歩くような速さで
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しばらしくて涙が止まった私の頭を優しく撫でてくれた隆は「泣き止んだか?」と言って私の顔を覗き込んでくる。内心このタイミングで聞いて良いのかなと少しだけソワソワしていると、様子がおかしいのに気付いたのか「何?」と首を傾げ不思議そうに私を見つめている
「……あのさ、聞きたい事があるんだけど」
「ん?」
「私の事……好きだって思っていいの?」
「…おい…当たり前だろ。俺が好きでも無い奴にキスする様に見えんのかよ」
「……見えないけど……ちゃんと聞きたくて」
「そういえば言って無かったもんな」
「……うん」
「……俺は雪那の事好きだから。ちゃんと付き合ってくんね?……大事にするからさ」
「……うん」
ジーンとその言葉が胸に響いて、少しだけ照れている隆の両頬を優しく包み背伸びをして彼の唇に口付ける。柔らかい唇に口付けしていると、何だか感極まり過ぎて気持ちが抑えられなくなってきてしまい隆の唇を優しくこじ開ける様にして舌を入れた。その瞬間、私の背に回っていた隆の手が硬直したのが分かったけれど自分の熱がおさまらなくて、少しだけ申し訳無いと思いながら隆の舌に自分の舌を絡ませた
ゆっくりと唇を離すと、まだ少し驚いた様な顔をしている隆に愛しさが溢れた。12歳の体ではあるけれどやっぱり大人だからか相手が隆だからか、彼を見ていると可愛くて仕方なくなってしまうなと思う。同い年なのに何故か少し罪悪感を感じてしまう自分が不思議だ
「………」
「……ごめん……いきすぎた、かな?」
「……お前、本当に初めて?」
「うん。……ちょっと気持ちが高ぶっちゃって……ごめんね」
「……ふーん」
えへへとちょっと可愛い子ぶった私の事を見た隆は少しだけニッと笑うと、私の顎を掴み唇を合わせ私の唇の中にそっと舌を入れてきた。隆の舌が自分の舌の裏側を優しく舐め絡まる様に動いてきて、再開したあの日にした口付けを思い出してしまったけれど今回は何だか悲しくならなかった
どうしよう、ちょっとだけ気持ち良くなって来ちゃったと内心思っているとゆっくりと唇が離れて何故か気分が良さそうな顔をしている隆は「お返し」と言ってイタズラっ子の様に笑った
「んもぉ。隆だって初めてじゃないんじゃないの?」
「んな訳ねぇだろ」
否定した隆に内心胸を撫で下ろしていると、そういえば呼び出しておいて飲み物も出していない事に気付いてポットに火を掛け直そうとキッチンに向かう
「ごめん。そういえば飲み物も出してない。今珈琲出すから飲んで」
「……いいよ。もう夜遅いしそろそろ帰る」
「……帰っちゃうの?」
「……何だよ、お前何か急に女の子だな」
「今までずっと我慢してたからね。……でも、おばさん心配するから今日はもう帰りな」
「……お前が寝るまで一緒に居るよ。今日くらい良いだろ?」
「ふふ……気使ってくれてありがと」
「使ってねーよ。……俺もお前と居たいだけだ」
少し驚いて隆を見れば自然と目を逸らされて「風呂だけ借りていい?」と聞かれたので頷いた。火にかけたポットからボコボコと音が聞こえて、そちらに目を向ければ隆はもう脱衣場の方に歩いて行ってしまっていた。
遠い記憶だが、隆と付き合っている時に照れたり妬いたりされた事も余り無かったので13歳の隆がたまに照れたり戸惑っていると凄く新鮮な気持ちだった。余りエスカレートして調子に乗ると怒られそうだけど、気持ちが高ぶると行動してしまう自分を許して欲しい
珈琲を蒸らして、その香りを楽しんでいると久しぶりに何だか幸せな気分を感じて胸がいっぱいになった
ずっとこの日をまずは第1目標で頑張って来たけど、付き合うのは2年の終わりだって思っていたから何だかんだ1年早く付き合えたなと思うと思い出を沢山作りたくなった。どうせなら隆みたいに不良になってみようかと思ったけれど別に喧嘩も単車も好きじゃない私にとってはそれは苦痛な選択かと思う
大人になってから若い頃にしてみたかった事は何だろうと珈琲を啜りながら考えていると、特に浮かんでは来なかったのはやりたい事は何だかんだやってきたからだと思った。それなら新しい事にチャレンジしてみようかと思うと少しだけワクワクする
でも、新しい事を探すのがまた困難何だよなと思い溜息を吐きながらマグカップ片手にソファに座れば脱衣場からドライヤーの音が聞こえて、隆が家に居るんだなって何だか再確認して一人で嬉しくなった
それから、二人でソファに座り夜中まで映画を見たり他愛の無い話をしたりしているといつの間にかお互いソファで眠っていた。1度寒くて目が覚め、まだ外は薄暗く朝方の様だと分かる。部屋に毛布を取りに行くと私が居なくなって寒いのかソファで丸くなって眠る隆に自然と笑みが溢れた。厚めの毛布を掛けてやり、彼の胸に顔を寄せて背中に手を回して冷たくなった体を擦りながら眠りについた
眩しいなって感じて目が覚める。目を開けて起き上がると隆の姿は無かったので帰ったのかなと思いテーブルに置いてある携帯で時刻を確認するともうお昼を大分過ぎていた
「……シャワーでもするか」
フラフラと酔っ払いみたいな足取りで脱衣場に入り歯ブラシをしながら服を脱いでそのままシャワーを浴びた。熱いお湯を浴びていると、段々と目が覚めてきてふと昨日二人で映画を見ている時に話していた話を思い出した
『 雪那が告白されてた時に言ってた言葉が凄く印象に残ってさ。……凄い凄い好きな人がいて、その人にしか触れられたく無いって言っててそれは誰なんだろうって気になってた』
『……そういえば聞いてたって言ってたもんね』
『……そしたらさ、さっき写真立て踏んじまって、やべぇと思って拾ったら俺が写ってたから……。あれって俺の事だと思ったら何かすげぇ嬉しくて、お前の事抱き締めたくなった』
そこまで話してくれた隆は私の指に自分の指を絡めると触れるだけの口付けをしてくれた。画面を見ていたけれど、映画何てもはやどうでも良くなって隆にくっついてその温もりだけ感じていた
思い出したらニヤニヤして来てしまって、風呂を出てご機嫌でドライヤーを当てていると何か物音がした気がしたが特に気にせずに髪を乾かしていると脱衣場の扉が少しだけ開いて「服着てる?」と隆の声がした
「まだ着てない、ちょっと待ってて」
「おー。」
1度家に帰ってまた来てくれたのかなと嬉しくなって乾いた髪を梳かしてから着替え廊下に出ると、リビングに居ると思っていた隆は私の自室でミシンを動かしていた。何となくミシンを動かす彼の後ろ姿を見ていると、勉強机の上に置いてある紙袋が目に入った
「何?これ」
「……ああ。雪那にクリスマスプレゼント」
「……見ても良い?」
「ん」
余程集中しているのか、声をかけてもこちらを見ようともしない隆への目線を紙袋に戻して中を覗くと小さな掌サイズの黒い箱が入って居た。箱を手に取り少しドキドキしながら開けると、少しだけピンクに輝いたゴールドのリングが入っていて私は目を見開いた
「……ゆ、指輪?……結婚しようって事?」
「…凄い脳内だな。流石に早ぇし言ってねぇよ」
「……えへへ」
「裏見て。一応付き合った記念に日付入れて貰った」
リングを手に取って裏側に目を向けると、12月23日と日付が入っていた。その横にtakashiとローマ字で入っている名前に胸がときめいたのが分かり自然と笑みが溢れる。しかし、直ぐに指輪を左手の薬指に嵌めると緩過ぎてその場で固まってしまう
「……それ、右手の薬指用だぞ」
「ええ?!てか、何でサイズ知ってるの?」
「お前が寝てる間に測ったから」
隆に言われた通りに右手の薬指に嵌めるとサイズは確かにピッタリだった。今直ぐに彼を抱きしめたいけれど、ミシンを動かす手を止めないので手を掲げて指輪が光る自分の手を飽きずにずっと見ていると少し経ってから「出来た」と言った隆は立ち上がる。手に持った薄い紫色の布を私に見せる様に広げた
「……凄い可愛い……」
「短時間で作った割には良いだろ、雪那は紫好きだし」
淡いパープルのマフラーを持ってニシシと歯を見せて笑う隆にそのまま飛び付くと、がっしりと私を受け止めてから優しく首に巻いてくれたマフラーは暖かかった。サラりと乾かしたての私の髪を撫でる隆の右手にあるリングに目を見開いて「お揃いなの?」と驚くと「ん?何でそんなに驚くんだよ?」と聞かれ思わず口を噤んだ
私が居た世界の隆は、私がお願いすればお揃いの物とかを買ってくれたり付けてくれたりはしてくれたけど
自分からそうゆう事はしなかったので比べるのも何だけど私的には驚愕してしまう様な出来事だった
「……ちょっと見せて」
「ああ」
隆の右手の薬指からシルバーのリングを外すと裏に刻印されていたのは12月23日の日付けと私の名前のローマ字だった。そのリングを握り締めて隆の胸を抱き締めると本当に嬉しかったのか涙が少しだけ出てきてしまい、涙声で「本当にありがとう。生きてて1番嬉しい」と言った私に隆は「大袈裟だな」と嬉しそうに声を出して笑った
「……あんなに俺を好きだって言ってくれるお前なら、ちょっと恥ずかしがったけどお揃いのが喜びそうだと思ったんだ」
「………お揃いのが嬉しいよ」
「…… 雪那、こっち向いて」
ゆっくりと顔を上げると、私の頬を流れた涙に口付けしてから唇に触れるだけのキスを落としてくれる。隆の右手を取り、握りしめていたリングを薬指に嵌めると何だか彼は私の物では無いけれど私のなんだなって凄くしっかりと自覚が持てた気がした
誰かに聞かれたら彼女なんだって言っても良いんだなと思うと口には出せないけど嬉しくて堪らなくなった
大晦日の前の日には帰るとラインがお母さんから来ていて、29日に帰宅したお母さんは彼氏と喧嘩したのか最初は機嫌が悪そうだったけれど、ご飯を作っている私の右手に光るリングを見て目を見開き「 雪那ちゃん彼氏出来たの?」と見開いた目をまん丸にして来たお母さんに「隆から貰った」と微笑むと、何故か万歳して上機嫌になった母に呆れながら笑ってしまった
「三ツ谷君凄い可愛いからお母さん嬉しいな」
「うーん、不良だけど優しいししっかりしてるしね。妹の面倒みて来たから頼りがいもあるし」
「学生の頃はちょっと悪い子に憧れるわよね、お母さんの好きだった人はリーゼントだったな~」
「……不良が好きなんじゃなくて隆の存在が好きなの。一緒にしないで」
「……何よ、雪那ちゃんの意地悪」
「はいはい、カレー出来たから食べようね」
「お母さん目玉焼き付けて欲しい」
「はいはい」
久しぶりにお母さんとご飯を食べて、お母さんの彼氏の愚痴を聞いたり隆の事で質問責めにあってるとLINEに入って来たメッセージは隆からで『今マイキーんちから帰ってる所何だけど家に寄っていい?』と入っていた。大丈夫だよと返してからお母さんに「隆来るから部屋片付けるね」と言って洗い物を頼むとまだ機嫌が良いのか「分かった」と珍しくやる気のある返事をしてきたので少し吹き出してしまった
玄関の鍵を開けてから自室の掃除をしていると、15分くらいしてインパルスの音が遠くで聞こえ、そこから割と直ぐに窓から足音が聞こえて玄関が開いた。開いた瞬間にバタバタとリビングから走る様な音が聞こえて、思わず自室の扉を開けるとお母さんが隆の手を握りブンブンと手を振りながら「隆くん、雪那ちゃんと付き合ったんでしょ?おめでとう」とはしゃいでいた
「おばさん久しぶりです、お付き合いさせて貰ってます。よろしくお願いします」
「隆君なら安心だわ、雪那ちゃん怒ると怖いから浮気は駄目よ~」
「……絶対しないんで大丈夫です」
「……お母さん、やかましいわ」
「隆君、雪那ちゃんが意地悪する」
「……ははは」
うちのお母さんの攻めに珍しく隆が困惑していてちょっと面白かったけど、余り長いと可哀想なので「隆、カレー食べてきなよ」と助け舟を出すと「腹減ってるから有り難い」と微笑んだ隆の手を引っ張りキッチンに向かって歩き出すと呼び止められて二人で振り返る
「 お母さんちょっと買い物行ってくるけどジュース何がいい?隆君何飲みたい?」
「すみません、おかまいなく」
「私紅茶が良い、隆はコーラ」
「はーい、じゃあ行ってくるね」
「気をつけて下さいね」
隆に言われたのが嬉しかったのか微笑んだお母さんは右手に財布と車のキーケースを持ち玄関を出て行った。「相変わらず可愛い母ちゃんだな」と呟いた隆に苦笑いをしてからキッチンに入りカレーを温め直していると「何か手伝う?」と言ってくれた隆に目玉焼きをお願いした
カレーを食べる隆と冬休みの宿題の話をしたり、マイキー君達と今日ちっちゃな雪だるま作って遊んでた何て可愛い話を聞いていると、携帯にお母さんから電話が掛かってきたので、きっと飲み物の種類を忘れたんだなと思い直ぐに通話ボタンを押した
もしもしと電話に出れば、聞こえて来た男性の声に少しだけ眉を寄せた
「……すみません、どちら様ですか?」
そう返した私にその男性は少し戸惑った様子で口を開いた「貴方のお母様の車とぶつかってしまって、今娘に電話すると言ってる最中に気を失ってしまったので私が代わりに話をしています。今救急車が到着したので病院に来て貰えませんか?」
後ろで鳴るサイレンの音がその話は本当なんだと物語っていて、私は少し震えた手に力を込めると隆を見た
「……どした?」
「……お母さんが事故……救急車今来てるって」
「電話貸せ」
直ぐに渡した電話を受け取った隆は「病院どこですか?」と聞いていて私はその様子を黙って見ているしかなかった。昨日から雪がちらほら降っていて道路が滑りやすかったのかもしれない。記憶の中でお母さんが事故にあった事は1度も無かった。予定よりも早く私達が付き合って、気を利かせたお母さんが買い出しに出かけ事故を起こした
私達が付き合ってなかったら、お母さんは今日出かけ無かったし事故に合わなかったんでは?と想うと全身に鳥肌が立った
「 雪那、病院行くぞ」
「あ、うん」
上の空の私の腕を掴んだ隆は「インパルスで行けねぇからタクシーで行くぞ」と言って私を立たせると1度優しく抱きしめてくれる
「……きっと大丈夫だから」
「うん」
直ぐにタクシーを呼んでくれた隆と二人で外に出ると雪はまだ少しだけ降っていて、エントランスで二人で体を寄せ合いお互いに何も話さずただじっとタクシーを待っていた。雪の降り注ぐ景色を見ていると、白い光を放つ車がゆっくりと近付いてきて私達は直ぐに外に出てタクシーに乗り込んだ
場所を言った隆は、私の肩を抱き寄せるとギュッと手を握ってくれた。その優しさとお母さんの安否に思わず溢れそうになってしまう涙をグッと堪えて目を瞑った
「 雪那ちゃん!隆君も来てくれたの~」
「……お母さん、元気そうだね……」
「頭ちょっと打ったのと、捻挫しちゃった」
「……本当に良かった。おばさん他に痛い所無いですか?」
「うん、全然平気よ」
「…………はぁ、本当にビックりした」
心配して疲れたとガックリ肩を落とす私とは反対に良かったと言ってニコニコしている隆にお母さんは「隆君のコーラがひっくり返っちゃって開ける時大変かも~」と呑気な事を言いながらヘラヘラと笑っている
「お母さん捻挫はどっかに挟まったの?骨は大丈夫?検査して貰った?」
「えと、確か車がスリップして横を走っていた車にぶつかったのよ。直ぐに止まったんだけど、驚いて車から出たら雪に足を取られて捻っちゃって頭から道路に倒れちゃって」
「…………それって一人で転んだだけじゃん」
その私の冷たい呟きに、先生と隆は下を向いて少しだけ笑いを堪えていた。先程から私服の男性がお母さんの傍らに居たがどうやら彼がぶつかってしまった相手だったらしく「こちらも不注意で申し訳ありません」と頭を下げてきてくれたので、内心貴方全然悪くないじゃんと思いながら「こちらが大変申し訳ありません」と頭を下げた
先生が帰って大丈夫ですよと言ってくれたので、直ぐに帰宅する事になった。車を取りに行って修理に出さないといけないと言ったお母さんに先程の男性が「僕で良かったら乗せて行きますよ」と言ってくれたので私達は彼に任せる事にした
車まで隆におぶって貰ったお母さんは「うちの息子可愛いでしょ?」と何故か自慢気に男性に話している
「あんまり似てないご兄妹ですね、お二人共美形で羨ましいです」
「嫌だ~、隆君は雪那ちゃんの彼氏なの。でもうちの息子なのよ」
「そうなんですか、賑やかで良いですね」
そんな会話が繰り広げられていて、お母さんを背負う無言の隆と私は早々と足を進めていた。お母さんを男性の車に乗せ「家の下に着いたら連絡して」と言って男性に頭を下げると「2人共先に家まで送ります」と言われてタクシー代もバカにならないので素直に甘える事にした
自宅に帰って来て二人でソファに倒れ込むと緊張の糸が切れたように隆が大笑いしたので私もつられて笑ってしまう
「お前の母ちゃん、本当に面白れぇわ」
「……最初笑えなかったけどね」
「だな。病院で笑うに笑えないし死ぬかと思った」
「あんなの序の口だよ」
「……レベル高いな……」
「……てか、それより怖い話していい?」
「……はっ?何だよ……」
「お母さん今の彼氏と上手くいってないんだよね。……しかもさっきの人多分お母さんのタイプ」
「………何て言っていいか分かんねぇ」
「うちのお母さんの凄い所は本当に欲しい人は必ずゲットするんだよ。これ割とマジで」
「……娘もソックリじゃん」
その言葉にポカンと口を開けた私を見て隆はブッと吹き出して笑った。「……確かに」と言った私に隆は「他に欲しい人出来んなよ」と冗談ぽく言ってきたので「馬鹿」と言って頬を膨らませた
予感が的中したのが分かったのはそれから3日が過ぎた31日、大晦日だった。朝起きるとお母さんは家に居なくてあの足で何処に行ったんだとLINEするとこの間の男性とデートしてると返信が来た。それを見て溜息を吐いてから昨日購入しておいた材料を取り出して簡単な御節とお雑煮を作る事にした
御節は23、4歳くらいの時に挑戦した事があっただけで上手に出来るかは分からなかったから動画やネットに従って作ると以外に時間が掛かってしまって、箱詰めが終わったのは15時を過ぎていた。それからお雑煮を煮込んでいるとLINEに入ってきた隆からのメッセージには「今日母ちゃんといんの?」だったので直ぐに発信ボタンを押した
「もしもし?」
「おー、母ちゃん足大丈夫か?」
「母ちゃんはデートに行きました」
「……マジか。雪那の予想通り早かったな」
「今隆の家分の御節とお雑煮作ったから取りにおいでよ」
「マジで?お前御節とか作れんの?」
「……動画見て作ったから美味しいか分かんないけど、おばさんいつも仕事忙しいし大晦日くらいゆっくりさせてあげないと」
「……ありがとうな」
「うちのお母さんはデートに忙しい無職だから」
「笑わせんな。とりあえず1回行くわ」
「はーい」
そんな会話をして電話を切りお雑煮を煮込んでいると30分くらいして、玄関が開いた。リビングのドアから顔を出した隆は茶色の紙袋を私に渡してきたので、すんなりと受け取ると紙袋の中には可愛らしい白のファーのバッグが入っていて手紙が添えられている
雪那ちゃんへ
隆がいつもお世話になっております
ルナとマナにクリスマスプレゼントやいつも家にまでご飯届けてくれてありがとう
おばさんから雪那ちゃんに遅れたけどクリスマスプレゼントです
と綺麗な文字が並んでいた。お化粧ポーチに丁度良い可愛いファーバッグを取り出して、重箱の中身を見ている隆に「見てみて~貰っちゃった」と見せびらかすと「良かったな」と少し微笑んだ
「おばさんに付き合ってる事言ったの?」
「……ああ。雪那のおばさんが事故って怪我したから病院行ったって話してたら、あんたの誕生日にハンバーグ届けてくれたのって雪那ちゃん?て聞かれて」
「懐かしい」
「そうだって言ったら、仲良いねって言われたから彼女だからって言った。母ちゃん目ん玉飛び出るくらい驚いてたけどな」
「えっ?何で?」
「女の子に興味無いのかと思ってたって」
「……そういえば隆って好きな人居た事無いんだ」
「ねぇな。幼稚園の時に先生が好きだったくらい」
「…何か…腹立つわ」
そう言った私にゲラゲラと笑い出した隆はお腹を抱えていた。「お前小学生みたいだな」と言いながら笑うのを止めない隆にムスッとしながら煮込んでいたお雑煮の味見をすると、沢山野菜とお肉の出汁が出ていて優しくコクがある味わいがした。
「良し上出来。隆これおばさんに持って行って」
「 分かった、置いたらまた来るから」
「うん」
朝起きてお母さんが居なかったから大晦日は1人かと思っていたけど、隆が居てくれるなら良かったと私はちょっとお母さんに感謝してしまった。隆が出て行って直ぐにトイレとお風呂場を掃除していると帰って来た隆が私の姿を見てリビングに掃除機を掛けてくれていた
「ありがとうね、隆んちは掃除終わったの?」
「ウチは小せぇから直ぐ終わった。明日初詣行く?」
「寒いから直ぐ帰るなら行く」
「……だな。今日はコタツで過ごすか」
「賛成」
夕飯作りも終わったし、簡単に掃除も終わったのでコタツに入った隆にピッタリくっ付いて大晦日の特番を見て二人で過ごしていると、20時を過ぎた頃に隆の電話の音が鳴り、電話を取った隆の話し方からどうやら遊びに誘われていて断っている様子が伺える。
隆に寄り添っていたので通話相手の声がこちらまで聞こえてきて、その懐かしい声と話し方に思わず会いたくなってしまう。「今彼女の家に居るから」と言った隆に「はっ?お前嫁いんの!?ふざけんな」と言った電話越しのドラちゃんの声に吹き出した私を見て隆は「ははは」と乾いた笑いをこぼした
「……三ツ谷お前いつから嫁いんだよ」
「クリスマスくらいか。今日はさみぃし御節と雑煮作ってくれたから家から出ねぇ予定」
「……俺にも食わせろ」
「沢山あるからいいよー」
「おい、雪那 」
「今の嫁?良いってよ三ツ谷」
「……仕方ねぇなぁ」
私を見て溜息を吐いた隆はうちの住所を言うと電話を切って私をジトっと見つめた
「……本当に良いのか?ドラケンはちょっと見た目怖ぇぞ」
「平気。それよりお腹空いてると思うからお雑煮あっためる」
ドラちゃんに会える喜びにワクワクしているのをバレない様に鍋を温め直していると、インターホンが鳴ったのはそれから20分くらいしてからで、直ぐに隆がかったるそうに玄関に歩いて行った。リビングから顔を出した幼いドラちゃんに嬉しくなって微笑むと、ひょっこりドラちゃんの脇から顔を出したのはマイキーだった
「あら、マイキー君も来てくれたんだ」
「……やっぱり雪那ちゃんが嫁だったか」
「 雪那ちゃんて真一郎君の話の子か?」
「そうそう。雪那ちゃん、傷は大丈夫?」
「平気だよ、もう痛くないし。寒い中来てくれてありがとう2人共座ってね」
「あ、俺龍宮寺堅です。よろしくな」
「うんうん、こちらこそよろしくねドラちゃん」
その私の言葉に固まったドラちゃんに、マイキーと隆がゲラゲラと笑い出してドラえもんかよとお腹を抱えた
「随分可愛いあだ名だな」
「ふふふ、ドラちゃんとマイキー君はコーラで大丈夫?」
「ドラちゃんコーラで良いのか?」
「……マイキーやめろや」
「マイキーこれ以上笑わせんなよ」
「隆悪いんだけどジュース出してあげて。私お雑煮よそうね」
「ああ」
皆に食べたいお餅の数を聞いてオーブンで焼いていると、重箱と取り皿とお箸を運んでくれている隆は何だかんだ言っても2人が来てくれて楽しそうだった
お餅を沢山入れたお雑煮を3人に渡すと「頂きます」と丁寧に言ってくれる3人に私は自然に笑みがこぼれた。3人が笑いながら食事をする様子を見ていると、この先どんな事があって殺人や犯罪の渦に巻き込まれて行くのか全く検討がつかない。ドラちゃんもマイキーも髪が短く幼くて可愛らしいなと思い物思いにふけっていると目が合ったドラちゃんが口を開いた
「 嫁って、年上?」
「真一郎君にも言われたんだけど同い年だよ。隆と同じ学校」
「……あ!そう言えば三ツ谷のコルク半スゲェかっこよかった」
「はっ?あれ嫁が選んだの?」
「うーん、真一郎君がチョイスしてくれたからあんなにカッコ良くなったんだけどね」
「 雪那ちゃん聞いてよ、三ツ谷あれに触ると怒るんだよ」
「……マイキーが汚れた手で触るからだろ」
「ふふ、大事にしてくれてるなら良かったよ。でも頼むから捕まらないでよ、2人もね」
「「「へーい」」」
3人のやる気の無さそうな返事に肩を落とした私は「おかわり」と言ってお椀を差し出して来たマイキーのお椀を受け取りまだ熱いお雑煮をよそった。そういえばマイキーは強いとか隆に聞いた事があったから丁度良い機会なので聞きたい事を聞いてみる事にした
「マイキー君さ、空手とか格闘技とか詳しいかな?」
「え?何で?」
「身を守る様な技を教えてくれる所あったら教えてくれないかな?」
そう言った私はお椀をマイキーに渡してコタツに足を入れた。少しだけ眉を下げた隆の表情から目を逸らすとマイキーは私を見つめた
「 雪那ちゃんが習いたいの?」
「……うん、何か身を守るのも大事なんだなって思ったからさ。私が何か対処が出来てたら自分が怪我しなかったし、皆にも心配かけなかったからさ」
「……てか嫁スゲェな。一虎の鉄パイプの前に飛び出したんだろ?」
「……スゲェっていうか俺は心臓止まるかと思ったわ」
「ははは、怖いより真一郎君が死んだらヤバいしか頭に無かったんだよね」
「 雪那ちゃんは何で真一郎をそこまで思ってくれたの?聞いたらあの時1回しか会って無かったよね?」
「……うーん。真一郎君がいい人だったのもあるかな。後は隆が悲しむし……。でも目の前で実際に殺されそうな人居たらやっぱり体動いちゃうよ」
そう言った私に「普通動けねぇ場合のが多いから」と言われてそういえばそうだなと思った。あの時は真一郎君を必ず助けるって強い覚悟があったから動けたんだ。いきなりあの場面に直面したら普通は動けないかもしれない
「……確かにそうだよね。あの時は覚悟があったから動けたけど……次は動けるか分かんないや……」
「 雪那、頼むからもう無茶しないでくれ」
そう言った隆に2人も頷いたので私もはいと言って頷いた
「嫁の傷、雨の日とか痛んだりしねぇか?」
「ああ、そういえばたまにあるかな」
「…… 雪那ちゃん、傷跡残ってんの?」
「 雪那の傷は一生残るって俺とこいつの母ちゃんに医者が言ってきた」
それを聞いて悲しそうな顔をしたマイキーに「真一郎君を助けれたから安いもんだ」とニッと笑うと「変な奴だな」と呆れた様に笑ったマイキーは昔のマイキーに重なって見えた
「一虎はあれから変わったよな」
「無茶しなくなったしな」
「……本当に良かった」
胸を撫で下ろした私を複雑な表情で見ている隆を見てやっぱり感の良いドラちゃんは何か思う所がある様だった。ふと、マイキーを見ればテーブルに顔を置いてスヤスヤと寝息を立てている
「……マイキー君寝るのはやっ」
「いつもこうなんだよ。今日はまぁ頑張ったんじゃね?」
「だな」
「嫁、これからは無茶するなよ。三ツ谷に相談出来ない事があったら必ず俺に相談しろ」
「……ふふ。ありがとうドラちゃん」
「……俺に相談出来ねぇ事がまず無い事を祈るわ」
「……てかさ、突っ込んで良い?三ツ谷」
「なんだよ」
「そのペアリング、お前があげたの?」
「……他に誰があげんだよ」
「……ふーん」
ドラちゃんは私を見るとフッと薄く微笑んで「大事にしてもらえよ」言ってくれた。その言葉を貰ったのは2回目だった
「……あのさ、聞きたい事があるんだけど」
「ん?」
「私の事……好きだって思っていいの?」
「…おい…当たり前だろ。俺が好きでも無い奴にキスする様に見えんのかよ」
「……見えないけど……ちゃんと聞きたくて」
「そういえば言って無かったもんな」
「……うん」
「……俺は雪那の事好きだから。ちゃんと付き合ってくんね?……大事にするからさ」
「……うん」
ジーンとその言葉が胸に響いて、少しだけ照れている隆の両頬を優しく包み背伸びをして彼の唇に口付ける。柔らかい唇に口付けしていると、何だか感極まり過ぎて気持ちが抑えられなくなってきてしまい隆の唇を優しくこじ開ける様にして舌を入れた。その瞬間、私の背に回っていた隆の手が硬直したのが分かったけれど自分の熱がおさまらなくて、少しだけ申し訳無いと思いながら隆の舌に自分の舌を絡ませた
ゆっくりと唇を離すと、まだ少し驚いた様な顔をしている隆に愛しさが溢れた。12歳の体ではあるけれどやっぱり大人だからか相手が隆だからか、彼を見ていると可愛くて仕方なくなってしまうなと思う。同い年なのに何故か少し罪悪感を感じてしまう自分が不思議だ
「………」
「……ごめん……いきすぎた、かな?」
「……お前、本当に初めて?」
「うん。……ちょっと気持ちが高ぶっちゃって……ごめんね」
「……ふーん」
えへへとちょっと可愛い子ぶった私の事を見た隆は少しだけニッと笑うと、私の顎を掴み唇を合わせ私の唇の中にそっと舌を入れてきた。隆の舌が自分の舌の裏側を優しく舐め絡まる様に動いてきて、再開したあの日にした口付けを思い出してしまったけれど今回は何だか悲しくならなかった
どうしよう、ちょっとだけ気持ち良くなって来ちゃったと内心思っているとゆっくりと唇が離れて何故か気分が良さそうな顔をしている隆は「お返し」と言ってイタズラっ子の様に笑った
「んもぉ。隆だって初めてじゃないんじゃないの?」
「んな訳ねぇだろ」
否定した隆に内心胸を撫で下ろしていると、そういえば呼び出しておいて飲み物も出していない事に気付いてポットに火を掛け直そうとキッチンに向かう
「ごめん。そういえば飲み物も出してない。今珈琲出すから飲んで」
「……いいよ。もう夜遅いしそろそろ帰る」
「……帰っちゃうの?」
「……何だよ、お前何か急に女の子だな」
「今までずっと我慢してたからね。……でも、おばさん心配するから今日はもう帰りな」
「……お前が寝るまで一緒に居るよ。今日くらい良いだろ?」
「ふふ……気使ってくれてありがと」
「使ってねーよ。……俺もお前と居たいだけだ」
少し驚いて隆を見れば自然と目を逸らされて「風呂だけ借りていい?」と聞かれたので頷いた。火にかけたポットからボコボコと音が聞こえて、そちらに目を向ければ隆はもう脱衣場の方に歩いて行ってしまっていた。
遠い記憶だが、隆と付き合っている時に照れたり妬いたりされた事も余り無かったので13歳の隆がたまに照れたり戸惑っていると凄く新鮮な気持ちだった。余りエスカレートして調子に乗ると怒られそうだけど、気持ちが高ぶると行動してしまう自分を許して欲しい
珈琲を蒸らして、その香りを楽しんでいると久しぶりに何だか幸せな気分を感じて胸がいっぱいになった
ずっとこの日をまずは第1目標で頑張って来たけど、付き合うのは2年の終わりだって思っていたから何だかんだ1年早く付き合えたなと思うと思い出を沢山作りたくなった。どうせなら隆みたいに不良になってみようかと思ったけれど別に喧嘩も単車も好きじゃない私にとってはそれは苦痛な選択かと思う
大人になってから若い頃にしてみたかった事は何だろうと珈琲を啜りながら考えていると、特に浮かんでは来なかったのはやりたい事は何だかんだやってきたからだと思った。それなら新しい事にチャレンジしてみようかと思うと少しだけワクワクする
でも、新しい事を探すのがまた困難何だよなと思い溜息を吐きながらマグカップ片手にソファに座れば脱衣場からドライヤーの音が聞こえて、隆が家に居るんだなって何だか再確認して一人で嬉しくなった
それから、二人でソファに座り夜中まで映画を見たり他愛の無い話をしたりしているといつの間にかお互いソファで眠っていた。1度寒くて目が覚め、まだ外は薄暗く朝方の様だと分かる。部屋に毛布を取りに行くと私が居なくなって寒いのかソファで丸くなって眠る隆に自然と笑みが溢れた。厚めの毛布を掛けてやり、彼の胸に顔を寄せて背中に手を回して冷たくなった体を擦りながら眠りについた
眩しいなって感じて目が覚める。目を開けて起き上がると隆の姿は無かったので帰ったのかなと思いテーブルに置いてある携帯で時刻を確認するともうお昼を大分過ぎていた
「……シャワーでもするか」
フラフラと酔っ払いみたいな足取りで脱衣場に入り歯ブラシをしながら服を脱いでそのままシャワーを浴びた。熱いお湯を浴びていると、段々と目が覚めてきてふと昨日二人で映画を見ている時に話していた話を思い出した
『 雪那が告白されてた時に言ってた言葉が凄く印象に残ってさ。……凄い凄い好きな人がいて、その人にしか触れられたく無いって言っててそれは誰なんだろうって気になってた』
『……そういえば聞いてたって言ってたもんね』
『……そしたらさ、さっき写真立て踏んじまって、やべぇと思って拾ったら俺が写ってたから……。あれって俺の事だと思ったら何かすげぇ嬉しくて、お前の事抱き締めたくなった』
そこまで話してくれた隆は私の指に自分の指を絡めると触れるだけの口付けをしてくれた。画面を見ていたけれど、映画何てもはやどうでも良くなって隆にくっついてその温もりだけ感じていた
思い出したらニヤニヤして来てしまって、風呂を出てご機嫌でドライヤーを当てていると何か物音がした気がしたが特に気にせずに髪を乾かしていると脱衣場の扉が少しだけ開いて「服着てる?」と隆の声がした
「まだ着てない、ちょっと待ってて」
「おー。」
1度家に帰ってまた来てくれたのかなと嬉しくなって乾いた髪を梳かしてから着替え廊下に出ると、リビングに居ると思っていた隆は私の自室でミシンを動かしていた。何となくミシンを動かす彼の後ろ姿を見ていると、勉強机の上に置いてある紙袋が目に入った
「何?これ」
「……ああ。雪那にクリスマスプレゼント」
「……見ても良い?」
「ん」
余程集中しているのか、声をかけてもこちらを見ようともしない隆への目線を紙袋に戻して中を覗くと小さな掌サイズの黒い箱が入って居た。箱を手に取り少しドキドキしながら開けると、少しだけピンクに輝いたゴールドのリングが入っていて私は目を見開いた
「……ゆ、指輪?……結婚しようって事?」
「…凄い脳内だな。流石に早ぇし言ってねぇよ」
「……えへへ」
「裏見て。一応付き合った記念に日付入れて貰った」
リングを手に取って裏側に目を向けると、12月23日と日付が入っていた。その横にtakashiとローマ字で入っている名前に胸がときめいたのが分かり自然と笑みが溢れる。しかし、直ぐに指輪を左手の薬指に嵌めると緩過ぎてその場で固まってしまう
「……それ、右手の薬指用だぞ」
「ええ?!てか、何でサイズ知ってるの?」
「お前が寝てる間に測ったから」
隆に言われた通りに右手の薬指に嵌めるとサイズは確かにピッタリだった。今直ぐに彼を抱きしめたいけれど、ミシンを動かす手を止めないので手を掲げて指輪が光る自分の手を飽きずにずっと見ていると少し経ってから「出来た」と言った隆は立ち上がる。手に持った薄い紫色の布を私に見せる様に広げた
「……凄い可愛い……」
「短時間で作った割には良いだろ、雪那は紫好きだし」
淡いパープルのマフラーを持ってニシシと歯を見せて笑う隆にそのまま飛び付くと、がっしりと私を受け止めてから優しく首に巻いてくれたマフラーは暖かかった。サラりと乾かしたての私の髪を撫でる隆の右手にあるリングに目を見開いて「お揃いなの?」と驚くと「ん?何でそんなに驚くんだよ?」と聞かれ思わず口を噤んだ
私が居た世界の隆は、私がお願いすればお揃いの物とかを買ってくれたり付けてくれたりはしてくれたけど
自分からそうゆう事はしなかったので比べるのも何だけど私的には驚愕してしまう様な出来事だった
「……ちょっと見せて」
「ああ」
隆の右手の薬指からシルバーのリングを外すと裏に刻印されていたのは12月23日の日付けと私の名前のローマ字だった。そのリングを握り締めて隆の胸を抱き締めると本当に嬉しかったのか涙が少しだけ出てきてしまい、涙声で「本当にありがとう。生きてて1番嬉しい」と言った私に隆は「大袈裟だな」と嬉しそうに声を出して笑った
「……あんなに俺を好きだって言ってくれるお前なら、ちょっと恥ずかしがったけどお揃いのが喜びそうだと思ったんだ」
「………お揃いのが嬉しいよ」
「…… 雪那、こっち向いて」
ゆっくりと顔を上げると、私の頬を流れた涙に口付けしてから唇に触れるだけのキスを落としてくれる。隆の右手を取り、握りしめていたリングを薬指に嵌めると何だか彼は私の物では無いけれど私のなんだなって凄くしっかりと自覚が持てた気がした
誰かに聞かれたら彼女なんだって言っても良いんだなと思うと口には出せないけど嬉しくて堪らなくなった
大晦日の前の日には帰るとラインがお母さんから来ていて、29日に帰宅したお母さんは彼氏と喧嘩したのか最初は機嫌が悪そうだったけれど、ご飯を作っている私の右手に光るリングを見て目を見開き「 雪那ちゃん彼氏出来たの?」と見開いた目をまん丸にして来たお母さんに「隆から貰った」と微笑むと、何故か万歳して上機嫌になった母に呆れながら笑ってしまった
「三ツ谷君凄い可愛いからお母さん嬉しいな」
「うーん、不良だけど優しいししっかりしてるしね。妹の面倒みて来たから頼りがいもあるし」
「学生の頃はちょっと悪い子に憧れるわよね、お母さんの好きだった人はリーゼントだったな~」
「……不良が好きなんじゃなくて隆の存在が好きなの。一緒にしないで」
「……何よ、雪那ちゃんの意地悪」
「はいはい、カレー出来たから食べようね」
「お母さん目玉焼き付けて欲しい」
「はいはい」
久しぶりにお母さんとご飯を食べて、お母さんの彼氏の愚痴を聞いたり隆の事で質問責めにあってるとLINEに入って来たメッセージは隆からで『今マイキーんちから帰ってる所何だけど家に寄っていい?』と入っていた。大丈夫だよと返してからお母さんに「隆来るから部屋片付けるね」と言って洗い物を頼むとまだ機嫌が良いのか「分かった」と珍しくやる気のある返事をしてきたので少し吹き出してしまった
玄関の鍵を開けてから自室の掃除をしていると、15分くらいしてインパルスの音が遠くで聞こえ、そこから割と直ぐに窓から足音が聞こえて玄関が開いた。開いた瞬間にバタバタとリビングから走る様な音が聞こえて、思わず自室の扉を開けるとお母さんが隆の手を握りブンブンと手を振りながら「隆くん、雪那ちゃんと付き合ったんでしょ?おめでとう」とはしゃいでいた
「おばさん久しぶりです、お付き合いさせて貰ってます。よろしくお願いします」
「隆君なら安心だわ、雪那ちゃん怒ると怖いから浮気は駄目よ~」
「……絶対しないんで大丈夫です」
「……お母さん、やかましいわ」
「隆君、雪那ちゃんが意地悪する」
「……ははは」
うちのお母さんの攻めに珍しく隆が困惑していてちょっと面白かったけど、余り長いと可哀想なので「隆、カレー食べてきなよ」と助け舟を出すと「腹減ってるから有り難い」と微笑んだ隆の手を引っ張りキッチンに向かって歩き出すと呼び止められて二人で振り返る
「 お母さんちょっと買い物行ってくるけどジュース何がいい?隆君何飲みたい?」
「すみません、おかまいなく」
「私紅茶が良い、隆はコーラ」
「はーい、じゃあ行ってくるね」
「気をつけて下さいね」
隆に言われたのが嬉しかったのか微笑んだお母さんは右手に財布と車のキーケースを持ち玄関を出て行った。「相変わらず可愛い母ちゃんだな」と呟いた隆に苦笑いをしてからキッチンに入りカレーを温め直していると「何か手伝う?」と言ってくれた隆に目玉焼きをお願いした
カレーを食べる隆と冬休みの宿題の話をしたり、マイキー君達と今日ちっちゃな雪だるま作って遊んでた何て可愛い話を聞いていると、携帯にお母さんから電話が掛かってきたので、きっと飲み物の種類を忘れたんだなと思い直ぐに通話ボタンを押した
もしもしと電話に出れば、聞こえて来た男性の声に少しだけ眉を寄せた
「……すみません、どちら様ですか?」
そう返した私にその男性は少し戸惑った様子で口を開いた「貴方のお母様の車とぶつかってしまって、今娘に電話すると言ってる最中に気を失ってしまったので私が代わりに話をしています。今救急車が到着したので病院に来て貰えませんか?」
後ろで鳴るサイレンの音がその話は本当なんだと物語っていて、私は少し震えた手に力を込めると隆を見た
「……どした?」
「……お母さんが事故……救急車今来てるって」
「電話貸せ」
直ぐに渡した電話を受け取った隆は「病院どこですか?」と聞いていて私はその様子を黙って見ているしかなかった。昨日から雪がちらほら降っていて道路が滑りやすかったのかもしれない。記憶の中でお母さんが事故にあった事は1度も無かった。予定よりも早く私達が付き合って、気を利かせたお母さんが買い出しに出かけ事故を起こした
私達が付き合ってなかったら、お母さんは今日出かけ無かったし事故に合わなかったんでは?と想うと全身に鳥肌が立った
「 雪那、病院行くぞ」
「あ、うん」
上の空の私の腕を掴んだ隆は「インパルスで行けねぇからタクシーで行くぞ」と言って私を立たせると1度優しく抱きしめてくれる
「……きっと大丈夫だから」
「うん」
直ぐにタクシーを呼んでくれた隆と二人で外に出ると雪はまだ少しだけ降っていて、エントランスで二人で体を寄せ合いお互いに何も話さずただじっとタクシーを待っていた。雪の降り注ぐ景色を見ていると、白い光を放つ車がゆっくりと近付いてきて私達は直ぐに外に出てタクシーに乗り込んだ
場所を言った隆は、私の肩を抱き寄せるとギュッと手を握ってくれた。その優しさとお母さんの安否に思わず溢れそうになってしまう涙をグッと堪えて目を瞑った
「 雪那ちゃん!隆君も来てくれたの~」
「……お母さん、元気そうだね……」
「頭ちょっと打ったのと、捻挫しちゃった」
「……本当に良かった。おばさん他に痛い所無いですか?」
「うん、全然平気よ」
「…………はぁ、本当にビックりした」
心配して疲れたとガックリ肩を落とす私とは反対に良かったと言ってニコニコしている隆にお母さんは「隆君のコーラがひっくり返っちゃって開ける時大変かも~」と呑気な事を言いながらヘラヘラと笑っている
「お母さん捻挫はどっかに挟まったの?骨は大丈夫?検査して貰った?」
「えと、確か車がスリップして横を走っていた車にぶつかったのよ。直ぐに止まったんだけど、驚いて車から出たら雪に足を取られて捻っちゃって頭から道路に倒れちゃって」
「…………それって一人で転んだだけじゃん」
その私の冷たい呟きに、先生と隆は下を向いて少しだけ笑いを堪えていた。先程から私服の男性がお母さんの傍らに居たがどうやら彼がぶつかってしまった相手だったらしく「こちらも不注意で申し訳ありません」と頭を下げてきてくれたので、内心貴方全然悪くないじゃんと思いながら「こちらが大変申し訳ありません」と頭を下げた
先生が帰って大丈夫ですよと言ってくれたので、直ぐに帰宅する事になった。車を取りに行って修理に出さないといけないと言ったお母さんに先程の男性が「僕で良かったら乗せて行きますよ」と言ってくれたので私達は彼に任せる事にした
車まで隆におぶって貰ったお母さんは「うちの息子可愛いでしょ?」と何故か自慢気に男性に話している
「あんまり似てないご兄妹ですね、お二人共美形で羨ましいです」
「嫌だ~、隆君は雪那ちゃんの彼氏なの。でもうちの息子なのよ」
「そうなんですか、賑やかで良いですね」
そんな会話が繰り広げられていて、お母さんを背負う無言の隆と私は早々と足を進めていた。お母さんを男性の車に乗せ「家の下に着いたら連絡して」と言って男性に頭を下げると「2人共先に家まで送ります」と言われてタクシー代もバカにならないので素直に甘える事にした
自宅に帰って来て二人でソファに倒れ込むと緊張の糸が切れたように隆が大笑いしたので私もつられて笑ってしまう
「お前の母ちゃん、本当に面白れぇわ」
「……最初笑えなかったけどね」
「だな。病院で笑うに笑えないし死ぬかと思った」
「あんなの序の口だよ」
「……レベル高いな……」
「……てか、それより怖い話していい?」
「……はっ?何だよ……」
「お母さん今の彼氏と上手くいってないんだよね。……しかもさっきの人多分お母さんのタイプ」
「………何て言っていいか分かんねぇ」
「うちのお母さんの凄い所は本当に欲しい人は必ずゲットするんだよ。これ割とマジで」
「……娘もソックリじゃん」
その言葉にポカンと口を開けた私を見て隆はブッと吹き出して笑った。「……確かに」と言った私に隆は「他に欲しい人出来んなよ」と冗談ぽく言ってきたので「馬鹿」と言って頬を膨らませた
予感が的中したのが分かったのはそれから3日が過ぎた31日、大晦日だった。朝起きるとお母さんは家に居なくてあの足で何処に行ったんだとLINEするとこの間の男性とデートしてると返信が来た。それを見て溜息を吐いてから昨日購入しておいた材料を取り出して簡単な御節とお雑煮を作る事にした
御節は23、4歳くらいの時に挑戦した事があっただけで上手に出来るかは分からなかったから動画やネットに従って作ると以外に時間が掛かってしまって、箱詰めが終わったのは15時を過ぎていた。それからお雑煮を煮込んでいるとLINEに入ってきた隆からのメッセージには「今日母ちゃんといんの?」だったので直ぐに発信ボタンを押した
「もしもし?」
「おー、母ちゃん足大丈夫か?」
「母ちゃんはデートに行きました」
「……マジか。雪那の予想通り早かったな」
「今隆の家分の御節とお雑煮作ったから取りにおいでよ」
「マジで?お前御節とか作れんの?」
「……動画見て作ったから美味しいか分かんないけど、おばさんいつも仕事忙しいし大晦日くらいゆっくりさせてあげないと」
「……ありがとうな」
「うちのお母さんはデートに忙しい無職だから」
「笑わせんな。とりあえず1回行くわ」
「はーい」
そんな会話をして電話を切りお雑煮を煮込んでいると30分くらいして、玄関が開いた。リビングのドアから顔を出した隆は茶色の紙袋を私に渡してきたので、すんなりと受け取ると紙袋の中には可愛らしい白のファーのバッグが入っていて手紙が添えられている
雪那ちゃんへ
隆がいつもお世話になっております
ルナとマナにクリスマスプレゼントやいつも家にまでご飯届けてくれてありがとう
おばさんから雪那ちゃんに遅れたけどクリスマスプレゼントです
と綺麗な文字が並んでいた。お化粧ポーチに丁度良い可愛いファーバッグを取り出して、重箱の中身を見ている隆に「見てみて~貰っちゃった」と見せびらかすと「良かったな」と少し微笑んだ
「おばさんに付き合ってる事言ったの?」
「……ああ。雪那のおばさんが事故って怪我したから病院行ったって話してたら、あんたの誕生日にハンバーグ届けてくれたのって雪那ちゃん?て聞かれて」
「懐かしい」
「そうだって言ったら、仲良いねって言われたから彼女だからって言った。母ちゃん目ん玉飛び出るくらい驚いてたけどな」
「えっ?何で?」
「女の子に興味無いのかと思ってたって」
「……そういえば隆って好きな人居た事無いんだ」
「ねぇな。幼稚園の時に先生が好きだったくらい」
「…何か…腹立つわ」
そう言った私にゲラゲラと笑い出した隆はお腹を抱えていた。「お前小学生みたいだな」と言いながら笑うのを止めない隆にムスッとしながら煮込んでいたお雑煮の味見をすると、沢山野菜とお肉の出汁が出ていて優しくコクがある味わいがした。
「良し上出来。隆これおばさんに持って行って」
「 分かった、置いたらまた来るから」
「うん」
朝起きてお母さんが居なかったから大晦日は1人かと思っていたけど、隆が居てくれるなら良かったと私はちょっとお母さんに感謝してしまった。隆が出て行って直ぐにトイレとお風呂場を掃除していると帰って来た隆が私の姿を見てリビングに掃除機を掛けてくれていた
「ありがとうね、隆んちは掃除終わったの?」
「ウチは小せぇから直ぐ終わった。明日初詣行く?」
「寒いから直ぐ帰るなら行く」
「……だな。今日はコタツで過ごすか」
「賛成」
夕飯作りも終わったし、簡単に掃除も終わったのでコタツに入った隆にピッタリくっ付いて大晦日の特番を見て二人で過ごしていると、20時を過ぎた頃に隆の電話の音が鳴り、電話を取った隆の話し方からどうやら遊びに誘われていて断っている様子が伺える。
隆に寄り添っていたので通話相手の声がこちらまで聞こえてきて、その懐かしい声と話し方に思わず会いたくなってしまう。「今彼女の家に居るから」と言った隆に「はっ?お前嫁いんの!?ふざけんな」と言った電話越しのドラちゃんの声に吹き出した私を見て隆は「ははは」と乾いた笑いをこぼした
「……三ツ谷お前いつから嫁いんだよ」
「クリスマスくらいか。今日はさみぃし御節と雑煮作ってくれたから家から出ねぇ予定」
「……俺にも食わせろ」
「沢山あるからいいよー」
「おい、雪那 」
「今の嫁?良いってよ三ツ谷」
「……仕方ねぇなぁ」
私を見て溜息を吐いた隆はうちの住所を言うと電話を切って私をジトっと見つめた
「……本当に良いのか?ドラケンはちょっと見た目怖ぇぞ」
「平気。それよりお腹空いてると思うからお雑煮あっためる」
ドラちゃんに会える喜びにワクワクしているのをバレない様に鍋を温め直していると、インターホンが鳴ったのはそれから20分くらいしてからで、直ぐに隆がかったるそうに玄関に歩いて行った。リビングから顔を出した幼いドラちゃんに嬉しくなって微笑むと、ひょっこりドラちゃんの脇から顔を出したのはマイキーだった
「あら、マイキー君も来てくれたんだ」
「……やっぱり雪那ちゃんが嫁だったか」
「 雪那ちゃんて真一郎君の話の子か?」
「そうそう。雪那ちゃん、傷は大丈夫?」
「平気だよ、もう痛くないし。寒い中来てくれてありがとう2人共座ってね」
「あ、俺龍宮寺堅です。よろしくな」
「うんうん、こちらこそよろしくねドラちゃん」
その私の言葉に固まったドラちゃんに、マイキーと隆がゲラゲラと笑い出してドラえもんかよとお腹を抱えた
「随分可愛いあだ名だな」
「ふふふ、ドラちゃんとマイキー君はコーラで大丈夫?」
「ドラちゃんコーラで良いのか?」
「……マイキーやめろや」
「マイキーこれ以上笑わせんなよ」
「隆悪いんだけどジュース出してあげて。私お雑煮よそうね」
「ああ」
皆に食べたいお餅の数を聞いてオーブンで焼いていると、重箱と取り皿とお箸を運んでくれている隆は何だかんだ言っても2人が来てくれて楽しそうだった
お餅を沢山入れたお雑煮を3人に渡すと「頂きます」と丁寧に言ってくれる3人に私は自然に笑みがこぼれた。3人が笑いながら食事をする様子を見ていると、この先どんな事があって殺人や犯罪の渦に巻き込まれて行くのか全く検討がつかない。ドラちゃんもマイキーも髪が短く幼くて可愛らしいなと思い物思いにふけっていると目が合ったドラちゃんが口を開いた
「 嫁って、年上?」
「真一郎君にも言われたんだけど同い年だよ。隆と同じ学校」
「……あ!そう言えば三ツ谷のコルク半スゲェかっこよかった」
「はっ?あれ嫁が選んだの?」
「うーん、真一郎君がチョイスしてくれたからあんなにカッコ良くなったんだけどね」
「 雪那ちゃん聞いてよ、三ツ谷あれに触ると怒るんだよ」
「……マイキーが汚れた手で触るからだろ」
「ふふ、大事にしてくれてるなら良かったよ。でも頼むから捕まらないでよ、2人もね」
「「「へーい」」」
3人のやる気の無さそうな返事に肩を落とした私は「おかわり」と言ってお椀を差し出して来たマイキーのお椀を受け取りまだ熱いお雑煮をよそった。そういえばマイキーは強いとか隆に聞いた事があったから丁度良い機会なので聞きたい事を聞いてみる事にした
「マイキー君さ、空手とか格闘技とか詳しいかな?」
「え?何で?」
「身を守る様な技を教えてくれる所あったら教えてくれないかな?」
そう言った私はお椀をマイキーに渡してコタツに足を入れた。少しだけ眉を下げた隆の表情から目を逸らすとマイキーは私を見つめた
「 雪那ちゃんが習いたいの?」
「……うん、何か身を守るのも大事なんだなって思ったからさ。私が何か対処が出来てたら自分が怪我しなかったし、皆にも心配かけなかったからさ」
「……てか嫁スゲェな。一虎の鉄パイプの前に飛び出したんだろ?」
「……スゲェっていうか俺は心臓止まるかと思ったわ」
「ははは、怖いより真一郎君が死んだらヤバいしか頭に無かったんだよね」
「 雪那ちゃんは何で真一郎をそこまで思ってくれたの?聞いたらあの時1回しか会って無かったよね?」
「……うーん。真一郎君がいい人だったのもあるかな。後は隆が悲しむし……。でも目の前で実際に殺されそうな人居たらやっぱり体動いちゃうよ」
そう言った私に「普通動けねぇ場合のが多いから」と言われてそういえばそうだなと思った。あの時は真一郎君を必ず助けるって強い覚悟があったから動けたんだ。いきなりあの場面に直面したら普通は動けないかもしれない
「……確かにそうだよね。あの時は覚悟があったから動けたけど……次は動けるか分かんないや……」
「 雪那、頼むからもう無茶しないでくれ」
そう言った隆に2人も頷いたので私もはいと言って頷いた
「嫁の傷、雨の日とか痛んだりしねぇか?」
「ああ、そういえばたまにあるかな」
「…… 雪那ちゃん、傷跡残ってんの?」
「 雪那の傷は一生残るって俺とこいつの母ちゃんに医者が言ってきた」
それを聞いて悲しそうな顔をしたマイキーに「真一郎君を助けれたから安いもんだ」とニッと笑うと「変な奴だな」と呆れた様に笑ったマイキーは昔のマイキーに重なって見えた
「一虎はあれから変わったよな」
「無茶しなくなったしな」
「……本当に良かった」
胸を撫で下ろした私を複雑な表情で見ている隆を見てやっぱり感の良いドラちゃんは何か思う所がある様だった。ふと、マイキーを見ればテーブルに顔を置いてスヤスヤと寝息を立てている
「……マイキー君寝るのはやっ」
「いつもこうなんだよ。今日はまぁ頑張ったんじゃね?」
「だな」
「嫁、これからは無茶するなよ。三ツ谷に相談出来ない事があったら必ず俺に相談しろ」
「……ふふ。ありがとうドラちゃん」
「……俺に相談出来ねぇ事がまず無い事を祈るわ」
「……てかさ、突っ込んで良い?三ツ谷」
「なんだよ」
「そのペアリング、お前があげたの?」
「……他に誰があげんだよ」
「……ふーん」
ドラちゃんは私を見るとフッと薄く微笑んで「大事にしてもらえよ」言ってくれた。その言葉を貰ったのは2回目だった
