るろうに剣心 瀬田宗次郎
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力が欲しいと初めて思ったのは12歳の時だった気がする。親がいなかった私は食べる物が欲しくて、ちょっとした出来心で盗みを働いた。
その報復として、唯一可愛がってくれていた1人きりしかいない肉親のおばあちゃんを目の前で痛ぶられて殺された時に、ハッキリと内側に憎悪を感じた。こいつらを八つ裂きにするには力と技術が必要だなと冷静に分析したのを覚えている。
あれから6年が経って、私は当時のままの信念のみで生きていた。師匠なんて居なかったから独学だけど何年も何年も力と剣術のみを磨いて生きてきた
何人と殺し合いをしたのかすら、もう覚えていない。
仲間が欲しいと思った事もあったけど、おばあちゃんも思い出す度に1人の方が良いのかもしれないとその気持ちを閉ざしてしまっていたのかもしれない
ふらりと寄った、そんなに大きく無い村
温泉が有名な村だと聞いていたが、思ったよりも賑わっていて。村人達の笑顔に気が抜けたのか露店で食べ物を買い草原に寝転んだ。
輝く星空を見ながら人々の話し声や笑い声を聞きながら食事をしていた。腹が膨れるとお楽しみだった温泉に入る事にして私は腰を上げた
夜だったからか、湯を浴びる客はほんの数人で。2歳くらいだろうか。小さな子供を抱いてあやしながら湯を浴びる女性の隣に腰を下ろすと目を閉じて湯の温かさを感じる
極楽だなぁ。何て思ったのは久しぶりだなと実感していると、急に外の方からけたたましい悲鳴が上がった。隣にいた女性が私の方を見て、今のって何かあったんでしょうか?と少し顔を青くして聞いてくる
それに続く様に悲鳴がまた上がり、ザワザワとしていた温泉内は走り去る客でパニックになっていた
「貴女も出た方がいいんじゃないですか?」
「そうですね、ありがとうございます」
子供を抱き直して立ち上がった女性と共に脱衣所で着替えをしていると、外から入って来たのは変わった服を着て顔が見えない被り物をしている男だった。
「早く出ろ」
「ここは女湯だけど」
「言う事を聞け。殺されたくないならな」
そう言って刃物を出してきた男に、女性がひぃと小さく悲鳴を上げてから、子供に見せない様に服で目を覆う。その瞬間に子供が泣き始めて当たりに泣き声が響く。その声をウザったく感じたのか、男は一度舌打ちをすると小刀で子供を刺そうと手を振り上げた。
そして、その男の首が胴体から離れて床に転がった
「…ここは危ないので裏口から出ましょう。」
刀の血を飛ばしてから鞘に収めると、何とも複雑な表情で私を見てから一度うなづいた。
女湯を出て、食堂に入るとさっきの男と同じような服装の男性が4人。何かをする訳でも無く只全員立って窓から外を見ている
咄嗟に女性にギュッと手を握られて、その手には汗が滲んでいた。手を握らせるなんていつぶりだろうと思いつつ、彼女は怖いんだなと思った。
そんな感情は私はどこかにいってしまったからだ。
女性に台所の中に隠れているように言うと、子供が泣き出さないようにあやしながらゆっくり移動した。
早々と片付けてサッサとここから出ようと思い、鞘に入れた刀を抜いた。
苦しまないように全員すぐに死ねるように急所を狙う
床を蹴りまずは1人首をはねる、えっ?と隣の男が呟いた瞬間にその男の心臓を突き刺した。
すぐに応戦してきた1人の刀を受け流してから股間を思いきり蹴り飛ばす。そして、もう1人の男の首を刎ねようと刀を振りかぶった瞬間。キィンとゆう音と共に刀が跳ね返されて私は咄嗟に身を引いた。
「せ、瀬田様」
「無様ですねぇ。」
特にお前。と股間を押さえてもだえている男に目を向ける。瀬田様と呼ばれた男は一度死んでいる2人を見てから嬉しそうにこちらを見て微笑んできた。
「こんばんは、お姉さん。」
「…こんばんは」
「貴女はどうして彼等を殺したんですか?」
「さっき女湯に入ってこられて、覗かれてから殺されそうになったからだよ。そいつと同じ服装だから仲間だと思った。」
「それは…まあ。普通怒りますね」
「随分嬉しそうだけど」
「元からこうゆう顔なんです」
「もう行っていい?」
「つれないなぁ。ちょっと手合わせしませんか?」
「遠慮する。」
「じゃあ、台所に隠れてる人から殺しちゃいましょうか?」
そう言って笑った彼に、こちらはもう何も言えずに了承するしか無かった。
「じゃあ手合わせはするから5分待って」
「…逃がすんですか?まぁ。いいですよ」
その言葉を聞いて、台所に向かう私に彼も何故か後ろをついてくる。
「出てきていいよ」
台所で小さく丸まっていた女性と子供に声をかけると2人は少し涙目になりながら立ち上がった。子供の方は瀬田と呼ばれていた男がニコリとしてあやすような仕草をすると、少しだけ安心したように笑った。
台所の裏にある出口から2人を逃そうとすると、貴女は?と彼女は悲痛な表情で私の手をまた握った。
その汗ばんだ手に大丈夫です。とだけ言って早く逃げてと背を押した。
2人が遠くなるまで見守っていると、斜め後ろから耳元でもういいですか?と囁かれて、刀を握り直して彼の方を向いた。私より少し背が高い彼は近くで見ると思ったより柔らかい顔をしていて毒気が抜かれるように感じてしまう。
「あの2人、友人ですか?」
「ううん、さっき女湯で隣にいただけ」
「どうしてそこまでして助けるんですか?」
「助けて貰いたかった時に助けてもらえなかったからかな。重ねてるだけかも。」
そう言った私に瀬田は一度無表情になってぼんやりと何かを考えているようだった。
「瀬田様!」
「今度は何ですか?」
食堂の入り口から入ってきた彼の部下らしき男が彼の名前を呼ぶと、ハッと我に返ってから少々面倒臭そうに返事をした。
「志士雄様がお呼びです」
「分かりました」
さあ、行きましょうと私の手をにこやかにとった彼に首を傾げると
ちょっと付いてきて下さいと言って私の手を引いた
彼の速さでは逃げきれないと分かっていた私は諦めて彼に従う事にした。
連れてこられたのは男湯で。嫌な顔をしている私の表情を見て楽しそうな瀬田は一度挨拶をしてから扉をあけた。
中に居た男の異様な姿に少しだけビックリしたが、強そうだなと少しだけ見惚れてしまった。
隣にいる美しい女性が、宗ちゃんが女の子連れてきたと嬉しそうにしている事が非常に気になった。
「宗次郎、全部済んだか?」
「はい。少し時間かかっちゃいましたけど。それと制圧時に5人程死んじゃいました。3人はこの人が殺してました」
ね、と私に微笑んできた彼に何と言えばいいのか分からずに黙っていると志士雄と呼ばれた男はどうして殺したんだ?と尋ねてきたので、覗かれたのでと言うと火傷の男は大笑いをしていた。
本当は2人は別に覗いてないんだけど。とちょっと思ったけど黙っておく事にした
「女湯は今誰もいねぇ。良かったら2人で入ってこいよ。宗次郎が女連れてくる何て初めてだからな。」
「えっ?何で??」
「分かりました、有り難く入らせて貰いますね」
えっ、ちょっとと言った私の手を掴んでまた強引にスタスタと歩く彼は女湯の中まで来ると、スッと手を離してくれた。
「そういえば、名前聞いてないですよね。僕は瀬田宗次郎です」
「…レイ」
「へぇ。綺麗な名前ですね」
「…ど、どうも。それより瀬田くん。手合わせするならして私帰りたいんだけど。」
「帰しませんよ。」
「はっ??何で?」
「貴女は僕の夜伽にしようかなって思ってるので。言う事聞かないなら足の骨折ってでも連れて行きます」
「夜伽って何?稽古の相手とか?」
「…意外に世間知らずなんですね」
「私は、山育ちで1人で居たから都会の事は知らないんだよね。」
「……何だか調子狂うな」
そう言った瀬田は少し笑うと、せっかくだから温泉入りましょうと言ってきた。何でお前と入るんだよと思ったけど、さっきゆっくり浸かれなかった事を思い出して服を着たままなら一緒に入ってもいいよと言うと、その辺に落ちていた逃げて行った人達の肌着の着物を私に渡してくる。
彼が着替えようとしていたので、見えないように反対に回りその着物に袖を通すとささっと温泉に入った。
さっきは気づかなかったけど、湯気であまり視界が良く無いのでホッとした。瀬田も気を遣ってくれたのか、下にはしっかりと下着の上に長めのタオルを巻いていた。
さっきの入浴の時に髪や身体を洗っていた私は、少しだけ血生臭くなってしまった身体を湯で流すだけでいいやと思い適当に血の付いた箇所を擦って洗い流していた。隣であんまり泡だたないなと言いながら瀬田は石鹸で髪を洗っていた。
暇なのでその様子を観察していると、目に石鹸が入って痛そうにしている彼の横顔に内心笑いながら近づいて石鹸を彼の手から取ると湯で石鹸をよく泡立ててから髪に両手を入れてマッサージするように地肌から洗ってゆく。
「上手ですね、やっぱり女の子は器用だなぁ」
「あんたまだ若いのに何でそんなおっさんみたいな事言ってんの」
「おっさんですかね?そう言えばレイは何歳何ですか?」
「18だよ。瀬田は?」
「宗次郎でいいですよ。年はもうすぐ17ですね。」
自分もそうかもしれないけれど、まだあどけなさが残る幼い顔に年下だったのかと納得がいった。
良く泡立てて洗っていると、髪の毛から徐々に汚れが取れてきて、綺麗に艶が出てくるのを確認してから湯で髪を流した。
それからゆっくりとお湯に浸かって、色々彼等の事を聞かせてもらった。志士雄さんの側近をやっている事や、その仕事の内容なども宗次郎は話してくれた。正直極悪人だなぁとも思ったけれど、あのお姉さんの話や志士雄さんや他の人達が政府の連中からされた話を聞くと徐々に私も何も言えなくなった。
「宗次郎は志士雄さんて人とずっと居たんだ。」
「もう長い事ずっとですね」
「その前は?家族はいなかったの?」
「居たんですけど、殺されそうになったので殺しちゃいました」
そう言った彼を静かに見つめるしかない私に、宗次郎は薄く笑って別に平気ですよ。と言った。
1人で生きてきた私はこうゆう時どうしていいか分からなかったけれど、悲しい時はおばあちゃんが抱き締めてくれた事を何だか急に思い出して彼の肩を優しく抱いた。
ピクリと、彼は動かなくなったので嫌だったかな?と思いゴメンと謝ってからすぐに手を離した。
「…そろそろ出ましょうか?」
「あ、うん」
少しだけ不自然に笑った彼に、私も頷いてから湯から上がった。身体を拭いて着替えを済ませると食事を準備させてあるので行きましょうと言われ頷く。
手を引かれながら、隙があったら逃げるべきなのではとも考えたけれど志士雄って人が闘う姿を少し見たいなとも思っていたので、足を折られるくらいなら宗次郎にまだ付き合ってもいいかなと軽い気持ちで足を進める事にした。
薄暗い廊下を歩いていると、さっきの黒づくめの服装の男達が何人も1つの部屋の前で警備にあたっているのが見えた。彼等は宗次郎が目に入るとお辞儀をしてから部屋の戸を開けた。
その部屋はかなり広い造りになっていて、テーブルの上には豪華な食事が並んでいた。志士雄と女性は既に座って、女性はお酌をしている。
「おう、帰ったか。宗次郎」
「はい、良い湯加減でした。」
「宗ちゃん、彼女名前は?」
「ああ、さっき言ってませんでしたね。レイです」
「せっかくだから少し髪を梳かしましょう」
「じゃあ、由美さんお願いします」
由美さんとゆう女性に付いてきてと言われ、隣の部屋に移動するとそこには美しい着物や装飾品、化粧道具などが置かれていた。
「わぁ、綺麗ですね」
「ふふふ、興味はあるの?」
「お洒落は無縁だったけど、興味はあります。」
「女は綺麗でいなくちゃね」
レイは青が似合うんじゃないかしら?宗ちゃんとお揃いね。そう言って笑った由美さんからは何だかとても良い香りがした。正座した私の髪を梳かし、綺麗にまとめ上げてくれている姿を鏡で見ていると、ちょっぴり嬉しい気持ちになった。
化粧もした事が無くて、気恥ずかしかったけれど黙って彼女の言う通りに目をつむり、くすぐったさに耐えていた。美しい青い着物に袖を通してから鏡で化粧をしてもらった姿を見せて貰うと。何だか自分じゃないようで目をパチクリさせてしまう。
「何て可愛いんでしょう」
「由美さんの腕が良いんだと思いますよ」
「何言ってんの!そういえば紅を最後に塗らないと。あっちに置いてきたからちょっと待っててね」
そう言って部屋を出て行った由美さんの指示通り、座って待つ事にした。
そう言えば、名前も知らぬ彼女を台所から逃がしてからまだそんなに時は経っていない。彼女は逃げ切れただろうかとそんな事を考えていると、部屋の戸が開いた。
「誰だお前」
「……」
見上げるような巨体の大男は部屋に入ると私を睨みつける。誰だと言われても名前を名乗っても向こうが知っている訳では無いだろうし。そう思った私は何も喋らなかった。それがいけなかったのだろうか。その男が私の横に置いてある刀を見た瞬間に小さな斧を投げつけてきて。
とっさに刀をとり避けると、それと同時に上から拳が振り下ろされる。鞘で拳を受け流しつつ刀で足を浅めに切り付けると何ともデカイ声で大男は叫んだ。
ギャアアアと言う悲鳴に私まで少しビックリしたけれど、今のうちに少し距離をとろうと戸の近くまで離れると後ろから気配がして刀を向ける。
そこには志士雄と呼ばれていた男が立っていた。
「ほぉ。綺麗になったじゃねぇか。見違えたな」
「…どうも。」
ニヤリと笑った志士雄さんに、私はペコリと頭を下げると、志士雄さんは大男に目を向けた。
「おい、やられてんじゃねーぞ」
「す、すみません。」
倒れた身体を必死に起こす男は、志士雄さんを見て少し震えているように感じた。
「こっちに」
宗次郎の声がして、スッと右腕を引かれて部屋の外に連れていかれる。中からまた男の叫び声が聞こえてきて、思わずあれ大丈夫?と宗次郎に聞くとお仕置きですね。と返ってきて、思わずげぇと言ってしまった。
「それよりも。綺麗です、凄く」
「…恥ずかしいから言わなくていいよ」
そう言って宗次郎から目を逸らすと、彼はふふっと笑った。結局それから志士雄さんがお仕置きに力を入れすぎたのか戻って来ず。私と由美さんと宗次郎の3人で食事をとる事になった。あの変な被り物をした男性達が作ったと聞いていたから恐る恐る食べたけど、意外に凄く美味しくて気付けば一通り私が食べてしまっていた。
なんだかんだ由美さんの志士雄さん話に聞き入っていると夜もふけてきて、私がついあくびをしてしまうと由美さんがそれを見て部屋を用意すると言ってくれた。
「宗ちゃんの隣の部屋にするから、また変な奴に絡まれたらすぐ言うのよ」
変な奴とはさっきの大男の事だろうか。
「由美さん、では僕達は失礼しますね」
「宗ちゃん、女の子には優しくするのよ。貴方なら無理はさせないだろうけど」
「充分、分かってますよ」
その会話に無理って何だろうと思ったけれど、私は由美さんに挨拶をしてから宗次郎と一緒に部屋を出た。
奥の廊下を進むと、部屋が4つあって。そこの1つに入った宗次郎は蝋燭に火を灯してから私を呼んだ。
「わあ、綺麗」
「1番良い客室にしてもらいました。」
「こんな綺麗な洋風の部屋初めて見た。」
「こんなんで喜んでくれるならいくらでも用意しますよ」
「ねぇ。何でこんなに良くしてくれるの?」
裏があるのか。少しだけ不安になった私はベッドに腰掛けてから窓辺から外を見つめる彼に問いかける。
「そうですね、強いて言えば」
そう言いながら私の目の前に立って宗次郎はゆっくりと手を私の髪に触れてから髪留めを抜いた。
サラリと長い髪がゆっくりと重力に従って落ちてゆく
彼の横顔が月明かりに照らされて綺麗だなと思った瞬間に唇が唇に触れた。
目を見開いた私はそのまま硬直してしまい、目を瞑っている彼の長いまつ毛を見つめる
我に返って、彼の身体を押してもビクともせずに少しだけ怖くなってくる。唇から舌が入れられてくる感触に耐えながら少しだけ震えてしまう手をギュっと握ると、彼の体重がのしかかってきて組み敷かれてしまう
「そ、宗次郎」
唇を離した彼と目が合って、私が口を開くと頬に一度ゆっくり口づけされてから彼はゴロンと私の横に寝転がった。
「…怖かったですか?僕の事」
「う、うん。初めてしたからビックリした。」
「今日はもうしませんよ。」
「今日はって何??」
「もう少し時間をかけます。」
そう言ってから、私のどきまぎした顔を見て宗次郎は楽しそうに笑ってから大きく伸びをした。
その姿を見てホッとした私は動きにくいこの着物のまま寝たくないなぁと思い、辺りを見渡したけれど生憎着替え何かは置いていなかった。
「ねぇ、着物脱ぎたいんだけど」
「時間かけなくていいんですか?」
「違うよ、寝にくいの」
「ああ、じゃあ上の着物だけ脱いだらいいんじゃないですか?」
そう言って目を閉じた彼に、ここで寝るの?と思いつつも言われた通りに青い着物だけ脱いでからシワにならないように掛けておく。
少し肌寒いので、彼に背を向けて隣に横になると布団を掛けてから丸まった。身体が温まってきて眠気でウトウトとしてくると優しく後ろから抱き締められるような感覚があったけれど、今日はもう色々な事があって、起きたく無かった私はそのまま彼の体温を感じながら眠りについた。
。
その報復として、唯一可愛がってくれていた1人きりしかいない肉親のおばあちゃんを目の前で痛ぶられて殺された時に、ハッキリと内側に憎悪を感じた。こいつらを八つ裂きにするには力と技術が必要だなと冷静に分析したのを覚えている。
あれから6年が経って、私は当時のままの信念のみで生きていた。師匠なんて居なかったから独学だけど何年も何年も力と剣術のみを磨いて生きてきた
何人と殺し合いをしたのかすら、もう覚えていない。
仲間が欲しいと思った事もあったけど、おばあちゃんも思い出す度に1人の方が良いのかもしれないとその気持ちを閉ざしてしまっていたのかもしれない
ふらりと寄った、そんなに大きく無い村
温泉が有名な村だと聞いていたが、思ったよりも賑わっていて。村人達の笑顔に気が抜けたのか露店で食べ物を買い草原に寝転んだ。
輝く星空を見ながら人々の話し声や笑い声を聞きながら食事をしていた。腹が膨れるとお楽しみだった温泉に入る事にして私は腰を上げた
夜だったからか、湯を浴びる客はほんの数人で。2歳くらいだろうか。小さな子供を抱いてあやしながら湯を浴びる女性の隣に腰を下ろすと目を閉じて湯の温かさを感じる
極楽だなぁ。何て思ったのは久しぶりだなと実感していると、急に外の方からけたたましい悲鳴が上がった。隣にいた女性が私の方を見て、今のって何かあったんでしょうか?と少し顔を青くして聞いてくる
それに続く様に悲鳴がまた上がり、ザワザワとしていた温泉内は走り去る客でパニックになっていた
「貴女も出た方がいいんじゃないですか?」
「そうですね、ありがとうございます」
子供を抱き直して立ち上がった女性と共に脱衣所で着替えをしていると、外から入って来たのは変わった服を着て顔が見えない被り物をしている男だった。
「早く出ろ」
「ここは女湯だけど」
「言う事を聞け。殺されたくないならな」
そう言って刃物を出してきた男に、女性がひぃと小さく悲鳴を上げてから、子供に見せない様に服で目を覆う。その瞬間に子供が泣き始めて当たりに泣き声が響く。その声をウザったく感じたのか、男は一度舌打ちをすると小刀で子供を刺そうと手を振り上げた。
そして、その男の首が胴体から離れて床に転がった
「…ここは危ないので裏口から出ましょう。」
刀の血を飛ばしてから鞘に収めると、何とも複雑な表情で私を見てから一度うなづいた。
女湯を出て、食堂に入るとさっきの男と同じような服装の男性が4人。何かをする訳でも無く只全員立って窓から外を見ている
咄嗟に女性にギュッと手を握られて、その手には汗が滲んでいた。手を握らせるなんていつぶりだろうと思いつつ、彼女は怖いんだなと思った。
そんな感情は私はどこかにいってしまったからだ。
女性に台所の中に隠れているように言うと、子供が泣き出さないようにあやしながらゆっくり移動した。
早々と片付けてサッサとここから出ようと思い、鞘に入れた刀を抜いた。
苦しまないように全員すぐに死ねるように急所を狙う
床を蹴りまずは1人首をはねる、えっ?と隣の男が呟いた瞬間にその男の心臓を突き刺した。
すぐに応戦してきた1人の刀を受け流してから股間を思いきり蹴り飛ばす。そして、もう1人の男の首を刎ねようと刀を振りかぶった瞬間。キィンとゆう音と共に刀が跳ね返されて私は咄嗟に身を引いた。
「せ、瀬田様」
「無様ですねぇ。」
特にお前。と股間を押さえてもだえている男に目を向ける。瀬田様と呼ばれた男は一度死んでいる2人を見てから嬉しそうにこちらを見て微笑んできた。
「こんばんは、お姉さん。」
「…こんばんは」
「貴女はどうして彼等を殺したんですか?」
「さっき女湯に入ってこられて、覗かれてから殺されそうになったからだよ。そいつと同じ服装だから仲間だと思った。」
「それは…まあ。普通怒りますね」
「随分嬉しそうだけど」
「元からこうゆう顔なんです」
「もう行っていい?」
「つれないなぁ。ちょっと手合わせしませんか?」
「遠慮する。」
「じゃあ、台所に隠れてる人から殺しちゃいましょうか?」
そう言って笑った彼に、こちらはもう何も言えずに了承するしか無かった。
「じゃあ手合わせはするから5分待って」
「…逃がすんですか?まぁ。いいですよ」
その言葉を聞いて、台所に向かう私に彼も何故か後ろをついてくる。
「出てきていいよ」
台所で小さく丸まっていた女性と子供に声をかけると2人は少し涙目になりながら立ち上がった。子供の方は瀬田と呼ばれていた男がニコリとしてあやすような仕草をすると、少しだけ安心したように笑った。
台所の裏にある出口から2人を逃そうとすると、貴女は?と彼女は悲痛な表情で私の手をまた握った。
その汗ばんだ手に大丈夫です。とだけ言って早く逃げてと背を押した。
2人が遠くなるまで見守っていると、斜め後ろから耳元でもういいですか?と囁かれて、刀を握り直して彼の方を向いた。私より少し背が高い彼は近くで見ると思ったより柔らかい顔をしていて毒気が抜かれるように感じてしまう。
「あの2人、友人ですか?」
「ううん、さっき女湯で隣にいただけ」
「どうしてそこまでして助けるんですか?」
「助けて貰いたかった時に助けてもらえなかったからかな。重ねてるだけかも。」
そう言った私に瀬田は一度無表情になってぼんやりと何かを考えているようだった。
「瀬田様!」
「今度は何ですか?」
食堂の入り口から入ってきた彼の部下らしき男が彼の名前を呼ぶと、ハッと我に返ってから少々面倒臭そうに返事をした。
「志士雄様がお呼びです」
「分かりました」
さあ、行きましょうと私の手をにこやかにとった彼に首を傾げると
ちょっと付いてきて下さいと言って私の手を引いた
彼の速さでは逃げきれないと分かっていた私は諦めて彼に従う事にした。
連れてこられたのは男湯で。嫌な顔をしている私の表情を見て楽しそうな瀬田は一度挨拶をしてから扉をあけた。
中に居た男の異様な姿に少しだけビックリしたが、強そうだなと少しだけ見惚れてしまった。
隣にいる美しい女性が、宗ちゃんが女の子連れてきたと嬉しそうにしている事が非常に気になった。
「宗次郎、全部済んだか?」
「はい。少し時間かかっちゃいましたけど。それと制圧時に5人程死んじゃいました。3人はこの人が殺してました」
ね、と私に微笑んできた彼に何と言えばいいのか分からずに黙っていると志士雄と呼ばれた男はどうして殺したんだ?と尋ねてきたので、覗かれたのでと言うと火傷の男は大笑いをしていた。
本当は2人は別に覗いてないんだけど。とちょっと思ったけど黙っておく事にした
「女湯は今誰もいねぇ。良かったら2人で入ってこいよ。宗次郎が女連れてくる何て初めてだからな。」
「えっ?何で??」
「分かりました、有り難く入らせて貰いますね」
えっ、ちょっとと言った私の手を掴んでまた強引にスタスタと歩く彼は女湯の中まで来ると、スッと手を離してくれた。
「そういえば、名前聞いてないですよね。僕は瀬田宗次郎です」
「…レイ」
「へぇ。綺麗な名前ですね」
「…ど、どうも。それより瀬田くん。手合わせするならして私帰りたいんだけど。」
「帰しませんよ。」
「はっ??何で?」
「貴女は僕の夜伽にしようかなって思ってるので。言う事聞かないなら足の骨折ってでも連れて行きます」
「夜伽って何?稽古の相手とか?」
「…意外に世間知らずなんですね」
「私は、山育ちで1人で居たから都会の事は知らないんだよね。」
「……何だか調子狂うな」
そう言った瀬田は少し笑うと、せっかくだから温泉入りましょうと言ってきた。何でお前と入るんだよと思ったけど、さっきゆっくり浸かれなかった事を思い出して服を着たままなら一緒に入ってもいいよと言うと、その辺に落ちていた逃げて行った人達の肌着の着物を私に渡してくる。
彼が着替えようとしていたので、見えないように反対に回りその着物に袖を通すとささっと温泉に入った。
さっきは気づかなかったけど、湯気であまり視界が良く無いのでホッとした。瀬田も気を遣ってくれたのか、下にはしっかりと下着の上に長めのタオルを巻いていた。
さっきの入浴の時に髪や身体を洗っていた私は、少しだけ血生臭くなってしまった身体を湯で流すだけでいいやと思い適当に血の付いた箇所を擦って洗い流していた。隣であんまり泡だたないなと言いながら瀬田は石鹸で髪を洗っていた。
暇なのでその様子を観察していると、目に石鹸が入って痛そうにしている彼の横顔に内心笑いながら近づいて石鹸を彼の手から取ると湯で石鹸をよく泡立ててから髪に両手を入れてマッサージするように地肌から洗ってゆく。
「上手ですね、やっぱり女の子は器用だなぁ」
「あんたまだ若いのに何でそんなおっさんみたいな事言ってんの」
「おっさんですかね?そう言えばレイは何歳何ですか?」
「18だよ。瀬田は?」
「宗次郎でいいですよ。年はもうすぐ17ですね。」
自分もそうかもしれないけれど、まだあどけなさが残る幼い顔に年下だったのかと納得がいった。
良く泡立てて洗っていると、髪の毛から徐々に汚れが取れてきて、綺麗に艶が出てくるのを確認してから湯で髪を流した。
それからゆっくりとお湯に浸かって、色々彼等の事を聞かせてもらった。志士雄さんの側近をやっている事や、その仕事の内容なども宗次郎は話してくれた。正直極悪人だなぁとも思ったけれど、あのお姉さんの話や志士雄さんや他の人達が政府の連中からされた話を聞くと徐々に私も何も言えなくなった。
「宗次郎は志士雄さんて人とずっと居たんだ。」
「もう長い事ずっとですね」
「その前は?家族はいなかったの?」
「居たんですけど、殺されそうになったので殺しちゃいました」
そう言った彼を静かに見つめるしかない私に、宗次郎は薄く笑って別に平気ですよ。と言った。
1人で生きてきた私はこうゆう時どうしていいか分からなかったけれど、悲しい時はおばあちゃんが抱き締めてくれた事を何だか急に思い出して彼の肩を優しく抱いた。
ピクリと、彼は動かなくなったので嫌だったかな?と思いゴメンと謝ってからすぐに手を離した。
「…そろそろ出ましょうか?」
「あ、うん」
少しだけ不自然に笑った彼に、私も頷いてから湯から上がった。身体を拭いて着替えを済ませると食事を準備させてあるので行きましょうと言われ頷く。
手を引かれながら、隙があったら逃げるべきなのではとも考えたけれど志士雄って人が闘う姿を少し見たいなとも思っていたので、足を折られるくらいなら宗次郎にまだ付き合ってもいいかなと軽い気持ちで足を進める事にした。
薄暗い廊下を歩いていると、さっきの黒づくめの服装の男達が何人も1つの部屋の前で警備にあたっているのが見えた。彼等は宗次郎が目に入るとお辞儀をしてから部屋の戸を開けた。
その部屋はかなり広い造りになっていて、テーブルの上には豪華な食事が並んでいた。志士雄と女性は既に座って、女性はお酌をしている。
「おう、帰ったか。宗次郎」
「はい、良い湯加減でした。」
「宗ちゃん、彼女名前は?」
「ああ、さっき言ってませんでしたね。レイです」
「せっかくだから少し髪を梳かしましょう」
「じゃあ、由美さんお願いします」
由美さんとゆう女性に付いてきてと言われ、隣の部屋に移動するとそこには美しい着物や装飾品、化粧道具などが置かれていた。
「わぁ、綺麗ですね」
「ふふふ、興味はあるの?」
「お洒落は無縁だったけど、興味はあります。」
「女は綺麗でいなくちゃね」
レイは青が似合うんじゃないかしら?宗ちゃんとお揃いね。そう言って笑った由美さんからは何だかとても良い香りがした。正座した私の髪を梳かし、綺麗にまとめ上げてくれている姿を鏡で見ていると、ちょっぴり嬉しい気持ちになった。
化粧もした事が無くて、気恥ずかしかったけれど黙って彼女の言う通りに目をつむり、くすぐったさに耐えていた。美しい青い着物に袖を通してから鏡で化粧をしてもらった姿を見せて貰うと。何だか自分じゃないようで目をパチクリさせてしまう。
「何て可愛いんでしょう」
「由美さんの腕が良いんだと思いますよ」
「何言ってんの!そういえば紅を最後に塗らないと。あっちに置いてきたからちょっと待っててね」
そう言って部屋を出て行った由美さんの指示通り、座って待つ事にした。
そう言えば、名前も知らぬ彼女を台所から逃がしてからまだそんなに時は経っていない。彼女は逃げ切れただろうかとそんな事を考えていると、部屋の戸が開いた。
「誰だお前」
「……」
見上げるような巨体の大男は部屋に入ると私を睨みつける。誰だと言われても名前を名乗っても向こうが知っている訳では無いだろうし。そう思った私は何も喋らなかった。それがいけなかったのだろうか。その男が私の横に置いてある刀を見た瞬間に小さな斧を投げつけてきて。
とっさに刀をとり避けると、それと同時に上から拳が振り下ろされる。鞘で拳を受け流しつつ刀で足を浅めに切り付けると何ともデカイ声で大男は叫んだ。
ギャアアアと言う悲鳴に私まで少しビックリしたけれど、今のうちに少し距離をとろうと戸の近くまで離れると後ろから気配がして刀を向ける。
そこには志士雄と呼ばれていた男が立っていた。
「ほぉ。綺麗になったじゃねぇか。見違えたな」
「…どうも。」
ニヤリと笑った志士雄さんに、私はペコリと頭を下げると、志士雄さんは大男に目を向けた。
「おい、やられてんじゃねーぞ」
「す、すみません。」
倒れた身体を必死に起こす男は、志士雄さんを見て少し震えているように感じた。
「こっちに」
宗次郎の声がして、スッと右腕を引かれて部屋の外に連れていかれる。中からまた男の叫び声が聞こえてきて、思わずあれ大丈夫?と宗次郎に聞くとお仕置きですね。と返ってきて、思わずげぇと言ってしまった。
「それよりも。綺麗です、凄く」
「…恥ずかしいから言わなくていいよ」
そう言って宗次郎から目を逸らすと、彼はふふっと笑った。結局それから志士雄さんがお仕置きに力を入れすぎたのか戻って来ず。私と由美さんと宗次郎の3人で食事をとる事になった。あの変な被り物をした男性達が作ったと聞いていたから恐る恐る食べたけど、意外に凄く美味しくて気付けば一通り私が食べてしまっていた。
なんだかんだ由美さんの志士雄さん話に聞き入っていると夜もふけてきて、私がついあくびをしてしまうと由美さんがそれを見て部屋を用意すると言ってくれた。
「宗ちゃんの隣の部屋にするから、また変な奴に絡まれたらすぐ言うのよ」
変な奴とはさっきの大男の事だろうか。
「由美さん、では僕達は失礼しますね」
「宗ちゃん、女の子には優しくするのよ。貴方なら無理はさせないだろうけど」
「充分、分かってますよ」
その会話に無理って何だろうと思ったけれど、私は由美さんに挨拶をしてから宗次郎と一緒に部屋を出た。
奥の廊下を進むと、部屋が4つあって。そこの1つに入った宗次郎は蝋燭に火を灯してから私を呼んだ。
「わあ、綺麗」
「1番良い客室にしてもらいました。」
「こんな綺麗な洋風の部屋初めて見た。」
「こんなんで喜んでくれるならいくらでも用意しますよ」
「ねぇ。何でこんなに良くしてくれるの?」
裏があるのか。少しだけ不安になった私はベッドに腰掛けてから窓辺から外を見つめる彼に問いかける。
「そうですね、強いて言えば」
そう言いながら私の目の前に立って宗次郎はゆっくりと手を私の髪に触れてから髪留めを抜いた。
サラリと長い髪がゆっくりと重力に従って落ちてゆく
彼の横顔が月明かりに照らされて綺麗だなと思った瞬間に唇が唇に触れた。
目を見開いた私はそのまま硬直してしまい、目を瞑っている彼の長いまつ毛を見つめる
我に返って、彼の身体を押してもビクともせずに少しだけ怖くなってくる。唇から舌が入れられてくる感触に耐えながら少しだけ震えてしまう手をギュっと握ると、彼の体重がのしかかってきて組み敷かれてしまう
「そ、宗次郎」
唇を離した彼と目が合って、私が口を開くと頬に一度ゆっくり口づけされてから彼はゴロンと私の横に寝転がった。
「…怖かったですか?僕の事」
「う、うん。初めてしたからビックリした。」
「今日はもうしませんよ。」
「今日はって何??」
「もう少し時間をかけます。」
そう言ってから、私のどきまぎした顔を見て宗次郎は楽しそうに笑ってから大きく伸びをした。
その姿を見てホッとした私は動きにくいこの着物のまま寝たくないなぁと思い、辺りを見渡したけれど生憎着替え何かは置いていなかった。
「ねぇ、着物脱ぎたいんだけど」
「時間かけなくていいんですか?」
「違うよ、寝にくいの」
「ああ、じゃあ上の着物だけ脱いだらいいんじゃないですか?」
そう言って目を閉じた彼に、ここで寝るの?と思いつつも言われた通りに青い着物だけ脱いでからシワにならないように掛けておく。
少し肌寒いので、彼に背を向けて隣に横になると布団を掛けてから丸まった。身体が温まってきて眠気でウトウトとしてくると優しく後ろから抱き締められるような感覚があったけれど、今日はもう色々な事があって、起きたく無かった私はそのまま彼の体温を感じながら眠りについた。
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