その他 短編 シリーズ リヴァイ 五条悟
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少し飲み過ぎたな
お手洗いから出て手を洗い、正面の鏡に写った自分の顔は寝不足もあって少しだけ疲れているように見えた
唇にリップを塗り直しのれんをくぐり自分のテーブルに戻ろうと歩き出すと前から歩いてきた長身の男と目があった
シルバーの髪に水色の美しい瞳
黒いコートを羽織った男に私の体は一瞬だけ硬直するが緊張がバレない様にゆっくりと視線を逸らし先程と同じペースで歩みを進める
すれ違う瞬間にフッっと笑った様な声が耳に入りながらも目を向ける事も無く友人が待つテーブルまで帰還した
「おかえり、… レイ、何か顔色悪く無い?気持ち悪いの?」
「…う、う、生きてる心地がしない5秒間だった…。気持ち悪くは無い。が申し訳無いんだけど凄く今もう帰りたい」
「トイレに行ってただけの間に何があったのよ…。まぁ、もう終電近いし帰ろうか」
いつもなら何で何でと聞いてくる友人も、そうとう酔っているのかふらりとした足取りでお会計を済ませるとまた連絡すると言ってブンブンと鞄を振り回しながら顔色の悪いだろう私に背を向けて駅に向かって歩いて行った
彼女の背が見えなくなるのを確認してから自分も自宅に帰ろうと反対方向を向けば
目の前に真っ黒な胸板。上を見れば五条悟が微笑んでいた
「やぁ!久しぶりレイ。」
「…ご、ぶさた…しているね」
「あれ?何か大丈夫??酔ってるの?」
真後ろに居たのに気配すら無く、私を見る目は昔と一緒で凍りそうな程冷たい気がした
優しいのは口調だけで、口元は笑っている
ゾッとしている私に嬉しいのかなんなのか、悟は私の手を掴むと危ないから送るよと言って冷えている私の手を取り彼のコートのポケットに入れた
「…悟、…なんの真似?」
「何で不機嫌なの?久しぶりじゃない。この間まで愛し合っていた仲なんだからそんな事言わない言わない」
「…もう4年経つけど…」
「もー4年かー。早いよねーそういえば今俺先生やってるんだよねー」
グイグイとそのまま手を引かれて嫌々歩き出せば、何故か教えていない筈なのに私の自宅の方向に歩き出す悟に溜息を吐いた
私が産まれて初めて好きになって、愛して全部捧げたのが彼だった。
この男も何だかんだいいながらも、その頃はいつも一緒にいてくれて沢山優しくしてくれた。
でも。何故か悟はある日から急に冷たくなった
そんな悟に理由を聞いても何も言わず、喧嘩になった時に彼の殺気に当てられた私はそのまま失神してしまった
最後に見た彼は泣いていた様な気がした
そのまま彼とは一度も会っていなかったし、連絡をしようとも思わなかったのはきっとそれだけ愛していた分ショックだったのだろうと受け入れられたのは意外に最近で。
そんな時に会うなんて、何て巡り合わせなのだろうと神を呪った
私は産まれてから両親もおらず、男性は悟しか愛した事がなかったし別れてからは段々と男性と付き合いたいと思う気持ちは無くなっていっていた
手から伝わる彼の体温と、何度も何度もこの手に抱かれ撫でられ触れられた事をぼんやりと思い出す
ペラペラとラジオの様に喋り続ける悟の声が何故か心がこもって無い様な軽い口調に聞こえた
「なーんにも聞いてねーじゃん。俺の話。」
一歩前を歩いていた悟はくるりと私の方を見ると、唇を私の耳に寄せる
「レイさ、俺の事嫌い?」
「…最初に嫌ったのはそっちじゃん」
「………嫌ってなんか無い」
「…冷たくなったのは悟じゃん」
ポケットに入っていた手を引き抜いて走ってその場を去る
追ってきませんように。そう願っていながら、追ってきますようにと本当は思っている自分が悲しくなって泣きながら走った
走りながら先程見た少し成長した彼の髪や瞳の美しさを鮮明に思い出していた。何より愛してるなんて絶対言ってくれなかったけれど、昔の私に向けられていた笑顔や彼の愛しい所全てを脳が全て走馬灯の様に蘇ってくる
息が途絶える様な感覚になりながら自宅の前に着くと
バッグから取り出した鍵で戸を開けた
キィといつもと同じ様に自分の自宅の玄関。そして、廊下の先には闇の中に笑顔の悟の姿があった
「おかえり〜遅かったね」
「はぁ。…疲れた。無駄なら走るんじゃなかったよ」
「僕から逃げようなんて200年くらい早いんじゃ無い?」
アハハと陽気に笑った悟は、鞄を投げ捨てて風呂場に直行した私を横目にキッチンで珈琲をいれながら楽しそな笑顔を見せた
湯が湧き出るシャワーを見つめながら顔から湯をしこたま浴びた
溜息なのか深呼吸なのかが分からなくなってきて、何だか回らない頭で髪を洗っているとシャワーの音に混じりながらガチャガチャとキッチンで何やら音がする
気がした
ずっと一人で暮らしてきてからシャワーを浴びている時に他の部屋から音がするなんてまるでホラー映画の様だな…
リビングに男がいる…それが悟だなんて信じられない
そんな事を考えながらシャワーを浴び終わり部屋着を着て髪を乾かし終わると、悟の存在を無視する様にキッチンには寄らずにそのまま玄関脇の寝室に入りベッドに横になった
鞄の中にある携帯も今は取りに行く気にもならずに本当は彼の瞳をもう一度見たいな何て思いながら目を瞑る
布団の暖かさが酒で疲れた体を包んでくれている気がして枕に顔をこすりつけた
呼吸が整ってきて、少しづつ眠気がやってくると寝室の扉がゆっくりと開いたのが分かった
背を向けたまま何も言わず。動じないを決め込みそのまま目を瞑っていると後ろからゆっくりと赤ちゃんでも抱く様な優しい触り方で私は包まれた
昔と変わらない大きな身体。
硬い腕が私を抱き込む様に包み、首筋を唇が這う様に動く
思わず、涙が出そうになってしまった
「レイちゃん」
「……さと…る…」
名前を呼んで口を塞いだ
あの殺気を思い出してまた悲しくなって、怖くなった
握りしめた手が脈をうっていて、唇を噛み締めていると優しくその上から手を握られて何分か経つと落ち着いて来たのか自然と自分の噛み締めた口元が緩んでくるのが分かった
「こっち向いて。」
優しい声色で言われ、何故かすんなりと目が見たいなくらいの気持ちで振り返ると何だか真顔なのに嬉しそうに見える悟が目の前に居た
「…さとる、嬉しそうだね」
「…そう見えるなら、お前も嬉しいんだよ」
「…何それ。…でも何か本当久しぶりだね」
銀色の髪をゆっくり撫でた。私のトラウマは何だったんだっけ?と自分で不思議になるくらい自然だった
凄く触りたくて、ただそれだけだった
悟の唇が私の唇に触れて、最初は優しかったのに頭を抑えられてから舌を舐められ激しい口付けに変わっていく
目と目が合ってお腹の奥がキュンとするような切ない様な恋しい様な感覚にテキーラでも飲んだ様な酔いを感じて涙がまた目から溢れ出た
懐かしい愛撫に愛しさの感情からか口から出る喘いだ声が何だか恥ずかしい
悟は一言も言葉を口にせず、ただただ貪る様に激しく私を抱いた
「平気?体」
「…悟がそんな事聞いたの初めてだね」
「…ちょっと自制心がなさ過ぎたなって」
「…平気。久しぶりだったから痛いかなって思ったけど。そんな事も忘れてた…悟は、変な事聞くけど…したの…久しぶりだった?」
「…ん、まぁ。うん」
「…ふーん」
少しだけ困った様な顔をしている悟に何だかカッとなってしまうが気持ちを押し込めて少しだけムッとした様な顔をする
そんな私の顔を見て急にカラカラと笑い出した悟は心底嬉しそうに言った
「すげー俺の事好きじゃん」
「…気に入らないだけだもん」
悟はそう言った私の髪を撫でながら笑っていた顔を真顔に変えて口を開く
「…あの時の事だけど…傑と…抱き合ってたお前が許せなかった」
「……」
「お前の家の前で」
「見てたんだ」
「…傑は俺が殺したよ」
「……知ってる。聞いた。でも、私は悟を裏切ってない」
「分かってるよ。今は…分かる、傑にも聞いた。でも許せなかった」
あの時は…と呟いた悟に何ももう言わずに裸の悟の胸にすりよりそのまま目を閉じる
昔よりも逞しく感じるな何て思っているとキツく一度抱き締めらて小さな声でずっと会いたかったと口にした悟に私もだよと小さな声で返した
目を開ければ朝で、隣に悟は居なかった
何だか嵐の様な男だな何て思うが、胸のしこりはとれた様に感じていた
いつもの通りに支度をして会社に行き、いつもの様にパソコンで仕事を始める
仕事の仲間とランチをしても、仕事に打ちこんでいても昨日の事ばかり思い出してしまう自分に段々と嫌気がさしてくる
連絡先は変わってないかなとか、もう会いにこないかなとかずっとそんな事ばかり考えていた
定時に上がり帰り支度をしてすぐに会社を出ていつも通り自宅への道を歩いていると、オープンと書かれている見た事も無い店を見つけてガラス越しに中を見つめた
お洒落なラグや食器に、キッチン用品が並んでいた。
可愛い雑貨に気が向いて中に入ると鍋やフライパンが置いてあるコーナー辺りをブラブラしていると
少し上の棚に置かれている美しい模様の白と水色のマグカップに目を奪われた
チラリと頭に浮かんだのはクリスマスプレゼントにいいなって事と水色のマグで悟が珈琲を飲んでいる姿
そのまま衝動的に値段も見ずにレジに持っていき、購入してしまう。可愛いラッピングまでしてもらった私は少しだけウキウキしていた
自宅へ戻ると直ぐにシャワーを浴びてからソファに横になる。買ってきたマグカップを紙袋から出してビールを飲みながら見つめていると、ふと昨日の気持ちを思い出す。そして昔の事も思い返していた
傑から電話が来た事、自宅の前で抱きしめられた事
悟がそれを見ていた事
あの時、傑は何を言いたかったんだろう
その後に入家から傑が殺された事を聞いた時、やっぱり悟の事が怖くなったけど。理由を聞けば納得がいったのも確かだった
何だかんだ、殺気を出されようが友を殺されようが怖いだ何だ言っていても会ってしまえば受け入れるしかない。私は絶対に悟を嫌いにはなれないし、好きなんだなと実感した
2本目のビールを飲み干してから、お腹が空いたから何か作ろうかと立ち上がった所で電話が鳴った
画面には悟と表示されている。本当に久しぶりにこの画面を見たなと思いながら電話をとると明るい声が耳に響いた
「やほー。今家?」
「何か良い事あったの?」
「全く。今仕事終わった所。マジ疲れた」
「お疲れ様、何かご用ですか?」
「冷たいなー。昨日愛し合った仲じゃん」
悟がそう言うと、後ろでブフォっと何やら噴き出す様な男性の声が聞こえて思わずため息を吐いた
「誰かいんの?」
「伊地知くーん。」
「人前で言わないの、私もうお腹空いて死にそうだから切るね」
「今向かってるから俺のも作っておいて、じゃ」
ツーツーと聞こえる電話を置いて、内心嬉しい私は冷凍ピザで済ませようとしていた考えを捨てて簡単な鍋を作る事にした
白菜と残り野菜にきのこ、肉に豆腐にと簡単に切って鍋で煮ていると出汁の良い香りに包まれる
冷蔵庫にポン酢とゴマだれはあるか確認しているとチャイムも鳴らさずに玄関から悟が入ってきて私を見ると思い切り抱き締めてくる
「たっだいまー良い匂いだねー」
「…ふふっ、何それ。おかえり」
後ろから頬に口付けをしてくる悟に少し笑ってしまいながら、私はそっと彼の抱き締めてくる手を軽く握った
「…お腹空いたから食べようか、悟テーブルに鍋持って行ってくれる?」
「はいはーい」
食事を始めると箸を進ませながら今日は面白い呪物に会っただの、色んな所に行かせすぎだの入家はクマが出来過ぎだの。悟は昔と変わらない感じで話し始める
その感じが懐かしくて、うんうんと思わず笑顔で聞いてしまう自分がいた
冷蔵庫から飲み物を取ってくると静かに一点を見つめている悟に首を傾げながらその方向を見れば先程買ってきた包みを見ている様だった
「あれ何??仕事帰りに買ってきたの?
見つめられて、クリスマスに渡そうと思ってるんだけどな。何て思いながら首を縦に振ると
少しだけ冷めた様な顔になった悟に違和感を覚える
「どしたの??悟今嫌な顔した」
「…誰かにあげんの?包装紙がクリスマス用だけど」
「は??何で?」
「……しょーこが、レイみたいな女はモテるから絶対男いるって言ってたからさ。そいつにあげんの?」
「…ふふっ。バカだなぁ。男居たら昨日寝ないでしょ」
「流されたとか。昔に付き合ってた馬鹿男に」
「馬鹿な男が好きですみませんねぇ。生憎私は産まれてから一度も悟以外を好きになった事も関係を持った事も無いんで」
そう言いながら、包みを悟に渡すと彼はハッとした顔をして自分を指差したので笑顔で頷いた
綺麗に開けられいく包装紙よりも悟の顔を見ているのが楽しくてずっと見ていたと思う
箱から出されたお揃いのマグカップを見て、おちゃらけずに嬉しそうな顔をした彼に吹き出して笑うと
俺の水色?とカップを手に取った
「レイ、珈琲淹れてくれる?」
「いいよ」
「これは、俺に毎日ここに居て朝これで珈琲飲んでってサインでしょ?」
「ふふ、想像に任せる」
ちゃんと家賃入れてよと言えば、マンション全部買うよと言われたのでそこはスルーしておいた
明日荷物持ってくるねーと上機嫌な悟の為にお湯を沸かし始める
「ねぇ」
「何?」
「言うの遅れたけど、ずっと愛してるよ」
その言葉を聞いて、私は心からの笑顔で首を縦にふった
お手洗いから出て手を洗い、正面の鏡に写った自分の顔は寝不足もあって少しだけ疲れているように見えた
唇にリップを塗り直しのれんをくぐり自分のテーブルに戻ろうと歩き出すと前から歩いてきた長身の男と目があった
シルバーの髪に水色の美しい瞳
黒いコートを羽織った男に私の体は一瞬だけ硬直するが緊張がバレない様にゆっくりと視線を逸らし先程と同じペースで歩みを進める
すれ違う瞬間にフッっと笑った様な声が耳に入りながらも目を向ける事も無く友人が待つテーブルまで帰還した
「おかえり、… レイ、何か顔色悪く無い?気持ち悪いの?」
「…う、う、生きてる心地がしない5秒間だった…。気持ち悪くは無い。が申し訳無いんだけど凄く今もう帰りたい」
「トイレに行ってただけの間に何があったのよ…。まぁ、もう終電近いし帰ろうか」
いつもなら何で何でと聞いてくる友人も、そうとう酔っているのかふらりとした足取りでお会計を済ませるとまた連絡すると言ってブンブンと鞄を振り回しながら顔色の悪いだろう私に背を向けて駅に向かって歩いて行った
彼女の背が見えなくなるのを確認してから自分も自宅に帰ろうと反対方向を向けば
目の前に真っ黒な胸板。上を見れば五条悟が微笑んでいた
「やぁ!久しぶりレイ。」
「…ご、ぶさた…しているね」
「あれ?何か大丈夫??酔ってるの?」
真後ろに居たのに気配すら無く、私を見る目は昔と一緒で凍りそうな程冷たい気がした
優しいのは口調だけで、口元は笑っている
ゾッとしている私に嬉しいのかなんなのか、悟は私の手を掴むと危ないから送るよと言って冷えている私の手を取り彼のコートのポケットに入れた
「…悟、…なんの真似?」
「何で不機嫌なの?久しぶりじゃない。この間まで愛し合っていた仲なんだからそんな事言わない言わない」
「…もう4年経つけど…」
「もー4年かー。早いよねーそういえば今俺先生やってるんだよねー」
グイグイとそのまま手を引かれて嫌々歩き出せば、何故か教えていない筈なのに私の自宅の方向に歩き出す悟に溜息を吐いた
私が産まれて初めて好きになって、愛して全部捧げたのが彼だった。
この男も何だかんだいいながらも、その頃はいつも一緒にいてくれて沢山優しくしてくれた。
でも。何故か悟はある日から急に冷たくなった
そんな悟に理由を聞いても何も言わず、喧嘩になった時に彼の殺気に当てられた私はそのまま失神してしまった
最後に見た彼は泣いていた様な気がした
そのまま彼とは一度も会っていなかったし、連絡をしようとも思わなかったのはきっとそれだけ愛していた分ショックだったのだろうと受け入れられたのは意外に最近で。
そんな時に会うなんて、何て巡り合わせなのだろうと神を呪った
私は産まれてから両親もおらず、男性は悟しか愛した事がなかったし別れてからは段々と男性と付き合いたいと思う気持ちは無くなっていっていた
手から伝わる彼の体温と、何度も何度もこの手に抱かれ撫でられ触れられた事をぼんやりと思い出す
ペラペラとラジオの様に喋り続ける悟の声が何故か心がこもって無い様な軽い口調に聞こえた
「なーんにも聞いてねーじゃん。俺の話。」
一歩前を歩いていた悟はくるりと私の方を見ると、唇を私の耳に寄せる
「レイさ、俺の事嫌い?」
「…最初に嫌ったのはそっちじゃん」
「………嫌ってなんか無い」
「…冷たくなったのは悟じゃん」
ポケットに入っていた手を引き抜いて走ってその場を去る
追ってきませんように。そう願っていながら、追ってきますようにと本当は思っている自分が悲しくなって泣きながら走った
走りながら先程見た少し成長した彼の髪や瞳の美しさを鮮明に思い出していた。何より愛してるなんて絶対言ってくれなかったけれど、昔の私に向けられていた笑顔や彼の愛しい所全てを脳が全て走馬灯の様に蘇ってくる
息が途絶える様な感覚になりながら自宅の前に着くと
バッグから取り出した鍵で戸を開けた
キィといつもと同じ様に自分の自宅の玄関。そして、廊下の先には闇の中に笑顔の悟の姿があった
「おかえり〜遅かったね」
「はぁ。…疲れた。無駄なら走るんじゃなかったよ」
「僕から逃げようなんて200年くらい早いんじゃ無い?」
アハハと陽気に笑った悟は、鞄を投げ捨てて風呂場に直行した私を横目にキッチンで珈琲をいれながら楽しそな笑顔を見せた
湯が湧き出るシャワーを見つめながら顔から湯をしこたま浴びた
溜息なのか深呼吸なのかが分からなくなってきて、何だか回らない頭で髪を洗っているとシャワーの音に混じりながらガチャガチャとキッチンで何やら音がする
気がした
ずっと一人で暮らしてきてからシャワーを浴びている時に他の部屋から音がするなんてまるでホラー映画の様だな…
リビングに男がいる…それが悟だなんて信じられない
そんな事を考えながらシャワーを浴び終わり部屋着を着て髪を乾かし終わると、悟の存在を無視する様にキッチンには寄らずにそのまま玄関脇の寝室に入りベッドに横になった
鞄の中にある携帯も今は取りに行く気にもならずに本当は彼の瞳をもう一度見たいな何て思いながら目を瞑る
布団の暖かさが酒で疲れた体を包んでくれている気がして枕に顔をこすりつけた
呼吸が整ってきて、少しづつ眠気がやってくると寝室の扉がゆっくりと開いたのが分かった
背を向けたまま何も言わず。動じないを決め込みそのまま目を瞑っていると後ろからゆっくりと赤ちゃんでも抱く様な優しい触り方で私は包まれた
昔と変わらない大きな身体。
硬い腕が私を抱き込む様に包み、首筋を唇が這う様に動く
思わず、涙が出そうになってしまった
「レイちゃん」
「……さと…る…」
名前を呼んで口を塞いだ
あの殺気を思い出してまた悲しくなって、怖くなった
握りしめた手が脈をうっていて、唇を噛み締めていると優しくその上から手を握られて何分か経つと落ち着いて来たのか自然と自分の噛み締めた口元が緩んでくるのが分かった
「こっち向いて。」
優しい声色で言われ、何故かすんなりと目が見たいなくらいの気持ちで振り返ると何だか真顔なのに嬉しそうに見える悟が目の前に居た
「…さとる、嬉しそうだね」
「…そう見えるなら、お前も嬉しいんだよ」
「…何それ。…でも何か本当久しぶりだね」
銀色の髪をゆっくり撫でた。私のトラウマは何だったんだっけ?と自分で不思議になるくらい自然だった
凄く触りたくて、ただそれだけだった
悟の唇が私の唇に触れて、最初は優しかったのに頭を抑えられてから舌を舐められ激しい口付けに変わっていく
目と目が合ってお腹の奥がキュンとするような切ない様な恋しい様な感覚にテキーラでも飲んだ様な酔いを感じて涙がまた目から溢れ出た
懐かしい愛撫に愛しさの感情からか口から出る喘いだ声が何だか恥ずかしい
悟は一言も言葉を口にせず、ただただ貪る様に激しく私を抱いた
「平気?体」
「…悟がそんな事聞いたの初めてだね」
「…ちょっと自制心がなさ過ぎたなって」
「…平気。久しぶりだったから痛いかなって思ったけど。そんな事も忘れてた…悟は、変な事聞くけど…したの…久しぶりだった?」
「…ん、まぁ。うん」
「…ふーん」
少しだけ困った様な顔をしている悟に何だかカッとなってしまうが気持ちを押し込めて少しだけムッとした様な顔をする
そんな私の顔を見て急にカラカラと笑い出した悟は心底嬉しそうに言った
「すげー俺の事好きじゃん」
「…気に入らないだけだもん」
悟はそう言った私の髪を撫でながら笑っていた顔を真顔に変えて口を開く
「…あの時の事だけど…傑と…抱き合ってたお前が許せなかった」
「……」
「お前の家の前で」
「見てたんだ」
「…傑は俺が殺したよ」
「……知ってる。聞いた。でも、私は悟を裏切ってない」
「分かってるよ。今は…分かる、傑にも聞いた。でも許せなかった」
あの時は…と呟いた悟に何ももう言わずに裸の悟の胸にすりよりそのまま目を閉じる
昔よりも逞しく感じるな何て思っているとキツく一度抱き締めらて小さな声でずっと会いたかったと口にした悟に私もだよと小さな声で返した
目を開ければ朝で、隣に悟は居なかった
何だか嵐の様な男だな何て思うが、胸のしこりはとれた様に感じていた
いつもの通りに支度をして会社に行き、いつもの様にパソコンで仕事を始める
仕事の仲間とランチをしても、仕事に打ちこんでいても昨日の事ばかり思い出してしまう自分に段々と嫌気がさしてくる
連絡先は変わってないかなとか、もう会いにこないかなとかずっとそんな事ばかり考えていた
定時に上がり帰り支度をしてすぐに会社を出ていつも通り自宅への道を歩いていると、オープンと書かれている見た事も無い店を見つけてガラス越しに中を見つめた
お洒落なラグや食器に、キッチン用品が並んでいた。
可愛い雑貨に気が向いて中に入ると鍋やフライパンが置いてあるコーナー辺りをブラブラしていると
少し上の棚に置かれている美しい模様の白と水色のマグカップに目を奪われた
チラリと頭に浮かんだのはクリスマスプレゼントにいいなって事と水色のマグで悟が珈琲を飲んでいる姿
そのまま衝動的に値段も見ずにレジに持っていき、購入してしまう。可愛いラッピングまでしてもらった私は少しだけウキウキしていた
自宅へ戻ると直ぐにシャワーを浴びてからソファに横になる。買ってきたマグカップを紙袋から出してビールを飲みながら見つめていると、ふと昨日の気持ちを思い出す。そして昔の事も思い返していた
傑から電話が来た事、自宅の前で抱きしめられた事
悟がそれを見ていた事
あの時、傑は何を言いたかったんだろう
その後に入家から傑が殺された事を聞いた時、やっぱり悟の事が怖くなったけど。理由を聞けば納得がいったのも確かだった
何だかんだ、殺気を出されようが友を殺されようが怖いだ何だ言っていても会ってしまえば受け入れるしかない。私は絶対に悟を嫌いにはなれないし、好きなんだなと実感した
2本目のビールを飲み干してから、お腹が空いたから何か作ろうかと立ち上がった所で電話が鳴った
画面には悟と表示されている。本当に久しぶりにこの画面を見たなと思いながら電話をとると明るい声が耳に響いた
「やほー。今家?」
「何か良い事あったの?」
「全く。今仕事終わった所。マジ疲れた」
「お疲れ様、何かご用ですか?」
「冷たいなー。昨日愛し合った仲じゃん」
悟がそう言うと、後ろでブフォっと何やら噴き出す様な男性の声が聞こえて思わずため息を吐いた
「誰かいんの?」
「伊地知くーん。」
「人前で言わないの、私もうお腹空いて死にそうだから切るね」
「今向かってるから俺のも作っておいて、じゃ」
ツーツーと聞こえる電話を置いて、内心嬉しい私は冷凍ピザで済ませようとしていた考えを捨てて簡単な鍋を作る事にした
白菜と残り野菜にきのこ、肉に豆腐にと簡単に切って鍋で煮ていると出汁の良い香りに包まれる
冷蔵庫にポン酢とゴマだれはあるか確認しているとチャイムも鳴らさずに玄関から悟が入ってきて私を見ると思い切り抱き締めてくる
「たっだいまー良い匂いだねー」
「…ふふっ、何それ。おかえり」
後ろから頬に口付けをしてくる悟に少し笑ってしまいながら、私はそっと彼の抱き締めてくる手を軽く握った
「…お腹空いたから食べようか、悟テーブルに鍋持って行ってくれる?」
「はいはーい」
食事を始めると箸を進ませながら今日は面白い呪物に会っただの、色んな所に行かせすぎだの入家はクマが出来過ぎだの。悟は昔と変わらない感じで話し始める
その感じが懐かしくて、うんうんと思わず笑顔で聞いてしまう自分がいた
冷蔵庫から飲み物を取ってくると静かに一点を見つめている悟に首を傾げながらその方向を見れば先程買ってきた包みを見ている様だった
「あれ何??仕事帰りに買ってきたの?
見つめられて、クリスマスに渡そうと思ってるんだけどな。何て思いながら首を縦に振ると
少しだけ冷めた様な顔になった悟に違和感を覚える
「どしたの??悟今嫌な顔した」
「…誰かにあげんの?包装紙がクリスマス用だけど」
「は??何で?」
「……しょーこが、レイみたいな女はモテるから絶対男いるって言ってたからさ。そいつにあげんの?」
「…ふふっ。バカだなぁ。男居たら昨日寝ないでしょ」
「流されたとか。昔に付き合ってた馬鹿男に」
「馬鹿な男が好きですみませんねぇ。生憎私は産まれてから一度も悟以外を好きになった事も関係を持った事も無いんで」
そう言いながら、包みを悟に渡すと彼はハッとした顔をして自分を指差したので笑顔で頷いた
綺麗に開けられいく包装紙よりも悟の顔を見ているのが楽しくてずっと見ていたと思う
箱から出されたお揃いのマグカップを見て、おちゃらけずに嬉しそうな顔をした彼に吹き出して笑うと
俺の水色?とカップを手に取った
「レイ、珈琲淹れてくれる?」
「いいよ」
「これは、俺に毎日ここに居て朝これで珈琲飲んでってサインでしょ?」
「ふふ、想像に任せる」
ちゃんと家賃入れてよと言えば、マンション全部買うよと言われたのでそこはスルーしておいた
明日荷物持ってくるねーと上機嫌な悟の為にお湯を沸かし始める
「ねぇ」
「何?」
「言うの遅れたけど、ずっと愛してるよ」
その言葉を聞いて、私は心からの笑顔で首を縦にふった