歩くような速さで
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
隆と結婚する事になってから自分の心が浮かれている事が良く分かって、何だか自分自身が可愛く思えてくる。朝起きると太陽の眩しさに嬉しくなるし、彼の顔を見ているだけで私の旦那様なんだな~とか考えて嬉しくなっている自分がいた。あの話をした後から毎日ご機嫌な私が面白いのか「かわい」と言って微笑んでいる隆も満更でも無さそうに見えて少し笑ってしまった
「隆だって嬉しい癖に」
「……まぁな。」
「やけに素直だね」
「やっと二人で過ごせる様になったからな」
「……うん……」
「……本当に……電話して来てくれてサンキュな」
「…私が……会いたかっただけだよ」
「早く指輪買いに行かなきゃな」
「そういえば、お母さんが隆に会いたがってたよ」
「……そっか。俺もおばさんに会いたい気持ちはあるんだけどな」
そう小さい声で呟いた隆は私の手を掴むと、自身の膝に座らせて来る。彼の頭を優しく抱いて額に口付けすると片手で顎を掴まれて唇に激しく口付けされ、片手で自身のシャツを脱ぎ捨てた隆の背中を撫でると一度止まった隆に首を傾げた
「……どしたの?」
「おばさんに……会わせる顔ねぇな…」
「………この体の墨とかもし見られたり、仕事何してんの?とか聞かれたら……困るから?」
「…………ああ」
「……うちのお母さんは多分全然大丈夫だよ。隆くんの刺青カッコイイ、お母さんも入れちゃおうかなとか言いそう……」
「……あ、有り得るな……」
「ふふふ。隆のお母さんのが怒るんじゃない?」
「……ああ。だな……」
「……でも、……会いたいね。おばさんとルナとマナにも」
「…… 雪那と結婚するとだけ連絡してみるわ」
「うん、二人で撮った写真も付けようね」
服の中に入って来た手が素肌を優しく撫でて、慣れた手付きで下着に入って来た手は敏感になった部分を触り出した。私が声を出す度に嬉しそうに唇に口付けを繰り返してくる隆の髪に手を入れて柔らかな黒髪を撫でると暖房が効きすぎているのか汗でしっとり湿っていた
「……暑いの?」
「……こんくらいなら平気。なぁ……もうしていい?」
「……うん」
「…………雪那 」
「ん?」
「……かわい」
ふふっと微笑んだと同時にゆっくりと入って来た熱いものに思わず「んん」と口から吐息混じりの声が出て、私の下腹を優しく押してくる隆はそんな私を見てニッと悪戯っ子の様に微笑んだ。
「…なぁ…中に出して良い?」
「………………」
「……駄目?」
「……子供は欲しいけど……まだ早いんじゃない?新婚さんの期間も欲しい……」
「……俺はなるべく早く欲しいんだよ」
「何で?」
「…………会っておきたいから」
「……?どうゆう事?」
グリグリと中を押されると快楽で腰が仰け反り会話は中断されてしまう。私の名前を愛しそうに呼んで口付けをしてくる隆の体にしがみついてひたすらに与えられる快楽に身を任せていた
二人でシャワーを浴びてからソファで珈琲を飲んでいると、テーブルの上に置いてあった煙草に手を伸ばした隆は中を覗き込んでから箱を潰してゴミ箱に投げ入れた
「ちょっと煙草買いに行ってくるわ」
「あ、じゃあアイス買って来て」
「苺?」
「うん。今日の夕飯簡単にパスタでも良い?」
「キノコとアンチョビ入れて」
「アンチョビはあったらね」
携帯をポケットにしまい椅子に掛かっていた白いパーカーを引っ掛けると、隆は私の頭を1度撫でリビングから出て行った。夕飯の支度でもしようかとキッチンで冷蔵庫の中身をチェックしていると2、3分してから玄関の扉がまた開いた音がした。近くのコンビニまでは走っても5分はかかる筈だし流石に帰りが早すぎる、財布でも忘れたのかなとリビングから廊下に通じる扉を開ければ目の前に居た隆に驚いて「わ」と声を出してしまった
「び、びっくりした。コンビニ行かなかったの?」
「…………」
「隆?」
「……ちょっと急用が出来た。雪那、鴨志田さんの家かお前の母ちゃんちに送るから暫くそこにいろ」
「……は?急に何言ってんの?」
隆と目が合うと、真剣な瞳で見つめられて本気なんだなって直ぐに分かり小さく無言で頷いた。パンツのポケットから取り出した折りたたみのナイフを取り出すと私のパーカーのポケットにしまい、そのナイフに驚いた表情をした私を見て眉を寄せた隆は静かに口を開く
「……もし、何かあったらこれ使え。危害を加えられたら容赦するなよ」
「ど、どうゆう事?何があったの?説明してよ」
「時間がねぇ。直ぐにここを出るから財布と携帯だけ持て」
「ちょ、隆」
腕を掴まれてそのまま引きづられる様に廊下に出れば、玄関の開けっ放しの扉の前に静かに立っていたのは青宗とココで、2人共目は座り無言で私達を見ていた
「……雪那、携帯持って風呂場に鍵掛けて隠れてろ」
「…………うん」
「…その必要はねーよ、三ツ谷……いぬぴーに感謝しろよ。」
「……何?」
「三ツ谷、ボスからお前を殺せって命令が出た。…………雪那連れて逃げろ」
「……何で逃がす?マイキーにバレたらお前ら殺されるぞ」
「んなもん百も承知だ。……たく、いぬぴーはお人好し過ぎんだよ」
「…………すまない、ココ」
溜息を吐いたココは片手に持っていた黒い鞄と小さなメモを隆に差し出した。少しだけ躊躇した隆に、青宗は「金と隠れ屋の場所だ」といつもの無表情で小さく呟く。隆はまだ信用出来ない様な表情をしていたが「悪ぃな」と言いながら渋々鞄を受け取ると、私と目が合った青宗は隆に分からないように私に少しだけ微笑んでから目を逸らした
「10分以内にここを出ろ、三ツ谷」
「ああ。……借りはいつか返す」
「んなもんいらねぇよ、とっとと行け」
「…… 雪那、大事な物だけ持って直ぐ出るぞ」
「…え………うん」
返事をして、下を向いていた顔を上に向けた瞬間に視界に入ったのは玄関の扉からこちらを見ているマイキーの姿で思わず「きゃ」と小さく叫んでしまったのは昔とは随分違う恐ろしい表情をしていたからかもしれない
「……乾、九井……三ツ谷死んでねぇじゃん。どうゆう事だ?」
「…………」
「…ボス………見に来んの早すぎだろ」
苦笑いで呟いたココの顔を冷たい表情で殴り飛ばしたマイキーに反応した青宗が、ココが倒れるのを防ぐ様に寸前で抱き抱えた。その次の瞬間には玄関に1歩上がり胸ポケットから取り出したマイキーの拳銃の照準はしっかりと隆の眉間を捉えていた
「……三ツ谷、言い残したい事はあるか?」
「………雪那だけは殺さないでくれ」
そう、小さく呟いた隆の言葉を聞いたマイキーは私に視線を移すと「ああ……雪那か。懐かしいな……」と言ってからゆっくり隆に向き直る。マイキーってこんな人だっけ?とか、何もしないと隆が本当に死ぬかもしれないとか色んな思考が頭の中を駆け巡り全身に力が入ってしまう。息を殺しながらポケットの中に入れた手でゆっくりと折りたたみナイフの刃を出して奥歯を噛み締めた
映画で見る様な弾を装填する音が聞こえた瞬間に覚悟を決めた顔をした青宗が、後ろからマイキーの両肩を押さえ込み1瞬の隙が出来たのを私は見逃さなかった。ポケットから取り出したナイフを取り出し、マイキーの左胸目掛け渾身の力を込め刺した。肉を抉るような手の感覚に全身から嫌悪感が吹き出した気分になり吐きそうになっても、涙が目から溢れ落ちても力を込めた手をナイフから離さなかった
「……雪那 」
「……嘘……だろ」
気付いた時には隆に後ろからお腹を引き寄せられていて、マイキーに刺さっているナイフから手が離れるとガクガクと手が震えだした。息ができる様になって緊張が解けたのか、急に溢れてくる涙で前が霞んで見えにくいけれど……私を見つめているマイキーは昔みたいに優しく微笑んでいた
「……マイキー、何で……笑うの?」
私の問いかけに応える事は無く、マイキーはそのまま倒れフローリングの床にゆっくりと赤い液体が流れていく。半分口を開け、立ち尽くし放心している3人は涙を流しながらマイキーの傍らで小さく謝る事しか出来ない私を見つめていた。自分でやった事なのに、ごめんねごめんねしか言葉が出てこなくて柔らかなマイキーの黒髪に手を伸ばして涙が枯れるまで彼の頭を抱き締めてひたすら泣いた
気付いた時には暗闇の中でベッドの上だった。いつ寝てしまったのかも全く分からない。私を抱き締めて横になっている隆に抱き着くと、無言で抱き返されて何だか安心してしまう。暗くて見えないけれど二人で過ごしていた隆のマンションの寝室とは違う感じがした
「……隆……マイキーは?」
「 雪那、……忘れろ。あれは夢だ」
「夢?」
「……お前は何もしてない。大丈夫だから。忘れろ」
「………………」
「……ここは?」
「今は……寝ろ。大丈夫だから」
振り絞る様な隆の声は何だか震えている気がしたけれど、素直に頷いて彼の胸の中で目を閉じた。明日は二人で役所に行って婚姻届を出そうかなとか、お母さんに報告しないとなとか色んな事を無理矢理考えて目を閉じた
目を開けるといつもの寝室では無く、以前のベッドと比べて少し小さめのベッドの中で目を覚ました。窓から差し込む光が眩しくて起き上がりカーテンを閉めると「ん」と小さく声を出した隆は私を薄目で見てからまた目を閉じてしまう
「……隆はまだ寝る?」
「……さっき寝たばっかだからもう少し寝るわ、この家から出るなよ」
「……うん。この家に……いつ来たの?」
「お前が寝てる間に運んだ。詳しいことはまた後で話すから1時間だけ寝かして」
「……分かった」
頷いてから廊下に出て、トイレや風呂リビングなどを見て周りシャワーを浴びてからキッチンに置いてあったインスタント珈琲を啜りソファに座ってテレビを付けた。
携帯の位置情報で自分の居場所を調べれば、千葉の外れを差していて何かの間違いなんじゃないかと携帯を疑ってしまう。だけど何度調べてもここは千葉だし、あの日から2日が経っていた事にも驚いた
「……マイキー……」
あの事は忘れろと言われたけれど、最後に微笑んだマイキーの優しい笑みが何度も脳裏に焼き付いた様に出てきてしまう。その時、コンコンと何かを叩く様な小さな音が聞こえて窓の外を見れば小さな庭に続く窓の外に立ち尽くしているのは両手に大きな鞄を持ったココだった
窓の鍵を開けるとお邪魔しますも言わずに中にスっと入り鍵を掛けたココは私に両手の鞄を差し出してくる
「……ココ?」
「飯。……の材料、適当に卵とか肉とか色々買って来た」
「……ありがとうね、ココ。」
「俺にも食わせろよ」
フッと笑ったココに少しだけ微笑むと私の座っていたソファに腰を降ろしてから「 雪那、珈琲飲みたい」と言ってチャンネルを変えている。青宗と付き合っている時にデートにくっついて来たり二人で家に居てもいつもココが居た気がする
「ねぇ、ココ……。マイキー君は……」
「言うな雪那。その話はするな」
「……分かった」
「もうすぐ林田と林が此処に来る。……俺といぬぴーは組織に戻る……多分もう二度と会わねぇ方が良い」
「……ドラちゃんは?」
「……三ツ谷から聞いてねぇのか?」
「……うん」
「……ドラケンは行方不明だ。林田と林と三ツ谷が探したけど見つからねぇ。」
「……一虎君と圭介君は?」
「……二人は……1番最初にボスに食ってかかって……殺された」
「…………」
「……九井……あんまり過激な話こいつにすんなや」
「……起きたんだ……隆。怒らないで、聞いたの私何だから」
「怒ってねーよ。……悪ぃな、何か買って来てくれたんだろ?」
「ああ、三ツ谷の手料理食わせろよ。マジ美味いやつな」
「……仕方ねぇな」
リビングに入って来て早々、欠伸をした隆は「ちょっと待ってろ」と一言言ってから脱衣場に入って行った。ココに渡された重たい鞄を持って冷蔵庫の前まで来ると食材を中に入れていく
卵や肉、新鮮だと見て分かる色々な野菜を冷蔵庫に入れながらレシピを考えていると部屋に入って来た隆が私の隣に立ち冷蔵庫の中を見つめている
「簡単に親子丼にでもするか?……九井、乾は?」
「こっちに向かうって朝に連絡あった」
「……遅くね?渋滞か?」
「……いぬぴーはのんびりしてるからな」
「青宗の事だから昼寝でもしてるんじゃない?」
私がふふっと笑えば隆は少しだけ無表情だったけれど、ココは違いねぇと言って笑っていた。「渋滞はありえるな」と言ってチャンネルを変えたココの手から滑り落ちたリモコンはフローリングの上に落ちて電池が転がった
「……亡くなったのは……乾青宗さん」
そこの部分だけが耳に入って来て、テレビに走り寄り画面を見ればぺちゃんこになった青宗の車とフロントガラスが割れた黒塗りの車が追突する様な形で写っていた。声も出ず、震える手でリモコンを拾い電池を入れ直した。ゆっくりとこちらに歩いて来た隆が画面を見て目を細めると「……三途の車だ」と小さく呟いた
「……コ、ココ」
「…………いぬぴーを殺りやがった……」
今迄一度も見た事の無い様なココの恐ろしい表情に私は何も言えなくなり顔を背けてしまう
「……九井、行くなよ……分かってるだろ?」
「…………俺……やっぱり行くわ」
「……おい、今は行くな」
「三ツ谷……止めんな」
目が完全に座ったココに隆は口を閉じると立ち上がって窓から去って行くココの姿を二人で見送るしか無かった。三途と言っていた隆の言葉……あの事故で無傷な筈は絶対に無い。ココは病院にいる三途君を殺しに行くのだろうか
そんな事を考えながらソファに座りいまだに画面に映る青宗の車を見ながら溢れてくる涙を拭わずにいると、私の隣に腰掛けた隆は優しくその涙に口付けをして抱き締めてくれる
「……隆……ココまで死なないよね?」
「………………」
「お願い……何か言って……」
「……俺がいる。ずっと傍に居るから」
「隆は……マイキー君に殺されそうだった時……私を置いて素直に死のうとしたんだよ……」
「…………あそこで、マイキーの怒りをかったら……お前が最初に殺される気がした。……悪ぃ」
「………………」
「その……俺の判断ミスで……お前に一生苦しめる事をさせちまった」
「……私は……隆が死なないならあれで良かったと思ってる。……どうせ、隆があそこで殺されてしまったら私は後を追ってたから……いいの」
「…………」
「後悔してない」
そう言って隆を見つめれば、彼の目尻からゆっくりと落ちた涙は頬を伝いポタリと落ちてシャツに染みを作る。苦しそうな表情をしている隆を見ていると悲しくて辛くて息が出来ないくらいに涙が溢れて来る。胸に抱き着き、片手で手を痛いくらいに握り締めると急に目の前が光りその眩しさに目を瞑ると耳の奥から鳴り出した響く様な音に私は全身を強ばらせた
「……………………」
「……雪那ちゃん、んもぉ。切れちゃった」
「……お、お母さん?」
「また電話出ないの?いい加減隆君可哀想になってくるんだけど」
「……お母さん……、私今いくつ?」
「雪那ちゃんて目開けたまま寝るの?寝言?14歳のお誕生日先週したじゃない」
「……14…………」
表情がコロコロ変わるお母さんを見ていると少しだけ気持ちが落ち着いてきた気がした。向き合う形で座っているリビングのテーブルの上には珈琲が入ったマグカップとクッキーが置かれている
「……えっと、電話だっけ?」
「いい加減、隆君と仲直りしなさいよ」
「……ん?……
「私達喧嘩してるの?」
「……雪那ちゃん、どしたの?」
「…………ああ、えっと。何で喧嘩してたんだっけ?」
「お母さん知らないわよ。……隆君は心配ばっかりかけるから何か嫌だなって夏前に言い始めて。全然電話も出てあげないし、デートもしないし」
「……えっ??そうなの?」
「……そうなの?って……。隆君、雪那ちゃんが居ない時にこの間うちに来たのよ。」
「何しに?」
「学校でも全然話してくれないからって。おばさん何か聞いてますか?ってわざわざ聞きに来たのよ」
「……お母さん何て言ったの?」
「心配ばっかりかけるから、隆の事嫌になっちゃったって言ってたって言ったわ」
「……それ……言っちゃったんだ……」
「だって~嘘つけないんだもん」
溜息を吐いた私を見て、「やんちゃくらい何よ~」とケラケラ明るく笑うお母さんにハハハと渇いた笑みを零した。ちょっとのやんちゃが先で大変な事になるのよと小さく呟くと「分かってるなら傍にいてやりなさい」と微笑んだお母さんを久しぶりに尊敬した気がした。携帯で隆のLINEを開けば最後にデートしたのは1ヶ月近く前で最近もLINEは来ていたけれど私は既読スルー、電話も出ていない状態だった。これはちょっと良くないなと思い部屋に戻ると部屋着から着替えメイクをしてからキッチンに戻ると、お母さんが渡して来た紙袋の中身を覗く
「……クッキーとマドレーヌ……これ高そうだね」
「いいから持って行きなさい、ちゃんと仲直りして来なさいよ~」
「うん、分かった……ありがとうね」
可愛い息子ちゃんが泣いてるの嫌なのよ~とちょっと照れた様に言ったお母さんに吹き出しながらお菓子の紙袋とバッグを持って家を出た。昨日まで凍える程寒かったのに、玄関の外は19時でも少し明るくてキャミソールのパンツのセットアップで十分な気温だった。隆の自宅に1度向かったけれど、到着すると単車が無い。この曜日のこの時間帯は集会に行っているんだろうと到着してから気付いて小さく溜息を吐いた
ルナとマナと遊んで待ってようか迷ったけれど、マイキーの元気な姿が見たいなって頭に過ぎり直ぐに神社に向かって歩き出した
階段を上がった所で隆が本当に居るのか、しゃがみこんで茂みに隠れながら目を凝らしていると、金色の髪が目に入り何だかホッとしてしまった。マイキーはしっかりと生きていてドラちゃんと楽しそうに談笑していた、その様子を見ていると自分の手で彼の心臓を抉ったあの時の事は夢に感じてきてサラサラと無くなった気がした
マイキーの姿を見れただけで十分だなと何だか満足してしまい、立ち上がり階段を降りようとすると「雪那ちゃん?」と呼ばれて振り返る
「一虎君、久しぶりだね」
「やっぱり雪那ちゃんだ。三ツ谷呼んで来るからちょっと待ってて」
「あ、ああ。うん」
ニカっと人懐っこい笑みを浮かべてから早足で去って行く一虎君の背中を見ていた。違う方向からこちらに向かって来る2人組に気づきそちらに向き直り手を振るとポケットに突っ込んでいる手を出して手を振り満面の笑みでこちらに歩いてくるマイキーに歩み寄る
「マイキー君久しぶりだね、ドラちゃんも」
「雪那ちゃん今来たの?三ツ谷探してる?」
「雪那、三ツ谷と仲直りしたのか?」
「ん?お前ら喧嘩してんの?」
「あー。う、ううん。私が心配してプンスカしてただけだよ。隆は困ってるだけだと思う」
「あっはっは。三ツ谷で心配してたら他の奴らとは付き合えないな雪那ちゃんは」
「一虎君とかと付き合ったら死ぬかも……ふふ。」
「悪ぃな、雪那。この間も心配かけたよな」
「私も2人に任せて病院に行かなきゃ良かったから。いいのいいの」
紙袋から取り出したクッキーとマドレーヌをマイキーの手に握らせて微笑むと、パァと表情を明るくしたマイキーは「よっしゃぁぁぁ」と大袈裟な位に喜んで口にお菓子を詰め込んでいる。ドラちゃんのポケットにマドレーヌを入れれば、「サンキュな~」と言って少しだけ微笑んだ
2人の後ろからこちらに走って来るグレーの髪が見えて、「雪那」と私の名前を呼んだ隆は私の隣まで来ると少しだけ表情を固くする。そういえば話すの久しぶりだったんだっけ?と思い紙袋を渡してから「お裾分けしにきたよ~」と言って柔らかく微笑むと、少しだけホッとした様な顔をした隆にドラちゃんとマイキーが吹き出した
「おい……笑うなよ」
「ふふふ。……隆皆にお菓子あげて。パーちゃんは居る?」
「ああ。居るよ、お前帰んの?」
「隆の家でルナとマナと遊んでるよ、早く帰ってきてね」
「…………あ、ああ。分かった」
全く分かんねぇみたいな顔をした隆は首を傾げながら頷いた。それを見てゲラゲラとお腹を抱えて笑っているマイキーとドラちゃんにつられて私も少し笑ってしまう。途中まで送ると言ってくれた隆に頷いて、パーちゃんにお菓子を渡してから二人で神社を出れば日はもう完全に無くなり辺りは暗かった
珍しく歩いていても手を差し出して来ない隆の腕に抱き着くと、隆は何も言わずに歩いていた。
「……ごめんね。」
「……いや、俺が心配ばっかりかけてるのは本当だし」
「…………私さ、隆の事好きなんだ。凄い好き……何だけどね。怖くなったの」
「……俺が怖いのか?」
「ううん、これから先ずっと私達が一緒に居てね。隆が仲間と怖い事をやる様になって……それに巻き込まれるのも、隆の身を心配しつづける未来も怖いかな」
「……随分先の話だな……」
「……そうだね」
「…………不良は嫌いか?」
「不良が嫌い……よりも……死んじゃったら嫌だ。バイク事故も怖いし、喧嘩も嫌だ。抗争も」
「……ああ」
「仕方ないよね。……変な話してごめん。今ちょっと色々頭ごちゃごちゃしてるかも」
「……お前が辛いなら……俺は別れても良い……と思えるようになった。この1ヶ月で」
「………………」
「……隆が私じゃないと駄目だって言ってくれるなら……。私は我慢できるし、ついて行くって決めたんだ。でも、他の子でも良いなら別れる……。泣いちゃうけど……」
「……雪那……」
ぎゅっと腕を抱く力を強めると、ふわっと後頭部に置かれた手に顔を上げた。直ぐ目の前にある隆の顔は昨日見た隆と同じで辛そうで苦しそうな顔をしていた。そんな隆の表情を見ていたら鼻がツンとしてきて、目頭が熱くなる。「……泣き虫だな」って言ってフッと小さく微笑んだ隆は私の零れた涙に優しく口付けるとそのまま唇に何度も深く口付けをしてくれた
ゆっくりと唇が離れて目を開ければ、目を赤くした隆の目尻からゆっくりと涙が零れ落ちた
「……別れよう、雪那。お前は多分俺と居ると辛い」
その言葉が胸に刺さって心臓が痛くなった気がした
私に背中を向けて去って行く隆の背中をずっと見つめながらポロポロと零れ落ちる涙は地面に染みを作り続けていた
「隆だって嬉しい癖に」
「……まぁな。」
「やけに素直だね」
「やっと二人で過ごせる様になったからな」
「……うん……」
「……本当に……電話して来てくれてサンキュな」
「…私が……会いたかっただけだよ」
「早く指輪買いに行かなきゃな」
「そういえば、お母さんが隆に会いたがってたよ」
「……そっか。俺もおばさんに会いたい気持ちはあるんだけどな」
そう小さい声で呟いた隆は私の手を掴むと、自身の膝に座らせて来る。彼の頭を優しく抱いて額に口付けすると片手で顎を掴まれて唇に激しく口付けされ、片手で自身のシャツを脱ぎ捨てた隆の背中を撫でると一度止まった隆に首を傾げた
「……どしたの?」
「おばさんに……会わせる顔ねぇな…」
「………この体の墨とかもし見られたり、仕事何してんの?とか聞かれたら……困るから?」
「…………ああ」
「……うちのお母さんは多分全然大丈夫だよ。隆くんの刺青カッコイイ、お母さんも入れちゃおうかなとか言いそう……」
「……あ、有り得るな……」
「ふふふ。隆のお母さんのが怒るんじゃない?」
「……ああ。だな……」
「……でも、……会いたいね。おばさんとルナとマナにも」
「…… 雪那と結婚するとだけ連絡してみるわ」
「うん、二人で撮った写真も付けようね」
服の中に入って来た手が素肌を優しく撫でて、慣れた手付きで下着に入って来た手は敏感になった部分を触り出した。私が声を出す度に嬉しそうに唇に口付けを繰り返してくる隆の髪に手を入れて柔らかな黒髪を撫でると暖房が効きすぎているのか汗でしっとり湿っていた
「……暑いの?」
「……こんくらいなら平気。なぁ……もうしていい?」
「……うん」
「…………雪那 」
「ん?」
「……かわい」
ふふっと微笑んだと同時にゆっくりと入って来た熱いものに思わず「んん」と口から吐息混じりの声が出て、私の下腹を優しく押してくる隆はそんな私を見てニッと悪戯っ子の様に微笑んだ。
「…なぁ…中に出して良い?」
「………………」
「……駄目?」
「……子供は欲しいけど……まだ早いんじゃない?新婚さんの期間も欲しい……」
「……俺はなるべく早く欲しいんだよ」
「何で?」
「…………会っておきたいから」
「……?どうゆう事?」
グリグリと中を押されると快楽で腰が仰け反り会話は中断されてしまう。私の名前を愛しそうに呼んで口付けをしてくる隆の体にしがみついてひたすらに与えられる快楽に身を任せていた
二人でシャワーを浴びてからソファで珈琲を飲んでいると、テーブルの上に置いてあった煙草に手を伸ばした隆は中を覗き込んでから箱を潰してゴミ箱に投げ入れた
「ちょっと煙草買いに行ってくるわ」
「あ、じゃあアイス買って来て」
「苺?」
「うん。今日の夕飯簡単にパスタでも良い?」
「キノコとアンチョビ入れて」
「アンチョビはあったらね」
携帯をポケットにしまい椅子に掛かっていた白いパーカーを引っ掛けると、隆は私の頭を1度撫でリビングから出て行った。夕飯の支度でもしようかとキッチンで冷蔵庫の中身をチェックしていると2、3分してから玄関の扉がまた開いた音がした。近くのコンビニまでは走っても5分はかかる筈だし流石に帰りが早すぎる、財布でも忘れたのかなとリビングから廊下に通じる扉を開ければ目の前に居た隆に驚いて「わ」と声を出してしまった
「び、びっくりした。コンビニ行かなかったの?」
「…………」
「隆?」
「……ちょっと急用が出来た。雪那、鴨志田さんの家かお前の母ちゃんちに送るから暫くそこにいろ」
「……は?急に何言ってんの?」
隆と目が合うと、真剣な瞳で見つめられて本気なんだなって直ぐに分かり小さく無言で頷いた。パンツのポケットから取り出した折りたたみのナイフを取り出すと私のパーカーのポケットにしまい、そのナイフに驚いた表情をした私を見て眉を寄せた隆は静かに口を開く
「……もし、何かあったらこれ使え。危害を加えられたら容赦するなよ」
「ど、どうゆう事?何があったの?説明してよ」
「時間がねぇ。直ぐにここを出るから財布と携帯だけ持て」
「ちょ、隆」
腕を掴まれてそのまま引きづられる様に廊下に出れば、玄関の開けっ放しの扉の前に静かに立っていたのは青宗とココで、2人共目は座り無言で私達を見ていた
「……雪那、携帯持って風呂場に鍵掛けて隠れてろ」
「…………うん」
「…その必要はねーよ、三ツ谷……いぬぴーに感謝しろよ。」
「……何?」
「三ツ谷、ボスからお前を殺せって命令が出た。…………雪那連れて逃げろ」
「……何で逃がす?マイキーにバレたらお前ら殺されるぞ」
「んなもん百も承知だ。……たく、いぬぴーはお人好し過ぎんだよ」
「…………すまない、ココ」
溜息を吐いたココは片手に持っていた黒い鞄と小さなメモを隆に差し出した。少しだけ躊躇した隆に、青宗は「金と隠れ屋の場所だ」といつもの無表情で小さく呟く。隆はまだ信用出来ない様な表情をしていたが「悪ぃな」と言いながら渋々鞄を受け取ると、私と目が合った青宗は隆に分からないように私に少しだけ微笑んでから目を逸らした
「10分以内にここを出ろ、三ツ谷」
「ああ。……借りはいつか返す」
「んなもんいらねぇよ、とっとと行け」
「…… 雪那、大事な物だけ持って直ぐ出るぞ」
「…え………うん」
返事をして、下を向いていた顔を上に向けた瞬間に視界に入ったのは玄関の扉からこちらを見ているマイキーの姿で思わず「きゃ」と小さく叫んでしまったのは昔とは随分違う恐ろしい表情をしていたからかもしれない
「……乾、九井……三ツ谷死んでねぇじゃん。どうゆう事だ?」
「…………」
「…ボス………見に来んの早すぎだろ」
苦笑いで呟いたココの顔を冷たい表情で殴り飛ばしたマイキーに反応した青宗が、ココが倒れるのを防ぐ様に寸前で抱き抱えた。その次の瞬間には玄関に1歩上がり胸ポケットから取り出したマイキーの拳銃の照準はしっかりと隆の眉間を捉えていた
「……三ツ谷、言い残したい事はあるか?」
「………雪那だけは殺さないでくれ」
そう、小さく呟いた隆の言葉を聞いたマイキーは私に視線を移すと「ああ……雪那か。懐かしいな……」と言ってからゆっくり隆に向き直る。マイキーってこんな人だっけ?とか、何もしないと隆が本当に死ぬかもしれないとか色んな思考が頭の中を駆け巡り全身に力が入ってしまう。息を殺しながらポケットの中に入れた手でゆっくりと折りたたみナイフの刃を出して奥歯を噛み締めた
映画で見る様な弾を装填する音が聞こえた瞬間に覚悟を決めた顔をした青宗が、後ろからマイキーの両肩を押さえ込み1瞬の隙が出来たのを私は見逃さなかった。ポケットから取り出したナイフを取り出し、マイキーの左胸目掛け渾身の力を込め刺した。肉を抉るような手の感覚に全身から嫌悪感が吹き出した気分になり吐きそうになっても、涙が目から溢れ落ちても力を込めた手をナイフから離さなかった
「……雪那 」
「……嘘……だろ」
気付いた時には隆に後ろからお腹を引き寄せられていて、マイキーに刺さっているナイフから手が離れるとガクガクと手が震えだした。息ができる様になって緊張が解けたのか、急に溢れてくる涙で前が霞んで見えにくいけれど……私を見つめているマイキーは昔みたいに優しく微笑んでいた
「……マイキー、何で……笑うの?」
私の問いかけに応える事は無く、マイキーはそのまま倒れフローリングの床にゆっくりと赤い液体が流れていく。半分口を開け、立ち尽くし放心している3人は涙を流しながらマイキーの傍らで小さく謝る事しか出来ない私を見つめていた。自分でやった事なのに、ごめんねごめんねしか言葉が出てこなくて柔らかなマイキーの黒髪に手を伸ばして涙が枯れるまで彼の頭を抱き締めてひたすら泣いた
気付いた時には暗闇の中でベッドの上だった。いつ寝てしまったのかも全く分からない。私を抱き締めて横になっている隆に抱き着くと、無言で抱き返されて何だか安心してしまう。暗くて見えないけれど二人で過ごしていた隆のマンションの寝室とは違う感じがした
「……隆……マイキーは?」
「 雪那、……忘れろ。あれは夢だ」
「夢?」
「……お前は何もしてない。大丈夫だから。忘れろ」
「………………」
「……ここは?」
「今は……寝ろ。大丈夫だから」
振り絞る様な隆の声は何だか震えている気がしたけれど、素直に頷いて彼の胸の中で目を閉じた。明日は二人で役所に行って婚姻届を出そうかなとか、お母さんに報告しないとなとか色んな事を無理矢理考えて目を閉じた
目を開けるといつもの寝室では無く、以前のベッドと比べて少し小さめのベッドの中で目を覚ました。窓から差し込む光が眩しくて起き上がりカーテンを閉めると「ん」と小さく声を出した隆は私を薄目で見てからまた目を閉じてしまう
「……隆はまだ寝る?」
「……さっき寝たばっかだからもう少し寝るわ、この家から出るなよ」
「……うん。この家に……いつ来たの?」
「お前が寝てる間に運んだ。詳しいことはまた後で話すから1時間だけ寝かして」
「……分かった」
頷いてから廊下に出て、トイレや風呂リビングなどを見て周りシャワーを浴びてからキッチンに置いてあったインスタント珈琲を啜りソファに座ってテレビを付けた。
携帯の位置情報で自分の居場所を調べれば、千葉の外れを差していて何かの間違いなんじゃないかと携帯を疑ってしまう。だけど何度調べてもここは千葉だし、あの日から2日が経っていた事にも驚いた
「……マイキー……」
あの事は忘れろと言われたけれど、最後に微笑んだマイキーの優しい笑みが何度も脳裏に焼き付いた様に出てきてしまう。その時、コンコンと何かを叩く様な小さな音が聞こえて窓の外を見れば小さな庭に続く窓の外に立ち尽くしているのは両手に大きな鞄を持ったココだった
窓の鍵を開けるとお邪魔しますも言わずに中にスっと入り鍵を掛けたココは私に両手の鞄を差し出してくる
「……ココ?」
「飯。……の材料、適当に卵とか肉とか色々買って来た」
「……ありがとうね、ココ。」
「俺にも食わせろよ」
フッと笑ったココに少しだけ微笑むと私の座っていたソファに腰を降ろしてから「 雪那、珈琲飲みたい」と言ってチャンネルを変えている。青宗と付き合っている時にデートにくっついて来たり二人で家に居てもいつもココが居た気がする
「ねぇ、ココ……。マイキー君は……」
「言うな雪那。その話はするな」
「……分かった」
「もうすぐ林田と林が此処に来る。……俺といぬぴーは組織に戻る……多分もう二度と会わねぇ方が良い」
「……ドラちゃんは?」
「……三ツ谷から聞いてねぇのか?」
「……うん」
「……ドラケンは行方不明だ。林田と林と三ツ谷が探したけど見つからねぇ。」
「……一虎君と圭介君は?」
「……二人は……1番最初にボスに食ってかかって……殺された」
「…………」
「……九井……あんまり過激な話こいつにすんなや」
「……起きたんだ……隆。怒らないで、聞いたの私何だから」
「怒ってねーよ。……悪ぃな、何か買って来てくれたんだろ?」
「ああ、三ツ谷の手料理食わせろよ。マジ美味いやつな」
「……仕方ねぇな」
リビングに入って来て早々、欠伸をした隆は「ちょっと待ってろ」と一言言ってから脱衣場に入って行った。ココに渡された重たい鞄を持って冷蔵庫の前まで来ると食材を中に入れていく
卵や肉、新鮮だと見て分かる色々な野菜を冷蔵庫に入れながらレシピを考えていると部屋に入って来た隆が私の隣に立ち冷蔵庫の中を見つめている
「簡単に親子丼にでもするか?……九井、乾は?」
「こっちに向かうって朝に連絡あった」
「……遅くね?渋滞か?」
「……いぬぴーはのんびりしてるからな」
「青宗の事だから昼寝でもしてるんじゃない?」
私がふふっと笑えば隆は少しだけ無表情だったけれど、ココは違いねぇと言って笑っていた。「渋滞はありえるな」と言ってチャンネルを変えたココの手から滑り落ちたリモコンはフローリングの上に落ちて電池が転がった
「……亡くなったのは……乾青宗さん」
そこの部分だけが耳に入って来て、テレビに走り寄り画面を見ればぺちゃんこになった青宗の車とフロントガラスが割れた黒塗りの車が追突する様な形で写っていた。声も出ず、震える手でリモコンを拾い電池を入れ直した。ゆっくりとこちらに歩いて来た隆が画面を見て目を細めると「……三途の車だ」と小さく呟いた
「……コ、ココ」
「…………いぬぴーを殺りやがった……」
今迄一度も見た事の無い様なココの恐ろしい表情に私は何も言えなくなり顔を背けてしまう
「……九井、行くなよ……分かってるだろ?」
「…………俺……やっぱり行くわ」
「……おい、今は行くな」
「三ツ谷……止めんな」
目が完全に座ったココに隆は口を閉じると立ち上がって窓から去って行くココの姿を二人で見送るしか無かった。三途と言っていた隆の言葉……あの事故で無傷な筈は絶対に無い。ココは病院にいる三途君を殺しに行くのだろうか
そんな事を考えながらソファに座りいまだに画面に映る青宗の車を見ながら溢れてくる涙を拭わずにいると、私の隣に腰掛けた隆は優しくその涙に口付けをして抱き締めてくれる
「……隆……ココまで死なないよね?」
「………………」
「お願い……何か言って……」
「……俺がいる。ずっと傍に居るから」
「隆は……マイキー君に殺されそうだった時……私を置いて素直に死のうとしたんだよ……」
「…………あそこで、マイキーの怒りをかったら……お前が最初に殺される気がした。……悪ぃ」
「………………」
「その……俺の判断ミスで……お前に一生苦しめる事をさせちまった」
「……私は……隆が死なないならあれで良かったと思ってる。……どうせ、隆があそこで殺されてしまったら私は後を追ってたから……いいの」
「…………」
「後悔してない」
そう言って隆を見つめれば、彼の目尻からゆっくりと落ちた涙は頬を伝いポタリと落ちてシャツに染みを作る。苦しそうな表情をしている隆を見ていると悲しくて辛くて息が出来ないくらいに涙が溢れて来る。胸に抱き着き、片手で手を痛いくらいに握り締めると急に目の前が光りその眩しさに目を瞑ると耳の奥から鳴り出した響く様な音に私は全身を強ばらせた
「……………………」
「……雪那ちゃん、んもぉ。切れちゃった」
「……お、お母さん?」
「また電話出ないの?いい加減隆君可哀想になってくるんだけど」
「……お母さん……、私今いくつ?」
「雪那ちゃんて目開けたまま寝るの?寝言?14歳のお誕生日先週したじゃない」
「……14…………」
表情がコロコロ変わるお母さんを見ていると少しだけ気持ちが落ち着いてきた気がした。向き合う形で座っているリビングのテーブルの上には珈琲が入ったマグカップとクッキーが置かれている
「……えっと、電話だっけ?」
「いい加減、隆君と仲直りしなさいよ」
「……ん?……
「私達喧嘩してるの?」
「……雪那ちゃん、どしたの?」
「…………ああ、えっと。何で喧嘩してたんだっけ?」
「お母さん知らないわよ。……隆君は心配ばっかりかけるから何か嫌だなって夏前に言い始めて。全然電話も出てあげないし、デートもしないし」
「……えっ??そうなの?」
「……そうなの?って……。隆君、雪那ちゃんが居ない時にこの間うちに来たのよ。」
「何しに?」
「学校でも全然話してくれないからって。おばさん何か聞いてますか?ってわざわざ聞きに来たのよ」
「……お母さん何て言ったの?」
「心配ばっかりかけるから、隆の事嫌になっちゃったって言ってたって言ったわ」
「……それ……言っちゃったんだ……」
「だって~嘘つけないんだもん」
溜息を吐いた私を見て、「やんちゃくらい何よ~」とケラケラ明るく笑うお母さんにハハハと渇いた笑みを零した。ちょっとのやんちゃが先で大変な事になるのよと小さく呟くと「分かってるなら傍にいてやりなさい」と微笑んだお母さんを久しぶりに尊敬した気がした。携帯で隆のLINEを開けば最後にデートしたのは1ヶ月近く前で最近もLINEは来ていたけれど私は既読スルー、電話も出ていない状態だった。これはちょっと良くないなと思い部屋に戻ると部屋着から着替えメイクをしてからキッチンに戻ると、お母さんが渡して来た紙袋の中身を覗く
「……クッキーとマドレーヌ……これ高そうだね」
「いいから持って行きなさい、ちゃんと仲直りして来なさいよ~」
「うん、分かった……ありがとうね」
可愛い息子ちゃんが泣いてるの嫌なのよ~とちょっと照れた様に言ったお母さんに吹き出しながらお菓子の紙袋とバッグを持って家を出た。昨日まで凍える程寒かったのに、玄関の外は19時でも少し明るくてキャミソールのパンツのセットアップで十分な気温だった。隆の自宅に1度向かったけれど、到着すると単車が無い。この曜日のこの時間帯は集会に行っているんだろうと到着してから気付いて小さく溜息を吐いた
ルナとマナと遊んで待ってようか迷ったけれど、マイキーの元気な姿が見たいなって頭に過ぎり直ぐに神社に向かって歩き出した
階段を上がった所で隆が本当に居るのか、しゃがみこんで茂みに隠れながら目を凝らしていると、金色の髪が目に入り何だかホッとしてしまった。マイキーはしっかりと生きていてドラちゃんと楽しそうに談笑していた、その様子を見ていると自分の手で彼の心臓を抉ったあの時の事は夢に感じてきてサラサラと無くなった気がした
マイキーの姿を見れただけで十分だなと何だか満足してしまい、立ち上がり階段を降りようとすると「雪那ちゃん?」と呼ばれて振り返る
「一虎君、久しぶりだね」
「やっぱり雪那ちゃんだ。三ツ谷呼んで来るからちょっと待ってて」
「あ、ああ。うん」
ニカっと人懐っこい笑みを浮かべてから早足で去って行く一虎君の背中を見ていた。違う方向からこちらに向かって来る2人組に気づきそちらに向き直り手を振るとポケットに突っ込んでいる手を出して手を振り満面の笑みでこちらに歩いてくるマイキーに歩み寄る
「マイキー君久しぶりだね、ドラちゃんも」
「雪那ちゃん今来たの?三ツ谷探してる?」
「雪那、三ツ谷と仲直りしたのか?」
「ん?お前ら喧嘩してんの?」
「あー。う、ううん。私が心配してプンスカしてただけだよ。隆は困ってるだけだと思う」
「あっはっは。三ツ谷で心配してたら他の奴らとは付き合えないな雪那ちゃんは」
「一虎君とかと付き合ったら死ぬかも……ふふ。」
「悪ぃな、雪那。この間も心配かけたよな」
「私も2人に任せて病院に行かなきゃ良かったから。いいのいいの」
紙袋から取り出したクッキーとマドレーヌをマイキーの手に握らせて微笑むと、パァと表情を明るくしたマイキーは「よっしゃぁぁぁ」と大袈裟な位に喜んで口にお菓子を詰め込んでいる。ドラちゃんのポケットにマドレーヌを入れれば、「サンキュな~」と言って少しだけ微笑んだ
2人の後ろからこちらに走って来るグレーの髪が見えて、「雪那」と私の名前を呼んだ隆は私の隣まで来ると少しだけ表情を固くする。そういえば話すの久しぶりだったんだっけ?と思い紙袋を渡してから「お裾分けしにきたよ~」と言って柔らかく微笑むと、少しだけホッとした様な顔をした隆にドラちゃんとマイキーが吹き出した
「おい……笑うなよ」
「ふふふ。……隆皆にお菓子あげて。パーちゃんは居る?」
「ああ。居るよ、お前帰んの?」
「隆の家でルナとマナと遊んでるよ、早く帰ってきてね」
「…………あ、ああ。分かった」
全く分かんねぇみたいな顔をした隆は首を傾げながら頷いた。それを見てゲラゲラとお腹を抱えて笑っているマイキーとドラちゃんにつられて私も少し笑ってしまう。途中まで送ると言ってくれた隆に頷いて、パーちゃんにお菓子を渡してから二人で神社を出れば日はもう完全に無くなり辺りは暗かった
珍しく歩いていても手を差し出して来ない隆の腕に抱き着くと、隆は何も言わずに歩いていた。
「……ごめんね。」
「……いや、俺が心配ばっかりかけてるのは本当だし」
「…………私さ、隆の事好きなんだ。凄い好き……何だけどね。怖くなったの」
「……俺が怖いのか?」
「ううん、これから先ずっと私達が一緒に居てね。隆が仲間と怖い事をやる様になって……それに巻き込まれるのも、隆の身を心配しつづける未来も怖いかな」
「……随分先の話だな……」
「……そうだね」
「…………不良は嫌いか?」
「不良が嫌い……よりも……死んじゃったら嫌だ。バイク事故も怖いし、喧嘩も嫌だ。抗争も」
「……ああ」
「仕方ないよね。……変な話してごめん。今ちょっと色々頭ごちゃごちゃしてるかも」
「……お前が辛いなら……俺は別れても良い……と思えるようになった。この1ヶ月で」
「………………」
「……隆が私じゃないと駄目だって言ってくれるなら……。私は我慢できるし、ついて行くって決めたんだ。でも、他の子でも良いなら別れる……。泣いちゃうけど……」
「……雪那……」
ぎゅっと腕を抱く力を強めると、ふわっと後頭部に置かれた手に顔を上げた。直ぐ目の前にある隆の顔は昨日見た隆と同じで辛そうで苦しそうな顔をしていた。そんな隆の表情を見ていたら鼻がツンとしてきて、目頭が熱くなる。「……泣き虫だな」って言ってフッと小さく微笑んだ隆は私の零れた涙に優しく口付けるとそのまま唇に何度も深く口付けをしてくれた
ゆっくりと唇が離れて目を開ければ、目を赤くした隆の目尻からゆっくりと涙が零れ落ちた
「……別れよう、雪那。お前は多分俺と居ると辛い」
その言葉が胸に刺さって心臓が痛くなった気がした
私に背中を向けて去って行く隆の背中をずっと見つめながらポロポロと零れ落ちる涙は地面に染みを作り続けていた
