HH シャルナーク
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ポタポタと自分の血がコンクリに落ちていくのを眺めていた
力も尽きかけていて治療が追いつかない
目の前が少しづつ霞んできて肩で息をしていると、片目が開いてないクロロが足を引きづりながら歩いて来るのがボヤけて見えた
血塗れで歩けない私を見るとクロロは表情も変えずに素早く慣れた手付きで私を抱えた
持ち上げられた時に内股の太い動脈から血が溢れてビシャリとコンクリートが赤く染まり模様を作る
「レイ、しっかりしろ」
「これでもしてるつもりだよ。バカくろろ」
「憎まれ口がきけるならまだ大丈夫そうだな」
温かい胸に顔を寄せるともう痛みなんか無くなってきて。もう駄目なんだなって気がしてクロロの首に腕を回した
この人が居たから今まで生きて来れたし、そういえば何回も危機を救ってもらったなぁ何て思い出すと胸に何かが込み上げて来た気がして彼にギュっと抱き付いた
「なんだ珍しく弱気か?マチとシャルがもうそこまで来てる。もう少しだけ頑張れよ」
「寒い」
「血が足りないんだ。少し待ってろ」
こんな事が昔もあった様な気がする
脱いだコートをレイに掛けてから挫いた足をオーラで補強して走り出した。少し走り建物を抜けた時に力が抜けた彼女はだらりと俺の首から手を離した
すぐ立ち止まり、レイの青白い顔を見ながら芝生に腰を下ろす
マチの気配がした事に安堵して大きく溜息を吐いてゴロンとレイを抱きながら後ろに倒れこんだ
「うわ、2人共凄い怪我。4番は?」
「死んだよ。それよりレイの怪我を縫ってやってくれ。珍しく遺言を言ってたからな」
「…遺言ねぇ。まぁ本当に放っておいたら死ぬ傷だね。…団長は平気?」
「ああ」
マチの顔を見てから、遠くから走ってくるシャルとフランクリンの姿を見つけると更に気が抜けたのか足がズキズキと痛み出した
駆けつけたシャルは平然とした顔で俺を見ると珍しいねといつもの様に笑う
「派手にやられたねぇ」
「右腕も折られて足も捻挫した。レイまで致命傷で4番は死んだよ」
「やっぱり人選ミスだって。だからノブナガとウボォーギンのが良いって言ったじゃん」
「あの2人だと能力的に盗むのに時間がかかる。今考えればシャルとレイと俺のが良かったな」
「出来たよ、次団長ね。シャルレイを持って」
そう言ってマチが血塗れのレイを俺に渡して来て、すぐに団長の治療を始めた
渡された彼女は小さくて軽く中身は本当に入っているのかと不思議になる
最後におぶったのはもう思い出せないくらい昔なのに体重も背もあまり変わって無いんじゃないかと疑問に思う
単純に自分が10年前と比べたら背が30センチも伸びたからかなと考えながら、青白いレイの額の汗を拭うとピクリと反応した彼女に内心生きてると確信して何だか安心した
折られた腕を治療されている団長が建物の方を見つめると、フランクリンとマチもその方向に目をやる
ゆっくりと建物から出て来たのは人間の女に見えるが
その禍々しいオーラと腕が片方無く長い髪が乱れた姿はまるで悪魔の様に見えてくる
「うわぁ。こわっ何あれ」
「…肋を全部折ってやったのに何故歩けるのか不思議だな…。ちなみにあの女はレイを探してる」
「何で?」
「レイが殺したのが女の恋人だったらしい」
「うーん。どうする?団長とレイは戦えないし俺とマチとフランクリンで殺る?」
「あそこまで手負いなら3人でも平気だろう。任せる」
そう言った団長に了解と頷いた俺達3人はあの恐ろしい女の元に向かった
手負いだったからか、すぐに決着は着いてその女は倒れてからずっと小さな声で男の名前を呼び続けていた
「…男はこの建物の中で死んでんだろ?」
マチは俺にそう聞き、団長はそんな事言ってた気がすると言えば
その女を背負って建物に入って行った
「マチは優しいなぁ」
「…ああ。」
ずっと無言のフランクリンにどうかした?と尋ねると
あんだけ人を愛せるってのは不思議だなと思っただけだと少し笑った
アジトに戻ってからレイが寝ているベッドの横に座り濡れたタオルで血を拭いてやる
彼女を見ていれば見ている程なんだか腹が煮え繰り返ってくる気がして嫌な気分になる
先程まで全然そんな感情は感じなかったのに
昔から仲間は沢山死んだし慣れっこだと思っていたけれど。やっぱり慣れない事もあるのかもしれない
それに、こんな風にした奴等はもう死んだのに妙に落ち着かない
レイが死んでたらもっと腹が立ったんだろうな何て考えていると、あの悪魔の様な女の顔をふと思い出した
私の愛する人を殺したあの女を許さない
そう言った女は俺達に最後の力を振り絞って殺そうとしてきた
結局同じなのかと結論が出ると何だか妙な気分になった
「…シャル?」
「ああ、お目覚め?」
「寒い。抱き締めてくれないかな?」
「…いいよ」
彼女がこんな事を言うのは初めてで、内心少し驚いた
彼女を動かす訳にはいかないので、俺がベッドに入って傷に触らないようになるべく優しく抱きしめる。やっぱり柔らかくて小さいなと感じた
お日様の匂いがすると言って胸に擦り寄ってくるレイを女として意識してる自分に気付いて何だかむず痒い
小さな頃からずっと一緒に居て、背負って帰った事も
泣いた彼女を抱き締めてあやした事もあるのに
俺がやきもきしているのに、直ぐにぐっすり眠ってしまったレイの背中をポンポンとあやしながらウトウトしていると視線を感じて扉に目をやる
「…何やってるんだ?」
「寒いから抱き締めてって言われたんだけど…寝ちゃってさ。少し経ってから気付いたんだけど無意識に念で動けなくされてるんだよね」
「ああ、縛られてるな」
ククッと笑ったクロロはレイの隣まで来ると彼女の耳元で小さな声で何かを言った
その瞬間にレイはふふっと小さく笑うが熟睡したままだ
「あ、解けた」
「小さい時からの癖だ」
「レイに何て言ったの?」
「1番喜ぶ事を言うと解ける」
「答えになってないよ。その内容だってば」
「それは内緒さ」
そう言って彼女の頭を撫でたクロロの目は優しくて俺は思わず小さく笑ってしまった
起きた時はまだ痛みがあったけれど、何とか自力で治療して3日目の夜には歩けるようになった。
痛いし頭は痒いし埃臭いしで昔を思い出しながら半泣きで過ごした
4日目には痛みも大分おさまったのでパクに手を借りて風呂に入り髪を洗って貰う
「助かるよ、痒くて我慢出来なかったんだ」
「足と背中の傷が深い所はまだ少し治療が必要よ」
つんと背中をなぞられて、痛くは無かったがビクリと身体が反応した。パク!と頬を膨らませた私にパクノダはふふっと優しく笑う
「明後日に仕事があるからそれまでに治せって団長に言われたんだよね」
「まぁ、今回の仕事はレイは不参加は無理でしょうね。」
丁寧に洗ってくれた髪をお湯で流して貰うと、身体の隅々まで洗い丁寧に流してからタオルを手に取った
ちゃんと拭くのよと言われ頷いた私を見てパクは風呂場を出た
明後日の仕事に支障が出ない様に私は少し痛む足の傷から治療し始めた
直ぐに2日は経ってしまい、まだ痛む傷を一度撫でて着替えを済ますと皆んなが集まっている広間に顔を出した
団長が私が入って来た事を確認すると今回の仕事の内容を説明し始めた
コンクリートの壁がフィンクスの拳で大きな穴を作りそこから侵入する
階段を上がろうとするとシャルが言っていたお抱えのハンター達が道を塞いだ
手筈通りにフェイタンとフィンクスとシズクがそのハンター達と戦闘を始めた瞬間に猛スピードで階段を上に上がり団長の後ろをシャルと走る
ハンターの男の上に行ったぞと言う声と壁に何かがぶつかる音と悲痛な叫び声を聞きながら一度も振り返らずにひたすら団長の背中を追う
ふと、キラっと光る物が天井に見えて慌ててその場から飛ぶと自分が先程まで居た位置の床には無数の小型ナイフが刺さっていた
シャルも避けたのか廊下の端に立ち止まり上を確認している
「団長行っちゃった」
「分断したかったんだろ、レイ何か感じる?」
「今探ってる。」
シャルが足大丈夫なの?と近付いて来た瞬間にすぐ側の扉から団長が出て来た
「あ、団長…?」
「お前達大丈夫か?」
そう言いながら私に近づいて来た団長の目を見たら何故か冷や汗が出て来て
咄嗟に腰のナイフを取り、彼を刺そうとしたけれど
何故か出来なかった私の目の前には気付いた時にはシャルが居て
瞬きをした次の瞬間には団長もシャルもその場に同時に膝をついていた
その一瞬の流れがスローモーションの様に感じて手をギュッと握り震えを隠すと膝をついた団長の頭を思い切り蹴飛ばした
壁にめり込んだ団長が動かない事を確認して直ぐに振り返る
横腹を抑えたシャルの悲痛な表情を見てすぐに後悔した
「しゃ、シャル」
「…平気。落ち着いて」
「私、分かってたのに…ごめん。ごめんね」
そう言ったら涙が出て来てシャルの血がサラサラと止まらない箇所に手を当てて止血する
片手で私の肩に手を回したシャルはレイが怪我しなくて良かったと小さく呟いた
それを聞いてまた涙が出てしまう私は旅団失格だと思った
「レイの為なら死んでも大丈夫なんだ」
シャルは最近気付いたんだけどねと付け足す様に言って小さく笑った
それを聞いて泣きながら嬉しくて笑った私に、あーでも痛いやと言ったシャルはそのままお尻を床に付けると壁にダラリと背中を預けて目を閉じた
死なないでよと叫ぶ私の声を聞いて、走ってきたフィンクスとフェイタンは泣きじゃくる私の頭をはたいて
お前しか治療出来るやつがいないんだから冷静になれと怒鳴った
涙をごしごしと服で拭っていると、後から走って来たシズクが背中を摩ってくれて私はまたシャルの血塗れの脇腹に手を当てた
「シャルは?」
「熱下がったから大丈夫。炎症は治ったよ」
「レイ、少し寝ろ」
「まだ心配」
「…俺の偽物何かにやられてシャルナークもさぞ悔しいだろうな」
「そういえばクロロの頭蹴り飛ばしちゃった」
「壁にめり込んでた奴か?俺が行った時にはもう変化は解けてたな」
「欲しかったのならごめんね、加減出来なくて」
「仕方ない」
あれからシャルは1日眠りっぱなしで。この間の私みたいだ
毒が塗られて無かったから良かったけど、腹に刺さったナイフの傷はけっこう深かったし傷口が炎症を起こして腫れて大変だった
クロロは私に小さな紙袋を渡すと直ぐに部屋を出て行ってしまった
その中を見ると買って来てくれたのかハンバーガーと珈琲が入っていて少し涙目になりながら口をつけた
昔からいつもヘマをするのは私で、いざって時に動けなかったり泣き虫で皆みたいに上手く出来なかった
そんな私に誰も何も言わなかったしそれが普通だったけどたまに価値が低い気がして悲しくなった
グズってる自分が嫌になってきて、甘えん坊やめたいと思いながら甘えたくて泣き付きたくてシャルのベッドに入り込むと彼を抱き締めて目を閉じる
ずっと治療を続けていたからか、さっきの腹ごしらえでお腹がいっぱいになったからか
直ぐにやってきた眠気に逆らわずにそのまま眠りについた
ゆっくりと目を開けると日は落ちかけでオレンジの光がレイの顔を照らしていた
俺の肩に顔を置き、手を回して寝ているレイはグゥグゥと変わった寝息をかいていて思わず笑ってしまう
きっと治療してくれていて寝てしまったんだろう
涙の後が残る顔を見ていると唇に口付けたいな何て思い、顔を動かそうとするとまた動けない事に気づいて今回はチャンスだったのにとげんなりした
声は出るので起こしてしまおうかなと考えていると、丁度クロロが部屋に入ってきてホッとした
「ナイスタイミング」
「…またか」
「レイが起きるまで待ってようかと思ったんだけど、全然起きる気配が無いんだよね」
「お前の治療で丸一日寝てないんだ。今は寝かせてやれ」
「じゃあ、またあれやってくれない?ほら、この間団長が何か言ったら解けたじゃん」
「ああ、あれか」
「レイの1番嬉しい事言うと解けるって言ってたやつ。俺にも教えといてよ」
そう言った俺にクロロは少し考えてからフッと笑うと
レイの横に立つ
今度は俺にも聞こえる声でハッキリと言った
「シャルはレイが大好きなんだよ」
そう、クロロが優しく言うとレイはこの間みたいにフフっと小さく笑う
そして俺の体が自由になるのを感じた
「…え?」
「小さい頃からこれを言うと解けるのさ」
「…どうゆう事?」
「幼い頃に怖い夢を見ると言って夜中に癇癪を起こす様になった時期があってな。レイがお前に憧れてる事を知っててその場をなだめる為に嘘を吐いた」
「…ぷっ、何それ。」
「シャルはお前が大好きなんだよと言うと嬉しそうに笑って穏やかに眠る。未だにまだ子供なんだよ」
「可愛いなぁ。でも今は嘘じゃなくなったね」
「…そうだな。まぁ、だから教えたんだけどな」
「…何で分かったのかは敢えて聞かないけど…かなわないなぁ。本当に」
昔から自分の事を思っていてくれた嬉しさと団長の前だからか気恥ずかしさが入り混じり
俺は頬をかきながら笑った
「ああ、でも付き合うのは許さんからな」
「はっ?この流れで何でそうなるの?」
「女癖を直したら考えてやる」
「それは絶対クロロに言われたくないよ」
そんなやりとりをしている2人を彼女が嬉しそうに笑って見ていた事は誰も知らない
力も尽きかけていて治療が追いつかない
目の前が少しづつ霞んできて肩で息をしていると、片目が開いてないクロロが足を引きづりながら歩いて来るのがボヤけて見えた
血塗れで歩けない私を見るとクロロは表情も変えずに素早く慣れた手付きで私を抱えた
持ち上げられた時に内股の太い動脈から血が溢れてビシャリとコンクリートが赤く染まり模様を作る
「レイ、しっかりしろ」
「これでもしてるつもりだよ。バカくろろ」
「憎まれ口がきけるならまだ大丈夫そうだな」
温かい胸に顔を寄せるともう痛みなんか無くなってきて。もう駄目なんだなって気がしてクロロの首に腕を回した
この人が居たから今まで生きて来れたし、そういえば何回も危機を救ってもらったなぁ何て思い出すと胸に何かが込み上げて来た気がして彼にギュっと抱き付いた
「なんだ珍しく弱気か?マチとシャルがもうそこまで来てる。もう少しだけ頑張れよ」
「寒い」
「血が足りないんだ。少し待ってろ」
こんな事が昔もあった様な気がする
脱いだコートをレイに掛けてから挫いた足をオーラで補強して走り出した。少し走り建物を抜けた時に力が抜けた彼女はだらりと俺の首から手を離した
すぐ立ち止まり、レイの青白い顔を見ながら芝生に腰を下ろす
マチの気配がした事に安堵して大きく溜息を吐いてゴロンとレイを抱きながら後ろに倒れこんだ
「うわ、2人共凄い怪我。4番は?」
「死んだよ。それよりレイの怪我を縫ってやってくれ。珍しく遺言を言ってたからな」
「…遺言ねぇ。まぁ本当に放っておいたら死ぬ傷だね。…団長は平気?」
「ああ」
マチの顔を見てから、遠くから走ってくるシャルとフランクリンの姿を見つけると更に気が抜けたのか足がズキズキと痛み出した
駆けつけたシャルは平然とした顔で俺を見ると珍しいねといつもの様に笑う
「派手にやられたねぇ」
「右腕も折られて足も捻挫した。レイまで致命傷で4番は死んだよ」
「やっぱり人選ミスだって。だからノブナガとウボォーギンのが良いって言ったじゃん」
「あの2人だと能力的に盗むのに時間がかかる。今考えればシャルとレイと俺のが良かったな」
「出来たよ、次団長ね。シャルレイを持って」
そう言ってマチが血塗れのレイを俺に渡して来て、すぐに団長の治療を始めた
渡された彼女は小さくて軽く中身は本当に入っているのかと不思議になる
最後におぶったのはもう思い出せないくらい昔なのに体重も背もあまり変わって無いんじゃないかと疑問に思う
単純に自分が10年前と比べたら背が30センチも伸びたからかなと考えながら、青白いレイの額の汗を拭うとピクリと反応した彼女に内心生きてると確信して何だか安心した
折られた腕を治療されている団長が建物の方を見つめると、フランクリンとマチもその方向に目をやる
ゆっくりと建物から出て来たのは人間の女に見えるが
その禍々しいオーラと腕が片方無く長い髪が乱れた姿はまるで悪魔の様に見えてくる
「うわぁ。こわっ何あれ」
「…肋を全部折ってやったのに何故歩けるのか不思議だな…。ちなみにあの女はレイを探してる」
「何で?」
「レイが殺したのが女の恋人だったらしい」
「うーん。どうする?団長とレイは戦えないし俺とマチとフランクリンで殺る?」
「あそこまで手負いなら3人でも平気だろう。任せる」
そう言った団長に了解と頷いた俺達3人はあの恐ろしい女の元に向かった
手負いだったからか、すぐに決着は着いてその女は倒れてからずっと小さな声で男の名前を呼び続けていた
「…男はこの建物の中で死んでんだろ?」
マチは俺にそう聞き、団長はそんな事言ってた気がすると言えば
その女を背負って建物に入って行った
「マチは優しいなぁ」
「…ああ。」
ずっと無言のフランクリンにどうかした?と尋ねると
あんだけ人を愛せるってのは不思議だなと思っただけだと少し笑った
アジトに戻ってからレイが寝ているベッドの横に座り濡れたタオルで血を拭いてやる
彼女を見ていれば見ている程なんだか腹が煮え繰り返ってくる気がして嫌な気分になる
先程まで全然そんな感情は感じなかったのに
昔から仲間は沢山死んだし慣れっこだと思っていたけれど。やっぱり慣れない事もあるのかもしれない
それに、こんな風にした奴等はもう死んだのに妙に落ち着かない
レイが死んでたらもっと腹が立ったんだろうな何て考えていると、あの悪魔の様な女の顔をふと思い出した
私の愛する人を殺したあの女を許さない
そう言った女は俺達に最後の力を振り絞って殺そうとしてきた
結局同じなのかと結論が出ると何だか妙な気分になった
「…シャル?」
「ああ、お目覚め?」
「寒い。抱き締めてくれないかな?」
「…いいよ」
彼女がこんな事を言うのは初めてで、内心少し驚いた
彼女を動かす訳にはいかないので、俺がベッドに入って傷に触らないようになるべく優しく抱きしめる。やっぱり柔らかくて小さいなと感じた
お日様の匂いがすると言って胸に擦り寄ってくるレイを女として意識してる自分に気付いて何だかむず痒い
小さな頃からずっと一緒に居て、背負って帰った事も
泣いた彼女を抱き締めてあやした事もあるのに
俺がやきもきしているのに、直ぐにぐっすり眠ってしまったレイの背中をポンポンとあやしながらウトウトしていると視線を感じて扉に目をやる
「…何やってるんだ?」
「寒いから抱き締めてって言われたんだけど…寝ちゃってさ。少し経ってから気付いたんだけど無意識に念で動けなくされてるんだよね」
「ああ、縛られてるな」
ククッと笑ったクロロはレイの隣まで来ると彼女の耳元で小さな声で何かを言った
その瞬間にレイはふふっと小さく笑うが熟睡したままだ
「あ、解けた」
「小さい時からの癖だ」
「レイに何て言ったの?」
「1番喜ぶ事を言うと解ける」
「答えになってないよ。その内容だってば」
「それは内緒さ」
そう言って彼女の頭を撫でたクロロの目は優しくて俺は思わず小さく笑ってしまった
起きた時はまだ痛みがあったけれど、何とか自力で治療して3日目の夜には歩けるようになった。
痛いし頭は痒いし埃臭いしで昔を思い出しながら半泣きで過ごした
4日目には痛みも大分おさまったのでパクに手を借りて風呂に入り髪を洗って貰う
「助かるよ、痒くて我慢出来なかったんだ」
「足と背中の傷が深い所はまだ少し治療が必要よ」
つんと背中をなぞられて、痛くは無かったがビクリと身体が反応した。パク!と頬を膨らませた私にパクノダはふふっと優しく笑う
「明後日に仕事があるからそれまでに治せって団長に言われたんだよね」
「まぁ、今回の仕事はレイは不参加は無理でしょうね。」
丁寧に洗ってくれた髪をお湯で流して貰うと、身体の隅々まで洗い丁寧に流してからタオルを手に取った
ちゃんと拭くのよと言われ頷いた私を見てパクは風呂場を出た
明後日の仕事に支障が出ない様に私は少し痛む足の傷から治療し始めた
直ぐに2日は経ってしまい、まだ痛む傷を一度撫でて着替えを済ますと皆んなが集まっている広間に顔を出した
団長が私が入って来た事を確認すると今回の仕事の内容を説明し始めた
コンクリートの壁がフィンクスの拳で大きな穴を作りそこから侵入する
階段を上がろうとするとシャルが言っていたお抱えのハンター達が道を塞いだ
手筈通りにフェイタンとフィンクスとシズクがそのハンター達と戦闘を始めた瞬間に猛スピードで階段を上に上がり団長の後ろをシャルと走る
ハンターの男の上に行ったぞと言う声と壁に何かがぶつかる音と悲痛な叫び声を聞きながら一度も振り返らずにひたすら団長の背中を追う
ふと、キラっと光る物が天井に見えて慌ててその場から飛ぶと自分が先程まで居た位置の床には無数の小型ナイフが刺さっていた
シャルも避けたのか廊下の端に立ち止まり上を確認している
「団長行っちゃった」
「分断したかったんだろ、レイ何か感じる?」
「今探ってる。」
シャルが足大丈夫なの?と近付いて来た瞬間にすぐ側の扉から団長が出て来た
「あ、団長…?」
「お前達大丈夫か?」
そう言いながら私に近づいて来た団長の目を見たら何故か冷や汗が出て来て
咄嗟に腰のナイフを取り、彼を刺そうとしたけれど
何故か出来なかった私の目の前には気付いた時にはシャルが居て
瞬きをした次の瞬間には団長もシャルもその場に同時に膝をついていた
その一瞬の流れがスローモーションの様に感じて手をギュッと握り震えを隠すと膝をついた団長の頭を思い切り蹴飛ばした
壁にめり込んだ団長が動かない事を確認して直ぐに振り返る
横腹を抑えたシャルの悲痛な表情を見てすぐに後悔した
「しゃ、シャル」
「…平気。落ち着いて」
「私、分かってたのに…ごめん。ごめんね」
そう言ったら涙が出て来てシャルの血がサラサラと止まらない箇所に手を当てて止血する
片手で私の肩に手を回したシャルはレイが怪我しなくて良かったと小さく呟いた
それを聞いてまた涙が出てしまう私は旅団失格だと思った
「レイの為なら死んでも大丈夫なんだ」
シャルは最近気付いたんだけどねと付け足す様に言って小さく笑った
それを聞いて泣きながら嬉しくて笑った私に、あーでも痛いやと言ったシャルはそのままお尻を床に付けると壁にダラリと背中を預けて目を閉じた
死なないでよと叫ぶ私の声を聞いて、走ってきたフィンクスとフェイタンは泣きじゃくる私の頭をはたいて
お前しか治療出来るやつがいないんだから冷静になれと怒鳴った
涙をごしごしと服で拭っていると、後から走って来たシズクが背中を摩ってくれて私はまたシャルの血塗れの脇腹に手を当てた
「シャルは?」
「熱下がったから大丈夫。炎症は治ったよ」
「レイ、少し寝ろ」
「まだ心配」
「…俺の偽物何かにやられてシャルナークもさぞ悔しいだろうな」
「そういえばクロロの頭蹴り飛ばしちゃった」
「壁にめり込んでた奴か?俺が行った時にはもう変化は解けてたな」
「欲しかったのならごめんね、加減出来なくて」
「仕方ない」
あれからシャルは1日眠りっぱなしで。この間の私みたいだ
毒が塗られて無かったから良かったけど、腹に刺さったナイフの傷はけっこう深かったし傷口が炎症を起こして腫れて大変だった
クロロは私に小さな紙袋を渡すと直ぐに部屋を出て行ってしまった
その中を見ると買って来てくれたのかハンバーガーと珈琲が入っていて少し涙目になりながら口をつけた
昔からいつもヘマをするのは私で、いざって時に動けなかったり泣き虫で皆みたいに上手く出来なかった
そんな私に誰も何も言わなかったしそれが普通だったけどたまに価値が低い気がして悲しくなった
グズってる自分が嫌になってきて、甘えん坊やめたいと思いながら甘えたくて泣き付きたくてシャルのベッドに入り込むと彼を抱き締めて目を閉じる
ずっと治療を続けていたからか、さっきの腹ごしらえでお腹がいっぱいになったからか
直ぐにやってきた眠気に逆らわずにそのまま眠りについた
ゆっくりと目を開けると日は落ちかけでオレンジの光がレイの顔を照らしていた
俺の肩に顔を置き、手を回して寝ているレイはグゥグゥと変わった寝息をかいていて思わず笑ってしまう
きっと治療してくれていて寝てしまったんだろう
涙の後が残る顔を見ていると唇に口付けたいな何て思い、顔を動かそうとするとまた動けない事に気づいて今回はチャンスだったのにとげんなりした
声は出るので起こしてしまおうかなと考えていると、丁度クロロが部屋に入ってきてホッとした
「ナイスタイミング」
「…またか」
「レイが起きるまで待ってようかと思ったんだけど、全然起きる気配が無いんだよね」
「お前の治療で丸一日寝てないんだ。今は寝かせてやれ」
「じゃあ、またあれやってくれない?ほら、この間団長が何か言ったら解けたじゃん」
「ああ、あれか」
「レイの1番嬉しい事言うと解けるって言ってたやつ。俺にも教えといてよ」
そう言った俺にクロロは少し考えてからフッと笑うと
レイの横に立つ
今度は俺にも聞こえる声でハッキリと言った
「シャルはレイが大好きなんだよ」
そう、クロロが優しく言うとレイはこの間みたいにフフっと小さく笑う
そして俺の体が自由になるのを感じた
「…え?」
「小さい頃からこれを言うと解けるのさ」
「…どうゆう事?」
「幼い頃に怖い夢を見ると言って夜中に癇癪を起こす様になった時期があってな。レイがお前に憧れてる事を知っててその場をなだめる為に嘘を吐いた」
「…ぷっ、何それ。」
「シャルはお前が大好きなんだよと言うと嬉しそうに笑って穏やかに眠る。未だにまだ子供なんだよ」
「可愛いなぁ。でも今は嘘じゃなくなったね」
「…そうだな。まぁ、だから教えたんだけどな」
「…何で分かったのかは敢えて聞かないけど…かなわないなぁ。本当に」
昔から自分の事を思っていてくれた嬉しさと団長の前だからか気恥ずかしさが入り混じり
俺は頬をかきながら笑った
「ああ、でも付き合うのは許さんからな」
「はっ?この流れで何でそうなるの?」
「女癖を直したら考えてやる」
「それは絶対クロロに言われたくないよ」
そんなやりとりをしている2人を彼女が嬉しそうに笑って見ていた事は誰も知らない