歩くような速さで
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雪那ちゃんは久しぶりだなと言って無邪気に歯を見せて笑う白いジャージ姿の圭ちゃんに笑顔で久しぶりと返すと隆がちらっと辺りを見渡したので私もつられて周りを見渡した
「1人か?一虎待ってんの?」
「ああ。これから一虎と隣の中学の1個上の頭潰しに行くんだよ。三ツ谷も時間あるなら行こうぜ」
「……それマイキーとドラケン知ってんのかよ」
「個人的に行くなら言わなくて良いだろ?」
「まぁ、チームとして行くんじゃねーなら言わなくていいけどよ」
そんなやりとりを聞きながらまた怪我してくるんだろうかと考えていると、純正のマフラーでは出ない様な大きな音が辺り一帯に響き渡った。先程話に出ていたので一虎君かと思い振り返ると、黄色の派手な単車がこちらにゆっくりと向かって来るのが見えたが、何故か隆と圭ちゃんは眉を顰めて怖い顔になり直ぐにその単車に向かって走り出したので少し驚いてしまう
良く見るとその派手な単車には一虎君は乗っておらず、不良っぽい私と同じ歳くらいの男の子2人が2人乗りをしている。良く分からないけれど私もつい隆につられて走り出すと単車に乗って居た2人は圭ちゃんと隆を見て会話をしながら喜んでいる様に見えた
「……ん?仲間なのかな?」
単車は圭ちゃんの前で止まり、降りてきた2人は笑みを浮かべていた。道路の真ん中に堂々と停めた趣味が良いとは言えない単車にチラホラと居る通行人や参拝客が迷惑そうな顔をしながら避ける様に歩いている。圭ちゃんはそのまま走っていた勢いで彼等に掴みかかり「てめぇ、何で一虎の単車乗ってやがる」そう叫んだ
「本当に生意気だなぁ……場地圭介」
「……一虎どこに居るんだよ」
「言う訳ねぇだろ、ボケ」
「…ボケはてめぇだ。言わねぇとぶっ飛ばすぞ」
「場地、ちょっと落ち着け」
隆が圭ちゃんに落ち着けと征すると、ニヤニヤとしている2人組みは何故かこちらを見て来たので私は多分邪魔になるだろうと思い圭ちゃんがしゃがみこんで居た場所まで引き返すと、目立たない様にその場に座り4人の姿を遠くから見つめていた。多分直ぐ圭ちゃんが手を出すんだろうなと思っていると、前に出ていた方の男の子が圭ちゃんの顔を笑いながら殴るのが見えて驚き「わぁ」と小さな声を出してしまった
「……何で?」
殴られても蹴られても圭ちゃんも隆もやり返さずにずっと受け身を取るばかり。段々と見ていて居てもたってもいられず、そちらに走ろうとした瞬間だった。目の前が暗くなり酷い耳鳴りがして、ぼやっとそして段々とハッキリとその光景は目の前に映し出された。木の隙間から赤い光が漏れ、ゴミ袋や掃除道具が整理されて置いてある。落ち葉が沢山入ったゴミ袋の横には、縛られて猿轡をされ唸っている一虎君の姿があった。髪が伸びていて夏に会った一虎君とは別人に見えるけど確かに一虎君で間違い無かった
「……えっ?」
その光景は直ぐに消えてしまい、また少し遠くで今度は蹴りを入れられている隆と圭ちゃんを見ている視界に戻る。2人の表情はこちらからは見えないけれどあれ以上殴られるとヤバいんじゃないだろうか。
あの光景が本当なら、隆も圭ちゃんもやり返さず耐えている事に納得がいった。多分だけど反撃したら一虎がどうなるか分かるよなみたいな脅迫をされているのかもしれない。中学生の癖に怖い事をするもんだな何て考えながら先程の光景を思い出す
とりあえず木の小さな倉庫の様な物を探しながら神社の階段を早足で上がると、脇に木の小さな建物が目に入ったが、その建物の横に居るパンチパーマの怖そうな男の子はどう考えても彼等の仲間だった
「…あの男が見張ってるって事は…本当にあの映像通り一虎君があそこに居るって事だよね……」
不思議な映像が見えた事がいまだに謎だし少し怖いけれど、25歳から中1になった事よりは不思議では無いと自分を納得させた。それよりも今は一虎君を助けななきゃと思い、とりあえず見張りの様な人と目が合わない様に自然に振る舞いながら本殿に向かって歩き出した。本殿に着いてから直ぐに柵に沿って脇に入ると何か使えるものが無いか辺りを見回した。生憎見つかったのはボロっちぃ木の箒とちりとり、そしてバケツだったけれど直ぐにバケツと箒を手に取ると裏から周りゆっくりと足音を立てないように先程の男の裏に回った。足音よりも自分の心臓の音がうるさく感じてしまい箒を持つ震える手を握りしめると、パンチパーマの男の後ろ姿が見えて息を止めた
タバコを吸っているのか自身の吐いた煙を見ながら呑気に上を向いた男の頭に後ろからバケツを被せると、「うわっ」と驚いた声を出しバケツを取ろうとした男の頭を箒で思い切り殴り飛ばした。野球選手にでもなった様な爽快感と心臓が飛び出そうな程の緊張を感じていると、ドサリと落ち葉の上に倒れた男の横に1度自分も倒れてハアハアと肩で息をしてしまう
「早くしなきゃ……」
震える様な声で出た自身の言葉に立ち上がると、小さな木のドアを開け中を覗けばやはりそこに居たのは一虎君だった。こちらを向いた猿轡をした彼と目が合うと一虎君は大きく目を見開いた。「良かった」と呟いた私の目からポロポロと落ちる涙は彼が無事で良かったと、あの人を殴って怖かったの両方だったのかもしれない
猿轡を取ると「えっ? 雪那ちゃん?何でここに?」と大層不思議そうに聞いて来た一虎君の質問に答えてる余裕が今は無い。手の縄を外そうとしても取れずに泣きながら「取れない」とブツブツと独り言を言っていると「雪那ちゃん、俺の靴下の中に折りたたみのナイフがある」と言った一虎君に何だか頭に来てしまい彼の頬を叩いて「そんな物持ち歩いてたら駄目でしょ」と怒鳴ると緊張状態がプッツリ切れたのか涙がボロボロと溢れてきてしまう
「……ごめん、頼むからそんなに泣かないで」
「……危ない事しないでって約束したじゃない。……ナイフ何て持ち歩いたら危ないよ」
大人の癖に学生を箒で殴り飛ばし、いまだに震える手で縛られた縄も外せないし、混乱して泣いて一虎君を叩いてしまった。泣いている私を見てどうしていいか分からないって顔をしている一虎君に「ごめん」と謝ると何だか少し落ち着いてきて1度深呼吸をした
「……隆と圭ちゃんが……一虎君が捕まってるから手が出せないみたいで男の子達にリンチにされてて。……動揺しちゃってごめんなさい」
「場地と三ツ谷が?…… 雪那ちゃんお願い、嫌だと思うけどナイフ使って縄切って」
「……うん」
靴下に手をいれてから取り出したナイフで手の縄を切れば、一虎君は私からナイフを取ると直ぐに自分に巻かれた足の縄を切ってその場に立ち上がった
「案内して」
「うん」
その言葉に頷くと全速力で私は走り出した
階段を降りて隆と圭ちゃんの元に走れば、2人が見えたのか私を凄い勢いで追い抜いた一虎君は2人を殴る彼等に飛び蹴りをかましていて、その姿を見た隆と圭ちゃんは「一虎」と驚いた様に1度名前を呼んでから立ち上がり、怪我だらけの体で2人に殴りかかっていた
「……つ、疲れた。怖かった」
その場に座り込んだ私はもうあの3人を見ている元気も無くて、腰が抜けた様な感覚にそのまま呆然としていた。暫くしてからこちらに走って来たのは一虎君で呆然としている私の脇に手を入れてゆっくり立たせてくれる
「 雪那ちゃん、下コンクリだから足が痛くなる。あっちに座った方が良い」
「……ありがとう。もう終わったの?」
「うん。ありがとうはこちらの台詞だよ」
良かったと呟いて力が抜けた私を支えながら圭ちゃんの単車の横に降ろされる。一虎君の視線を追えば傷だらけの隆と圭ちゃんが黄色の単車を押しながらこちらに向かって来たのが見えた
「 雪那、大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。2人共血が出てるけど平気?」
「これくらい余裕」
「……三ツ谷、場地悪かったな。ちょっと油断してた」
「てか、何処に居たんだよ一虎」
3人係でリンチされ、縛られて倉庫に閉じ込められていた所を 雪那ちゃんに助けて貰ったと言った一虎君の言葉に隆と圭ちゃんは目を見開いて私を見た。「マジかよ、お手柄じゃん」と歯を見せて笑う圭ちゃんとは反対に隆は眉を寄せ私を見つめていた
「うん……。何か2人がやり返さないのおかしかったからさ。私も力にならなきゃと思って、武器探しに神社に行ったらパンチパーマの怖い人が倉庫を見張ってたからあからさまに変だなと思って」
「……お前、そのパンチパーマどしたの?」
「バケツ被せて叩いたら気絶しちゃった」
私が続けて怖かったと言うと3人は1度目を真ん丸くしてからゲラゲラと笑いお腹を抱えて笑い出した。「全然笑い事じゃないから」と言って白目を向いた私を見ていまだに笑いながら「かっけぇよマジで」と言う圭ちゃんに内心寿命が縮んだわと思いながら「ははは」と乾いたように笑った
「まぁ、でも本当に一虎君が中に居て安心したよ。殴って誰も居なかったら私逃げようと思ってたから」
「女の子なのに度胸あんなぁ 雪那ちゃんは」
「本当。マジで助かったよ、足の縄が全然外れなくて動けなかったから」
あの映像が見えなかったら神社に何か行かなかっただろうし、警察を呼ぶしか多分浮かばなかったと思う。皆が助かったから良かったけど本当に不思議だったなと思っていると、辺りは日が沈んで暗くなって来ている事に気付いた
「暗くなって来たし私そろそろ帰るね、3人はどうするの?」
「そうだな、今日はボコボコにやられたから帰るか」
「だな」
お礼に送って行くと言ってくれて一虎君の後ろに乗った私と圭ちゃんの後ろに乗った隆は家の近くのコンビニで下ろして貰った。単車に乗る事は風が爽快で楽しかったけれど、一虎君の単車が派手すぎるのとノーヘルな事が若干25歳には恥ずかしくてずっと彼に掴まって下を向いていた
圭ちゃんと一虎君に手を振ってお礼を言うと、2人は騒音を奏でながら暗くなった国道に消えて行った
「 雪那、おばさん待ってるんだろ?帰ろうぜ」
「うん。…でも…隆顔傷だらけ」
「これくらいなら平気だよ。血もそんな出てねぇし」
差し出された手を取り2人で家に向かって歩いていると「何で神社に行ったんだ?」とこちらを向かずに唐突に聞いてきた隆に鋭いなと若干関心してしまう
「……流石だね。びっくりした」
「お前が武器なんて探す訳ねぇじゃん」
「言い訳が私っぽく無かったね」
「……んで?何で一虎が拐われたのとあそこにいるの分かったんだ?」
「……感かな」
「……真面目に言ってんの?」
「うん。2人がやり返さないのがおかしいと思ってて。一虎どこやった?って圭ちゃんが言ってたし」
「……ああ、それは聞いてたんだな」
「場所はふと思い浮かんだから行ってみたら本当に居たの。でも、あの2人に思い浮かんだからって言えなくてさ」
「思い浮かんだだけでパンチパーマの奴殴るのはお前らしく無くね?」
「……確信があったから出来たんだと思う」
「真一郎君の時みたいにか?」
「……あれはまた違うよ」
そんな話をしていたらマンションの前に着いたので私は隆の胸に1度抱き着くと「送ってくれてありがとう」と言って乾いた血が滲む頬に優しく口付けた。何か言いたそうな隆はその言葉を飲み込んだのか何も言わずに私の唇に軽い口付けをしてから「じゃあな」と微笑み家の方角へと歩いて行った
その姿が見えなくなるのを確認してから私も自宅へと帰宅した
それから直ぐに冬休みは終わり、新学期がやってきた。学校で余り話をしなかった私達が新学期になってからは昼休みは必ず一緒にお弁当を食べ、隆の部活が無い時は一緒に帰るので周りの皆は付き合っていると直ぐに気付いたみたいだった。私としては彼に大事にされて、断るしか無い告白も無くなり嬉しい事だらけだったし、毎日が楽しくて幸せだった
「 雪那、三ツ谷と上手くやってるじゃん」
「そうゆう麗奈は飯田くんとどうなの?」
「……全然告白してくれないし若干諦めモードなんだよね」
麗奈の好きな飯田は小学校から麗奈と仲が良いけれど友人の期間が長かったのか中々関係が進展しない事が悩みらしく「 雪那みたいにモテればな」と良く言われるけれど、女の子は自分の顔に合ったメイクをして髪色と髪型を変えれば皆シンデレラになれるのだと私は前回の人生の中2の時に確信していた。25歳から記憶ありで戻って来たら誰でもモテるわとは言えないのでその辺はいつも通りに黙っておく事にする
「三ツ谷の友達でカッコイイ人居たら紹介してよ」
「……イケメンは1人居るけど……ちょっと危ないからな。ドラちゃんがおすすめだけどエマちゃんが居るし……。圭介君かマイキー君は……女の子に興味あるのかなぁ」
「えぇ、危ないイケメンが良い」
「……麗奈は本当に怖い物知らずだよねぇ」
「マイキー君は外人ぽいから圭介君で良いよ」
「マイキー君は日本人だけどね。私はあんまり2人の事知らないからとりあえず隆に聞いてみるよ」
「よろしく、凄い期待してるわ。…あ、そういえばさ。冬休みの前に雪那毎日放課後直帰してたじゃん」
「ああ、マフラー作ってた時かな?」
「あの時にさ1組の吉井に白石さんて塾通ってんの?って聞かれたんだよね」
「……吉井って、吉井高嗣?」
「何だ知り合いなんだ、私話した事無いのに廊下でいきなり話しかけられたからさ」
「私も小学校の時に同じクラスだっただけだよ。……特に仲良くは無いかな」
「ふーん。じゃあ雪那に聞けば良いのにね。何か吉井って奴夏休み明けてから凄い不良みたいになっててさ」
「えぇ??凄い頭良くて暗くてアニメ好きだった気がする。優しい子だったよ……不良になったんだ」
ふと思い出すのはラノベ集めをしていた彼が小学校でからかわれてた事だった。不良とは縁の無い様な可愛らしい子だった気がして若干聞いた今も信じられなかった。「……何か吉井って気持ち悪いんだよね」と呟いた麗奈に「そうかな?」と返すとその話題はそこで終わってしまった
それから7日が過ぎた放課後。昇降口で靴を履き替えていると急に肩をたたかれて驚いて振り返ると、リーゼント姿の吉井が立っていて私は目を丸くした
「……吉井君、だよね?」
「うん、久しぶりだね。話すの」
柔らかい物言いは変わって無いし、微笑んだ顔に面影がある。可愛らしい顔に全く似合って居ないリーゼントに違和感を感じながら一応微笑んで頷くと「ちょっと聞きたい事あるんだ」と言われて「ん?」と首を傾げた
「良かったら途中まで一緒に帰っていい?」
「……いいよ。吉井君の家って確かスーパーの近くだったよね?」
「へぇ、覚えてるんだ」
「まぁ、何となくだけどね」
二人で靴を履き替え、そんな話をしながら校門を出た
久しぶりに話す吉井君はやっぱり話をしても変わって居なくて「小学校の時にからかわれてたけどいまだに俺ラノベオタク」と笑顔で言っていた
「そういえば聞きたい事って何?麗奈に聞いたけど私か塾通ってるか聞いてきたって言ってたから、もしかして勉強の事?」
「勉強の事じゃないよ、毎日忙しそうだったから塾にでも通いだしたのかなって」
「ああ、違う違う。あれはマフラー作りに励んでたから直帰してただけだよ」
「ふーん。三ツ谷にプレゼント?」
「そうそう。聞きたい事って塾の事かと思ってた」
「あれはね、もし塾に通い出したのなら何処の塾に行ってるのか鴨志田さんに聞きたかったんだ」
「……ん?何処の塾?何で?」
「帰り道に待ち伏せしようと思ってたからさ」
ふふっと微笑んだ吉井の言葉に私が少しだけ後ずさると、右手を取られて横にあったラーメン屋の路地に凄い力で引きずられる。思わず叫ぼうとするとお腹の辺りに鋭い痛みが走り目を向ければ、小さなナイフが1cmくらいだけどお腹を突き刺している様に見えて全身から血の気が引いた
「…………何なの」
「……刺さってるのは2ミリくらいだから大丈夫だよ。安心してね」
「あんた頭……大丈夫?」
「うん。とりあえず話がしたいから叫ばないでね」
「叫んだら?」
「申し訳無いけど三ツ谷を殺す」
その言葉とその目に私は息を飲んだ。圭ちゃんや一虎君が言うような殺すじゃなくて、吉井は本気で言っているって何となく分かってしまった。狂気を感じて震える手を握ると「話は聞くし叫ばない」と冷や汗をかきながら静かに口を開いた私に彼はニコリと微笑んだ
「……何がしたいの?」
「 白石にお願いがあるんだよね。お願いじゃなくて脅迫になるんだけどさ」
「……断ったら隆に何かするって事?」
「そう。だから断らないでね」
「内容は?」
「明日の昼休みに体育館の裏に三ツ谷を呼び出して俺と付き合ったから別れるって言って欲しい。」
「……は?」
「簡単だろ?」
「……そんな事して何の意味があるの?」
「……小学校の頃に三ツ谷は1番俺の好きで堪らない人を傷付けた」
「…………」
「今回も俺の大事な場所を奪って、俺の大事な人を傷付けた。絶対に許さねぇ」
「……」
狂気が見える瞳の彼に話をするのは無駄だし危険かと思ったけれど、隆が人に悪意を向けたり傷付ける想像が付かなくて詳しく理由が聞きたくなってしまう
「……吉井さ、せめて理由をちゃんと教えて」
「………」
呟く様な小さな声で話始めた吉井は、小学校の頃から大好きだった幼なじみの話をしてくれた。私の記憶にもある高岡さんは隆の事が好きで小学校5年の時に告白して振られてそのまま転校したらしい。転校したのは知っていたけれど、隆に告白したのは知らなかった
振られた高岡さんの落ち込みは酷くて毎日毎日泣いていたと言った吉井に頷くしか無かった
「……三ツ谷は悪い奴じゃないし、美咲の事も三ツ谷が好きじゃないなら仕方ない」
「……分かってるんじゃん、吉井」
「でも……。俺を可愛がってくれてる先輩が三ツ谷に病院送りにされた。チームも潰された……今回は絶対許さねぇ」
「…病院送りって…それ、いつの話?」
「4日前くらい。入院したから聞いたのは次の日だけど」
「……そうなんだ……」
知らなかったと言ってから、ふと過ぎった圭ちゃんの言葉を思い出した「1個上のチームの頭潰しに行く。三ツ谷も行こうぜ」確かに神社の前でそんな話をしていたのを思い出した。吉井がそこのチームだったのかと話が繋がって来て、どうして止めなかったんだ自分はと今更悲しくなって来る。普通の不良よりも元々こうゆう真面目な人の方が思い詰めると怖いのかもと吉井を見ていて思った
「吉井は……隆に高岡さんと先輩みたいになって欲しいって事?」
「その通りだよ。見てれば三ツ谷がどれだけお前が大事か分かった。振られてボロボロになって毎日美咲みたいに泣いて、その後俺にボコボコにされて先輩みたいになればいい。自業自得だろ?」
「…………何か……」
「……分かってるよ、ダサいのも下らないのも承知だし。白石は関係無いのに迷惑かけてるのも分かってる。」
「……理由は分かったよ。吉井が本気なのも分かった」
「…………」
「隆の事、殺さないって約束して。先輩だって死んで無いんだから殺さないで」
「…それは…分かった」
ずっと無表情で淡々と話をしている吉井が少し気持ち悪くて、麗奈の「あいつ何か気持ち悪いんだよね」って言葉を思い出した。それから、無理矢理LINEを登録され帰って良いと言われたので早足で自宅に帰り宿題もする気にもならに部屋で呆然としていた。ふと新着メッセージと通知された携帯を開くと「指示に従わなかったら三ツ谷を殺す」と恐ろしいメッセージが来ていてその画面に溜息を吐いた。
隆に1番に相談しなきゃいけないって分かっているけれど、今迄生きてきてあんなに本気で人を殺すって目は見た事が無くて下手な行動が取れないと思った。あの目を見た瞬間に吉井の指示に背いたら本当に隆が危ないと本気で確信してしまった
棺桶の中の血の気の無い隆の顔を思い出して相当トラウマになっているなと思いながら携帯を見たく無くてベッドの上に放り投げた。部屋着に着替えようと、制服を脱いで少しだけ痛むお腹を見ればセーターとワイシャツには綺麗に縦に切れ目が入っていて、臍の横から血が出ていた。彼が言っていた通りの1、2ミリの傷な事に恐ろしくなって、ふと頭に浮かんだドラちゃんに相談したくなる。が、吉井の怒りをかってもし隆が死んで私が過去に戻れなくなったら1番悲しい未来が待っていると考えると何も行動出来ない自分がいた
結局夕飯も食べる気がしなくてそのままベッドに入ったけれど全然寝れず、眠い目を擦りながら学校に行って保健室で仮眠を取ると直ぐに昼休みになってしまっていた。LINEを見れば体育館裏に来て三ツ谷に別れを告げろと入っていて気が重くなり逃げ出したくなった
隆に体育館裏に来てとLINEを送ってから一人で体育館裏に行くと吉井の姿は無くて隆もまだ来ていない。一人で石段に座り膝を抱えていると、足音がしてそちらを見ればお弁当を持った隆が微笑みながらこちらに向かって歩いて来ていた
「 雪那、弁当持ってねぇじゃん」
私の横に座ってから直ぐにおにぎりに齧り付いた隆は自分の手提げからもう1つおにぎりを取り出して私に渡してくれる。渡されたおにぎりを見れば不格好な隆の手作りで何だか泣きたくなった
「……隆」
「ん?食わねぇの?……てかお前顔色悪くね?」
貰ったおにぎりを両手で包みながら隆の瞳を虚ろな目で見つめた。これから私の心無い言葉に彼がどれだけ傷付くのだろうと思うと自分の心が痛い
「大丈夫か?寝不足?」と少しだけ心配そうな顔をした隆は優しく指で私の頬を撫でてくれる。その顔を見ていると、今すぐにでも吉井のLINEを隆に見せてやりたい何て考えが過ぎったけれど危ない橋を渡りたくないと思い直ぐにその考えは消えて唇を1度噛み締めた
「……あのさ、私……他に好きな人が出来たんだ」
「……はっ?」
「だから……隆とは別れたい」
「…………お前、何言ってんの?」
彼の顔が見れなくて下を向いた私に、おにぎりを咀嚼していた隆は暫く間を開けてから「他に好きな人が出来た?」と普段出さない様な低い声を出した。その声に涙が出て来て溢れない様に我慢していると「待った?」と明るい声が聞こえて私達が顔を上げれば優しく微笑む吉井が何だか悪魔みたいに見えた
「…… 白石、ちゃんと三ツ谷に言った?」
「……うん」
「じゃあ、悪いけど三ツ谷そうゆう事だから。」
「……お前、いきなり来てなんなの?」
「振られたんだからどっか行けよ三ツ谷」
「…てめぇ…ふざけてんじゃねぇぞ」
舌打ちをしながら立ち上がった隆を見てハッとした。多分吉井は昨日のナイフを持っている筈だし、もしかしたら何かの流れで隆が刺されるかもと思い吉井と隆の間に体を滑り込ませた。私の行動に驚いた顔をした隆は直ぐに私の腕を掴みそのまま自分の後ろに隠す様にして吉井の前に出た
「……お前、俺に喧嘩売ってんの?」
「…… 雪那は俺が好きなんだよ。三ツ谷」
「つーか、お前吉井だっけ?てめぇ何か雪那が好きになる訳ねぇだろ」
「……はっ?何だと……」
「人の女呼び捨てにしやがって。お前何なの?雪那は何でこんな奴の言う事聞いてんだよ。俺は絶対別れねぇからな」
「……隆お願い。危ないから下がって……。この人本当に危険だから……」
「…へぇ…三ツ谷の事庇うんだ」
「…………」
「……ふーん。やっぱりそうゆう事か。鴨志田さんの言ってた通りだな」
「……えっ?」
「 雪那、向こうむいてろ」
そう言われて何だか嫌な予感がしたので素直に目を瞑ると、ゴホッっと噎せるような声と鈍い音が何回かした後ドサッと重い物が落ちた音がして目を開けた。そこには地面に倒れている吉井と、吉井が昨日持っていたナイフを片手に持っている隆がいた。その光景に緊張の糸が切れ、思わず隆の腕に抱き着くと顔を覗き込んで来た隆は申し訳無さそうに私を見ていた
「……お前、もしかしてコイツに怪我させられた?」
「お腹を……ちょっとそれで切られたくらい」
「…こいつ……この野郎」
「……もういいの、殴らないで。……お願い」
「…………わかったよ」
分かったと言った隆の返事に安堵していると、頭を抱かれて「ごめんな」と言って来た隆に申し訳無くて堪らなくなった
「ごめん……私……本当にごめんね」
「……謝るのは俺の方だ。鴨志田さんが朝からお前の様子が変だし、昨日放課後に吉井と一緒に帰ってたって聞いて何か嫌な予感してさ」
「……うん」
「この間喧嘩になった奴の知り合いなんだろ、吉井」
「……何で知ってるの?」
「鴨志田さんがわざわざ2限目の終わりに言いに来た。あの人の情報力舐めてたわ。本当に助かった」
「……そっか、麗奈がわざわざ」
「こいつ、俺の事恨んでんの?」
「……本当に隆の事殺すって言ってて目が本気だったから」
「……こいつの先輩と喧嘩してて当たり所悪くて救急車で運ばれたんだよ」
「……そうだったんだ、隆が骨でも折ったのかと思った」
「俺はそこまでやらねぇよ。知ってんだろ?」
うんと返事をしてからしゃがみこんで吉井の顔を見た。気絶している顔は子供みたいでやっぱりリーゼントは似合って無いし、やる事言う事本当の馬鹿だけど何だか憎めなかった。「 隆、どうするの?吉井」私が顔を上げると「締める」と一言言った隆は地面で寝ている吉井の事を米俵みたいに抱えた
「……お前は授業行け。今からパーとぺーやん来るから」
「……2人来るなら安心かな。……わかったよ」
フッと微笑んだ隆に頷くと私は教室に戻った。チャイムが鳴って授業が始まると段々と昨日の夜から心配で怖くて何も食べて居なかったからか気持ちが悪くなって来て、目の前がゆっくりと霞んできた。「……先生」とその場で手を上げて保健室に行かなきゃと思った瞬間にグラっと自分の体が揺れて意識を失った
何だか温かくて心地よくて目が覚めると、胸上まで掛けられた布団が温かくてもう1度目を瞑ろうとすると「起きたか?」と声がして目を見開いた。「えと、……パー君」その私の言葉に吹き出した彼は「君いらねぇよ」と言ってニッと笑うとベッド横の背もたれの無い椅子にゆっくりと腰を下ろした
「大変だったな雪那ちゃん。三ツ谷今来るから」
「……吉井は?大丈夫?」
「今日マイキーに話してうちのチームに入る予定。三ツ谷とガチ切れ喧嘩して和解したから大丈夫」
「……そんな展開なのね。でも良かった」
「……いいっちゃいいけど、三ツ谷が雪那ちゃんに手を出したのが許せなくて若干やり過ぎて吉井怪我だらけだからどうなんだろ」
「……パーちゃん止めてよぉ」
「……ちょっと無理だった。スマン」
「隆はどこに居るの?」
「職員室に居ると思う。喧嘩が先生達に見つかって吉井のナイフも没収されたから」
「……そう」
「今回の事は吉井は汚ねぇ手使ったから仕方ねぇよ。三ツ谷があんなキレたの始めて見たし」
「……私もまさか別れろって言えって命令されるとは思わなかったよ」
「……マジで?それは初耳だわ。雪那ちゃんに怪我させたまでしか聞いてねぇ」
「……まぁ、もう良いんだけどさ。それよりお腹が空きすぎて痛い」
その私の台詞を聞いたパーちゃんは「ちょっと待ってろ」と言ってからカーテンの向こうに消えていった。何分か経ってから戻って来たパーちゃんの手には温かいお茶とおにぎりが握られていて、それを見た瞬間にお腹が小さく鳴り少し恥ずかしくなる
「……美味しそう。パーちゃん本当に嬉しい」
「ちゃんと食わないと駄目だぞ」
「はい、頂きます」
お茶で喉を潤しながらおにぎりを口に入れていると、ひょっこりカーテンからこちらを覗いていたのは麗奈だった。目が合うと「雪那の鞄持ってきたよ」と言って鞄を掲げながらこちらに来てパーちゃんの横に座った
「麗奈、本当に今回は助かりました」
「…… 雪那、そんな事今は良いから。それよりも体調どうなの?林田が付き添ってるの珍しくない?三ツ谷は?」
「三ツ谷は吉井と職員室」
「……ふーん。後で詳しく教えてね」
「うん。あ、そういえばパーちゃん」
「ん?」
「圭介君て彼女いる?」
「……聞いた事ねぇけど。何で?」
「麗奈に紹介したいんだけど、一虎君と圭介君とマイキー君て誰か彼女欲しい人いる?」
「うーん。マイキーは女に興味無いんじゃね?」
「そっか。でも私もそう思った。」
「でも三ツ谷も女の子に興味無かったけど、雪那ちゃんと付き合ったんだから鴨志田が本気になればおとせるんじゃね?」
「えぇ。やっぱり顔見て決めたいから林田、3人の写真見せて」
「仕方ねーなー」
麗奈とパーちゃんがそんなやりとりをしていると、カーテンが開きそこには隆と包帯だらけの吉井が立っていた。開口1番に「すみませんでした」と言って頭を90度下げた吉井に何だか微笑んでしまい、いまだに頭を下げている吉井に声を掛ける
「もう、いいよ。隆に謝ってくれたなら良いから」
「……三ツ谷には謝らないけど、白石には本当に悪い事したからさ」
「……何だとコラ」
「これ本当に和解……してんの?」
「一応ね。……トーマンに入る予定だし、もう汚い事はしないよ」
「なら良かったよ」
「…… 雪那、飯食ってねぇの?」
「今パーちゃんが買ってきてくれたから大丈夫だよ。隆悪いんだけど送ってくれないかな?歩くのちょっとしんどいから支えて欲しい」
「ああ。分かった」
起き上がって上履きを履いた私の腕を支えてくれた隆に麗奈が「これ雪那の鞄」と言って隆の肩に掛けてくれる。心配してくれた皆にお礼を言って、隆に支えて貰いながらこの日は直ぐにそのまま帰宅した。
自宅に帰って来ると直ぐにソファに下ろされて休んでろと頭を撫でられる。隆は直ぐにキッチンに向かい「消化に良いものあっかな」と独り言を言いながら冷蔵庫の中を見つめていた
「隆、さっき食べたから大丈夫だよ」
「おにぎり1個だろ?」
「ずっと食べて無かったから1個で十分。それより今は傍に居て欲しいな」
「後でうどん作るから食えよ」
「うん」
こちらに向かって来る隆にふふっと少し微笑むと私の隣に腰を下ろした隆の膝に座り首に手を回した。その手に応えるように私の背中に手を回して来た隆の耳元で「本当にごめんなさい」と呟いて彼の首元に顔を置いた
「……お前が謝る事じゃねぇよ」
「直ぐに相談しようと思ってたんだけど……。余りにも吉井が殺すって言ってた目が本気に見えて怖くて相談出来なかったんだよね」
「……怖ぇ思いさせてごめんな」
「ううん。……こっちも心にも無い言葉言って傷付けてごめんね。……あの時別れないって言ってくれてありがとう」
「……お前は俺だけって信じてるからさ。……あ、でも今回は鴨志田さんから色々聞いてたからな……」
「隆なら麗奈から聞いてなくても私の顔色見て気付いてくれるよ」
「……でもよ、何でお前の事使ったんだろうな。普通に俺ん所来て喧嘩すれば良い話だろ」
「あれ?聞いてないの?」
「何を?」
「……私を使ったのは高岡さんの事があったからだよ」
「……高岡って小学校の時の?」
「……うん。吉井の昔から大好きな人だってさ」
「…………ああ。そうゆう事か」
何だか納得した様な顔で1度頷いた隆は、「でも何か男らしくねぇよな、アイツ」と言って苦笑いをした。そんな隆に私も1度頷くと、今回の事でちょっと気になっていた事を伝えてみる事にした
「……後、助けて貰った私がさ、言える事じゃないかもしれないけど……」
「……ん?何だよ」
「隆はちょっとやり過ぎ。吉井の顔本当に酷かった」
「……今回は本気で許せなかった。お前に刃物向けたからな」
「…………」
「ごめんな」
困った様に微笑んだ隆に何も言えなくなった。私の為に怒ってくれたのかもしれないけど、怪我だらけの吉井の顔を見て何だか複雑な気持ちになったのは確かだったから
「……パーちゃんみたいに、吉井は汚い手を使ったからあそこまでやられても仕方ないって割り切るのは難しいよ」
「………」
「……私の為に怒ってくれたんだしグチグチ言ってごめん」
「……お前からすると、どんな理由があろうと人が怪我すんの見たくないって言いたいんだろ?」
「うん」
「お前には分からなくて当然だけど、俺らの中で喧嘩や怪我はまぁ普通な感じだから。……骨折ったり単車で轢いたりは流石にしねぇけど」
「……話し合いしか出てこない私からすると不思議だわ」
「お前はそれでいいんだよ。女の子なんだから」
頷いた私の唇に長めの口付けをしてくれた隆は唇を離すと「そういえばまだ体調悪ぃ?」と心配そうな顔をしながら私をゆっくりとソファに倒して学ランのブレザーを脱いだ。そんな彼を見ながら少しドキドキしていると、暖房が効いてきたのか確かに部屋はかなり暖かくて私も1度起きてブレザーを脱いでからソファにまた横になる。今日の下着は可愛いの履いてたから大丈夫かなとか色々考えていると急に立ち上がった隆に私は目を丸くした
「うどん作ってくるわ。卵いれる?」
「えっ?!このタイミングで??」
「……はぁ?このタイミングって何だよ」
意味が分からんみたいな顔をした隆に、自分の方がいやらしい事を考えていたみたいで恥ずかしくなって来て首をブンブンと横に振った
「……?」
「……な、何でもないよ」
「言わないとくすぐるぞ」
「…………えと、恥ずかしいから言えない」
「ぷっ、何?何か恥ずかしい事あった?」
「……いや、ソファに倒されたから……もっと色々するのかなと思ってたらうどん作るって言うから何か一人で恥ずかしくなっただけ」
そう自分で口に出したら笑えてきてしまい、一人で吹き出した私を見て隆はゲラゲラとお腹を抱えて笑いだした。二人でケラケラ笑っていると、ふと隆の顔が意地悪にニヤッと笑ったので何だか嫌な予感がして目を細めた
「体調大丈夫そうだな」
「……ん?う、うん」
「体冷えてると良くねぇから風呂入る?」
「…………今暖かいけど」
「色々されたいんだろ。お望みなら叶えるぜ」
「………別にもう大丈夫だよ。ただするのかなとか考えてた自分に恥ずかしかっただけだから」
「大丈夫って何だよ」
「お風呂コースじゃなくてうどんコースで大丈夫って事」
それを聞いた隆はつまんねぇ。みたいな顔を1度してから「じゃあ、うどんコースの後で風呂コースにする?」と提案して来たので「それでいいです」と笑いながら頷いた
「今日の下着可愛いんだ」
そう言ってニシシと笑った私に、隆は急に真顔になると「やっぱりうどんは後にする」と言って私をぎゅっと抱き締めた
「1人か?一虎待ってんの?」
「ああ。これから一虎と隣の中学の1個上の頭潰しに行くんだよ。三ツ谷も時間あるなら行こうぜ」
「……それマイキーとドラケン知ってんのかよ」
「個人的に行くなら言わなくて良いだろ?」
「まぁ、チームとして行くんじゃねーなら言わなくていいけどよ」
そんなやりとりを聞きながらまた怪我してくるんだろうかと考えていると、純正のマフラーでは出ない様な大きな音が辺り一帯に響き渡った。先程話に出ていたので一虎君かと思い振り返ると、黄色の派手な単車がこちらにゆっくりと向かって来るのが見えたが、何故か隆と圭ちゃんは眉を顰めて怖い顔になり直ぐにその単車に向かって走り出したので少し驚いてしまう
良く見るとその派手な単車には一虎君は乗っておらず、不良っぽい私と同じ歳くらいの男の子2人が2人乗りをしている。良く分からないけれど私もつい隆につられて走り出すと単車に乗って居た2人は圭ちゃんと隆を見て会話をしながら喜んでいる様に見えた
「……ん?仲間なのかな?」
単車は圭ちゃんの前で止まり、降りてきた2人は笑みを浮かべていた。道路の真ん中に堂々と停めた趣味が良いとは言えない単車にチラホラと居る通行人や参拝客が迷惑そうな顔をしながら避ける様に歩いている。圭ちゃんはそのまま走っていた勢いで彼等に掴みかかり「てめぇ、何で一虎の単車乗ってやがる」そう叫んだ
「本当に生意気だなぁ……場地圭介」
「……一虎どこに居るんだよ」
「言う訳ねぇだろ、ボケ」
「…ボケはてめぇだ。言わねぇとぶっ飛ばすぞ」
「場地、ちょっと落ち着け」
隆が圭ちゃんに落ち着けと征すると、ニヤニヤとしている2人組みは何故かこちらを見て来たので私は多分邪魔になるだろうと思い圭ちゃんがしゃがみこんで居た場所まで引き返すと、目立たない様にその場に座り4人の姿を遠くから見つめていた。多分直ぐ圭ちゃんが手を出すんだろうなと思っていると、前に出ていた方の男の子が圭ちゃんの顔を笑いながら殴るのが見えて驚き「わぁ」と小さな声を出してしまった
「……何で?」
殴られても蹴られても圭ちゃんも隆もやり返さずにずっと受け身を取るばかり。段々と見ていて居てもたってもいられず、そちらに走ろうとした瞬間だった。目の前が暗くなり酷い耳鳴りがして、ぼやっとそして段々とハッキリとその光景は目の前に映し出された。木の隙間から赤い光が漏れ、ゴミ袋や掃除道具が整理されて置いてある。落ち葉が沢山入ったゴミ袋の横には、縛られて猿轡をされ唸っている一虎君の姿があった。髪が伸びていて夏に会った一虎君とは別人に見えるけど確かに一虎君で間違い無かった
「……えっ?」
その光景は直ぐに消えてしまい、また少し遠くで今度は蹴りを入れられている隆と圭ちゃんを見ている視界に戻る。2人の表情はこちらからは見えないけれどあれ以上殴られるとヤバいんじゃないだろうか。
あの光景が本当なら、隆も圭ちゃんもやり返さず耐えている事に納得がいった。多分だけど反撃したら一虎がどうなるか分かるよなみたいな脅迫をされているのかもしれない。中学生の癖に怖い事をするもんだな何て考えながら先程の光景を思い出す
とりあえず木の小さな倉庫の様な物を探しながら神社の階段を早足で上がると、脇に木の小さな建物が目に入ったが、その建物の横に居るパンチパーマの怖そうな男の子はどう考えても彼等の仲間だった
「…あの男が見張ってるって事は…本当にあの映像通り一虎君があそこに居るって事だよね……」
不思議な映像が見えた事がいまだに謎だし少し怖いけれど、25歳から中1になった事よりは不思議では無いと自分を納得させた。それよりも今は一虎君を助けななきゃと思い、とりあえず見張りの様な人と目が合わない様に自然に振る舞いながら本殿に向かって歩き出した。本殿に着いてから直ぐに柵に沿って脇に入ると何か使えるものが無いか辺りを見回した。生憎見つかったのはボロっちぃ木の箒とちりとり、そしてバケツだったけれど直ぐにバケツと箒を手に取ると裏から周りゆっくりと足音を立てないように先程の男の裏に回った。足音よりも自分の心臓の音がうるさく感じてしまい箒を持つ震える手を握りしめると、パンチパーマの男の後ろ姿が見えて息を止めた
タバコを吸っているのか自身の吐いた煙を見ながら呑気に上を向いた男の頭に後ろからバケツを被せると、「うわっ」と驚いた声を出しバケツを取ろうとした男の頭を箒で思い切り殴り飛ばした。野球選手にでもなった様な爽快感と心臓が飛び出そうな程の緊張を感じていると、ドサリと落ち葉の上に倒れた男の横に1度自分も倒れてハアハアと肩で息をしてしまう
「早くしなきゃ……」
震える様な声で出た自身の言葉に立ち上がると、小さな木のドアを開け中を覗けばやはりそこに居たのは一虎君だった。こちらを向いた猿轡をした彼と目が合うと一虎君は大きく目を見開いた。「良かった」と呟いた私の目からポロポロと落ちる涙は彼が無事で良かったと、あの人を殴って怖かったの両方だったのかもしれない
猿轡を取ると「えっ? 雪那ちゃん?何でここに?」と大層不思議そうに聞いて来た一虎君の質問に答えてる余裕が今は無い。手の縄を外そうとしても取れずに泣きながら「取れない」とブツブツと独り言を言っていると「雪那ちゃん、俺の靴下の中に折りたたみのナイフがある」と言った一虎君に何だか頭に来てしまい彼の頬を叩いて「そんな物持ち歩いてたら駄目でしょ」と怒鳴ると緊張状態がプッツリ切れたのか涙がボロボロと溢れてきてしまう
「……ごめん、頼むからそんなに泣かないで」
「……危ない事しないでって約束したじゃない。……ナイフ何て持ち歩いたら危ないよ」
大人の癖に学生を箒で殴り飛ばし、いまだに震える手で縛られた縄も外せないし、混乱して泣いて一虎君を叩いてしまった。泣いている私を見てどうしていいか分からないって顔をしている一虎君に「ごめん」と謝ると何だか少し落ち着いてきて1度深呼吸をした
「……隆と圭ちゃんが……一虎君が捕まってるから手が出せないみたいで男の子達にリンチにされてて。……動揺しちゃってごめんなさい」
「場地と三ツ谷が?…… 雪那ちゃんお願い、嫌だと思うけどナイフ使って縄切って」
「……うん」
靴下に手をいれてから取り出したナイフで手の縄を切れば、一虎君は私からナイフを取ると直ぐに自分に巻かれた足の縄を切ってその場に立ち上がった
「案内して」
「うん」
その言葉に頷くと全速力で私は走り出した
階段を降りて隆と圭ちゃんの元に走れば、2人が見えたのか私を凄い勢いで追い抜いた一虎君は2人を殴る彼等に飛び蹴りをかましていて、その姿を見た隆と圭ちゃんは「一虎」と驚いた様に1度名前を呼んでから立ち上がり、怪我だらけの体で2人に殴りかかっていた
「……つ、疲れた。怖かった」
その場に座り込んだ私はもうあの3人を見ている元気も無くて、腰が抜けた様な感覚にそのまま呆然としていた。暫くしてからこちらに走って来たのは一虎君で呆然としている私の脇に手を入れてゆっくり立たせてくれる
「 雪那ちゃん、下コンクリだから足が痛くなる。あっちに座った方が良い」
「……ありがとう。もう終わったの?」
「うん。ありがとうはこちらの台詞だよ」
良かったと呟いて力が抜けた私を支えながら圭ちゃんの単車の横に降ろされる。一虎君の視線を追えば傷だらけの隆と圭ちゃんが黄色の単車を押しながらこちらに向かって来たのが見えた
「 雪那、大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。2人共血が出てるけど平気?」
「これくらい余裕」
「……三ツ谷、場地悪かったな。ちょっと油断してた」
「てか、何処に居たんだよ一虎」
3人係でリンチされ、縛られて倉庫に閉じ込められていた所を 雪那ちゃんに助けて貰ったと言った一虎君の言葉に隆と圭ちゃんは目を見開いて私を見た。「マジかよ、お手柄じゃん」と歯を見せて笑う圭ちゃんとは反対に隆は眉を寄せ私を見つめていた
「うん……。何か2人がやり返さないのおかしかったからさ。私も力にならなきゃと思って、武器探しに神社に行ったらパンチパーマの怖い人が倉庫を見張ってたからあからさまに変だなと思って」
「……お前、そのパンチパーマどしたの?」
「バケツ被せて叩いたら気絶しちゃった」
私が続けて怖かったと言うと3人は1度目を真ん丸くしてからゲラゲラと笑いお腹を抱えて笑い出した。「全然笑い事じゃないから」と言って白目を向いた私を見ていまだに笑いながら「かっけぇよマジで」と言う圭ちゃんに内心寿命が縮んだわと思いながら「ははは」と乾いたように笑った
「まぁ、でも本当に一虎君が中に居て安心したよ。殴って誰も居なかったら私逃げようと思ってたから」
「女の子なのに度胸あんなぁ 雪那ちゃんは」
「本当。マジで助かったよ、足の縄が全然外れなくて動けなかったから」
あの映像が見えなかったら神社に何か行かなかっただろうし、警察を呼ぶしか多分浮かばなかったと思う。皆が助かったから良かったけど本当に不思議だったなと思っていると、辺りは日が沈んで暗くなって来ている事に気付いた
「暗くなって来たし私そろそろ帰るね、3人はどうするの?」
「そうだな、今日はボコボコにやられたから帰るか」
「だな」
お礼に送って行くと言ってくれて一虎君の後ろに乗った私と圭ちゃんの後ろに乗った隆は家の近くのコンビニで下ろして貰った。単車に乗る事は風が爽快で楽しかったけれど、一虎君の単車が派手すぎるのとノーヘルな事が若干25歳には恥ずかしくてずっと彼に掴まって下を向いていた
圭ちゃんと一虎君に手を振ってお礼を言うと、2人は騒音を奏でながら暗くなった国道に消えて行った
「 雪那、おばさん待ってるんだろ?帰ろうぜ」
「うん。…でも…隆顔傷だらけ」
「これくらいなら平気だよ。血もそんな出てねぇし」
差し出された手を取り2人で家に向かって歩いていると「何で神社に行ったんだ?」とこちらを向かずに唐突に聞いてきた隆に鋭いなと若干関心してしまう
「……流石だね。びっくりした」
「お前が武器なんて探す訳ねぇじゃん」
「言い訳が私っぽく無かったね」
「……んで?何で一虎が拐われたのとあそこにいるの分かったんだ?」
「……感かな」
「……真面目に言ってんの?」
「うん。2人がやり返さないのがおかしいと思ってて。一虎どこやった?って圭ちゃんが言ってたし」
「……ああ、それは聞いてたんだな」
「場所はふと思い浮かんだから行ってみたら本当に居たの。でも、あの2人に思い浮かんだからって言えなくてさ」
「思い浮かんだだけでパンチパーマの奴殴るのはお前らしく無くね?」
「……確信があったから出来たんだと思う」
「真一郎君の時みたいにか?」
「……あれはまた違うよ」
そんな話をしていたらマンションの前に着いたので私は隆の胸に1度抱き着くと「送ってくれてありがとう」と言って乾いた血が滲む頬に優しく口付けた。何か言いたそうな隆はその言葉を飲み込んだのか何も言わずに私の唇に軽い口付けをしてから「じゃあな」と微笑み家の方角へと歩いて行った
その姿が見えなくなるのを確認してから私も自宅へと帰宅した
それから直ぐに冬休みは終わり、新学期がやってきた。学校で余り話をしなかった私達が新学期になってからは昼休みは必ず一緒にお弁当を食べ、隆の部活が無い時は一緒に帰るので周りの皆は付き合っていると直ぐに気付いたみたいだった。私としては彼に大事にされて、断るしか無い告白も無くなり嬉しい事だらけだったし、毎日が楽しくて幸せだった
「 雪那、三ツ谷と上手くやってるじゃん」
「そうゆう麗奈は飯田くんとどうなの?」
「……全然告白してくれないし若干諦めモードなんだよね」
麗奈の好きな飯田は小学校から麗奈と仲が良いけれど友人の期間が長かったのか中々関係が進展しない事が悩みらしく「 雪那みたいにモテればな」と良く言われるけれど、女の子は自分の顔に合ったメイクをして髪色と髪型を変えれば皆シンデレラになれるのだと私は前回の人生の中2の時に確信していた。25歳から記憶ありで戻って来たら誰でもモテるわとは言えないのでその辺はいつも通りに黙っておく事にする
「三ツ谷の友達でカッコイイ人居たら紹介してよ」
「……イケメンは1人居るけど……ちょっと危ないからな。ドラちゃんがおすすめだけどエマちゃんが居るし……。圭介君かマイキー君は……女の子に興味あるのかなぁ」
「えぇ、危ないイケメンが良い」
「……麗奈は本当に怖い物知らずだよねぇ」
「マイキー君は外人ぽいから圭介君で良いよ」
「マイキー君は日本人だけどね。私はあんまり2人の事知らないからとりあえず隆に聞いてみるよ」
「よろしく、凄い期待してるわ。…あ、そういえばさ。冬休みの前に雪那毎日放課後直帰してたじゃん」
「ああ、マフラー作ってた時かな?」
「あの時にさ1組の吉井に白石さんて塾通ってんの?って聞かれたんだよね」
「……吉井って、吉井高嗣?」
「何だ知り合いなんだ、私話した事無いのに廊下でいきなり話しかけられたからさ」
「私も小学校の時に同じクラスだっただけだよ。……特に仲良くは無いかな」
「ふーん。じゃあ雪那に聞けば良いのにね。何か吉井って奴夏休み明けてから凄い不良みたいになっててさ」
「えぇ??凄い頭良くて暗くてアニメ好きだった気がする。優しい子だったよ……不良になったんだ」
ふと思い出すのはラノベ集めをしていた彼が小学校でからかわれてた事だった。不良とは縁の無い様な可愛らしい子だった気がして若干聞いた今も信じられなかった。「……何か吉井って気持ち悪いんだよね」と呟いた麗奈に「そうかな?」と返すとその話題はそこで終わってしまった
それから7日が過ぎた放課後。昇降口で靴を履き替えていると急に肩をたたかれて驚いて振り返ると、リーゼント姿の吉井が立っていて私は目を丸くした
「……吉井君、だよね?」
「うん、久しぶりだね。話すの」
柔らかい物言いは変わって無いし、微笑んだ顔に面影がある。可愛らしい顔に全く似合って居ないリーゼントに違和感を感じながら一応微笑んで頷くと「ちょっと聞きたい事あるんだ」と言われて「ん?」と首を傾げた
「良かったら途中まで一緒に帰っていい?」
「……いいよ。吉井君の家って確かスーパーの近くだったよね?」
「へぇ、覚えてるんだ」
「まぁ、何となくだけどね」
二人で靴を履き替え、そんな話をしながら校門を出た
久しぶりに話す吉井君はやっぱり話をしても変わって居なくて「小学校の時にからかわれてたけどいまだに俺ラノベオタク」と笑顔で言っていた
「そういえば聞きたい事って何?麗奈に聞いたけど私か塾通ってるか聞いてきたって言ってたから、もしかして勉強の事?」
「勉強の事じゃないよ、毎日忙しそうだったから塾にでも通いだしたのかなって」
「ああ、違う違う。あれはマフラー作りに励んでたから直帰してただけだよ」
「ふーん。三ツ谷にプレゼント?」
「そうそう。聞きたい事って塾の事かと思ってた」
「あれはね、もし塾に通い出したのなら何処の塾に行ってるのか鴨志田さんに聞きたかったんだ」
「……ん?何処の塾?何で?」
「帰り道に待ち伏せしようと思ってたからさ」
ふふっと微笑んだ吉井の言葉に私が少しだけ後ずさると、右手を取られて横にあったラーメン屋の路地に凄い力で引きずられる。思わず叫ぼうとするとお腹の辺りに鋭い痛みが走り目を向ければ、小さなナイフが1cmくらいだけどお腹を突き刺している様に見えて全身から血の気が引いた
「…………何なの」
「……刺さってるのは2ミリくらいだから大丈夫だよ。安心してね」
「あんた頭……大丈夫?」
「うん。とりあえず話がしたいから叫ばないでね」
「叫んだら?」
「申し訳無いけど三ツ谷を殺す」
その言葉とその目に私は息を飲んだ。圭ちゃんや一虎君が言うような殺すじゃなくて、吉井は本気で言っているって何となく分かってしまった。狂気を感じて震える手を握ると「話は聞くし叫ばない」と冷や汗をかきながら静かに口を開いた私に彼はニコリと微笑んだ
「……何がしたいの?」
「 白石にお願いがあるんだよね。お願いじゃなくて脅迫になるんだけどさ」
「……断ったら隆に何かするって事?」
「そう。だから断らないでね」
「内容は?」
「明日の昼休みに体育館の裏に三ツ谷を呼び出して俺と付き合ったから別れるって言って欲しい。」
「……は?」
「簡単だろ?」
「……そんな事して何の意味があるの?」
「……小学校の頃に三ツ谷は1番俺の好きで堪らない人を傷付けた」
「…………」
「今回も俺の大事な場所を奪って、俺の大事な人を傷付けた。絶対に許さねぇ」
「……」
狂気が見える瞳の彼に話をするのは無駄だし危険かと思ったけれど、隆が人に悪意を向けたり傷付ける想像が付かなくて詳しく理由が聞きたくなってしまう
「……吉井さ、せめて理由をちゃんと教えて」
「………」
呟く様な小さな声で話始めた吉井は、小学校の頃から大好きだった幼なじみの話をしてくれた。私の記憶にもある高岡さんは隆の事が好きで小学校5年の時に告白して振られてそのまま転校したらしい。転校したのは知っていたけれど、隆に告白したのは知らなかった
振られた高岡さんの落ち込みは酷くて毎日毎日泣いていたと言った吉井に頷くしか無かった
「……三ツ谷は悪い奴じゃないし、美咲の事も三ツ谷が好きじゃないなら仕方ない」
「……分かってるんじゃん、吉井」
「でも……。俺を可愛がってくれてる先輩が三ツ谷に病院送りにされた。チームも潰された……今回は絶対許さねぇ」
「…病院送りって…それ、いつの話?」
「4日前くらい。入院したから聞いたのは次の日だけど」
「……そうなんだ……」
知らなかったと言ってから、ふと過ぎった圭ちゃんの言葉を思い出した「1個上のチームの頭潰しに行く。三ツ谷も行こうぜ」確かに神社の前でそんな話をしていたのを思い出した。吉井がそこのチームだったのかと話が繋がって来て、どうして止めなかったんだ自分はと今更悲しくなって来る。普通の不良よりも元々こうゆう真面目な人の方が思い詰めると怖いのかもと吉井を見ていて思った
「吉井は……隆に高岡さんと先輩みたいになって欲しいって事?」
「その通りだよ。見てれば三ツ谷がどれだけお前が大事か分かった。振られてボロボロになって毎日美咲みたいに泣いて、その後俺にボコボコにされて先輩みたいになればいい。自業自得だろ?」
「…………何か……」
「……分かってるよ、ダサいのも下らないのも承知だし。白石は関係無いのに迷惑かけてるのも分かってる。」
「……理由は分かったよ。吉井が本気なのも分かった」
「…………」
「隆の事、殺さないって約束して。先輩だって死んで無いんだから殺さないで」
「…それは…分かった」
ずっと無表情で淡々と話をしている吉井が少し気持ち悪くて、麗奈の「あいつ何か気持ち悪いんだよね」って言葉を思い出した。それから、無理矢理LINEを登録され帰って良いと言われたので早足で自宅に帰り宿題もする気にもならに部屋で呆然としていた。ふと新着メッセージと通知された携帯を開くと「指示に従わなかったら三ツ谷を殺す」と恐ろしいメッセージが来ていてその画面に溜息を吐いた。
隆に1番に相談しなきゃいけないって分かっているけれど、今迄生きてきてあんなに本気で人を殺すって目は見た事が無くて下手な行動が取れないと思った。あの目を見た瞬間に吉井の指示に背いたら本当に隆が危ないと本気で確信してしまった
棺桶の中の血の気の無い隆の顔を思い出して相当トラウマになっているなと思いながら携帯を見たく無くてベッドの上に放り投げた。部屋着に着替えようと、制服を脱いで少しだけ痛むお腹を見ればセーターとワイシャツには綺麗に縦に切れ目が入っていて、臍の横から血が出ていた。彼が言っていた通りの1、2ミリの傷な事に恐ろしくなって、ふと頭に浮かんだドラちゃんに相談したくなる。が、吉井の怒りをかってもし隆が死んで私が過去に戻れなくなったら1番悲しい未来が待っていると考えると何も行動出来ない自分がいた
結局夕飯も食べる気がしなくてそのままベッドに入ったけれど全然寝れず、眠い目を擦りながら学校に行って保健室で仮眠を取ると直ぐに昼休みになってしまっていた。LINEを見れば体育館裏に来て三ツ谷に別れを告げろと入っていて気が重くなり逃げ出したくなった
隆に体育館裏に来てとLINEを送ってから一人で体育館裏に行くと吉井の姿は無くて隆もまだ来ていない。一人で石段に座り膝を抱えていると、足音がしてそちらを見ればお弁当を持った隆が微笑みながらこちらに向かって歩いて来ていた
「 雪那、弁当持ってねぇじゃん」
私の横に座ってから直ぐにおにぎりに齧り付いた隆は自分の手提げからもう1つおにぎりを取り出して私に渡してくれる。渡されたおにぎりを見れば不格好な隆の手作りで何だか泣きたくなった
「……隆」
「ん?食わねぇの?……てかお前顔色悪くね?」
貰ったおにぎりを両手で包みながら隆の瞳を虚ろな目で見つめた。これから私の心無い言葉に彼がどれだけ傷付くのだろうと思うと自分の心が痛い
「大丈夫か?寝不足?」と少しだけ心配そうな顔をした隆は優しく指で私の頬を撫でてくれる。その顔を見ていると、今すぐにでも吉井のLINEを隆に見せてやりたい何て考えが過ぎったけれど危ない橋を渡りたくないと思い直ぐにその考えは消えて唇を1度噛み締めた
「……あのさ、私……他に好きな人が出来たんだ」
「……はっ?」
「だから……隆とは別れたい」
「…………お前、何言ってんの?」
彼の顔が見れなくて下を向いた私に、おにぎりを咀嚼していた隆は暫く間を開けてから「他に好きな人が出来た?」と普段出さない様な低い声を出した。その声に涙が出て来て溢れない様に我慢していると「待った?」と明るい声が聞こえて私達が顔を上げれば優しく微笑む吉井が何だか悪魔みたいに見えた
「…… 白石、ちゃんと三ツ谷に言った?」
「……うん」
「じゃあ、悪いけど三ツ谷そうゆう事だから。」
「……お前、いきなり来てなんなの?」
「振られたんだからどっか行けよ三ツ谷」
「…てめぇ…ふざけてんじゃねぇぞ」
舌打ちをしながら立ち上がった隆を見てハッとした。多分吉井は昨日のナイフを持っている筈だし、もしかしたら何かの流れで隆が刺されるかもと思い吉井と隆の間に体を滑り込ませた。私の行動に驚いた顔をした隆は直ぐに私の腕を掴みそのまま自分の後ろに隠す様にして吉井の前に出た
「……お前、俺に喧嘩売ってんの?」
「…… 雪那は俺が好きなんだよ。三ツ谷」
「つーか、お前吉井だっけ?てめぇ何か雪那が好きになる訳ねぇだろ」
「……はっ?何だと……」
「人の女呼び捨てにしやがって。お前何なの?雪那は何でこんな奴の言う事聞いてんだよ。俺は絶対別れねぇからな」
「……隆お願い。危ないから下がって……。この人本当に危険だから……」
「…へぇ…三ツ谷の事庇うんだ」
「…………」
「……ふーん。やっぱりそうゆう事か。鴨志田さんの言ってた通りだな」
「……えっ?」
「 雪那、向こうむいてろ」
そう言われて何だか嫌な予感がしたので素直に目を瞑ると、ゴホッっと噎せるような声と鈍い音が何回かした後ドサッと重い物が落ちた音がして目を開けた。そこには地面に倒れている吉井と、吉井が昨日持っていたナイフを片手に持っている隆がいた。その光景に緊張の糸が切れ、思わず隆の腕に抱き着くと顔を覗き込んで来た隆は申し訳無さそうに私を見ていた
「……お前、もしかしてコイツに怪我させられた?」
「お腹を……ちょっとそれで切られたくらい」
「…こいつ……この野郎」
「……もういいの、殴らないで。……お願い」
「…………わかったよ」
分かったと言った隆の返事に安堵していると、頭を抱かれて「ごめんな」と言って来た隆に申し訳無くて堪らなくなった
「ごめん……私……本当にごめんね」
「……謝るのは俺の方だ。鴨志田さんが朝からお前の様子が変だし、昨日放課後に吉井と一緒に帰ってたって聞いて何か嫌な予感してさ」
「……うん」
「この間喧嘩になった奴の知り合いなんだろ、吉井」
「……何で知ってるの?」
「鴨志田さんがわざわざ2限目の終わりに言いに来た。あの人の情報力舐めてたわ。本当に助かった」
「……そっか、麗奈がわざわざ」
「こいつ、俺の事恨んでんの?」
「……本当に隆の事殺すって言ってて目が本気だったから」
「……こいつの先輩と喧嘩してて当たり所悪くて救急車で運ばれたんだよ」
「……そうだったんだ、隆が骨でも折ったのかと思った」
「俺はそこまでやらねぇよ。知ってんだろ?」
うんと返事をしてからしゃがみこんで吉井の顔を見た。気絶している顔は子供みたいでやっぱりリーゼントは似合って無いし、やる事言う事本当の馬鹿だけど何だか憎めなかった。「 隆、どうするの?吉井」私が顔を上げると「締める」と一言言った隆は地面で寝ている吉井の事を米俵みたいに抱えた
「……お前は授業行け。今からパーとぺーやん来るから」
「……2人来るなら安心かな。……わかったよ」
フッと微笑んだ隆に頷くと私は教室に戻った。チャイムが鳴って授業が始まると段々と昨日の夜から心配で怖くて何も食べて居なかったからか気持ちが悪くなって来て、目の前がゆっくりと霞んできた。「……先生」とその場で手を上げて保健室に行かなきゃと思った瞬間にグラっと自分の体が揺れて意識を失った
何だか温かくて心地よくて目が覚めると、胸上まで掛けられた布団が温かくてもう1度目を瞑ろうとすると「起きたか?」と声がして目を見開いた。「えと、……パー君」その私の言葉に吹き出した彼は「君いらねぇよ」と言ってニッと笑うとベッド横の背もたれの無い椅子にゆっくりと腰を下ろした
「大変だったな雪那ちゃん。三ツ谷今来るから」
「……吉井は?大丈夫?」
「今日マイキーに話してうちのチームに入る予定。三ツ谷とガチ切れ喧嘩して和解したから大丈夫」
「……そんな展開なのね。でも良かった」
「……いいっちゃいいけど、三ツ谷が雪那ちゃんに手を出したのが許せなくて若干やり過ぎて吉井怪我だらけだからどうなんだろ」
「……パーちゃん止めてよぉ」
「……ちょっと無理だった。スマン」
「隆はどこに居るの?」
「職員室に居ると思う。喧嘩が先生達に見つかって吉井のナイフも没収されたから」
「……そう」
「今回の事は吉井は汚ねぇ手使ったから仕方ねぇよ。三ツ谷があんなキレたの始めて見たし」
「……私もまさか別れろって言えって命令されるとは思わなかったよ」
「……マジで?それは初耳だわ。雪那ちゃんに怪我させたまでしか聞いてねぇ」
「……まぁ、もう良いんだけどさ。それよりお腹が空きすぎて痛い」
その私の台詞を聞いたパーちゃんは「ちょっと待ってろ」と言ってからカーテンの向こうに消えていった。何分か経ってから戻って来たパーちゃんの手には温かいお茶とおにぎりが握られていて、それを見た瞬間にお腹が小さく鳴り少し恥ずかしくなる
「……美味しそう。パーちゃん本当に嬉しい」
「ちゃんと食わないと駄目だぞ」
「はい、頂きます」
お茶で喉を潤しながらおにぎりを口に入れていると、ひょっこりカーテンからこちらを覗いていたのは麗奈だった。目が合うと「雪那の鞄持ってきたよ」と言って鞄を掲げながらこちらに来てパーちゃんの横に座った
「麗奈、本当に今回は助かりました」
「…… 雪那、そんな事今は良いから。それよりも体調どうなの?林田が付き添ってるの珍しくない?三ツ谷は?」
「三ツ谷は吉井と職員室」
「……ふーん。後で詳しく教えてね」
「うん。あ、そういえばパーちゃん」
「ん?」
「圭介君て彼女いる?」
「……聞いた事ねぇけど。何で?」
「麗奈に紹介したいんだけど、一虎君と圭介君とマイキー君て誰か彼女欲しい人いる?」
「うーん。マイキーは女に興味無いんじゃね?」
「そっか。でも私もそう思った。」
「でも三ツ谷も女の子に興味無かったけど、雪那ちゃんと付き合ったんだから鴨志田が本気になればおとせるんじゃね?」
「えぇ。やっぱり顔見て決めたいから林田、3人の写真見せて」
「仕方ねーなー」
麗奈とパーちゃんがそんなやりとりをしていると、カーテンが開きそこには隆と包帯だらけの吉井が立っていた。開口1番に「すみませんでした」と言って頭を90度下げた吉井に何だか微笑んでしまい、いまだに頭を下げている吉井に声を掛ける
「もう、いいよ。隆に謝ってくれたなら良いから」
「……三ツ谷には謝らないけど、白石には本当に悪い事したからさ」
「……何だとコラ」
「これ本当に和解……してんの?」
「一応ね。……トーマンに入る予定だし、もう汚い事はしないよ」
「なら良かったよ」
「…… 雪那、飯食ってねぇの?」
「今パーちゃんが買ってきてくれたから大丈夫だよ。隆悪いんだけど送ってくれないかな?歩くのちょっとしんどいから支えて欲しい」
「ああ。分かった」
起き上がって上履きを履いた私の腕を支えてくれた隆に麗奈が「これ雪那の鞄」と言って隆の肩に掛けてくれる。心配してくれた皆にお礼を言って、隆に支えて貰いながらこの日は直ぐにそのまま帰宅した。
自宅に帰って来ると直ぐにソファに下ろされて休んでろと頭を撫でられる。隆は直ぐにキッチンに向かい「消化に良いものあっかな」と独り言を言いながら冷蔵庫の中を見つめていた
「隆、さっき食べたから大丈夫だよ」
「おにぎり1個だろ?」
「ずっと食べて無かったから1個で十分。それより今は傍に居て欲しいな」
「後でうどん作るから食えよ」
「うん」
こちらに向かって来る隆にふふっと少し微笑むと私の隣に腰を下ろした隆の膝に座り首に手を回した。その手に応えるように私の背中に手を回して来た隆の耳元で「本当にごめんなさい」と呟いて彼の首元に顔を置いた
「……お前が謝る事じゃねぇよ」
「直ぐに相談しようと思ってたんだけど……。余りにも吉井が殺すって言ってた目が本気に見えて怖くて相談出来なかったんだよね」
「……怖ぇ思いさせてごめんな」
「ううん。……こっちも心にも無い言葉言って傷付けてごめんね。……あの時別れないって言ってくれてありがとう」
「……お前は俺だけって信じてるからさ。……あ、でも今回は鴨志田さんから色々聞いてたからな……」
「隆なら麗奈から聞いてなくても私の顔色見て気付いてくれるよ」
「……でもよ、何でお前の事使ったんだろうな。普通に俺ん所来て喧嘩すれば良い話だろ」
「あれ?聞いてないの?」
「何を?」
「……私を使ったのは高岡さんの事があったからだよ」
「……高岡って小学校の時の?」
「……うん。吉井の昔から大好きな人だってさ」
「…………ああ。そうゆう事か」
何だか納得した様な顔で1度頷いた隆は、「でも何か男らしくねぇよな、アイツ」と言って苦笑いをした。そんな隆に私も1度頷くと、今回の事でちょっと気になっていた事を伝えてみる事にした
「……後、助けて貰った私がさ、言える事じゃないかもしれないけど……」
「……ん?何だよ」
「隆はちょっとやり過ぎ。吉井の顔本当に酷かった」
「……今回は本気で許せなかった。お前に刃物向けたからな」
「…………」
「ごめんな」
困った様に微笑んだ隆に何も言えなくなった。私の為に怒ってくれたのかもしれないけど、怪我だらけの吉井の顔を見て何だか複雑な気持ちになったのは確かだったから
「……パーちゃんみたいに、吉井は汚い手を使ったからあそこまでやられても仕方ないって割り切るのは難しいよ」
「………」
「……私の為に怒ってくれたんだしグチグチ言ってごめん」
「……お前からすると、どんな理由があろうと人が怪我すんの見たくないって言いたいんだろ?」
「うん」
「お前には分からなくて当然だけど、俺らの中で喧嘩や怪我はまぁ普通な感じだから。……骨折ったり単車で轢いたりは流石にしねぇけど」
「……話し合いしか出てこない私からすると不思議だわ」
「お前はそれでいいんだよ。女の子なんだから」
頷いた私の唇に長めの口付けをしてくれた隆は唇を離すと「そういえばまだ体調悪ぃ?」と心配そうな顔をしながら私をゆっくりとソファに倒して学ランのブレザーを脱いだ。そんな彼を見ながら少しドキドキしていると、暖房が効いてきたのか確かに部屋はかなり暖かくて私も1度起きてブレザーを脱いでからソファにまた横になる。今日の下着は可愛いの履いてたから大丈夫かなとか色々考えていると急に立ち上がった隆に私は目を丸くした
「うどん作ってくるわ。卵いれる?」
「えっ?!このタイミングで??」
「……はぁ?このタイミングって何だよ」
意味が分からんみたいな顔をした隆に、自分の方がいやらしい事を考えていたみたいで恥ずかしくなって来て首をブンブンと横に振った
「……?」
「……な、何でもないよ」
「言わないとくすぐるぞ」
「…………えと、恥ずかしいから言えない」
「ぷっ、何?何か恥ずかしい事あった?」
「……いや、ソファに倒されたから……もっと色々するのかなと思ってたらうどん作るって言うから何か一人で恥ずかしくなっただけ」
そう自分で口に出したら笑えてきてしまい、一人で吹き出した私を見て隆はゲラゲラとお腹を抱えて笑いだした。二人でケラケラ笑っていると、ふと隆の顔が意地悪にニヤッと笑ったので何だか嫌な予感がして目を細めた
「体調大丈夫そうだな」
「……ん?う、うん」
「体冷えてると良くねぇから風呂入る?」
「…………今暖かいけど」
「色々されたいんだろ。お望みなら叶えるぜ」
「………別にもう大丈夫だよ。ただするのかなとか考えてた自分に恥ずかしかっただけだから」
「大丈夫って何だよ」
「お風呂コースじゃなくてうどんコースで大丈夫って事」
それを聞いた隆はつまんねぇ。みたいな顔を1度してから「じゃあ、うどんコースの後で風呂コースにする?」と提案して来たので「それでいいです」と笑いながら頷いた
「今日の下着可愛いんだ」
そう言ってニシシと笑った私に、隆は急に真顔になると「やっぱりうどんは後にする」と言って私をぎゅっと抱き締めた
