Girl Who Leapt Through Time
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その日の夜、部屋の中から外で見張りをして居るであろう総司に声をかける。
「総司、起きてる?」
「何で寝てる前提で話をしてくるのさ」
「山南さんの怪我を見てあげたいんだけど、何処にいるか知らない?」
少し無言が続いたけれど、スッと戸が開いてからニッコリと笑った総司がこちらを見ていた。
「そうゆう事なら案内してあげるよ」
暗い廊下を何度も曲がり、入った事の無いエリアまで来ると総司はこの先にいるよと言ってから足を進めた。中に入ると驚いた顔の山崎さんと土方さんと近藤さんが居て、苦しんでいるような山南さんを囲む様にして座っている。
「総司、この場所に人を入れては駄目だと言っただろう」
「すみません近藤さん、私が頼みました」
そう言うと、近藤さんは何も言わなくなったけれども山南さんの唸る様な声が部屋中に響く。
「山崎さん、怪我はどんな感じなんですか?」
「…昨日までは良い経過だったのですが、炎症を起こしてしまいまして熱が高く厳しい状態かと」
そう言って山南さんを見ると、確かに顔まで赤く左腕も腫れ上がっている様で服の上からでも分かるような盛り上がり方をしていた。
直ぐに山南さんの左腕の近くに座り、服を捲る。うっと痛みに唸るがそんな事気にしてられなかった。
山南さんの傷に右手を置くと青い光が部屋中に煌めいてその光に全員が息を呑むのが分かった。美しい水の雫が浮かび上がって山南さんに落ちると光は消えてゆく。ゆっくりとではあるが呼吸が落ち着いて来た。
「これは…凄いな」
土方さんが珍しく生き生きとした表情で私を見て来たのでつい小さく笑ってしまう。
「病気では無く、傷の炎症なら抑えられますから安心して下さい。少し経てば熱は下がりますから。」
「ありがとう雪那くん」
そう言って近藤さんは優しい笑みで私の手を取り笑いかけて来た。その近藤さんの顔を見た総司が優しく微笑んだ顔を見て私の顔も少し熱くなった気がしていた。
もう少ししたら、また一度治療したいので此処に残ると言った私に、山崎さんが布団を持ってきてくれた。
全員が出て行ってから、山崎さんには湯を沸かして手拭いを持ってきてもらった。その手拭いで山南さんの額を拭いているとゆっくりと瞼が開いた。
「… 雪那くんですか?」
「山南さん、痛みはどうですか?」
「少し痛みますが、大分良いです」
そう言った山南さんの左腕にもう一度発動させると、また青い光が部屋中を埋め尽くしてから雫が腕に落ちる。目を見開く山南さんに、どうですか?と聞くと痛みは全く無くなったと言ってから微笑んで直ぐに気を失ってしまった。
熱が下がり始めると汗をかくようで、私は着物を脱がしてから彼の全身を濡れた手拭いで優しい拭いた。
お尻を拭きたいが、どうしても下着を脱がせたくは無くて困っていると土方さんと総司がお茶を持って入ってきた。
裸同然の姿の山南さんを見てから、私を驚愕したような顔で見た土方さんに手拭いを投げつけた。
「お前は何で脱がせるんだよ」
「私の常識だと緊急の時は仕方ないんです。此処ではハレンチなのかもしれないですけど。熱が下がると汗をかいてそのままだと汗疹になるし」
それよりも、土方さん。と私が見つめると何だよと少しだけ嫌な顔をする。
「お尻と前だけ拭いてもらえませんか?私触れないんで」
そう言った私に土方さんは少し固まっていたが、仕方ねぇなと言って綺麗に一度洗った手拭いであまり見ないようにして山南さんの汗を拭いてくれていた。
その土方さんの姿に転がりながら笑う総司に私もついつられて笑ってしまった。
朝、日が差して来て山南さんの治療をもう一度行うと疲れて居たのか倒れ込んだようにいつの間にか眠ってしまった。
身体を揺すられて、目を開けると一度目に行った世界で淡い恋心を抱いていた上司が目の前に立っていた。
会いたかったと本音が出て思わず自分の瞳から涙が流れてくる。
髪を撫でられて、その手の温かさに帰りたいと言ってキツく彼を抱きしめると耳元で声がする。
「誰と間違えてるの?」
ハッと目が覚めると、頭を撫でられている感覚と抱き締められている事にビックリして固まってしまう。
「雪那ちゃん。おはよう」
耳元でした声にゆっくりと身体を離すと、ニッコリと笑っている総司の顔が目の前にあった。
「…お、おはよう」
少し恥ずかしくて顔を背けると、誰の夢見てたの?と言って総司は私の顎を掴んだ。黙っている私に辛かったんだね。と言ってから顎を掴む手を離してギュッと強く抱き締めてくれた。
ビックリしたけれど、辛かったねと言ってくれた言葉が何より滲みて。私はありがとうと言って彼の背中に手を回した。
落ち着いて来た私は総司にお風呂に入って来ると行ってその場を去った。自室に戻ると気恥ずかしさも落ち着いて来たので風呂に入ってから支度を整えると、もう昼過ぎだった。昼食を食べ損ねた私は、台所に入り何か無いか探っていると斉藤さんの私を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
小さな包みを渡されて、お前の分だ。とだけ言われて包みを開くと小さなおにぎりが2つ入っていた。
「斉藤さんが作ってくれたの?」
「ああ。」
「ありがとう。何かお礼しないとね。何が良い?」
「いや、おにぎりくらいで礼などいい」
「じゃあ、私が教えてもらった剣の技とかどうかな?ナイフとか刃物なら使えるって言ってたから」
そう言った私に斉藤さんはいいのか?とコロッケの作り方くらい目を輝かせていた。本当に、刀の事や強さの事になると凄いなと思いつつも彼を誘って中庭にでた。2人で稽古に励んでいると、佐之さんまでやって来たので結局2人に教える事になってしまった。夕暮れになり2人が技を習得し始めてきたので一度切り上げて休憩にする事にした。
「そういえば、山南さんは大丈夫そうだった?」
その事をすっかり忘れていた私は、縁側に座り茶を飲む2人に聞いてみる事にした。
「ああ。そういえば雪那に治療してもらったと言っていたな。」
「刀も試しに握ってみたけど、大丈夫だったって喜んでたから今は平気だろ。」
「そう。良かったよ。私は刀を握る大事さが分からないからさ。山南さんがそれが大切なら治してあげれて凄く良かったって思うよ。此処に居て初めて役に立てたかな」
そう言った私に珍しく斉藤さんが、お前はお前の力に誇りを持てと真っ直ぐな瞳で私を見た。
頷いた私に佐之さんが急に後ろから軽々と私を抱きあげると、俺たちを兄だと思ってくれよな。何て嬉しい事を言ってくれた。
「…でも」
「何だよ」
「私27だよ。」
この言葉に、2人は目を見開いてから黙ってしまった。そして、斉藤さんが19歳だと聞いてからはじめくんと呼ぶ様になったのもこの時からだった。佐之さんが23歳だって事には全身全霊口を開けて驚いてしまった。その歳でその色気だと30になったらどうするんですか?!と言うと後ろに居た土方さんに思い切りゲンコツを食らった。この時ばかりは少し興奮していて土方さんの気配をが全く分からなかったのを後で反省した。
そのまま土方さんに首根っこを掴まれて猫のように運ばれる。着いた先は山南さんの部屋で、彼は布団に座った状態でこちらを見ていた。私と目が合うと、とても嬉しそうに笑った山南さんに、ああもう大丈夫かもなって確信が持てた。
ポイッと投げられた私は綺麗に着地すると山南さんの側に座った。
「痛みは?」
「刀を振っても全く支障が無い。本当に君には感謝しかありません」
「良かった、でもなら何故この時間から布団に?」
「土方くんにもう少し寝てろと言われまして」
そう言って苦笑いする山南さんに、私は断ってから傷を見せて貰うとしっかりと傷は塞がっていた。
「もう大丈夫そうですね。そう言えば山南さん、あの隊士さん達4人は大丈夫ですか?」
そう言った私に山南さんは少し暗い顔をした。あれから少しは落ち着いたけれど、また衝動に駆られる時があると言ってから慌てたように私を見て、すみませんと謝ってくる
「どうして謝るんですか?」
「君が精一杯治療してくれたのに。こんな事を言ってしまい申し訳ありません」
「いえいえ、衝動に駆られる前に治療してあげるのが1番良いので3日に一度はあの隊士さん達の所に連れて行って下さい」
「貴方は大丈夫なんですか?そんなに力を使って」
「全員大丈夫ですよ。私に副作用は無いので」
そう言って笑った私に山南さんは優しい顔で微笑んでくれた。後ろを振り返ると土方さんは珍しく優しい顔で私達を見ていた。
それから何月か経って、私も屯所に慣れてきた頃。
夕食をコロッケにして欲しいと言われ、はじめくんと2人で食事を作り配膳をしていると非常に機嫌の悪い顔の土方さんと山南さんが入ってきた。
他のメンバーも重苦しいような表情の中、珍しく気まずい雰囲気での静かな食事が始まった。
何口か口に入れた時に土方さんが重い口を開いた。
「…何人かの攘夷浪士が花街で会合を開いていると山崎から連絡が入った。」
それに続いて山南さんも口を開く。
「花街に潜入捜査をと考えているのですが。…実はそれを雪那くんにお願いしたいと思ってます」
シーンと部屋が静まり返ると、皆が私を見る。
「やった事何回かあるんで良いですよ。」
そう言った私に平ちゃんは立ち上がると絶対に駄目だと言い張った。
肩を揺さぶられて何かされたらどうするんだと必死になって言ってくる平ちゃんに、大袈裟だなと笑って潜入捜査何てそんなの当たり前だよと言うと土方さんの手から箸が転げ落ちた。
「えっ?何でこんな雰囲気何ですか?」
「雪那が危ねぇ事言うからだろ。それよりお前、前にもやったことあるって言ってたが、前はどんな捜査だったんだよ」
佐之さんの問いかけに、頭を振り絞って昔ユーフォリアにお願いされた仕事を思い出した。
「一度目は、失敗してナイフで全身ズタズタにされたかなぁ。でもそれはまだ慣れてなかったからで…。2度目は裸にされたけ」
「わぁぁぁ、言うなよ雪那」
平ちゃんの叫び声にビックリして口を閉じた私は項垂れている土方さんと目が合った。はじめくんはずっと下を向いたきりで目すら合わせてくれなかった。
「平ちゃん、潜入捜査何て危ないのが当たり前だし。最後までされそうになる前に聞き出して気絶させれば良いから大丈夫だよ」
何故私が平助を慰めてるんだろうと不思議になったけど、平ちゃんは心配してくれてるんだろうなと思ったから色々慌ててフォローしたが、何故か。空気は重くなるばかりだった。
その時に総司と目が合う。彼の表情は無表情だったけれどもピリピリとした殺気の様なものを向けられた気がして何だか悲しくなった。
その時に急に立ち上がり部屋を出て行った総司に皆が首を傾げていると、舌打ちした土方さんが口を開いた。
「… 雪那には今回行ってもらう事になると思うが、俺達もその場には行く事になってる。」
「すみませんね、雪那くん。山崎くんも見張りで付けるので必ず危ない目に合わせないと約束しますから」
そう言った2人に、私はそんなに申し訳無さそうにしなくて大丈夫なんでと言って少しだけ微笑んだ。
食事をしてから皆んなで少し呑んでいると、酔った平ちゃんが珍しく背中に抱きついてくる。
「危ないから行かない方が良いってー」
呂律が回らない口が可愛くて笑っていると、はじめくんがお酌をしてくれる。
「怖くは無いのか?」
その言葉に永倉さんと佐之さんが頷いて私を見つめてくる。
「怖くは無いですね。只、聞き出す前にそうゆう事をしてこようとする人が多いので。それを上手くやらないとなって思ってます。」
「いつも、そうゆう時はどうしてるんだ?」
「頑張って最後まで聞き出しても言わない時は寝てもらいますね。後はどれだけ呑ませて言わせるかなんで…。でも今回は1対1とかでは無いみたいなので、危険はそれ程無さそうですし。」
そういえば、自白剤とか無いんですか?と聞くと、なんだそれはと返ってきたので聞くのをやめた。永倉さんが、でもどうして雪那を指名したんだろうなと言うと、佐之さんはこればっかりはコイツしか居ないからなぁと私を見た。
確かに永倉さんや佐之さんが花街で着物着ていたら怖いなと言うと、はじめくんが凄く笑っていた。
未だに私の首に巻きついて駄目だと言っている平ちゃんに大丈夫だからと言って頭を撫でてあげるとそのまま彼は私の膝で不貞寝してしまった。
「姉さんが出来た様で平助も嬉しい反面心配なんだろうな」
そう言って平助の頭をペシペシと軽く叩く永倉さんに、はじめくんが副長も局長も全員が心配している。と小さく呟いた。ユーフォリアには心配何てされなかったなぁ。何て考えているとお酒が空になったのでその場はお開きになった。
酔った足取りで部屋に戻ると、部屋の前に総司が空を見ながら座って居た。
「…総司」
私が名前を呼んでもこちらを見ないので、まだ怒っているのかと思い隣に座った。何が気に食わなかったんだろうと思いながら彼の横顔を眺めていると後ろから頭をポンポンと優しく叩かれた。
「…総司、どしたの?」
「いいや、さっきごめんねと思ってさ」
「何で怒ってたの?」
「…君に怒ってた訳じゃ無いよ。」
そう言った総司は急に私の手を取ると、体重を掛けて私を床に押し付けた。右手と左手を強く握られて動かせない様に上半身を押し付けてくる
その顔には少しだけ怒りが込められた様な笑みが浮かんでいた。
「…総司?」
「こんな風にされたの?」
「えっ?」
「昔、されたんでしょ?」
「う、うん。こんなに優しくは無いけどね」
そう言った私に、そう。と言ってから総司は私の耳元に口を寄せて来た。本当に行くの?と少し心配したような声に私はちょっと嬉しくなった。何だ心配してくれてたんだな。そう思うと自然と笑顔になってしまう
「何だ、心配してくれてたんだ」
「別に。それよりさ今自分の心配をしたら?」
そう言って総司は私の唇に顔を寄せて来た。ペロリと舐められた唇に私は驚きを隠せずに酔いだけが覚めた
ニッコリと笑ってから私の胸に頭を預けて、スヤスヤと寝てしまった総司からする酒の匂いに、何だ酔っ払ってたのかと溜息が出て来た。
このままにもして置けなかったので、私は布団まで総司を引きづると彼の背中を抱く様にして眠りについた
小鳥の囀りで目が覚める。
いつの間にか寝てしまったのだろう。暖かくて心地が良い。背中に柔らかいものを感じて目を開けると自分の脇腹に人の手が回っていて。その手を自然に触る。柔らかくて小さい手だった。背中から小さな寝息が聞こえて雪那ちゃんだなって思ってから後ろを振り返ると、やっぱり彼女がスヤスヤと寝ていた。
じっと観察していると、やっぱり彼女は此処の人とは色々違う様な気がした。
小さな唇を優しく触ると、少しだけ反応した彼女に僕は少しだけ微笑んでしまう。昨日の土方さんの発言に頭に来て、新選組の為だと思うと腹が立つのに何も言えなかった。彼女が今までどんな経験をしていたか何て知らないけど、やっぱり少し心配をしてしまうのは一緒に時を過ごして来たからだろうか。
静かに瞼を開けた彼女と目が合った。
「…おはよう雪那ちゃん」
「……総司、そうか私が布団に入れたんだ」
目の前いっぱいに総司の顔があって、照れ隠しをしながら平然のフリをした。心臓がドキドキしていたけれど話で誤魔化そうと思い口を開いた
「…総司昨日可愛かったなぁ」
「僕が?何の事?」
「酔って廊下で私に口付けして、昔私を裸にした男を殺してやりたいってぎゅーぎゅー抱きしめて来てさ」
ケラケラと私が盛りに盛って嘘を吐きながらからかうように笑うと、期待していた反応は返ってこず
少し心配になって彼を見た。総司は呆然としたような顔で天井を見ていた。
「あのー、総司?」
そう言って私が彼の肩に触れた瞬間に彼は布団から起き上がると
「…口付けしたかも」
そう私の目を見て見ないで言った総司は珍しく顔が赤い。ふらりと立ち上がるとそのまま顔を洗って来ると言って部屋を出て行った。その姿を見てちょっとふざけすぎたかなと思ったが、悪戯に私を押し倒して来て猫の様に唇を舐めたのは事実。自業自得だなと一人で自己完結することにした。
その日はずっと土方さんと山南さんと近藤さんに潜入捜査の説明をされていた。近藤さんはずっと行かせる事を嫌がっているようで困った顔をしていた。
土方さんが説明する度に、本当にやるのか?危ないぞなどと口を挟むので早い時点で退場させられていた
「君が強いのは承知していますが、やはり恩人を危険な場所に送るのは気が引けますね。女性ですし」
「こいつの魂は女じゃねぇ。俺達に引けをとらねぇ武士だ。大丈夫だろ」
「武士じゃないですー。やっぱり怖いので土方さんも女装して一緒に来て下さい」
そう言って笑うと、戸の外からそれは良いですねと一際明るい総司の声がした。山南さんが珍しく小さく吹き出して土方さんが総司に怒鳴るとゆういつものパターンでその話し合いも終わった。
朝の事を特に気にしている様子も無い総司と2人で他愛も無い話をしながら夕食の準備をする為に廊下を歩いていると、ふと前を歩いていた彼が立ち止まり私を見つめてくる。どしたの?と聞くと私の右手をとり
彼の胸の前でぎゅっと握られる。
「…昨日は軽率でごめん。」
「…総司だからいいよ。」
「僕だからって何?」
総司だからいいよと言った瞬間に意地が悪い笑みを浮かべ出した彼をジトリと睨む様に見つめると嬉しそうに笑う。
「特別扱いしてくれてんの?」
「…ちょっとだけね。」
そう言って、手を払い先に行こうとした私の腕を掴んで引き寄せると優しく抱き締められて少しビックリした私は口を開けたまま彼を見た。
「…危なくなったら助けるから。僕を呼ぶんだよ」
「う、うん。」
君は女の子何だからと言った総司は直ぐに私から離れて台所の方に歩いて行った。初めてときめいてしまった私は呆然と彼の背中を見つめていた。
。
「総司、起きてる?」
「何で寝てる前提で話をしてくるのさ」
「山南さんの怪我を見てあげたいんだけど、何処にいるか知らない?」
少し無言が続いたけれど、スッと戸が開いてからニッコリと笑った総司がこちらを見ていた。
「そうゆう事なら案内してあげるよ」
暗い廊下を何度も曲がり、入った事の無いエリアまで来ると総司はこの先にいるよと言ってから足を進めた。中に入ると驚いた顔の山崎さんと土方さんと近藤さんが居て、苦しんでいるような山南さんを囲む様にして座っている。
「総司、この場所に人を入れては駄目だと言っただろう」
「すみません近藤さん、私が頼みました」
そう言うと、近藤さんは何も言わなくなったけれども山南さんの唸る様な声が部屋中に響く。
「山崎さん、怪我はどんな感じなんですか?」
「…昨日までは良い経過だったのですが、炎症を起こしてしまいまして熱が高く厳しい状態かと」
そう言って山南さんを見ると、確かに顔まで赤く左腕も腫れ上がっている様で服の上からでも分かるような盛り上がり方をしていた。
直ぐに山南さんの左腕の近くに座り、服を捲る。うっと痛みに唸るがそんな事気にしてられなかった。
山南さんの傷に右手を置くと青い光が部屋中に煌めいてその光に全員が息を呑むのが分かった。美しい水の雫が浮かび上がって山南さんに落ちると光は消えてゆく。ゆっくりとではあるが呼吸が落ち着いて来た。
「これは…凄いな」
土方さんが珍しく生き生きとした表情で私を見て来たのでつい小さく笑ってしまう。
「病気では無く、傷の炎症なら抑えられますから安心して下さい。少し経てば熱は下がりますから。」
「ありがとう雪那くん」
そう言って近藤さんは優しい笑みで私の手を取り笑いかけて来た。その近藤さんの顔を見た総司が優しく微笑んだ顔を見て私の顔も少し熱くなった気がしていた。
もう少ししたら、また一度治療したいので此処に残ると言った私に、山崎さんが布団を持ってきてくれた。
全員が出て行ってから、山崎さんには湯を沸かして手拭いを持ってきてもらった。その手拭いで山南さんの額を拭いているとゆっくりと瞼が開いた。
「… 雪那くんですか?」
「山南さん、痛みはどうですか?」
「少し痛みますが、大分良いです」
そう言った山南さんの左腕にもう一度発動させると、また青い光が部屋中を埋め尽くしてから雫が腕に落ちる。目を見開く山南さんに、どうですか?と聞くと痛みは全く無くなったと言ってから微笑んで直ぐに気を失ってしまった。
熱が下がり始めると汗をかくようで、私は着物を脱がしてから彼の全身を濡れた手拭いで優しい拭いた。
お尻を拭きたいが、どうしても下着を脱がせたくは無くて困っていると土方さんと総司がお茶を持って入ってきた。
裸同然の姿の山南さんを見てから、私を驚愕したような顔で見た土方さんに手拭いを投げつけた。
「お前は何で脱がせるんだよ」
「私の常識だと緊急の時は仕方ないんです。此処ではハレンチなのかもしれないですけど。熱が下がると汗をかいてそのままだと汗疹になるし」
それよりも、土方さん。と私が見つめると何だよと少しだけ嫌な顔をする。
「お尻と前だけ拭いてもらえませんか?私触れないんで」
そう言った私に土方さんは少し固まっていたが、仕方ねぇなと言って綺麗に一度洗った手拭いであまり見ないようにして山南さんの汗を拭いてくれていた。
その土方さんの姿に転がりながら笑う総司に私もついつられて笑ってしまった。
朝、日が差して来て山南さんの治療をもう一度行うと疲れて居たのか倒れ込んだようにいつの間にか眠ってしまった。
身体を揺すられて、目を開けると一度目に行った世界で淡い恋心を抱いていた上司が目の前に立っていた。
会いたかったと本音が出て思わず自分の瞳から涙が流れてくる。
髪を撫でられて、その手の温かさに帰りたいと言ってキツく彼を抱きしめると耳元で声がする。
「誰と間違えてるの?」
ハッと目が覚めると、頭を撫でられている感覚と抱き締められている事にビックリして固まってしまう。
「雪那ちゃん。おはよう」
耳元でした声にゆっくりと身体を離すと、ニッコリと笑っている総司の顔が目の前にあった。
「…お、おはよう」
少し恥ずかしくて顔を背けると、誰の夢見てたの?と言って総司は私の顎を掴んだ。黙っている私に辛かったんだね。と言ってから顎を掴む手を離してギュッと強く抱き締めてくれた。
ビックリしたけれど、辛かったねと言ってくれた言葉が何より滲みて。私はありがとうと言って彼の背中に手を回した。
落ち着いて来た私は総司にお風呂に入って来ると行ってその場を去った。自室に戻ると気恥ずかしさも落ち着いて来たので風呂に入ってから支度を整えると、もう昼過ぎだった。昼食を食べ損ねた私は、台所に入り何か無いか探っていると斉藤さんの私を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
小さな包みを渡されて、お前の分だ。とだけ言われて包みを開くと小さなおにぎりが2つ入っていた。
「斉藤さんが作ってくれたの?」
「ああ。」
「ありがとう。何かお礼しないとね。何が良い?」
「いや、おにぎりくらいで礼などいい」
「じゃあ、私が教えてもらった剣の技とかどうかな?ナイフとか刃物なら使えるって言ってたから」
そう言った私に斉藤さんはいいのか?とコロッケの作り方くらい目を輝かせていた。本当に、刀の事や強さの事になると凄いなと思いつつも彼を誘って中庭にでた。2人で稽古に励んでいると、佐之さんまでやって来たので結局2人に教える事になってしまった。夕暮れになり2人が技を習得し始めてきたので一度切り上げて休憩にする事にした。
「そういえば、山南さんは大丈夫そうだった?」
その事をすっかり忘れていた私は、縁側に座り茶を飲む2人に聞いてみる事にした。
「ああ。そういえば雪那に治療してもらったと言っていたな。」
「刀も試しに握ってみたけど、大丈夫だったって喜んでたから今は平気だろ。」
「そう。良かったよ。私は刀を握る大事さが分からないからさ。山南さんがそれが大切なら治してあげれて凄く良かったって思うよ。此処に居て初めて役に立てたかな」
そう言った私に珍しく斉藤さんが、お前はお前の力に誇りを持てと真っ直ぐな瞳で私を見た。
頷いた私に佐之さんが急に後ろから軽々と私を抱きあげると、俺たちを兄だと思ってくれよな。何て嬉しい事を言ってくれた。
「…でも」
「何だよ」
「私27だよ。」
この言葉に、2人は目を見開いてから黙ってしまった。そして、斉藤さんが19歳だと聞いてからはじめくんと呼ぶ様になったのもこの時からだった。佐之さんが23歳だって事には全身全霊口を開けて驚いてしまった。その歳でその色気だと30になったらどうするんですか?!と言うと後ろに居た土方さんに思い切りゲンコツを食らった。この時ばかりは少し興奮していて土方さんの気配をが全く分からなかったのを後で反省した。
そのまま土方さんに首根っこを掴まれて猫のように運ばれる。着いた先は山南さんの部屋で、彼は布団に座った状態でこちらを見ていた。私と目が合うと、とても嬉しそうに笑った山南さんに、ああもう大丈夫かもなって確信が持てた。
ポイッと投げられた私は綺麗に着地すると山南さんの側に座った。
「痛みは?」
「刀を振っても全く支障が無い。本当に君には感謝しかありません」
「良かった、でもなら何故この時間から布団に?」
「土方くんにもう少し寝てろと言われまして」
そう言って苦笑いする山南さんに、私は断ってから傷を見せて貰うとしっかりと傷は塞がっていた。
「もう大丈夫そうですね。そう言えば山南さん、あの隊士さん達4人は大丈夫ですか?」
そう言った私に山南さんは少し暗い顔をした。あれから少しは落ち着いたけれど、また衝動に駆られる時があると言ってから慌てたように私を見て、すみませんと謝ってくる
「どうして謝るんですか?」
「君が精一杯治療してくれたのに。こんな事を言ってしまい申し訳ありません」
「いえいえ、衝動に駆られる前に治療してあげるのが1番良いので3日に一度はあの隊士さん達の所に連れて行って下さい」
「貴方は大丈夫なんですか?そんなに力を使って」
「全員大丈夫ですよ。私に副作用は無いので」
そう言って笑った私に山南さんは優しい顔で微笑んでくれた。後ろを振り返ると土方さんは珍しく優しい顔で私達を見ていた。
それから何月か経って、私も屯所に慣れてきた頃。
夕食をコロッケにして欲しいと言われ、はじめくんと2人で食事を作り配膳をしていると非常に機嫌の悪い顔の土方さんと山南さんが入ってきた。
他のメンバーも重苦しいような表情の中、珍しく気まずい雰囲気での静かな食事が始まった。
何口か口に入れた時に土方さんが重い口を開いた。
「…何人かの攘夷浪士が花街で会合を開いていると山崎から連絡が入った。」
それに続いて山南さんも口を開く。
「花街に潜入捜査をと考えているのですが。…実はそれを雪那くんにお願いしたいと思ってます」
シーンと部屋が静まり返ると、皆が私を見る。
「やった事何回かあるんで良いですよ。」
そう言った私に平ちゃんは立ち上がると絶対に駄目だと言い張った。
肩を揺さぶられて何かされたらどうするんだと必死になって言ってくる平ちゃんに、大袈裟だなと笑って潜入捜査何てそんなの当たり前だよと言うと土方さんの手から箸が転げ落ちた。
「えっ?何でこんな雰囲気何ですか?」
「雪那が危ねぇ事言うからだろ。それよりお前、前にもやったことあるって言ってたが、前はどんな捜査だったんだよ」
佐之さんの問いかけに、頭を振り絞って昔ユーフォリアにお願いされた仕事を思い出した。
「一度目は、失敗してナイフで全身ズタズタにされたかなぁ。でもそれはまだ慣れてなかったからで…。2度目は裸にされたけ」
「わぁぁぁ、言うなよ雪那」
平ちゃんの叫び声にビックリして口を閉じた私は項垂れている土方さんと目が合った。はじめくんはずっと下を向いたきりで目すら合わせてくれなかった。
「平ちゃん、潜入捜査何て危ないのが当たり前だし。最後までされそうになる前に聞き出して気絶させれば良いから大丈夫だよ」
何故私が平助を慰めてるんだろうと不思議になったけど、平ちゃんは心配してくれてるんだろうなと思ったから色々慌ててフォローしたが、何故か。空気は重くなるばかりだった。
その時に総司と目が合う。彼の表情は無表情だったけれどもピリピリとした殺気の様なものを向けられた気がして何だか悲しくなった。
その時に急に立ち上がり部屋を出て行った総司に皆が首を傾げていると、舌打ちした土方さんが口を開いた。
「… 雪那には今回行ってもらう事になると思うが、俺達もその場には行く事になってる。」
「すみませんね、雪那くん。山崎くんも見張りで付けるので必ず危ない目に合わせないと約束しますから」
そう言った2人に、私はそんなに申し訳無さそうにしなくて大丈夫なんでと言って少しだけ微笑んだ。
食事をしてから皆んなで少し呑んでいると、酔った平ちゃんが珍しく背中に抱きついてくる。
「危ないから行かない方が良いってー」
呂律が回らない口が可愛くて笑っていると、はじめくんがお酌をしてくれる。
「怖くは無いのか?」
その言葉に永倉さんと佐之さんが頷いて私を見つめてくる。
「怖くは無いですね。只、聞き出す前にそうゆう事をしてこようとする人が多いので。それを上手くやらないとなって思ってます。」
「いつも、そうゆう時はどうしてるんだ?」
「頑張って最後まで聞き出しても言わない時は寝てもらいますね。後はどれだけ呑ませて言わせるかなんで…。でも今回は1対1とかでは無いみたいなので、危険はそれ程無さそうですし。」
そういえば、自白剤とか無いんですか?と聞くと、なんだそれはと返ってきたので聞くのをやめた。永倉さんが、でもどうして雪那を指名したんだろうなと言うと、佐之さんはこればっかりはコイツしか居ないからなぁと私を見た。
確かに永倉さんや佐之さんが花街で着物着ていたら怖いなと言うと、はじめくんが凄く笑っていた。
未だに私の首に巻きついて駄目だと言っている平ちゃんに大丈夫だからと言って頭を撫でてあげるとそのまま彼は私の膝で不貞寝してしまった。
「姉さんが出来た様で平助も嬉しい反面心配なんだろうな」
そう言って平助の頭をペシペシと軽く叩く永倉さんに、はじめくんが副長も局長も全員が心配している。と小さく呟いた。ユーフォリアには心配何てされなかったなぁ。何て考えているとお酒が空になったのでその場はお開きになった。
酔った足取りで部屋に戻ると、部屋の前に総司が空を見ながら座って居た。
「…総司」
私が名前を呼んでもこちらを見ないので、まだ怒っているのかと思い隣に座った。何が気に食わなかったんだろうと思いながら彼の横顔を眺めていると後ろから頭をポンポンと優しく叩かれた。
「…総司、どしたの?」
「いいや、さっきごめんねと思ってさ」
「何で怒ってたの?」
「…君に怒ってた訳じゃ無いよ。」
そう言った総司は急に私の手を取ると、体重を掛けて私を床に押し付けた。右手と左手を強く握られて動かせない様に上半身を押し付けてくる
その顔には少しだけ怒りが込められた様な笑みが浮かんでいた。
「…総司?」
「こんな風にされたの?」
「えっ?」
「昔、されたんでしょ?」
「う、うん。こんなに優しくは無いけどね」
そう言った私に、そう。と言ってから総司は私の耳元に口を寄せて来た。本当に行くの?と少し心配したような声に私はちょっと嬉しくなった。何だ心配してくれてたんだな。そう思うと自然と笑顔になってしまう
「何だ、心配してくれてたんだ」
「別に。それよりさ今自分の心配をしたら?」
そう言って総司は私の唇に顔を寄せて来た。ペロリと舐められた唇に私は驚きを隠せずに酔いだけが覚めた
ニッコリと笑ってから私の胸に頭を預けて、スヤスヤと寝てしまった総司からする酒の匂いに、何だ酔っ払ってたのかと溜息が出て来た。
このままにもして置けなかったので、私は布団まで総司を引きづると彼の背中を抱く様にして眠りについた
小鳥の囀りで目が覚める。
いつの間にか寝てしまったのだろう。暖かくて心地が良い。背中に柔らかいものを感じて目を開けると自分の脇腹に人の手が回っていて。その手を自然に触る。柔らかくて小さい手だった。背中から小さな寝息が聞こえて雪那ちゃんだなって思ってから後ろを振り返ると、やっぱり彼女がスヤスヤと寝ていた。
じっと観察していると、やっぱり彼女は此処の人とは色々違う様な気がした。
小さな唇を優しく触ると、少しだけ反応した彼女に僕は少しだけ微笑んでしまう。昨日の土方さんの発言に頭に来て、新選組の為だと思うと腹が立つのに何も言えなかった。彼女が今までどんな経験をしていたか何て知らないけど、やっぱり少し心配をしてしまうのは一緒に時を過ごして来たからだろうか。
静かに瞼を開けた彼女と目が合った。
「…おはよう雪那ちゃん」
「……総司、そうか私が布団に入れたんだ」
目の前いっぱいに総司の顔があって、照れ隠しをしながら平然のフリをした。心臓がドキドキしていたけれど話で誤魔化そうと思い口を開いた
「…総司昨日可愛かったなぁ」
「僕が?何の事?」
「酔って廊下で私に口付けして、昔私を裸にした男を殺してやりたいってぎゅーぎゅー抱きしめて来てさ」
ケラケラと私が盛りに盛って嘘を吐きながらからかうように笑うと、期待していた反応は返ってこず
少し心配になって彼を見た。総司は呆然としたような顔で天井を見ていた。
「あのー、総司?」
そう言って私が彼の肩に触れた瞬間に彼は布団から起き上がると
「…口付けしたかも」
そう私の目を見て見ないで言った総司は珍しく顔が赤い。ふらりと立ち上がるとそのまま顔を洗って来ると言って部屋を出て行った。その姿を見てちょっとふざけすぎたかなと思ったが、悪戯に私を押し倒して来て猫の様に唇を舐めたのは事実。自業自得だなと一人で自己完結することにした。
その日はずっと土方さんと山南さんと近藤さんに潜入捜査の説明をされていた。近藤さんはずっと行かせる事を嫌がっているようで困った顔をしていた。
土方さんが説明する度に、本当にやるのか?危ないぞなどと口を挟むので早い時点で退場させられていた
「君が強いのは承知していますが、やはり恩人を危険な場所に送るのは気が引けますね。女性ですし」
「こいつの魂は女じゃねぇ。俺達に引けをとらねぇ武士だ。大丈夫だろ」
「武士じゃないですー。やっぱり怖いので土方さんも女装して一緒に来て下さい」
そう言って笑うと、戸の外からそれは良いですねと一際明るい総司の声がした。山南さんが珍しく小さく吹き出して土方さんが総司に怒鳴るとゆういつものパターンでその話し合いも終わった。
朝の事を特に気にしている様子も無い総司と2人で他愛も無い話をしながら夕食の準備をする為に廊下を歩いていると、ふと前を歩いていた彼が立ち止まり私を見つめてくる。どしたの?と聞くと私の右手をとり
彼の胸の前でぎゅっと握られる。
「…昨日は軽率でごめん。」
「…総司だからいいよ。」
「僕だからって何?」
総司だからいいよと言った瞬間に意地が悪い笑みを浮かべ出した彼をジトリと睨む様に見つめると嬉しそうに笑う。
「特別扱いしてくれてんの?」
「…ちょっとだけね。」
そう言って、手を払い先に行こうとした私の腕を掴んで引き寄せると優しく抱き締められて少しビックリした私は口を開けたまま彼を見た。
「…危なくなったら助けるから。僕を呼ぶんだよ」
「う、うん。」
君は女の子何だからと言った総司は直ぐに私から離れて台所の方に歩いて行った。初めてときめいてしまった私は呆然と彼の背中を見つめていた。
。