歩くような速さで
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あれから一人自宅に帰りリビングにも顔を出さずに自室に籠った。LINEに随分帰りが早いけど隆君と仲直り出来たの?と入って来たお母さんのメッセージが今は凄く辛い。
これからの学校生活で、彼に彼女でも出来たって聞いたら私は死ぬかもしれないと顔を青ざめているとふと思い出した
私が青宗と付き合ったと聞いた時のあの大人の隆はどんだけ辛かったんだろう……。胸がまたジクジクと痛み、そんな事を考えただけで泣いてしまう自分が何だか悔しい。1時間前に戻ってあの話をしなければ別れなくて済んだのかな何て、ついつい考えてしまった
それから学校で隆を見る度に悲しくなるし、たまに教室で女の子と二人で仲が良さそうにお喋りをしている隆を見るのが堪らなく嫌になった。嫉妬は醜いな、と自分で分かっているのに彼が他に彼女を作るんじゃないかと心配で仕方がない。隆が死ぬ事が心配だとか言っていて、別れたら他に彼女が出来ないか心配だとか思っている自分が阿呆らしくて仕方なかった。
隆と別れた事は誰かに言わなくても直ぐに噂で広まったのか放課後にまた告白される様になったり、パーちゃんやペーちゃん、吉井や麗奈に心配されたりと毎日が悲しみの中流れる様に過ぎて行った。それから1ヶ月近くが過ぎて暑さも落ち着いて来た頃、学校から帰宅すると自宅のマンションの前で単車に跨がってこちらを見ているのは隆だった
「……隆」
「…………よ、これ。うちに置いてあった荷物」
「……ああ。うん……」
紙袋を手渡されて中を見れば、化粧水や寝巻きなどが入っていて小さく溜息をついた。気持ちを落ち着かせないといけないのにイライラしてきてしまう、「何か、痩せたな」と私を見て口を開いた隆の平然とした顔を見て怒りが頂点に来てしまい握った紙袋を投げ付けると驚いた顔をした隆は単車を降りて何も言わずに荷物を拾っていた
「……捨てておいて」
「…………」
「……やっと落ち着いてきたのに……どっか行ってよ」
「…………」
自分の心無い言葉に涙が出てきて、直ぐに彼の前から消えたくて自宅とは反対の方向に走り出した。どれくらい走ったのか分からないけれど、気付いたら街中にいて良く見てみれば真一郎君のバイク屋の通りだった。近くにあったコンビニに入りアイスを買ってからバイク屋を覗けば座り込んで単車を磨いている真一郎君が見えて、小さくガラスをノックすると振り返った真一郎は優しく微笑んでくれた
「雪那ちゃん、元気だった?」
「…………元気じゃないよ」
頭を撫でられて、ブワッと溢れる様に出てきた涙が頬や首を濡らしてゆく。一瞬目を見開いた真一郎君は私の頭を優しく抱くと背中を摩って「大丈夫だよ」と囁いてくれた。何分かそうしていると、ゆっくりと呼吸も整って涙も止まってきた。抱き締められていた事に今更ながら恥ずかしくなって来て「あ、ありがとう」と言い少し照れながら真一郎から離れると「隆と何かあった?」て聞かれてゆっくり頷いた。
「……振られちゃった」
「……へぇ。振ったわりに追いかけて来てたけど」
「えっ?」
「俺に抱き締められてる雪那ちゃん見たら来た道戻ってったよ、隆」
「…………そ、か」
「お互いまだ好きなんじゃねーの?」
「でも……」
「もし、話せるんなら俺に話してみれば?良かったら聞くよ」
「……真一郎君……ありがとう」
歯を見せて笑った真一郎に何故か全部ぶちまけたくなった。「……私、本当は25歳なの」と最初からぶちまけた私に彼は笑わなかった。「……辛かったね」と小さく呟き私を抱き締め頭を撫でてくれる真一郎君に全部全部話した。この間マイキーをこの手で刺し殺してしまった事もその未来が怖くなって隆に心配になりすぎてしまった事も、全部話してしまった
「……万次郎……」
私が話終えると、そう呟いた真一郎君はどこか悲しそうな顔をしていて私はそれを静かに見つめていた。「ごめんな、雪那ちゃん」と何故か謝られて頭をずっと撫でてくる真一郎の表情は本当に申し訳無さそうな顔をしていたけれど、何故彼が謝るのかは分からなかった
「……隆の事さ、まだ好きなら俺が一肌脱いでやるから心配すんな」
「……えっ?」
「協力者も必要だな。雪那ちゃん、明日学校終わったらまた此処に来て」
「……あ、え?はい」
「ま、任せときなよ」
首を傾げた私にニッと笑った真一郎君の頼り無さそうな顔を見て、大丈夫かなぁと少し心配だったけれど。今はどうして良いのかすらも分からないし、そう言ってくれた真一郎君を信じてみたくなった。次の日に学校帰りにバイク屋に寄ると、真一郎君ともう一人男性が居て2人は挨拶をするとこちらに振り返る。その顔を見て私は少し驚いてしまった
「……凄い……かっこいい……」
「俺のダチの若。今牛若狭ね。若、話してた雪那ちゃん」
「は、初めまして。雪那です」
「やっぱり大人の雰囲気出てんな。よろしくな雪那 」
「若が今日から雪那ちゃんの彼氏になるからよろしくな」
「………えっ?」
「精神が大人なら色々容赦しないから。覚悟しておけよ」
「おい、雪那ちゃんの体に絶対触んなよ」
「……冗談だよ真ちゃん」
「隆に顔向け出来ねぇからな。」
「……あの、今牛さんと付き合ってどうするんですかね?」
「雪那ちゃんにイケメンの彼氏が出来たら、隆も泣いて寄り戻してって言うだろ」
「……逆に言わないと思うんですけど……」
「あ、雪那もそう思う?真ちゃん、絶対無茶な作戦だって……」
「……うーん。俺なら泣いて戻るけどな……」
「「…………」」
今牛さんと目を合わせるとハァと溜息をついた私達に真一郎君は「俺に任せとけ」と言って親指を立ててくる。彼に甘いのか、「仕方ねぇな、やるか……」と面倒くさそうに呟く今牛さんを見て何だか申し訳無くなったけれど私に今失くす物は何も無いし、暇つぶしと言ったら失礼だけど隆の事を考え無い時間が欲しかったから丁度良いかなくらいに考える事にした
「……何か……すみません今牛さん」
「ま、真ちゃんの作戦でやってみようぜ」
今牛さんと連絡先を交換してから帰宅すると、リビングに入ればお母さんが悲しそうな顔で私を見つめて来てギョッとしてしまう。テーブルの上に置かれているのは昨日投げつけた荷物で、どうやら隆はお母さんに渡したらしい
「……それ、隆が持って来たの?」
「うん。……雪那ちゃん、より戻さなかったの?」
「言って無かったけど……振られた……うん。」
「隆くんは、自分じゃ雪那の事幸せに出来そうも無くて。本当にすみません、おばさんて言って来たわよ」
「……そ、……私もう新しい彼氏いるから」
「…………えっ?」
「心配しないで、お母さん」
「…… 雪那ちゃん?……大丈夫なの?」
目を丸くしたお母さんの顔に少し笑ってしまった。あんなにも新しい彼氏作るの早いよと言って毎回母を怒っていた私が同じ事をしている。フリだと言っても母は良く分からないだろし説明するのも面倒でそのまま部屋に戻った。もうすぐ誕生日のマナの為に作っていたワンピースと人形の仕上げに取りかかっていると直ぐに時間は過ぎて時刻は0時を過ぎていた
携帯を開けば今牛さんから明日学校終わんの何時?と入っていてそのメッセージに返信してから眠りについた
授業が終わり帰り支度をしていると、麗奈が窓の外を見ているのに気づいて鞄を持つと彼女の脇から顔を覗かせた。校門で単車に跨りぼやっとしている今牛さんを見つけて思わず「わ、忘れてた……」と呟くとギラッとした目でこちらを見てきた麗奈に後ずさりする
「……あの人……誰?」
「あ、新しい彼氏」
「めちゃくちゃタイプなんだけど……てか、新しい彼氏って何!?」
「今日夜電話するから、その時に話すよ」
「……絶対してね」
「はいはい」と言って麗奈に手を振ってからそのままダッシュで階段を駆け下りて靴を履くと校門に居る今牛さんの所まで全速力で走った。私を見つけて手を1度上げた今牛さんは息がきれて話せない私の頭を撫でてフッと小さく笑う
「す、すみません……遅くなって」
「彼氏に敬語禁止な。後今牛さんじゃなくて若で良い」
「……あ、はい。うん若……さ?ん」
「今隆こっち見てるから校舎の方振り向くなよ」
「……え?」
背中に回された手が引き寄せられて若の肩口に顔がついた。耳元で「ちょっとジッとしててな」と言われて顔が熱くなると私の顔をマジマジと見つめてから唇に触れるか触れないかの辺りで寸止めして来た若に何とも言えない感情が溢れてくる
「……ほ、本当に恥ずかしいんで止めて下さい」
「ぷっくくく」
「……てか、隆の顔知ってるんですか?」
「真ちゃんに写真見せて貰ったし、あの髪のカラーはかなり分かりやすい」
「ああ、確かに」
「……そろそろいいか。 後ろ乗って、飯食いに行こうぜ」
「……はい」
揶揄うのが楽しいのか、触るなと真一郎くんに言われて来たのに必要以上にスキンシップをとって来る若に私はだじたじだった。グイグイ来るイケメンて質が悪いな何て思いながら単車の後ろに乗りメットを被って彼のお腹に手を回すと、家庭科室からこちらを見ていた隆と目が合った様な気がした
ファミレスで食事をしてからゲームセンターに行って、ボーリングをしたり普通にゲームをしたりしていると何だか少し心が癒されている様に感じた。見ているだけでカッコイイ人が自分に優しくしてくれて、甘やかしてくれる……傷心の私にはかなり来るものがあったけれど
若も真一郎君も隆と私の復縁を望んで頑張ってくれているんだから、そこら辺しっかりしなきゃと自分に言い聞かせていた。帰り道に隆の家の前を通るのがあざといなと思いながら内心会いませんようにと願っていた。通り過ぎる時にそちらを向かずにいたけれど、制服姿の男が視界の端にいた様な気がしたが全力で気にしないようにした。
「……なぁ」
「……んー?」
「家どこ?俺、真ちゃんから隆んちの場所しか聞いてないんだよ」
「ふふ、この先の十字路を左です」
「……てかさ、真ちゃんの作戦けっこうきつくねぇ?隆が可哀想になるんだけど」
「……う、うん。まだ私を好きで居てくれてるならキツイよね」
「……ま、隆が戻らなかったら俺が相手してやるよ」
「……10個上か……」
「10個何て20代になれば普通だぜ」
「……まぁ、それもそうだね」
そんな話をして笑い合っていると自宅が見えてきて、「あのマンションだよ」と指さした。マンションの目の前で停車した単車から降りるとメットを返して頭を下げる。彼女は頭下げないべと笑う若に本当にありがとうと言ってそこで別れてから帰宅した。それから毎日が何だかとても楽しくなった。起きて学校に行き、終わると週に2回は迎えに来てくれて遊びに連れて行って貰える。休みの日はデートをしてくれて、会えない日はLINEをマメにくれていた
隆の事を考える時間が無い事がこんなに楽だなんて思わなかった。……大好きで堪らないからこそ辛くて堪らない事が沢山あるんだって分かっているつもりだった。少しづつだけど、彼を思わない時間が私を立ち直らせている気がしてくる。今牛さんと真一郎君には感謝しか無いな……と本当に思った
それから1ヶ月が過ぎた。学校から帰宅してミシン代に置かれていた小さなワンピースを花柄の包装紙で包みウサギの人形を紙袋に入れると、そこにお誕生日おめでとうとメッセージカードを書いて添えた。手作りしておいたトリュフを箱に入れてルナとマナへと書き終わると隆が部活のうちに渡しに行こうと思いパーカーを羽織って家を出た
曲がり角を曲がってアパートに到着すると階段を上がりインターホンを押す、何回か押したけれど反応が無いので学校帰りに遊びに行っているのかなと思い帰ろうとするとギィとゆっくり扉が開いて、マスクを付けた顔の赤い隆が私を見てギョっとした顔をしていた
「…… 雪那」
「……隆……。何で?家にいるの?」
「ここはうちだろ……」
「学校は?休んだの?」
「……インフルエンザ。ルナとマナは伝染らないように親戚の家にいる……」
「おばさんは?」
「……職場に泊まってる」
何で私に言わないのよと思わず寸前に出て来てしまった言葉を飲み込んでから右手を握り締めた。直ぐにでも肩を支えてベットに寝かしておかゆを作ってあげたい。そう言ったら隆は何て言うだろうか
「……隆」
「早く帰れ……風邪伝染るから」
何も言わずに玄関に入った私に眉を寄せた隆を無視して彼の肩を支える「……ベットで寝なきゃ」そう言ってゆっくり動いた私の手を振りほどくと、少し怒った顔をした隆は「帰れ」と呟いた
「……帰らない。横になって、今お粥作るから」
「… 雪那、彼氏いるなら男の家に上がるな」
「…………病人がうるさいよ」
振りほどかれた手が悲しかったけれど、キッと睨み付けた私に隆は観念した様に溜息を吐いてからベットに戻った。リビングに行って久しぶりに感じるこの台所で卵を入れたお粥を作っていると何だか涙が滲んでくる、器に移したお粥にスプーンをさしてから隆の部屋に行けばベットに大人しく座っている彼の横に座った
「食べて、薬まだある?」
「……ああ」
「自販機で飲み物買ってくるね、何がいい?」
「……アクエリ」
「分かった。」
1度外に出て自販機でアクエリを買ってから部屋に戻れば玄関に置いてあった筈の紙袋が無く、隆の部屋を覗けば紙袋の中身を見ている隆の姿に溜息を吐いた
「包装紙取っちゃたの?」
「悪ぃ……俺宛かと思ったらマナだったな」
「……俺宛かと思うんだ」
「………………」
ペットボトルを手渡すと、薬を口に入れてから半分飲み干した隆は「ありがとうな」と小さく呟いた。包装紙から飛び出しているワンピースを手に取り「マナ喜ぶかな?」と少し微笑むと、「ああ、絶対に」と言って微笑んでくれた隆の笑顔が胸にささる。若の笑顔がかっこいいなと思って居たけれど、やっぱり隆の笑顔が1番好きだなってこの時に実感した
「……眠れそう?苦しくない?」
「…………平気。普通の風邪よりキツイけどな」
「……横になりな」
「ああ」
素直に横になった隆の枕元に座り、額にうっすらと滲む汗をタオルで拭き取る。柔らかい髪の毛を撫でていると最初は怪訝な顔をしていたのに、目を閉じて気持ち良さそうにしている隆に自然に笑顔になってしまう
「……眠れそうなら寝ちゃいなよ」
「ああ………なぁ」
「ん?」
「……今牛君と……うまくいってんの?」
「……気に……なるの?」
「当たり前だろ……」
「……何で?捨てた猫が気になるの?」
「…………」
「捨てられた猫は若に可愛がって貰ってるから心配しなくていいよ」
「……そ」
意地悪を言っている自覚はあったけれど、何だか止まらなくて言い過ぎてしまったなと言ってから少し後悔した。目を瞑っている隆の首の汗を拭いてから優しく髪を撫でた、その顔を見ていると何だか切なくて苦しくて静かに顔を寄せその唇に口付けすると、驚いたのか目を見開いた隆は私の顔を見て眉を寄せる
「…私…帰るね。……お大事に」
「…… 」
立ち上がろうとすると、腕を握られたのが分かり少しだけ驚いた。隆の嫌いな浮気する女になってしまったのにまさか引き止められる何て思わなかったからだ
「…………お前……」
「…………」
「……今牛君の事本当に好きなのか?」
「隆じゃ……私を幸せに出来ないんでしょ」
「……俺と居るの……辛いんだろ?」
「……私の幸せは……隆と居る事だったのに。……大好きだから心配だっただけだよ……」
「…………」
掴まれた腕が引かれて胸に閉じ込められる。いつもよりも体温が高い隆の胸に擦り寄って背中にゆっくりと腕を回した。珍しく少しだけ涙を流している隆は見られたくないのか目元を手で隠していて、それが何だか可愛らしくて切なかった。小学校からずっと一緒に居るけれど何だかんだ逞しい隆が涙を見せる事何て無かったし、本当に悲しいんだな、私と一緒なんだなって思った。
「……隆はさ、これから誰かと付き合ったりするの?」
「……んな事今考えられる訳ねぇだろ」
「もし……他の子と付き合ったら……許さないからね」
「……お前がそうゆう事言うの初めてだな」
「隆には私しか居ないし、付き合ったら全力で邪魔するから」
「…へーへー。怖ぇ女」
「……んもぉ」
「……お前は彼氏居るのに俺は駄目なのか?」
「……うん」
「俺が許さないって言ったらどうすんの?」
「全力で奪いに来てよ」
「……ハァ」
「…………何その溜息。意味わかんない」
「意味わかんないのはお前だろ……」
呆れた顔をした隆は脱力した様にもう1度溜息を吐くと「……こんな阿呆なお前が好きで堪らない自分が疲れるよ」と小さく呟いた。好きで堪らないと聞いた途端に何だか心配が消えて無くなり張り詰めていた物も無くなった気がした
「……ねぇ、私とさ……」
「ん?」
「……若が……一緒に居て嫌だった?」
「…………」
「…………言いたくないか」
「……嫉妬で気が狂うかと思った……。今牛君じゃなくて……学校の奴とかだったら……多分殴ってた」
「……隆は私の事まだ思ってくれてるんだね」
「……ああ。本当にお前が居なくて……他の男と居るのが辛い……」
「…………じゃあ作戦成功だね」
「……は?」
携帯を開くと真一郎君のLINEのページを開いて隆に手渡した。隆が泣いて戻ってくる大作戦と書かれているメッセージを読んだのか目元が段々引きつっている隆に少し笑ってしまう。
「 雪那、今牛君と学校の校門でキスしてたよな?」
「……後ろから見るとそう見えるだけだよ。あの人にはキスもされてないしえっちもしてないよ」
「………………ハァ」
「……ふふふ。隆は昔私に言ってくれたじゃない、お前はずっと俺だけなって」
「……ああ。言ったな……」
「……でもごめんね。先に冷たかったのは私だし、向き合わなかったよね」
「…………」
「まだ、私は子供だし不貞腐れちゃう時もこれから沢山あるかもしれない。2人の幸せよりも、マイキーを優先されたら怒っちゃうかもしれない……」
「…………ああ」
「でも、隆が……傍に居てって言ってくれて、甘やかしてくれたらずっと傍に居るから」
「……お前はそれで本当にいいのか?」
「…………うん。一緒に居ない方が辛い」
「俺もそう思った。……でも」
「何?」
「……頼むから不貞腐れるのは1日にしてくれ。流石に1ヶ月は辛い」
「……ん。分かった」
「他の男と遊びに行って、単車のケツに乗ったんだ。風邪が治ったら覚えておけよ」
「はーい、喜んで」
ニッコリと微笑んで「ヤキモチかわい」と言った私に呆れたようにハハハと小さく笑った隆の唇に軽くちゅっと口付けた。優しく微笑んだ隆は「やりてぇけど熱上がりそうだから我慢する」と言って私を抱き締め直してから目を閉じてしまう
「えー、しないんだ……寂しいな」
「……お前本当にどしたの?頭でも打ったのか?」
「……何か変?」
「…………ああ。何か感じ違くねぇ?紙袋投げつけて来たり、許さないって言ったり……」
「……確かに……。ごめん、ちょっとピリピリしてたりしてたかも」
「……俺のせいだよな」
「……ちょっと……夢見が悪かったのもあった……かな」
「夢?夢何かでお前はイライラする程子供じゃねぇだろ……」
「……ちょっとリアル過ぎちゃって……」
「……ふーん。どんな夢?」
「……マイキー君を殺しちゃう……夢」
「………本当に俺が負担かけすぎたな。吉井の事も病院の事も……。チームやってる事で色々あるけど、お前に心配かけ過ぎだし実際巻き込まれてるからな」
「……私は……それでも一緒に居るよ……。でも……」
「……ん?何だよ、言えよ」
「18になったら不良は完全に卒業して、結婚してくれるなら……傍にいる……」
「…………ああ。必ず。……約束する」
ギュッと抱かれ、何度も落とされる優しい口付けに目を閉じて愛情を感じそれに浸っていた。1瞬の出来事だったし今の世界とは無関係かもしれないけれど、実は少しだけマイキーを刺した事が忘れられずにピリピリしてしまっていたんだと思う。それに加えて突然の別れだったから精神的に不安定だったのかもしれない
「……雪那 、ずっと傍に居て俺の事だけ見てて」
「……最初からそう言ってよ……」
「我儘かなって……思ったんだよ。……マイキー達と居たい、お前に心配かけても俺だけを見てて欲しいって」
「……でも、今そうしたいんでしょ?」
「ああ。」
「なら、仕方ないじゃない。でも……余りに度が過ぎたら本当に怒るからね」
「……ああ。……てか、さらっとさっきお前俺にプロポーズしてなかった?」
「うん、隆も普通に分かったって言ってたじゃん」
「……ああ。まぁ、俺はどっちにしろお前しか多分愛せないから良いけど。お前は俺で本当にいいのか?」
「当たり前でしょ、……馬鹿」
自分は大人の感覚が少しあるから結婚とかも普通に考えられるけれど、普通に約束するとかお前しか愛せないから良いとか口に出せる隆が何だか凄いなって感じた。この人は小学校の時から約束は必ず守ってくれたから、本当に嘘偽り無く私と一緒になるつもりなんだなって感じて何だかジンと来てしまった。
反社の隆と再会した時に、彼はずっとずっと別れてからも私だけを愛していたと言ってくれていた。中学の頃からこんな風に言える一途な隆だったから信用出来るのかもしれない。優しく私の指を握り締めながらスースーと寝息をたて出した隆の唇に軽く口付けしてから肩まで布団を掛けてベットを出た
彼が寝ている間にスーパーに行って飲み物、うどんや野菜や卵など栄養がある物を買ってこようと思いそのまま財布だけを持ちアパートを出る。おばさんの自転車を借りてスーパーで買い物を済ませ、アパートに戻るとキッチンを借りて鍋焼きうどんの用意だけしておいた
隆の部屋を覗けばまだ眠っていたし、わざわざ起こすことも無いのでそのままにしてリビングでテレビを見ているとLINEに若からメッセージが来ていた
今家にいんの?迎えに行くからドライブ行かね?
そんなメッセージに、隆と寄りが戻ったって返さなくちゃと思っているとリビングの扉が開いてボンヤリと私を見つめている隆と目が合った
「……夢……じゃ無かったのか」
「……どしたの?」
「いや、……ちょっとぼーっとしてた。シャワー浴びてくるわ」
「隆、うどん食べて薬飲んで寝てなよ。私ちょっと出てくるから」
「……どこ行くんだよ」
「ちょっと若と話してくるから」
そう言った瞬間に眉を寄せた隆は「何で?」と心底嫌そうな声を出した
「隆と寄り戻ったって話をしてお礼を言ってくるよ」
「……俺風呂入って来るから電話でしろよ。……もう会う必要ねぇじゃん」
「……あー、うん。」
「お前……会いたいの?」
「ううん。分かった」
ここまで厳しく言われたのも久しぶりだったし、若と真一郎君に戻った事とお礼をメッセージを送り素直に携帯を閉じた。シャワーを浴びて出てきても隆の機嫌は治っておらず、LINEで済ませたと伝えると「ああ」としか言われなかったけれど鍋焼きうどんを彼に出せば嬉しそうに食べてくれてその後はひたすらに私にくっ付いて横になっていた
「……子供みたいだよね」
「…今牛君と比べんな」
「…………比べて無くてそのままを言ってんの」
「今余裕ねぇの。体も辛いし」
「はいはい、分かったよ。」
「………嫌なのかよ」
「ふふふ。嫌じゃないよ。やきもちかわい」
「…………」
私の膝を枕にしながら、こちらを上目遣いで見てくる隆の髪を優しく撫でると少しだけ眉を下げた隆の唇に深く口付けた
これからの学校生活で、彼に彼女でも出来たって聞いたら私は死ぬかもしれないと顔を青ざめているとふと思い出した
私が青宗と付き合ったと聞いた時のあの大人の隆はどんだけ辛かったんだろう……。胸がまたジクジクと痛み、そんな事を考えただけで泣いてしまう自分が何だか悔しい。1時間前に戻ってあの話をしなければ別れなくて済んだのかな何て、ついつい考えてしまった
それから学校で隆を見る度に悲しくなるし、たまに教室で女の子と二人で仲が良さそうにお喋りをしている隆を見るのが堪らなく嫌になった。嫉妬は醜いな、と自分で分かっているのに彼が他に彼女を作るんじゃないかと心配で仕方がない。隆が死ぬ事が心配だとか言っていて、別れたら他に彼女が出来ないか心配だとか思っている自分が阿呆らしくて仕方なかった。
隆と別れた事は誰かに言わなくても直ぐに噂で広まったのか放課後にまた告白される様になったり、パーちゃんやペーちゃん、吉井や麗奈に心配されたりと毎日が悲しみの中流れる様に過ぎて行った。それから1ヶ月近くが過ぎて暑さも落ち着いて来た頃、学校から帰宅すると自宅のマンションの前で単車に跨がってこちらを見ているのは隆だった
「……隆」
「…………よ、これ。うちに置いてあった荷物」
「……ああ。うん……」
紙袋を手渡されて中を見れば、化粧水や寝巻きなどが入っていて小さく溜息をついた。気持ちを落ち着かせないといけないのにイライラしてきてしまう、「何か、痩せたな」と私を見て口を開いた隆の平然とした顔を見て怒りが頂点に来てしまい握った紙袋を投げ付けると驚いた顔をした隆は単車を降りて何も言わずに荷物を拾っていた
「……捨てておいて」
「…………」
「……やっと落ち着いてきたのに……どっか行ってよ」
「…………」
自分の心無い言葉に涙が出てきて、直ぐに彼の前から消えたくて自宅とは反対の方向に走り出した。どれくらい走ったのか分からないけれど、気付いたら街中にいて良く見てみれば真一郎君のバイク屋の通りだった。近くにあったコンビニに入りアイスを買ってからバイク屋を覗けば座り込んで単車を磨いている真一郎君が見えて、小さくガラスをノックすると振り返った真一郎は優しく微笑んでくれた
「雪那ちゃん、元気だった?」
「…………元気じゃないよ」
頭を撫でられて、ブワッと溢れる様に出てきた涙が頬や首を濡らしてゆく。一瞬目を見開いた真一郎君は私の頭を優しく抱くと背中を摩って「大丈夫だよ」と囁いてくれた。何分かそうしていると、ゆっくりと呼吸も整って涙も止まってきた。抱き締められていた事に今更ながら恥ずかしくなって来て「あ、ありがとう」と言い少し照れながら真一郎から離れると「隆と何かあった?」て聞かれてゆっくり頷いた。
「……振られちゃった」
「……へぇ。振ったわりに追いかけて来てたけど」
「えっ?」
「俺に抱き締められてる雪那ちゃん見たら来た道戻ってったよ、隆」
「…………そ、か」
「お互いまだ好きなんじゃねーの?」
「でも……」
「もし、話せるんなら俺に話してみれば?良かったら聞くよ」
「……真一郎君……ありがとう」
歯を見せて笑った真一郎に何故か全部ぶちまけたくなった。「……私、本当は25歳なの」と最初からぶちまけた私に彼は笑わなかった。「……辛かったね」と小さく呟き私を抱き締め頭を撫でてくれる真一郎君に全部全部話した。この間マイキーをこの手で刺し殺してしまった事もその未来が怖くなって隆に心配になりすぎてしまった事も、全部話してしまった
「……万次郎……」
私が話終えると、そう呟いた真一郎君はどこか悲しそうな顔をしていて私はそれを静かに見つめていた。「ごめんな、雪那ちゃん」と何故か謝られて頭をずっと撫でてくる真一郎の表情は本当に申し訳無さそうな顔をしていたけれど、何故彼が謝るのかは分からなかった
「……隆の事さ、まだ好きなら俺が一肌脱いでやるから心配すんな」
「……えっ?」
「協力者も必要だな。雪那ちゃん、明日学校終わったらまた此処に来て」
「……あ、え?はい」
「ま、任せときなよ」
首を傾げた私にニッと笑った真一郎君の頼り無さそうな顔を見て、大丈夫かなぁと少し心配だったけれど。今はどうして良いのかすらも分からないし、そう言ってくれた真一郎君を信じてみたくなった。次の日に学校帰りにバイク屋に寄ると、真一郎君ともう一人男性が居て2人は挨拶をするとこちらに振り返る。その顔を見て私は少し驚いてしまった
「……凄い……かっこいい……」
「俺のダチの若。今牛若狭ね。若、話してた雪那ちゃん」
「は、初めまして。雪那です」
「やっぱり大人の雰囲気出てんな。よろしくな雪那 」
「若が今日から雪那ちゃんの彼氏になるからよろしくな」
「………えっ?」
「精神が大人なら色々容赦しないから。覚悟しておけよ」
「おい、雪那ちゃんの体に絶対触んなよ」
「……冗談だよ真ちゃん」
「隆に顔向け出来ねぇからな。」
「……あの、今牛さんと付き合ってどうするんですかね?」
「雪那ちゃんにイケメンの彼氏が出来たら、隆も泣いて寄り戻してって言うだろ」
「……逆に言わないと思うんですけど……」
「あ、雪那もそう思う?真ちゃん、絶対無茶な作戦だって……」
「……うーん。俺なら泣いて戻るけどな……」
「「…………」」
今牛さんと目を合わせるとハァと溜息をついた私達に真一郎君は「俺に任せとけ」と言って親指を立ててくる。彼に甘いのか、「仕方ねぇな、やるか……」と面倒くさそうに呟く今牛さんを見て何だか申し訳無くなったけれど私に今失くす物は何も無いし、暇つぶしと言ったら失礼だけど隆の事を考え無い時間が欲しかったから丁度良いかなくらいに考える事にした
「……何か……すみません今牛さん」
「ま、真ちゃんの作戦でやってみようぜ」
今牛さんと連絡先を交換してから帰宅すると、リビングに入ればお母さんが悲しそうな顔で私を見つめて来てギョッとしてしまう。テーブルの上に置かれているのは昨日投げつけた荷物で、どうやら隆はお母さんに渡したらしい
「……それ、隆が持って来たの?」
「うん。……雪那ちゃん、より戻さなかったの?」
「言って無かったけど……振られた……うん。」
「隆くんは、自分じゃ雪那の事幸せに出来そうも無くて。本当にすみません、おばさんて言って来たわよ」
「……そ、……私もう新しい彼氏いるから」
「…………えっ?」
「心配しないで、お母さん」
「…… 雪那ちゃん?……大丈夫なの?」
目を丸くしたお母さんの顔に少し笑ってしまった。あんなにも新しい彼氏作るの早いよと言って毎回母を怒っていた私が同じ事をしている。フリだと言っても母は良く分からないだろし説明するのも面倒でそのまま部屋に戻った。もうすぐ誕生日のマナの為に作っていたワンピースと人形の仕上げに取りかかっていると直ぐに時間は過ぎて時刻は0時を過ぎていた
携帯を開けば今牛さんから明日学校終わんの何時?と入っていてそのメッセージに返信してから眠りについた
授業が終わり帰り支度をしていると、麗奈が窓の外を見ているのに気づいて鞄を持つと彼女の脇から顔を覗かせた。校門で単車に跨りぼやっとしている今牛さんを見つけて思わず「わ、忘れてた……」と呟くとギラッとした目でこちらを見てきた麗奈に後ずさりする
「……あの人……誰?」
「あ、新しい彼氏」
「めちゃくちゃタイプなんだけど……てか、新しい彼氏って何!?」
「今日夜電話するから、その時に話すよ」
「……絶対してね」
「はいはい」と言って麗奈に手を振ってからそのままダッシュで階段を駆け下りて靴を履くと校門に居る今牛さんの所まで全速力で走った。私を見つけて手を1度上げた今牛さんは息がきれて話せない私の頭を撫でてフッと小さく笑う
「す、すみません……遅くなって」
「彼氏に敬語禁止な。後今牛さんじゃなくて若で良い」
「……あ、はい。うん若……さ?ん」
「今隆こっち見てるから校舎の方振り向くなよ」
「……え?」
背中に回された手が引き寄せられて若の肩口に顔がついた。耳元で「ちょっとジッとしててな」と言われて顔が熱くなると私の顔をマジマジと見つめてから唇に触れるか触れないかの辺りで寸止めして来た若に何とも言えない感情が溢れてくる
「……ほ、本当に恥ずかしいんで止めて下さい」
「ぷっくくく」
「……てか、隆の顔知ってるんですか?」
「真ちゃんに写真見せて貰ったし、あの髪のカラーはかなり分かりやすい」
「ああ、確かに」
「……そろそろいいか。 後ろ乗って、飯食いに行こうぜ」
「……はい」
揶揄うのが楽しいのか、触るなと真一郎くんに言われて来たのに必要以上にスキンシップをとって来る若に私はだじたじだった。グイグイ来るイケメンて質が悪いな何て思いながら単車の後ろに乗りメットを被って彼のお腹に手を回すと、家庭科室からこちらを見ていた隆と目が合った様な気がした
ファミレスで食事をしてからゲームセンターに行って、ボーリングをしたり普通にゲームをしたりしていると何だか少し心が癒されている様に感じた。見ているだけでカッコイイ人が自分に優しくしてくれて、甘やかしてくれる……傷心の私にはかなり来るものがあったけれど
若も真一郎君も隆と私の復縁を望んで頑張ってくれているんだから、そこら辺しっかりしなきゃと自分に言い聞かせていた。帰り道に隆の家の前を通るのがあざといなと思いながら内心会いませんようにと願っていた。通り過ぎる時にそちらを向かずにいたけれど、制服姿の男が視界の端にいた様な気がしたが全力で気にしないようにした。
「……なぁ」
「……んー?」
「家どこ?俺、真ちゃんから隆んちの場所しか聞いてないんだよ」
「ふふ、この先の十字路を左です」
「……てかさ、真ちゃんの作戦けっこうきつくねぇ?隆が可哀想になるんだけど」
「……う、うん。まだ私を好きで居てくれてるならキツイよね」
「……ま、隆が戻らなかったら俺が相手してやるよ」
「……10個上か……」
「10個何て20代になれば普通だぜ」
「……まぁ、それもそうだね」
そんな話をして笑い合っていると自宅が見えてきて、「あのマンションだよ」と指さした。マンションの目の前で停車した単車から降りるとメットを返して頭を下げる。彼女は頭下げないべと笑う若に本当にありがとうと言ってそこで別れてから帰宅した。それから毎日が何だかとても楽しくなった。起きて学校に行き、終わると週に2回は迎えに来てくれて遊びに連れて行って貰える。休みの日はデートをしてくれて、会えない日はLINEをマメにくれていた
隆の事を考える時間が無い事がこんなに楽だなんて思わなかった。……大好きで堪らないからこそ辛くて堪らない事が沢山あるんだって分かっているつもりだった。少しづつだけど、彼を思わない時間が私を立ち直らせている気がしてくる。今牛さんと真一郎君には感謝しか無いな……と本当に思った
それから1ヶ月が過ぎた。学校から帰宅してミシン代に置かれていた小さなワンピースを花柄の包装紙で包みウサギの人形を紙袋に入れると、そこにお誕生日おめでとうとメッセージカードを書いて添えた。手作りしておいたトリュフを箱に入れてルナとマナへと書き終わると隆が部活のうちに渡しに行こうと思いパーカーを羽織って家を出た
曲がり角を曲がってアパートに到着すると階段を上がりインターホンを押す、何回か押したけれど反応が無いので学校帰りに遊びに行っているのかなと思い帰ろうとするとギィとゆっくり扉が開いて、マスクを付けた顔の赤い隆が私を見てギョっとした顔をしていた
「…… 雪那」
「……隆……。何で?家にいるの?」
「ここはうちだろ……」
「学校は?休んだの?」
「……インフルエンザ。ルナとマナは伝染らないように親戚の家にいる……」
「おばさんは?」
「……職場に泊まってる」
何で私に言わないのよと思わず寸前に出て来てしまった言葉を飲み込んでから右手を握り締めた。直ぐにでも肩を支えてベットに寝かしておかゆを作ってあげたい。そう言ったら隆は何て言うだろうか
「……隆」
「早く帰れ……風邪伝染るから」
何も言わずに玄関に入った私に眉を寄せた隆を無視して彼の肩を支える「……ベットで寝なきゃ」そう言ってゆっくり動いた私の手を振りほどくと、少し怒った顔をした隆は「帰れ」と呟いた
「……帰らない。横になって、今お粥作るから」
「… 雪那、彼氏いるなら男の家に上がるな」
「…………病人がうるさいよ」
振りほどかれた手が悲しかったけれど、キッと睨み付けた私に隆は観念した様に溜息を吐いてからベットに戻った。リビングに行って久しぶりに感じるこの台所で卵を入れたお粥を作っていると何だか涙が滲んでくる、器に移したお粥にスプーンをさしてから隆の部屋に行けばベットに大人しく座っている彼の横に座った
「食べて、薬まだある?」
「……ああ」
「自販機で飲み物買ってくるね、何がいい?」
「……アクエリ」
「分かった。」
1度外に出て自販機でアクエリを買ってから部屋に戻れば玄関に置いてあった筈の紙袋が無く、隆の部屋を覗けば紙袋の中身を見ている隆の姿に溜息を吐いた
「包装紙取っちゃたの?」
「悪ぃ……俺宛かと思ったらマナだったな」
「……俺宛かと思うんだ」
「………………」
ペットボトルを手渡すと、薬を口に入れてから半分飲み干した隆は「ありがとうな」と小さく呟いた。包装紙から飛び出しているワンピースを手に取り「マナ喜ぶかな?」と少し微笑むと、「ああ、絶対に」と言って微笑んでくれた隆の笑顔が胸にささる。若の笑顔がかっこいいなと思って居たけれど、やっぱり隆の笑顔が1番好きだなってこの時に実感した
「……眠れそう?苦しくない?」
「…………平気。普通の風邪よりキツイけどな」
「……横になりな」
「ああ」
素直に横になった隆の枕元に座り、額にうっすらと滲む汗をタオルで拭き取る。柔らかい髪の毛を撫でていると最初は怪訝な顔をしていたのに、目を閉じて気持ち良さそうにしている隆に自然に笑顔になってしまう
「……眠れそうなら寝ちゃいなよ」
「ああ………なぁ」
「ん?」
「……今牛君と……うまくいってんの?」
「……気に……なるの?」
「当たり前だろ……」
「……何で?捨てた猫が気になるの?」
「…………」
「捨てられた猫は若に可愛がって貰ってるから心配しなくていいよ」
「……そ」
意地悪を言っている自覚はあったけれど、何だか止まらなくて言い過ぎてしまったなと言ってから少し後悔した。目を瞑っている隆の首の汗を拭いてから優しく髪を撫でた、その顔を見ていると何だか切なくて苦しくて静かに顔を寄せその唇に口付けすると、驚いたのか目を見開いた隆は私の顔を見て眉を寄せる
「…私…帰るね。……お大事に」
「…… 」
立ち上がろうとすると、腕を握られたのが分かり少しだけ驚いた。隆の嫌いな浮気する女になってしまったのにまさか引き止められる何て思わなかったからだ
「…………お前……」
「…………」
「……今牛君の事本当に好きなのか?」
「隆じゃ……私を幸せに出来ないんでしょ」
「……俺と居るの……辛いんだろ?」
「……私の幸せは……隆と居る事だったのに。……大好きだから心配だっただけだよ……」
「…………」
掴まれた腕が引かれて胸に閉じ込められる。いつもよりも体温が高い隆の胸に擦り寄って背中にゆっくりと腕を回した。珍しく少しだけ涙を流している隆は見られたくないのか目元を手で隠していて、それが何だか可愛らしくて切なかった。小学校からずっと一緒に居るけれど何だかんだ逞しい隆が涙を見せる事何て無かったし、本当に悲しいんだな、私と一緒なんだなって思った。
「……隆はさ、これから誰かと付き合ったりするの?」
「……んな事今考えられる訳ねぇだろ」
「もし……他の子と付き合ったら……許さないからね」
「……お前がそうゆう事言うの初めてだな」
「隆には私しか居ないし、付き合ったら全力で邪魔するから」
「…へーへー。怖ぇ女」
「……んもぉ」
「……お前は彼氏居るのに俺は駄目なのか?」
「……うん」
「俺が許さないって言ったらどうすんの?」
「全力で奪いに来てよ」
「……ハァ」
「…………何その溜息。意味わかんない」
「意味わかんないのはお前だろ……」
呆れた顔をした隆は脱力した様にもう1度溜息を吐くと「……こんな阿呆なお前が好きで堪らない自分が疲れるよ」と小さく呟いた。好きで堪らないと聞いた途端に何だか心配が消えて無くなり張り詰めていた物も無くなった気がした
「……ねぇ、私とさ……」
「ん?」
「……若が……一緒に居て嫌だった?」
「…………」
「…………言いたくないか」
「……嫉妬で気が狂うかと思った……。今牛君じゃなくて……学校の奴とかだったら……多分殴ってた」
「……隆は私の事まだ思ってくれてるんだね」
「……ああ。本当にお前が居なくて……他の男と居るのが辛い……」
「…………じゃあ作戦成功だね」
「……は?」
携帯を開くと真一郎君のLINEのページを開いて隆に手渡した。隆が泣いて戻ってくる大作戦と書かれているメッセージを読んだのか目元が段々引きつっている隆に少し笑ってしまう。
「 雪那、今牛君と学校の校門でキスしてたよな?」
「……後ろから見るとそう見えるだけだよ。あの人にはキスもされてないしえっちもしてないよ」
「………………ハァ」
「……ふふふ。隆は昔私に言ってくれたじゃない、お前はずっと俺だけなって」
「……ああ。言ったな……」
「……でもごめんね。先に冷たかったのは私だし、向き合わなかったよね」
「…………」
「まだ、私は子供だし不貞腐れちゃう時もこれから沢山あるかもしれない。2人の幸せよりも、マイキーを優先されたら怒っちゃうかもしれない……」
「…………ああ」
「でも、隆が……傍に居てって言ってくれて、甘やかしてくれたらずっと傍に居るから」
「……お前はそれで本当にいいのか?」
「…………うん。一緒に居ない方が辛い」
「俺もそう思った。……でも」
「何?」
「……頼むから不貞腐れるのは1日にしてくれ。流石に1ヶ月は辛い」
「……ん。分かった」
「他の男と遊びに行って、単車のケツに乗ったんだ。風邪が治ったら覚えておけよ」
「はーい、喜んで」
ニッコリと微笑んで「ヤキモチかわい」と言った私に呆れたようにハハハと小さく笑った隆の唇に軽くちゅっと口付けた。優しく微笑んだ隆は「やりてぇけど熱上がりそうだから我慢する」と言って私を抱き締め直してから目を閉じてしまう
「えー、しないんだ……寂しいな」
「……お前本当にどしたの?頭でも打ったのか?」
「……何か変?」
「…………ああ。何か感じ違くねぇ?紙袋投げつけて来たり、許さないって言ったり……」
「……確かに……。ごめん、ちょっとピリピリしてたりしてたかも」
「……俺のせいだよな」
「……ちょっと……夢見が悪かったのもあった……かな」
「夢?夢何かでお前はイライラする程子供じゃねぇだろ……」
「……ちょっとリアル過ぎちゃって……」
「……ふーん。どんな夢?」
「……マイキー君を殺しちゃう……夢」
「………本当に俺が負担かけすぎたな。吉井の事も病院の事も……。チームやってる事で色々あるけど、お前に心配かけ過ぎだし実際巻き込まれてるからな」
「……私は……それでも一緒に居るよ……。でも……」
「……ん?何だよ、言えよ」
「18になったら不良は完全に卒業して、結婚してくれるなら……傍にいる……」
「…………ああ。必ず。……約束する」
ギュッと抱かれ、何度も落とされる優しい口付けに目を閉じて愛情を感じそれに浸っていた。1瞬の出来事だったし今の世界とは無関係かもしれないけれど、実は少しだけマイキーを刺した事が忘れられずにピリピリしてしまっていたんだと思う。それに加えて突然の別れだったから精神的に不安定だったのかもしれない
「……雪那 、ずっと傍に居て俺の事だけ見てて」
「……最初からそう言ってよ……」
「我儘かなって……思ったんだよ。……マイキー達と居たい、お前に心配かけても俺だけを見てて欲しいって」
「……でも、今そうしたいんでしょ?」
「ああ。」
「なら、仕方ないじゃない。でも……余りに度が過ぎたら本当に怒るからね」
「……ああ。……てか、さらっとさっきお前俺にプロポーズしてなかった?」
「うん、隆も普通に分かったって言ってたじゃん」
「……ああ。まぁ、俺はどっちにしろお前しか多分愛せないから良いけど。お前は俺で本当にいいのか?」
「当たり前でしょ、……馬鹿」
自分は大人の感覚が少しあるから結婚とかも普通に考えられるけれど、普通に約束するとかお前しか愛せないから良いとか口に出せる隆が何だか凄いなって感じた。この人は小学校の時から約束は必ず守ってくれたから、本当に嘘偽り無く私と一緒になるつもりなんだなって感じて何だかジンと来てしまった。
反社の隆と再会した時に、彼はずっとずっと別れてからも私だけを愛していたと言ってくれていた。中学の頃からこんな風に言える一途な隆だったから信用出来るのかもしれない。優しく私の指を握り締めながらスースーと寝息をたて出した隆の唇に軽く口付けしてから肩まで布団を掛けてベットを出た
彼が寝ている間にスーパーに行って飲み物、うどんや野菜や卵など栄養がある物を買ってこようと思いそのまま財布だけを持ちアパートを出る。おばさんの自転車を借りてスーパーで買い物を済ませ、アパートに戻るとキッチンを借りて鍋焼きうどんの用意だけしておいた
隆の部屋を覗けばまだ眠っていたし、わざわざ起こすことも無いのでそのままにしてリビングでテレビを見ているとLINEに若からメッセージが来ていた
今家にいんの?迎えに行くからドライブ行かね?
そんなメッセージに、隆と寄りが戻ったって返さなくちゃと思っているとリビングの扉が開いてボンヤリと私を見つめている隆と目が合った
「……夢……じゃ無かったのか」
「……どしたの?」
「いや、……ちょっとぼーっとしてた。シャワー浴びてくるわ」
「隆、うどん食べて薬飲んで寝てなよ。私ちょっと出てくるから」
「……どこ行くんだよ」
「ちょっと若と話してくるから」
そう言った瞬間に眉を寄せた隆は「何で?」と心底嫌そうな声を出した
「隆と寄り戻ったって話をしてお礼を言ってくるよ」
「……俺風呂入って来るから電話でしろよ。……もう会う必要ねぇじゃん」
「……あー、うん。」
「お前……会いたいの?」
「ううん。分かった」
ここまで厳しく言われたのも久しぶりだったし、若と真一郎君に戻った事とお礼をメッセージを送り素直に携帯を閉じた。シャワーを浴びて出てきても隆の機嫌は治っておらず、LINEで済ませたと伝えると「ああ」としか言われなかったけれど鍋焼きうどんを彼に出せば嬉しそうに食べてくれてその後はひたすらに私にくっ付いて横になっていた
「……子供みたいだよね」
「…今牛君と比べんな」
「…………比べて無くてそのままを言ってんの」
「今余裕ねぇの。体も辛いし」
「はいはい、分かったよ。」
「………嫌なのかよ」
「ふふふ。嫌じゃないよ。やきもちかわい」
「…………」
私の膝を枕にしながら、こちらを上目遣いで見てくる隆の髪を優しく撫でると少しだけ眉を下げた隆の唇に深く口付けた
