HH シャルナーク
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丁寧に淹れた珈琲に甘めの豆乳をいれて、焼いたばかりのレモンタルトを切り分ける
在宅ワークは嬉しいけれど、毎日毎日手作業で作るアクセサリーは私の肩凝りの原因だ
バキバキと肩を鳴らしながらカウンターテーブルにタルトとカフェオレを置き、ワクワクしながらフォークを手に取るとガチャリと玄関が開いた音がした
玄関の鍵は閉めてあった筈だ
なら入って来れる人物は合鍵を持ったシャルしかいない
トントントンとこちらに向かって廊下を歩いてくる音が聞こえて、ガチャリと扉が開いた
「ただいま、良い匂い。何作ったの??俺にも珈琲淹れてくれない?」
「シャル凄い匂い。先にお風呂入ってきて」
綺麗な髪と顔は鮮血が飛び散り、黒いパーカーは血は目立たないが良く見るとベッチャリと赤黒くなっている
シャルはカウンターテーブルに切り分けてあるタルトを手で掴みそのまま口に入れると、ドン引きしている私を見ながら甘くなくて美味しいと言って笑った。その瞳は瞳孔が開いている
「シャールー、頼むからお風呂入ってきて」
「疲れたんだよ、洗うの面倒くさいんだよね。それより俺を臭い物みたいに言わないでくれない?」
「…洗ってあげるから一緒に入ろ。そんな格好で珈琲淹れても香りが台無しになるわ」
シャルはタルトを咀嚼しながら血塗れのパーカーを脱いで椅子に掛けた。口の中がいっぱいで話せないのか、こちらを笑顔で見つめながら手招きをしている
呆れ半分可愛い半分。はいはいと言いながら彼の真っ白なTシャツに顔を埋めて手を背中に回すと
グリグリと嬉しそうに私に頬擦りをしてから何度も口付けてくる甘い香りのシャルの首に今度は手を回した
ピンポンとインターホンが鳴り、私達は自然に目を合わせる
一瞬で玄関まで移動したシャルは片手でスニーカーを持ち早足で戻って来ると
警官だったから悪いけど対応よろしくと言ってソファにゴロリと横になった
全く本当に世話がやけるなぁと内心思いつつ溜息を吐きながら重い足取りで玄関に向かうと扉をチェーン越しに開けた
若い警官が2人、ニッコリと笑っていたが目は笑っていない。すぐに両方の警官が開けた玄関の隙間から靴を確認するのが分かった
「何かご用ですか?」
「先程通報がありまして、この辺りで血まみれの若い男性が歩いていたと。何か…心当たりはありませんか?」
「…そういえばあそこの黄色の壁の家、先週何人かの男性が刃物を持って出入りしてましたよ。怪我してた人も居たし…。危ない人達なんじゃないですか?」
「あのお向かいの家ですか?」
「はい、夜中もたまに怒鳴り声がするし…ウチは一人暮らしなので怖いんですよ」
「そうですか、ご協力ありがとうございます。戸締りはしっかりして下さいね」
「ご苦労様です」
潤んだ瞳と怖がった仕草が良く効いたのか、2人は頭を下げて向かいの家に歩いて行った
マフィアだか何だか知らないけど、最近越して来てうるさかったからいい気味だと内心思いつつドアを閉めた
リビングに戻るとパンツしか履いてないシャルが私のカフェオレを飲みながらテレビを見ていた
「あんたねぇ。通報するよ」
「ありがと、ねぇ洗ってくれるの?」
「ん?」
「さっき言ってたじゃん、一緒にお風呂入って洗ってくれるって」
「んもう、しょうがないなぁ」
なんだかんだ甘くなってしまうのは恋人だからか
この甘やかしたくなる気持ちは何なんだろうか。もしかして母性?
そんな事を考えながら彼の手を引いて風呂場に向かった
2人で湯船に浸かりながらシャルの顔に付いた血を流しシャンプーを泡立て髪を優しく洗う
極楽だと気持ちよさそうに目を閉じる彼を愛おしいと思ってしまう自分が居た
出たら出たで、珍しくドライヤーまでかけてとねだってくるシャルの髪を乾かすと手を引かれ寝室に着いた途端に抱き枕にされる
五分程で寝息が聞こえてきて、髪をあやす様に撫でながら彼の頬にキスをした
体に巻き付いた腕と足を起こさない様に優しく引っぺがしてからリビングに戻るとシャルの携帯がソファの上で振動していた
人の携帯をいじる趣味は無いのでそのまま放置しておく事にして珈琲を淹れなおそうとお湯を沸かす
五分経っても振動しつづける携帯がさすがに気になってソファに転がっている携帯を手に取った
着信 ミリア
あきらかに女の名前で思わず携帯を握る手に力が入ってしまう
人差し指がボタンに触れると通話になってしまった事に気付き全身の血の気が引いたのが分かった
「もしもし、シャル??」
「………」
「聞こえてないの?」
「…あの、すみません。シャルなら寝てますけど」
咄嗟に出た言葉はこれだった
やってしまったと思ったが、もう仕方ないので腹を括った
「どちら様?この携帯はシャルのでしょ?」
「あー、はい。シャルは寝てますけど起こしますか?」
「貴女だれ?」
「彼女ですけど」
「彼女?私も彼女なんだけど」
そう、聞こえて来た言葉に意外に冷静になった
「…あの、変な事聞きますけどいつから付き合ってます?私は2年前くらいからなんですけど」
「…私はまだ1ヶ月。フロイト公園わかる?あそこで声かけられてさ」
「ああ、分かります。ちなみにシャルと体の関係はありますか?」
「…大人なのよ、あるに決まってるじゃない」
「…はぁ。まじか…ちょっと寝てる馬鹿に電話変わりますね」
「…お願いします」
ミリアの言葉を聞きながら、ズカズカと寝室に入った私は思いっきりシャルの頬にビンタをかまし携帯を投げつける
パァンと良い音が響いて驚いた顔で上半身を起したシャルは私を見て首を傾げる
「び、びっくりした。何!?!」
寝ぼけているのか虚な目で自分の頬に手を当てるシャルに笑顔で携帯を指差した
「ミリアちゃんからだよ、シャルナークさん」
「………」
電話を取ったシャルは、一度私を見てから携帯に耳を当てた
何て言うのか、何を話すのか最初は気になったけれど何だかアホらしくなって来てリビングに戻った
椅子に掛けてあるパーカーをベランダから投げ捨てようと思って手にとれば
隣の部屋から珍しく彼の怒鳴り声が聞こえて来る
「うるさいなぁ。キーキー喚かないでくれない?…いるけど、何なの?一回寝たくらいで彼女きどりやめてくれないかな?こっちは仕事で嫌々押し付けられたんだよね。そこの家に産まれた事を後悔しなよ」
荒々しく喋るシャルは珍しくて、つい耳を傾けてしまう。言ってる事が最低なのに内心仕事だったのかと少しだけ安心した自分がいた
私も案外最低なのかもしれないなと鼻で笑ってしまう
ゴボゴボと沸騰し過ぎたお湯を見つめながら珈琲の粉をフィルターに入れていると、気まずそうなシャルがひょっこりリビングに入ってきた
「レイちゃん、一緒に寝ない?」
「直ぐに出てって」
「…そんな事言わないでさ」
「…彼女から全部聞いたよ」
「……はぁ。あの女めんどくさ」
「ミリアは悪くないでしょうが」
「そうですね」
全部聞いた何て嘘を言いたくなったのは何故だろう
片手で顔を覆い、溜息を吐いたシャルはソファに座り直した
「…仕事だったんだよ」
「じゃあ私もそーゆー仕事するわ。カッコいい人と寝てくるね。仕事だから仕方ないよね」
「…俺がそれをされたらどうなるか分かるよね?」
「知らない」
沸騰し過ぎたお湯を丁寧に注げば、良い香りが部屋中に広がる
未だに下を向いているシャルにパーカーを投げつければ困った様な顔で私を見ていた
「新しい彼氏見つけるから出てって」
プイと彼のしおらしい顔から目を背け、淹れたばかりの珈琲を持って仕事部屋に入りドアを閉めた
こんな時は仕事でもして気を紛らわせようと、珈琲を口に含んでから作業をする
何やらリビングからシャルの声がして、電話してるんだなと思いながらも作業を続けた
私が彼に怒鳴ったのは初めてだった。冷たくしたのも逆らったのも。
本当は何だかんだ嫌いになれないのだ
本当は出てっても彼氏つくるも嘘
シャルからお前しかいないんだとか聞きたかったのかもしれない
最低かなと思ったけれど、良く考えればあっちのが最低かと思い作業を続けた
1時間程経っただろうか、2個目の作品が出来た所で珈琲が空になったのと同時に部屋の戸が開いた
振り向かずに出来た作品を布で磨いていると優しく両腕が首に巻き付いて来た
「レイ、夕飯何食べたい?」
「私に彼氏はいません」
「此処にいるよ」
「明日から婚活に出掛けます」
「そいつ死ぬからやめた方がいいよ」
「クロロさんみたいな人見つける。シャルより強い人なら死なない」
「俺が死ぬじゃん」
「フフフ」
「やっと笑ってくれた」
「笑ったけど、まだ許してないよ」
「…本当に、彼女の事は好きでもないしあの子が勝手に彼女だって言いはってるんだよ」
「体の関係あるって言ってたよ」
「仕事だったし、嫌々だってば。クロロとノブナガとのジャンケンで負けたんだよ。」
「そんなイヤラしい仕事してる人嫌でーす」
「…どうすれば許してくれる?」
後ろから聞こえて来た声は、いつもより弱々しくて何だか聞いてて悲しい様な苦しい様な気持ちになった
「…私の事…をさ、本当に愛してくれてる?」
声が小さかったかもしれない
絞り出す様に言った言葉は静かな部屋に響いた
「私は…さ、ずっと貴方に優しくしたくて、笑って欲しくて…。仕事もさ、シャルがその仕事をする意味が分からないけど…シャルが決めた事だから尊重したいと思ってた。只、ただシャルが好きだったから、どんなシャルでも愛してあげたかった。」
シャルは私をどう思ってる?
ポツリと作品に涙が溢れて、いじらしいな自分て思った
「…レイ…」
ギュゥっと首に巻かれた腕がキツく締められる
少しだけ苦しいけど、今はこれくらいが欲しかったのかもしれない
頬に当たる逞しい腕にちょっぴり痛く噛みついてやれば、一瞬シャルがビクッとしたけど
次の瞬間には両脇に手が添えられて、軽々と持ち上げられてしまう
ヒョイと対面にされて、綺麗なエメラルドの瞳が私を見つめていた
少しだけ赤くなった目は私とお揃いで、内心少しだけ笑ってしまった。
「嫌いにならないでよ。他の男も作らないで。作ったら俺2人共殺しちゃいそうで怖いんだよ」
「私の事殺せるの?」
「…多分無理。どんな事されても無理かも。だからレイだけは俺を裏切らないで」
「裏切ったのはシャルだよ」
「分かってる」
温かくて、柔らかい唇が唇に触れてまた涙が出てしまった
「…シャル」
「ん?」
「お腹空いた。シャンパンにステーキが良い」
「良いよ、デザートは?」
「デザートより愛してるって言葉がいいな」
「じゃあ先にデザートにしようか?ベッドいこう」
「ベッド?何で?」
「ベッドの中で沢山言ってあげるよ」
「ご飯は?」
「後でね」
良く見るとシャルの目の下は薄く黒ずんでいて、瞼が重そうな目で私を見つめている
「シャル、ちょっと2人で昼寝しようか」
「何で?」
「眠くなって来ちゃった」
そう言って肩に顔を押し付けると、眠いのが嘘だと分かったのかフッっと優しく笑ったシャルは私をベッドまで運んでくれる
カーテンの隙間から差し込む日差しが眩しくて目を瞑るとギュゥっと抱きしめて来たシャルの頭を優しく撫でた
嫌いになれない自分はこうやって許してしまう
また次にされても仕事だったからだとか言って潤んだ目でお前しかいないとか言うんだろう
次はいつこんな事があるんだろうかなんて。ふと嫌な未来を考えながら横で眠るシャルナークを見ると
自分の口から自然と大きな溜息が出て来て何故かシャルにでは無く自分が情けなくて泣きたくなった
「もしもしクロロさんですか?」
「?シャルの携帯だよな、君は誰?」
「レイと言います」
「ああ。シャルの彼女か。どうしたの?シャルに何かあった?」
「クロロさんからの仕事で女性を抱いて、その子から電話来てものすっごく気分悪いんですけど。説明してもらえませんかね?名前はミリアって子なんですけども。心当たりありませんか?団長さん」
「……あ、シャルに代わってくれるかな?」
「寝てます。はよ説明しろ」
「いや、あれは…ちょっと掛け直すね」
「こら待てクロっ‥切りやがった…」
後日、ウチにお詫びの品が届いた
何故か茶菓子と紅茶葉のセットだった。シャルが苦笑いで、クロロが謝ってたよと言ってきて私は鼻で笑ってしまう
何だか逞しくなったねと言われて、あんたといるなら逞しくなるしかないでしょうよ。と睨みながら皮肉たっぷりで言うと
そそくさといつもはやらない洗い物をし出して、私はその行動に大きな声で笑ってしまった
在宅ワークは嬉しいけれど、毎日毎日手作業で作るアクセサリーは私の肩凝りの原因だ
バキバキと肩を鳴らしながらカウンターテーブルにタルトとカフェオレを置き、ワクワクしながらフォークを手に取るとガチャリと玄関が開いた音がした
玄関の鍵は閉めてあった筈だ
なら入って来れる人物は合鍵を持ったシャルしかいない
トントントンとこちらに向かって廊下を歩いてくる音が聞こえて、ガチャリと扉が開いた
「ただいま、良い匂い。何作ったの??俺にも珈琲淹れてくれない?」
「シャル凄い匂い。先にお風呂入ってきて」
綺麗な髪と顔は鮮血が飛び散り、黒いパーカーは血は目立たないが良く見るとベッチャリと赤黒くなっている
シャルはカウンターテーブルに切り分けてあるタルトを手で掴みそのまま口に入れると、ドン引きしている私を見ながら甘くなくて美味しいと言って笑った。その瞳は瞳孔が開いている
「シャールー、頼むからお風呂入ってきて」
「疲れたんだよ、洗うの面倒くさいんだよね。それより俺を臭い物みたいに言わないでくれない?」
「…洗ってあげるから一緒に入ろ。そんな格好で珈琲淹れても香りが台無しになるわ」
シャルはタルトを咀嚼しながら血塗れのパーカーを脱いで椅子に掛けた。口の中がいっぱいで話せないのか、こちらを笑顔で見つめながら手招きをしている
呆れ半分可愛い半分。はいはいと言いながら彼の真っ白なTシャツに顔を埋めて手を背中に回すと
グリグリと嬉しそうに私に頬擦りをしてから何度も口付けてくる甘い香りのシャルの首に今度は手を回した
ピンポンとインターホンが鳴り、私達は自然に目を合わせる
一瞬で玄関まで移動したシャルは片手でスニーカーを持ち早足で戻って来ると
警官だったから悪いけど対応よろしくと言ってソファにゴロリと横になった
全く本当に世話がやけるなぁと内心思いつつ溜息を吐きながら重い足取りで玄関に向かうと扉をチェーン越しに開けた
若い警官が2人、ニッコリと笑っていたが目は笑っていない。すぐに両方の警官が開けた玄関の隙間から靴を確認するのが分かった
「何かご用ですか?」
「先程通報がありまして、この辺りで血まみれの若い男性が歩いていたと。何か…心当たりはありませんか?」
「…そういえばあそこの黄色の壁の家、先週何人かの男性が刃物を持って出入りしてましたよ。怪我してた人も居たし…。危ない人達なんじゃないですか?」
「あのお向かいの家ですか?」
「はい、夜中もたまに怒鳴り声がするし…ウチは一人暮らしなので怖いんですよ」
「そうですか、ご協力ありがとうございます。戸締りはしっかりして下さいね」
「ご苦労様です」
潤んだ瞳と怖がった仕草が良く効いたのか、2人は頭を下げて向かいの家に歩いて行った
マフィアだか何だか知らないけど、最近越して来てうるさかったからいい気味だと内心思いつつドアを閉めた
リビングに戻るとパンツしか履いてないシャルが私のカフェオレを飲みながらテレビを見ていた
「あんたねぇ。通報するよ」
「ありがと、ねぇ洗ってくれるの?」
「ん?」
「さっき言ってたじゃん、一緒にお風呂入って洗ってくれるって」
「んもう、しょうがないなぁ」
なんだかんだ甘くなってしまうのは恋人だからか
この甘やかしたくなる気持ちは何なんだろうか。もしかして母性?
そんな事を考えながら彼の手を引いて風呂場に向かった
2人で湯船に浸かりながらシャルの顔に付いた血を流しシャンプーを泡立て髪を優しく洗う
極楽だと気持ちよさそうに目を閉じる彼を愛おしいと思ってしまう自分が居た
出たら出たで、珍しくドライヤーまでかけてとねだってくるシャルの髪を乾かすと手を引かれ寝室に着いた途端に抱き枕にされる
五分程で寝息が聞こえてきて、髪をあやす様に撫でながら彼の頬にキスをした
体に巻き付いた腕と足を起こさない様に優しく引っぺがしてからリビングに戻るとシャルの携帯がソファの上で振動していた
人の携帯をいじる趣味は無いのでそのまま放置しておく事にして珈琲を淹れなおそうとお湯を沸かす
五分経っても振動しつづける携帯がさすがに気になってソファに転がっている携帯を手に取った
着信 ミリア
あきらかに女の名前で思わず携帯を握る手に力が入ってしまう
人差し指がボタンに触れると通話になってしまった事に気付き全身の血の気が引いたのが分かった
「もしもし、シャル??」
「………」
「聞こえてないの?」
「…あの、すみません。シャルなら寝てますけど」
咄嗟に出た言葉はこれだった
やってしまったと思ったが、もう仕方ないので腹を括った
「どちら様?この携帯はシャルのでしょ?」
「あー、はい。シャルは寝てますけど起こしますか?」
「貴女だれ?」
「彼女ですけど」
「彼女?私も彼女なんだけど」
そう、聞こえて来た言葉に意外に冷静になった
「…あの、変な事聞きますけどいつから付き合ってます?私は2年前くらいからなんですけど」
「…私はまだ1ヶ月。フロイト公園わかる?あそこで声かけられてさ」
「ああ、分かります。ちなみにシャルと体の関係はありますか?」
「…大人なのよ、あるに決まってるじゃない」
「…はぁ。まじか…ちょっと寝てる馬鹿に電話変わりますね」
「…お願いします」
ミリアの言葉を聞きながら、ズカズカと寝室に入った私は思いっきりシャルの頬にビンタをかまし携帯を投げつける
パァンと良い音が響いて驚いた顔で上半身を起したシャルは私を見て首を傾げる
「び、びっくりした。何!?!」
寝ぼけているのか虚な目で自分の頬に手を当てるシャルに笑顔で携帯を指差した
「ミリアちゃんからだよ、シャルナークさん」
「………」
電話を取ったシャルは、一度私を見てから携帯に耳を当てた
何て言うのか、何を話すのか最初は気になったけれど何だかアホらしくなって来てリビングに戻った
椅子に掛けてあるパーカーをベランダから投げ捨てようと思って手にとれば
隣の部屋から珍しく彼の怒鳴り声が聞こえて来る
「うるさいなぁ。キーキー喚かないでくれない?…いるけど、何なの?一回寝たくらいで彼女きどりやめてくれないかな?こっちは仕事で嫌々押し付けられたんだよね。そこの家に産まれた事を後悔しなよ」
荒々しく喋るシャルは珍しくて、つい耳を傾けてしまう。言ってる事が最低なのに内心仕事だったのかと少しだけ安心した自分がいた
私も案外最低なのかもしれないなと鼻で笑ってしまう
ゴボゴボと沸騰し過ぎたお湯を見つめながら珈琲の粉をフィルターに入れていると、気まずそうなシャルがひょっこりリビングに入ってきた
「レイちゃん、一緒に寝ない?」
「直ぐに出てって」
「…そんな事言わないでさ」
「…彼女から全部聞いたよ」
「……はぁ。あの女めんどくさ」
「ミリアは悪くないでしょうが」
「そうですね」
全部聞いた何て嘘を言いたくなったのは何故だろう
片手で顔を覆い、溜息を吐いたシャルはソファに座り直した
「…仕事だったんだよ」
「じゃあ私もそーゆー仕事するわ。カッコいい人と寝てくるね。仕事だから仕方ないよね」
「…俺がそれをされたらどうなるか分かるよね?」
「知らない」
沸騰し過ぎたお湯を丁寧に注げば、良い香りが部屋中に広がる
未だに下を向いているシャルにパーカーを投げつければ困った様な顔で私を見ていた
「新しい彼氏見つけるから出てって」
プイと彼のしおらしい顔から目を背け、淹れたばかりの珈琲を持って仕事部屋に入りドアを閉めた
こんな時は仕事でもして気を紛らわせようと、珈琲を口に含んでから作業をする
何やらリビングからシャルの声がして、電話してるんだなと思いながらも作業を続けた
私が彼に怒鳴ったのは初めてだった。冷たくしたのも逆らったのも。
本当は何だかんだ嫌いになれないのだ
本当は出てっても彼氏つくるも嘘
シャルからお前しかいないんだとか聞きたかったのかもしれない
最低かなと思ったけれど、良く考えればあっちのが最低かと思い作業を続けた
1時間程経っただろうか、2個目の作品が出来た所で珈琲が空になったのと同時に部屋の戸が開いた
振り向かずに出来た作品を布で磨いていると優しく両腕が首に巻き付いて来た
「レイ、夕飯何食べたい?」
「私に彼氏はいません」
「此処にいるよ」
「明日から婚活に出掛けます」
「そいつ死ぬからやめた方がいいよ」
「クロロさんみたいな人見つける。シャルより強い人なら死なない」
「俺が死ぬじゃん」
「フフフ」
「やっと笑ってくれた」
「笑ったけど、まだ許してないよ」
「…本当に、彼女の事は好きでもないしあの子が勝手に彼女だって言いはってるんだよ」
「体の関係あるって言ってたよ」
「仕事だったし、嫌々だってば。クロロとノブナガとのジャンケンで負けたんだよ。」
「そんなイヤラしい仕事してる人嫌でーす」
「…どうすれば許してくれる?」
後ろから聞こえて来た声は、いつもより弱々しくて何だか聞いてて悲しい様な苦しい様な気持ちになった
「…私の事…をさ、本当に愛してくれてる?」
声が小さかったかもしれない
絞り出す様に言った言葉は静かな部屋に響いた
「私は…さ、ずっと貴方に優しくしたくて、笑って欲しくて…。仕事もさ、シャルがその仕事をする意味が分からないけど…シャルが決めた事だから尊重したいと思ってた。只、ただシャルが好きだったから、どんなシャルでも愛してあげたかった。」
シャルは私をどう思ってる?
ポツリと作品に涙が溢れて、いじらしいな自分て思った
「…レイ…」
ギュゥっと首に巻かれた腕がキツく締められる
少しだけ苦しいけど、今はこれくらいが欲しかったのかもしれない
頬に当たる逞しい腕にちょっぴり痛く噛みついてやれば、一瞬シャルがビクッとしたけど
次の瞬間には両脇に手が添えられて、軽々と持ち上げられてしまう
ヒョイと対面にされて、綺麗なエメラルドの瞳が私を見つめていた
少しだけ赤くなった目は私とお揃いで、内心少しだけ笑ってしまった。
「嫌いにならないでよ。他の男も作らないで。作ったら俺2人共殺しちゃいそうで怖いんだよ」
「私の事殺せるの?」
「…多分無理。どんな事されても無理かも。だからレイだけは俺を裏切らないで」
「裏切ったのはシャルだよ」
「分かってる」
温かくて、柔らかい唇が唇に触れてまた涙が出てしまった
「…シャル」
「ん?」
「お腹空いた。シャンパンにステーキが良い」
「良いよ、デザートは?」
「デザートより愛してるって言葉がいいな」
「じゃあ先にデザートにしようか?ベッドいこう」
「ベッド?何で?」
「ベッドの中で沢山言ってあげるよ」
「ご飯は?」
「後でね」
良く見るとシャルの目の下は薄く黒ずんでいて、瞼が重そうな目で私を見つめている
「シャル、ちょっと2人で昼寝しようか」
「何で?」
「眠くなって来ちゃった」
そう言って肩に顔を押し付けると、眠いのが嘘だと分かったのかフッっと優しく笑ったシャルは私をベッドまで運んでくれる
カーテンの隙間から差し込む日差しが眩しくて目を瞑るとギュゥっと抱きしめて来たシャルの頭を優しく撫でた
嫌いになれない自分はこうやって許してしまう
また次にされても仕事だったからだとか言って潤んだ目でお前しかいないとか言うんだろう
次はいつこんな事があるんだろうかなんて。ふと嫌な未来を考えながら横で眠るシャルナークを見ると
自分の口から自然と大きな溜息が出て来て何故かシャルにでは無く自分が情けなくて泣きたくなった
「もしもしクロロさんですか?」
「?シャルの携帯だよな、君は誰?」
「レイと言います」
「ああ。シャルの彼女か。どうしたの?シャルに何かあった?」
「クロロさんからの仕事で女性を抱いて、その子から電話来てものすっごく気分悪いんですけど。説明してもらえませんかね?名前はミリアって子なんですけども。心当たりありませんか?団長さん」
「……あ、シャルに代わってくれるかな?」
「寝てます。はよ説明しろ」
「いや、あれは…ちょっと掛け直すね」
「こら待てクロっ‥切りやがった…」
後日、ウチにお詫びの品が届いた
何故か茶菓子と紅茶葉のセットだった。シャルが苦笑いで、クロロが謝ってたよと言ってきて私は鼻で笑ってしまう
何だか逞しくなったねと言われて、あんたといるなら逞しくなるしかないでしょうよ。と睨みながら皮肉たっぷりで言うと
そそくさといつもはやらない洗い物をし出して、私はその行動に大きな声で笑ってしまった