蜘蛛女が痛みから絶叫すると共に、私達を拘束していた糸が解かれた。
私は首を締め上げられていた事で強制的に呼吸を止められていた為にゲホゲホと噎せる八戒に駆け寄り背中を摩る。
『八戒、大丈夫ですか?』
「え、えぇ、大丈夫です。瑞希も怪我はありませんか?」
『私は全然大丈夫ですから』
こんな時まで私の心配をしなくていいのに…。
でも一体誰が銃を…?
確か三蔵さんが銃を所持してたと思うけど、三蔵さん自身も拘束されてたはず。
キョロキョロと周りを見るとおじさんが、息を切らしながら銃を片手にフラフラとこちらに向かってきていた。
どうやら頭に怪我もしている様だ。
「無事か朋茗!」
「お父さん!」
朋茗さんは涙目になりながらおじさんに駆け寄って行く。
良かった、おじさんも生きてて…。
両親が突然居なくなるのはとても辛い事だから…。
おじさんが持っていた銃は三蔵さんのだったらしく、「落ちていた」と言って三蔵さんに返された。
あ、だからさっき素手でぶん殴ったの…?
「拾い物にはお礼一割だな」って言ってるけど、銃の一割ってどんなモンなんだろ?弾…?
「…おのれ人間ふぜいが!」
おぉ、そんな台詞言われるの初めてだわ…。
半ば感心していると、蜘蛛女は近くに居た妖怪の頭を器用に持ち上げる。
「見るな朋茗!」
「ちょっとゴメンな」
三蔵さんが腕を広げて朋茗さんの視界を遮り、悟浄が私の前に覆い被さるように立って私の視界を遮った。
直後聞こえたバキバキという骨を砕く様な音。
小さく聞こえた潰れた様な声。
ぽたぽたと液体の滴る音。
「仲間を喰ってやがる?!」
「妖力を取り込んで傷を修復してるんです」
「男を喰らう…か、まさに蜘蛛女だな」
あぁ、あの妖怪は喰べられてしまったのか…。
仲間じゃないの…?
自分の傷を治す為に仲間を喰べたの?
恐怖とか怒りとか、色んな感情でごちゃ混ぜになる。
自分の意思に反して震える手を誤魔化す様に目の前の悟浄の服を握りしめた。
「瑞希ちゃん?大丈夫か?」
『だいじょぶ……です』
悟浄からそっと離れて蜘蛛女をキッと睨みつける。
睨むだけで何が出来るって訳じゃない。
私に力があったら絶対に八つ裂きにしてやるのに、そう出来ない自分の無力さを呪いたくなりながらネックレスに手をかけると、じんわりと温かくなるのに気付いた。
何…?
「い、いやあああああ!!嫌い!大っ嫌い!!妖怪なんて…妖怪なんて!死んじゃえばいいんだ!!」
さっきご飯食べてた時以上の朋茗さんの悲痛な叫びが、考え事をしていた私の意識を呼び戻す。
視界の端に捉えた悟空の顔が一瞬強ばった気がした。
その一瞬を狙ったかの様に蜘蛛女の足が悟空を弾き飛ばす。
そのまま倒れ込む悟空。
悟空に気を取られていると、今度はこちらに向かって振り上げられる足。
突如として悟浄に腕を後ろに引っ張られ、私はそれに抵抗する事も出来ずに後ろに倒れ込んだ。
次の瞬間には振り上げられた足が悟浄の顔に当たり、その衝撃で体勢を崩すが、ペッと血を吐き、「クソが!」と悪態を着く悟浄。
『悟浄!』
「悪ィな、引っ張っちまって」
『そんな事はどうでもいいんです!』
「男前が上がったっしょ?」
こんな時までそんな事言わないで良いんだよ、悟浄!
心配かけまいとしてか、へらっと笑う悟浄にグッと言いたい事を飲み込んだ。
「ギャアアアアア!!」
「いい加減にしろよテメェら!この人達は関係ねぇだろうが!!」
いつの間にか立ち直り、朋茗さん達を守って蜘蛛女の足を叩き折った悟空が叫ぶ。
「ボウヤこそ、何故そこまで低俗で無力な人間なんぞに味方する?!ボウヤ達だってもとはと言えば…我々と同じ妖怪じゃないか!!」
え?
皆が妖…怪……?
どういう事?
皆は他の妖怪みたいに耳も尖ってない。
人間である私を襲ってくるわけでもなく、むしろ優しくしてくれて…今だって守ってくれて…。
一体この蜘蛛女は何を言ってるの?
それでも嘘をついてる様にも見えない。
本当に妖怪なの?
「…るせぇや。人間だとか妖怪だとか、そういうちっちぇ事はどーでもいいんだよッ、ただ飯が美味かったんだ。そんだけ!!」
「いやはや実に悟空らしい言い分ですねぇ」
「動物的本能だな」
……そっか。"飯が美味かったから"か。
悟空の素直な言葉がスっと入ってくる。
三蔵さんと八戒も口々に感想を述べる。
悟空の言葉に納得出来ない蜘蛛女は私達を喰べる気満々で再度攻撃態勢に入る。
「八戒は朋茗達を頼む。お前は八戒と居ろ。悟空と悟浄は少し時間を稼げ。俺が奴の動きを封じる」
テキパキと支持を出した三蔵さんは肩にかけていた経文を取り、経を唱え始め、悟空と悟浄は三蔵さんに言われた通り蜘蛛女の注意を引く。
私と八戒は朋茗さん達の元へと向かった。
「貴方達は一体…?」
「話すと長くなりますが、妖怪の暴走には原因があるんです。どうか忘れないで下さい、種族の違いに隔てなどない事を」
朋茗さんの質問に八戒がいつもの優しい口調で答える。
その瞳には優しさの他に哀しみも含んでる様に見えた。
「オン マニ ハツ メイ ウン!!魔戒天浄!!」
三蔵さんの声とともに経文が無数の帯状になって蜘蛛女を襲う。
悲鳴を上げながらダウンする蜘蛛女。
本当に動きを封じた…!
「とどめぶちかましてこい、悟空!」
「っしゃあ!いっけぇ、如意棒!!!」
悟空は大きく飛躍して蜘蛛女の頭上から勢いよく如意棒を突き刺す。
ドンッという音ともに眩しいくらいに光り、蜘蛛女は消滅した。
こうしてこの世界に来て初めての宿屋での夜が終わった。
驚きの表情でこちらを睨む妖怪。
え、上半身裸ですけど…。
流石に露出し過ぎでは?
観世もなかなかの露出だけど、こちらさん上半身布すら纏ってないよ?
服を着ろ。
「やめとけやめとけ、そんなボーズ。硬ーし生臭ーし」
「煮ても焼いても食べられない人ですから」
「余計なお世話だ」
話しながらも三蔵さんに絡まって身動きを封じている糸をブチブチと切っていく。
誰もあの露出狂さん(仮)に突っ込まないの?
そういう空気じゃないっていうのはわかるけど、流石に…ねぇ?
「…礼は言わんぞ」
「期待しちゃいねーよ。……《借り》は返すモンだろ?」
「当然だ」
着崩れた服を整え妖怪達に向き直る三蔵さん。
未だ欠伸をする悟空。
こんな時でも余裕そうに笑う悟浄。
いつもと変わらぬ笑顔の八戒。
それが心強くて。
格好良い。
「何を悠長に…この人質がある限り貴様らに手は出せまい!」
「じゃ、返してもらいましょうか」
「なッ…!」
「はい、という訳で人質は無事保護致しました。ゲームは
朋茗さんを小脇に抱えた妖怪がこちらを指さして騒ぐが、いつの間にかその妖怪の後ろに回った八戒が朋茗さんを取り返し、妖怪の腕を捻る。
鮮やか過ぎる手際に一瞬何が起こってるのか分からなかった。
よいしょっと朋茗さんを横抱きにする八戒さん。
「殺っておしまい、下僕達!」
「料理の上手な奴を人質にするなんざ最低だぞバッキャロー!」
うがーーっと威嚇する悟空。
すっかり餌付けされてる…。
三蔵さんと悟浄も呆れてますよ、悟空!
如意棒をぶん回しながら、バッタバッタと妖怪をなぎ倒していく悟空。
それに便乗する様に「気持ちよさそう」と錫杖で切り倒していく悟浄。
鉄パイプを持って殴りかかってくる奴を「害虫駆除」と称して吹っ飛ばす八戒。
強…。
「お前も来たのか」
『自分だけ待ってるだけなんて出来ませんでした』
「ここで投げ出す程度のモンなら置いて行く所だ」
こちらにチラリと視線を向け、そう言い放つ三蔵さん。
どうやら先程の私の判断は間違ってなかった様だ。
「お前はここにいろ」
『え?あ、はい』
そう言うと私の返事を聞くより前に、三蔵さんはスタスタと露出狂さんの元へと向かって歩いていく。
露出狂さんはというと、仲間が次々と3人に倒されていくのに怒りを露にしていて、三蔵が近付いて行ってるのに気付いてない様だ。
何をするつもりなのかと目で追っていると露出狂さんの顔面を思いっきりぶん殴る三蔵さん。
あ、これがさっき言ってた《借り》を返すってヤツ?
「なるほど…」と納得してると、殴られた拍子に倒れた露出狂さんの身体がメキョやらボゴッ等の人体が鳴らして大丈夫?って音を鳴らしながら変形していく。
「まさかメタモルフォーゼ!!」
「あ?!」
メタモルフォーゼ?!
何それ?!とか思ってる間に露出狂さんの身体はどんどん変形していき、とてつもなくデカい蜘蛛へと変形を終えた。
今までの体積を大幅に越えた大きさの巨大蜘蛛に目眩がする。
「うっわーーマズそう!!」
「いいねオマエ、そーゆー思考回路で」
本当に…。
どうやら悟空の判断基準は食べれるか食べれないか、美味しいか不味いからしい。
私としてはどれだけ美味しいとしてもこのフォルムは食べる気にならない。
虫は滅茶苦茶苦手!というわけではないが、この大きさは許容範囲外だ。
ドン引いてる間に巨大蜘蛛、もとい蜘蛛女から吐き出された糸が三蔵さんを始め、朋茗さんを抱えた八戒、悟空、悟浄、私に絡みつく。
悟空が「切れねぇぞコレ!」とモダモダと暴れるが、糸が切れる事はない。
悟空が切れないって事は私が切れるわけもなく、もしもの時にせめて朋茗さんを抱えて逃げられる位の体力は残しておかねばとジッと耐える事にする。
「変化のおかげで妖力増強してやがる」
なるほど、さっき三蔵さんを拘束してた糸とは強度が段違いって事か…。
ともあれこんな時に朋茗さんが起きてなくて良かった。
女の子があんなの見たら発狂もn「きゃああああああああ?!!」起きちゃったかぁ…。
朋茗さんの叫び声に反応してなのか、新たに糸が放たれる。
反射的に頭をガードするが、朋茗さんを抱えている八戒はノーガードだった様で、放たれた糸は八戒の首に巻き付き締め上げていく。
「ぐっ!く……っ!」
「きゃあああ八戒さん!」
ダメだ、このままだと八戒が…!
と思ったその時何処からか銃声が鳴り響いた。
放たれた弾は蜘蛛女の複数ある目のうちの1つを射抜く。
蜘蛛女が痛みから絶叫すると共に、私達を拘束していた糸が解かれた。
私は首を締め上げられていた事で強制的に呼吸を止められていた為にゲホゲホと噎せる八戒に駆け寄り背中を摩る。
『八戒、大丈夫ですか?』
「え、えぇ、大丈夫です。瑞希も怪我はありませんか?」
『私は全然大丈夫ですから』
こんな時まで私の心配をしなくていいのに…。
でも一体誰が銃を…?
確か三蔵さんが銃を所持してたと思うけど、三蔵さん自身も拘束されてたはず。
キョロキョロと周りを見るとおじさんが、息を切らしながら銃を片手にフラフラとこちらに向かってきていた。
どうやら頭に怪我もしている様だ。
「無事か朋茗!」
「お父さん!」
朋茗さんは涙目になりながらおじさんに駆け寄って行く。
良かった、おじさんも生きてて…。
両親が突然居なくなるのはとても辛い事だから…。
おじさんが持っていた銃は三蔵さんのだったらしく、「落ちていた」と言って三蔵さんに返された。
あ、だからさっき素手でぶん殴ったの…?
「拾い物にはお礼一割だな」って言ってるけど、銃の一割ってどんなモンなんだろ?弾…?
「…おのれ人間ふぜいが!」
おぉ、そんな台詞言われるの初めてだわ…。
半ば感心していると、蜘蛛女は近くに居た妖怪の頭を器用に持ち上げる。
「見るな朋茗!」
「ちょっとゴメンな」
三蔵さんが腕を広げて朋茗さんの視界を遮り、悟浄が私の前に覆い被さるように立って私の視界を遮った。
直後聞こえたバキバキという骨を砕く様な音。
小さく聞こえた潰れた様な声。
ぽたぽたと液体の滴る音。
「仲間を喰ってやがる?!」
「妖力を取り込んで傷を修復してるんです」
「男を喰らう…か、まさに蜘蛛女だな」
あぁ、あの妖怪は喰べられてしまったのか…。
仲間じゃないの…?
自分の傷を治す為に仲間を喰べたの?
恐怖とか怒りとか、色んな感情でごちゃ混ぜになる。
自分の意思に反して震える手を誤魔化す様に目の前の悟浄の服を握りしめた。
「瑞希ちゃん?大丈夫か?」
『だいじょぶ……です』
悟浄からそっと離れて蜘蛛女をキッと睨みつける。
睨むだけで何が出来るって訳じゃない。
私に力があったら絶対に八つ裂きにしてやるのに、そう出来ない自分の無力さを呪いたくなりながらネックレスに手をかけると、じんわりと温かくなるのに気付いた。
何…?
「い、いやあああああ!!嫌い!大っ嫌い!!妖怪なんて…妖怪なんて!死んじゃえばいいんだ!!」
さっきご飯食べてた時以上の朋茗さんの悲痛な叫びが、考え事をしていた私の意識を呼び戻す。
視界の端に捉えた悟空の顔が一瞬強ばった気がした。
その一瞬を狙ったかの様に蜘蛛女の足が悟空を弾き飛ばす。
そのまま倒れ込む悟空。
悟空に気を取られていると、今度はこちらに向かって振り上げられる足。
突如として悟浄に腕を後ろに引っ張られ、私はそれに抵抗する事も出来ずに後ろに倒れ込んだ。
次の瞬間には振り上げられた足が悟浄の顔に当たり、その衝撃で体勢を崩すが、ペッと血を吐き、「クソが!」と悪態を着く悟浄。
『悟浄!』
「悪ィな、引っ張っちまって」
『そんな事はどうでもいいんです!』
「男前が上がったっしょ?」
こんな時までそんな事言わないで良いんだよ、悟浄!
心配かけまいとしてか、へらっと笑う悟浄にグッと言いたい事を飲み込んだ。
「ギャアアアアア!!」
「いい加減にしろよテメェら!この人達は関係ねぇだろうが!!」
いつの間にか立ち直り、朋茗さん達を守って蜘蛛女の足を叩き折った悟空が叫ぶ。
「ボウヤこそ、何故そこまで低俗で無力な人間なんぞに味方する?!ボウヤ達だってもとはと言えば…我々と同じ妖怪じゃないか!!」
え?
皆が妖…怪……?
どういう事?
皆は他の妖怪みたいに耳も尖ってない。
人間である私を襲ってくるわけでもなく、むしろ優しくしてくれて…今だって守ってくれて…。
一体この蜘蛛女は何を言ってるの?
それでも嘘をついてる様にも見えない。
本当に妖怪なの?
「…るせぇや。人間だとか妖怪だとか、そういうちっちぇ事はどーでもいいんだよッ、ただ飯が美味かったんだ。そんだけ!!」
「いやはや実に悟空らしい言い分ですねぇ」
「動物的本能だな」
……そっか。"飯が美味かったから"か。
悟空の素直な言葉がスっと入ってくる。
三蔵さんと八戒も口々に感想を述べる。
悟空の言葉に納得出来ない蜘蛛女は私達を喰べる気満々で再度攻撃態勢に入る。
「八戒は朋茗達を頼む。お前は八戒と居ろ。悟空と悟浄は少し時間を稼げ。俺が奴の動きを封じる」
テキパキと支持を出した三蔵さんは肩にかけていた経文を取り、経を唱え始め、悟空と悟浄は三蔵さんに言われた通り蜘蛛女の注意を引く。
私と八戒は朋茗さん達の元へと向かった。
「貴方達は一体…?」
「話すと長くなりますが、妖怪の暴走には原因があるんです。どうか忘れないで下さい、種族の違いに隔てなどない事を」
朋茗さんの質問に八戒がいつもの優しい口調で答える。
その瞳には優しさの他に哀しみも含んでる様に見えた。
「オン マニ ハツ メイ ウン!!魔戒天浄!!」
三蔵さんの声とともに経文が無数の帯状になって蜘蛛女を襲う。
悲鳴を上げながらダウンする蜘蛛女。
本当に動きを封じた…!
「とどめぶちかましてこい、悟空!」
「っしゃあ!いっけぇ、如意棒!!!」
悟空は大きく飛躍して蜘蛛女の頭上から勢いよく如意棒を突き刺す。
ドンッという音ともに眩しいくらいに光り、蜘蛛女は消滅した。
こうしてこの世界に来て初めての宿屋での夜が終わった。