るろうに剣心 瀬田宗次郎
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「…そ、う…じろ…」
キツく抱き締められて息が苦しくなってきた私は彼の名前を呼んだ。抱いていた片手を離し、右頬を包まれて口付けをされる。まだ息が整っていなかった私はふっと声と共に息を吐き出した。それを無視するように舌を舐め上げられて恐怖からか自然に少しづつ顔を引っ込めてしまう。
宗次郎の胸を押していた両手がいつの間にか彼の片手で握られて顔の上に持っていかれるとそのままソファに倒れ込んだ。
「もうちょっと待ってあげたかったけど」
そう言ってから、小さな声でごめんね。と耳元で囁かれる。首筋に口付けをされると自分でも聞いた事が無いような声を出してしまい恥ずかしくて目をキュッと瞑った。
それから恥ずかしさや好奇心。色んな複雑な感情と彼の愛撫に戸惑いながらも私は只彼にしがみつく事しか出来ないでいた。
「痛い?」
「ちょっと」
「力抜いて、…少しだけ我慢して」
初めて感じた異物感と、痛み。そして何より衝撃だったのは宗次郎の表情だった。私の涙に口付けながら悲しいような顔をしていた。
「…宗次郎も、痛いの?」
「…えっ?いや、レイが痛そうだったので」
悪いなって…。そう言うと悲しそうに笑ってからいつもの表情に戻った。悪いな何て思うんだな。この人は本当は優しい人なんじゃないだろうかと感じてしまい目からまた違った涙が溢れてくる。そんなに痛いんですか?とちょっと焦った彼に平気だよとだけ返すと、彼は動くのをやめてそのまま抱き締めてくれた。
あのまま、裸のまま寝てしまった私は夜更けに一度目が覚めた。隣で同じく胸まで布団を掛けてはいるけれど裸の宗次郎が眠っていて。何だか少し、かったるさと下半身の痛みにどんよりした気分になった。
散らばっている服を集めてから湯浴みに向かう。痛いけれど少しだけ彼と近くなれたようで嬉しいような気持ちでいっぱいだった。
「おはよう御座います」
「おはよう…早いね」
朝起きると着替えが済んでいて、草鞋の紐を結び直す宗次郎にベッドの中から挨拶をする。仕事があるから昼までのんびりしてて下さい。と言われて頷くと彼は部屋を出て行った。仕事の内容は知らないけれど、何か頼まれ事だろうなとも思ったので私は私で顔を洗って動き易い服を着て身支度を済ませると宗次郎が戻るまで、のんびり馬の手入れをして待つ事にした。
あまり広いとはいえない馬小屋だが、藁も水も与えてくれているみたいで安心した。宿のおじさんから借りてきたブラシで毛並みを整えてあげていると何だか馬も喜んでいるように感じて一人で嬉しくなってしまう
そんな風に暇を潰していると思っていたよりもすぐに待ち人は現れた。
「ただいま」
「おかえり」
「部屋に居ないから、店主に聞いたらここだと言われたので」
「見てみて綺麗になったでしょ?」
こちらに向かってきた宗次郎に手入れをした部分を指さすと、ドヤっとした顔で彼の反応を待つ。しかし、まあ、うんと微妙な返事しか返ってこず。私はジトリとした目で頬を膨らました。
「いいもんね〜、ネリーは分かってくれるもんね」
「ネリーって誰ですか?」
「この子。女の子だからネリーにした。」
「名前付けたんですね、ネリーか。可愛いですね」
そう言ってネリーの首を撫でる宗次郎は穏やかな笑顔をしていた。
「そういえば、身体は大丈夫ですか?」
「…う、うん。ちょっと痛いけど」
「これから八つ橋でも買って町を見に行こうかと思ってるんですけど大丈夫ですか?」
「それくらいなら全然平気だよ」
何かあったら言って下さいと付け足されて、悪党の癖に過保護だな。と少し思ったけど繋いでくれた手が嬉しくて、そのまま私達は町に向かって歩き出した。
何軒も並ぶ小さな店に、色々な細工品や食べ物が並んでいて賑わっている。山育ちの私には初めて見るものが多く興味深々で目をキョロキョロさせてしまう。
ふと、目に留まってのは美しい水色の簪だった。値段もそんなに高く無い。いつもならこうゆう物はつけないけれど、由美さんが最近はアジトにいる時は着物を着せてくれるから持っていてもいいんじゃないかなと思い手に取ると、店主が声をかけてくる。
「それ、気に入りましたか?」
その店主の声に他を見ていた宗次郎がひょっこりと顔を出した。
「へぇ。簪ですか」
「お2人さん夫婦ですか?」
その言葉に私がギョッとすると、宗次郎はハイと言って清々しいまでの嘘をついて微笑んだ。若い夫婦ですね、羨ましいと言って笑った店主は良い物がありますよと言って何やらゴソゴソと見えない所から箱を取り出してきた。
「西洋では夫婦になる時にこの指輪とゆう物を交換するみたいなんですよ」
箱に入った2つの丸い細工品は飾りが何も付いていないけれど、とても美しい輝きを放っていた。
「あまり派手では無いけれど素敵ね」
「毎日ずっと付ける物ですからね。」
「そうなの?」
「外す時は別れる時だと聞きましたよ」
「そうゆうものなんだ。」
それを聞いて、箱に2つ並ぶ小さめの指輪の方を手に取ると、今まで話に入ってこなかった宗次郎が私から指輪をヒョイと取って、私の薬指にその指輪を嵌めてくれた。
「確か西洋ではお互いがお互いの指に嵌めるんじゃなかったかな?」
「よく知ってますね、その通りです」
「宗次郎良く知ってるね。」
「僕も聞いただけですけどね」
店主が嬉しそうに宗次郎にそう言ったので、私も箱の指輪を取って宗次郎の指に嵌めた。私はピッタリだったけど、宗次郎は少しだけ緩い気がしてちょっと笑ってしまう。
指輪を嵌めた手を物珍しそうに見る彼に、私も同じく自分の手に嵌められた指輪を見つめてしまう。
「お安くしますよ」
そう言われて、買うとか考えていなかった私はハッとして顔を上げると宗次郎が一度私をチラリと見てから、買いますと言って懐から銭が入った袋を取り出した。いくらですか?と聞いて、店主が言った値にビックリした私は思わず彼を止めたけど、持ってるから大丈夫ですよと言って店主にあの簪も下さいと言って私が見ていた水色の簪もまとめて買ってくれた。
随分と羽振りの良い旦那様ですね、と言われて。はぁとしか言えない私に店主は愛されてるんですね。とニヤニヤしながらだったが小声で言ってくれた。
そんな私達の話を全く聞かずに、あっちで食事にしましょうと宗次郎に手を引かれた私は、照れながらも店主に頭だけ下げて手を引かれるまま移動した。
日差し避けの傘の下にある木の長めの椅子に腰掛けた私達は、お握りと漬物で軽く食事をした。食後におだんごを頬張る宗次郎は口は動かしていても目だけは自分の指輪を眺めている様子だった。
「宗次郎、指輪ありがとう」
「…いえ、僕も何か嬉しいんで」
「そうなの?」
「何だか不思議な気持ちです」
そう言って笑った彼に、私もずっと大切にするからねと笑うと、外す時が来なければいいなぁ。と宗次郎は小声で言った。その声はガヤガヤと人々が賑わう声にかき消されていった。
食事を済ませた私達はそれから色んな店を周って、景色の美しい草原を散歩したり。途中広めの原っぱで夕方まで稽古をしたりしてクタクタになるまで動いた。
気付けばもう日は暮れていて、お腹が空いたと言う宗次郎と2人でまた町をブラブラしていると牛鍋屋の看板を見つけたのでそこに入る事にした。
店に入った瞬間に、入らなければ良かったと後悔してしまう。満員の店内に5人の巨大な男性が声を荒げながらお店のお姉さんの首元に刃物を突きつけていた。
宗次郎より先に入った私は、その場面を見て直ぐに腰に手を伸ばしたが手がスカッと空を切る。その瞬間に刀を置いて来てしまった事に気付いて一度一歩後退すると急に1番近くにいたその巨体の1人に思いっきり顔を殴られてから髪の毛を引っ張られて引きづられた。
キャアアアアと席から見ていた女性の悲鳴が店中に響き渡った。
頬が熱くてめちゃくちゃ痛い。ガードも出来なかった
「ほぉ、可愛い顔してんじゃねえか。顔は辞めた方が良かったな」
そう言った男は私の髪を掴み、思いっきり上に引っ張られるとカラカラと戸の開く音がした。直ぐにそちらを振り返るとそこには笑っていない宗次郎が立っていて。その瞬間に私の髪の痛みが無くなり、彼に腹を抱かれていた。
ボトリと鈍い音がして、男の腕が地面に落ちた。血飛沫が舞うと店内の客がそれを理解したかのように店に悲鳴が舞った。
「助かったよ、頬が凄い痛い」
「レイ、刀は?」
「広場に忘れて来た。本当油断してた」
そう言うと、下がっていて下さいと宗次郎は私の前に足を踏み出した。会ってから初めて彼から闘気を感じたかもしれない。
「おい、テメークソガキ」
手を落とされて、泣き喚く男を庇う様に残りの4人が額に血管が浮き出る程の怒りを表しながら宗次郎の前に立ち塞がった。
「この野郎、よくもやってくれたな」
「それはこちらの台詞ですよ。」
そう言ってから宗次郎が私の視界から消えた。いや見えなかったのかもしれない。気付けば4人は床に倒れていて、後ろにいた腕を無くした男の喉元に刀を突き刺していた。
シーンと静まり返る店内に、すみませんけど彼女の頬が腫れているので手拭いを濡らしてもらえますか?と言う宗次郎の声だけが響いた。
は、はいと焦ったように直ぐに私の元に濡れた手拭いを持って来てくれた女性が宗次郎に向き直って泣きながらお礼を言うと、シーンとしていた店内がパチパチと拍手に包まれた。
「お兄ちゃん若いのに凄いな」
「嫁さんを守ってカッコいいな」
手拭いを頬に当てながら、色んな人達に肩を組まれたりお礼を言われている宗次郎を見ていると悪党の中にいつもいるから分からなかったけど、見た目が見た目なだけに普通の青年に見えた。
その後直ぐに、指名手配犯をやってくれたお礼だと言って牛鍋をご馳走してもらっていると
またもや店がガヤガヤしてきた。そんな事よりも鍋が美味しくて私達が笑顔で無心で食事をしていると、ご馳走してくれた店の店主がこちらに誰かとやって来た。おかわりくれるのかな?と期待しながら宗次郎と2人で口の中をパンパンにしながら振り返ると、店主が強面のハンサムなお兄さんに、こちらの方が店の子を守り全員を鎮圧して下さった方ですと宗次郎を紹介している。その男は宗次郎を見た瞬間に目の色を変えた
「……瀬田…何をしてるんだ?」
「…ええっと、斉藤さんでしたっけ?」
「あれ?お知り合いなんですか?」
店主の言葉に、まぁ。とだけ言った斉藤は詳しい事情を聞くから店主は下がっていてくれと言って私達の席に座った。
「おい、どうゆう事だ?志士雄の犬は慈善活動もするのか?」
「食事をしに来たら連れを殴られたんで全員殺しました。それだけですよ」
それを聞いた斉藤とゆう男は私の腫れた頬を見てから
ふむ。とだけ言って黙った。
「この女は一般人か?」
「僕の家内です」
「情報に無かったな」
またしれっと嘘をつくなぁと思いながら知らないフリをしていると、斉藤さんは私と宗次郎の指輪を見て嘘では無いみたいだな。と言った。
「決戦は後のお楽しみなので今日は見逃してくれませんか?」
宗次郎がご馳走様でした。と言って立ち上がったので私もそれに続いて立ち上がる。
「店の奴らが凄い剣閣が助けてくれたと騒いでいたから見に来ただけだ。あの5人はお前らには敵わないが相当な悪人だからな。処刑してくれた事に免じて今日は見逃してやるよ」
女連れだしな。と言った斉藤さんはタバコに火を付ける。ありがとうと私がお礼を言うと、何とも複雑な顔で私を見ていた。
お腹がいっぱいで少し眠い。暗い夜道を2人でのんびりと宿まで歩いていると、ふと宗次郎が私の頬を撫でる。
「すみません、先に僕が入っていれば」
「もう痛く無いよ」そう嘘を付くと、彼は困ったように笑った。
「ねえ、そう言えばさ夜伽って意味は偽りのお嫁さんの事なの??」
「いえ、夜伽はそうゆう意味では無いですよ。」
「何でそんなに笑ってるの?」
「別に」
「えー全然分かんないよ。」
「じゃあ、偽りでは無く僕と一緒になりませんか?」
「…え??」
「嫌ですか?」
「う、ううん。私ずっと1人だったから。これからずっと宗次郎が側にいてくれたら嬉しい」
「今は僕もそう思ってます」
これから、ずっと僕が君を守りますから。そう言って宗次郎は私の手を握って笑った。私はその笑顔に産まれて来て初めて幸せだなって感じたのだった。
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キツく抱き締められて息が苦しくなってきた私は彼の名前を呼んだ。抱いていた片手を離し、右頬を包まれて口付けをされる。まだ息が整っていなかった私はふっと声と共に息を吐き出した。それを無視するように舌を舐め上げられて恐怖からか自然に少しづつ顔を引っ込めてしまう。
宗次郎の胸を押していた両手がいつの間にか彼の片手で握られて顔の上に持っていかれるとそのままソファに倒れ込んだ。
「もうちょっと待ってあげたかったけど」
そう言ってから、小さな声でごめんね。と耳元で囁かれる。首筋に口付けをされると自分でも聞いた事が無いような声を出してしまい恥ずかしくて目をキュッと瞑った。
それから恥ずかしさや好奇心。色んな複雑な感情と彼の愛撫に戸惑いながらも私は只彼にしがみつく事しか出来ないでいた。
「痛い?」
「ちょっと」
「力抜いて、…少しだけ我慢して」
初めて感じた異物感と、痛み。そして何より衝撃だったのは宗次郎の表情だった。私の涙に口付けながら悲しいような顔をしていた。
「…宗次郎も、痛いの?」
「…えっ?いや、レイが痛そうだったので」
悪いなって…。そう言うと悲しそうに笑ってからいつもの表情に戻った。悪いな何て思うんだな。この人は本当は優しい人なんじゃないだろうかと感じてしまい目からまた違った涙が溢れてくる。そんなに痛いんですか?とちょっと焦った彼に平気だよとだけ返すと、彼は動くのをやめてそのまま抱き締めてくれた。
あのまま、裸のまま寝てしまった私は夜更けに一度目が覚めた。隣で同じく胸まで布団を掛けてはいるけれど裸の宗次郎が眠っていて。何だか少し、かったるさと下半身の痛みにどんよりした気分になった。
散らばっている服を集めてから湯浴みに向かう。痛いけれど少しだけ彼と近くなれたようで嬉しいような気持ちでいっぱいだった。
「おはよう御座います」
「おはよう…早いね」
朝起きると着替えが済んでいて、草鞋の紐を結び直す宗次郎にベッドの中から挨拶をする。仕事があるから昼までのんびりしてて下さい。と言われて頷くと彼は部屋を出て行った。仕事の内容は知らないけれど、何か頼まれ事だろうなとも思ったので私は私で顔を洗って動き易い服を着て身支度を済ませると宗次郎が戻るまで、のんびり馬の手入れをして待つ事にした。
あまり広いとはいえない馬小屋だが、藁も水も与えてくれているみたいで安心した。宿のおじさんから借りてきたブラシで毛並みを整えてあげていると何だか馬も喜んでいるように感じて一人で嬉しくなってしまう
そんな風に暇を潰していると思っていたよりもすぐに待ち人は現れた。
「ただいま」
「おかえり」
「部屋に居ないから、店主に聞いたらここだと言われたので」
「見てみて綺麗になったでしょ?」
こちらに向かってきた宗次郎に手入れをした部分を指さすと、ドヤっとした顔で彼の反応を待つ。しかし、まあ、うんと微妙な返事しか返ってこず。私はジトリとした目で頬を膨らました。
「いいもんね〜、ネリーは分かってくれるもんね」
「ネリーって誰ですか?」
「この子。女の子だからネリーにした。」
「名前付けたんですね、ネリーか。可愛いですね」
そう言ってネリーの首を撫でる宗次郎は穏やかな笑顔をしていた。
「そういえば、身体は大丈夫ですか?」
「…う、うん。ちょっと痛いけど」
「これから八つ橋でも買って町を見に行こうかと思ってるんですけど大丈夫ですか?」
「それくらいなら全然平気だよ」
何かあったら言って下さいと付け足されて、悪党の癖に過保護だな。と少し思ったけど繋いでくれた手が嬉しくて、そのまま私達は町に向かって歩き出した。
何軒も並ぶ小さな店に、色々な細工品や食べ物が並んでいて賑わっている。山育ちの私には初めて見るものが多く興味深々で目をキョロキョロさせてしまう。
ふと、目に留まってのは美しい水色の簪だった。値段もそんなに高く無い。いつもならこうゆう物はつけないけれど、由美さんが最近はアジトにいる時は着物を着せてくれるから持っていてもいいんじゃないかなと思い手に取ると、店主が声をかけてくる。
「それ、気に入りましたか?」
その店主の声に他を見ていた宗次郎がひょっこりと顔を出した。
「へぇ。簪ですか」
「お2人さん夫婦ですか?」
その言葉に私がギョッとすると、宗次郎はハイと言って清々しいまでの嘘をついて微笑んだ。若い夫婦ですね、羨ましいと言って笑った店主は良い物がありますよと言って何やらゴソゴソと見えない所から箱を取り出してきた。
「西洋では夫婦になる時にこの指輪とゆう物を交換するみたいなんですよ」
箱に入った2つの丸い細工品は飾りが何も付いていないけれど、とても美しい輝きを放っていた。
「あまり派手では無いけれど素敵ね」
「毎日ずっと付ける物ですからね。」
「そうなの?」
「外す時は別れる時だと聞きましたよ」
「そうゆうものなんだ。」
それを聞いて、箱に2つ並ぶ小さめの指輪の方を手に取ると、今まで話に入ってこなかった宗次郎が私から指輪をヒョイと取って、私の薬指にその指輪を嵌めてくれた。
「確か西洋ではお互いがお互いの指に嵌めるんじゃなかったかな?」
「よく知ってますね、その通りです」
「宗次郎良く知ってるね。」
「僕も聞いただけですけどね」
店主が嬉しそうに宗次郎にそう言ったので、私も箱の指輪を取って宗次郎の指に嵌めた。私はピッタリだったけど、宗次郎は少しだけ緩い気がしてちょっと笑ってしまう。
指輪を嵌めた手を物珍しそうに見る彼に、私も同じく自分の手に嵌められた指輪を見つめてしまう。
「お安くしますよ」
そう言われて、買うとか考えていなかった私はハッとして顔を上げると宗次郎が一度私をチラリと見てから、買いますと言って懐から銭が入った袋を取り出した。いくらですか?と聞いて、店主が言った値にビックリした私は思わず彼を止めたけど、持ってるから大丈夫ですよと言って店主にあの簪も下さいと言って私が見ていた水色の簪もまとめて買ってくれた。
随分と羽振りの良い旦那様ですね、と言われて。はぁとしか言えない私に店主は愛されてるんですね。とニヤニヤしながらだったが小声で言ってくれた。
そんな私達の話を全く聞かずに、あっちで食事にしましょうと宗次郎に手を引かれた私は、照れながらも店主に頭だけ下げて手を引かれるまま移動した。
日差し避けの傘の下にある木の長めの椅子に腰掛けた私達は、お握りと漬物で軽く食事をした。食後におだんごを頬張る宗次郎は口は動かしていても目だけは自分の指輪を眺めている様子だった。
「宗次郎、指輪ありがとう」
「…いえ、僕も何か嬉しいんで」
「そうなの?」
「何だか不思議な気持ちです」
そう言って笑った彼に、私もずっと大切にするからねと笑うと、外す時が来なければいいなぁ。と宗次郎は小声で言った。その声はガヤガヤと人々が賑わう声にかき消されていった。
食事を済ませた私達はそれから色んな店を周って、景色の美しい草原を散歩したり。途中広めの原っぱで夕方まで稽古をしたりしてクタクタになるまで動いた。
気付けばもう日は暮れていて、お腹が空いたと言う宗次郎と2人でまた町をブラブラしていると牛鍋屋の看板を見つけたのでそこに入る事にした。
店に入った瞬間に、入らなければ良かったと後悔してしまう。満員の店内に5人の巨大な男性が声を荒げながらお店のお姉さんの首元に刃物を突きつけていた。
宗次郎より先に入った私は、その場面を見て直ぐに腰に手を伸ばしたが手がスカッと空を切る。その瞬間に刀を置いて来てしまった事に気付いて一度一歩後退すると急に1番近くにいたその巨体の1人に思いっきり顔を殴られてから髪の毛を引っ張られて引きづられた。
キャアアアアと席から見ていた女性の悲鳴が店中に響き渡った。
頬が熱くてめちゃくちゃ痛い。ガードも出来なかった
「ほぉ、可愛い顔してんじゃねえか。顔は辞めた方が良かったな」
そう言った男は私の髪を掴み、思いっきり上に引っ張られるとカラカラと戸の開く音がした。直ぐにそちらを振り返るとそこには笑っていない宗次郎が立っていて。その瞬間に私の髪の痛みが無くなり、彼に腹を抱かれていた。
ボトリと鈍い音がして、男の腕が地面に落ちた。血飛沫が舞うと店内の客がそれを理解したかのように店に悲鳴が舞った。
「助かったよ、頬が凄い痛い」
「レイ、刀は?」
「広場に忘れて来た。本当油断してた」
そう言うと、下がっていて下さいと宗次郎は私の前に足を踏み出した。会ってから初めて彼から闘気を感じたかもしれない。
「おい、テメークソガキ」
手を落とされて、泣き喚く男を庇う様に残りの4人が額に血管が浮き出る程の怒りを表しながら宗次郎の前に立ち塞がった。
「この野郎、よくもやってくれたな」
「それはこちらの台詞ですよ。」
そう言ってから宗次郎が私の視界から消えた。いや見えなかったのかもしれない。気付けば4人は床に倒れていて、後ろにいた腕を無くした男の喉元に刀を突き刺していた。
シーンと静まり返る店内に、すみませんけど彼女の頬が腫れているので手拭いを濡らしてもらえますか?と言う宗次郎の声だけが響いた。
は、はいと焦ったように直ぐに私の元に濡れた手拭いを持って来てくれた女性が宗次郎に向き直って泣きながらお礼を言うと、シーンとしていた店内がパチパチと拍手に包まれた。
「お兄ちゃん若いのに凄いな」
「嫁さんを守ってカッコいいな」
手拭いを頬に当てながら、色んな人達に肩を組まれたりお礼を言われている宗次郎を見ていると悪党の中にいつもいるから分からなかったけど、見た目が見た目なだけに普通の青年に見えた。
その後直ぐに、指名手配犯をやってくれたお礼だと言って牛鍋をご馳走してもらっていると
またもや店がガヤガヤしてきた。そんな事よりも鍋が美味しくて私達が笑顔で無心で食事をしていると、ご馳走してくれた店の店主がこちらに誰かとやって来た。おかわりくれるのかな?と期待しながら宗次郎と2人で口の中をパンパンにしながら振り返ると、店主が強面のハンサムなお兄さんに、こちらの方が店の子を守り全員を鎮圧して下さった方ですと宗次郎を紹介している。その男は宗次郎を見た瞬間に目の色を変えた
「……瀬田…何をしてるんだ?」
「…ええっと、斉藤さんでしたっけ?」
「あれ?お知り合いなんですか?」
店主の言葉に、まぁ。とだけ言った斉藤は詳しい事情を聞くから店主は下がっていてくれと言って私達の席に座った。
「おい、どうゆう事だ?志士雄の犬は慈善活動もするのか?」
「食事をしに来たら連れを殴られたんで全員殺しました。それだけですよ」
それを聞いた斉藤とゆう男は私の腫れた頬を見てから
ふむ。とだけ言って黙った。
「この女は一般人か?」
「僕の家内です」
「情報に無かったな」
またしれっと嘘をつくなぁと思いながら知らないフリをしていると、斉藤さんは私と宗次郎の指輪を見て嘘では無いみたいだな。と言った。
「決戦は後のお楽しみなので今日は見逃してくれませんか?」
宗次郎がご馳走様でした。と言って立ち上がったので私もそれに続いて立ち上がる。
「店の奴らが凄い剣閣が助けてくれたと騒いでいたから見に来ただけだ。あの5人はお前らには敵わないが相当な悪人だからな。処刑してくれた事に免じて今日は見逃してやるよ」
女連れだしな。と言った斉藤さんはタバコに火を付ける。ありがとうと私がお礼を言うと、何とも複雑な顔で私を見ていた。
お腹がいっぱいで少し眠い。暗い夜道を2人でのんびりと宿まで歩いていると、ふと宗次郎が私の頬を撫でる。
「すみません、先に僕が入っていれば」
「もう痛く無いよ」そう嘘を付くと、彼は困ったように笑った。
「ねえ、そう言えばさ夜伽って意味は偽りのお嫁さんの事なの??」
「いえ、夜伽はそうゆう意味では無いですよ。」
「何でそんなに笑ってるの?」
「別に」
「えー全然分かんないよ。」
「じゃあ、偽りでは無く僕と一緒になりませんか?」
「…え??」
「嫌ですか?」
「う、ううん。私ずっと1人だったから。これからずっと宗次郎が側にいてくれたら嬉しい」
「今は僕もそう思ってます」
これから、ずっと僕が君を守りますから。そう言って宗次郎は私の手を握って笑った。私はその笑顔に産まれて来て初めて幸せだなって感じたのだった。
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