歩くような速さで
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酷い耳鳴りと、体の怠さを感じながら目を開けた
見た事も無いような小綺麗な部屋で私は自分の膝を抱えていた。まるでネグリジェの様な黒のワンピースを着た自分の左足には見て分かる程の重そうな足枷が付いていて、1人首を傾げながら周囲を警戒するが特に誰も周囲にいる気配は無い。また飛ばされてきたんだって事は分かるけど今回はかなり異様に感じた
足枷に付いた鎖はパッと見てかなり長い。少しだけ怖いけれど辺りを1度確認しておこうと立ち上がり、直ぐ側にあった部屋のドアを恐る恐る開けるとトイレだった事にホッとした。その横のガラス戸はシャワー室になっていて、シャワー室の鏡に写る自分は先程まで学生だったからか随分と老けて見える。何故か首にくっきりと絞められた様な青黄色の痣に、唇の横には切り傷、舌も軽くだが噛まれた様な傷があった
鏡に顔を寄せ口の傷を撫でると、何だか気持ちが悪くなって来てゾクリと本気で鳥肌が立った
嫌な気分でシャワー室から出てもう1つあったドアを開けると10帖程の部屋に大きめのベッドがあり、小さなソファと小さなテーブルに最新型だと一目見て分かる程の薄いテレビが置いてある。窓の外に見えるのは高層ビルしか無いつまらない景色。窓の外をボンヤリと眺めながら、私みたいな平凡アクセサリー職人が何故こんな事になるのだろうか疑問を感じた
テーブルにポツンと置かれている携帯電話はモデルも見た事が無いもので、勿論自分の物では無い感じがした。手に取って中を見れば全て着信履歴は非通知で、LINEのアプリもインストールされておらずメールも一通も残っていない事が異様に感じて自然に目を細めてしまう
1度少し落ち着こうとソファに腰かけ、リモコンを手に取り電源ボタンを押した。画面に映る映像には良く知る名前が出てきて私は眉を寄せ思わずその場で硬直してしまった
東京卍會と〇〇組との抗争で被害者多数
よく知る歌舞伎町の交差点におびただしい血の跡の様な物が沢山あり、大勢の警察官がそれを囲んでいた
ふと、思い付いたのは隆が東京卍會の幹部で、関係のある私が〇〇組に誘拐されたとか?それなら顔や体に多少怪我をしていても納得がいったが、それを考えたらさっきよりも恐ろしくなってしまい震える手を握り締めた。
色々妄想していると、ドアの向こうから人の話声が聞こえたが何を言っているのかは全く分からない。怖くなって何処かに隠れようと辺りを見回していると、急た扉が開きその音にビクリとした私の前に現れたのは大人になったちーちゃんの姿だった
「…もしかして…ちーちゃん?」
「……ちーちゃん?」
「ちーちゃん、良かった……。一人で怖かったんだ」
「…… 雪那さん?」
「…何でこんな所に閉じ込められてるのか教えて欲しい……」
「……雪那さん。もしかして、違う雪那 さん?」
「うん」と1度頷いて、昨日まで高校生だけど元々は25だと少し興奮気味に話す私に困った様な顔をしたちーちゃんは暫く黙っていたけれど、泣きそうな私の顔を見ておだやかに微笑むと私の隣に腰を下ろした
「……少し時間あるので説明しますね」
黒のタートルネックに黒のスーツ、黒髪。ついこの間まで金色の柔らかな髪に変なTシャツを着ていたちーちゃんとはギャップがあり過ぎて最初はちょっと戸惑った。だけど元々優しい子なのは分かっているし、大人になっても気を使いながら私に説明してくれているちーちゃんの変化の無さに私の精神も話していて少しだけ安定した
〇〇組と抗争になったのは1年前
マイキーをトップにしている東京卍會と東京のヤクザの抗争らしい。稀咲君、ドラちゃん、隆、けいちゃん、一虎くん、ぱーちゃん達は狙われていて道も普通に歩けない状態だと言われて私は首を傾げた
「ドラちゃんとけいちゃん何で生きてるの?」
「何でって……まだ死んでませんよ」
唇を少しだけ尖らせ、場地さんを殺さないで下さいよと言ったちーちゃんの顔と言葉は嘘には聞こえない。状況はかなり良く無いのかもしれないけれど、ここの未来では生きてるんだと嬉しくなった
「……状況は多少分かったけど、私は家に帰れないのかな?」
「……三ツ谷君が多分返してくれないと思います」
「隆は無事なんだね。本当に安心した」
「…… 雪那さんは、三ツ谷君の事を今どう思ってますか?」
「えぇ?隆の事?愛してるに決まってるじゃない。何でそんな当たり前の事聞くの?……もしかしてこの未来では他に彼女とかが……いるの?」
「……彼女とかは居ませんし、 雪那さんの事を三ツ谷君も凄く大事に…してます。でも……」
「……でも?」
「もう昔の三ツ谷君じゃないし、大事にするって事が多分……分からなくなっていると思います」
「……ちーちゃん、隆に電話しても良い?少しだけ話したい」
「……分かりました。緊急事態って事で電話しますね。……1度話しておいた方が良いと思うので」
高そうなスーツの胸ポケットから携帯を取り出したちーちゃんは何回か携帯のボタンを押してから自身の耳元に電話を付け私の事を少しだけ悲しげな表情で見つめていた
「もしもし、三ツ谷君ですか?雪那さんから電話してくれと頼まれました。…はい、でも…嘘じゃないです本当ですよ」
そう言ってから私に携帯を差し出して来たちーちゃんの顔は少しだけ強ばっている様に見えたが、そのまま電話を受け取り携帯を耳に当てて口を開いた
「……もしもし?隆?……聞こえる?」
「……ああ」
「私がどうしてこの場所にいるのか説明して欲しいの」
「……何言ってんだ?」
「私25歳の雪那だって言えば分かってくれる?……さっきこの部屋で目が覚めたんだけど首とか唇とか傷あって正直今も怖い……。助けてよ隆」
「……助けてか……。お前を監禁してるのも首の痣も俺がやったものだ」
「…………本気で言ってるの?」
「千冬から聞いて無いんだな。……とりあえずそっちに行くから少し待ってろ」
会話の内容についていけずに唖然としていると既に通話は終了していた。何だか声は同じなのに淡々と感情が見えない話し方をする隆の声は何だか異様に感じてしまい、目の前にいるちーちゃんに携帯を渡してからソファに座り込んだ
「……大丈夫ですか?」
「……隆は変わったんだね」
「何て言って良いか分からないんですけど……色々あって三ツ谷君はかなり変わりました。 雪那さんも変わりましたよ」
「……私はどんな感じだったの?」
「……誰とも口も聞かずに無表情でした。三ツ谷君の事も目にも入っていない感じです。……唯一ドラケン君とはたまに話をしているのを見た事あるくらいでした」
「……どうゆう事?」
「すみません、これ以上は言わないでおきます。だけど久しぶりに普通の雪那さんと話が出来て嬉しかったですよ」
「…………」
小さく聞こえてくる足音に私がビクッとすると「三ツ谷君です」と言ったちーちゃんは私の背を優しく1度だけ撫でた。「もし、耐えきれなくなったらテーブルにある携帯電話の2番を1人の時に押して下さい」そう言って私に少しだけ微笑むと部屋を出て行ってしまう
入れ替わる様に入って来たのは黒いスーツを着て黒髪の隆だったけれど、目は吊り目で異様な雰囲気を感じてしまった。私と目が合うと少しだけ見開いた目は直ぐに戻り、その場で立ち尽くしている隆は静かに私を見つめていた
「……隆」
ソファから立ち上がり隆の目の前まで来ると胸板に顔を付けて優しく背に腕を回した。彼の心臓の音を聞きながら「生きてて良かった」と呟けば背中に回って来た腕に安心してしまう
「……ちーちゃんから少し聞いた。怖い人達と抗争してるって……」
「…………」
「隆は私を心配してここに連れてきたんでしょ?」
「……ああ」
「……じゃあ何で私は人形みたいだったの?」
「……俺の事を愛してないのに無理やり閉じ込めて傍に居させようとしたからだ」
「……私が隆の事愛して無い訳無いじゃない」
「…………」
「……本当に愛してるよ」
顔を上げて隆の瞳を見つめれば隈が出来た虚ろな瞳は無言で私を見つめていた。何だかその表情を見ているだけで悲しくなって来て、背伸びをして優しく彼の唇に口付けを落とすと背中に回っていた腕に力が込められて激しく口付けされる。少しだけ苦しくて唇の傷が痛んだけど、何故か凄く求められてるって分かって応えるように首に手を回した
唇を離した隆はブランドのスーツを脱ぎ捨ててからネクタイを片手で外した。ワイシャツのボタンを外しながら私の首に噛み付くように口付けして来る隆は、何だか私の知っているお日様みたいな彼とは違っている様に感じた
上半身が露わになると胸から背中まで入っている派手な龍の刺青を見て少しだけ私は目を見開いた
「……こんなに入れちゃったの?」
「…………それを言われたのは2回目だな」
「なんか……。体もやつれてない?ちゃんと食べてるの?」
「…………」
無言で私の手を引きベットに押し倒した隆はワンピースに手を入れて胸の谷間に荒々しく口付けを落とす。何だか心がついていけなくて、服の中にある隆の手を握り彼の髪に口付けた
「……何か……。まだ状況がよく分からないし今はちょっとしたくない」
「…………」
「ごめんね、何かまだ混乱してるんだ。もう少し色々聞かせて」
「…何が聞きたい?……ルナとマナの死んだ話か?」
「……えっ?」
「パーの嫁も守っていたぺーやんも死んだ」
「…………嘘でしょ?」
「昨日……俺を庇って八戒が死んだ。……柚葉に会わす顔がねぇ」
「…………」
「おふくろに会わす顔もない。毎日ルナとマナが夢に出てくる」
隆が口を開く度に耳を塞ぎたくなった。言葉は出てこない代わりに涙がボロボロと溢れ、思わず目元を手で覆う。虚ろな目をした隆は私の胸に顔を埋め、服の中に入っていた手を抜いて私の背中にそっと手を回した
「……隆……私は傍にいるから……」
「……お前も最初はそう言ってた」
「今の私はその時の私じゃない。前から知ってるでしょ?」
「……でも……今のお前は直ぐ居なくなる」
「…………」
どうゆう事を言ってるのか分からなくて目を細めると
「何でもねぇ」と言った隆はそれ以上は話さなくなった。目を瞑り私の胸に顔を埋める隆の顔は昔と変わっていなくて幼く見える。その顔を見ていたら涙がやっと止まってきて隆の頭を抱き締め私も目を瞑った
それから少しして電話が鳴り、隆は携帯を見ると服を着てから部屋を早足で出て行った。1人きりになった私は少し気持ちを落ち着かせようとシャワー室に入り浴槽に熱めのお湯を入れて簡単に体を洗ってから湯に浸かった。飛ばされて来た時はいつも毎回最初は混乱してしまうけれど、今回の状況は最悪だった
ルナ、マナ、八戒に林と会った事は無いけれど林田の奥さん。皆死んじゃったんだと思うと早くここから居なくなりたいと思う反面、隆が心配だからずっとここに留まらないとと思ってしまう。熱いお湯を手に掬いまた涙が出そうな顔を洗っていると、シャワー室の外から物音がした直ぐ後にガラス戸が1度ノックされて思わず「……隆?」と少しだけビクビクしながら口を開いた
ゆっくりと開いたガラス戸から顔を出した隆は、何だか先程より表情が少し柔らかくなっている様に見え安心して肩の力が抜けてしまう
「風呂?……おれも入っていい?」
「ふふ。いいよ。……ちょっとお湯熱いよ」
「ああ」と言った隆は本当に少しだけ微笑んでから服を脱いでシャワーを浴び始めた。背中に大きく入っている龍の刺青を見つめながら何だか未来は変わらなかったけど彼だけでも生きている事を喜ぶべきか複雑だった。隆が浴槽に入って来るとお湯の半分は流れてしまったけど彼が後ろから抱き締めてくれたので寒くは無い。後頭部を倒して寄り掛かり上目で隆を見れば目尻の下がった隆の瞳と目が合った
「……私ね、高校のショーの時から来たの」
「……ああ。懐かしいな」
「ここではドラちゃんも圭ちゃんも生きてるんだね」
「その時は死んでたのか?……抗争でやられたのか?」
「……2人共学生の時に亡くなったから、抗争では無いよ」
「……そうか」
「ねぇ、この抗争が終わったら二人でデザイナーやろうね」
「……ああ。」
「だから、……絶対に死なないで」
「…………」
今の隆と話していると笑顔だった中学や高校の時の隆が凄く恋しくなる気がした。懐かしい話でもして彼を笑わせようとしたけれど八戒の話題やルナやマナの話題しか頭に浮かんで来なくてそっと唇を噛み締めた
「……ねぇ、隆がまた笑顔で過ごせるには私はどうしたらいい?」
「……ずっと俺の傍に居て笑ってくれてれば良い。……アイツら全員殺したら二人で海外で暮らそう」
「…………分かったよ。マイキーとかドラちゃんとか皆も海外で暮らせたらいいね」
「……そうだな。後何人生き残れるか分からなねぇけどな……」
まるで、海外のドラマや映画の話をしている様に感じてしまい実感がまるで無かったけど、アイツら殺すと言った隆の表情や口調からその憎しみが本当なんだなって事だけは分かった。マイキーやドラちゃんに会いたかったけど、多分皆ピリピリしてるだろうし普通の話が出来るとは思えなかったから会いたいと口に出すのはやめておく事にした
私を後ろから抱き締めている隆の手が少し震えていて、その手を握り締めると「……先に出るわ」と言ってシャワー室から出て行ってしまった隆の後を追うように私も浴槽を出た。濡れたままシャワー室を出ると大きめのバスタオルを広げて私を包んできた隆の顔色は悪く、目が合って眉を潜めた私に「大丈夫だから」と言って少しだけ微笑んだ隆は紙袋を押し付けるように渡してきた
「何これ?」
「お前の寝巻き。新しいの買ってきた」
「……ありがとう」
こうゆう優しい所は変わって無いんだと思うと何だか嬉しくなり、紙袋を抱えたまま隆に抱き着いて「大好き」と微笑んだ私に隆は少しだけ笑みを浮かべてから唇に軽く口付けしてくれた。紙袋から淡い紫色のワンピースを取り出して着替えるとお腹が鳴り、そういえば何も食べてない事に気付いた
「……お腹空いたな」
「今飯持ってこさせるから待ってろ。後俺はちょっと出て来るから今日はもう寝ろ」
「……えっ?私ここで一人で寝るの?」
「…………」
「……もしかして私はいつもここで一人で寝てたの?」
「……ああ」
罰が悪そうな顔をした隆は「行ってくるから」と言って私に背を向けた。その時外からコンコンとドアがノックされて返事もしていないのに部屋に入って来たのは全く見た事が無い髪の長い綺麗な男の人だった
「……勝手に入ってくんなよ」
そう言って軽く男を睨み付けた隆を完全に無視した男は冷たく微笑んでから私を見つめ、雪那ちゃんと私の名前を呼んだ。異様な雰囲気を感じて作り笑いをしながら頭を下げると、面白い物でも見た様な顔で私を穴が空くほど見つめていた
「雪那 話さなくて良い。向こう行ってろ」
隆のその言葉を全く聞いて無い様に見える男は「へぇ」と言いながら私に距離を詰めてきたので驚いて少し後退りすると、彼の首根っこを掴んだ隆は思いきり壁に彼を叩きつけた
「てめぇ春千夜……近寄るなって言ってんだろ」
唖然としている私の表情を見て叩き付けられた男は「やっぱりオカシイ。君、ロボットみたいだったのに何があった?」と言ってから隆を睨み付けた
「……三ツ谷お前、この女にも渡したのか?」
「……渡してねぇよ。事情があんだよ」
話の内容が分からずに黙っていると、「お返し」と言って綺麗に微笑んだ男は隆のお腹を思いきり殴り付けた。ゴホゴホと咳き込みながら倒れ込んだ隆に走り寄ると「あっち行ってろ」と噎せながら私を追い返す隆に首を横に振った
「 雪那ちゃん、そろそろ三ツ谷発作出るから離れてた方が良いよ」
「……発作って何?……病気なの?」
「……何も知らないお姫様なんだねぇ」
「…… 雪那 、頼むからあっち行ってろ……」
「……三ツ谷さ、飛び道具とか薬に頼ってばっかで喧嘩も弱くなってんな。女も守れねぇじゃん。骨もガタガタ」
ゴホゴホと咳をする隆のその姿と、春千夜って人が言った言葉に私は心が空っぽになるのを感じた
前のお前のがカッコ良かったよと言いながらヒラヒラと手を振り部屋を出ていく彼の背中を見送ってから、隆の横に跪いて背を摩ると小さく聞こえてくる彼の呟きに耳をすませた
ルナマナごめんな、ごめんなと小さく呟く隆の虚ろな瞳は何も映して無い様に見えた。顔を上げて壁に向かって謝る隆を見ているともう涙も出てこず、その場に崩れ落ちる様に膝を着いて彼を抱き締める。痩せた体に窪んだ瞳、手の震えに幻覚症状。春千夜って人が言っていた「薬に頼ってばっか」の言葉
理解してしまったときには絶望を感じていた。だけど、その事を信じたくない自分がいて呆然としながら俯いていると「ドン」と物凄い音がして腹部に衝撃を感じ思わず目を瞑った
ゆっくりとお腹が熱くなってきて、ふと隆の手元を見れば握られていたのは産まれてから初めて見た本物の拳銃だった。そこから昇る白い煙を見ながら呆然としていると、腹部から温かい液体が止めどなく流れ私の紫色のワンピースを染めていく
「ごめんな…雪那 。一緒に死んでくれるよな」
お腹痛みと、咳が出てくる様な感覚に噎せ返る。その瞬間にガハッっと私の口から大量に出てきた血がボタボタと服とカーペットに一瞬で染みを作った
「……うん。……隆辛かったんだね……」
隆が強く掴んできた手を優しく包んだ。涙が枯れたような虚ろな目で私を見つめ、口から溢れる私の血を舐め取りながら口付けてくる隆はゆっくりと唇を離すと優しい瞳で私を見つめてから「ずっと愛してるよ」と言った。そしてそのまま自分の頭を撃ち抜いた
部屋に響き渡る銃声。ゆっくりと私の方に倒れた隆の頭を抱きながら彼の手を握る。何も考えれなかった
朦朧とする意識の中、バタバタと足音がしてドアから走って来たのはちーちゃんと久しぶりに見た大人になった姿のドラちゃんと圭ちゃんだった。3人が私達の名前を叫んでいる姿を見て私は少しだけ微笑んだ
走って来たけいちゃんが自分のネクタイを取り私の腹部を止血しようとして来たので彼の腕を掴んで首を横に振った。「一緒に死ぬって約束したから」そう言った私に3人はショックを受けた様な顔をしてから俯いた
そろそろ駄目だなって何となく分かって、最後に腕の中にいる頭に穴が空いた隆の唇に口付けた。「私もずっと愛してる」と聞いていない彼の耳元で囁き、頭を強く抱き締めた。意識が無くなっていく直前に3人が私の事を抱き締めてくれている様な優温もりを感じて涙が1粒だけ目から溢れた
また、耳鳴りがする
自分の頭に銃口を突き付けた時の隆の顔が目の前に出て来て苦しくて切なくて悲しくて気づけば叫んでいた
「おい、大丈夫か??雪那、分かるか?」
ハァハァと息が切れている自分の胸を摩り深呼吸すると、温かい手が私の背に触れて胸の中に閉じ込められた。震える私の背を強めに摩りながら「大丈夫だ」と言った隆の声に私は涙が溢れ落ちた
「…………」
「……怖い夢見たのか?」
「…夢じゃない……。ごめん、今余裕無い」
「……夢じゃねぇって事は?お前……また来たのか?」
「……何か東京卍會が〇〇組って所と抗争してて…さ…。……1番最悪な未来だった」
「その名前……それってこの辺で1番古いヤクザじゃね?」
「……」
「お前顔真っ青だな、……本当に怖かったんだな」
少し息が整って来て、目の前の胸板に顔を押し付けてギュッと隆の背をキツく抱き締めると「もう大丈夫だ」と言って背中をゆっくりと安心させる様に撫でてくる隆にまた涙が出そうだった
「……隆がね……ずっと愛してるって言って私を見つめながら自分の頭を拳銃で撃ち抜いたの」
「…………」
「私もお腹撃たれてたから直ぐ死んじゃったけど……。隆が死んだの見たの2回目でさ、今けっこう辛い」
「……お前も撃たれたの?」
「うん」
「……抗争の相手に?」
「ううん。隆が……一緒に死んでくれって」
そう口に出してから直ぐに後悔した。私の言葉を聞いた隆は今迄見た事も無い様な悲しい顔をして私を見つめていた。咄嗟に私の口から出た「ごめん」て言葉に隆は首を横に振った。
「……真一郎君がそうだった様にお前の話も100%信じてる……」
「……うん」
「だけど、今回の話だけは信じたくねぇ。……俺が1番大事なお前を傷付ける何て事信じられねぇ」
「……ありがと……その言葉聞いたら何か安心しちゃったよ」
ルナとマナの事や薬の事は何だか話す気にはなれなくて、いまだに苦虫を噛み潰したような顔をしている隆の頬に擦り寄ってそのまま体をベッドに押し倒すと「落ち着いたのか?」と言って片手で私を抱きながら布団を掛けてくれたので「うん」と頷いた
「……凄く……怖い未来だったな……」
「…………どうゆう経緯であの組織とトーマンが敵対すんのか全然分かんねぇ」
「……ぺーちゃんとか八戒とか……他に色んな人亡くなっててさ。普通に道も歩けなくて」
「…………」
「隆の顔……隈だらけだった」
「……」
「………チームを始めたのはきっとちょっとしたきっかけだったのかもしれないけど……。人が死んだり傷付いたり……嫌だな……」
「……その未来に関しては実感ねぇから何とも言えねぇけど。今の俺はお前をずっとこれからも悲しませねぇ自信あるよ」
「……うん。ありがとう……」
月の光しか無い暗闇の中で隆の坊主頭を撫でていると、先程まで一緒だった黒髪の隆の髪は長かったなと何だか切なくなった。棺桶に入った彼を見た時にこれ以上の悲しみは無いなんて思っていたけれど、実際今回の死に方を見た方が辛かった
「 雪那?……寝れそうか?」
「……まだちょっと気が高ぶってるから今寝たら変な夢見そう」
「……そうだな」
「ちょっと待ってろ」と言って起き上がった隆は廊下へと歩いて行った。暫くすると手にマグカップを持ち歩いてきた彼を見て私は微笑んで起き上がると、差し出された湯気の立つカップを受け取った
あれから体が温まると直ぐに寝てしまい、気付いた時にはカーテンから光が入って来ていた。起きても隣に居たのは坊主の隆で、凄い幸せな気分と疲れの間にいる様な不思議な感じがする。眠る隆の頭を優しく撫でて頬に口付けすると身を捩った隆は薄目を開けた
「……はよ」
「昨日……ありがとうね。落ち着いた」
「学校行けんの?……サボってどっか行くか?」
「ふふふ」
「……何だよ」
「だーいすき」
微笑んだ私に隆は少しだけ呆れた様な顔をしてから私を抱き締め「俺も」と言ってくれた。本当は今日は隆に甘えて静かに過ごしたかったけれど、甘い誘惑に負けずに学校に行かなければと思い小さく溜息を吐いた
「……何で溜息何だ?」
「……本当は今日は二人で静かに過ごしたい……だけど宿題やって学校行かないと……。後作業もしなくちゃ。家の掃除も……って考えたら溜息出た」
「学校終わったら俺今日はちょっと一虎と場地と約束あっから。終わったらお前の家行くよ、掃除手伝ってやる」
「……ここって圭ちゃん……生きてるの?」
「……はっ?」
「一虎君……出所してるの?」
「お前、まだこんがらがってんの?」
よしよしと言って私の頭を撫でる隆にとりあえず「うん」とだけ生返事をしておいた。でも隆の口ぶりからして圭ちゃんも一虎君も生きてて仲良くやってるんだなとジンと来てしまい、昨日の事もあったからか涙脆くて目元が熱くなってきてしまった。そんな私を見て首を傾げてる隆に「何でもない」と言ってから赤くなった目を見られない様に立ち上がった
1度自宅に帰り直ぐに宿題をやってから簡単なお弁当を作って学校へ自転車で向かった。急いで支度をして全速力で漕いだのに普通に遅刻してしまい、授業中の教室に途中から入るのは嫌だったので2限目が終わるまで体育館裏で日向ぼっこをしながら携帯ゲームに夢中になっていた。チャイムが鳴っても画面に集中していると人の話声が聞こえてきて特にやましい事は無いのにコソコソと隠れてしまう
「話って何?」
「……あの、ずっと好きだったんです」
そんな会話が聞こえて来て、青春だなと思いながら画面にタップを続けていると、男の方が彼女いるからごめんと言った声が何だか隆の声に似ていて私は携帯をポケットにしまいゆっくりと壁から顔を覗かせた
「……彼女居るのも知ってるんです。でも部長の事諦められなくて」
「……悪ぃな。でもありがとうな」
「お願いします、1度だけで良いのでキスして貰えませんか?」
「…………それは出来ねぇ。ごめんな」
何て勇気がある女の子何だろうとちょっとだけ感動していると、涙を流した女の子は頭を下げてから走り去って行ってしまった。声を掛けようか迷っていると、こちらを振り返った隆と目が合ったので少しだけ微笑むとかなり驚いたのか目を見開いてから「何やってんだよ」と言ってこちらに向かってくる隆に「遅刻しちゃった」とちょっと可愛子ぶって舌を出した
「聞いてた?」
「……聞こえちゃった」
「……授業始まるけど教室行かねぇの?」
「お腹空いちゃったからお弁当食べようかなって」
「俺の分ある?」
「……あるよ」
石段の上に置いて置いた鞄から朝作ったお弁当を取り出すと隆は嬉しそうに微笑んだ。箱を開けて「タコさんウインナーと卵焼き入ってるよ」と言った私の手からお弁当を受け取った隆は「スゲェ美味そう」と少しだけはしゃいでいた。二人で水筒のお茶を飲み、お弁当をつついていると先程の女の子の事が少し気になったので素直に聞いてみようと隆の頬をつんつんとつついた
「何だよ」
「凄い好きなので1度だけキスして貰えませんか?」
「……阿呆か」
「ふふ。何かちょっと感動しちゃってさ」
「何が?」
「私なら彼女居る人に言えないから勇気あるなって。変な話だけど、私も言われた事あるんだよね」
「はっ?……キスしてって言われたのか?」
「うん。断ったけど。何かそこまで思ってくれてたのかなって……。普通断られるの怖いから言えないし素直に凄いなって思ったんだ」
「……そんな事より誰から言われたか言え」
「ふふふ。内緒」
ジロっと睨まれて、返すようにニッコリと微笑んでから隆の口に家にあった残り物のからあげを詰める。部長って呼んでいたから手芸部の子かなと考えながらおにぎりを咀嚼していると、隆の顔が近付いてきてモグモグとしている唇に軽く唇が触れる
「1回でいいのか?」
「ぶふっ、ちょっと笑わせないで」
「もう1回してやろうか?」
「……キスだけじゃ足りないなって言ったらどうする?」
「……俺も足りないって言う」
隆の返しにケラケラと笑っていると、ニッコリと微笑まれて肩を抱かれた私は口を閉じた
「……な、何?」
「誰にキスしていいか聞かれたか言え。言わねぇなら今日は寝かさねぇからな」
「……ふふふ。逆に寝かさないからね」
「お前……言ったな」
そんな阿呆なやりとりをしているとチャイムが学校全体に鳴り響く。お腹がいっぱいで眠いと欠伸をした私に俺もと言った隆は釣られるように欠伸をしていた
5限目まで授業を受けてからさっさと帰って作業でもしようかと帰り支度をしていると、窓の外に派手な坊主頭と隆の姿が見えた。荷物をまとめ終わり昇降口で口に履き替えてから校門に向かえばまだ2人は話をしている最中の様だ。後ろから隆の背に抱き着くと目が合った八戒はぐぬぬと言いたげな顔をしたので、ニヤニヤしながら隆の頬に口付けすると「タカちゃんが汚れる」と慌てた様な顔をして発狂した
「 雪那もう帰んの?」
「早く帰って作業する。掃除もしなきゃいけないし」
「……タカちゃんに触るな」
「……やかましいわ八戒、タカちゃんは私のだ」
「俺のだ」
「……お前ら本当にルナとマナみたいだな」
「可愛いでしょ?」
「すげぇかわい」
「タカちゃん馬鹿は甘やかしちゃ駄目だよ」
「煩いわ童貞」
そういえば、昨日いた未来では八戒は隆を庇って死んだと言っていたな。とふと思い出して少し切なくなった。ジッと見つめていると「見んなブス」と言って来た八戒がいつもとは違い何だか可愛く見えるから不思議だ。隆への異常な愛は一緒何だし、たまには可愛がってやろうと思い八戒の腕に抱き着いて「よしよしお姉ちゃんですよ」とスリスリすると普通に蕁麻疹が出た八戒は白目を向きながら「タカちゃん助けて」と呟いていた
「…… 雪那、離れてやれ。八戒が死ぬ」
「うぅ、気分まで悪くなってきた」
「失礼な」
本気で辛そうな八戒に舌打ちをしてから離れると苦笑いをしている隆に「先帰るね」と一言ってこっそり自転車を止めておいた学校裏の空き地に向かった。空き地にポツンと留めてある自転車に鍵を刺し回し籠に鞄を入れていると、空き地の隅にしゃがみこみ煙草を吸っている4人組が居るのに気付いた
「……あの制服ってどこの制服だろ」
関わりたくないので直ぐにその場から立ち去ろうとした時にポケットの携帯が鳴った。ピピピと小さく音を立てた携帯を開けばLINEは隆からで「今日夜はパスタ食いたい」と入っていて少し笑ってしまった
ふふっと私が小さな声で笑うと視界の隅でしゃがみこんでいた男の1人が立ち上がるのが見えたので、咄嗟にヤバいと思って自転車に乗り込むとポケットに入れようとしていた携帯が地面に転がった。急いで自転車から降りてしゃがみこみ携帯を拾えば目の前に影が出来て思わず小さく溜息を吐いてしまった
「……お前、さっき携帯で俺らの事写真撮ってたろ?」
「……はぁ?撮って無いですけど」
どうやら煙草を吸っている現場を写真に撮られたと勘違いしている様で、睨みを効かせながら携帯を見せろと言って来る男に「嫌です」とキッパリ言い放った
前の私なら怖くて泣いてるかもしれないなと思いながら手に持った携帯を開くと、閉じてなかった隆のLINEページは簡単な操作で直ぐに出て来た。「貸せ」と取り上げてこようとした男の手を避けて通話ボタンを押すと携帯を持った手を背に隠す
「……てめぇ、今何しやがった?」
「写真は撮ってないのでどっか行って下さい。これ以上絡むなら警察呼びますよ」
私の言葉に青筋を立てた男を呼びに来たのか加勢しに来たのか、他の3人もこちらに向かって来たのでちょっとビクビクしながら携帯をちらりと見ると通話中になっていたので「学校の裏の空き地!助けて」と電話に向かって叫ぶとバシンと頬を叩かれて思わずキャアと声が出てしまった
「この女、警察にかけたのか?」
「おい、殴るなよ。女の子だぞ」
止めに入ってくれた男の子に少しだけ安心していると、私を叩いた男は携帯を持った腕を掴み「渡せ」と低い声を出した。隆が来るまで怖いけど我慢と思い唇を噛み締めながら首を横に振っているとギリギリと掴まれた腕が握り潰される様な痛みを感じ始めた
「 雪那」
名前を呼ばれて振り向けばハアハアと息をしながら走って来てくれた隆は私の腕を握る男の手を掴んだ
「……てめぇ。……?お前……篠原?」
「…えっ?…三ツ谷君」
「……隆の知り合い?」
「うちのチームの奴。お前人の女に何やってんの?」
「いや、煙草吸ってる所を写真撮られちゃったんで、チクられるとまずいかなって」
「写真なんか撮って無いってば」
「……ふーん。事情は分かったけど……。お前手見せてみ」
「……」
差し出した腕に残る手形は真っ赤になっていて、それが怒りに触れたのか隆の怒鳴り声が空き地に響いて私は思わず耳を塞いでしまった。自分の為に怒ってくれているけど、この人が怒る顔は余り見慣れていなくて1番怖いと思った。昨日怖い思いを沢山して内心疲れているのを彼は知っているから尚更なんだろうか
隆に殴られて地面に転がった男が謝っても彼はいつもと違って止まらず、他の男達はそれを見て止めようともせず顔を青くしていた
「……てめぇ。立てボケ。こいつに怪我させやがって」
「すみません、本当に申し訳無いです」
そんなやりとりを見ていると何だか悲しくなって来て拳を握りしめる隆の腕に抱き着いて首を横に振った
「……私大丈夫だから」
「…………」
こちらをちらりと見た隆の顔は昨日の隆と少しだけ似ている様な気がした。悲願するような私の顔に少しだけハッとした様な表情を見せると「次、女に手出したらマイキーに報告するからな」と言って舌打ちをする
「はい」と言って顔を青くしている男は仲間に支えられながら足早に空き地から出て行ってしまった
「……ごめんな。昨日の今日で怖ぇ思いまたさせちまったな」
「電話気付いてくれて助かったよ。……大丈夫だから」
「俺が……嫌、何でもねぇ」
少し様子がおかしいと思ったけれど、直ぐに小さく微笑んでからいつの間にか倒れていた自転車を起こしてくれた隆はそっと私の赤くなった手首を撫でて小さくもう1度謝った。「隆が謝る事じゃないよ」と言って起こしてもらった自転車に乗りこむと、いまだに少しだけ困った様な顔をしている彼の唇に優しく口付ける
「先帰ってるね。パスタにするから早めに帰って来て」
「おぅ、気をつけろよ」
ペダルを踏んで自転車を漕ぎ空き地から出ると1度振り返ってから隆に手を振った。何だか考え込んでいる様な顔をしながら手を振り返してくれる隆にどうしたんだろうと思ったけれど、後でまた会えるしその時にタイミングが合ったら聞けばいいかと深く考えずに帰路を急いだ
見た事も無いような小綺麗な部屋で私は自分の膝を抱えていた。まるでネグリジェの様な黒のワンピースを着た自分の左足には見て分かる程の重そうな足枷が付いていて、1人首を傾げながら周囲を警戒するが特に誰も周囲にいる気配は無い。また飛ばされてきたんだって事は分かるけど今回はかなり異様に感じた
足枷に付いた鎖はパッと見てかなり長い。少しだけ怖いけれど辺りを1度確認しておこうと立ち上がり、直ぐ側にあった部屋のドアを恐る恐る開けるとトイレだった事にホッとした。その横のガラス戸はシャワー室になっていて、シャワー室の鏡に写る自分は先程まで学生だったからか随分と老けて見える。何故か首にくっきりと絞められた様な青黄色の痣に、唇の横には切り傷、舌も軽くだが噛まれた様な傷があった
鏡に顔を寄せ口の傷を撫でると、何だか気持ちが悪くなって来てゾクリと本気で鳥肌が立った
嫌な気分でシャワー室から出てもう1つあったドアを開けると10帖程の部屋に大きめのベッドがあり、小さなソファと小さなテーブルに最新型だと一目見て分かる程の薄いテレビが置いてある。窓の外に見えるのは高層ビルしか無いつまらない景色。窓の外をボンヤリと眺めながら、私みたいな平凡アクセサリー職人が何故こんな事になるのだろうか疑問を感じた
テーブルにポツンと置かれている携帯電話はモデルも見た事が無いもので、勿論自分の物では無い感じがした。手に取って中を見れば全て着信履歴は非通知で、LINEのアプリもインストールされておらずメールも一通も残っていない事が異様に感じて自然に目を細めてしまう
1度少し落ち着こうとソファに腰かけ、リモコンを手に取り電源ボタンを押した。画面に映る映像には良く知る名前が出てきて私は眉を寄せ思わずその場で硬直してしまった
東京卍會と〇〇組との抗争で被害者多数
よく知る歌舞伎町の交差点におびただしい血の跡の様な物が沢山あり、大勢の警察官がそれを囲んでいた
ふと、思い付いたのは隆が東京卍會の幹部で、関係のある私が〇〇組に誘拐されたとか?それなら顔や体に多少怪我をしていても納得がいったが、それを考えたらさっきよりも恐ろしくなってしまい震える手を握り締めた。
色々妄想していると、ドアの向こうから人の話声が聞こえたが何を言っているのかは全く分からない。怖くなって何処かに隠れようと辺りを見回していると、急た扉が開きその音にビクリとした私の前に現れたのは大人になったちーちゃんの姿だった
「…もしかして…ちーちゃん?」
「……ちーちゃん?」
「ちーちゃん、良かった……。一人で怖かったんだ」
「…… 雪那さん?」
「…何でこんな所に閉じ込められてるのか教えて欲しい……」
「……雪那さん。もしかして、違う雪那 さん?」
「うん」と1度頷いて、昨日まで高校生だけど元々は25だと少し興奮気味に話す私に困った様な顔をしたちーちゃんは暫く黙っていたけれど、泣きそうな私の顔を見ておだやかに微笑むと私の隣に腰を下ろした
「……少し時間あるので説明しますね」
黒のタートルネックに黒のスーツ、黒髪。ついこの間まで金色の柔らかな髪に変なTシャツを着ていたちーちゃんとはギャップがあり過ぎて最初はちょっと戸惑った。だけど元々優しい子なのは分かっているし、大人になっても気を使いながら私に説明してくれているちーちゃんの変化の無さに私の精神も話していて少しだけ安定した
〇〇組と抗争になったのは1年前
マイキーをトップにしている東京卍會と東京のヤクザの抗争らしい。稀咲君、ドラちゃん、隆、けいちゃん、一虎くん、ぱーちゃん達は狙われていて道も普通に歩けない状態だと言われて私は首を傾げた
「ドラちゃんとけいちゃん何で生きてるの?」
「何でって……まだ死んでませんよ」
唇を少しだけ尖らせ、場地さんを殺さないで下さいよと言ったちーちゃんの顔と言葉は嘘には聞こえない。状況はかなり良く無いのかもしれないけれど、ここの未来では生きてるんだと嬉しくなった
「……状況は多少分かったけど、私は家に帰れないのかな?」
「……三ツ谷君が多分返してくれないと思います」
「隆は無事なんだね。本当に安心した」
「…… 雪那さんは、三ツ谷君の事を今どう思ってますか?」
「えぇ?隆の事?愛してるに決まってるじゃない。何でそんな当たり前の事聞くの?……もしかしてこの未来では他に彼女とかが……いるの?」
「……彼女とかは居ませんし、 雪那さんの事を三ツ谷君も凄く大事に…してます。でも……」
「……でも?」
「もう昔の三ツ谷君じゃないし、大事にするって事が多分……分からなくなっていると思います」
「……ちーちゃん、隆に電話しても良い?少しだけ話したい」
「……分かりました。緊急事態って事で電話しますね。……1度話しておいた方が良いと思うので」
高そうなスーツの胸ポケットから携帯を取り出したちーちゃんは何回か携帯のボタンを押してから自身の耳元に電話を付け私の事を少しだけ悲しげな表情で見つめていた
「もしもし、三ツ谷君ですか?雪那さんから電話してくれと頼まれました。…はい、でも…嘘じゃないです本当ですよ」
そう言ってから私に携帯を差し出して来たちーちゃんの顔は少しだけ強ばっている様に見えたが、そのまま電話を受け取り携帯を耳に当てて口を開いた
「……もしもし?隆?……聞こえる?」
「……ああ」
「私がどうしてこの場所にいるのか説明して欲しいの」
「……何言ってんだ?」
「私25歳の雪那だって言えば分かってくれる?……さっきこの部屋で目が覚めたんだけど首とか唇とか傷あって正直今も怖い……。助けてよ隆」
「……助けてか……。お前を監禁してるのも首の痣も俺がやったものだ」
「…………本気で言ってるの?」
「千冬から聞いて無いんだな。……とりあえずそっちに行くから少し待ってろ」
会話の内容についていけずに唖然としていると既に通話は終了していた。何だか声は同じなのに淡々と感情が見えない話し方をする隆の声は何だか異様に感じてしまい、目の前にいるちーちゃんに携帯を渡してからソファに座り込んだ
「……大丈夫ですか?」
「……隆は変わったんだね」
「何て言って良いか分からないんですけど……色々あって三ツ谷君はかなり変わりました。 雪那さんも変わりましたよ」
「……私はどんな感じだったの?」
「……誰とも口も聞かずに無表情でした。三ツ谷君の事も目にも入っていない感じです。……唯一ドラケン君とはたまに話をしているのを見た事あるくらいでした」
「……どうゆう事?」
「すみません、これ以上は言わないでおきます。だけど久しぶりに普通の雪那さんと話が出来て嬉しかったですよ」
「…………」
小さく聞こえてくる足音に私がビクッとすると「三ツ谷君です」と言ったちーちゃんは私の背を優しく1度だけ撫でた。「もし、耐えきれなくなったらテーブルにある携帯電話の2番を1人の時に押して下さい」そう言って私に少しだけ微笑むと部屋を出て行ってしまう
入れ替わる様に入って来たのは黒いスーツを着て黒髪の隆だったけれど、目は吊り目で異様な雰囲気を感じてしまった。私と目が合うと少しだけ見開いた目は直ぐに戻り、その場で立ち尽くしている隆は静かに私を見つめていた
「……隆」
ソファから立ち上がり隆の目の前まで来ると胸板に顔を付けて優しく背に腕を回した。彼の心臓の音を聞きながら「生きてて良かった」と呟けば背中に回って来た腕に安心してしまう
「……ちーちゃんから少し聞いた。怖い人達と抗争してるって……」
「…………」
「隆は私を心配してここに連れてきたんでしょ?」
「……ああ」
「……じゃあ何で私は人形みたいだったの?」
「……俺の事を愛してないのに無理やり閉じ込めて傍に居させようとしたからだ」
「……私が隆の事愛して無い訳無いじゃない」
「…………」
「……本当に愛してるよ」
顔を上げて隆の瞳を見つめれば隈が出来た虚ろな瞳は無言で私を見つめていた。何だかその表情を見ているだけで悲しくなって来て、背伸びをして優しく彼の唇に口付けを落とすと背中に回っていた腕に力が込められて激しく口付けされる。少しだけ苦しくて唇の傷が痛んだけど、何故か凄く求められてるって分かって応えるように首に手を回した
唇を離した隆はブランドのスーツを脱ぎ捨ててからネクタイを片手で外した。ワイシャツのボタンを外しながら私の首に噛み付くように口付けして来る隆は、何だか私の知っているお日様みたいな彼とは違っている様に感じた
上半身が露わになると胸から背中まで入っている派手な龍の刺青を見て少しだけ私は目を見開いた
「……こんなに入れちゃったの?」
「…………それを言われたのは2回目だな」
「なんか……。体もやつれてない?ちゃんと食べてるの?」
「…………」
無言で私の手を引きベットに押し倒した隆はワンピースに手を入れて胸の谷間に荒々しく口付けを落とす。何だか心がついていけなくて、服の中にある隆の手を握り彼の髪に口付けた
「……何か……。まだ状況がよく分からないし今はちょっとしたくない」
「…………」
「ごめんね、何かまだ混乱してるんだ。もう少し色々聞かせて」
「…何が聞きたい?……ルナとマナの死んだ話か?」
「……えっ?」
「パーの嫁も守っていたぺーやんも死んだ」
「…………嘘でしょ?」
「昨日……俺を庇って八戒が死んだ。……柚葉に会わす顔がねぇ」
「…………」
「おふくろに会わす顔もない。毎日ルナとマナが夢に出てくる」
隆が口を開く度に耳を塞ぎたくなった。言葉は出てこない代わりに涙がボロボロと溢れ、思わず目元を手で覆う。虚ろな目をした隆は私の胸に顔を埋め、服の中に入っていた手を抜いて私の背中にそっと手を回した
「……隆……私は傍にいるから……」
「……お前も最初はそう言ってた」
「今の私はその時の私じゃない。前から知ってるでしょ?」
「……でも……今のお前は直ぐ居なくなる」
「…………」
どうゆう事を言ってるのか分からなくて目を細めると
「何でもねぇ」と言った隆はそれ以上は話さなくなった。目を瞑り私の胸に顔を埋める隆の顔は昔と変わっていなくて幼く見える。その顔を見ていたら涙がやっと止まってきて隆の頭を抱き締め私も目を瞑った
それから少しして電話が鳴り、隆は携帯を見ると服を着てから部屋を早足で出て行った。1人きりになった私は少し気持ちを落ち着かせようとシャワー室に入り浴槽に熱めのお湯を入れて簡単に体を洗ってから湯に浸かった。飛ばされて来た時はいつも毎回最初は混乱してしまうけれど、今回の状況は最悪だった
ルナ、マナ、八戒に林と会った事は無いけれど林田の奥さん。皆死んじゃったんだと思うと早くここから居なくなりたいと思う反面、隆が心配だからずっとここに留まらないとと思ってしまう。熱いお湯を手に掬いまた涙が出そうな顔を洗っていると、シャワー室の外から物音がした直ぐ後にガラス戸が1度ノックされて思わず「……隆?」と少しだけビクビクしながら口を開いた
ゆっくりと開いたガラス戸から顔を出した隆は、何だか先程より表情が少し柔らかくなっている様に見え安心して肩の力が抜けてしまう
「風呂?……おれも入っていい?」
「ふふ。いいよ。……ちょっとお湯熱いよ」
「ああ」と言った隆は本当に少しだけ微笑んでから服を脱いでシャワーを浴び始めた。背中に大きく入っている龍の刺青を見つめながら何だか未来は変わらなかったけど彼だけでも生きている事を喜ぶべきか複雑だった。隆が浴槽に入って来るとお湯の半分は流れてしまったけど彼が後ろから抱き締めてくれたので寒くは無い。後頭部を倒して寄り掛かり上目で隆を見れば目尻の下がった隆の瞳と目が合った
「……私ね、高校のショーの時から来たの」
「……ああ。懐かしいな」
「ここではドラちゃんも圭ちゃんも生きてるんだね」
「その時は死んでたのか?……抗争でやられたのか?」
「……2人共学生の時に亡くなったから、抗争では無いよ」
「……そうか」
「ねぇ、この抗争が終わったら二人でデザイナーやろうね」
「……ああ。」
「だから、……絶対に死なないで」
「…………」
今の隆と話していると笑顔だった中学や高校の時の隆が凄く恋しくなる気がした。懐かしい話でもして彼を笑わせようとしたけれど八戒の話題やルナやマナの話題しか頭に浮かんで来なくてそっと唇を噛み締めた
「……ねぇ、隆がまた笑顔で過ごせるには私はどうしたらいい?」
「……ずっと俺の傍に居て笑ってくれてれば良い。……アイツら全員殺したら二人で海外で暮らそう」
「…………分かったよ。マイキーとかドラちゃんとか皆も海外で暮らせたらいいね」
「……そうだな。後何人生き残れるか分からなねぇけどな……」
まるで、海外のドラマや映画の話をしている様に感じてしまい実感がまるで無かったけど、アイツら殺すと言った隆の表情や口調からその憎しみが本当なんだなって事だけは分かった。マイキーやドラちゃんに会いたかったけど、多分皆ピリピリしてるだろうし普通の話が出来るとは思えなかったから会いたいと口に出すのはやめておく事にした
私を後ろから抱き締めている隆の手が少し震えていて、その手を握り締めると「……先に出るわ」と言ってシャワー室から出て行ってしまった隆の後を追うように私も浴槽を出た。濡れたままシャワー室を出ると大きめのバスタオルを広げて私を包んできた隆の顔色は悪く、目が合って眉を潜めた私に「大丈夫だから」と言って少しだけ微笑んだ隆は紙袋を押し付けるように渡してきた
「何これ?」
「お前の寝巻き。新しいの買ってきた」
「……ありがとう」
こうゆう優しい所は変わって無いんだと思うと何だか嬉しくなり、紙袋を抱えたまま隆に抱き着いて「大好き」と微笑んだ私に隆は少しだけ笑みを浮かべてから唇に軽く口付けしてくれた。紙袋から淡い紫色のワンピースを取り出して着替えるとお腹が鳴り、そういえば何も食べてない事に気付いた
「……お腹空いたな」
「今飯持ってこさせるから待ってろ。後俺はちょっと出て来るから今日はもう寝ろ」
「……えっ?私ここで一人で寝るの?」
「…………」
「……もしかして私はいつもここで一人で寝てたの?」
「……ああ」
罰が悪そうな顔をした隆は「行ってくるから」と言って私に背を向けた。その時外からコンコンとドアがノックされて返事もしていないのに部屋に入って来たのは全く見た事が無い髪の長い綺麗な男の人だった
「……勝手に入ってくんなよ」
そう言って軽く男を睨み付けた隆を完全に無視した男は冷たく微笑んでから私を見つめ、雪那ちゃんと私の名前を呼んだ。異様な雰囲気を感じて作り笑いをしながら頭を下げると、面白い物でも見た様な顔で私を穴が空くほど見つめていた
「雪那 話さなくて良い。向こう行ってろ」
隆のその言葉を全く聞いて無い様に見える男は「へぇ」と言いながら私に距離を詰めてきたので驚いて少し後退りすると、彼の首根っこを掴んだ隆は思いきり壁に彼を叩きつけた
「てめぇ春千夜……近寄るなって言ってんだろ」
唖然としている私の表情を見て叩き付けられた男は「やっぱりオカシイ。君、ロボットみたいだったのに何があった?」と言ってから隆を睨み付けた
「……三ツ谷お前、この女にも渡したのか?」
「……渡してねぇよ。事情があんだよ」
話の内容が分からずに黙っていると、「お返し」と言って綺麗に微笑んだ男は隆のお腹を思いきり殴り付けた。ゴホゴホと咳き込みながら倒れ込んだ隆に走り寄ると「あっち行ってろ」と噎せながら私を追い返す隆に首を横に振った
「 雪那ちゃん、そろそろ三ツ谷発作出るから離れてた方が良いよ」
「……発作って何?……病気なの?」
「……何も知らないお姫様なんだねぇ」
「…… 雪那 、頼むからあっち行ってろ……」
「……三ツ谷さ、飛び道具とか薬に頼ってばっかで喧嘩も弱くなってんな。女も守れねぇじゃん。骨もガタガタ」
ゴホゴホと咳をする隆のその姿と、春千夜って人が言った言葉に私は心が空っぽになるのを感じた
前のお前のがカッコ良かったよと言いながらヒラヒラと手を振り部屋を出ていく彼の背中を見送ってから、隆の横に跪いて背を摩ると小さく聞こえてくる彼の呟きに耳をすませた
ルナマナごめんな、ごめんなと小さく呟く隆の虚ろな瞳は何も映して無い様に見えた。顔を上げて壁に向かって謝る隆を見ているともう涙も出てこず、その場に崩れ落ちる様に膝を着いて彼を抱き締める。痩せた体に窪んだ瞳、手の震えに幻覚症状。春千夜って人が言っていた「薬に頼ってばっか」の言葉
理解してしまったときには絶望を感じていた。だけど、その事を信じたくない自分がいて呆然としながら俯いていると「ドン」と物凄い音がして腹部に衝撃を感じ思わず目を瞑った
ゆっくりとお腹が熱くなってきて、ふと隆の手元を見れば握られていたのは産まれてから初めて見た本物の拳銃だった。そこから昇る白い煙を見ながら呆然としていると、腹部から温かい液体が止めどなく流れ私の紫色のワンピースを染めていく
「ごめんな…雪那 。一緒に死んでくれるよな」
お腹痛みと、咳が出てくる様な感覚に噎せ返る。その瞬間にガハッっと私の口から大量に出てきた血がボタボタと服とカーペットに一瞬で染みを作った
「……うん。……隆辛かったんだね……」
隆が強く掴んできた手を優しく包んだ。涙が枯れたような虚ろな目で私を見つめ、口から溢れる私の血を舐め取りながら口付けてくる隆はゆっくりと唇を離すと優しい瞳で私を見つめてから「ずっと愛してるよ」と言った。そしてそのまま自分の頭を撃ち抜いた
部屋に響き渡る銃声。ゆっくりと私の方に倒れた隆の頭を抱きながら彼の手を握る。何も考えれなかった
朦朧とする意識の中、バタバタと足音がしてドアから走って来たのはちーちゃんと久しぶりに見た大人になった姿のドラちゃんと圭ちゃんだった。3人が私達の名前を叫んでいる姿を見て私は少しだけ微笑んだ
走って来たけいちゃんが自分のネクタイを取り私の腹部を止血しようとして来たので彼の腕を掴んで首を横に振った。「一緒に死ぬって約束したから」そう言った私に3人はショックを受けた様な顔をしてから俯いた
そろそろ駄目だなって何となく分かって、最後に腕の中にいる頭に穴が空いた隆の唇に口付けた。「私もずっと愛してる」と聞いていない彼の耳元で囁き、頭を強く抱き締めた。意識が無くなっていく直前に3人が私の事を抱き締めてくれている様な優温もりを感じて涙が1粒だけ目から溢れた
また、耳鳴りがする
自分の頭に銃口を突き付けた時の隆の顔が目の前に出て来て苦しくて切なくて悲しくて気づけば叫んでいた
「おい、大丈夫か??雪那、分かるか?」
ハァハァと息が切れている自分の胸を摩り深呼吸すると、温かい手が私の背に触れて胸の中に閉じ込められた。震える私の背を強めに摩りながら「大丈夫だ」と言った隆の声に私は涙が溢れ落ちた
「…………」
「……怖い夢見たのか?」
「…夢じゃない……。ごめん、今余裕無い」
「……夢じゃねぇって事は?お前……また来たのか?」
「……何か東京卍會が〇〇組って所と抗争してて…さ…。……1番最悪な未来だった」
「その名前……それってこの辺で1番古いヤクザじゃね?」
「……」
「お前顔真っ青だな、……本当に怖かったんだな」
少し息が整って来て、目の前の胸板に顔を押し付けてギュッと隆の背をキツく抱き締めると「もう大丈夫だ」と言って背中をゆっくりと安心させる様に撫でてくる隆にまた涙が出そうだった
「……隆がね……ずっと愛してるって言って私を見つめながら自分の頭を拳銃で撃ち抜いたの」
「…………」
「私もお腹撃たれてたから直ぐ死んじゃったけど……。隆が死んだの見たの2回目でさ、今けっこう辛い」
「……お前も撃たれたの?」
「うん」
「……抗争の相手に?」
「ううん。隆が……一緒に死んでくれって」
そう口に出してから直ぐに後悔した。私の言葉を聞いた隆は今迄見た事も無い様な悲しい顔をして私を見つめていた。咄嗟に私の口から出た「ごめん」て言葉に隆は首を横に振った。
「……真一郎君がそうだった様にお前の話も100%信じてる……」
「……うん」
「だけど、今回の話だけは信じたくねぇ。……俺が1番大事なお前を傷付ける何て事信じられねぇ」
「……ありがと……その言葉聞いたら何か安心しちゃったよ」
ルナとマナの事や薬の事は何だか話す気にはなれなくて、いまだに苦虫を噛み潰したような顔をしている隆の頬に擦り寄ってそのまま体をベッドに押し倒すと「落ち着いたのか?」と言って片手で私を抱きながら布団を掛けてくれたので「うん」と頷いた
「……凄く……怖い未来だったな……」
「…………どうゆう経緯であの組織とトーマンが敵対すんのか全然分かんねぇ」
「……ぺーちゃんとか八戒とか……他に色んな人亡くなっててさ。普通に道も歩けなくて」
「…………」
「隆の顔……隈だらけだった」
「……」
「………チームを始めたのはきっとちょっとしたきっかけだったのかもしれないけど……。人が死んだり傷付いたり……嫌だな……」
「……その未来に関しては実感ねぇから何とも言えねぇけど。今の俺はお前をずっとこれからも悲しませねぇ自信あるよ」
「……うん。ありがとう……」
月の光しか無い暗闇の中で隆の坊主頭を撫でていると、先程まで一緒だった黒髪の隆の髪は長かったなと何だか切なくなった。棺桶に入った彼を見た時にこれ以上の悲しみは無いなんて思っていたけれど、実際今回の死に方を見た方が辛かった
「 雪那?……寝れそうか?」
「……まだちょっと気が高ぶってるから今寝たら変な夢見そう」
「……そうだな」
「ちょっと待ってろ」と言って起き上がった隆は廊下へと歩いて行った。暫くすると手にマグカップを持ち歩いてきた彼を見て私は微笑んで起き上がると、差し出された湯気の立つカップを受け取った
あれから体が温まると直ぐに寝てしまい、気付いた時にはカーテンから光が入って来ていた。起きても隣に居たのは坊主の隆で、凄い幸せな気分と疲れの間にいる様な不思議な感じがする。眠る隆の頭を優しく撫でて頬に口付けすると身を捩った隆は薄目を開けた
「……はよ」
「昨日……ありがとうね。落ち着いた」
「学校行けんの?……サボってどっか行くか?」
「ふふふ」
「……何だよ」
「だーいすき」
微笑んだ私に隆は少しだけ呆れた様な顔をしてから私を抱き締め「俺も」と言ってくれた。本当は今日は隆に甘えて静かに過ごしたかったけれど、甘い誘惑に負けずに学校に行かなければと思い小さく溜息を吐いた
「……何で溜息何だ?」
「……本当は今日は二人で静かに過ごしたい……だけど宿題やって学校行かないと……。後作業もしなくちゃ。家の掃除も……って考えたら溜息出た」
「学校終わったら俺今日はちょっと一虎と場地と約束あっから。終わったらお前の家行くよ、掃除手伝ってやる」
「……ここって圭ちゃん……生きてるの?」
「……はっ?」
「一虎君……出所してるの?」
「お前、まだこんがらがってんの?」
よしよしと言って私の頭を撫でる隆にとりあえず「うん」とだけ生返事をしておいた。でも隆の口ぶりからして圭ちゃんも一虎君も生きてて仲良くやってるんだなとジンと来てしまい、昨日の事もあったからか涙脆くて目元が熱くなってきてしまった。そんな私を見て首を傾げてる隆に「何でもない」と言ってから赤くなった目を見られない様に立ち上がった
1度自宅に帰り直ぐに宿題をやってから簡単なお弁当を作って学校へ自転車で向かった。急いで支度をして全速力で漕いだのに普通に遅刻してしまい、授業中の教室に途中から入るのは嫌だったので2限目が終わるまで体育館裏で日向ぼっこをしながら携帯ゲームに夢中になっていた。チャイムが鳴っても画面に集中していると人の話声が聞こえてきて特にやましい事は無いのにコソコソと隠れてしまう
「話って何?」
「……あの、ずっと好きだったんです」
そんな会話が聞こえて来て、青春だなと思いながら画面にタップを続けていると、男の方が彼女いるからごめんと言った声が何だか隆の声に似ていて私は携帯をポケットにしまいゆっくりと壁から顔を覗かせた
「……彼女居るのも知ってるんです。でも部長の事諦められなくて」
「……悪ぃな。でもありがとうな」
「お願いします、1度だけで良いのでキスして貰えませんか?」
「…………それは出来ねぇ。ごめんな」
何て勇気がある女の子何だろうとちょっとだけ感動していると、涙を流した女の子は頭を下げてから走り去って行ってしまった。声を掛けようか迷っていると、こちらを振り返った隆と目が合ったので少しだけ微笑むとかなり驚いたのか目を見開いてから「何やってんだよ」と言ってこちらに向かってくる隆に「遅刻しちゃった」とちょっと可愛子ぶって舌を出した
「聞いてた?」
「……聞こえちゃった」
「……授業始まるけど教室行かねぇの?」
「お腹空いちゃったからお弁当食べようかなって」
「俺の分ある?」
「……あるよ」
石段の上に置いて置いた鞄から朝作ったお弁当を取り出すと隆は嬉しそうに微笑んだ。箱を開けて「タコさんウインナーと卵焼き入ってるよ」と言った私の手からお弁当を受け取った隆は「スゲェ美味そう」と少しだけはしゃいでいた。二人で水筒のお茶を飲み、お弁当をつついていると先程の女の子の事が少し気になったので素直に聞いてみようと隆の頬をつんつんとつついた
「何だよ」
「凄い好きなので1度だけキスして貰えませんか?」
「……阿呆か」
「ふふ。何かちょっと感動しちゃってさ」
「何が?」
「私なら彼女居る人に言えないから勇気あるなって。変な話だけど、私も言われた事あるんだよね」
「はっ?……キスしてって言われたのか?」
「うん。断ったけど。何かそこまで思ってくれてたのかなって……。普通断られるの怖いから言えないし素直に凄いなって思ったんだ」
「……そんな事より誰から言われたか言え」
「ふふふ。内緒」
ジロっと睨まれて、返すようにニッコリと微笑んでから隆の口に家にあった残り物のからあげを詰める。部長って呼んでいたから手芸部の子かなと考えながらおにぎりを咀嚼していると、隆の顔が近付いてきてモグモグとしている唇に軽く唇が触れる
「1回でいいのか?」
「ぶふっ、ちょっと笑わせないで」
「もう1回してやろうか?」
「……キスだけじゃ足りないなって言ったらどうする?」
「……俺も足りないって言う」
隆の返しにケラケラと笑っていると、ニッコリと微笑まれて肩を抱かれた私は口を閉じた
「……な、何?」
「誰にキスしていいか聞かれたか言え。言わねぇなら今日は寝かさねぇからな」
「……ふふふ。逆に寝かさないからね」
「お前……言ったな」
そんな阿呆なやりとりをしているとチャイムが学校全体に鳴り響く。お腹がいっぱいで眠いと欠伸をした私に俺もと言った隆は釣られるように欠伸をしていた
5限目まで授業を受けてからさっさと帰って作業でもしようかと帰り支度をしていると、窓の外に派手な坊主頭と隆の姿が見えた。荷物をまとめ終わり昇降口で口に履き替えてから校門に向かえばまだ2人は話をしている最中の様だ。後ろから隆の背に抱き着くと目が合った八戒はぐぬぬと言いたげな顔をしたので、ニヤニヤしながら隆の頬に口付けすると「タカちゃんが汚れる」と慌てた様な顔をして発狂した
「 雪那もう帰んの?」
「早く帰って作業する。掃除もしなきゃいけないし」
「……タカちゃんに触るな」
「……やかましいわ八戒、タカちゃんは私のだ」
「俺のだ」
「……お前ら本当にルナとマナみたいだな」
「可愛いでしょ?」
「すげぇかわい」
「タカちゃん馬鹿は甘やかしちゃ駄目だよ」
「煩いわ童貞」
そういえば、昨日いた未来では八戒は隆を庇って死んだと言っていたな。とふと思い出して少し切なくなった。ジッと見つめていると「見んなブス」と言って来た八戒がいつもとは違い何だか可愛く見えるから不思議だ。隆への異常な愛は一緒何だし、たまには可愛がってやろうと思い八戒の腕に抱き着いて「よしよしお姉ちゃんですよ」とスリスリすると普通に蕁麻疹が出た八戒は白目を向きながら「タカちゃん助けて」と呟いていた
「…… 雪那、離れてやれ。八戒が死ぬ」
「うぅ、気分まで悪くなってきた」
「失礼な」
本気で辛そうな八戒に舌打ちをしてから離れると苦笑いをしている隆に「先帰るね」と一言ってこっそり自転車を止めておいた学校裏の空き地に向かった。空き地にポツンと留めてある自転車に鍵を刺し回し籠に鞄を入れていると、空き地の隅にしゃがみこみ煙草を吸っている4人組が居るのに気付いた
「……あの制服ってどこの制服だろ」
関わりたくないので直ぐにその場から立ち去ろうとした時にポケットの携帯が鳴った。ピピピと小さく音を立てた携帯を開けばLINEは隆からで「今日夜はパスタ食いたい」と入っていて少し笑ってしまった
ふふっと私が小さな声で笑うと視界の隅でしゃがみこんでいた男の1人が立ち上がるのが見えたので、咄嗟にヤバいと思って自転車に乗り込むとポケットに入れようとしていた携帯が地面に転がった。急いで自転車から降りてしゃがみこみ携帯を拾えば目の前に影が出来て思わず小さく溜息を吐いてしまった
「……お前、さっき携帯で俺らの事写真撮ってたろ?」
「……はぁ?撮って無いですけど」
どうやら煙草を吸っている現場を写真に撮られたと勘違いしている様で、睨みを効かせながら携帯を見せろと言って来る男に「嫌です」とキッパリ言い放った
前の私なら怖くて泣いてるかもしれないなと思いながら手に持った携帯を開くと、閉じてなかった隆のLINEページは簡単な操作で直ぐに出て来た。「貸せ」と取り上げてこようとした男の手を避けて通話ボタンを押すと携帯を持った手を背に隠す
「……てめぇ、今何しやがった?」
「写真は撮ってないのでどっか行って下さい。これ以上絡むなら警察呼びますよ」
私の言葉に青筋を立てた男を呼びに来たのか加勢しに来たのか、他の3人もこちらに向かって来たのでちょっとビクビクしながら携帯をちらりと見ると通話中になっていたので「学校の裏の空き地!助けて」と電話に向かって叫ぶとバシンと頬を叩かれて思わずキャアと声が出てしまった
「この女、警察にかけたのか?」
「おい、殴るなよ。女の子だぞ」
止めに入ってくれた男の子に少しだけ安心していると、私を叩いた男は携帯を持った腕を掴み「渡せ」と低い声を出した。隆が来るまで怖いけど我慢と思い唇を噛み締めながら首を横に振っているとギリギリと掴まれた腕が握り潰される様な痛みを感じ始めた
「 雪那」
名前を呼ばれて振り向けばハアハアと息をしながら走って来てくれた隆は私の腕を握る男の手を掴んだ
「……てめぇ。……?お前……篠原?」
「…えっ?…三ツ谷君」
「……隆の知り合い?」
「うちのチームの奴。お前人の女に何やってんの?」
「いや、煙草吸ってる所を写真撮られちゃったんで、チクられるとまずいかなって」
「写真なんか撮って無いってば」
「……ふーん。事情は分かったけど……。お前手見せてみ」
「……」
差し出した腕に残る手形は真っ赤になっていて、それが怒りに触れたのか隆の怒鳴り声が空き地に響いて私は思わず耳を塞いでしまった。自分の為に怒ってくれているけど、この人が怒る顔は余り見慣れていなくて1番怖いと思った。昨日怖い思いを沢山して内心疲れているのを彼は知っているから尚更なんだろうか
隆に殴られて地面に転がった男が謝っても彼はいつもと違って止まらず、他の男達はそれを見て止めようともせず顔を青くしていた
「……てめぇ。立てボケ。こいつに怪我させやがって」
「すみません、本当に申し訳無いです」
そんなやりとりを見ていると何だか悲しくなって来て拳を握りしめる隆の腕に抱き着いて首を横に振った
「……私大丈夫だから」
「…………」
こちらをちらりと見た隆の顔は昨日の隆と少しだけ似ている様な気がした。悲願するような私の顔に少しだけハッとした様な表情を見せると「次、女に手出したらマイキーに報告するからな」と言って舌打ちをする
「はい」と言って顔を青くしている男は仲間に支えられながら足早に空き地から出て行ってしまった
「……ごめんな。昨日の今日で怖ぇ思いまたさせちまったな」
「電話気付いてくれて助かったよ。……大丈夫だから」
「俺が……嫌、何でもねぇ」
少し様子がおかしいと思ったけれど、直ぐに小さく微笑んでからいつの間にか倒れていた自転車を起こしてくれた隆はそっと私の赤くなった手首を撫でて小さくもう1度謝った。「隆が謝る事じゃないよ」と言って起こしてもらった自転車に乗りこむと、いまだに少しだけ困った様な顔をしている彼の唇に優しく口付ける
「先帰ってるね。パスタにするから早めに帰って来て」
「おぅ、気をつけろよ」
ペダルを踏んで自転車を漕ぎ空き地から出ると1度振り返ってから隆に手を振った。何だか考え込んでいる様な顔をしながら手を振り返してくれる隆にどうしたんだろうと思ったけれど、後でまた会えるしその時にタイミングが合ったら聞けばいいかと深く考えずに帰路を急いだ
