暖かい日の光が眩しくて目が覚めた。何だか体や頭がシャキッとしている感じがして清々しい
横で寝ている悟の銀色の髪にも日が差してキラキラと光り睫毛まで透き通る様な美しさに、思わず手が伸びて彼の頬を優しく撫でた
珍しく起きない彼に静かで可愛いなぁ何て思う

欠伸をしながらリビングで珈琲を淹れていると、カーテンが風に揺れてチラリと見るとそこから黒い影の様な物がこちらを見ていた。
少しビクッとしたが、目を凝らして見てみるとどうやら女性の様に見えた。何だか彼女が何か言っているように思えてゆっくりと影に近寄った

影は何も言わずに私を見つめている。髪の間から見える目が優しい目をしている事に気付いて私が首を傾げると、その瞬間に影はパァンと物凄い音を立てて弾け飛んだ

「近寄っちゃ駄目だよ〜」
「…起きたんだ……今のあれ、何？？」
「…お前は知らなくて良い。今完全に消せたからもう大丈夫。ささ、朝ごはん食べたら仕事に行こう。今日からレイも連れて行くからさ」
「…仕事？復帰していいの？」
「俺の監視が必要だけどね。…行きたく無い？」
「ううん。行く。たまには体動かしたいし」

そんな話をしてから支度をして直ぐに2人で現場に向かう。レイの活躍は僕の予想を超えていた。昔ながらの身体能力に加えて念治療、プラス最初に教えておいたこちらの世界の呪術師としての力も上手く使えている

盗賊の様な思考回路も無くなり、その分此処の世界の人間を守り力を正しく使うとゆう僕の操作も上手くいった様だ

彼女が笑う度に虚しくなり、彼女がボンヤリと考え事をしているだけで内情なんて分からないのに嫌な罪悪感で心が埋まった。そんな時に僕は苦しい顔をしてたのだろうか…レイは何も知らないのにひたすら僕の胸に擦り寄り口付けをしてくれた
それは何より幸福で残酷だと初めて分かって、その勢いのまま誰かに聞いて欲しくて携帯の履歴から入家の番号を探して直ぐに携帯を閉じた。

右手に絡みつく呪霊に、今は本気で構ってはいられないんだと小さく呟くと捻り潰す様に消滅させた

何度体を交えても距離感が縮まらないと思うのは罪悪感がある自分だけか…。レイから口付けをしてくれるようになっただけで距離なんてもう無いのに
嘘なんてバレなければ嘘にもならないし、自分で決めた事だ

最後の呪霊を倒したのか、レイはすこぶる元気そうにこちらに手を振り終わったよーと笑った

そのまま2人でプラプラと街を歩いていると、彼女が珍しく立ち止まり静かに凝視していたのは髪留めとネックレスなどのアクセサリーコーナーだった

「欲しいの？全部買ってあげるよ」
「全部はいらないよ、この髪留めが欲しい。私って給料一応あるよね？」
「給料は出てるよ、大丈夫。1個でいいの？ネックレスとか指輪は？」
「…うーん。戦闘時に邪魔になるからネックレスはいらないかな、ブレスレット何かも弾け飛ぶし」
「指輪ならいいんじゃない？」
「これはちょっと趣味じゃ無いかな…」

980円のタグが付いたおもちゃの様な指輪を手に取って少し眺める。
それを元あった場所に戻し、どうせ買ってもらうならもっと素敵なのがいいかな。まぁ、贅沢か。と小さく笑った。
ニコニコしている僕に首を傾げたレイは何？？と服を引っ張ってくる

ポケットから、サラッと取り出した二つの指輪を見せて彼女がビックリした顔を見て満足した僕はそっと手を取り左手の薬指に差し込んだ

「良かったら結婚してもらえますかー？」
「……ふふっ、もう。こんな時までおちゃらけるのね。…貴方とならいいですよー」
「……本当に？」
「さ、さとるが言ったのに何でそんな顔するの！？…ああ、泣かないで…」

気付けば涙が1粒だけ目からこぼれ落ち、床を濡らした。それが自身で少し衝撃だった。心配したのか僕の背を撫でながら顔を寄せて来る彼女に嬉し泣きだよと笑う
変な人と笑った彼女は僕の手から指輪を取り左手の薬指に嵌めてくれた。

髪留めを買うと、全部聞いていた店員に笑顔でおめでとうと言って貰い夕飯をデパートの地下で買ってから自宅に帰宅した。帰るまでの道中、レイよりも僕の方が少し浮かれていて始終嬉しそうだったと思う

彼女が嬉しそうにキッチンで先程買って来たマリネやサラダ、チキンにワインなどを袋から開けお皿に盛り付けている姿が可愛らしい
さっき雑貨屋にあった黒いフリルの付いたエプロンを買っておくべきだったと思い少しだけ後悔した

これから僕が報告すればレイにも仕事が山程来るだろう。良い成績を収めていればその内僕と離されて別々の仕事になる。
意外に人手不足な上に忙しいのが呪術師だ。

彼女の事をジジイは多分殺したがっているし、単独になったらなったで潰しにかかってくるかもしれない。僕と結婚しているからといって、そんな理由もきっと足蹴りされるだろう

「どぉーしよっかなぁ〜」
「なぁに？？何か悩み？？」
「うん、レイが可愛すぎて今直ぐ抱きたいなって」

キッチンでくるくる動く彼女を後ろから抱き締めてグリグリと顔を頭に押し付ける
邪魔だなぁと辛口だけど、顔は嬉しそうで。思わずスカートに手を入れると拳骨されたので大人しく座って食事を待つ事にした


手を洗った後、盛り付けている時、冷蔵庫を閉める時も彼女の目線は指輪を眺めていた。
その顔を見ているだけで何だかこれから先もずっと頑張れる様な気がして世の中の既婚男性の気持ちがほんの少しだけ分かった様な気がした。

手を少しかかげて指輪を眺め見入っていると、そんな僕の様子を見ていたレイは私と一緒〜と言って嬉しそうに笑っていた