カラカラカラっと、玄関の戸が開いてからすぐにピシャリと閉まる音が聞こえる。窓からチラリと顔を覗かせれば
玄関前に藤の花の香を焚いてから夜の闇に消えていく義勇の後姿が見えた

今日こそは、起きたら彼が横に居てくれて寝顔が見れると思ったのに。

出会いは本当に偶然だった。
週に２度、親族のお店でおかずやおにぎり、布、炭などを売っている所に彼がお客として現れた
おにぎりと鮭大根の煮物を欲しいと言われてお金を受け取り商品を渡した。しかしその手には血が滲んでいて、痛ましい事この上なく。
おせっかいな私は大丈夫だとか、気にするな。とかしか言わない彼を無理やり座らせてから手当てを行ったのだった
売り物の布を使わせてしまった。とこちらが勝手に販売していた布を巻いただけなのに多めのお金を置いて早々と去って行った

それが半年前の出来事
それから私がお店を出す時は頻繁に彼が来て、煮物とおにぎりを買っていってくれた。
ある日、筍ときのこの煮物を見つめる彼に、どうしたの？と聞けば鮭と大根は今日は無いのかと聞かれて次は作ってくると約束した時もあった。

年が近い事もあったからか、私が積極的だった事もあって親しくなるのは早かった
ある時親族の叔父さんから立派な鮭を貰って1番最初に思いついたのは彼にこの鮭で何か美味しい物を作ってあげたいだった。
それを自覚した私は、その次に出店する時から少しだけ、めかしこむ様になっていったと思う
髪をとかし、綺麗な着物を買い。化粧もするようになった。
忙しかったのか、その鮭を煮て売り物に出した時に彼は来なかったけれど
それから最近とても綺麗だねと街の人に褒められる事が多くなっていった。
恋してるんだね、と言われた事もあった。
それのおかげで自信が持てた私は彼が買いにくる度に夕食に誘った。
何回か誘って本当にたまにだけど、彼は仕事が無い時はウチに夕飯を食べに来てくれるようになった

何度めに来てくれた時だかはあまり覚えて無いけれど
夕食を終えて、いつもの如く早々と帰ろうとする彼の背中を抱き締めて、もう少し一緒にいたいと言った私にビクリと身体の振動が伝わってきたのを今でも覚えている。
顔を覗けば普段見れない様な驚いた表情をしていた彼だったが、ゆっくりと腕を掴まれて真正面から抱き締められて。それから甘い夜を一緒に過ごした

思い出すとあの時からふらりとたまに家に来る義勇と食事をしてする事をして眠るだけ。
私は何か物足りなく感じているのかもしれない。
最近は起きると必ず彼は居なかった。

前にどうしていつも刀を持ち歩いているのかと聞いた事があった。義勇は鬼狩りをしているとポツポツ話をしてくれた時は、本当にそんな話があるのかと半信半疑だったけれど。彼の姉の話、友人の話を聞いた時には涙が止まらなかった
幼い頃からそんなに苦労して、悲しみの中生きてきたのかと思うと
自分がどれだけ平和な世で恵まれて生きていたのかと痛感した


鬼は藤の花が嫌いだと言っていた。
義勇が来る様になってから家の外からも中からも藤の花の匂いが絶えない様になっていた
義勇なりに忙しい中で大事にしようとしてくれているのかもしれない。会えるだけで私は幸せものだ。
寂しい気持ちをその考えで押し込める様になっていってた。


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