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先生の声がまるで子守唄の様で、今にも眠ってしまいそうな目を気合いで開きながらノートに黒板の文字を写す
今先生が教科書のどの辺りを解説しているのかさえも分からなくて。頭に浮かぶ事は昼のお弁当を食べすぎて苦しい事と今直ぐにでも机にうつ伏して寝たい。この2つのみだった
「おい、白野。聞こえるー?寝るなー先生来てるぞー」
ボンヤリとしている私の右隣から小さく声が聞こえ、眠い眠いと思いながらそちらを面倒くさそうに振り返れば仙道が口をパクパクさせている
「何?」
そう聞いた瞬間にスパーンと頭に衝撃が走り、その衝撃で一瞬で目が覚めた
目の前には先生がニヤニヤしながら立っていて、私がヘラっと先生にわざとらしく笑顔を浮かべるとクラス中から笑い声がこだまする
「白野、今の答えは?」
「えーと、1です」
「今は数学じゃないだろ!」
スパーンともう一度教科書で頭を叩かれてから、あははと軽く笑った私に隣の席の仙道が小さな声で単語を言った。それをそのまま声に出せば、先生は正解です仙道くんと笑う
私もつられて、正解です仙道くんと言えば
仙道はキョトンとして目を丸くしてからお腹を抱えて笑い出した
今日の全ての授業が終わり帰り支度をしていると、自分を呼ぶ声で振り返る
「あれ?菜摘部活は?」
「今日は行かなーい。雪那暇なら付き合ってくれない?」
「どこに?」
「越野くんの練習みたくてさ」
「ああ、バスケ部の応援か。美智は?」
「美智ならもうとっくに行ったよ」
1年の頃、体育中に怪我をした菜摘をお姫様抱っこで保健室に連れて行ってくれた越野の事をあれからずっと菜摘は好きで
休みの時はバスケ部のマネをやっている美智と越野を見たい菜摘の付き添いとゆうか暇人な私はたまにバスケ部を見に行っていた
「そういえば今日仙道優しかったね。雪那の事頑張って助けようとしててさ。後ろから見てたけど笑えた」
「あー、そう言えば答え教えてくれてたね。助かったわ」
「先生にはバレバレだったけどね」
「はは、違いないね」
キャーキャー聞こえる体育館に入れば、練習試合なのか福田のダンクが決まって同チームの越野とハイタッチする場面が見えた
菜摘をチラリと見れば、目は越野しか見て無い様で口元はほんのり上がっていて可愛らしい
体育館の端にはストップウォッチを持った美智がこちらに気付き手を一度振って来たので、それに応えるように手を上げた
いつも見る場所は決まっていて、大体邪魔にならない様に開けっぱなしの大きな出入り口付近で立ちながらいつも見ている。今日は試合形式だからかギャラリーも多く、いつもに増して咽せる様な暑さだった
外のバレー部を見ていると、ギャーと叫ぶ様な声が響きビックリして視線を試合に向けると
ボールを持った仙道が空中で福田と越野をかわし、仰け反りながらあり得ないポーズでシュートをしていた
そのボールが入った時の歓声、身体の中から凄いって感じた衝撃に思わず私も口を開けて手を叩いてしまっていた
その時フッっと仙道がこちらを見て私と目が合う
手を叩いている私に一度何故か吹き出してから、ガッツポーズをして来たので私も見よう見真似で返した
「何で今一回雪那の事見て吹き出したのかな?ガッツポーズは分かるけど…」
「うーん。おもちゃ屋に置いてあるオラウータンのタンバリン人形に似てたんじゃない?」
「ぷっ、何それ」
「オラウータンが口開けて凄い勢いでタンバリン叩いてるだけの人形。」
「そのままじゃん」
「…あ、越野にボール行ったよ」
「本当だー。あー本当かっこよ…」
「越野って彼女いんの?」
「2組の神崎さんだって噂なんだよね」
「あー、あの凄い綺麗な子ね」
「まあ、雪那が陵南で1番綺麗なんだけどねぇ。あの親の遺伝子なら嫉妬もしないわい」
両親が俳優と女優だった私の家系は昔からとても豊かだったし、以上に容姿に優れていた。街を歩けばスカウトは当たり前だったし、小さな頃は子役何かもしていた
「なっちゃんも越野見てる時は異常にかわゆいよ」
「まあね」
そんな会話をしていると、試合が終わったのか美智が走ってこちらにやってくる
「お疲れ!」
「お疲れちゃん、マネージャーも大変だね」
「てか、悪いんだけどちょっと手伝ってくれない?今日1年のマネが休みで今足挫いた子にテーピングしなきゃいけなくてさ。作った麦茶を体育館の水道から持ってきて配って欲しいの」
そう言って手をパチンと合わせ、お願いと言った美智に私と嬉しそうな菜摘は頷いた
麦茶の入ったタンクは意外にも重く、2人で持ちながら体育館に入り直し言われた通りに紙コップに注いでいく。菜摘に、越野に渡して来なと注ぎ終わったコップを渡せば嬉しそうに走って行った
仙道と福田と話をしていた越野にどうぞと渡す菜摘
越野は少し驚いた様に菜摘を見てから、コップを受け取ると少しだけ笑って菜摘に何か話している
菜摘が私の事を指差すと全員がこちらを向いたので、私はヒラヒラと手を振った
一年生が貰って良いですか?と聞いてきたので、慌てて頷きしゃがみ、コップに麦茶を注ぐ作業に戻る
1人1人に手渡しで渡していると、笑い声が聞こえて振り返れば仙道が笑って居た。そこら辺にコップ置いて置けば皆勝手にやるよ。と言われ少し考えて頷く
「確かにそうか、美智に言われたままやってたわ」
「白野さ、スカートだからあんまりしゃがまない方がいいよ」
「パンツ見えてた?」
「見えそうでヒヤヒヤするよ」
「はは、ごめんごめん。菜摘は越野と話してるの?仙道も飲む?」
「ああ、倉橋さんは越野と話してるよ。もらう」
注いだ麦茶を仙道に渡してマジマジと彼を見た。ブルーのユニフォームに汗だくの身体。背が高く、逞しい筋肉はスポーツマンなんだなぁ何て初めて思い少しだけカッコイイと思ってしまった
「福田は?いる?」
何と無く、仙道と居た福田に話しかければ何故か顔を赤くしてそっぽを向かれた。女子が苦手なんだよと小さな声で私に言って来た仙道に内心可愛いなと思いながら、注いだばかりの麦茶を福田の前まで行って差し出した
「お疲れ様、福田凄い上手だった。ビックリしたよ、頑張ってね」
ニコッと笑った私に、福田は茹蛸の様に顔を更に赤くしてから
お、おうと言ってそのまま走って行ってしまう
「可愛いな…」
「ぷくく。良いもの見れた」
仙道が楽しそうに腹を抱えていて、私にありがとなと言って軽く頭を撫でてくる
その瞬間にキャーと大きな悲鳴があちらこちらから響いて少し笑ってしまった
「仙道のちょっとした行動で叫び声すごいね。羨ましいわ」
「今俺もちょっとビックリしたわ」
「何かしたらまた叫ばれるかな?」
「何かって?…キスとか?」
「それは失神する子とかいそうだよ」
試してみる?そう言った仙道に笑って馬鹿と返すと、目が合った途端に何故か私達に変な空気が流れた様な気がした
「そろそろ行くよ」
菜摘の声が耳に入り、私は笑っていない仙道から目を逸らして今行くと返事をした
仙道を見れば今度はいつも通りニコッっと笑っていて、一時的なマネージャーありがとさんと言ってから行ってしまった
次の日は登校時から嫌な目にあった
上履きに画鋲が入っていたのに気付かず、うっかり踏んでしまい痛みにビックリして思わず倒れてしまうとゴミ箱に激突してしまった
それを見た菜摘の叫び声に私が驚いてしまい、大した事無いと言って振り返ると額から垂れた血が目に入って来て
それを見た菜摘が失神してしまい、他の生徒の手を借りて保健室に運んだりと朝から疲れ果ててしまった
上履きの奥に入っていた小さな紙には、可愛いからって仙道くんに近づくなと赤いペンで書いてあって
見てから直ぐにゴミ箱に捨てた
保健室に行くと、先生は額を消毒をしてから包帯を巻いてくれて、菜摘をベッドに寝かしてくれた
事情を聞かれたので、転んで頭を打ったら血が出てそれを見て菜摘が倒れたと言い画鋲が入っていた事や足の事は言わなかった
白野さんは教室に戻って良いと言われたけれど、一限目の途中で入りたくなくてチャイムが鳴るのを待ってから教室に入った
直ぐに駆け寄ってきた美智に事情を聞かれて全て話すと、美智は嫌そうな顔で、朝に学校に来ると雪那の机の上に仙道くんに近づくなと張り紙がしてあったと言って舌打ちをする
「タチ悪いよね。誰だか分かったらビンタしてやる」
「まぁ、誰がやったかはその内分かるよ」
「そうなの?」
「何かボロ出そうじゃん。そうゆうのって」
「でも気をつけてよ。絶対1人にならないでね」
「ありがとう、分かったよ」
机に座り、中身を確認すれば特に教科書やノート何かは被害が無かった。買い直すの嫌だから助かったなぁなんて思っていると
右隣に座った仙道がおはようと声を掛けて来たので振り向くと、目を見開いてこれどうした?言いながら軽く包帯に触れた
「転んでゴミ箱に突っ込んだ」
「ぷっ、くく。すまん」
「笑い過ぎ。今日って体育あったっけ?」
「3限目は体育だね」
「はぁ。休もうっと」
「大丈夫か?痛くない?」
「平気平気、頑丈だからさ」
菜摘は2限目の終わりに教室に戻って来たので、一緒に次の体育を見学する事にした。
1組2組と合同の体育でサッカーの試合、男女も一緒なので見ていて楽しそうで出なかった事に後悔したのだが、まだ画鋲が刺さった足が痛む
越野に釘づけの菜摘を見て笑っていた私だったが、仙道にボールが行った途端に私も目が釘付けになってしまっていた
越野との連携パスからのシュートに思わず、同じ人間の動きなのかと疑ってしまう程の運動神経に私はまたもや開いた口が塞がらなかった
それから今日の授業が終わり、菜摘と少し話してから帰り支度を終え昇降口まで行くと
私の下駄箱の前に居たのは越野で、目が合うと傷は大丈夫か?と心配そうに顔を覗き込まれた
「え?大丈夫だけど。越野どうしたの?」
「あー、これをさマネージャーが見せて来たんだよね。俺と仙道に」
「あ、朝捨てた紙。」
「マネージャー、すっげぇ怒っててさ。画鋲踏んで転んだんだって?仙道はてっきりドジしただけだと思ってたって言って顔色変えてさ。今先生に部活休むって言いに言ってるから、ちょっと待ってて貰えない?」
「何で仙道が休むの?」
「危ないから送るって聞かなくてさ。送るのが仙道じゃまた白野がやっかまれるから、俺が送るって言ったんだけど仙道もマネージャーもお前はダメだと何故か頑なに言われてさ」
「あー。うん。越野じゃ無い方がありがたいかな。」
「そんな俺の事嫌いなのかよ」
「違うよ、ちょっと事情あるんだけど。越野には嬉しい事情だし嫌ってるとかじゃ無いよ」
なんだ、良かったと言った越野に笑っていると凄いスピードで走ってきた仙道が私の肩を掴む
はあはあと息を切らしている仙道に少しビックリしていると、そのまま仙道は頭を下げて私に謝ってくる
「まじでごめんな」
「仙道悪く無いじゃん」
「いや、ちょっとドジしただけなのかと思って。お前の気持ち考えないですまん」
「気持ちは大丈夫だよ、とゆうか送らなくても大丈夫よ。」
「いや、危ないから送る。じゃあ悪いんだけど越野、魚住さんに話しておいて」
「はいよ」
靴を履き替えた私は、もう何か平気と言っても聞いてくれないからいいかと思い仙道の好意に甘える事にした
2人で自転車置き場までくると、乗りなと言って鞄を籠に入れてくれる。ありがとうと言って後ろに座ると
自転車はゆっくりと走り出した
周りが振り返って私達を見ているけれど、仙道は気にしている様子は無く
家どの辺?と相変わらずマイペースにニコッっと笑っていた
まったりと海辺を走りながら、途中仙道が買ってくれたアイスを口に頬張って足が痛まずに帰れる幸福に浸っていると
ゴロゴロと空から小さく音が鳴って、私達は目を見合わせる。嫌な予感は的中し、五分もしない内に激しい雷雨に打たれながら家に着くと仙道はそのまま走り去ろうとするのでそれを止めて家に招いた
「さすがに危ないし、びちょびちょじゃん。雨が止んだら帰りなよ」
「悪いな」
「家、誰も居ないから気を使わなくて良いよ」
「1人で暮らしてんの?」
「そ、仙道と一緒」
鍵を開けて玄関に入ると、直ぐにタオルを取って仙道をシャワー室に入れる。シャワー浴びたらここにタオルとドライヤーあるからと説明すると
何かを考えた様な仙道は、一点を見つめ困った様に笑う
彼の目線の先を見ると、ビチョビチョのワイシャツはピンクのブラジャーが透けていて模様までハッキリとしていた
「…白野が先に浴びた方が良いんじゃないか?」
「私は直ぐ拭いて着替えるから、まず仙道が全部脱いでこの乾燥機の中に服を入れてシャワー浴びて。着替えはお兄ちゃんのを置いとくから」
「分かった。悪いな」
そう言って風呂に入った仙道を見送ってから私も部屋に入りタオルで全身を拭くが、すっかり身体は冷えきっていた。引き出しからもう半年以上使われていないお兄ちゃんのシャツとズボンを出して洗濯機の上に置いておいた
何回か泊まりに来た兄も最近仕事が忙しくなったと言って顔を見せなくなった
急に出たくしゃみに風邪をひきそうだな何て考えながらキッチンでお湯を沸かして温かい紅茶を飲んでいると、風呂場からドライヤーの音が聞こえる
サイズは大丈夫だったかなと思いながら、あまり考え無しにドアを開けるとパンツ一丁の仙道が髪を乾かしていた
前髪は垂れ下がり、厚い胸板に割れた腹筋が目に入る
ギョッとしている仙道に、ごめんと言ってから退室したのだがどうしても髪をあげていない姿を写真に撮りたくて一度部屋に戻り携帯を取ってから
こっそりとドアを開けてドライヤーをしている写真をカメラに納めた
「ちょっと、今撮っただろ」
「髪の毛垂れてるのレアなんだもん」
「じゃー俺にも風呂上がり撮らせてね」
「私前髪降りてるじゃん」
「ちょっと違うな」
はいはい、交代してと言って仙道の背中を押して脱衣所から着替えと一緒に出すと紅茶が沸いてるから飲んでと付け足してと言っておく
服を脱ぎ、包帯を取ってからシャワーを浴びていると物凄い音がして電気がフッと消えた
小さな窓があるので、真っ暗にはならなかったけど走って来てくれたのか仙道が大丈夫か?と言って脱衣所から声を掛けてくれる
「雷落ちたの?」
「ああ。近かったな。」
「暗くて見えないし、もう上がるね」
「分かった」
停電とはついてないなと溜息を吐いて、温かな身体を良く拭いてからドライヤーをしていると
ガチャっと扉が少しだけ開いたので、ビックリしてまだ服着てないよと怒ると本当すみませんと泣きそうな声が返ってきて笑ってしまう
髪を乾かしてキャミソールと短パンを着てからリビングに行くと、ソファに頭を付けてすみませんと謝って来る仙道に大笑いした
「怒って無いよ、それより紅茶飲んだ?」
「ご馳走様、あったまったよ」
「仙道くんスケベー」
「スケベなのは否定しないけど、服着てると思った。本当に。ごめんね」
そう言いながら近づいて来た仙道は少し悲しい顔をしながら私の額に触れた
「…色々ごめんね」
「ううん、仙道もうすぐ東京のチームと試合なんでしょ?こっちも休ませてごめんね」
「いや、俺は練習しなくて大丈夫だから」
「まあ、天才は羨ましいわ」
ははっと笑った私を見て、仙道は優しく髪を撫でてくる
首を傾げた私に、少しだけ急にキツイ顔をすると今まで聞いた事が無いような低い声で話し出した
「これから、何があっても絶対男は家に入れない事。後、何か誰かにされたりしたら直ぐに俺に言う事。分かった?」
「男って…仙道も?」
「うーん。俺は良いかな」
「他は駄目なの?何で?」
「危ないからに決まってるだろ」
「仙道は危なくないの?」
「…危ないかなぁ?」
「私が聞いてるんだけど」
だんまりとしてしまった仙道は、片手で私の両方の手首を一瞬で掴むと壁に押し付ける
ビックリして固まる私に、今ここから動ける?といつもの調子で話しかけて来たので内心ちょっとホッとした
手は勿論動かないけど、精一杯動いても下半身も押し付けられて動けない。
フルフルと首を横にふると、ね。危ないでしょ?とニコッっと笑った
「その格好も警戒心が無さすぎる」
「気をつけまーす」
腕を解かれて、ホッとしていると額をもう一度優しく触って来た仙道は私の目を見てから身体を包む様にキツく抱きしめて来た
その行動にまた硬直してしまい、せ、仙道?と小さく声を出すと
仙道は私の首筋に唇を這わせ、優しく噛み付いてくる
思わず、ひゃっと小さく高い声が出てしまうと
これ以上すると止められねぇと言った仙道は私をもう一度キツく抱きしめると頭をポンポンと優しく撫でながらゆっくりと身体を離した
仙道が私を真面目な顔で見て来て、私もその目に吸い込まれそうになった瞬間
「くしゅん」
「ヘックシュン」
2人同時に出たくしゃみにお互いに笑ってしまった
それから電気がつかない暗い部屋で2人で毛布を被りながら、のんびりと他愛も無い話を沢山した
嬉しかったのは、雷が鳴るたびに仙道が手を握ってくれた事だった
今先生が教科書のどの辺りを解説しているのかさえも分からなくて。頭に浮かぶ事は昼のお弁当を食べすぎて苦しい事と今直ぐにでも机にうつ伏して寝たい。この2つのみだった
「おい、白野。聞こえるー?寝るなー先生来てるぞー」
ボンヤリとしている私の右隣から小さく声が聞こえ、眠い眠いと思いながらそちらを面倒くさそうに振り返れば仙道が口をパクパクさせている
「何?」
そう聞いた瞬間にスパーンと頭に衝撃が走り、その衝撃で一瞬で目が覚めた
目の前には先生がニヤニヤしながら立っていて、私がヘラっと先生にわざとらしく笑顔を浮かべるとクラス中から笑い声がこだまする
「白野、今の答えは?」
「えーと、1です」
「今は数学じゃないだろ!」
スパーンともう一度教科書で頭を叩かれてから、あははと軽く笑った私に隣の席の仙道が小さな声で単語を言った。それをそのまま声に出せば、先生は正解です仙道くんと笑う
私もつられて、正解です仙道くんと言えば
仙道はキョトンとして目を丸くしてからお腹を抱えて笑い出した
今日の全ての授業が終わり帰り支度をしていると、自分を呼ぶ声で振り返る
「あれ?菜摘部活は?」
「今日は行かなーい。雪那暇なら付き合ってくれない?」
「どこに?」
「越野くんの練習みたくてさ」
「ああ、バスケ部の応援か。美智は?」
「美智ならもうとっくに行ったよ」
1年の頃、体育中に怪我をした菜摘をお姫様抱っこで保健室に連れて行ってくれた越野の事をあれからずっと菜摘は好きで
休みの時はバスケ部のマネをやっている美智と越野を見たい菜摘の付き添いとゆうか暇人な私はたまにバスケ部を見に行っていた
「そういえば今日仙道優しかったね。雪那の事頑張って助けようとしててさ。後ろから見てたけど笑えた」
「あー、そう言えば答え教えてくれてたね。助かったわ」
「先生にはバレバレだったけどね」
「はは、違いないね」
キャーキャー聞こえる体育館に入れば、練習試合なのか福田のダンクが決まって同チームの越野とハイタッチする場面が見えた
菜摘をチラリと見れば、目は越野しか見て無い様で口元はほんのり上がっていて可愛らしい
体育館の端にはストップウォッチを持った美智がこちらに気付き手を一度振って来たので、それに応えるように手を上げた
いつも見る場所は決まっていて、大体邪魔にならない様に開けっぱなしの大きな出入り口付近で立ちながらいつも見ている。今日は試合形式だからかギャラリーも多く、いつもに増して咽せる様な暑さだった
外のバレー部を見ていると、ギャーと叫ぶ様な声が響きビックリして視線を試合に向けると
ボールを持った仙道が空中で福田と越野をかわし、仰け反りながらあり得ないポーズでシュートをしていた
そのボールが入った時の歓声、身体の中から凄いって感じた衝撃に思わず私も口を開けて手を叩いてしまっていた
その時フッっと仙道がこちらを見て私と目が合う
手を叩いている私に一度何故か吹き出してから、ガッツポーズをして来たので私も見よう見真似で返した
「何で今一回雪那の事見て吹き出したのかな?ガッツポーズは分かるけど…」
「うーん。おもちゃ屋に置いてあるオラウータンのタンバリン人形に似てたんじゃない?」
「ぷっ、何それ」
「オラウータンが口開けて凄い勢いでタンバリン叩いてるだけの人形。」
「そのままじゃん」
「…あ、越野にボール行ったよ」
「本当だー。あー本当かっこよ…」
「越野って彼女いんの?」
「2組の神崎さんだって噂なんだよね」
「あー、あの凄い綺麗な子ね」
「まあ、雪那が陵南で1番綺麗なんだけどねぇ。あの親の遺伝子なら嫉妬もしないわい」
両親が俳優と女優だった私の家系は昔からとても豊かだったし、以上に容姿に優れていた。街を歩けばスカウトは当たり前だったし、小さな頃は子役何かもしていた
「なっちゃんも越野見てる時は異常にかわゆいよ」
「まあね」
そんな会話をしていると、試合が終わったのか美智が走ってこちらにやってくる
「お疲れ!」
「お疲れちゃん、マネージャーも大変だね」
「てか、悪いんだけどちょっと手伝ってくれない?今日1年のマネが休みで今足挫いた子にテーピングしなきゃいけなくてさ。作った麦茶を体育館の水道から持ってきて配って欲しいの」
そう言って手をパチンと合わせ、お願いと言った美智に私と嬉しそうな菜摘は頷いた
麦茶の入ったタンクは意外にも重く、2人で持ちながら体育館に入り直し言われた通りに紙コップに注いでいく。菜摘に、越野に渡して来なと注ぎ終わったコップを渡せば嬉しそうに走って行った
仙道と福田と話をしていた越野にどうぞと渡す菜摘
越野は少し驚いた様に菜摘を見てから、コップを受け取ると少しだけ笑って菜摘に何か話している
菜摘が私の事を指差すと全員がこちらを向いたので、私はヒラヒラと手を振った
一年生が貰って良いですか?と聞いてきたので、慌てて頷きしゃがみ、コップに麦茶を注ぐ作業に戻る
1人1人に手渡しで渡していると、笑い声が聞こえて振り返れば仙道が笑って居た。そこら辺にコップ置いて置けば皆勝手にやるよ。と言われ少し考えて頷く
「確かにそうか、美智に言われたままやってたわ」
「白野さ、スカートだからあんまりしゃがまない方がいいよ」
「パンツ見えてた?」
「見えそうでヒヤヒヤするよ」
「はは、ごめんごめん。菜摘は越野と話してるの?仙道も飲む?」
「ああ、倉橋さんは越野と話してるよ。もらう」
注いだ麦茶を仙道に渡してマジマジと彼を見た。ブルーのユニフォームに汗だくの身体。背が高く、逞しい筋肉はスポーツマンなんだなぁ何て初めて思い少しだけカッコイイと思ってしまった
「福田は?いる?」
何と無く、仙道と居た福田に話しかければ何故か顔を赤くしてそっぽを向かれた。女子が苦手なんだよと小さな声で私に言って来た仙道に内心可愛いなと思いながら、注いだばかりの麦茶を福田の前まで行って差し出した
「お疲れ様、福田凄い上手だった。ビックリしたよ、頑張ってね」
ニコッと笑った私に、福田は茹蛸の様に顔を更に赤くしてから
お、おうと言ってそのまま走って行ってしまう
「可愛いな…」
「ぷくく。良いもの見れた」
仙道が楽しそうに腹を抱えていて、私にありがとなと言って軽く頭を撫でてくる
その瞬間にキャーと大きな悲鳴があちらこちらから響いて少し笑ってしまった
「仙道のちょっとした行動で叫び声すごいね。羨ましいわ」
「今俺もちょっとビックリしたわ」
「何かしたらまた叫ばれるかな?」
「何かって?…キスとか?」
「それは失神する子とかいそうだよ」
試してみる?そう言った仙道に笑って馬鹿と返すと、目が合った途端に何故か私達に変な空気が流れた様な気がした
「そろそろ行くよ」
菜摘の声が耳に入り、私は笑っていない仙道から目を逸らして今行くと返事をした
仙道を見れば今度はいつも通りニコッっと笑っていて、一時的なマネージャーありがとさんと言ってから行ってしまった
次の日は登校時から嫌な目にあった
上履きに画鋲が入っていたのに気付かず、うっかり踏んでしまい痛みにビックリして思わず倒れてしまうとゴミ箱に激突してしまった
それを見た菜摘の叫び声に私が驚いてしまい、大した事無いと言って振り返ると額から垂れた血が目に入って来て
それを見た菜摘が失神してしまい、他の生徒の手を借りて保健室に運んだりと朝から疲れ果ててしまった
上履きの奥に入っていた小さな紙には、可愛いからって仙道くんに近づくなと赤いペンで書いてあって
見てから直ぐにゴミ箱に捨てた
保健室に行くと、先生は額を消毒をしてから包帯を巻いてくれて、菜摘をベッドに寝かしてくれた
事情を聞かれたので、転んで頭を打ったら血が出てそれを見て菜摘が倒れたと言い画鋲が入っていた事や足の事は言わなかった
白野さんは教室に戻って良いと言われたけれど、一限目の途中で入りたくなくてチャイムが鳴るのを待ってから教室に入った
直ぐに駆け寄ってきた美智に事情を聞かれて全て話すと、美智は嫌そうな顔で、朝に学校に来ると雪那の机の上に仙道くんに近づくなと張り紙がしてあったと言って舌打ちをする
「タチ悪いよね。誰だか分かったらビンタしてやる」
「まぁ、誰がやったかはその内分かるよ」
「そうなの?」
「何かボロ出そうじゃん。そうゆうのって」
「でも気をつけてよ。絶対1人にならないでね」
「ありがとう、分かったよ」
机に座り、中身を確認すれば特に教科書やノート何かは被害が無かった。買い直すの嫌だから助かったなぁなんて思っていると
右隣に座った仙道がおはようと声を掛けて来たので振り向くと、目を見開いてこれどうした?言いながら軽く包帯に触れた
「転んでゴミ箱に突っ込んだ」
「ぷっ、くく。すまん」
「笑い過ぎ。今日って体育あったっけ?」
「3限目は体育だね」
「はぁ。休もうっと」
「大丈夫か?痛くない?」
「平気平気、頑丈だからさ」
菜摘は2限目の終わりに教室に戻って来たので、一緒に次の体育を見学する事にした。
1組2組と合同の体育でサッカーの試合、男女も一緒なので見ていて楽しそうで出なかった事に後悔したのだが、まだ画鋲が刺さった足が痛む
越野に釘づけの菜摘を見て笑っていた私だったが、仙道にボールが行った途端に私も目が釘付けになってしまっていた
越野との連携パスからのシュートに思わず、同じ人間の動きなのかと疑ってしまう程の運動神経に私はまたもや開いた口が塞がらなかった
それから今日の授業が終わり、菜摘と少し話してから帰り支度を終え昇降口まで行くと
私の下駄箱の前に居たのは越野で、目が合うと傷は大丈夫か?と心配そうに顔を覗き込まれた
「え?大丈夫だけど。越野どうしたの?」
「あー、これをさマネージャーが見せて来たんだよね。俺と仙道に」
「あ、朝捨てた紙。」
「マネージャー、すっげぇ怒っててさ。画鋲踏んで転んだんだって?仙道はてっきりドジしただけだと思ってたって言って顔色変えてさ。今先生に部活休むって言いに言ってるから、ちょっと待ってて貰えない?」
「何で仙道が休むの?」
「危ないから送るって聞かなくてさ。送るのが仙道じゃまた白野がやっかまれるから、俺が送るって言ったんだけど仙道もマネージャーもお前はダメだと何故か頑なに言われてさ」
「あー。うん。越野じゃ無い方がありがたいかな。」
「そんな俺の事嫌いなのかよ」
「違うよ、ちょっと事情あるんだけど。越野には嬉しい事情だし嫌ってるとかじゃ無いよ」
なんだ、良かったと言った越野に笑っていると凄いスピードで走ってきた仙道が私の肩を掴む
はあはあと息を切らしている仙道に少しビックリしていると、そのまま仙道は頭を下げて私に謝ってくる
「まじでごめんな」
「仙道悪く無いじゃん」
「いや、ちょっとドジしただけなのかと思って。お前の気持ち考えないですまん」
「気持ちは大丈夫だよ、とゆうか送らなくても大丈夫よ。」
「いや、危ないから送る。じゃあ悪いんだけど越野、魚住さんに話しておいて」
「はいよ」
靴を履き替えた私は、もう何か平気と言っても聞いてくれないからいいかと思い仙道の好意に甘える事にした
2人で自転車置き場までくると、乗りなと言って鞄を籠に入れてくれる。ありがとうと言って後ろに座ると
自転車はゆっくりと走り出した
周りが振り返って私達を見ているけれど、仙道は気にしている様子は無く
家どの辺?と相変わらずマイペースにニコッっと笑っていた
まったりと海辺を走りながら、途中仙道が買ってくれたアイスを口に頬張って足が痛まずに帰れる幸福に浸っていると
ゴロゴロと空から小さく音が鳴って、私達は目を見合わせる。嫌な予感は的中し、五分もしない内に激しい雷雨に打たれながら家に着くと仙道はそのまま走り去ろうとするのでそれを止めて家に招いた
「さすがに危ないし、びちょびちょじゃん。雨が止んだら帰りなよ」
「悪いな」
「家、誰も居ないから気を使わなくて良いよ」
「1人で暮らしてんの?」
「そ、仙道と一緒」
鍵を開けて玄関に入ると、直ぐにタオルを取って仙道をシャワー室に入れる。シャワー浴びたらここにタオルとドライヤーあるからと説明すると
何かを考えた様な仙道は、一点を見つめ困った様に笑う
彼の目線の先を見ると、ビチョビチョのワイシャツはピンクのブラジャーが透けていて模様までハッキリとしていた
「…白野が先に浴びた方が良いんじゃないか?」
「私は直ぐ拭いて着替えるから、まず仙道が全部脱いでこの乾燥機の中に服を入れてシャワー浴びて。着替えはお兄ちゃんのを置いとくから」
「分かった。悪いな」
そう言って風呂に入った仙道を見送ってから私も部屋に入りタオルで全身を拭くが、すっかり身体は冷えきっていた。引き出しからもう半年以上使われていないお兄ちゃんのシャツとズボンを出して洗濯機の上に置いておいた
何回か泊まりに来た兄も最近仕事が忙しくなったと言って顔を見せなくなった
急に出たくしゃみに風邪をひきそうだな何て考えながらキッチンでお湯を沸かして温かい紅茶を飲んでいると、風呂場からドライヤーの音が聞こえる
サイズは大丈夫だったかなと思いながら、あまり考え無しにドアを開けるとパンツ一丁の仙道が髪を乾かしていた
前髪は垂れ下がり、厚い胸板に割れた腹筋が目に入る
ギョッとしている仙道に、ごめんと言ってから退室したのだがどうしても髪をあげていない姿を写真に撮りたくて一度部屋に戻り携帯を取ってから
こっそりとドアを開けてドライヤーをしている写真をカメラに納めた
「ちょっと、今撮っただろ」
「髪の毛垂れてるのレアなんだもん」
「じゃー俺にも風呂上がり撮らせてね」
「私前髪降りてるじゃん」
「ちょっと違うな」
はいはい、交代してと言って仙道の背中を押して脱衣所から着替えと一緒に出すと紅茶が沸いてるから飲んでと付け足してと言っておく
服を脱ぎ、包帯を取ってからシャワーを浴びていると物凄い音がして電気がフッと消えた
小さな窓があるので、真っ暗にはならなかったけど走って来てくれたのか仙道が大丈夫か?と言って脱衣所から声を掛けてくれる
「雷落ちたの?」
「ああ。近かったな。」
「暗くて見えないし、もう上がるね」
「分かった」
停電とはついてないなと溜息を吐いて、温かな身体を良く拭いてからドライヤーをしていると
ガチャっと扉が少しだけ開いたので、ビックリしてまだ服着てないよと怒ると本当すみませんと泣きそうな声が返ってきて笑ってしまう
髪を乾かしてキャミソールと短パンを着てからリビングに行くと、ソファに頭を付けてすみませんと謝って来る仙道に大笑いした
「怒って無いよ、それより紅茶飲んだ?」
「ご馳走様、あったまったよ」
「仙道くんスケベー」
「スケベなのは否定しないけど、服着てると思った。本当に。ごめんね」
そう言いながら近づいて来た仙道は少し悲しい顔をしながら私の額に触れた
「…色々ごめんね」
「ううん、仙道もうすぐ東京のチームと試合なんでしょ?こっちも休ませてごめんね」
「いや、俺は練習しなくて大丈夫だから」
「まあ、天才は羨ましいわ」
ははっと笑った私を見て、仙道は優しく髪を撫でてくる
首を傾げた私に、少しだけ急にキツイ顔をすると今まで聞いた事が無いような低い声で話し出した
「これから、何があっても絶対男は家に入れない事。後、何か誰かにされたりしたら直ぐに俺に言う事。分かった?」
「男って…仙道も?」
「うーん。俺は良いかな」
「他は駄目なの?何で?」
「危ないからに決まってるだろ」
「仙道は危なくないの?」
「…危ないかなぁ?」
「私が聞いてるんだけど」
だんまりとしてしまった仙道は、片手で私の両方の手首を一瞬で掴むと壁に押し付ける
ビックリして固まる私に、今ここから動ける?といつもの調子で話しかけて来たので内心ちょっとホッとした
手は勿論動かないけど、精一杯動いても下半身も押し付けられて動けない。
フルフルと首を横にふると、ね。危ないでしょ?とニコッっと笑った
「その格好も警戒心が無さすぎる」
「気をつけまーす」
腕を解かれて、ホッとしていると額をもう一度優しく触って来た仙道は私の目を見てから身体を包む様にキツく抱きしめて来た
その行動にまた硬直してしまい、せ、仙道?と小さく声を出すと
仙道は私の首筋に唇を這わせ、優しく噛み付いてくる
思わず、ひゃっと小さく高い声が出てしまうと
これ以上すると止められねぇと言った仙道は私をもう一度キツく抱きしめると頭をポンポンと優しく撫でながらゆっくりと身体を離した
仙道が私を真面目な顔で見て来て、私もその目に吸い込まれそうになった瞬間
「くしゅん」
「ヘックシュン」
2人同時に出たくしゃみにお互いに笑ってしまった
それから電気がつかない暗い部屋で2人で毛布を被りながら、のんびりと他愛も無い話を沢山した
嬉しかったのは、雷が鳴るたびに仙道が手を握ってくれた事だった