ケンちゃんのお姉ちゃん 大寿君の妹ちゃん
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お母さんが亡くなってから、家族の雰囲気は大分変わってしまったと思う。元々根が優しくて小心者の八戒は大寿兄ちゃんの暴力が始まったら柚葉姉ちゃんに守られてばかりで、いつも間近でその光景を見ている私からすると男の欠片も無い様に感じてしまった。口には出せなかったけれど内心で八戒を馬鹿にする様になってしまって、中学から少しづつそんな気持ちが態度に現れてしまっていたんだと思う。私の八戒に対する冷たい態度に柚葉姉ちゃんには怒るし、タカちゃんには反抗期か?何て心配されてしまう事も多くなっていった
中2の夏に初めて不満が爆発してしまい八戒を殴り飛ばして大寿兄ちゃんにも蹴りを入れた。いつも私だけは大寿に殴られなかったけれど、今回は流石にぶたれるのを覚悟した。でも何故か少し驚いた様な顔をしただけで大寿はやり返して来なかったのはやっぱり私がお母さんにそっくりだからだろうか。殴られたかった訳では無いけど、柚葉と八戒ばかり殴られて私だけいつもやられなくて何だか2人に申し訳無いような気持ちになるし家に居たくないって気持ちがつのる
「あんたはそんな事気にしなくていいんだ」といつも私を抱き締めてくれる柚葉の愛情は本物だったから、もっともっと八戒が嫌になってしまったのかもしれない
柚葉が殴られるなら八戒が殴られればいい。何て姉ちゃんが怪我をしている度に心で思う様になっていて、八戒もやっぱり家族だしそんな風に思う自分が何だか悲しかった。
「……だからね、元凶をどうにかしたいの」
「……何で俺らに言うの?」
「だって、ココピといぬぴは大寿兄ちゃんと仲良しじゃない」
「仲良し……」
仲良し?かな?と下を向いて呟くいぬぴに、ココピは少しだけ苦笑いをすると「難しいな……」と言って溜息を吐いた。私の部屋の小さな二人掛けソファに密着して座る2人を見つめていると、何かを考えついたのかいぬぴはハッとした様な顔を私に向けた
「……お嬢がやるなら毒とか?」
「いぬぴ、どうにかしたいって殺したいとかじゃないのよ」
「……そうなのか」
「……いぬぴのお父さんがお姉ちゃんをいつも殴ってたら嫌でしょ?」
「……親父を病院送りにするな」
「いぬぴーがやる前に俺がまずやるね」
「ココピもいぬぴも発想が暴力的過ぎるよ……。まぁ、私も人の事言えないんだけどね。出来れば円満な解決方法は無いかなって……」
溜息を吐きながらラグに寝転んだ私を見て「円満」と呟いて下を向くいぬぴと、「金の稼ぎ方しか分からん」と腕を組んで黙ったココピは何だかんだいつも私に優しくしてくれるから私も私で甘えてしまっていた。2人と大寿兄ちゃんの関係的に私が我儘を言えば2人は困るだろうし、相談されても何とも言えない事も分かっていた。でも分かった上で2人にいつも愚痴を吐いてしまうのはきっとこの2人だからなのかもしれない
話を聞いて貰ったお礼に柚葉達の夕飯を作りがてら2人にもご馳走すると、ただの焼き魚定食なのに2人は嬉しそうに食べてくれた。3人で食卓を囲みテレビを見ながらドラマの話をしていると、玄関の扉が開く音がしてからリビングに入って来たのは八戒と柚葉だった
「おかえりなさい」
「ただいま雪那 。……何でこの2人と居んの?てか何でウチでご飯食べてんのさ」
「色々お世話になったからお礼してたの。柚葉と八戒のご飯もあるよ」
「……ああ。」
私が八戒と必要以上に話さなくなってから、柚葉は間に入る様に気を使ってくれていてそれも全部八戒が弱っちいから悪いと思うと気が楽で、自分は意地悪じゃないと思いたかった。大寿のあの傲慢な所が1番良くないのに何で大寿よりも八戒が嫌で嫌で堪らないのか私には分からない。黙々と静かに食べ進めるいぬぴとは違い、少し気まずそうな顔でどこかを見つめるココピの視線を追えば八戒が悲しそうな顔で私を見つめていた
「……お嬢、若にも飯の用意してやったら?」
「……八戒と柚葉は自分で出来るから大丈夫だよ。ココピもいぬぴもご飯おかわりあるよ」
「俺おかわり」
「いぬぴーはちょっと空気読もうぜ」
「ん??」
首を傾げているいぬぴの空の茶碗を取れば、フイっと顔を背けた八戒はリビングを出ていきその後を追うように柚葉も出ていった。知らん顔をして茶碗に米をよそい、戻って来た私を見て溜息をついたココピと「ありがとう」と少し微笑み、私の頭を軽く撫でたいぬぴの違いが面白くて少しだけ笑ってしまった
2人が帰ってから片付けをして部屋に戻れば、何だかモヤモヤする気持ちが何も手付かずにさせる。友人の家にでも泊まりに行こうかな何て考えていると部屋の扉のノックの音が聞こえて「何?」と返事をすれば開いた扉から顔を出したのは気まずそうな八戒だった
「……何?」
「…… 雪那 、あの2人とあんまり一緒にいるなよ」
「何で?」
「アイツらは兄貴と危ない事もしてるし、けっこう悪い奴だから……」
「……女が殴られてんのに庇わない奴よりマシだよ。乾とココは私が大寿に殴られたりしたら絶対庇ってくれるから。あんたよりマシだ」
「…………」
スッと閉められた扉。言いたい事を言えたのに何故かスッキリしなかったし、扉を閉める前の八戒の傷付いた顔がやけに残る。「……言わなきゃ良かった」と呟くとまた悲しくなってしまった
学校に行って友達と居るのが楽しくて、帰りたく無くなるけれど皆夕飯の時間になると帰宅してしまうので暇を持て余していた。友人達と別れると制服のままプラプラとデパートへ行き洋服や小物何かを見て周り、アイスを食べたり立ち読みをして時間を潰せば時刻は20時を過ぎていた
携帯を開くと柚葉から入っていたLINEには八戒が熱を出したから一緒に看病して欲しいと入っていた。八戒苦しいだろうな、可哀想だな何て考えている自分が居たのに柚葉への返信には「彼氏の所に泊まるから当分帰れません」と入れてデパートを出た。彼氏って何処の誰だよと、自分で入れた嘘に泣きそうになっているとハッと頭にタカちゃんの顔が思い浮かんだ。タカちゃんならきっと話せば泊めてくれると思い直ぐにデパートを出て神社に向かって走り出した
神社の階段を上がれば、コールやフカシの音で溢れていて人もかなり多い。まだ私が中学1年だった頃に来た時は人数もこんなには居なかった気がするしギャラリーも少なかった。タカちゃんの顔が見れると思うと浮き足立ってしまって遠慮せずに特攻服を着た彼等の中に入っていき、お目当ての人物を探そうとキョロキョロしていると流石に目立つのか皆こちらを訝しげな表情で見ていた
「雪那」と大きな声で名前を呼ばれ、そちらを振り向けばこちらに走って来るタカちゃんを見て手を振って走り寄った。
「 雪那 、お前何やってんの」
「タカちゃん」
胸に飛び込んでギュッと抱き締めると、少し困った顔をしながら背を片手で抱き締めてくれるタカちゃんに頬が緩んだ。私達の抱擁を見て、直ぐに近くに居た男の子達は目を逸らし「……なんだ三ツ谷君の彼女か」と呟くのが聞こえてくる。それを聞いたら何だか本当に嬉しくなって来て、回した腕に力を込めた
「…… 雪那 、何かあったのか?もしかして八戒すげぇ悪くなったとか?」
「……八戒は……知らない」
「また……喧嘩したのか?」
「…………タカちゃん、集会何時に終わる?」
「もうちょいかかるかな。待ってるなら送ってく」
「……今日タカちゃんち泊まって良い?」
「…………何かあったんだな」
わしゃわしゃと頭を撫でてくるタカちゃんの瞳は優しいけれど、優しくしてくれるのは八戒の双子の妹だからかなと疑ってしまう自分が昔から嫌だった。「おう!雪那、相変わらずちぃせぇな」と言って頭をグリグリしてくるドラちゃんと「雪那 、八戒は具合は大丈夫か?」と歩み寄って来たマイキー君に微笑んでから1度頭を下げると「邪魔になるから終わるまで端にいるね」と言ってタカちゃんの腕の中から離れ、端にあるベンチに座った
初めて会った時から私はタカちゃんが特別な存在に感じていた。同級生の男の子達共、いぬここやお兄ちゃん達、先輩、マイキー君達とも違う。タカちゃんだけは男性として意識していて、女の子として傍に居たいと初めて思った人だった。真面目な顔でマイキー君の話を聞いているタカちゃんの横顔を眺めていると、時間何てあっとゆう間に過ぎてしまっていた。「解散」とマイキー君が叫ぶと、直ぐに私の元に走って来てくれるタカちゃんが愛おしくて悶えていると「プッ、何だその顔」と言って笑いながら私の手を掴んだ
私の手を取ったタカちゃんはザワザワとまだ騒がしい神社内を真っ直ぐに歩き、インパルスの後ろに私を乗せると掛けてあったヘルメットを私に被せてくれた
「ルナとマナ、まだ起きてるかな?」
「……あー、流石に寝てるかもな」
「タカちゃん帰ったらご飯作って良い?おなか空いちゃったよ」
「 雪那の飯か……。久しぶりに食いてぇかも」
「ふふ、頑張って作るよ」
単車に跨り「掴まってろよ」と言ったタカちゃんの背中に抱きつくと、エンジンが掛かりゆっくりと進んだ単車は頭を下げる後輩の間を駆け抜けて道路に出た。
他愛も無い話をしながら風の気持ち良さを感じていると直ぐにタカちゃんのアパートに到着してしまう。もう少し抱き着いていたかったな何て思いながら、停車したインパルスから降り二人でアパートに入った
玄関を開ければタカちゃん宅の匂いがして何だか安心する。「お邪魔します」と小さな声で呟いてから靴を脱ぐと、「リビング行ってて」とタカちゃんも小さな声で呟いたので頷いてから忍足でリビングに向かえば、リビングの戸は開いていてルナとマナのおもちゃや人形で溢れていた。軽く片付けをしているとリビングに入って来たタカちゃんは「来て早々悪ぃな」と少し微笑んで、テレビの前に散乱している人形を次々と箱に入れていく
「…ああ…落ち着いたら腹減ってきた」
「冷蔵庫覗いても大丈夫?」
「ああ。好きに使って、俺風呂入って来ていい?」
「うんうん」
「……お前何でそんな嬉しそうなの?」
「新婚さんみたいだから」
「……はいはい。んじゃ、めし頼むわ」
フッと小さく笑って、私の頭に手を乗せ体重を掛けたタカちゃんはそのまま立ち上がりお風呂場に向かって行った。そんな背中を見送ると最後のぬいぐるみを箱にポイッと放ってからキッチンに向かった
萎れたナスとトマト、豚肉を炒めると牛蒡とキノコの豆乳スープを作り賞味期限ギリギリの豆腐を鰹節と葱をかけて冷奴にすると丁度お風呂から上がったタカちゃんはテーブルに並んだ食事を見て目を見開いた
「すっげぇ美味そう」
「材料沢山あったから」
「食っていい?」
「うん、食べよう」
タカちゃんと二人で食べるご飯は凄く美味しく感じた。昨日もいぬここと食べたから美味しかったけれど、何だか最近家族で食べる食事が味気なくて美味しくなかった。それが長くあったからか、「これ美味い」って微笑みながら食べてくれるタカちゃんの顔を見ているだけで1口1口が美味しく感じる気がした
夕食を済ませてからお風呂を借りて出てくれば、タカちゃんが自室のベットで携帯を弄っているのが見えてそのままベットにダイブしてタカちゃんに抱き着いた
「タカちゃんー抱っこしてぇ」
「お前もう14だろ、抱っこしてなんて普通言わねぇぞ」
呆れた様に苦笑いをしながら受け止めてくれる彼の腕に抱き着き、そのまま体を倒せば「よしよし」と言われ頭を撫でられる。子供扱いされているのは重々承知していたけれど、寄せブラで胸は大きくなっているしキャミソールと短パンの姿で挑んだのに顔色1つ変えないタカちゃんが憎らしい。キスしてやろうかな何て考えているとサラリと私の髪を撫でたタカちゃんは優しい瞳で私を見つめてきた
「……なぁ、八戒と口聞いてないんだって?」
「…あ…うん。でもたまに必要な事は話すよ」
「八戒はお前には優しいし、良い兄貴だろ?何で嫌なんだよ」
「………良い兄貴……かな?」
「…理由……俺には言いにくい?」
頬を撫でてくるタカちゃんの手を取ると、少し困った顔で首を傾げた彼の瞳を真っ直ぐと見つめた
「……タカちゃんさ、もしタカちゃんが本当に私のお兄ちゃんだったとして……。私が大寿に殴られてたらどうする?」
「………それは大寿君も俺の兄貴って事になるよな。……俺は多分 殴ってたら絶てぇ許さねぇし大寿君と喧嘩になると思う」
「………柚葉が八戒のせいで殴られてても……八戒は下を向いて震えてるだけ。……柚葉は顔が怪我だらけになっても八戒を庇うの」
「…………」
「……柚葉じゃなくて八戒が殴られれば良いのに。大寿何て帰って来なきゃいいのに」
話していたら何だか涙が出てきて、歯を食いしばると目尻が下がったタカちゃんの瞳は少しだけ潤んで揺れていた。タカちゃんにそんな顔させたかった訳じゃない、でもタカちゃんに聞いて欲しかったと本心を伝えると引き寄せられてギュッと頭を抱きしめてくれる。体が暖かくてポロポロと溢れた涙はタカちゃんの肩口を濡らしシャツに染みを作っていった
「……辛かったな。良く話してくれたな」
「……本当は八戒嫌いじゃないの……」
「知ってるよ」
「何にも出来ない自分が嫌なんだ……」
「うん、分かるよ雪那 。」
私をあやすタカちゃんの声色は優しくて甘い。何も言わずに背を摩ってくれるタカちゃんの優しさが心に染みて思わず「タカちゃん大好き」って思わず口にしてしまっていた。
「……俺も大好きだよ……」
「…………タカちゃんの好きと私の好きは違うもん」
「…………」
黙ってしまったタカちゃんの顔を見れば少しだけ困った様な顔をしていて、何だか胸が痛くなる気がした。
「……学校の男の子達ともいぬこことも、マイキー君やドラちゃん達共違う。私が男の人として好きなのはタカちゃんだけなの」
「…… 雪那 」
「……タカちゃん」
少しだけ目を見開いたタカちゃんの唇に押し付けるように口付けて目を瞑った。背を抱く腕に少し力を込めれば、反応が無い事に悲しくなり離れようとした瞬間にゆっくりと頭に手が置かれた。急に深くなった口付けに嬉しくて涙がポロポロと溢れて頬を濡らしてゆく
「……泣くなよ…… 」
「小学校から好きだった人とキス出来て嬉しいんだもん」
「……可愛い奴だな。……本当に……俺の気も知らないで」
「…私、ちゃんとタカちゃんの彼女になりたい」
「……ああ」
肯定の「ああ」を聞いた瞬間にじんわりと実感が広がっていく。私、彼女になれたんだって思ったら幸せ過ぎて先程迄悲しかった気持ちが吹き飛んだ気がした。
「私でいいの?本当に?2番目とかじゃない?」
「……1番誰だよ……アホか」
「ちゅーしていい?」
「今しただろ……」
「後10回したいな……」
「……お前な……。思春期舐めんなよ、マジで襲うぞ」
「沢山お願いします」
「……お前なぁ。……それはもうちょい待つわ」
「……魅力無い?」
少しだけ悲しい顔をした私に軽く口付けしてくれたタカちゃんは「魅力ねぇ訳ねぇだろ。俺の彼女だぞ」と言ってニシシと歯を見せて笑ってくれる。その言葉が何だか凄く嬉しくて胸に抱き着くと、私を抱き締めて丸まったタカちゃんは「今日は寝ような」と言ってから1度深い口付けをしてくれた
「……うん。明日エッチしようね」
「……お前、それ処女の言う事じゃねぇから」
「……処女じゃないもん」
「はっ?……冗談だよな?」
先程の笑顔が崩れ、額に血管が浮き出たタカちゃんに思わず口がポカンと開いたまま固まった。私は彼のこんな顔を見たことが今迄1度も無かったし、睨まれた事も無かったからだ
「……た、タカちゃん冗談だって……。そんなに怒らないで」
「……あ、悪ぃ。…………良かった」
「び、ビックリした」
「………マジで今みたいな冗談はやめろ。キレそうになるから」
「何で怒るの?」
「…… 雪那 、俺が他の女とした事あったら嫌じゃねぇの
?」
「その女を撲殺するかも……」
「……まぁ、そんな感じ。今度から絶対言うなよ」
「……タカちゃん……、私の事少しでも好きで居てくれてるんだ。嬉しい……」
「は……いつも俺にだけ特別優しくて、すげぇ好きって目で見てくれてた。マイキーやドラケンにからかわれてもお前は真っ直ぐで、ずっと一途に俺だけを見ててくれたからな」
「……えへへ」
「大事にするから。……後、家が嫌ならウチに居て良い。出来るか分かんねぇけど解決も協力する」
「……タカちゃん。……ありがとう」
ギュッと抱かれた腕と言葉に何だか安心したらゆっくりと眠気が訪れる。「おやすみ」と耳元で囁かれた声、彼女になれた事と口付けして貰えた事。沢山の幸せが一遍に押し寄せて来て胸がいっぱいだった
意識が遠のいていく中で何故か八戒の顔が急に頭に出てきて、その悲しそうな八戒の顔を見ていると何だか本当にごめんねって気持ちになった気がした
「 雪那、昨日何処に泊まってたんだ?」
「彼氏の家、明後日から夏休みだからずっとあっちに居ることにしたからよろしくね」
「はっ?」
タカちゃん宅から帰宅すると、珍しく八戒と柚葉の他に大寿もリビングに居た。私の話を聞いた大寿の手からコンビニのおにぎりが転がっていって、その様子を静かに八戒と私は見つめていた。「……大寿兄ちゃん……おにぎり落ちたよ」ポツリと呟いた私の顔を見て「……ああ」と言った大寿はおにぎりを拾わずに立ち上がると私の腕を掴みソファに座らせてくる。
そんな私の反対隣に直ぐに座った柚葉と、何故かドアの付近で困った顔をしながら佇む八戒
「……彼氏って何だ?」
「付き合ってる人って事だよ」
「……そんなもん知ってるに決まってんだろ。何処の誰と付き合ってるんだ?」
「トーマンの三ツ谷君」
「……お前……三ツ谷と付き合ってんのか」
「うん、今迄見てきた中で1番かっこいい男の人だと思う。……ねぇ、八戒?」
「……あ、ああ。タカちゃんなら安心したよ」
「八戒色々ごめんね、タカちゃんにも言われたけど八戒への態度も改めるね」
「……えっ?ああ」
「……おい、話は終わってねぇぞ」
「やめなよ大寿、雪那が誰と付き合おうと雪那の勝手だろ?一々口出すんじゃないよ」
柚葉の一言に一瞬空気が変わったけれど大寿は手を出さなかった。私を見つめて眉を寄せた大寿に、私も手を握り締めて彼の瞳を見つめた
「……タカちゃんね、幼い頃からずっと歳の離れた妹の面倒見て、朝から晩まで1人で働いてるお母さんの代わりに家事してさ。……トーマンでは苦労の耐えないドラケン君の補佐して、学校では手芸部の部長もしてるの」
「…………」
「力は守る為に使うもの、大事な人は大切に扱うものだってタカちゃんが言ってた」
「…………」
「素敵な彼氏でしょ?」
「…………口だけの奴じゃ無さそうだな」
「……大寿兄ちゃんも少し見習ってね」
「…………」
大寿からギリっと歯ぎしりした音が聞こえた瞬間に、柚葉が私を後ろから引き寄せ八戒がこちらに走って来る。まるで獣と対峙しているかの反応に何だか呆れてきてしまい気付けば溜息が出ていた
「……三ツ谷君を見てると良く分かるよ。今の大寿兄ちゃんは本当にかっこ悪い。……昔の大寿兄ちゃんに戻って欲しい」
「……そんな事言うなら帰って来なくていい。精々三ツ谷に誑かされているんだな」
スっと立ち上がった大寿はそのままリビングを出て行った。あそこまで言ったのに怒鳴りもしないし、八つ当たりで柚葉を殴りもしない彼が何だか不思議で私達は大寿が出て行くまで静かに背中を見送っていた
「…… 雪那、頼むからハラハラさせんなよ。」
「だって……。やられっぱなしで腹立つんだもん」
「ちょっとスッキリしたけどね。……それよりも三ツ谷と付き合ってるってどうゆう事だい?」
大寿の居た場所に座った八戒が「聞かせて雪那 。タカちゃんとどうして付き合う事になったの?」と目を輝かせて来て、その表情に少し笑ってしまった。少しだけ鼻声の八戒に「昨日タカちゃん宅に泊まらせてもらったから……看病出来なくてごめんね」と素直に謝ると、八戒は私の頭を撫でて「仲直り」と言って歯を見せて笑ってくれた
自分が意地悪で何も出来なかったのに、八戒は直ぐに私を許してくれるんだなと思うと何だか胸が痛くなって目頭がジンとした。「……良かった」と小さく呟いた柚葉の声に「柚葉姉ちゃんもごめんね」と呟くと「私はいいよ」と言って後ろから抱き締めてくれた
それから、八戒に毛布を被せて3人でテーブルを囲みピザを食べながら色んな事を話した。コーラしか飲んでいないのに「一緒に寝て何もしないなんて流石タカちゃん」と酔っ払いみたいに興奮する八戒に柚葉と笑って、「今度4人で遊びに行こうよ」と言ってくれた柚葉の提案が嬉しくて私はずっと微笑んでいた
眠る前にLINEを開けばタカちゃんからメッセージが入っていて、大丈夫か?の一言だったけど帰りたく無いと言いながら帰宅した私を心配してくれてるんだなと少し嬉しくなった
タカちゃん、八戒と仲直りしたよ
良かったな
タカちゃんのおかげだよ
俺何もしてないよ
したよ
何を?
タカちゃんと付き合えたら嬉しくて幸せな気分になって色々全部許せちゃったんだ
送信してから自分は本当に簡単な女だなと思って自分自身に呆れてしまった。タカちゃんもきっと私のメッセージを見ていつもみたいに呆れた顔をしてるんだろうなと思っていると
俺も昨日の夜からずっと幸せな気分だ
早く雪那に会いたい
そんな返信が来て、私は思わず笑顔で携帯を抱きしめてしまっていた
中2の夏に初めて不満が爆発してしまい八戒を殴り飛ばして大寿兄ちゃんにも蹴りを入れた。いつも私だけは大寿に殴られなかったけれど、今回は流石にぶたれるのを覚悟した。でも何故か少し驚いた様な顔をしただけで大寿はやり返して来なかったのはやっぱり私がお母さんにそっくりだからだろうか。殴られたかった訳では無いけど、柚葉と八戒ばかり殴られて私だけいつもやられなくて何だか2人に申し訳無いような気持ちになるし家に居たくないって気持ちがつのる
「あんたはそんな事気にしなくていいんだ」といつも私を抱き締めてくれる柚葉の愛情は本物だったから、もっともっと八戒が嫌になってしまったのかもしれない
柚葉が殴られるなら八戒が殴られればいい。何て姉ちゃんが怪我をしている度に心で思う様になっていて、八戒もやっぱり家族だしそんな風に思う自分が何だか悲しかった。
「……だからね、元凶をどうにかしたいの」
「……何で俺らに言うの?」
「だって、ココピといぬぴは大寿兄ちゃんと仲良しじゃない」
「仲良し……」
仲良し?かな?と下を向いて呟くいぬぴに、ココピは少しだけ苦笑いをすると「難しいな……」と言って溜息を吐いた。私の部屋の小さな二人掛けソファに密着して座る2人を見つめていると、何かを考えついたのかいぬぴはハッとした様な顔を私に向けた
「……お嬢がやるなら毒とか?」
「いぬぴ、どうにかしたいって殺したいとかじゃないのよ」
「……そうなのか」
「……いぬぴのお父さんがお姉ちゃんをいつも殴ってたら嫌でしょ?」
「……親父を病院送りにするな」
「いぬぴーがやる前に俺がまずやるね」
「ココピもいぬぴも発想が暴力的過ぎるよ……。まぁ、私も人の事言えないんだけどね。出来れば円満な解決方法は無いかなって……」
溜息を吐きながらラグに寝転んだ私を見て「円満」と呟いて下を向くいぬぴと、「金の稼ぎ方しか分からん」と腕を組んで黙ったココピは何だかんだいつも私に優しくしてくれるから私も私で甘えてしまっていた。2人と大寿兄ちゃんの関係的に私が我儘を言えば2人は困るだろうし、相談されても何とも言えない事も分かっていた。でも分かった上で2人にいつも愚痴を吐いてしまうのはきっとこの2人だからなのかもしれない
話を聞いて貰ったお礼に柚葉達の夕飯を作りがてら2人にもご馳走すると、ただの焼き魚定食なのに2人は嬉しそうに食べてくれた。3人で食卓を囲みテレビを見ながらドラマの話をしていると、玄関の扉が開く音がしてからリビングに入って来たのは八戒と柚葉だった
「おかえりなさい」
「ただいま雪那 。……何でこの2人と居んの?てか何でウチでご飯食べてんのさ」
「色々お世話になったからお礼してたの。柚葉と八戒のご飯もあるよ」
「……ああ。」
私が八戒と必要以上に話さなくなってから、柚葉は間に入る様に気を使ってくれていてそれも全部八戒が弱っちいから悪いと思うと気が楽で、自分は意地悪じゃないと思いたかった。大寿のあの傲慢な所が1番良くないのに何で大寿よりも八戒が嫌で嫌で堪らないのか私には分からない。黙々と静かに食べ進めるいぬぴとは違い、少し気まずそうな顔でどこかを見つめるココピの視線を追えば八戒が悲しそうな顔で私を見つめていた
「……お嬢、若にも飯の用意してやったら?」
「……八戒と柚葉は自分で出来るから大丈夫だよ。ココピもいぬぴもご飯おかわりあるよ」
「俺おかわり」
「いぬぴーはちょっと空気読もうぜ」
「ん??」
首を傾げているいぬぴの空の茶碗を取れば、フイっと顔を背けた八戒はリビングを出ていきその後を追うように柚葉も出ていった。知らん顔をして茶碗に米をよそい、戻って来た私を見て溜息をついたココピと「ありがとう」と少し微笑み、私の頭を軽く撫でたいぬぴの違いが面白くて少しだけ笑ってしまった
2人が帰ってから片付けをして部屋に戻れば、何だかモヤモヤする気持ちが何も手付かずにさせる。友人の家にでも泊まりに行こうかな何て考えていると部屋の扉のノックの音が聞こえて「何?」と返事をすれば開いた扉から顔を出したのは気まずそうな八戒だった
「……何?」
「…… 雪那 、あの2人とあんまり一緒にいるなよ」
「何で?」
「アイツらは兄貴と危ない事もしてるし、けっこう悪い奴だから……」
「……女が殴られてんのに庇わない奴よりマシだよ。乾とココは私が大寿に殴られたりしたら絶対庇ってくれるから。あんたよりマシだ」
「…………」
スッと閉められた扉。言いたい事を言えたのに何故かスッキリしなかったし、扉を閉める前の八戒の傷付いた顔がやけに残る。「……言わなきゃ良かった」と呟くとまた悲しくなってしまった
学校に行って友達と居るのが楽しくて、帰りたく無くなるけれど皆夕飯の時間になると帰宅してしまうので暇を持て余していた。友人達と別れると制服のままプラプラとデパートへ行き洋服や小物何かを見て周り、アイスを食べたり立ち読みをして時間を潰せば時刻は20時を過ぎていた
携帯を開くと柚葉から入っていたLINEには八戒が熱を出したから一緒に看病して欲しいと入っていた。八戒苦しいだろうな、可哀想だな何て考えている自分が居たのに柚葉への返信には「彼氏の所に泊まるから当分帰れません」と入れてデパートを出た。彼氏って何処の誰だよと、自分で入れた嘘に泣きそうになっているとハッと頭にタカちゃんの顔が思い浮かんだ。タカちゃんならきっと話せば泊めてくれると思い直ぐにデパートを出て神社に向かって走り出した
神社の階段を上がれば、コールやフカシの音で溢れていて人もかなり多い。まだ私が中学1年だった頃に来た時は人数もこんなには居なかった気がするしギャラリーも少なかった。タカちゃんの顔が見れると思うと浮き足立ってしまって遠慮せずに特攻服を着た彼等の中に入っていき、お目当ての人物を探そうとキョロキョロしていると流石に目立つのか皆こちらを訝しげな表情で見ていた
「雪那」と大きな声で名前を呼ばれ、そちらを振り向けばこちらに走って来るタカちゃんを見て手を振って走り寄った。
「 雪那 、お前何やってんの」
「タカちゃん」
胸に飛び込んでギュッと抱き締めると、少し困った顔をしながら背を片手で抱き締めてくれるタカちゃんに頬が緩んだ。私達の抱擁を見て、直ぐに近くに居た男の子達は目を逸らし「……なんだ三ツ谷君の彼女か」と呟くのが聞こえてくる。それを聞いたら何だか本当に嬉しくなって来て、回した腕に力を込めた
「…… 雪那 、何かあったのか?もしかして八戒すげぇ悪くなったとか?」
「……八戒は……知らない」
「また……喧嘩したのか?」
「…………タカちゃん、集会何時に終わる?」
「もうちょいかかるかな。待ってるなら送ってく」
「……今日タカちゃんち泊まって良い?」
「…………何かあったんだな」
わしゃわしゃと頭を撫でてくるタカちゃんの瞳は優しいけれど、優しくしてくれるのは八戒の双子の妹だからかなと疑ってしまう自分が昔から嫌だった。「おう!雪那、相変わらずちぃせぇな」と言って頭をグリグリしてくるドラちゃんと「雪那 、八戒は具合は大丈夫か?」と歩み寄って来たマイキー君に微笑んでから1度頭を下げると「邪魔になるから終わるまで端にいるね」と言ってタカちゃんの腕の中から離れ、端にあるベンチに座った
初めて会った時から私はタカちゃんが特別な存在に感じていた。同級生の男の子達共、いぬここやお兄ちゃん達、先輩、マイキー君達とも違う。タカちゃんだけは男性として意識していて、女の子として傍に居たいと初めて思った人だった。真面目な顔でマイキー君の話を聞いているタカちゃんの横顔を眺めていると、時間何てあっとゆう間に過ぎてしまっていた。「解散」とマイキー君が叫ぶと、直ぐに私の元に走って来てくれるタカちゃんが愛おしくて悶えていると「プッ、何だその顔」と言って笑いながら私の手を掴んだ
私の手を取ったタカちゃんはザワザワとまだ騒がしい神社内を真っ直ぐに歩き、インパルスの後ろに私を乗せると掛けてあったヘルメットを私に被せてくれた
「ルナとマナ、まだ起きてるかな?」
「……あー、流石に寝てるかもな」
「タカちゃん帰ったらご飯作って良い?おなか空いちゃったよ」
「 雪那の飯か……。久しぶりに食いてぇかも」
「ふふ、頑張って作るよ」
単車に跨り「掴まってろよ」と言ったタカちゃんの背中に抱きつくと、エンジンが掛かりゆっくりと進んだ単車は頭を下げる後輩の間を駆け抜けて道路に出た。
他愛も無い話をしながら風の気持ち良さを感じていると直ぐにタカちゃんのアパートに到着してしまう。もう少し抱き着いていたかったな何て思いながら、停車したインパルスから降り二人でアパートに入った
玄関を開ければタカちゃん宅の匂いがして何だか安心する。「お邪魔します」と小さな声で呟いてから靴を脱ぐと、「リビング行ってて」とタカちゃんも小さな声で呟いたので頷いてから忍足でリビングに向かえば、リビングの戸は開いていてルナとマナのおもちゃや人形で溢れていた。軽く片付けをしているとリビングに入って来たタカちゃんは「来て早々悪ぃな」と少し微笑んで、テレビの前に散乱している人形を次々と箱に入れていく
「…ああ…落ち着いたら腹減ってきた」
「冷蔵庫覗いても大丈夫?」
「ああ。好きに使って、俺風呂入って来ていい?」
「うんうん」
「……お前何でそんな嬉しそうなの?」
「新婚さんみたいだから」
「……はいはい。んじゃ、めし頼むわ」
フッと小さく笑って、私の頭に手を乗せ体重を掛けたタカちゃんはそのまま立ち上がりお風呂場に向かって行った。そんな背中を見送ると最後のぬいぐるみを箱にポイッと放ってからキッチンに向かった
萎れたナスとトマト、豚肉を炒めると牛蒡とキノコの豆乳スープを作り賞味期限ギリギリの豆腐を鰹節と葱をかけて冷奴にすると丁度お風呂から上がったタカちゃんはテーブルに並んだ食事を見て目を見開いた
「すっげぇ美味そう」
「材料沢山あったから」
「食っていい?」
「うん、食べよう」
タカちゃんと二人で食べるご飯は凄く美味しく感じた。昨日もいぬここと食べたから美味しかったけれど、何だか最近家族で食べる食事が味気なくて美味しくなかった。それが長くあったからか、「これ美味い」って微笑みながら食べてくれるタカちゃんの顔を見ているだけで1口1口が美味しく感じる気がした
夕食を済ませてからお風呂を借りて出てくれば、タカちゃんが自室のベットで携帯を弄っているのが見えてそのままベットにダイブしてタカちゃんに抱き着いた
「タカちゃんー抱っこしてぇ」
「お前もう14だろ、抱っこしてなんて普通言わねぇぞ」
呆れた様に苦笑いをしながら受け止めてくれる彼の腕に抱き着き、そのまま体を倒せば「よしよし」と言われ頭を撫でられる。子供扱いされているのは重々承知していたけれど、寄せブラで胸は大きくなっているしキャミソールと短パンの姿で挑んだのに顔色1つ変えないタカちゃんが憎らしい。キスしてやろうかな何て考えているとサラリと私の髪を撫でたタカちゃんは優しい瞳で私を見つめてきた
「……なぁ、八戒と口聞いてないんだって?」
「…あ…うん。でもたまに必要な事は話すよ」
「八戒はお前には優しいし、良い兄貴だろ?何で嫌なんだよ」
「………良い兄貴……かな?」
「…理由……俺には言いにくい?」
頬を撫でてくるタカちゃんの手を取ると、少し困った顔で首を傾げた彼の瞳を真っ直ぐと見つめた
「……タカちゃんさ、もしタカちゃんが本当に私のお兄ちゃんだったとして……。私が大寿に殴られてたらどうする?」
「………それは大寿君も俺の兄貴って事になるよな。……俺は多分 殴ってたら絶てぇ許さねぇし大寿君と喧嘩になると思う」
「………柚葉が八戒のせいで殴られてても……八戒は下を向いて震えてるだけ。……柚葉は顔が怪我だらけになっても八戒を庇うの」
「…………」
「……柚葉じゃなくて八戒が殴られれば良いのに。大寿何て帰って来なきゃいいのに」
話していたら何だか涙が出てきて、歯を食いしばると目尻が下がったタカちゃんの瞳は少しだけ潤んで揺れていた。タカちゃんにそんな顔させたかった訳じゃない、でもタカちゃんに聞いて欲しかったと本心を伝えると引き寄せられてギュッと頭を抱きしめてくれる。体が暖かくてポロポロと溢れた涙はタカちゃんの肩口を濡らしシャツに染みを作っていった
「……辛かったな。良く話してくれたな」
「……本当は八戒嫌いじゃないの……」
「知ってるよ」
「何にも出来ない自分が嫌なんだ……」
「うん、分かるよ雪那 。」
私をあやすタカちゃんの声色は優しくて甘い。何も言わずに背を摩ってくれるタカちゃんの優しさが心に染みて思わず「タカちゃん大好き」って思わず口にしてしまっていた。
「……俺も大好きだよ……」
「…………タカちゃんの好きと私の好きは違うもん」
「…………」
黙ってしまったタカちゃんの顔を見れば少しだけ困った様な顔をしていて、何だか胸が痛くなる気がした。
「……学校の男の子達ともいぬこことも、マイキー君やドラちゃん達共違う。私が男の人として好きなのはタカちゃんだけなの」
「…… 雪那 」
「……タカちゃん」
少しだけ目を見開いたタカちゃんの唇に押し付けるように口付けて目を瞑った。背を抱く腕に少し力を込めれば、反応が無い事に悲しくなり離れようとした瞬間にゆっくりと頭に手が置かれた。急に深くなった口付けに嬉しくて涙がポロポロと溢れて頬を濡らしてゆく
「……泣くなよ…… 」
「小学校から好きだった人とキス出来て嬉しいんだもん」
「……可愛い奴だな。……本当に……俺の気も知らないで」
「…私、ちゃんとタカちゃんの彼女になりたい」
「……ああ」
肯定の「ああ」を聞いた瞬間にじんわりと実感が広がっていく。私、彼女になれたんだって思ったら幸せ過ぎて先程迄悲しかった気持ちが吹き飛んだ気がした。
「私でいいの?本当に?2番目とかじゃない?」
「……1番誰だよ……アホか」
「ちゅーしていい?」
「今しただろ……」
「後10回したいな……」
「……お前な……。思春期舐めんなよ、マジで襲うぞ」
「沢山お願いします」
「……お前なぁ。……それはもうちょい待つわ」
「……魅力無い?」
少しだけ悲しい顔をした私に軽く口付けしてくれたタカちゃんは「魅力ねぇ訳ねぇだろ。俺の彼女だぞ」と言ってニシシと歯を見せて笑ってくれる。その言葉が何だか凄く嬉しくて胸に抱き着くと、私を抱き締めて丸まったタカちゃんは「今日は寝ような」と言ってから1度深い口付けをしてくれた
「……うん。明日エッチしようね」
「……お前、それ処女の言う事じゃねぇから」
「……処女じゃないもん」
「はっ?……冗談だよな?」
先程の笑顔が崩れ、額に血管が浮き出たタカちゃんに思わず口がポカンと開いたまま固まった。私は彼のこんな顔を見たことが今迄1度も無かったし、睨まれた事も無かったからだ
「……た、タカちゃん冗談だって……。そんなに怒らないで」
「……あ、悪ぃ。…………良かった」
「び、ビックリした」
「………マジで今みたいな冗談はやめろ。キレそうになるから」
「何で怒るの?」
「…… 雪那 、俺が他の女とした事あったら嫌じゃねぇの
?」
「その女を撲殺するかも……」
「……まぁ、そんな感じ。今度から絶対言うなよ」
「……タカちゃん……、私の事少しでも好きで居てくれてるんだ。嬉しい……」
「は……いつも俺にだけ特別優しくて、すげぇ好きって目で見てくれてた。マイキーやドラケンにからかわれてもお前は真っ直ぐで、ずっと一途に俺だけを見ててくれたからな」
「……えへへ」
「大事にするから。……後、家が嫌ならウチに居て良い。出来るか分かんねぇけど解決も協力する」
「……タカちゃん。……ありがとう」
ギュッと抱かれた腕と言葉に何だか安心したらゆっくりと眠気が訪れる。「おやすみ」と耳元で囁かれた声、彼女になれた事と口付けして貰えた事。沢山の幸せが一遍に押し寄せて来て胸がいっぱいだった
意識が遠のいていく中で何故か八戒の顔が急に頭に出てきて、その悲しそうな八戒の顔を見ていると何だか本当にごめんねって気持ちになった気がした
「 雪那、昨日何処に泊まってたんだ?」
「彼氏の家、明後日から夏休みだからずっとあっちに居ることにしたからよろしくね」
「はっ?」
タカちゃん宅から帰宅すると、珍しく八戒と柚葉の他に大寿もリビングに居た。私の話を聞いた大寿の手からコンビニのおにぎりが転がっていって、その様子を静かに八戒と私は見つめていた。「……大寿兄ちゃん……おにぎり落ちたよ」ポツリと呟いた私の顔を見て「……ああ」と言った大寿はおにぎりを拾わずに立ち上がると私の腕を掴みソファに座らせてくる。
そんな私の反対隣に直ぐに座った柚葉と、何故かドアの付近で困った顔をしながら佇む八戒
「……彼氏って何だ?」
「付き合ってる人って事だよ」
「……そんなもん知ってるに決まってんだろ。何処の誰と付き合ってるんだ?」
「トーマンの三ツ谷君」
「……お前……三ツ谷と付き合ってんのか」
「うん、今迄見てきた中で1番かっこいい男の人だと思う。……ねぇ、八戒?」
「……あ、ああ。タカちゃんなら安心したよ」
「八戒色々ごめんね、タカちゃんにも言われたけど八戒への態度も改めるね」
「……えっ?ああ」
「……おい、話は終わってねぇぞ」
「やめなよ大寿、雪那が誰と付き合おうと雪那の勝手だろ?一々口出すんじゃないよ」
柚葉の一言に一瞬空気が変わったけれど大寿は手を出さなかった。私を見つめて眉を寄せた大寿に、私も手を握り締めて彼の瞳を見つめた
「……タカちゃんね、幼い頃からずっと歳の離れた妹の面倒見て、朝から晩まで1人で働いてるお母さんの代わりに家事してさ。……トーマンでは苦労の耐えないドラケン君の補佐して、学校では手芸部の部長もしてるの」
「…………」
「力は守る為に使うもの、大事な人は大切に扱うものだってタカちゃんが言ってた」
「…………」
「素敵な彼氏でしょ?」
「…………口だけの奴じゃ無さそうだな」
「……大寿兄ちゃんも少し見習ってね」
「…………」
大寿からギリっと歯ぎしりした音が聞こえた瞬間に、柚葉が私を後ろから引き寄せ八戒がこちらに走って来る。まるで獣と対峙しているかの反応に何だか呆れてきてしまい気付けば溜息が出ていた
「……三ツ谷君を見てると良く分かるよ。今の大寿兄ちゃんは本当にかっこ悪い。……昔の大寿兄ちゃんに戻って欲しい」
「……そんな事言うなら帰って来なくていい。精々三ツ谷に誑かされているんだな」
スっと立ち上がった大寿はそのままリビングを出て行った。あそこまで言ったのに怒鳴りもしないし、八つ当たりで柚葉を殴りもしない彼が何だか不思議で私達は大寿が出て行くまで静かに背中を見送っていた
「…… 雪那、頼むからハラハラさせんなよ。」
「だって……。やられっぱなしで腹立つんだもん」
「ちょっとスッキリしたけどね。……それよりも三ツ谷と付き合ってるってどうゆう事だい?」
大寿の居た場所に座った八戒が「聞かせて雪那 。タカちゃんとどうして付き合う事になったの?」と目を輝かせて来て、その表情に少し笑ってしまった。少しだけ鼻声の八戒に「昨日タカちゃん宅に泊まらせてもらったから……看病出来なくてごめんね」と素直に謝ると、八戒は私の頭を撫でて「仲直り」と言って歯を見せて笑ってくれた
自分が意地悪で何も出来なかったのに、八戒は直ぐに私を許してくれるんだなと思うと何だか胸が痛くなって目頭がジンとした。「……良かった」と小さく呟いた柚葉の声に「柚葉姉ちゃんもごめんね」と呟くと「私はいいよ」と言って後ろから抱き締めてくれた
それから、八戒に毛布を被せて3人でテーブルを囲みピザを食べながら色んな事を話した。コーラしか飲んでいないのに「一緒に寝て何もしないなんて流石タカちゃん」と酔っ払いみたいに興奮する八戒に柚葉と笑って、「今度4人で遊びに行こうよ」と言ってくれた柚葉の提案が嬉しくて私はずっと微笑んでいた
眠る前にLINEを開けばタカちゃんからメッセージが入っていて、大丈夫か?の一言だったけど帰りたく無いと言いながら帰宅した私を心配してくれてるんだなと少し嬉しくなった
タカちゃん、八戒と仲直りしたよ
良かったな
タカちゃんのおかげだよ
俺何もしてないよ
したよ
何を?
タカちゃんと付き合えたら嬉しくて幸せな気分になって色々全部許せちゃったんだ
送信してから自分は本当に簡単な女だなと思って自分自身に呆れてしまった。タカちゃんもきっと私のメッセージを見ていつもみたいに呆れた顔をしてるんだろうなと思っていると
俺も昨日の夜からずっと幸せな気分だ
早く雪那に会いたい
そんな返信が来て、私は思わず笑顔で携帯を抱きしめてしまっていた
