Girl Who Leapt Through Time
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その日は討ち入りがあるとの事で、朝から皆バタバタと良く動いていた。眠たい目を擦り土方さんに呼ばれて部屋に行くと硬い表情で珍しく頭を下げてきて、池田屋に向かう近藤さんの側で護衛を頼みたいと言われた。頭の隅に総司が血を吐いていた史実が気になって居たので何も言わずに分かりましたと了承した
夕方過ぎ、平ちゃんに渡された隊服を着て部屋でナイフの手入れをしていると前に廊下で遭遇した羅刹の四人が私の元へやって来た。少しだけ申し訳無さそうな顔をしていたので吸血衝動の治療かなと思って部屋に上げた。案の定だったので四人を治療していると、その一人の隊士にこのお力は何なんですか?と言われて説明に困ってしまう。
「うーん。信じられない話何ですけど…」
真剣な目で私を見る4人に素直に話そうとすると怒り顔の土方さんが声もかけずに部屋に入ってきた。
「お前ら、治療してもらう時は俺か山南さんを通せ。後その力については誰にも喋るな。詳しい事もこいつにも聞くな」
そう言われた四人は、はいとしか言えないみたいで気まずそうな顔でそのまま頷いた。私はずっと彼等に聞きたい事があったので、土方さんに了承してもらい色々身体の事や衝動について聴かせてもらった。
「土方さん、ちょっと気になるので今日この四人を討ち入りに連れて行けないですか?」
「はぁ?駄目に決まってんだろ」
「彼等が治療を続けてかなり経ちました。血を見ても理性が無くならないと証拠が欲しいんです」
「…狂ったら他の隊士が犠牲になる」
「私が居るから大丈夫ですよ」
その前に一度、そう言って横に置いたナイフをとり自分の腕を切り裂いた。血が溢れ出て近くに居た彼等に飛び散る。それを見た4人が何してるんですかと驚いて自然に私の手を取り服の袖で切り口を抑える。
目の色も髪の色も変わらずに、普通の人の様に私の怪我を心配している4人のその様子に土方さんは安堵したようだった。その反面、自分自身の腕を簡単に斬った私には思いっきり拳骨を食らわせてきた。
痛いと私が喚く中、血を見ても狂わなかった事に四人は直ぐに気がついた様でホッと胸を撫で下ろしていて、その中の1人は顔を隠して静かに泣いていた。彼を見て、あぁ自分自身が怖かったんだなと何だか切なくなって来る。
「もし大丈夫そうなら4人共今日の討ち入りに参加してみませんか?しっかりと治った事が確認出来ればまた隊にも復帰出来ますし」
そう言った私に、土方さんはこの4人は死んだ事にはなってねぇからまぁいいだろうと言ってから私の方を見て急にキツく睨んできた。
「ただし、もし羅刹化した場合はお前が責任を持て」
「…分かってますよ。4人には私と共に近藤さんの護衛をしてもらいます。前線には平助と総司、永倉さんがいるので問題無いですし」
「分かってるんなら良い」
厳しい声だったが少し機嫌が良さそうな土方さんはそのまま部屋を出て行った。4人に向き直り池田屋に行くかもう一度聞けば、行かせて下さいと笑顔の4人から前向きな返事を聞けたので私も少しだけ笑顔になった。
時間になると、平助が呼びに来てくれたので4人と一緒に近藤さんの所に向かう。少し注意して見ていたが土方さんから皆聞いている様で羅刹の彼等に何も言う人はおらず、それ所か近藤さんや永倉さんは心配してたんだぞと言って4人の肩を叩いていて安心した。
彼等もそんな組長達に嬉しそうに笑っていた。
池田屋の近くまで来ると、本命がまだ分からないので待機と言われてその場で待つ事になった。
池田屋と描かれたのれんが現代のミュージカルを思い出させる。この時代、麻酔も無いのかは知らないが刀で斬られ出血死する人々がどれだけ居たのだろうと考えていると、いつの間にか隣に総司が居た。
「雪那ちゃん、考え事?」
「うん、まあ考えてても仕方ないんだけどね」
そんな話をしていると、近藤さんがしびれを切らしたようで困ったように組長達を見る。
「うーむ。これ以上待つのはなぁ」
「近藤さん、これでみすみす逃しちゃったら新選組の名折れですよ」
そう言った総司に近藤さんも心を決めたのか待機していた隊士達に合図すると池田屋に突入した。士気を上げるためか入ってそうそう大きな声で討ち入りを知らせ、私は内心此処で知らせちゃうんだと近藤さんに突っ込みたくなったけれど正々堂々と真正面からが似合う近藤さんにはそれが良いのかもしれない。
近藤さんの大きな声に、中に居た攘夷浪士が刀を持ってわんさか出てくる。平助と総司が2階に走る中、私と4人は近藤さんの側を離れなかった。
「中々沢山居ますね」
「女の子に守られているなんて、何だか武士として失格な気がしてしまうよ。ああ、すまない。嫌とかでは無いんだが」
そう言って困ったように笑った近藤さんに、何となくわかりますと言って切り掛かってくる攘夷浪士の顎を狙って打撃し、脳震盪を起こさせる。4人も近藤さんを守りながら戦っているが血を見ても発狂する様子も無いので安心した。
その時庭の方から悲鳴が聞こえ、4人に近藤さんを任せてその声の方角に走ると新選組の隊服を着た男が倒れていた。うつ伏せて居て誰だかも分からないが胸から出血しているようだった。直ぐ側に居た攘夷浪士を後ろから蹴り飛ばして気絶させると彼に近寄る。急いで治療すると、出血は止まったが身体が冷たくなっていて顔も青白い。その時外から走って来た原田さんが雪那無事なのか。と駆け寄って来てくれた。直ぐに原田さん達に彼を預けると近藤さんの所に戻らなければと全速力で屋敷内に向かいながら斬り掛かってくる攘夷浪士を蹴り飛ばす。研いだナイフが無駄だが、あまり肉を切るような不快な思いはしたくなくて、なるべく打撃のみでやり過ごしたかった。一階の入り口付近まで来ると焦ったような近藤さんが私の肩を掴んだ。
「藤堂くんの叫び声が聞こえた、済まないが2階に行って貰えないか?」
悲痛な近藤さんの願いに私は直ぐに4人に近藤さんをお願いして2階に上がった。階段を駆け上がり、平助の名前を叫ぶように呼ぶと、雪那と応えるように平助が私の名前を叫んだ。
敵も味方も人っ子一人居ないその方角に走ると、赤い珍しい髪色の男が刀も持たずに平助と対峙している。
「…女性がこんな所に来る物ではないですよ」
そう言った彼の言葉に女ってバレバレじゃないか。と思いつつ平助に駆け寄り、直ぐに額の血を拭いてやる
「…大丈夫?平ちゃん」
「…わりぃな。雪那は怪我は無いか?」
拭いきれない血がタラタラと瞳に入り片目を閉じた状態でも、私の身を案じてくれている平助のその姿を見てプチンと私の中で何かが切れたように感じた。
私はその赤毛の男に憎悪を向け、一度構えてから手加減無く男の急所に蹴りを叩き込んだ。
その瞬間男が私の蹴りにガードをしたが後ろに吹き飛び破壊音と共に壁が破壊された。吹っ飛んだ時にまさかと言うような顔をしていたけれど、小さな女の蹴りで自分が吹き飛ぶなんて夢にも思わなかったんだと思う。破壊された壁から金色の髪の男が薄ら笑いを浮かべながら私を見ている。
「天霧、派手にやられたな」
その時、ゴホゴホと曇ったような咳が部屋に響いて、そちらを見れば口から血を吐いている総司を見つけた。そのまま私は怒りに身を任せて金色の男の元まで一瞬で移動すると、研いでおいたナイフで刀を弾き飛ばし、男の頭に踵落としを食らわせる。寸前で少しだけ避けられてしまったが顔から噴き出る血が掠った事を表していた。
「…貴様ぁぁ」
手で拭い、自分の血を見て怒り声を荒げてくる男の言葉を無視して容赦無く腹に蹴りを入れると寸前で腹筋に力を込めて踏ん張った金髪の男は直ぐにゲホッと口から血を吐いた。その姿を見て私はニヤリと笑い意地悪くフンと聞こえるように言ってやった。
「人間風情が…許さんぞ」
「…人間なめんなよ」
表情に怒りがあらわになり男の髪色が少しづつ変わっていく。額から生えてくるのは正しく角だった。吸血鬼がいるなら鬼が居ても変では無い。そんな事よりさっさと2人を倒して総司と平助に治療しなければとナイフを構え直すと腹を抑えた赤毛の男が苦痛な表情で立ち上がり、私を一度見てから金色の男を抱えて窓を割って飛び出していく。邪魔をするなと怒りの声がこだまする中で逃げてくれるなら1番良いと彼等が戻って来ないのを窓から確認すると、直ぐに総司の傍に座った。
「総司、」
ガハッゴホゴホッっと血や痰が絡むような咳をしている総司に身体的な治療をすると1分程経ってから安らかな呼吸に変わり意識を失った。意識を失うまで、まだ戦えるとポツリ呟く総司に内心悲しく思った。
私達を見て、フラフラとこちらに歩いて来た平助の血を優しく拭い、止血をして総司の隣に寝かせる。あの野郎と舌打ちをして少しだけ悔しそうな平助の頭を撫でてから、今は静かに寝てなと言って立ち上がった。
1階に降りると近藤さんが怪我をしていないか確認してから、4人の隊士に二階の2人をお願いした。重傷者や怪我人は居ないか聞いて回ると、怪我人は外に運び出されていて山崎くんが見ていると言われて私も外に飛び出した。
屋敷の直ぐ前で山崎くんが怪我人の治療にあたっていたので彼に人目の無いところに彼等を運びたいと言うと直ぐに理解したのか彼等を抱き起こす私を手伝ってくれる。
運んでる最中に細腕の小さい私が大の男2人を両脇に軽々と抱えてるものだから、一般隊士さん達は目を見開いて呆然としていたけど今はそんな事に構っては居られず屋敷の隅に抱えていた2人を下ろして止血を始めた。軽症の人は直ぐに血が止まったので包帯を山崎さんに巻き直してもらい、重傷者の傷に集中するがいつもの様な手応えが無くて私は自分の汗を拭った。
紋章は使いすぎるとその日は寝ないと使えなくなるんだよね。そんな話題を聞いた事が昔にあったけれど、もしかしてとそれなのかと愕然としていると様子を見ていた山崎さんが私に声を掛けてくる。
「どうしたんですか?」
「もう少しなのに、これ以上は使えないみたい」
項垂れている私の目には脇腹から血が流れ出す様子がこれでもかとゆうくらい視界に入って来て憤りを感じてくる。湧き上がって来たような怒りの感情で決意してもう一度全身全霊で力を込めると、いつもより濃いような青い光が強く光り指にはめて居たリングが光を放ち見る見る内に傷を塞いでくれる。
「…やった、良かった」
安堵と喜びで思わず山崎くんの服を掴むと、彼も少しだけ微笑んでくれた。直ぐに包帯を巻いた彼等を外した戸に寝かせると土方さんが歩いて来るのが見えた。
私が報告をしようと土方さんに向かって歩き出した途端に足に力を入らなくなり、そのまま崩れ落ちる
床に頭から倒れると思った瞬間にガッチリと右脇を掴まれて転倒せずに済んだ。それから直ぐに抱きかかえられるとグラグラする頭が土方さんの肩に乗っかった。土方さんが私の名前を呼んで、大丈夫かと悲痛なこえを荒げる度に何だか可笑しくて笑ってしまいながら意識は無くなった。
「このやろう、笑ってやがる」
「…限界だとご自分で言っていたのにそれ以上の力を使っていました。身体に支障が無いと良いのですが」
「…全く無理しやがるぜ。だが死者も重傷者も居なくなったのはコイツの手柄だな…」
「副長、我々も撤収しましょう」
「ああ」
雀の声で目が覚めた私は、また誰かに運んでもらったんだなと自分の格好を見て項垂れていた。すぐに風呂場に向かって血が付いた袴を手洗いしてから湯を浴びた。まだ疲れが残っているのか気怠く身体が重い気がするけれど、昨日の怪我人が気になるので直ぐに着替えてから山崎さんの所に向かう事にした。
「おはよう御座います、山崎さん」
「雪那くん、まだ寝ていた方が」
「大丈夫ですよ、それより昨日の怪我人の方は?」
「…皆1つの部屋に集められ交代で診ています、傷は塞がってますので心配しないで下さい」
「一度寝たから、もう一度皆を治療して休むよ」
そう言うと、本当に大丈夫ですか?と念を押されたけど半分は回復してるから平気と笑ってその部屋に案内してもらった。
総司に平助と重傷者だった2人は1つの部屋で静かに眠って居た。起こさないように1人1人傷を一度見直してから治療していくけれど総司の咳は何度治療しても治まる事は無かった。
「おかしいなぁ。風邪かなぁ?」
額に手を当てると微熱だが少し熱い。やっぱり風邪かと思って山崎くんに報告すると少しだけ怪訝な顔をしているように思えた。
「どしたの?」
「沖田さんは食欲も無い日が続いています、少し風邪にしては長い様な気もするので一度お医者様に診てもらう事にした方が良いかと。」
「そっか、総司あんまり食べてない事もあったもんね。私は意外に何も見えて無かったかも」
そう言って身体の治療しか出来ない事が少しだけ悲しいとポツリ呟いて、下を向き歯を食いしばると、山崎くんが私の肩を強く握った。痛みに顔を上げると目に少しだけ涙を溜めた彼が私をキツく睨んでいた。
「…貴女がそんな事を言わないで下さい。身体の治療もしてあげれない俺はもっと悔しいんです。皆命が助かった。それだけでどんなに価値があるか…」
そう言われて、その通りだなぁと思うと涙が溢れてしまう。シーンとした部屋に私の泣き声だけが響いていると小さな声がした。
「…雪那ちゃん、駄目だよ。山崎くん何かに泣かされちゃ」
「総司…でも山崎くんが言った通りだよ」
そう言って総司の横に座り、髪を撫でると総司は布団から手を出してきて私の涙を優しく拭ってくれた。
「…す、すみません雪那くん。流石に言い過ぎました」
焦ったように私の涙を見て山崎くんが謝ってきたので、こっちこそごめんね。とズズッと鼻を啜っているとその音で起きた平助が総司に雪那を虐めるなと怒りだした。勘違いされた総司は意地悪く笑って平助の顔に枕を投げつけていて、それを見た山崎くんが止めに入ってと部屋は枕投げでぐちゃぐちゃになってしまい、他の隊士さん達も騒ぎで起きてしまって全く療養では無くなってしまった。
その後、直ぐに山南さんが騒ぎを聞きつけて部屋に入り総司と平助を珍しく叱りつけて、皆個人個人の部屋へと移されてしまった。
「あぁ、何か疲れた」
「雪那は少し働き過ぎた。今日くらい俺達に任せろよ」
甘い笑みで佐之さんが私を見つめる。何とも包丁が似合わない佐之さんに少し考えてからお礼を言うと今日は素直に部屋に戻る事にした。部屋に戻っても考える事は1つ。総司の病気の事だった。咳が出る病気は肺炎か結核、インフルエンザや風邪くらいしか思いつかない。しかもその薬もこの時代にあるのかさえ分からなかった。そこでふと初心を思い出した。
何だかんだ此処に置いてもらって随分と日が経った。
初めは余り良い目で見てもらえず警戒される。それが当たり前だったけれど今は普通に接してもらえている事が当たり前になってきていて。総司に関しては好かれていたいとまで考えるようになってきて今苦しみから助けたいと心から願っている。
時間と共に重ねてきた様々な出来事を思い返していると、ふとユーフォリアが私に口付けた薬を思い出した。あれが作れたら。そう思った瞬間に私の心は希望を持ち直ぐに私物が入った棚をあさり始めた。
。
夕方過ぎ、平ちゃんに渡された隊服を着て部屋でナイフの手入れをしていると前に廊下で遭遇した羅刹の四人が私の元へやって来た。少しだけ申し訳無さそうな顔をしていたので吸血衝動の治療かなと思って部屋に上げた。案の定だったので四人を治療していると、その一人の隊士にこのお力は何なんですか?と言われて説明に困ってしまう。
「うーん。信じられない話何ですけど…」
真剣な目で私を見る4人に素直に話そうとすると怒り顔の土方さんが声もかけずに部屋に入ってきた。
「お前ら、治療してもらう時は俺か山南さんを通せ。後その力については誰にも喋るな。詳しい事もこいつにも聞くな」
そう言われた四人は、はいとしか言えないみたいで気まずそうな顔でそのまま頷いた。私はずっと彼等に聞きたい事があったので、土方さんに了承してもらい色々身体の事や衝動について聴かせてもらった。
「土方さん、ちょっと気になるので今日この四人を討ち入りに連れて行けないですか?」
「はぁ?駄目に決まってんだろ」
「彼等が治療を続けてかなり経ちました。血を見ても理性が無くならないと証拠が欲しいんです」
「…狂ったら他の隊士が犠牲になる」
「私が居るから大丈夫ですよ」
その前に一度、そう言って横に置いたナイフをとり自分の腕を切り裂いた。血が溢れ出て近くに居た彼等に飛び散る。それを見た4人が何してるんですかと驚いて自然に私の手を取り服の袖で切り口を抑える。
目の色も髪の色も変わらずに、普通の人の様に私の怪我を心配している4人のその様子に土方さんは安堵したようだった。その反面、自分自身の腕を簡単に斬った私には思いっきり拳骨を食らわせてきた。
痛いと私が喚く中、血を見ても狂わなかった事に四人は直ぐに気がついた様でホッと胸を撫で下ろしていて、その中の1人は顔を隠して静かに泣いていた。彼を見て、あぁ自分自身が怖かったんだなと何だか切なくなって来る。
「もし大丈夫そうなら4人共今日の討ち入りに参加してみませんか?しっかりと治った事が確認出来ればまた隊にも復帰出来ますし」
そう言った私に、土方さんはこの4人は死んだ事にはなってねぇからまぁいいだろうと言ってから私の方を見て急にキツく睨んできた。
「ただし、もし羅刹化した場合はお前が責任を持て」
「…分かってますよ。4人には私と共に近藤さんの護衛をしてもらいます。前線には平助と総司、永倉さんがいるので問題無いですし」
「分かってるんなら良い」
厳しい声だったが少し機嫌が良さそうな土方さんはそのまま部屋を出て行った。4人に向き直り池田屋に行くかもう一度聞けば、行かせて下さいと笑顔の4人から前向きな返事を聞けたので私も少しだけ笑顔になった。
時間になると、平助が呼びに来てくれたので4人と一緒に近藤さんの所に向かう。少し注意して見ていたが土方さんから皆聞いている様で羅刹の彼等に何も言う人はおらず、それ所か近藤さんや永倉さんは心配してたんだぞと言って4人の肩を叩いていて安心した。
彼等もそんな組長達に嬉しそうに笑っていた。
池田屋の近くまで来ると、本命がまだ分からないので待機と言われてその場で待つ事になった。
池田屋と描かれたのれんが現代のミュージカルを思い出させる。この時代、麻酔も無いのかは知らないが刀で斬られ出血死する人々がどれだけ居たのだろうと考えていると、いつの間にか隣に総司が居た。
「雪那ちゃん、考え事?」
「うん、まあ考えてても仕方ないんだけどね」
そんな話をしていると、近藤さんがしびれを切らしたようで困ったように組長達を見る。
「うーむ。これ以上待つのはなぁ」
「近藤さん、これでみすみす逃しちゃったら新選組の名折れですよ」
そう言った総司に近藤さんも心を決めたのか待機していた隊士達に合図すると池田屋に突入した。士気を上げるためか入ってそうそう大きな声で討ち入りを知らせ、私は内心此処で知らせちゃうんだと近藤さんに突っ込みたくなったけれど正々堂々と真正面からが似合う近藤さんにはそれが良いのかもしれない。
近藤さんの大きな声に、中に居た攘夷浪士が刀を持ってわんさか出てくる。平助と総司が2階に走る中、私と4人は近藤さんの側を離れなかった。
「中々沢山居ますね」
「女の子に守られているなんて、何だか武士として失格な気がしてしまうよ。ああ、すまない。嫌とかでは無いんだが」
そう言って困ったように笑った近藤さんに、何となくわかりますと言って切り掛かってくる攘夷浪士の顎を狙って打撃し、脳震盪を起こさせる。4人も近藤さんを守りながら戦っているが血を見ても発狂する様子も無いので安心した。
その時庭の方から悲鳴が聞こえ、4人に近藤さんを任せてその声の方角に走ると新選組の隊服を着た男が倒れていた。うつ伏せて居て誰だかも分からないが胸から出血しているようだった。直ぐ側に居た攘夷浪士を後ろから蹴り飛ばして気絶させると彼に近寄る。急いで治療すると、出血は止まったが身体が冷たくなっていて顔も青白い。その時外から走って来た原田さんが雪那無事なのか。と駆け寄って来てくれた。直ぐに原田さん達に彼を預けると近藤さんの所に戻らなければと全速力で屋敷内に向かいながら斬り掛かってくる攘夷浪士を蹴り飛ばす。研いだナイフが無駄だが、あまり肉を切るような不快な思いはしたくなくて、なるべく打撃のみでやり過ごしたかった。一階の入り口付近まで来ると焦ったような近藤さんが私の肩を掴んだ。
「藤堂くんの叫び声が聞こえた、済まないが2階に行って貰えないか?」
悲痛な近藤さんの願いに私は直ぐに4人に近藤さんをお願いして2階に上がった。階段を駆け上がり、平助の名前を叫ぶように呼ぶと、雪那と応えるように平助が私の名前を叫んだ。
敵も味方も人っ子一人居ないその方角に走ると、赤い珍しい髪色の男が刀も持たずに平助と対峙している。
「…女性がこんな所に来る物ではないですよ」
そう言った彼の言葉に女ってバレバレじゃないか。と思いつつ平助に駆け寄り、直ぐに額の血を拭いてやる
「…大丈夫?平ちゃん」
「…わりぃな。雪那は怪我は無いか?」
拭いきれない血がタラタラと瞳に入り片目を閉じた状態でも、私の身を案じてくれている平助のその姿を見てプチンと私の中で何かが切れたように感じた。
私はその赤毛の男に憎悪を向け、一度構えてから手加減無く男の急所に蹴りを叩き込んだ。
その瞬間男が私の蹴りにガードをしたが後ろに吹き飛び破壊音と共に壁が破壊された。吹っ飛んだ時にまさかと言うような顔をしていたけれど、小さな女の蹴りで自分が吹き飛ぶなんて夢にも思わなかったんだと思う。破壊された壁から金色の髪の男が薄ら笑いを浮かべながら私を見ている。
「天霧、派手にやられたな」
その時、ゴホゴホと曇ったような咳が部屋に響いて、そちらを見れば口から血を吐いている総司を見つけた。そのまま私は怒りに身を任せて金色の男の元まで一瞬で移動すると、研いでおいたナイフで刀を弾き飛ばし、男の頭に踵落としを食らわせる。寸前で少しだけ避けられてしまったが顔から噴き出る血が掠った事を表していた。
「…貴様ぁぁ」
手で拭い、自分の血を見て怒り声を荒げてくる男の言葉を無視して容赦無く腹に蹴りを入れると寸前で腹筋に力を込めて踏ん張った金髪の男は直ぐにゲホッと口から血を吐いた。その姿を見て私はニヤリと笑い意地悪くフンと聞こえるように言ってやった。
「人間風情が…許さんぞ」
「…人間なめんなよ」
表情に怒りがあらわになり男の髪色が少しづつ変わっていく。額から生えてくるのは正しく角だった。吸血鬼がいるなら鬼が居ても変では無い。そんな事よりさっさと2人を倒して総司と平助に治療しなければとナイフを構え直すと腹を抑えた赤毛の男が苦痛な表情で立ち上がり、私を一度見てから金色の男を抱えて窓を割って飛び出していく。邪魔をするなと怒りの声がこだまする中で逃げてくれるなら1番良いと彼等が戻って来ないのを窓から確認すると、直ぐに総司の傍に座った。
「総司、」
ガハッゴホゴホッっと血や痰が絡むような咳をしている総司に身体的な治療をすると1分程経ってから安らかな呼吸に変わり意識を失った。意識を失うまで、まだ戦えるとポツリ呟く総司に内心悲しく思った。
私達を見て、フラフラとこちらに歩いて来た平助の血を優しく拭い、止血をして総司の隣に寝かせる。あの野郎と舌打ちをして少しだけ悔しそうな平助の頭を撫でてから、今は静かに寝てなと言って立ち上がった。
1階に降りると近藤さんが怪我をしていないか確認してから、4人の隊士に二階の2人をお願いした。重傷者や怪我人は居ないか聞いて回ると、怪我人は外に運び出されていて山崎くんが見ていると言われて私も外に飛び出した。
屋敷の直ぐ前で山崎くんが怪我人の治療にあたっていたので彼に人目の無いところに彼等を運びたいと言うと直ぐに理解したのか彼等を抱き起こす私を手伝ってくれる。
運んでる最中に細腕の小さい私が大の男2人を両脇に軽々と抱えてるものだから、一般隊士さん達は目を見開いて呆然としていたけど今はそんな事に構っては居られず屋敷の隅に抱えていた2人を下ろして止血を始めた。軽症の人は直ぐに血が止まったので包帯を山崎さんに巻き直してもらい、重傷者の傷に集中するがいつもの様な手応えが無くて私は自分の汗を拭った。
紋章は使いすぎるとその日は寝ないと使えなくなるんだよね。そんな話題を聞いた事が昔にあったけれど、もしかしてとそれなのかと愕然としていると様子を見ていた山崎さんが私に声を掛けてくる。
「どうしたんですか?」
「もう少しなのに、これ以上は使えないみたい」
項垂れている私の目には脇腹から血が流れ出す様子がこれでもかとゆうくらい視界に入って来て憤りを感じてくる。湧き上がって来たような怒りの感情で決意してもう一度全身全霊で力を込めると、いつもより濃いような青い光が強く光り指にはめて居たリングが光を放ち見る見る内に傷を塞いでくれる。
「…やった、良かった」
安堵と喜びで思わず山崎くんの服を掴むと、彼も少しだけ微笑んでくれた。直ぐに包帯を巻いた彼等を外した戸に寝かせると土方さんが歩いて来るのが見えた。
私が報告をしようと土方さんに向かって歩き出した途端に足に力を入らなくなり、そのまま崩れ落ちる
床に頭から倒れると思った瞬間にガッチリと右脇を掴まれて転倒せずに済んだ。それから直ぐに抱きかかえられるとグラグラする頭が土方さんの肩に乗っかった。土方さんが私の名前を呼んで、大丈夫かと悲痛なこえを荒げる度に何だか可笑しくて笑ってしまいながら意識は無くなった。
「このやろう、笑ってやがる」
「…限界だとご自分で言っていたのにそれ以上の力を使っていました。身体に支障が無いと良いのですが」
「…全く無理しやがるぜ。だが死者も重傷者も居なくなったのはコイツの手柄だな…」
「副長、我々も撤収しましょう」
「ああ」
雀の声で目が覚めた私は、また誰かに運んでもらったんだなと自分の格好を見て項垂れていた。すぐに風呂場に向かって血が付いた袴を手洗いしてから湯を浴びた。まだ疲れが残っているのか気怠く身体が重い気がするけれど、昨日の怪我人が気になるので直ぐに着替えてから山崎さんの所に向かう事にした。
「おはよう御座います、山崎さん」
「雪那くん、まだ寝ていた方が」
「大丈夫ですよ、それより昨日の怪我人の方は?」
「…皆1つの部屋に集められ交代で診ています、傷は塞がってますので心配しないで下さい」
「一度寝たから、もう一度皆を治療して休むよ」
そう言うと、本当に大丈夫ですか?と念を押されたけど半分は回復してるから平気と笑ってその部屋に案内してもらった。
総司に平助と重傷者だった2人は1つの部屋で静かに眠って居た。起こさないように1人1人傷を一度見直してから治療していくけれど総司の咳は何度治療しても治まる事は無かった。
「おかしいなぁ。風邪かなぁ?」
額に手を当てると微熱だが少し熱い。やっぱり風邪かと思って山崎くんに報告すると少しだけ怪訝な顔をしているように思えた。
「どしたの?」
「沖田さんは食欲も無い日が続いています、少し風邪にしては長い様な気もするので一度お医者様に診てもらう事にした方が良いかと。」
「そっか、総司あんまり食べてない事もあったもんね。私は意外に何も見えて無かったかも」
そう言って身体の治療しか出来ない事が少しだけ悲しいとポツリ呟いて、下を向き歯を食いしばると、山崎くんが私の肩を強く握った。痛みに顔を上げると目に少しだけ涙を溜めた彼が私をキツく睨んでいた。
「…貴女がそんな事を言わないで下さい。身体の治療もしてあげれない俺はもっと悔しいんです。皆命が助かった。それだけでどんなに価値があるか…」
そう言われて、その通りだなぁと思うと涙が溢れてしまう。シーンとした部屋に私の泣き声だけが響いていると小さな声がした。
「…雪那ちゃん、駄目だよ。山崎くん何かに泣かされちゃ」
「総司…でも山崎くんが言った通りだよ」
そう言って総司の横に座り、髪を撫でると総司は布団から手を出してきて私の涙を優しく拭ってくれた。
「…す、すみません雪那くん。流石に言い過ぎました」
焦ったように私の涙を見て山崎くんが謝ってきたので、こっちこそごめんね。とズズッと鼻を啜っているとその音で起きた平助が総司に雪那を虐めるなと怒りだした。勘違いされた総司は意地悪く笑って平助の顔に枕を投げつけていて、それを見た山崎くんが止めに入ってと部屋は枕投げでぐちゃぐちゃになってしまい、他の隊士さん達も騒ぎで起きてしまって全く療養では無くなってしまった。
その後、直ぐに山南さんが騒ぎを聞きつけて部屋に入り総司と平助を珍しく叱りつけて、皆個人個人の部屋へと移されてしまった。
「あぁ、何か疲れた」
「雪那は少し働き過ぎた。今日くらい俺達に任せろよ」
甘い笑みで佐之さんが私を見つめる。何とも包丁が似合わない佐之さんに少し考えてからお礼を言うと今日は素直に部屋に戻る事にした。部屋に戻っても考える事は1つ。総司の病気の事だった。咳が出る病気は肺炎か結核、インフルエンザや風邪くらいしか思いつかない。しかもその薬もこの時代にあるのかさえ分からなかった。そこでふと初心を思い出した。
何だかんだ此処に置いてもらって随分と日が経った。
初めは余り良い目で見てもらえず警戒される。それが当たり前だったけれど今は普通に接してもらえている事が当たり前になってきていて。総司に関しては好かれていたいとまで考えるようになってきて今苦しみから助けたいと心から願っている。
時間と共に重ねてきた様々な出来事を思い返していると、ふとユーフォリアが私に口付けた薬を思い出した。あれが作れたら。そう思った瞬間に私の心は希望を持ち直ぐに私物が入った棚をあさり始めた。
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