短編 シリーズ
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それから2日経ってあの手紙の事も忘れいつも通り学校に行ってから帰りにトレーニングジムに顔を出した。入院をしていたから体は鈍っているだろうと思っていたけれど、いつものメニューを難なくこなせたので特に入院しても期間が短い間なら鈍るものでは無いんだなと実感した。トレーニング中に脇腹の傷が少しだけ疼いた様に感じたけれど1時間程の筋トレなら特に支障は無かったし、久しぶりに良い運動になり私はご機嫌だった
帰る前にジムの前に設置されている自販でミネラルウォーターを買って喉を潤しながら携帯を弄っていると、後ろから近付いてくる人の気配に直ぐに振り返る
そちらを向いた瞬間、目の前に棒が振り下ろされる有り得ない光景に思わず仰け反ってギリギリで避けた。「あぶな」と咄嗟に口から出た私の声は周囲の騒音で掻き消されると、目の前のぺーみたいな服を着た男は避けられた事が気に入らないのか1度舌打ちしてからまた右手の鉄パイプを振り上げ、少しだけ勝ち誇った様な笑みを浮かべた
「……あんた誰?」
「………………次は避けんなよ」
上から下に振り下ろされた鉄パイプを避けて右手に持っていたミネラルウォーターのペットボトルを至近距離で顔に思い切り投げ付ける。命中した瞬間に回し蹴りも一緒に顔に叩きつけてやると、ベシャっと潰れたペットボトルの音と共に男が白目を向いて地面に転がった。その様子を口を開けて見ていた工事現場のおじさんが何故か拍手をしてきて、非常に恥ずかしくなりそそくさとその場を後にしてしまった
急ぎ足で自宅に帰っていると、ふとおじさんが居なければあの男の財布の中身を見て身元を調べられたのになとちょっと思った。見た目から年齢は私よりも多分少し上で、高校生くらいの不良っぽい男だったが顔に全く心当たりは無かった
明らかに私を狙っていた事が分かったし、もしかしたらあの手紙に関係があるのかと考えていると路地を曲がった瞬間に足を止めざる得なくなった。「こんにちは 雪那ちゃん」と笑顔で左手を振る男の右手にはバットが握られていて他の3人は何も持っていなかったが構えが素人じゃないと直ぐに分かり彼等にニッコリと微笑んだ
「どちら様ですかね?」
「あいつは君にやられちゃったのかな?」
「…………」
これは必ず怪我するなと何だか悲しい確信があって、この間当分怪我はしたくないと言い喧嘩しないと隆とした約束を思い出した。全然守れないじゃんと思いながら久しぶりにやるなら本気でやってやろうと自身を奮い立たせ、先頭でニヤニヤしている阿呆面の男に鞄を投げ付けた
何発か顔に貰ってしまったけれど歯は折れなかったし、有段者相手なら仕方ないかと自分の腫れ上がった瞼と切れた唇を1度持ち歩いていた手鏡で確認してから小さく溜息を吐いた。地面に転がる4人の中の明らかにリーダー格だった奴の胸ポケットから財布を取り出すと原付の免許証が出てきたが学生証は見当たらなかった
免許証の写真を携帯で撮ってからそれを男のポケットに戻し、また急ぎ足で家に帰ろうと走っていると自宅の直ぐ近くで何人かの男達が話をしているのが見えて直ぐに脇に隠れた。腫れ上がった片方の瞼が見えにくくて男達の武器や人数が分からないので下手に動けずにいると、「遅せぇな 雪那」とその中の一人が言った声が隆の声である事がハッキリと分かったので緊張がとけて肩の力が抜けた
「……ただいまぁ。災難だらけだよ」
瞼を腫らし、血を流しながら脇道から出てきた私にそこに居た全員がこちらを向いた。「雪那」と名前を呼んで焦った様に走って来るのはやっぱり隆で、その後ろからこちらに走って来るのは私の腫れた顔を見てゲラゲラ笑うマンジロと一虎だった
「……誰にやられた?」
「有段者4人。名前は知らないけど免許証見たら17歳だった。あっちでまだ寝てるよ」
「……俺が行ってくるわ、マイキーと三ツ谷は雪那と家行ってろ。一虎と場地は俺と」
「ドラちゃんと圭介も居るの?目が痛くて全然見えないや」
「雪那 、こっち来い」
隆に手を引かれて歩き出すと、直ぐに隣から「あ」と言ったマンジロは何故か私を米俵みたいに担いで走り出し自宅の鍵をいつもの場所から取ると鍵を開けて私を中に入れた。「ちょ、えっ?隆は?」その問いかけに返事は無くて閉まってしまった玄関を少しだけ開けると何やら喧嘩している様な声が聞こえてくる
「……何か抗争みたいになって来たなぁ」
とりあえずマンジロが居るから大丈夫だろうし、誰かが逃げ込んで来た時の為に玄関の鍵は閉めずにキッチンに向かった。冷蔵庫から保冷剤を出して目に当てて暫くジッとしているとガチャっと玄関が開く音がしたのでマンジロか隆かなと思いリビングの開けっ放しのドアから玄関を見れば、そこに居たのはマスクをしてフードを被った男が私の事を目を細めて見ていた
「……お前……何で人の家に入って来てんの?」
「てめぇが雪那か?」
「……玄関上がったらブチのめすからな」
「……怖ぇ女だな」
テレビ台の横に置いてあるゴルフクラブの事を思い出して1度リビングに戻ってクラブを持ってから廊下に出ると既に男は私の靴の上に倒れていて、その横には肩で息をする隆がこちらを見て目をまん丸くしている
「……お前何でゴルフクラブ持ってんの?」
「……目が見えないから振り回そうと思って。隆大丈夫?」
「……ああ。数が多いけどマイキーがお前の事守れって言ってくれたから俺だけこっち来た」
「……私も行く」
「目は平気なのか?」
頷いた私に隆は少しだけ間を開けてから頷いた。駄目だって言われるのを覚悟して言ったのに、珍しく言われなかったなと私は平然な顔をしていたけど、内心は凄く驚いていた。
玄関を開けた隆に続いて外に出れば、薄らとマンジロが見えて周りに何人か地面で寝ている様な光景だった
私が帰って来た方角からドラちゃん達が走って来るのが見えたので安心していると、反対の方角から何人かまた黒いジャンパーを着た男達が走って来るのが見えた。「かなり数が多いな」と隣で面倒くさそうに言い放った隆の口調からして味方じゃ無いって事は分かったので直ぐにその男達にターゲットを絞ると一目散に走り出した
後ろから「おいおい待て待て」って隆の声が聞こえたけれど聞こえないフリをした。マンジロが迎えうつ気満々で仁王立ちしている前に出ると男達は私を見て目を細め立ち止まり何やら話をし出したので、振り上げたゴルフクラブをとりあえず肩に置いた
「この女じゃね?髪色も聞いた通りだし」
「写真で見たけどこんなにブスじゃ無かった筈だ」
そんな会話が聞こえて来て、その会話の内容に私が口を開けてポカンとしているといつの間にか隣にいた圭介が私の肩を叩き「ブスだってよ」と言ってから私の腫れた顔を見て吹き出した。「おい場地やめろよ」と言ったドラちゃんと目が合うと笑いを堪えながら下を向いたのが分かって頭に血が登って来るのが分かり、全部彼等のせいにすると決めて私をブスだと言った男の鼻っ面にゴルフクラブを振り下ろした
「……誰がブスだってぇ」
「………………」
「 雪那、もう意識ねぇから話かけんな」
途中からやり過ぎだとドラちゃんに羽交い締めにされてもキーキー怒り狂う私を見て圭介とマンジロは昔みたいにゲラゲラ笑いお腹を抱えていた。アドレナリンが切れたのか昔みたいに喧嘩がひと段落すると少しづつ痛んでくる右手を見れば赤くなっていて、手入れしていた爪も割れていた
「疲れたぁ、爪割れてるし」
「すげぇ面白かったな、雪那」
「面白くないわ」
「お前の顔が1番面白ぇよ」
「やかましいわ一虎」
「珍しく三ツ谷が止めなかったな」と笑っているマンジロに「ブスって言ったから止めなかった」と目を細めている隆を見て皆で笑っていると、遠くからぞろぞろとこちらに歩いてくる黒いジャンパーの集団を目を凝らして見つめた
「……あれ、何のチームなの?誰か分かる?」
私の問いに「朝からアレに追っかけ回されてる」と言ったドラちゃんに皆も頷いていた
「何だ私だけじゃ無かったんだ」
「……パーだけ連絡取れねぇんだよ。」
そう言って少し顔を顰めた隆に皆目を合わせた。内心皆がこの時に拐われているかもしれないと一瞬過ぎったのが分かって私達の間に緊張が走った。少しの沈黙の後に「……俺が全員やる。パーの事は皆に任せる」マンジロがそう言って袖を捲ると、顔付きがガラリと変わってこれはもう誰の言うことも聞かないなって分かったので皆もそれが分かるからか何も言わずに一度だけ頷いた
「私は目がダメになってるからマンジロとここに残る」
「……分かった。俺と雪那で全員やるから、ケンちん悪ぃけどパーを頼んだ」
「……ああ。」
ドラちゃんは余り乗り気では無いのか少しだけ間が空いてから返事をすると直ぐに「行くぞ」と言って走り出した。その後を続く様に一虎と圭介、隆も路地を曲がると直ぐに見えなくなった
「お前と二人で喧嘩すんのは久しぶりだな」
「またあれやる?」
「……いいぜ。恥ずかしくないならな」
「流石にアカレンジャーごっこは恥ずかしいからマンジロに任せるよ。おこぼれは私がやる」
おうと一言言ってから走って行く彼の背中を見つめていた。いつ見ても綺麗で軽やかな蹴り技だなと思いながらボンヤリしていると私に向かって来ようとしていた何人かは私の手にあるゴルフクラブを見て後ずさった。そんな所を後ろからマンジロに蹴られ地面に叩き落とされ、結局私が手を出さなくても1人で無傷でやつけてしまう彼は何だかかんだ凄いと思った
「終わったな」
「……一応パーに電話してみるね」
「ああ」
ポケットから携帯を取り出し通話ボタンを押したけれど、あの4人の誰かが掛けているのか繋がらない。道路に居てまた見つかっても面倒だなと思い、家に入ろうとマンジロに言えば1度だけ頷いた
玄関の鍵を掛けておくか迷ったけれど、マンジロがいるなら安心だし開けっぱなしのままリビングに入りソファにゴロリと横になった。私の後ろに居たマンジロも疲れたのか勝手に客用布団が入っている棚から敷布団と枕を出してその上に寝転がる
「……もしかしてマジ寝すんの?」
「ちょっとだけ寝る。朝から追っかけっこで疲れが取れねぇよ」
「2時間くらいしたら起こすからね」
「……ああ」
それから2分もしない内にスピーと子供みたいな寝息をかきながら眠ってしまったマンジロに毛布を掛けてから一応玄関の鍵を掛けて、隆にリビングの窓を開けておくとLINEを入れた。朝にいれておいた珈琲を温め直して啜っているとふと先程の男達が言っていた言葉を思い出した。
「……ターゲットの写真を送ってるのか」
最近写真何か撮られた覚えは無いけれど多分私達の写真を隠し撮りしてばら蒔いているのだろう。そういえば稀咲や半間は無事何だろうか……。ちーちゃんやタケミチ君や春千夜、そうちゃんやなほちゃんが少し気になったけど、まずターゲットにされそうなパーの身が今は1番心配だった
マグカップの珈琲を啜りながら携帯を眺めていたけれど、パーから折り返しも無いし隆から連絡も無い。手を伸ばしてマンジロの柔らかい毛並みをくるくると指で絡めて遊んでいると何だか眠くなって来てしまって、敷布団で寝るマンジロのお腹を枕にして目を瞑った
ザワザワと人の声が近くから聞こえてくる感じがして目を開けた。目の前に見えるネイビーのズボンは隆のスウェットだなと思い安心してまた目を瞑ると「スピピー」と頭上から聞こえてくるマンジロの寝息を聞いて、またゆっくりと目を開けた
「……隆……いつ帰って来たの?」
「起きたのか?30分前くらい。パーはぺーやんと居て無事だった」
「……そう」
良かったと思いながら起きて伸びをしている私の瞼は腫れが酷くなったのかかなり熱を持っていた。その顔を見てまたゲラゲラと笑う一虎と圭介に舌打ちをすると、「 雪那、それどした」と言って驚愕した顔をしたパーとぺーに「殴られた」と言えば2人は冷凍庫から保冷剤を持って来てくれて私の瞼に優しく置いてくれた
「雪那、さっき稀咲からドラケンに連絡が来た」
「ん?何て?」
「……待ち伏せされて鉄パイプで頭割られたらしい」
「……半間は無事なの?」
それは聞いてねぇと言った隆は私の腫れた唇を1度優しく撫でてから舌打ちする。私達の会話を聞いていたドラちゃんが「とりあえず全員揃ったからやり返しに行くか」と楽しそうに笑うと一虎と圭介は嬉しそうに待ってましたと言って立ち上がった
「……私は視界が狭すぎてちょっと力になれなそうだから今日はここにいるよ」
「……まぁ、仕方ないな」
「マイキーいい加減起きろや」
ドラちゃんがマンジロを揺さぶると、渋々起きたマンジロはボンヤリとしながら辺りを見渡してパーとぺーの顔を見ると少しだけ微笑んだ。「……おれは今日は と雪那居る。……いいか?」そう言ってマンジロとドラちゃんを見た隆に「分かった」と言って頷いた2人が立ち上がると皆気合いが入った様に準備運動をし始めてそれを見てクスクスと笑ってしまう。ふとポケットに振動を感じて携帯を見れば着信はお母さんからで私は体が急に硬直してしまい揺れる瞳で隆を見つめた
「……どうした?」
「…………お母さんから電話……。5年くらい……話してなくて」
「……出る?俺が出ようか?要件だけ聞く?」
顔が青くなった私を見つめる皆は事情を知っているからか無言で私を見つめている。隆が私の携帯を手に取り「……嫌なら俺が話すよ」と優しい声を掛けてくれて少しだけ微笑むと一虎が「 雪那、辛いなら切っちゃえよ」と怪訝な顔をした
「出てみる。何か用事かもしれないし……」
しつこく鳴るコールに、通話ボタンを押すと隣にいたマンジロがスピーカーボタンを押した事にギョッとした。もしもしと久しぶりに聞いたお母さんの声に答えるように、はいと返事をするとお母さんが言った言葉は私の想像を超えていた
「 雪那、今さっき河合さんが若い男の子達にリンチされて病院に運ばれたの」
それを聞いて時が止まった様に感じ、ふと手を見ると携帯を持つ手は震えていた。その手をさっと握ってくれたマンジロは「どこの病院ですか?」と私の携帯に向かって冷静に口を開く。「……貴方…… 雪那の彼氏?」そう嫌そうに言ったお母さんに「 雪那の彼氏は俺です」と言った隆は放心している私の背を撫で唇を噛み締めていた
「…流石あの人の子…随分男の子に囲まれているのね。〇病院だから。それだけ」
そのお母さんの言葉に「てめぇ」と低い声で怒鳴った一虎の口を塞いだ圭介は首を横に振ると直ぐに通話終了と出ている携帯を見て溜息をついた。「落ち着け、一虎。……三ツ谷がこんだけ我慢してんだ」そう言った圭介の言葉を聞いて、隆を見れば唇を噛み締める彼の口からは血が流れていて胸が締め付けられる感じがした
「………私さ……河合さんの事は病院に任せる。行っても治療は出来ないし、待ってるだけになるから」
そう言った私の肩を叩いて「ならぶっ飛ばしに行くか」と笑ったドラちゃんに私は深く頷いた。何故か余り接点が無い筈のパーが瞳を潤ませながら「河合さんには前にすき焼きを食べさせてもらった」と言いキレ初めると「女に手を出す奴はぶっ飛ばす」と言って全員が拳を鳴らし始めた
「……あれ?私女何だけど……。皆私の腫れた顔みて笑って無かった?」
「……さぁ行くか」
私が首を傾げながら言った言葉を無視して、全員がぞろぞろとリビングを出て行ってしまったのを見ながら私の隣で佇んでいる隆に視線を送る
「……まぁ、俺だけは女として見てるからさ……。行くか……」
「……あいつら……敵と間違えたフリして蹴り入れてやろうかな」
「ギリギリまで目冷やしとけよ、もし視界が悪くて空間把握が出来なかったら俺の後ろにいろ」
「……分かった」
「…………河合さん……きっと大丈夫だから」
「うん。」
頷いた私の頬に軽く口付けしてくれた隆に本当は抱き着いてそのまま泣きたかった。でも、今はそんな思いを胸にしまい玄関に向かって歩き出した
外に出れば、やはり何人か黒のジャンパーの男達が居てドラちゃんがその内の1人を背負い投げをして見える。一虎と圭介も交戦中の中、少し先の方でその様子を見ながら電話をしている黒いジャンパーの男が見えて「何か仲間呼んでない?あそこのポスターの横の奴」と指をさせば、隆がそちらに直ぐに走って行ったのでその様子を静かに見ていた
ふと、視線を感じてそちらを向くと背の高い白のジャンパーの男が一人でこちらに歩いてくる。目を凝らして良く見ればあのジャンパーは東京卍會の物で、背の高さ的にむーちょか?と思いながら見ていると、こちらに近づくにつれてニヤニヤとした笑みを浮かべる男が半間だと分かったのは直ぐ傍まで来てからだった
「…半間…ここで何してんの?」
「…冷たいなぁ。仲間じゃんか」
「…………まあ、そうだけど」
「どこ行っても囲まれて喧嘩売られるんだけど、何この状況。マイキー電話出ねぇし」
「……マンジロならあっちに居るよ」
「知ってる。さっき見たわ」
私の隣に腰を降ろしてきた半間は、どこ行っても囲まれてと言っていた割には擦り傷1つ無い。ジロジロと上から下まで見ている私に気付いた半間は私を見つめると口をゆっくり開く
「…… 雪那ちゃん、何か顔お岩さんみてぇだなぁ」
「…………やかましいわ」
「くくく、その顔稀咲に見せてやりてぇ」
「……そういえば、稀咲は大丈夫なの?」
「病院にいるから大丈夫だろ。それよりこの黒いジャンパーの頭誰?」
「……知らんよ。知ってたらとっくに連絡してるわよ」
「ふーん。まぁ、せっかくの抗争だから長く楽しみたいよな」
「私は嫌だけどね」
「お、また来た。ちょっくら行ってくるわ」
溜息をついた私にヒヒヒと不気味に笑った半間は立ち上がるといつの間にか現れていた集団に向かって走って行った。余り派手にやりすぎると少年院行きになってしまうから気をつけなきゃと思ったが、先程そんな事をすっかり忘れてゴルフクラブを振り回してしまった事を思い出してちょっと反省した
お嬢様、怪我はしないで下さいねと微笑んでくれた河合さんを思い出して拳を握り締めると出て来た涙を1度袖で拭いてから私も走り出した
思う存分暴れに暴れて、掴まれた服はボロボロ。目も見えずらかったので何発も貰ってしまって顔がボコボコになってしまった。そんな私の顔をアイスノンで冷やしながらヒーヒーと笑っている一虎の頬を睨みながら抓ると、楽しそうに「本当にウケんな」と言っきて殴りたくなった
珍しく口元から血を流すマンジロと私レベルでボコボコの顔のパー。足を挫いたと言って横になっている圭介と、マンジロを守っていた隆とドラちゃんもかなり傷だらけだった
「……あれ?半間は?」
「家に入る前に消えた」
「ふーん」
「……皆相当やられたな。頭潰さないと先にうちが潰されるんじゃね?」
「このままだとちょっと厳しいかもな」
珍しく弱気のドラちゃんと圭介に、何も言わない隆とペーとパー。いつの間にか寝ているマンジロを見て皆は1度溜息を吐くと無言で横になり目を瞑っていた
「……」
相当皆疲れているし、今は仕方無いかと思い敷布団と毛布を出して皆に配ると「お風呂入りたい人は適当に入って」と言ったが返事は無い。「ご飯食べる人」と口を開けば無言なのに寝ているマンジロ以外の全員が手を上げたので私は溜息を吐いてからキッチンに向かった
多めに炊いておいたご飯に冷蔵庫にあった具を入れておにぎりを作っていると、起き上がってこちらを見た隆は少しだけ微笑んでからこちらに向かってくる
「……寝てていいよ」
「ちょっと休んだから平気」
「助かる、ありがとうね」
二人でおにぎりを10個程作ってからテーブルに置くと、何だかどっと疲れが出たのか体が怠い。軽くシャワーを浴びてから着替えて自室でベットに入るとそのまま直ぐに意識は遠くなっていった
ピピピとシンプルな音の着信音で目が覚めた。自分の携帯が鳴っていると意識がハッキリしてきて、ポケットに入れっぱなしだった携帯を通話にすれば聞こえてきた声は九井だった
「久しぶりだねぇ」
「……九井か……。何か用?」
「随分追い回されてるみたいだから心配して電話したんだよね」
「……心配してくれたのはアンタじゃなくてワンコでしょ?」
「そうそう。ボスに話したらチームを巻き込まないなら手を貸しても良いって言われたからな。良かったら手貸すぜ」
「…………うーん。じゃあ頭探してくれない?」
「一応候補は上がってるけど、……聞きたい?」
「……どうゆう事?」
「多分東京卍會の稀咲って奴だと思う。」
「……はっ??稀咲は頭割られて病院にいるけど……。」
「……それそのまま信じてんの?」
「信じ……てた。一応」
「ふーん。稀咲って奴が雪那さんとドラケンの写真を送って細かい指示出してるのをうちのチーム奴が聞いてた。そいつは20万渡されて口止めされた」
「……口止めねぇ」
「50万で俺が口を割らせた。後でしっかりと請求させて貰うよ」
「…………ちゃっかりしてんなぁ」
「とりあえず稀咲って奴は病院には居ないし、なるべく強者の学生を金で集めてるらしいぜ」
「……分かった。とりあえず皆に話すわ。私一人じゃ対処出来ないし解決策も浮かばない」
「……無敵のマイキーと話し合ったらまたこの番号かいぬぴーの携帯に電話くれ」
「うん」
通話が終了になって顔をあげれば自室の扉は開きっぱなしだったのか、そこには額に血管が浮き出た隆とドラちゃんが壁に寄り掛かりこちらを見ていた。「……説明が面倒だから聞いててくれて助かったよ」と言ってから立ち上がると無言でリビングに戻って行った二人に説明は任せようと思い脱衣場で顔を洗っているとリビングが1度騒がしくなってからバタバタと足音は玄関に消えて行った
リビングに行けばソファで寝ているパーだけが残っていて、テーブルにあったおにぎりは綺麗に消えていた
戸棚から救急セットを取り出してから寝ているパーの顔を消毒していると、携帯に来ていた隆からのメッセージには『パーとお前は待機。鍵とチェーンかけておけ。リビングの窓だけ開けておいて』と入っていた
稀咲が何をしたいのかが全く分からない。最初からこうするつもりで東京卍會に入ったのかなと考えながら、パーの顔に傷テープ貼っていると庭に人影が見えて一瞬ドキリとした。眉を顰めた私を見て、小さく控えめに手を振るタケミチ君とちーに私も少しだけ微笑んでから立ち上がった
帰る前にジムの前に設置されている自販でミネラルウォーターを買って喉を潤しながら携帯を弄っていると、後ろから近付いてくる人の気配に直ぐに振り返る
そちらを向いた瞬間、目の前に棒が振り下ろされる有り得ない光景に思わず仰け反ってギリギリで避けた。「あぶな」と咄嗟に口から出た私の声は周囲の騒音で掻き消されると、目の前のぺーみたいな服を着た男は避けられた事が気に入らないのか1度舌打ちしてからまた右手の鉄パイプを振り上げ、少しだけ勝ち誇った様な笑みを浮かべた
「……あんた誰?」
「………………次は避けんなよ」
上から下に振り下ろされた鉄パイプを避けて右手に持っていたミネラルウォーターのペットボトルを至近距離で顔に思い切り投げ付ける。命中した瞬間に回し蹴りも一緒に顔に叩きつけてやると、ベシャっと潰れたペットボトルの音と共に男が白目を向いて地面に転がった。その様子を口を開けて見ていた工事現場のおじさんが何故か拍手をしてきて、非常に恥ずかしくなりそそくさとその場を後にしてしまった
急ぎ足で自宅に帰っていると、ふとおじさんが居なければあの男の財布の中身を見て身元を調べられたのになとちょっと思った。見た目から年齢は私よりも多分少し上で、高校生くらいの不良っぽい男だったが顔に全く心当たりは無かった
明らかに私を狙っていた事が分かったし、もしかしたらあの手紙に関係があるのかと考えていると路地を曲がった瞬間に足を止めざる得なくなった。「こんにちは 雪那ちゃん」と笑顔で左手を振る男の右手にはバットが握られていて他の3人は何も持っていなかったが構えが素人じゃないと直ぐに分かり彼等にニッコリと微笑んだ
「どちら様ですかね?」
「あいつは君にやられちゃったのかな?」
「…………」
これは必ず怪我するなと何だか悲しい確信があって、この間当分怪我はしたくないと言い喧嘩しないと隆とした約束を思い出した。全然守れないじゃんと思いながら久しぶりにやるなら本気でやってやろうと自身を奮い立たせ、先頭でニヤニヤしている阿呆面の男に鞄を投げ付けた
何発か顔に貰ってしまったけれど歯は折れなかったし、有段者相手なら仕方ないかと自分の腫れ上がった瞼と切れた唇を1度持ち歩いていた手鏡で確認してから小さく溜息を吐いた。地面に転がる4人の中の明らかにリーダー格だった奴の胸ポケットから財布を取り出すと原付の免許証が出てきたが学生証は見当たらなかった
免許証の写真を携帯で撮ってからそれを男のポケットに戻し、また急ぎ足で家に帰ろうと走っていると自宅の直ぐ近くで何人かの男達が話をしているのが見えて直ぐに脇に隠れた。腫れ上がった片方の瞼が見えにくくて男達の武器や人数が分からないので下手に動けずにいると、「遅せぇな 雪那」とその中の一人が言った声が隆の声である事がハッキリと分かったので緊張がとけて肩の力が抜けた
「……ただいまぁ。災難だらけだよ」
瞼を腫らし、血を流しながら脇道から出てきた私にそこに居た全員がこちらを向いた。「雪那」と名前を呼んで焦った様に走って来るのはやっぱり隆で、その後ろからこちらに走って来るのは私の腫れた顔を見てゲラゲラ笑うマンジロと一虎だった
「……誰にやられた?」
「有段者4人。名前は知らないけど免許証見たら17歳だった。あっちでまだ寝てるよ」
「……俺が行ってくるわ、マイキーと三ツ谷は雪那と家行ってろ。一虎と場地は俺と」
「ドラちゃんと圭介も居るの?目が痛くて全然見えないや」
「雪那 、こっち来い」
隆に手を引かれて歩き出すと、直ぐに隣から「あ」と言ったマンジロは何故か私を米俵みたいに担いで走り出し自宅の鍵をいつもの場所から取ると鍵を開けて私を中に入れた。「ちょ、えっ?隆は?」その問いかけに返事は無くて閉まってしまった玄関を少しだけ開けると何やら喧嘩している様な声が聞こえてくる
「……何か抗争みたいになって来たなぁ」
とりあえずマンジロが居るから大丈夫だろうし、誰かが逃げ込んで来た時の為に玄関の鍵は閉めずにキッチンに向かった。冷蔵庫から保冷剤を出して目に当てて暫くジッとしているとガチャっと玄関が開く音がしたのでマンジロか隆かなと思いリビングの開けっ放しのドアから玄関を見れば、そこに居たのはマスクをしてフードを被った男が私の事を目を細めて見ていた
「……お前……何で人の家に入って来てんの?」
「てめぇが雪那か?」
「……玄関上がったらブチのめすからな」
「……怖ぇ女だな」
テレビ台の横に置いてあるゴルフクラブの事を思い出して1度リビングに戻ってクラブを持ってから廊下に出ると既に男は私の靴の上に倒れていて、その横には肩で息をする隆がこちらを見て目をまん丸くしている
「……お前何でゴルフクラブ持ってんの?」
「……目が見えないから振り回そうと思って。隆大丈夫?」
「……ああ。数が多いけどマイキーがお前の事守れって言ってくれたから俺だけこっち来た」
「……私も行く」
「目は平気なのか?」
頷いた私に隆は少しだけ間を開けてから頷いた。駄目だって言われるのを覚悟して言ったのに、珍しく言われなかったなと私は平然な顔をしていたけど、内心は凄く驚いていた。
玄関を開けた隆に続いて外に出れば、薄らとマンジロが見えて周りに何人か地面で寝ている様な光景だった
私が帰って来た方角からドラちゃん達が走って来るのが見えたので安心していると、反対の方角から何人かまた黒いジャンパーを着た男達が走って来るのが見えた。「かなり数が多いな」と隣で面倒くさそうに言い放った隆の口調からして味方じゃ無いって事は分かったので直ぐにその男達にターゲットを絞ると一目散に走り出した
後ろから「おいおい待て待て」って隆の声が聞こえたけれど聞こえないフリをした。マンジロが迎えうつ気満々で仁王立ちしている前に出ると男達は私を見て目を細め立ち止まり何やら話をし出したので、振り上げたゴルフクラブをとりあえず肩に置いた
「この女じゃね?髪色も聞いた通りだし」
「写真で見たけどこんなにブスじゃ無かった筈だ」
そんな会話が聞こえて来て、その会話の内容に私が口を開けてポカンとしているといつの間にか隣にいた圭介が私の肩を叩き「ブスだってよ」と言ってから私の腫れた顔を見て吹き出した。「おい場地やめろよ」と言ったドラちゃんと目が合うと笑いを堪えながら下を向いたのが分かって頭に血が登って来るのが分かり、全部彼等のせいにすると決めて私をブスだと言った男の鼻っ面にゴルフクラブを振り下ろした
「……誰がブスだってぇ」
「………………」
「 雪那、もう意識ねぇから話かけんな」
途中からやり過ぎだとドラちゃんに羽交い締めにされてもキーキー怒り狂う私を見て圭介とマンジロは昔みたいにゲラゲラ笑いお腹を抱えていた。アドレナリンが切れたのか昔みたいに喧嘩がひと段落すると少しづつ痛んでくる右手を見れば赤くなっていて、手入れしていた爪も割れていた
「疲れたぁ、爪割れてるし」
「すげぇ面白かったな、雪那」
「面白くないわ」
「お前の顔が1番面白ぇよ」
「やかましいわ一虎」
「珍しく三ツ谷が止めなかったな」と笑っているマンジロに「ブスって言ったから止めなかった」と目を細めている隆を見て皆で笑っていると、遠くからぞろぞろとこちらに歩いてくる黒いジャンパーの集団を目を凝らして見つめた
「……あれ、何のチームなの?誰か分かる?」
私の問いに「朝からアレに追っかけ回されてる」と言ったドラちゃんに皆も頷いていた
「何だ私だけじゃ無かったんだ」
「……パーだけ連絡取れねぇんだよ。」
そう言って少し顔を顰めた隆に皆目を合わせた。内心皆がこの時に拐われているかもしれないと一瞬過ぎったのが分かって私達の間に緊張が走った。少しの沈黙の後に「……俺が全員やる。パーの事は皆に任せる」マンジロがそう言って袖を捲ると、顔付きがガラリと変わってこれはもう誰の言うことも聞かないなって分かったので皆もそれが分かるからか何も言わずに一度だけ頷いた
「私は目がダメになってるからマンジロとここに残る」
「……分かった。俺と雪那で全員やるから、ケンちん悪ぃけどパーを頼んだ」
「……ああ。」
ドラちゃんは余り乗り気では無いのか少しだけ間が空いてから返事をすると直ぐに「行くぞ」と言って走り出した。その後を続く様に一虎と圭介、隆も路地を曲がると直ぐに見えなくなった
「お前と二人で喧嘩すんのは久しぶりだな」
「またあれやる?」
「……いいぜ。恥ずかしくないならな」
「流石にアカレンジャーごっこは恥ずかしいからマンジロに任せるよ。おこぼれは私がやる」
おうと一言言ってから走って行く彼の背中を見つめていた。いつ見ても綺麗で軽やかな蹴り技だなと思いながらボンヤリしていると私に向かって来ようとしていた何人かは私の手にあるゴルフクラブを見て後ずさった。そんな所を後ろからマンジロに蹴られ地面に叩き落とされ、結局私が手を出さなくても1人で無傷でやつけてしまう彼は何だかかんだ凄いと思った
「終わったな」
「……一応パーに電話してみるね」
「ああ」
ポケットから携帯を取り出し通話ボタンを押したけれど、あの4人の誰かが掛けているのか繋がらない。道路に居てまた見つかっても面倒だなと思い、家に入ろうとマンジロに言えば1度だけ頷いた
玄関の鍵を掛けておくか迷ったけれど、マンジロがいるなら安心だし開けっぱなしのままリビングに入りソファにゴロリと横になった。私の後ろに居たマンジロも疲れたのか勝手に客用布団が入っている棚から敷布団と枕を出してその上に寝転がる
「……もしかしてマジ寝すんの?」
「ちょっとだけ寝る。朝から追っかけっこで疲れが取れねぇよ」
「2時間くらいしたら起こすからね」
「……ああ」
それから2分もしない内にスピーと子供みたいな寝息をかきながら眠ってしまったマンジロに毛布を掛けてから一応玄関の鍵を掛けて、隆にリビングの窓を開けておくとLINEを入れた。朝にいれておいた珈琲を温め直して啜っているとふと先程の男達が言っていた言葉を思い出した。
「……ターゲットの写真を送ってるのか」
最近写真何か撮られた覚えは無いけれど多分私達の写真を隠し撮りしてばら蒔いているのだろう。そういえば稀咲や半間は無事何だろうか……。ちーちゃんやタケミチ君や春千夜、そうちゃんやなほちゃんが少し気になったけど、まずターゲットにされそうなパーの身が今は1番心配だった
マグカップの珈琲を啜りながら携帯を眺めていたけれど、パーから折り返しも無いし隆から連絡も無い。手を伸ばしてマンジロの柔らかい毛並みをくるくると指で絡めて遊んでいると何だか眠くなって来てしまって、敷布団で寝るマンジロのお腹を枕にして目を瞑った
ザワザワと人の声が近くから聞こえてくる感じがして目を開けた。目の前に見えるネイビーのズボンは隆のスウェットだなと思い安心してまた目を瞑ると「スピピー」と頭上から聞こえてくるマンジロの寝息を聞いて、またゆっくりと目を開けた
「……隆……いつ帰って来たの?」
「起きたのか?30分前くらい。パーはぺーやんと居て無事だった」
「……そう」
良かったと思いながら起きて伸びをしている私の瞼は腫れが酷くなったのかかなり熱を持っていた。その顔を見てまたゲラゲラと笑う一虎と圭介に舌打ちをすると、「 雪那、それどした」と言って驚愕した顔をしたパーとぺーに「殴られた」と言えば2人は冷凍庫から保冷剤を持って来てくれて私の瞼に優しく置いてくれた
「雪那、さっき稀咲からドラケンに連絡が来た」
「ん?何て?」
「……待ち伏せされて鉄パイプで頭割られたらしい」
「……半間は無事なの?」
それは聞いてねぇと言った隆は私の腫れた唇を1度優しく撫でてから舌打ちする。私達の会話を聞いていたドラちゃんが「とりあえず全員揃ったからやり返しに行くか」と楽しそうに笑うと一虎と圭介は嬉しそうに待ってましたと言って立ち上がった
「……私は視界が狭すぎてちょっと力になれなそうだから今日はここにいるよ」
「……まぁ、仕方ないな」
「マイキーいい加減起きろや」
ドラちゃんがマンジロを揺さぶると、渋々起きたマンジロはボンヤリとしながら辺りを見渡してパーとぺーの顔を見ると少しだけ微笑んだ。「……おれは今日は と雪那居る。……いいか?」そう言ってマンジロとドラちゃんを見た隆に「分かった」と言って頷いた2人が立ち上がると皆気合いが入った様に準備運動をし始めてそれを見てクスクスと笑ってしまう。ふとポケットに振動を感じて携帯を見れば着信はお母さんからで私は体が急に硬直してしまい揺れる瞳で隆を見つめた
「……どうした?」
「…………お母さんから電話……。5年くらい……話してなくて」
「……出る?俺が出ようか?要件だけ聞く?」
顔が青くなった私を見つめる皆は事情を知っているからか無言で私を見つめている。隆が私の携帯を手に取り「……嫌なら俺が話すよ」と優しい声を掛けてくれて少しだけ微笑むと一虎が「 雪那、辛いなら切っちゃえよ」と怪訝な顔をした
「出てみる。何か用事かもしれないし……」
しつこく鳴るコールに、通話ボタンを押すと隣にいたマンジロがスピーカーボタンを押した事にギョッとした。もしもしと久しぶりに聞いたお母さんの声に答えるように、はいと返事をするとお母さんが言った言葉は私の想像を超えていた
「 雪那、今さっき河合さんが若い男の子達にリンチされて病院に運ばれたの」
それを聞いて時が止まった様に感じ、ふと手を見ると携帯を持つ手は震えていた。その手をさっと握ってくれたマンジロは「どこの病院ですか?」と私の携帯に向かって冷静に口を開く。「……貴方…… 雪那の彼氏?」そう嫌そうに言ったお母さんに「 雪那の彼氏は俺です」と言った隆は放心している私の背を撫で唇を噛み締めていた
「…流石あの人の子…随分男の子に囲まれているのね。〇病院だから。それだけ」
そのお母さんの言葉に「てめぇ」と低い声で怒鳴った一虎の口を塞いだ圭介は首を横に振ると直ぐに通話終了と出ている携帯を見て溜息をついた。「落ち着け、一虎。……三ツ谷がこんだけ我慢してんだ」そう言った圭介の言葉を聞いて、隆を見れば唇を噛み締める彼の口からは血が流れていて胸が締め付けられる感じがした
「………私さ……河合さんの事は病院に任せる。行っても治療は出来ないし、待ってるだけになるから」
そう言った私の肩を叩いて「ならぶっ飛ばしに行くか」と笑ったドラちゃんに私は深く頷いた。何故か余り接点が無い筈のパーが瞳を潤ませながら「河合さんには前にすき焼きを食べさせてもらった」と言いキレ初めると「女に手を出す奴はぶっ飛ばす」と言って全員が拳を鳴らし始めた
「……あれ?私女何だけど……。皆私の腫れた顔みて笑って無かった?」
「……さぁ行くか」
私が首を傾げながら言った言葉を無視して、全員がぞろぞろとリビングを出て行ってしまったのを見ながら私の隣で佇んでいる隆に視線を送る
「……まぁ、俺だけは女として見てるからさ……。行くか……」
「……あいつら……敵と間違えたフリして蹴り入れてやろうかな」
「ギリギリまで目冷やしとけよ、もし視界が悪くて空間把握が出来なかったら俺の後ろにいろ」
「……分かった」
「…………河合さん……きっと大丈夫だから」
「うん。」
頷いた私の頬に軽く口付けしてくれた隆に本当は抱き着いてそのまま泣きたかった。でも、今はそんな思いを胸にしまい玄関に向かって歩き出した
外に出れば、やはり何人か黒のジャンパーの男達が居てドラちゃんがその内の1人を背負い投げをして見える。一虎と圭介も交戦中の中、少し先の方でその様子を見ながら電話をしている黒いジャンパーの男が見えて「何か仲間呼んでない?あそこのポスターの横の奴」と指をさせば、隆がそちらに直ぐに走って行ったのでその様子を静かに見ていた
ふと、視線を感じてそちらを向くと背の高い白のジャンパーの男が一人でこちらに歩いてくる。目を凝らして良く見ればあのジャンパーは東京卍會の物で、背の高さ的にむーちょか?と思いながら見ていると、こちらに近づくにつれてニヤニヤとした笑みを浮かべる男が半間だと分かったのは直ぐ傍まで来てからだった
「…半間…ここで何してんの?」
「…冷たいなぁ。仲間じゃんか」
「…………まあ、そうだけど」
「どこ行っても囲まれて喧嘩売られるんだけど、何この状況。マイキー電話出ねぇし」
「……マンジロならあっちに居るよ」
「知ってる。さっき見たわ」
私の隣に腰を降ろしてきた半間は、どこ行っても囲まれてと言っていた割には擦り傷1つ無い。ジロジロと上から下まで見ている私に気付いた半間は私を見つめると口をゆっくり開く
「…… 雪那ちゃん、何か顔お岩さんみてぇだなぁ」
「…………やかましいわ」
「くくく、その顔稀咲に見せてやりてぇ」
「……そういえば、稀咲は大丈夫なの?」
「病院にいるから大丈夫だろ。それよりこの黒いジャンパーの頭誰?」
「……知らんよ。知ってたらとっくに連絡してるわよ」
「ふーん。まぁ、せっかくの抗争だから長く楽しみたいよな」
「私は嫌だけどね」
「お、また来た。ちょっくら行ってくるわ」
溜息をついた私にヒヒヒと不気味に笑った半間は立ち上がるといつの間にか現れていた集団に向かって走って行った。余り派手にやりすぎると少年院行きになってしまうから気をつけなきゃと思ったが、先程そんな事をすっかり忘れてゴルフクラブを振り回してしまった事を思い出してちょっと反省した
お嬢様、怪我はしないで下さいねと微笑んでくれた河合さんを思い出して拳を握り締めると出て来た涙を1度袖で拭いてから私も走り出した
思う存分暴れに暴れて、掴まれた服はボロボロ。目も見えずらかったので何発も貰ってしまって顔がボコボコになってしまった。そんな私の顔をアイスノンで冷やしながらヒーヒーと笑っている一虎の頬を睨みながら抓ると、楽しそうに「本当にウケんな」と言っきて殴りたくなった
珍しく口元から血を流すマンジロと私レベルでボコボコの顔のパー。足を挫いたと言って横になっている圭介と、マンジロを守っていた隆とドラちゃんもかなり傷だらけだった
「……あれ?半間は?」
「家に入る前に消えた」
「ふーん」
「……皆相当やられたな。頭潰さないと先にうちが潰されるんじゃね?」
「このままだとちょっと厳しいかもな」
珍しく弱気のドラちゃんと圭介に、何も言わない隆とペーとパー。いつの間にか寝ているマンジロを見て皆は1度溜息を吐くと無言で横になり目を瞑っていた
「……」
相当皆疲れているし、今は仕方無いかと思い敷布団と毛布を出して皆に配ると「お風呂入りたい人は適当に入って」と言ったが返事は無い。「ご飯食べる人」と口を開けば無言なのに寝ているマンジロ以外の全員が手を上げたので私は溜息を吐いてからキッチンに向かった
多めに炊いておいたご飯に冷蔵庫にあった具を入れておにぎりを作っていると、起き上がってこちらを見た隆は少しだけ微笑んでからこちらに向かってくる
「……寝てていいよ」
「ちょっと休んだから平気」
「助かる、ありがとうね」
二人でおにぎりを10個程作ってからテーブルに置くと、何だかどっと疲れが出たのか体が怠い。軽くシャワーを浴びてから着替えて自室でベットに入るとそのまま直ぐに意識は遠くなっていった
ピピピとシンプルな音の着信音で目が覚めた。自分の携帯が鳴っていると意識がハッキリしてきて、ポケットに入れっぱなしだった携帯を通話にすれば聞こえてきた声は九井だった
「久しぶりだねぇ」
「……九井か……。何か用?」
「随分追い回されてるみたいだから心配して電話したんだよね」
「……心配してくれたのはアンタじゃなくてワンコでしょ?」
「そうそう。ボスに話したらチームを巻き込まないなら手を貸しても良いって言われたからな。良かったら手貸すぜ」
「…………うーん。じゃあ頭探してくれない?」
「一応候補は上がってるけど、……聞きたい?」
「……どうゆう事?」
「多分東京卍會の稀咲って奴だと思う。」
「……はっ??稀咲は頭割られて病院にいるけど……。」
「……それそのまま信じてんの?」
「信じ……てた。一応」
「ふーん。稀咲って奴が雪那さんとドラケンの写真を送って細かい指示出してるのをうちのチーム奴が聞いてた。そいつは20万渡されて口止めされた」
「……口止めねぇ」
「50万で俺が口を割らせた。後でしっかりと請求させて貰うよ」
「…………ちゃっかりしてんなぁ」
「とりあえず稀咲って奴は病院には居ないし、なるべく強者の学生を金で集めてるらしいぜ」
「……分かった。とりあえず皆に話すわ。私一人じゃ対処出来ないし解決策も浮かばない」
「……無敵のマイキーと話し合ったらまたこの番号かいぬぴーの携帯に電話くれ」
「うん」
通話が終了になって顔をあげれば自室の扉は開きっぱなしだったのか、そこには額に血管が浮き出た隆とドラちゃんが壁に寄り掛かりこちらを見ていた。「……説明が面倒だから聞いててくれて助かったよ」と言ってから立ち上がると無言でリビングに戻って行った二人に説明は任せようと思い脱衣場で顔を洗っているとリビングが1度騒がしくなってからバタバタと足音は玄関に消えて行った
リビングに行けばソファで寝ているパーだけが残っていて、テーブルにあったおにぎりは綺麗に消えていた
戸棚から救急セットを取り出してから寝ているパーの顔を消毒していると、携帯に来ていた隆からのメッセージには『パーとお前は待機。鍵とチェーンかけておけ。リビングの窓だけ開けておいて』と入っていた
稀咲が何をしたいのかが全く分からない。最初からこうするつもりで東京卍會に入ったのかなと考えながら、パーの顔に傷テープ貼っていると庭に人影が見えて一瞬ドキリとした。眉を顰めた私を見て、小さく控えめに手を振るタケミチ君とちーに私も少しだけ微笑んでから立ち上がった
