Girl Who Leapt Through Time
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あれから4日経ち私は山崎さんと潜入捜査の為に島原に来ていた。人が多く女性は皆着飾っていて美しい。男性達が此処に足を運びたくなる気持ちも分かるような気がした。
「綺麗ですねぇ」
キョロキョロと子供の様に落ち着きが無い私に山崎さんは、余り目立たないでくださいね。と少しだけ困った顔をしながら早々と歩いていく。その後ろを着いて歩いていると、雰囲気が人とは違う男性を見付けて思わず視線が彼から動かせなくなった。金色の髪に身体を纏う生命エネルギーは人とは違く特殊に見えた。
彼もまた私を不思議そうな目で見ていたが、山崎さんの声で我に返ると直ぐに視線を逸らして彼の元に走った。屋敷の様な造りの建物に入った山崎さんは、私を店主に紹介してから二階に連れて行く。
「店主さんは仲間何ですか?」
「いえ、でも話は通してありますから安心して下さい
。後此処の部屋で着替えをしてから女郎達の指示に従って下さい。それから分からない事や困った時は上を向いて瞬きを2回して下さい。」
急いでいるのか、そう簡潔に言ってすぐに消えた山崎さんの指示通り部屋に入って挨拶すれば
優しいお姉さん達が、お手伝いに来てくれた子ねと言って迎えてくれた。女性同士の職場で男性を取り合ったりするのだろうか何て不粋な事を考えていたが、若い子から中年の女性まで親切で礼儀正しく私に接してくれた。貴女は紫が似合うと言われ、成人式で着た着物とはまた違うような着物を着せられて化粧までしてもらった。君菊と名乗った美しい女性に髪をセットしてもらっていると、彼女は楽しそうに新選組の土方さんが来てるんですってと怪しく微笑んできた。
そうらしいですね、と適当に返すと妖艶な笑みを浮かべるだけだった。藤の花の刺繍がしてある紫の着物と少し濃いが妖艶なメイクが私を私では無い感覚にさせる。仕事モードに切り替えると、無理に言葉は変えなくていいですと山崎さんに言われて居たので下手にボロを出さない為にも女郎言葉は無理に使わない事にした。
君菊さんと手伝ってくれた女性達にお礼を言うと、何て呼べば良い?と言われて戸惑う。そんな細かい設定はしていなかったので皆に決めてもらう事にした。
「すみません、名前決めてないので。一緒に考えてもらっていいですか?」
「何でも良いの?」
どうせ1日だけだしな。と内心思いながらハイと笑うと、皆以外と真剣に考えてくれていた。10歳くらいの花魁の手伝いをしている女の子が藤の着物が良く似合うから藤がつく名前が良いんじゃないですか?と言ってくれて、藤雪と皆に決めて貰った。女性だけで話に花を咲かせているとガヤガヤと部屋の外から男性の声が聞こえて来た。
「さぁ、お客さまがいらっしゃったわよ」
そう言って女将さんが顔を出したので、私達は立ち上がった。6人のお侍さんの席に通された私は柔かに行儀良く座ってから皆の真似をしながら挨拶をしてお酌を始めた。特に絡まれる訳でも無く感じも悪くなかったので内心安心していたが。肝心の話が全く出て来なくて心配になる。仕方がないので1番地位が高そうな男性に気に入られる事から始める事にした。
少し着物を着崩して、色目を使い酌をする。容姿等から刀まで褒めまくっていると男性の顔つきが少しづつ変わってきた。お前さんも飲みなと言われて断らずにグイグイと飲み干すと凄く喜ばれてしまい、珍しく私が良い気分になってしまった。
そんな気分になって来た頃、遅れて入ってきた侍の1人が直ぐに池田屋の名前を出した。桂さんがいらっしゃるからと言った彼の言葉に内心終わったとホッとしていた。山崎さんがきっと今の話を聞いて居ただろうと思うと、私役に立てて無いんじゃと思ったけれど酒が入って気分が良かった私はまぁ。いっかで済ませる事にした。
池田屋と会合の日にちまで記憶した私は、御手洗いに行く為に席を立った。少しフラフラしていたが厠で紅を塗り直してから出ると上から山崎さんの声が聞こえてきた。居た部屋を通り過ぎて二つ目の部屋に入って下さい。その彼の言葉に頷くと、私が居た攘夷浪士達の部屋に楽器のような物を持って女性達が入って行くのが見えた。
山崎さんからの指示通りに通り過ぎて2つ目の部屋に入ると、いつもの面子が豪華な食事を食べながら酒を飲んでいた。
「また綺麗な子が来たな」
そう言って嬉しそうに笑った永倉さんに、佐之さんが入っておいでと手招きしてくる。全然私の事分かってないじゃんと少し呆れたけれど、ちょっと悪戯してやろうと思い声を変えて挨拶をすると平助の隣に座った
「お客様、あまり飲んで無いでありんすよ」
「あー俺は今日はそんな気分じゃないから」
そう言った平助に佐之さんが、お姉ちゃんが恋しいんでちゅよねとからかっている。煩いなと怒った平助にニッコリと笑ってから、今日は私を姉代わりにさせて下さいなんし。と言って酌をする。
分かりやすく照れた平助に内心可愛いなぁと思いながらも悪戯心に華が咲いてついつい呑ませてしまった。
君菊さんが土方さんから離れて、はじめくんと総司にお酌をしに言ったので私は土方さんの隣ににこやかに座った。
「…何だ」
「お酒は嫌いですか?」
「あんまり強くねぇんだよ」
では私に頂けますか?と聞くと土方さんが無表情でお酌をしてくれたので、お礼を言って頂いた。
「君菊姐さんに気に入られてた様でありんすな。鬼の副長さんはこの後はどうするんでありんすか?」
部屋で一夜を過ごすんですか?と私が意地悪く笑うと、平助と総司が島原でも鬼って言われてると笑った。
2人を叱りながら土方さんは俺は女に興味は無いと小さな声で咳払いをしたので、私は内心笑いながら土方さんの手を握った。
「では…男性に興味がおありで?」
「んな訳ねーだろ」
そう言った瞬間に全員が大笑いをする。土方さんの話題だと笑いを我慢する山南さんとはじめくんも珍しく声を出して笑って居た。何なんだお前はと土方さんに悪態をつかれて、私がくつくつと笑うといつもの如く転がって笑っている総司がヒーヒー言いながら私の横に座った。
「君の事気に入っちゃったな」
そう言って私の手を土方さんから引き剥がすと、腰に手を回して耳元で綺麗だねと囁いて来た。
その総司の様子に全員が目を見開いて珍しいなと呟いている。内心ちょっと嬉しい様な恥ずかしい様な私は黙りとしていると、聞いてる?と総司が私の頬に擦り寄って来た。土方さんをチラリと見ると、非常に不思議な物を見るような目で総司を見ていた。どこ見てんのと言われて土方さんの方を見ていた私の顔を、総司は強引に自分の方に寄せてくる。
「ちょ、ちょ、総司ギブギブ。恥ずかしい」
「なーんだ。もうちょっと我慢できると思ってたのになぁ。」
その私の声に皆は驚愕の声を上げた。雪那!と大きな声で名前を呼びながら平助が走って来て私に勢い良く掴み掛かると何もされなかったかと聞かれて、笑顔でうんうんと頷いた。まだ信じられない様な顔で見ている土方さんと目が合って、意地悪い笑顔でニヤリと私が笑うと頬をつねられて、何で直ぐ言わねえんだと叱られてしまった。だって皆気付かないんだもんと不貞腐れると君菊さんが、斉藤さんと沖田さんは直ぐに気付いてましたよ。と言ってきたので輝いた目ではじめくんを見ると、歩き方で分かると言われて肩透かしを食らった感じがした。
佐之さんと永倉さんが、本当に全然分かんなかったぜと言って笑っている中で化粧って凄いなと私の顔を覗き込んでいる平ちゃんを見ていると、先程今日は飲む気になれないと言って私を最後まで心配してくれていた事を思い出した。可愛いなぁと思い平助の腕にしがみつくとうわっとビックリしたように声を荒げたけれど、振り解かれなかったのでそのまま甘えて彼に体重を預けて目を瞑った。お酒を沢山飲んでいたからか、それとも慣れない仕事で疲れたのか。どちらにしても凄く疲れていてそのまま私は意識を無くしてしまった。
目が覚めると朝方の様でまだ暗い。此処は自分の与えられている部屋だなぁと寝ぼけながら確認してから格好を見ると着物でも無く、いつも着ている男装着で髪は1つに纏められていた。化粧はそのままだったけれど一体誰が着替えさせてくれたんだろうと不思議に思ったが、多分君菊さんかなと何となく思った。伸びをしてから風呂に入ろうと部屋の戸を開けるといつも居る総司は居なかった。
化粧を落として髪と身体を洗ってから寝巻きに着替えて部屋に戻ると丁度朝日が昇る所だった。まだ疲れがとれていないのか布団にもう一度入るとすぐに寝てしまった。
「雪那くん、起きてるかい?」
「…ちょっと待って下さい、今起きます」
近藤さんの声で目を覚まし、戸の方をみれば障子に近藤さんと土方さんと総司のシルエットが見える。
朝から3人で急ぎかな?と思い寝ぼけたまま戸を開ける。朝日が眩しくて目を擦りながら何ですか?と言うと近藤さんがわぁぁと大きな声を出したので、ビックリして目を開けた瞬間に土方さんにゲンコツを食らった。
「てんめーはそんな格好して出て来やがって」
「トシ、女の子にゲンコツはいかんぞ」
近藤さんが私を庇う様に前に立ったのと、今のゲンコツで目が覚めた私は自分の格好を見てみると
昨日風呂上がりに、キャミソールのワンピースのまま寝てしまっていた事を忘れていた。痛いなぁと言いながら一度部屋に入って上から服を着ると3人を部屋に通した。
「雪那ちゃん、土方さんの前であんな可愛い格好しちゃ駄目だよ」
「何だ土方さんは可愛くて見てられなかったのか」
「阿保かお前らは本当に。総司だけでもやっかいなのに雪那も一緒になりやがって」
そんな下らない冗談を言い合ってると、近藤さんが真面目な顔で私に頭を下げて来た。
「昨日は良くやってくれたね。山崎くんから聞いた。それで、これは今回の働きの礼だ」
そう言って渡されたお金のような物を渡してきた近藤さんに、衣食住を提供してもらっているから貰えないと断ったが貰ってほしいと念を押されてしまった。
「えっと、では遠慮無く頂きます。ありがとうございます」
そう言ってお礼を言うと3人は朝食にしようと言って部屋を出ようとしたので、つかさず総司の着物の袖を掴んだ。
「どうしたの?」
「ちょっと相談があるんだけど」
その様子を見ていた近藤さんと土方さんが、総司に聞いてやりなと言って部屋を出て行ったので私は総司に前から頼みたかった事をお願いをする事にした。
「それで?僕に何か頼み事?」
「あのさ、下着を買いに行きたいんだけど。どのお金を何枚くらい持って行けば良いのかな?」
そう言った私に総司はケラケラと笑ってから一緒に行ってあげるよと私の頭を撫でた。
1番組が巡察では無かったので、土方さんに理由を説明してから二人で屯所を出た。何にどれだけかかるのかが分からないので一応今まで貰った全てのお金を持って来た。総司と歩きながら他愛も無い話をしていると何だかデートしているような気分になって来て少し嬉しかった。何となく前の彼氏を思い出しているとボンヤリと彼氏と見に行ったミュージカルを思い出した
場所は江戸が舞台だったからかもしれない。池田屋で新選組の沖田は血を吐いた。その後伊藤が裏切り、近藤は斬首。そんな事を思い出して自分の顔から血の気が引いて行くような気分がした。
「雪那ちゃん?どしたの?」
思わず手を口に置いてキュッと力を込めた。顔が青いよ。平気?と珍しく焦っている総司の声も右から左になるくらいに私は動揺していた。此処は吸血鬼のような者がいるから多分私の生きていた世界の歴史とは絶対に違うけれど、絶対に違うとは言いきれなくて。色々混乱してきてしまった私はその場に立ち尽くすしか無かった。
その時、ヒョイと抱き上げられて我に返る。急ぎ足で私を抱える総司は近くにある茶屋の椅子に私を下ろして座らせると店主にお茶を頼んだ。
「…総司、ごめん。ありがとう」
「具合悪いの?」
「う、うん。そうみたい」
皆には言わない方が良いなとその場で判断して、具合のせいにして嘘をついてしまう。内心ごめんと思いながらボンヤリさっきの事を引きずりながら考えていると目の前に熱いお茶が出された。ありがとうと受け取って総司を見れば少しだけ困ったように薄く笑っていた。
「…何かあったら僕に頼りなよ」
「感がいいなぁ。」
「言いたく無いなら良いけどさ。君の頼みなら聞いてあげる。前の借りも返してないし」
「借りって何?」
「…僕が酔って君にしちゃった事」
そう言った総司にちょっとムッとした私は少しキツい口調になる事が分かっていながらも、その感情のまま口に出してしまう。
「総司はしたいと思ってしたんじゃないの?」
「えっ?何か怒ってる?」
「怒ってないよ。もういい」
そう言って席を立つとお金を店主に渡してからモヤモヤする気持ちのまま屯所に走った。追いつけ無いくらいのスピードで走ってから、誰も見ていない所で屋根に飛び乗って屯所の屋根まで走る。
私室の上まで来るとゴロリとそのまま寝転がった。
口付けが借りかぁ。と考えると苛々してしまう自分に溜息が出た。そんな嫌なつもりで総司は言ってないだろうし、私を本当に心配していてくれた。
池田屋か。来週に池田屋に討ち入りすると山南さんが言っていた。現代の歴史通りなら総司は血を吐いて怪我をする筈だ。
そんな事を考えていると、私の名前を呼ぶ声にハッとして起き上がった。
「土方さん、雪那ちゃん見てないですか?」
「お前ら買い出しに言ってたんじゃねーのか?」
「ちょっと喧嘩しちゃって」
「はぁ?…何で喧嘩したんだよ」
「…僕が悪いんですけどね」
「ったく。部屋にはいねーのか?」
「見に行ったんですけど、居なかったんですよ」
その会話が小さく聞こえて来て、私もちょっと言い過ぎたかなぁ何て思っていると後ろに気配を感じて振り返る。ギョッとしたような山崎さんと目が合って思わず苦笑いしてしまった。
「や、山崎くん。おかえりなさい」
「何やってるんですか?」
呆れた様な顔で私に近づいてくる山崎くんに私は少し不貞腐れながら、総司に腹が立って逃げて来ちゃったとポツリと呟いた。その瞬間に一度大きく目を見開いた山崎くんが吹き出してから声に出して笑い出す
「プッ。クックック」
「ぶー。笑い事だけど笑えないの」
「す、すみません」
謝りながらまだ笑いが込み上げてくるのか、笑ったまま私の横に座った山崎くんは口を開いた。
「雪那さん、変わりましたね。」
「そうかな?」
「皆に慣れて来たからなのかもしれませんけど、表情豊かになりました。」
「私もそう思うよ。皆の事知れて好きになって来た。親しい人達が出来て嬉しく思ってる」
「…沖田さんはああゆう人ですからね。彼のからかいに毎度反応していると身が持ちません。でも、雪那さんはからかわれるような対象にはなって無いと思うんですけど」
そういつもの口調で言った山崎くんに、まぁ土方さんみたいなからかい方では無いからねと返す。
その時にお前ら何処で喋ってんだと怒った土方さんの声が聞こえて私が山崎くんを見ると彼は非常に不味いとゆう顔をしながら屋根を即座に降りていった。
私も私で日に当たり過ぎて焼けそうなので、真下の自分の部屋の廊下に着地すると自室に入った。
「わぁ」
「おかえり。山崎くんと何話してたの?」
人の部屋で堂々と横になり猫を抱く総司に、完全に油断していてビックリしていると、起き上がった総司は私の手を引いて目の前に座らせた。
「さっきはごめん。借りだなんて言って」
「もーいいよ。」
「不貞腐れないでよ」
「酔っ払ってキスされて遊びみたいに言われたら嫌だもん」
そう素直に言って、プイと顔を背けるとゆっくりと手を握られる感覚がした。チラリと総司を見ると困ったように笑っていて私はその顔に完全にお手上げだった
「…そんな顔しないでよ。総司ずるい」
「遊び何かじゃないよ。僕は軽い男じゃないから」
「……。」
「信じないの?」
「…ううん。ちゃんと言ってくれたからちょっと信じる」
そう言って総司を見れば彼はニッコリと笑って、私の膝に寝転がる。総司の抱いていた猫がにゃあと鳴いてから総司の胸に足踏みをしている姿に思わず微笑んでしまった。
。
「綺麗ですねぇ」
キョロキョロと子供の様に落ち着きが無い私に山崎さんは、余り目立たないでくださいね。と少しだけ困った顔をしながら早々と歩いていく。その後ろを着いて歩いていると、雰囲気が人とは違う男性を見付けて思わず視線が彼から動かせなくなった。金色の髪に身体を纏う生命エネルギーは人とは違く特殊に見えた。
彼もまた私を不思議そうな目で見ていたが、山崎さんの声で我に返ると直ぐに視線を逸らして彼の元に走った。屋敷の様な造りの建物に入った山崎さんは、私を店主に紹介してから二階に連れて行く。
「店主さんは仲間何ですか?」
「いえ、でも話は通してありますから安心して下さい
。後此処の部屋で着替えをしてから女郎達の指示に従って下さい。それから分からない事や困った時は上を向いて瞬きを2回して下さい。」
急いでいるのか、そう簡潔に言ってすぐに消えた山崎さんの指示通り部屋に入って挨拶すれば
優しいお姉さん達が、お手伝いに来てくれた子ねと言って迎えてくれた。女性同士の職場で男性を取り合ったりするのだろうか何て不粋な事を考えていたが、若い子から中年の女性まで親切で礼儀正しく私に接してくれた。貴女は紫が似合うと言われ、成人式で着た着物とはまた違うような着物を着せられて化粧までしてもらった。君菊と名乗った美しい女性に髪をセットしてもらっていると、彼女は楽しそうに新選組の土方さんが来てるんですってと怪しく微笑んできた。
そうらしいですね、と適当に返すと妖艶な笑みを浮かべるだけだった。藤の花の刺繍がしてある紫の着物と少し濃いが妖艶なメイクが私を私では無い感覚にさせる。仕事モードに切り替えると、無理に言葉は変えなくていいですと山崎さんに言われて居たので下手にボロを出さない為にも女郎言葉は無理に使わない事にした。
君菊さんと手伝ってくれた女性達にお礼を言うと、何て呼べば良い?と言われて戸惑う。そんな細かい設定はしていなかったので皆に決めてもらう事にした。
「すみません、名前決めてないので。一緒に考えてもらっていいですか?」
「何でも良いの?」
どうせ1日だけだしな。と内心思いながらハイと笑うと、皆以外と真剣に考えてくれていた。10歳くらいの花魁の手伝いをしている女の子が藤の着物が良く似合うから藤がつく名前が良いんじゃないですか?と言ってくれて、藤雪と皆に決めて貰った。女性だけで話に花を咲かせているとガヤガヤと部屋の外から男性の声が聞こえて来た。
「さぁ、お客さまがいらっしゃったわよ」
そう言って女将さんが顔を出したので、私達は立ち上がった。6人のお侍さんの席に通された私は柔かに行儀良く座ってから皆の真似をしながら挨拶をしてお酌を始めた。特に絡まれる訳でも無く感じも悪くなかったので内心安心していたが。肝心の話が全く出て来なくて心配になる。仕方がないので1番地位が高そうな男性に気に入られる事から始める事にした。
少し着物を着崩して、色目を使い酌をする。容姿等から刀まで褒めまくっていると男性の顔つきが少しづつ変わってきた。お前さんも飲みなと言われて断らずにグイグイと飲み干すと凄く喜ばれてしまい、珍しく私が良い気分になってしまった。
そんな気分になって来た頃、遅れて入ってきた侍の1人が直ぐに池田屋の名前を出した。桂さんがいらっしゃるからと言った彼の言葉に内心終わったとホッとしていた。山崎さんがきっと今の話を聞いて居ただろうと思うと、私役に立てて無いんじゃと思ったけれど酒が入って気分が良かった私はまぁ。いっかで済ませる事にした。
池田屋と会合の日にちまで記憶した私は、御手洗いに行く為に席を立った。少しフラフラしていたが厠で紅を塗り直してから出ると上から山崎さんの声が聞こえてきた。居た部屋を通り過ぎて二つ目の部屋に入って下さい。その彼の言葉に頷くと、私が居た攘夷浪士達の部屋に楽器のような物を持って女性達が入って行くのが見えた。
山崎さんからの指示通りに通り過ぎて2つ目の部屋に入ると、いつもの面子が豪華な食事を食べながら酒を飲んでいた。
「また綺麗な子が来たな」
そう言って嬉しそうに笑った永倉さんに、佐之さんが入っておいでと手招きしてくる。全然私の事分かってないじゃんと少し呆れたけれど、ちょっと悪戯してやろうと思い声を変えて挨拶をすると平助の隣に座った
「お客様、あまり飲んで無いでありんすよ」
「あー俺は今日はそんな気分じゃないから」
そう言った平助に佐之さんが、お姉ちゃんが恋しいんでちゅよねとからかっている。煩いなと怒った平助にニッコリと笑ってから、今日は私を姉代わりにさせて下さいなんし。と言って酌をする。
分かりやすく照れた平助に内心可愛いなぁと思いながらも悪戯心に華が咲いてついつい呑ませてしまった。
君菊さんが土方さんから離れて、はじめくんと総司にお酌をしに言ったので私は土方さんの隣ににこやかに座った。
「…何だ」
「お酒は嫌いですか?」
「あんまり強くねぇんだよ」
では私に頂けますか?と聞くと土方さんが無表情でお酌をしてくれたので、お礼を言って頂いた。
「君菊姐さんに気に入られてた様でありんすな。鬼の副長さんはこの後はどうするんでありんすか?」
部屋で一夜を過ごすんですか?と私が意地悪く笑うと、平助と総司が島原でも鬼って言われてると笑った。
2人を叱りながら土方さんは俺は女に興味は無いと小さな声で咳払いをしたので、私は内心笑いながら土方さんの手を握った。
「では…男性に興味がおありで?」
「んな訳ねーだろ」
そう言った瞬間に全員が大笑いをする。土方さんの話題だと笑いを我慢する山南さんとはじめくんも珍しく声を出して笑って居た。何なんだお前はと土方さんに悪態をつかれて、私がくつくつと笑うといつもの如く転がって笑っている総司がヒーヒー言いながら私の横に座った。
「君の事気に入っちゃったな」
そう言って私の手を土方さんから引き剥がすと、腰に手を回して耳元で綺麗だねと囁いて来た。
その総司の様子に全員が目を見開いて珍しいなと呟いている。内心ちょっと嬉しい様な恥ずかしい様な私は黙りとしていると、聞いてる?と総司が私の頬に擦り寄って来た。土方さんをチラリと見ると、非常に不思議な物を見るような目で総司を見ていた。どこ見てんのと言われて土方さんの方を見ていた私の顔を、総司は強引に自分の方に寄せてくる。
「ちょ、ちょ、総司ギブギブ。恥ずかしい」
「なーんだ。もうちょっと我慢できると思ってたのになぁ。」
その私の声に皆は驚愕の声を上げた。雪那!と大きな声で名前を呼びながら平助が走って来て私に勢い良く掴み掛かると何もされなかったかと聞かれて、笑顔でうんうんと頷いた。まだ信じられない様な顔で見ている土方さんと目が合って、意地悪い笑顔でニヤリと私が笑うと頬をつねられて、何で直ぐ言わねえんだと叱られてしまった。だって皆気付かないんだもんと不貞腐れると君菊さんが、斉藤さんと沖田さんは直ぐに気付いてましたよ。と言ってきたので輝いた目ではじめくんを見ると、歩き方で分かると言われて肩透かしを食らった感じがした。
佐之さんと永倉さんが、本当に全然分かんなかったぜと言って笑っている中で化粧って凄いなと私の顔を覗き込んでいる平ちゃんを見ていると、先程今日は飲む気になれないと言って私を最後まで心配してくれていた事を思い出した。可愛いなぁと思い平助の腕にしがみつくとうわっとビックリしたように声を荒げたけれど、振り解かれなかったのでそのまま甘えて彼に体重を預けて目を瞑った。お酒を沢山飲んでいたからか、それとも慣れない仕事で疲れたのか。どちらにしても凄く疲れていてそのまま私は意識を無くしてしまった。
目が覚めると朝方の様でまだ暗い。此処は自分の与えられている部屋だなぁと寝ぼけながら確認してから格好を見ると着物でも無く、いつも着ている男装着で髪は1つに纏められていた。化粧はそのままだったけれど一体誰が着替えさせてくれたんだろうと不思議に思ったが、多分君菊さんかなと何となく思った。伸びをしてから風呂に入ろうと部屋の戸を開けるといつも居る総司は居なかった。
化粧を落として髪と身体を洗ってから寝巻きに着替えて部屋に戻ると丁度朝日が昇る所だった。まだ疲れがとれていないのか布団にもう一度入るとすぐに寝てしまった。
「雪那くん、起きてるかい?」
「…ちょっと待って下さい、今起きます」
近藤さんの声で目を覚まし、戸の方をみれば障子に近藤さんと土方さんと総司のシルエットが見える。
朝から3人で急ぎかな?と思い寝ぼけたまま戸を開ける。朝日が眩しくて目を擦りながら何ですか?と言うと近藤さんがわぁぁと大きな声を出したので、ビックリして目を開けた瞬間に土方さんにゲンコツを食らった。
「てんめーはそんな格好して出て来やがって」
「トシ、女の子にゲンコツはいかんぞ」
近藤さんが私を庇う様に前に立ったのと、今のゲンコツで目が覚めた私は自分の格好を見てみると
昨日風呂上がりに、キャミソールのワンピースのまま寝てしまっていた事を忘れていた。痛いなぁと言いながら一度部屋に入って上から服を着ると3人を部屋に通した。
「雪那ちゃん、土方さんの前であんな可愛い格好しちゃ駄目だよ」
「何だ土方さんは可愛くて見てられなかったのか」
「阿保かお前らは本当に。総司だけでもやっかいなのに雪那も一緒になりやがって」
そんな下らない冗談を言い合ってると、近藤さんが真面目な顔で私に頭を下げて来た。
「昨日は良くやってくれたね。山崎くんから聞いた。それで、これは今回の働きの礼だ」
そう言って渡されたお金のような物を渡してきた近藤さんに、衣食住を提供してもらっているから貰えないと断ったが貰ってほしいと念を押されてしまった。
「えっと、では遠慮無く頂きます。ありがとうございます」
そう言ってお礼を言うと3人は朝食にしようと言って部屋を出ようとしたので、つかさず総司の着物の袖を掴んだ。
「どうしたの?」
「ちょっと相談があるんだけど」
その様子を見ていた近藤さんと土方さんが、総司に聞いてやりなと言って部屋を出て行ったので私は総司に前から頼みたかった事をお願いをする事にした。
「それで?僕に何か頼み事?」
「あのさ、下着を買いに行きたいんだけど。どのお金を何枚くらい持って行けば良いのかな?」
そう言った私に総司はケラケラと笑ってから一緒に行ってあげるよと私の頭を撫でた。
1番組が巡察では無かったので、土方さんに理由を説明してから二人で屯所を出た。何にどれだけかかるのかが分からないので一応今まで貰った全てのお金を持って来た。総司と歩きながら他愛も無い話をしていると何だかデートしているような気分になって来て少し嬉しかった。何となく前の彼氏を思い出しているとボンヤリと彼氏と見に行ったミュージカルを思い出した
場所は江戸が舞台だったからかもしれない。池田屋で新選組の沖田は血を吐いた。その後伊藤が裏切り、近藤は斬首。そんな事を思い出して自分の顔から血の気が引いて行くような気分がした。
「雪那ちゃん?どしたの?」
思わず手を口に置いてキュッと力を込めた。顔が青いよ。平気?と珍しく焦っている総司の声も右から左になるくらいに私は動揺していた。此処は吸血鬼のような者がいるから多分私の生きていた世界の歴史とは絶対に違うけれど、絶対に違うとは言いきれなくて。色々混乱してきてしまった私はその場に立ち尽くすしか無かった。
その時、ヒョイと抱き上げられて我に返る。急ぎ足で私を抱える総司は近くにある茶屋の椅子に私を下ろして座らせると店主にお茶を頼んだ。
「…総司、ごめん。ありがとう」
「具合悪いの?」
「う、うん。そうみたい」
皆には言わない方が良いなとその場で判断して、具合のせいにして嘘をついてしまう。内心ごめんと思いながらボンヤリさっきの事を引きずりながら考えていると目の前に熱いお茶が出された。ありがとうと受け取って総司を見れば少しだけ困ったように薄く笑っていた。
「…何かあったら僕に頼りなよ」
「感がいいなぁ。」
「言いたく無いなら良いけどさ。君の頼みなら聞いてあげる。前の借りも返してないし」
「借りって何?」
「…僕が酔って君にしちゃった事」
そう言った総司にちょっとムッとした私は少しキツい口調になる事が分かっていながらも、その感情のまま口に出してしまう。
「総司はしたいと思ってしたんじゃないの?」
「えっ?何か怒ってる?」
「怒ってないよ。もういい」
そう言って席を立つとお金を店主に渡してからモヤモヤする気持ちのまま屯所に走った。追いつけ無いくらいのスピードで走ってから、誰も見ていない所で屋根に飛び乗って屯所の屋根まで走る。
私室の上まで来るとゴロリとそのまま寝転がった。
口付けが借りかぁ。と考えると苛々してしまう自分に溜息が出た。そんな嫌なつもりで総司は言ってないだろうし、私を本当に心配していてくれた。
池田屋か。来週に池田屋に討ち入りすると山南さんが言っていた。現代の歴史通りなら総司は血を吐いて怪我をする筈だ。
そんな事を考えていると、私の名前を呼ぶ声にハッとして起き上がった。
「土方さん、雪那ちゃん見てないですか?」
「お前ら買い出しに言ってたんじゃねーのか?」
「ちょっと喧嘩しちゃって」
「はぁ?…何で喧嘩したんだよ」
「…僕が悪いんですけどね」
「ったく。部屋にはいねーのか?」
「見に行ったんですけど、居なかったんですよ」
その会話が小さく聞こえて来て、私もちょっと言い過ぎたかなぁ何て思っていると後ろに気配を感じて振り返る。ギョッとしたような山崎さんと目が合って思わず苦笑いしてしまった。
「や、山崎くん。おかえりなさい」
「何やってるんですか?」
呆れた様な顔で私に近づいてくる山崎くんに私は少し不貞腐れながら、総司に腹が立って逃げて来ちゃったとポツリと呟いた。その瞬間に一度大きく目を見開いた山崎くんが吹き出してから声に出して笑い出す
「プッ。クックック」
「ぶー。笑い事だけど笑えないの」
「す、すみません」
謝りながらまだ笑いが込み上げてくるのか、笑ったまま私の横に座った山崎くんは口を開いた。
「雪那さん、変わりましたね。」
「そうかな?」
「皆に慣れて来たからなのかもしれませんけど、表情豊かになりました。」
「私もそう思うよ。皆の事知れて好きになって来た。親しい人達が出来て嬉しく思ってる」
「…沖田さんはああゆう人ですからね。彼のからかいに毎度反応していると身が持ちません。でも、雪那さんはからかわれるような対象にはなって無いと思うんですけど」
そういつもの口調で言った山崎くんに、まぁ土方さんみたいなからかい方では無いからねと返す。
その時にお前ら何処で喋ってんだと怒った土方さんの声が聞こえて私が山崎くんを見ると彼は非常に不味いとゆう顔をしながら屋根を即座に降りていった。
私も私で日に当たり過ぎて焼けそうなので、真下の自分の部屋の廊下に着地すると自室に入った。
「わぁ」
「おかえり。山崎くんと何話してたの?」
人の部屋で堂々と横になり猫を抱く総司に、完全に油断していてビックリしていると、起き上がった総司は私の手を引いて目の前に座らせた。
「さっきはごめん。借りだなんて言って」
「もーいいよ。」
「不貞腐れないでよ」
「酔っ払ってキスされて遊びみたいに言われたら嫌だもん」
そう素直に言って、プイと顔を背けるとゆっくりと手を握られる感覚がした。チラリと総司を見ると困ったように笑っていて私はその顔に完全にお手上げだった
「…そんな顔しないでよ。総司ずるい」
「遊び何かじゃないよ。僕は軽い男じゃないから」
「……。」
「信じないの?」
「…ううん。ちゃんと言ってくれたからちょっと信じる」
そう言って総司を見れば彼はニッコリと笑って、私の膝に寝転がる。総司の抱いていた猫がにゃあと鳴いてから総司の胸に足踏みをしている姿に思わず微笑んでしまった。
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