歩くような速さで
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耳鳴りがしてゆっくりと目を開けた
ハウリングの様な音が耳をつんざき片目を思わず閉じながら歯を食いしばった。見慣れた自室で間取りも変わっていないけれど部屋のインテリアが違うし自室に勉強机があったのは確か小学校6年に買って貰ってから18歳までだった気がする
「……夢?……隆、は?」
額に穴が空き遺体となった隆が目の前に居たはずなのにどうゆう事なんだと軽くパニックになった頭で思わず自室のドアを開けて廊下に出ると強烈な香水の匂いがして私は眉を顰めながらリビングに通じるドアを開けた。真っ暗なリビングの電気をつければテーブルには食べ残しのお弁当と割り箸が置いてあり、何だかそれを見ていると先程自分が食べた物に感じて不思議に思う
ふとポケットに手を入れると硬い物が手にぶつかり取り出して見るといつも使っている自分の携帯で、画面に触れると表示されたのは私と麗奈の姿。しかし、食器棚のガラスに映る自分はその姿よりも随分と幼くて思わず携帯を落とし手で顔をパチパチと叩く
ガラスに映る自分も自分の頬を叩いていて思わず溜息が出た。何が何だか良く分からないけれど、明日も学校だし宿題やらなきゃいけないと考えてる自分と隆が生きているか確認したいって自分が居て頭がごちゃごちゃしてくる。自室に1度戻りベッドに転がっているピンク色のダサい携帯を開きLINEを確認すれば三ツ谷隆の連絡先は当たり前の様に無かった。確か私達が仲良くなったのは14歳の寒い時期だった気がするから今はいくつなんだ?と西暦と日付を確認すれば私は今12歳の中学1年生だった
通りで幼い筈だと体を触り納得した。鏡を手に取り綺麗な若い肌と黒髪に何だか違和感を感じるけれど、確かに昔の自分だと認識出来て何だかホッとした様な怖いような感覚に陥ってしまう
胸を撫でて、12歳なら隆は生きてる。大丈夫大丈夫と深呼吸してからベッドに転がり天井を見つめていると携帯から流れてくる聞きなれないメロディーに違和感を感じながら画面を見ればLINEに麗奈からメッセージが来ていた
35ページの問6分かった?
そのメッセージを見てからもう1度強めに自分の頭を叩くと痛みで歯を食いしばったが、やっぱり夢じゃないんだと再確認した。麗奈には悪いけれど今はそれ所じゃないと思い、直ぐに玄関に向かおうとしたけれどふとまだ混乱している自分に気付く。さっきも考えたけれど、隆とは仲良く無いし知り合いとゆうか、この歳だと良くて幼なじみ程度。いきなり家に行って警戒されたり変な印象を与えてしまって中学2年の時に付き合え無かったら困るかもしれない
ここまで考えると、生きている隆の顔を見たい衝動は今はサラサラと消えていった。1度キッチンに戻りテーブルの片付けをしてからお母さんの珈琲を勝手に飲み温まると少しづつだけど頭のごちゃごちゃは少し無くなっていった
とりあえず宿題をして普段通りに過ごしてからまた考えれば良いと決断してから、まずは数学の宿題をやってしまおうと飲みかけの珈琲が入ったマグカップを持ち勉強机に向かった
朝ベッドで目が覚めてもインテリアや体の幼さは変わって居なくて何だかホッとしたけれど、不安に押し潰される様な感覚にベッドから起き上がれなかった。相変わらずお母さんは居ないみたいだし休んでしまおうかとも思ったけれど、やっぱり隆が生きている姿を確認したくて制服に着替えてから早足で登校した
昇降口に着いて直ぐに下駄箱で三ツ谷の名前を探せば、靴が入っている隆の名前を見つけて安心した様にその場にしゃがみこむと我慢していた物が溢れ出るように涙が溢れ落ちていった。何分経ったのか分からないけれど「大丈夫?」と声が聞こえて振り返れば名前も思い出せない様な女の子が私を見つめていた
「 白石さんだよね?……何かあったの?」
「あ……ううん。ちょっとお腹痛くて、でもしゃがんでたら大分良くなったから教室行ける」
「……でも、涙が」
「平気平気、もし無理そうなら保健室行くよ。ありがとうね」
ニッコリと微笑んだ私に、その子は遠慮がちに微笑んでから手を貸してくれて2階の教室まで一緒に来ると同じクラスだったのか、私を窓際の席まで送り届けてから自分の席に座っていた。田中さんだったかな?そんな名前だった気がするなと考えていると直ぐにチャイムが鳴って担任が顔を出した
懐かしいなと思う反面いつもの当たり前の風景な気がした。ふと窓の外を見れば、隆の事ばかり考えていて見ていなかったけど、春風に吹かれながら舞う美しいピンクの花弁に何だか中学生になったんだなと思う自分が居た
授業についていけない何て昔の悩みは無く、all100点取れる自信があったので勉強は大体聞き流す事にして、中学1年の時に何か思い出に残っている事は無いかずっと考えていたけれど。考えれば考える程全く思い出せなくて、そんな事よりも昼休みになったら隆の教室を覗いてみようと思いチャイムが鳴った瞬間に教室から飛び出て隆のクラスの3組に向かった
昼休みはどこのクラスも賑わっているなと思いながら内心ドキドキで廊下を歩き3組の教室を覗けば彼は何処にも居なかった。思わず近くに居た名前も知らない男の子に「三ツ谷君知らない?」と聞けば、無言で指を指した方向に私は自然とそちらを見つめた
「外?」
「うん」
「あ、どうも」
頭を1度彼に下げてから階段を駆け下り、そういえば外の何処だよと思ったけれどとりあえずもう昇降口まで来てしまったので上履きのまま外に出て彼を探し走り回る
不良だったから体育館の裏で林と林田とタバコでも吸ってるのかと思い来てみれば、3年の不良の先輩達しか居なくて今度は校庭に向かって走り出すと1本の大きな桜の木の下にポツンと立っている三ツ谷の姿を見て私は立ち止まった。懐かしいグレーアッシュの長めの髪が春風に揺れて花弁が舞う中で木のてっぺんを見つめている隆の姿に自然と涙が出て来てしまい袖で拭いながら心を落ち着かせる
抱き締めたいって気持ちを抑えて、出てくる涙を堪えながら横顔を見つめた。ずっと見ていたいって気持ちが溢れ出てきて携帯を取り出すとガラケーの方は画質が悪かったので25歳の時に使っていた携帯でズームにしてから彼の横顔を写真におさめて直ぐにポケットにしまい、今はこれで良いと拳を握り締めてからその場を立ち去った
彼を見て、生きてるって事がしっかりと実感出来て何だか今日のミッションが終わった様に感じてしまい4限目も5限目も元々聞く気は無かったけれど、それを通り越して居眠りまでしてしまった。授業が終わり、まだ友達になったばかりの麗奈と放課後に他愛も無い話をしてから帰宅して、慣れていなかったからか隆の姿が見れて安心したのか帰宅した瞬間にどっと疲れが出て夕飯も食べずに朝まで寝てしまった
それから1週間が経って、少しづつ私も落ち着いてきた日曜日。麗奈に誘われて待ち合わせたカラオケに入れば、部屋には全然知らない子も居て目を見開いた
「 雪那 」
固まる私に手招きをする麗奈の隣に座れば「呼んじゃった」と明るく笑う彼女のイタズラっこの様な微笑みに何だか懐かしくなって私も微笑む
「 雪那ちゃん?だっけ?何飲む?」
「俺、飯田。よろしくね」
「ありがとう、 で合ってるよ。じゃあ紅茶で」
優しそうな笑顔を向けてきた男の子二人は麗奈の小学校からの友人で飯田と佐々木だった。LINEで飯田と付き合いたいんだとメッセージしてきた麗奈が可愛くて少し笑ってしまったけれど返信に何か手伝える事あったら言ってねと返した。中学生1年生のノリに付き合えるのかと不安になったけれど、自分の体と脳は12歳何だし特に困る事も無かった。たまに感の良い人に随分と大人びてるねと言われた事もあったけれど、私にとっては普通の事をしているだけだったし特に幼い周りに深く馴染もうと思わない様にしていた
カラオケが終わり4人でファミレスでご飯を食べ解散になった。麗奈は飯田君に送ってもらう様なので、その流れでもう1人の佐々木君の送りますを断るのは申し訳無かったけれど、寄りたい所があるからと言って帰宅した。家から5分のいつものコンビニに寄り、この間撮った隆の写真をコピー機で写真にしてから自宅に帰宅した
その日は、桜の花弁が舞う中の隆の横顔の写真を抱いて私は眠りについた
入学から2ヶ月が経ち、私も大分変わってしまった
最初は少しだけ遠慮していたけれど、段々と環境にも慣れて髪を染めて毛先に緩くパーマをかけた。少し長かったスカートは自分で手直しをして短くし、メイクや眉も弄ると最早誰だか分からないレベルになってしまって学校に行った時は最初先生に呼び出されたけれど、特にそれからは誰にも何も言われなかった
25歳の私からしたら、眉がボーボーで似合わない黒髪をしているよりはずっと良いと思ったので何だか垢抜けてスッキリとした感じだった。元々お母さんが美人でパッチリと大きな瞳は似ていたので、綺麗な若い肌に戻り、美しくメイクしたり生地や材料を揃えて自分に似合う服やアクセサリーをお小遣いの中から作るのは凄く楽しかった
ただ、少しだけ困り事が増えた
学校の屋上は人気は無くもうすぐ梅雨になるからか雨が降りそうな天気だった。「白石さん、付き合って下さい」と言われ目の前の先輩だと思うが名前も知らない男の子に「ごめんなさい」と頭を下げて彼が立ち去るのを静かに待つ。「好きな人でもいるの?」と聞かれてゆっくりと1度首を縦に振る。これを何回繰り返しただろう
彼が立ち去ってから教室に戻り鞄を取ってから昇降口で靴を履き変えようとすれば、ローファーの上に置かれていた手紙を取り鞄に入れた。返事しなくていいかな、まずいかな?何て思うと億劫だったけれど、隆を愛する自分の気持ち、彼等が自分を好きだと言ってくれる気持ち。同じだけど同じじゃない。何だか色々考えて返事だけは失礼の無い様にしっかりとする事にした
たまに廊下ですれ違う隆を見れた日、その1日は凄く幸せだった。早く中学2年になってルナとマナと猫ちゃんのたかしを拾う日が来ないかと待ち遠しくて堪らない。そんな事を考えながら曇り空を見つめ早足で歩いていると、ポツポツと大きな粒が私の頬に降り注いで来て眉を寄せながらキョロキョロと当たりを見渡した。閉店と看板が下がった小さな文房具店はシャッターが降りていて少し雨宿りが出来そうだと直ぐに屋根の下に走った
ザーと本降りになったのはそれから直ぐで、あのまま走って帰っていたらずぶ濡れだったなと思ったけれど傘は無いし止むのかも分からない。少し小雨になったら走って帰るべきだなと思うと何だか靴に違和感を感じて目線を落とすと、水溜まりの中に足を突っ込んでいて靴が浸水している。思わず「ひぃ」と出てしまった声に誰かが噴き出すような声が聞こえて顔を上げた
そこには1番会いたくて愛しい人物が居た。黒い傘をさしながら、私を見て少しだけ微笑んでいる。心臓が1度だけ小さく高鳴ったけれど、色んな感情を抑えて隆に微笑みながら口を開いた
「……た、み、えと、たかし、君じゃなくて三ツ谷」
「……たかしか三ツ谷かどっちだよ」
「……久しぶりだ、ね」
「おぉ、話すの久しぶりだな。てか、靴平気?」
「平気じゃない……」
「……おぃ、泣くなよ」
靴なんて平気だよ、話せてる事が嬉しいよ。そんな気持ちが溢れて来て涙まで溢れて来た。凄く驚いた顔をした隆は直ぐに私の隣に来ると傘を畳んでハンカチを差し出して来てくれたのでそのハンカチを手に取り自分の目元に当てると、鼻を掠ったハンカチからは彼の匂いがした気がした。その瞬間に頭の中に出て来た記憶は中学2年の時、付き合ってから少しして自宅で抱き締められ、恥ずかしさと温かさに困惑しながら隆の肩口に顔を埋めた時の記憶。優しいお日様みたいな香りは変わっていなくてそれがまた私の涙腺を刺激してくる気がした
「……あり……がと」
「お前は前から本当に泣き虫だな……何で泣いてんの?」
「……ふふふ、何でも無い」
「はぁ?何でもねぇ訳ねぇだろ」
雪那って名前を呼んで抱き締めて欲しい。愛してるって言って口付けして欲しい。そんな考えが頭を埋めつくしてきて、隆の目を見つめると「ん?」と言って目尻の下がった優しい藤色の瞳が私を見つめていた
「……三ツ谷、もし良かったら傘入ってもいいかな?」
「あぁ、いいよ。家まで送る」
「ありがとう」
「……何で泣いてたかは言わねぇんだ」
「……内緒」
傘をこちらに傾けて自分が濡れる隆はやっぱり隆だなと思うと涙がまた出そうになってしまって、気を紛らわせる為に当たり障りの無い話題を話しているといつものコンビニの前を通過した。内心このまま時が止まれば何て乙女チックな事を考えていると直ぐに自宅が見えてきて、別れが寂しくなってしまう。
「……三ツ谷、この後用事ある?」
「ん?何で?」
「……裁縫で少し分からない事あってさ。10分だけ教えてもらえないかな?」
「……あぁ。いいよ」
少しだけ間があったのが気になったけれど、内心離れたくなくて我儘を言ってしまったなと一瞬思った。二人でエレベーターに乗っていると懐かしくて我儘とかそんな考えは何処かに飛んで行ってしまった
玄関に上がった隆は家が暗い事に気付くと「おばさんまた居ねぇの?」と聞いてきたので頷くと少しだけ悲しそうな顔をしてから「そっか」と言って私に続いて靴を脱いで2人共びちゃびちゃになった靴下を脱いだ
「たか、じゃなくて三ツ谷靴下とセーター乾燥させるから貸して」
「……お前もう隆で良いって。てか、隆って呼んでた時期あったっけ?」
「……小学校高学年かな?」
「じゃあ隆で良いじゃん」
「……うん」
濡れたセーターと靴下を脱ぎ腕に掛けてから、隆のも貸してと手を伸ばせば遠慮気味にセーターと脱いだ靴下を渡してきたので脱衣場に入り少しだけ洗ってから手早く乾燥機にかけた。脱衣場を出ると勝手に入れなかったのか、私の自室の前の廊下で待っていてくれた隆に「ごめんね」と一言告げてから自室の電気を付けると勉強机に飾ってある写真を見て心臓が飛び出そうになり猛ダッシュで手を伸ばし写真立てを上から叩く
コトっと音と共に倒れた写真立てを見て深呼吸してから振り返ると、不思議な顔で私を見る隆にニッコリと微笑んだ。それから作り途中の夏用の白いセットアップを誤魔化す様に見せると、驚愕した表情で私を見た隆に首を傾げた
「……これ、本当にお前が作ったのかよ」
「えっ?何で?」
「お前昔から料理と裁縫と掃除苦手じゃん。」
「…あー…お母さん帰って来ないから練習したんだ」
「……そっか、何か悪い」
「ううん。頑張ったから褒めて下さいな」
「おー。偉い偉い」
ふふっと笑う私にいつもの微笑みをくれた隆の顔を見ているだけで私は幸せで堪らなかった。布を指差す綺麗な手、真剣な眼差しに揺れる睫毛。私が大好きだった声に柔らかい髪に触れたくて堪らない
「……おぃ、聞いてんの?」
「……うん。聞いてるよ」
「じゃあやってみて。この部分は細かくな」
「はい、部長」
「……お前手芸部じゃねぇじゃん」
大人になってからだけど、ミシンは裁縫は良くしていたし実は教えて欲しいのも嘘。ただただ傍に居たかっただけだ。そんな事が悟られない様になるべく丁寧に隆が説明してくれた通りに手を動かして仕上げていくと「うめぇじゃん」と途中で関心した様に言ってくれた隆に少しだけ微笑んだ
10分何て言ってしまったけれど、作業を手伝って貰ってから二人で珈琲を飲んで雑談をしていると乾燥機の60分のアラームが鳴って私は「ちょっと待ってて」と言い立ち上がった
「あ、そういえば。隆のお家は今日おばさんご飯作るの?隆が作るの?」
「今日は多分俺。何で?」
「良かったらハンバーグ作るから持っていって」
「…それはありがてぇけど。」
「……今日のお礼だよ」
「あー、じゃあ貰うわ 」
サンキュな。と付け足した隆に思わず嬉しくなって飛び切り微笑むと「何だその顔」と言って呆れた様に笑った隆を見てふっと最後に会った時の記憶が蘇った
『また時間作るから手料理食わせてよ』
『……3人が好きだったハンバーグにするね』
その記憶に唇を噛み締めても溜まってしまった涙は止まらずに溢れ出して、自分の記憶に落ちかけていた私は我に返りハッと隆を見れば少しだけ目を見開いてから私の頭をポンと軽く叩いて背を摩ってくれる
「……大丈夫か?」
「……ごめん。大丈夫」
情緒不安定みたいに見られるのが嫌だったけれど、隆が死んでからここに飛ばされて1人きり。甘えられる人も居なくて正直辛かった。表面は笑っていても1度心が弱音を吐いたら止まらなくて私は彼に抱き着きたくなった
「……隆、お願いがあるんだけど」
「……どした?言ってみ」
妹達のお願いをいつも叶えてきた彼は私のお願いもいつも聞いてくれたから甘えても大丈夫だと勇気が持てた。唇を噛み締めながら「ん?何?」と顔を覗き込んでくる彼を真っ直ぐに見つめた
「1分だけで良い。抱き締めてくれないかな?」
未だに流れる涙を裾で拭いながら口を開いた私に隆は真顔で1度頷くと、私の右手を優しく引いて自分の胸に私を収めてくれた。いつ逃げても良いように片手なのが彼の優しい所だと思うと触れられた事が嬉しくて私は隆の胸をキツく抱き締めて背に腕を回した
ぎゅうっと力を込めた腕に驚いたのか「……平気か?」と少しだけ戸惑う様な声の彼にこくこくと頷いていると頭を優しく撫でられて少し落ち着いてきた
「……ありがとう。急にごめんね」
「……本当に大丈夫か?もし、言える事なら言ってみろ。本当は何かあったんだろ」
「……」
「こんな事言いたくねぇけど。……最近お前凄い変わったじゃん。何か理由あるんじゃねぇの?」
「……容姿の事?」
「……最初は容姿だけかと思ってたけど、……今日話してまるで別人みたいだと思った。何か……あったんじゃねぇの?」
声色は優しいけれど、どこか冷静で探る様な隆に私は何て言って良いか分からずに下を向いた。理由は言えないけれどその部分は隠しても彼にはなるべく正直に話したかったので、なるべく変な言い方をせずにストレートに話そうと口を開く
「…………凄く悲しい事があってさ、誰にも甘えられなくて。……隆の顔みたら甘えたくなったんだ」
「……何で急に」
「そうだよね、そう思うよね。ごめん」
「……容姿が変わって綺麗になって色々告白されてるみてぇだし。男を家に上げて抱き着いたりすると危ない目にも合うだろ。……本当は何か嫌な思いしたんじゃねぇの?」
「……男を家に上げるって何?」
「……いや、上げたりしてるかは分かんねぇけどよ。久しぶりに会った俺にも抱き着いて来たりするから」
「…………」
その瞬間に胸に太い釘が刺された様な痛みが走り私の全てが彼を拒絶する様に怒りが溢れて右手を握り締めた
「…… 白石?」
「……隆だけには言われたく無かった」
「……おぃ、落ちつけよ」
「私は……男の人を上げた事も無いし、抱き着いたりした事も無い……。」
「……ごめ」
咄嗟に出た隆の謝罪の言葉を消す様に泣いて突き飛ばして自室から追い出すと鍵を掛けた。滝の様に出て来た涙は限界だと言わんばかりにしこたま流れ続けていた。まるで暗闇にいる様な気持ちになると扉の向こうから「……悪かった」と小さく呟く様な声が聞こえ、少し経ってから玄関が開く音がして私はそのままベットに埋もれて泣いて泣いてそのまま意識を失った
気が付いた時には朝だったけれど、鏡を見なくても分かる重い瞼に学校には行かない事にしてベットに丸まった。本当は隆は悪くないって良く分かっていた。久しぶりに話した幼なじみの女の容姿が激変して学校で良く告白されている。そんな彼女が急にお願い事をして来て引き受けると、情緒不安定で泣き出して抱き締めてと頼まれる。……彼が心配するのも当然だと思った
でも……私はどうしても隆に触れたかっし、他の男じゃなくて隆だけに支えて貰いたかった
信じて貰えないと決め付けて理由も話せない私だからこんな悲しい思いをしても仕方ないけれど。こんな未来から来ました、君が死んで悲しいです。みたいな話を信頼関係が無いのに話す程子供じゃない
そんな事を考えていると重い瞼が下がってきて気が付いたら眠ってしまっていた。ガラケーの音で目を開けると麗奈から何で休み?風邪?とメッセージが来ていて、嬉しくなった私は起き上がるとちょっと熱っぽいと嘘のメッセージを返信した
時刻は12時を過ぎていて、1度シャワーを浴びようと脱衣場に入れば乾燥機に入っている2人分のセーターと靴下を見て唇を噛み締めた。乾燥機から取り出した隆のセーターを縮んでいないかチェックしてから畳み、靴下も同様にしてから紙袋に入れた
シャワーを浴びてから何だかモヤモヤする胸をスッキリさせたくて珈琲をしこたま飲んでからシュークリームを食べようと冷蔵庫を漁ると、ふと冷蔵庫に生クリームを見つけてテンションが一気に下降した。隆の誕生日だから一緒にお祝い出来なくてもケーキを作って一人で食べようと思ってこの間買い物のついでに購入しておいた物だった
「……ハンバーグも……作ってあげれなかった」
独り言を呟けばシンとした部屋に響いた自身の寂しそうな声にもっと惨めになる。ガラケーを開けば6月9日と表示された日付けに右手を握りしめてから自身に喝を入れる様に彼の亡骸の光景を1度思い出した
無心で作ったハンバーグとイチゴのケーキをテーブルに乗せて眺めていると、外から差していた夕日はいつの間にか無くなり辺りは少しだけ暗くなっていた。リビングの電気を付けてから自室から持ってきたピンクの便箋に『心配してくれたのにあんな言い方してごめんなさい』
と書いて早いけどお誕生日おめでとうと付け足す様に筆を走らせた。洗濯物は別に紙袋に入れ、タッパーに入れたハンバーグと食品を入れる綺麗な箱にケーキを入れて、手紙を添えてから久しぶりに隆のアパートの前まで早足で向かった
隆に面と向かい渡す勇気は今は無く、部屋着で顔もパンパンなので会いたくも無い。でもどうしても一目隆を見たくて、気持ちが悪いのを承知で家の前に紙袋を2つ置いてからピンポンを押して近くの車の影に隠れると、少ししてから出てきたのは部屋着の隆で紙袋を見つけて中を覗き込んでいる。覗き込んだ瞬間にハッとした表情をしてそのまま私の自宅の方に向かって走り出した隆に私は驚愕したがその場から足が動かなかった
「……やばい。どうしよう」
車の影から隆の後ろ姿を見送り途方に暮れていると、「隆?」とおばさんの声がしておばさんはそのまま紙袋にふと目線を落とした。首を傾げ紙袋から手紙を取り出しそれを読んでいる様に見えて顔が熱を持った様に熱くなった
恥ずかしいし、どうしていいのか分からずに途方にくれながら立ち上がり帰宅するしか思い浮かばなくて結局トボトボと自宅に帰ってくると家の玄関の前に座り込んでいる隆を見つけて顔を隠すように鼻から下を袖で隠した
私の足音にハッとした隆がこちらを見たので私も無言で彼に近寄ると、ゆっくりと立ち上がったパーカーにスウェット姿の隆は私を見下ろした
「…… 白石、ごめんな」
「…ううん…心配してくれたの本当は分かってた。色々あって苦しくて隆に甘えてごめん」
「甘えられたのが嫌だったんじゃねぇよ。理由がわかんねぇし、……もし変な奴に何かされたとかだったら心配だっただけだ」
「……男関係は本当に何も無い。平気」
「……そっか…何もされてねぇなら良いんだ。そういえばあの紙袋ケーキだろ?」
「……うん。後食べて欲しかったハンバーグ」
「ありがとうな」
「……頑張って作ったから食べてくれたら嬉しい」
「……少し話さねぇ間に本当に変わったよな」
そう言った隆の瞳は何だか困っている様に見えて少しだけ困惑した。ずっと話したかったし抱き締めて貰いたかったのに今は何だか生きてるだけで良いし、その気持ちが落ち着いた様に静かな気がした
「……ご飯食べたの?」
「まだ」
「早く帰って食べて、私はもう大丈夫だから」
「…………ああ。ありがとうな」
そう言って隆はエレベーターに消えていった。自室に入りそのままベットに横になると抱き枕を抱き締めて目を瞑った。今日は料理を渡せて、おめでとうと言えただけでも行動出来て良かったのかもしれないと思うと少しだけ心が軽くなった気がした
それから直ぐに夏は来て、何とか東京卍會の情報を探ろうかと、隆にバレない様に色々調べてみたけれ今の東京卍會は立ち上げたばかりみたいで創設メンバーだけの小さな喧嘩チームだった
良く考えて見れば13歳何だし当たり前だと思った。確か付き合っていた頃は14歳~15歳だったから東京卍會には活気があってもっと人数も多かった気がする
こんな事なら昔にもっと沢山彼等と仲良くして沢山情報を仕入れておくんだったと私はがっくりと肩を落とした。色々作戦を考えて、皆と仲良く出来る様にバイクでも趣味にしようかと思ったが自分の運動神経で乗れるのか?と頭を捻った。そういえばマイキーのお兄ちゃんがバイク屋をやっていたと隆が話して居た事を思い出して私は少しドキリとした。「……マイキーのお兄ちゃん、もしかしてそろそろ死んじゃう?」
中学1年の時に新聞で見た佐野真一郎君がマイキーのお兄ちゃんだと知ったのは隆と付き合って少し経ってからだった。地元での凶悪な事件、それも犯人が圭ちゃんと一虎君だと知った時は苦しい顔で話してくれた隆に何も言えずに背中を撫でた覚えがあった
もしかして、佐野真一郎君を助けれたら東京卍會の情報が入ったり恩人として扱われて悪い方向に行くのを止められるかもと中学生の簡単な頭で考えると何故か上手くいくかも分からないのにやる気が出て来て、直ぐにネットから佐野真一郎を検索した
真一郎君のバイク屋の場所が特定出来たけど、隆に聞いたのは夜に忍び込んだ圭ちゃんと一虎君と鉢合わせて真一郎君は鉄パイプで殴られ亡くなった。くらいしかハッキリと覚えていない。1番大事な日にちが分からなくてとりあえず生存確認だけしたくて学校帰りにバイク屋に向かうと、少しだけマイキーに似ている黒髪のお兄さんがせっせとバイクを磨いている姿がガラス越しに目に映って私は胸を撫で下ろした
一応色々考えて来たのでまずは顔見知りになろうと思いガラスを優しくノックすると、振り返った時の顔がマイキーにそっくりで少し微笑んでしまった。そんな私を見た真一郎君は少しだけ困った様な顔でこちらに向かって歩いて来るとガラス戸を開けた
「うちに何か用事かな?」
「あ、初めまして。すみませんバイクのパーツが欲しいんですけど相談に乗ってもらえたりしますか?」
「……君が?欲しいの?」
少しだけ目を見開いてから上から下まで見られて少しだけ苦笑いすると「プレゼント?」と言われて頷いた
バイクに詳しくないけれど、好きな人がバイクが大好きでと下を向いて口を開けば先程とは違う優しい声で「そう言う事なら任せなさい」と言ってニカッと笑った。マイキーと話しているみたいで凄く懐かしくなって来てしまって、気が付けば真一郎君が優しいのを良い事に普通に同い年の子と話す様に気軽に話してしまっていた
「……すみません、お話が楽しくてタメ口聞いちゃってました」
「全然いいよ、気にすんなって。それよりも好きな男は何乗ってるか分かる?」
「え、と確かインパルスって言ってました」
「……あれ?その制服でインパルスだと……もしかして隆の事だったりする?好きな男って」
「…………は、はい」
わざとらしく恥ずかしそうにした私に真一郎君は嬉しそうに「隆かー。見る目あるな」と声を出して笑った。真一郎君にこの制服姿を見せてインパルスって名前を出せば隆だってバレるのは100も承知だったし、それで少しでも共通点が出来て心を開いてくれればこちらのものだった。大事なのは彼が死なない事と大事な時に自分の味方についてもらう事。彼の一声があればもしかしたら東京卍會も将来犯罪組織にはならないかもしれないから
ハウリングの様な音が耳をつんざき片目を思わず閉じながら歯を食いしばった。見慣れた自室で間取りも変わっていないけれど部屋のインテリアが違うし自室に勉強机があったのは確か小学校6年に買って貰ってから18歳までだった気がする
「……夢?……隆、は?」
額に穴が空き遺体となった隆が目の前に居たはずなのにどうゆう事なんだと軽くパニックになった頭で思わず自室のドアを開けて廊下に出ると強烈な香水の匂いがして私は眉を顰めながらリビングに通じるドアを開けた。真っ暗なリビングの電気をつければテーブルには食べ残しのお弁当と割り箸が置いてあり、何だかそれを見ていると先程自分が食べた物に感じて不思議に思う
ふとポケットに手を入れると硬い物が手にぶつかり取り出して見るといつも使っている自分の携帯で、画面に触れると表示されたのは私と麗奈の姿。しかし、食器棚のガラスに映る自分はその姿よりも随分と幼くて思わず携帯を落とし手で顔をパチパチと叩く
ガラスに映る自分も自分の頬を叩いていて思わず溜息が出た。何が何だか良く分からないけれど、明日も学校だし宿題やらなきゃいけないと考えてる自分と隆が生きているか確認したいって自分が居て頭がごちゃごちゃしてくる。自室に1度戻りベッドに転がっているピンク色のダサい携帯を開きLINEを確認すれば三ツ谷隆の連絡先は当たり前の様に無かった。確か私達が仲良くなったのは14歳の寒い時期だった気がするから今はいくつなんだ?と西暦と日付を確認すれば私は今12歳の中学1年生だった
通りで幼い筈だと体を触り納得した。鏡を手に取り綺麗な若い肌と黒髪に何だか違和感を感じるけれど、確かに昔の自分だと認識出来て何だかホッとした様な怖いような感覚に陥ってしまう
胸を撫でて、12歳なら隆は生きてる。大丈夫大丈夫と深呼吸してからベッドに転がり天井を見つめていると携帯から流れてくる聞きなれないメロディーに違和感を感じながら画面を見ればLINEに麗奈からメッセージが来ていた
35ページの問6分かった?
そのメッセージを見てからもう1度強めに自分の頭を叩くと痛みで歯を食いしばったが、やっぱり夢じゃないんだと再確認した。麗奈には悪いけれど今はそれ所じゃないと思い、直ぐに玄関に向かおうとしたけれどふとまだ混乱している自分に気付く。さっきも考えたけれど、隆とは仲良く無いし知り合いとゆうか、この歳だと良くて幼なじみ程度。いきなり家に行って警戒されたり変な印象を与えてしまって中学2年の時に付き合え無かったら困るかもしれない
ここまで考えると、生きている隆の顔を見たい衝動は今はサラサラと消えていった。1度キッチンに戻りテーブルの片付けをしてからお母さんの珈琲を勝手に飲み温まると少しづつだけど頭のごちゃごちゃは少し無くなっていった
とりあえず宿題をして普段通りに過ごしてからまた考えれば良いと決断してから、まずは数学の宿題をやってしまおうと飲みかけの珈琲が入ったマグカップを持ち勉強机に向かった
朝ベッドで目が覚めてもインテリアや体の幼さは変わって居なくて何だかホッとしたけれど、不安に押し潰される様な感覚にベッドから起き上がれなかった。相変わらずお母さんは居ないみたいだし休んでしまおうかとも思ったけれど、やっぱり隆が生きている姿を確認したくて制服に着替えてから早足で登校した
昇降口に着いて直ぐに下駄箱で三ツ谷の名前を探せば、靴が入っている隆の名前を見つけて安心した様にその場にしゃがみこむと我慢していた物が溢れ出るように涙が溢れ落ちていった。何分経ったのか分からないけれど「大丈夫?」と声が聞こえて振り返れば名前も思い出せない様な女の子が私を見つめていた
「 白石さんだよね?……何かあったの?」
「あ……ううん。ちょっとお腹痛くて、でもしゃがんでたら大分良くなったから教室行ける」
「……でも、涙が」
「平気平気、もし無理そうなら保健室行くよ。ありがとうね」
ニッコリと微笑んだ私に、その子は遠慮がちに微笑んでから手を貸してくれて2階の教室まで一緒に来ると同じクラスだったのか、私を窓際の席まで送り届けてから自分の席に座っていた。田中さんだったかな?そんな名前だった気がするなと考えていると直ぐにチャイムが鳴って担任が顔を出した
懐かしいなと思う反面いつもの当たり前の風景な気がした。ふと窓の外を見れば、隆の事ばかり考えていて見ていなかったけど、春風に吹かれながら舞う美しいピンクの花弁に何だか中学生になったんだなと思う自分が居た
授業についていけない何て昔の悩みは無く、all100点取れる自信があったので勉強は大体聞き流す事にして、中学1年の時に何か思い出に残っている事は無いかずっと考えていたけれど。考えれば考える程全く思い出せなくて、そんな事よりも昼休みになったら隆の教室を覗いてみようと思いチャイムが鳴った瞬間に教室から飛び出て隆のクラスの3組に向かった
昼休みはどこのクラスも賑わっているなと思いながら内心ドキドキで廊下を歩き3組の教室を覗けば彼は何処にも居なかった。思わず近くに居た名前も知らない男の子に「三ツ谷君知らない?」と聞けば、無言で指を指した方向に私は自然とそちらを見つめた
「外?」
「うん」
「あ、どうも」
頭を1度彼に下げてから階段を駆け下り、そういえば外の何処だよと思ったけれどとりあえずもう昇降口まで来てしまったので上履きのまま外に出て彼を探し走り回る
不良だったから体育館の裏で林と林田とタバコでも吸ってるのかと思い来てみれば、3年の不良の先輩達しか居なくて今度は校庭に向かって走り出すと1本の大きな桜の木の下にポツンと立っている三ツ谷の姿を見て私は立ち止まった。懐かしいグレーアッシュの長めの髪が春風に揺れて花弁が舞う中で木のてっぺんを見つめている隆の姿に自然と涙が出て来てしまい袖で拭いながら心を落ち着かせる
抱き締めたいって気持ちを抑えて、出てくる涙を堪えながら横顔を見つめた。ずっと見ていたいって気持ちが溢れ出てきて携帯を取り出すとガラケーの方は画質が悪かったので25歳の時に使っていた携帯でズームにしてから彼の横顔を写真におさめて直ぐにポケットにしまい、今はこれで良いと拳を握り締めてからその場を立ち去った
彼を見て、生きてるって事がしっかりと実感出来て何だか今日のミッションが終わった様に感じてしまい4限目も5限目も元々聞く気は無かったけれど、それを通り越して居眠りまでしてしまった。授業が終わり、まだ友達になったばかりの麗奈と放課後に他愛も無い話をしてから帰宅して、慣れていなかったからか隆の姿が見れて安心したのか帰宅した瞬間にどっと疲れが出て夕飯も食べずに朝まで寝てしまった
それから1週間が経って、少しづつ私も落ち着いてきた日曜日。麗奈に誘われて待ち合わせたカラオケに入れば、部屋には全然知らない子も居て目を見開いた
「 雪那 」
固まる私に手招きをする麗奈の隣に座れば「呼んじゃった」と明るく笑う彼女のイタズラっこの様な微笑みに何だか懐かしくなって私も微笑む
「 雪那ちゃん?だっけ?何飲む?」
「俺、飯田。よろしくね」
「ありがとう、 で合ってるよ。じゃあ紅茶で」
優しそうな笑顔を向けてきた男の子二人は麗奈の小学校からの友人で飯田と佐々木だった。LINEで飯田と付き合いたいんだとメッセージしてきた麗奈が可愛くて少し笑ってしまったけれど返信に何か手伝える事あったら言ってねと返した。中学生1年生のノリに付き合えるのかと不安になったけれど、自分の体と脳は12歳何だし特に困る事も無かった。たまに感の良い人に随分と大人びてるねと言われた事もあったけれど、私にとっては普通の事をしているだけだったし特に幼い周りに深く馴染もうと思わない様にしていた
カラオケが終わり4人でファミレスでご飯を食べ解散になった。麗奈は飯田君に送ってもらう様なので、その流れでもう1人の佐々木君の送りますを断るのは申し訳無かったけれど、寄りたい所があるからと言って帰宅した。家から5分のいつものコンビニに寄り、この間撮った隆の写真をコピー機で写真にしてから自宅に帰宅した
その日は、桜の花弁が舞う中の隆の横顔の写真を抱いて私は眠りについた
入学から2ヶ月が経ち、私も大分変わってしまった
最初は少しだけ遠慮していたけれど、段々と環境にも慣れて髪を染めて毛先に緩くパーマをかけた。少し長かったスカートは自分で手直しをして短くし、メイクや眉も弄ると最早誰だか分からないレベルになってしまって学校に行った時は最初先生に呼び出されたけれど、特にそれからは誰にも何も言われなかった
25歳の私からしたら、眉がボーボーで似合わない黒髪をしているよりはずっと良いと思ったので何だか垢抜けてスッキリとした感じだった。元々お母さんが美人でパッチリと大きな瞳は似ていたので、綺麗な若い肌に戻り、美しくメイクしたり生地や材料を揃えて自分に似合う服やアクセサリーをお小遣いの中から作るのは凄く楽しかった
ただ、少しだけ困り事が増えた
学校の屋上は人気は無くもうすぐ梅雨になるからか雨が降りそうな天気だった。「白石さん、付き合って下さい」と言われ目の前の先輩だと思うが名前も知らない男の子に「ごめんなさい」と頭を下げて彼が立ち去るのを静かに待つ。「好きな人でもいるの?」と聞かれてゆっくりと1度首を縦に振る。これを何回繰り返しただろう
彼が立ち去ってから教室に戻り鞄を取ってから昇降口で靴を履き変えようとすれば、ローファーの上に置かれていた手紙を取り鞄に入れた。返事しなくていいかな、まずいかな?何て思うと億劫だったけれど、隆を愛する自分の気持ち、彼等が自分を好きだと言ってくれる気持ち。同じだけど同じじゃない。何だか色々考えて返事だけは失礼の無い様にしっかりとする事にした
たまに廊下ですれ違う隆を見れた日、その1日は凄く幸せだった。早く中学2年になってルナとマナと猫ちゃんのたかしを拾う日が来ないかと待ち遠しくて堪らない。そんな事を考えながら曇り空を見つめ早足で歩いていると、ポツポツと大きな粒が私の頬に降り注いで来て眉を寄せながらキョロキョロと当たりを見渡した。閉店と看板が下がった小さな文房具店はシャッターが降りていて少し雨宿りが出来そうだと直ぐに屋根の下に走った
ザーと本降りになったのはそれから直ぐで、あのまま走って帰っていたらずぶ濡れだったなと思ったけれど傘は無いし止むのかも分からない。少し小雨になったら走って帰るべきだなと思うと何だか靴に違和感を感じて目線を落とすと、水溜まりの中に足を突っ込んでいて靴が浸水している。思わず「ひぃ」と出てしまった声に誰かが噴き出すような声が聞こえて顔を上げた
そこには1番会いたくて愛しい人物が居た。黒い傘をさしながら、私を見て少しだけ微笑んでいる。心臓が1度だけ小さく高鳴ったけれど、色んな感情を抑えて隆に微笑みながら口を開いた
「……た、み、えと、たかし、君じゃなくて三ツ谷」
「……たかしか三ツ谷かどっちだよ」
「……久しぶりだ、ね」
「おぉ、話すの久しぶりだな。てか、靴平気?」
「平気じゃない……」
「……おぃ、泣くなよ」
靴なんて平気だよ、話せてる事が嬉しいよ。そんな気持ちが溢れて来て涙まで溢れて来た。凄く驚いた顔をした隆は直ぐに私の隣に来ると傘を畳んでハンカチを差し出して来てくれたのでそのハンカチを手に取り自分の目元に当てると、鼻を掠ったハンカチからは彼の匂いがした気がした。その瞬間に頭の中に出て来た記憶は中学2年の時、付き合ってから少しして自宅で抱き締められ、恥ずかしさと温かさに困惑しながら隆の肩口に顔を埋めた時の記憶。優しいお日様みたいな香りは変わっていなくてそれがまた私の涙腺を刺激してくる気がした
「……あり……がと」
「お前は前から本当に泣き虫だな……何で泣いてんの?」
「……ふふふ、何でも無い」
「はぁ?何でもねぇ訳ねぇだろ」
雪那って名前を呼んで抱き締めて欲しい。愛してるって言って口付けして欲しい。そんな考えが頭を埋めつくしてきて、隆の目を見つめると「ん?」と言って目尻の下がった優しい藤色の瞳が私を見つめていた
「……三ツ谷、もし良かったら傘入ってもいいかな?」
「あぁ、いいよ。家まで送る」
「ありがとう」
「……何で泣いてたかは言わねぇんだ」
「……内緒」
傘をこちらに傾けて自分が濡れる隆はやっぱり隆だなと思うと涙がまた出そうになってしまって、気を紛らわせる為に当たり障りの無い話題を話しているといつものコンビニの前を通過した。内心このまま時が止まれば何て乙女チックな事を考えていると直ぐに自宅が見えてきて、別れが寂しくなってしまう。
「……三ツ谷、この後用事ある?」
「ん?何で?」
「……裁縫で少し分からない事あってさ。10分だけ教えてもらえないかな?」
「……あぁ。いいよ」
少しだけ間があったのが気になったけれど、内心離れたくなくて我儘を言ってしまったなと一瞬思った。二人でエレベーターに乗っていると懐かしくて我儘とかそんな考えは何処かに飛んで行ってしまった
玄関に上がった隆は家が暗い事に気付くと「おばさんまた居ねぇの?」と聞いてきたので頷くと少しだけ悲しそうな顔をしてから「そっか」と言って私に続いて靴を脱いで2人共びちゃびちゃになった靴下を脱いだ
「たか、じゃなくて三ツ谷靴下とセーター乾燥させるから貸して」
「……お前もう隆で良いって。てか、隆って呼んでた時期あったっけ?」
「……小学校高学年かな?」
「じゃあ隆で良いじゃん」
「……うん」
濡れたセーターと靴下を脱ぎ腕に掛けてから、隆のも貸してと手を伸ばせば遠慮気味にセーターと脱いだ靴下を渡してきたので脱衣場に入り少しだけ洗ってから手早く乾燥機にかけた。脱衣場を出ると勝手に入れなかったのか、私の自室の前の廊下で待っていてくれた隆に「ごめんね」と一言告げてから自室の電気を付けると勉強机に飾ってある写真を見て心臓が飛び出そうになり猛ダッシュで手を伸ばし写真立てを上から叩く
コトっと音と共に倒れた写真立てを見て深呼吸してから振り返ると、不思議な顔で私を見る隆にニッコリと微笑んだ。それから作り途中の夏用の白いセットアップを誤魔化す様に見せると、驚愕した表情で私を見た隆に首を傾げた
「……これ、本当にお前が作ったのかよ」
「えっ?何で?」
「お前昔から料理と裁縫と掃除苦手じゃん。」
「…あー…お母さん帰って来ないから練習したんだ」
「……そっか、何か悪い」
「ううん。頑張ったから褒めて下さいな」
「おー。偉い偉い」
ふふっと笑う私にいつもの微笑みをくれた隆の顔を見ているだけで私は幸せで堪らなかった。布を指差す綺麗な手、真剣な眼差しに揺れる睫毛。私が大好きだった声に柔らかい髪に触れたくて堪らない
「……おぃ、聞いてんの?」
「……うん。聞いてるよ」
「じゃあやってみて。この部分は細かくな」
「はい、部長」
「……お前手芸部じゃねぇじゃん」
大人になってからだけど、ミシンは裁縫は良くしていたし実は教えて欲しいのも嘘。ただただ傍に居たかっただけだ。そんな事が悟られない様になるべく丁寧に隆が説明してくれた通りに手を動かして仕上げていくと「うめぇじゃん」と途中で関心した様に言ってくれた隆に少しだけ微笑んだ
10分何て言ってしまったけれど、作業を手伝って貰ってから二人で珈琲を飲んで雑談をしていると乾燥機の60分のアラームが鳴って私は「ちょっと待ってて」と言い立ち上がった
「あ、そういえば。隆のお家は今日おばさんご飯作るの?隆が作るの?」
「今日は多分俺。何で?」
「良かったらハンバーグ作るから持っていって」
「…それはありがてぇけど。」
「……今日のお礼だよ」
「あー、じゃあ貰うわ 」
サンキュな。と付け足した隆に思わず嬉しくなって飛び切り微笑むと「何だその顔」と言って呆れた様に笑った隆を見てふっと最後に会った時の記憶が蘇った
『また時間作るから手料理食わせてよ』
『……3人が好きだったハンバーグにするね』
その記憶に唇を噛み締めても溜まってしまった涙は止まらずに溢れ出して、自分の記憶に落ちかけていた私は我に返りハッと隆を見れば少しだけ目を見開いてから私の頭をポンと軽く叩いて背を摩ってくれる
「……大丈夫か?」
「……ごめん。大丈夫」
情緒不安定みたいに見られるのが嫌だったけれど、隆が死んでからここに飛ばされて1人きり。甘えられる人も居なくて正直辛かった。表面は笑っていても1度心が弱音を吐いたら止まらなくて私は彼に抱き着きたくなった
「……隆、お願いがあるんだけど」
「……どした?言ってみ」
妹達のお願いをいつも叶えてきた彼は私のお願いもいつも聞いてくれたから甘えても大丈夫だと勇気が持てた。唇を噛み締めながら「ん?何?」と顔を覗き込んでくる彼を真っ直ぐに見つめた
「1分だけで良い。抱き締めてくれないかな?」
未だに流れる涙を裾で拭いながら口を開いた私に隆は真顔で1度頷くと、私の右手を優しく引いて自分の胸に私を収めてくれた。いつ逃げても良いように片手なのが彼の優しい所だと思うと触れられた事が嬉しくて私は隆の胸をキツく抱き締めて背に腕を回した
ぎゅうっと力を込めた腕に驚いたのか「……平気か?」と少しだけ戸惑う様な声の彼にこくこくと頷いていると頭を優しく撫でられて少し落ち着いてきた
「……ありがとう。急にごめんね」
「……本当に大丈夫か?もし、言える事なら言ってみろ。本当は何かあったんだろ」
「……」
「こんな事言いたくねぇけど。……最近お前凄い変わったじゃん。何か理由あるんじゃねぇの?」
「……容姿の事?」
「……最初は容姿だけかと思ってたけど、……今日話してまるで別人みたいだと思った。何か……あったんじゃねぇの?」
声色は優しいけれど、どこか冷静で探る様な隆に私は何て言って良いか分からずに下を向いた。理由は言えないけれどその部分は隠しても彼にはなるべく正直に話したかったので、なるべく変な言い方をせずにストレートに話そうと口を開く
「…………凄く悲しい事があってさ、誰にも甘えられなくて。……隆の顔みたら甘えたくなったんだ」
「……何で急に」
「そうだよね、そう思うよね。ごめん」
「……容姿が変わって綺麗になって色々告白されてるみてぇだし。男を家に上げて抱き着いたりすると危ない目にも合うだろ。……本当は何か嫌な思いしたんじゃねぇの?」
「……男を家に上げるって何?」
「……いや、上げたりしてるかは分かんねぇけどよ。久しぶりに会った俺にも抱き着いて来たりするから」
「…………」
その瞬間に胸に太い釘が刺された様な痛みが走り私の全てが彼を拒絶する様に怒りが溢れて右手を握り締めた
「…… 白石?」
「……隆だけには言われたく無かった」
「……おぃ、落ちつけよ」
「私は……男の人を上げた事も無いし、抱き着いたりした事も無い……。」
「……ごめ」
咄嗟に出た隆の謝罪の言葉を消す様に泣いて突き飛ばして自室から追い出すと鍵を掛けた。滝の様に出て来た涙は限界だと言わんばかりにしこたま流れ続けていた。まるで暗闇にいる様な気持ちになると扉の向こうから「……悪かった」と小さく呟く様な声が聞こえ、少し経ってから玄関が開く音がして私はそのままベットに埋もれて泣いて泣いてそのまま意識を失った
気が付いた時には朝だったけれど、鏡を見なくても分かる重い瞼に学校には行かない事にしてベットに丸まった。本当は隆は悪くないって良く分かっていた。久しぶりに話した幼なじみの女の容姿が激変して学校で良く告白されている。そんな彼女が急にお願い事をして来て引き受けると、情緒不安定で泣き出して抱き締めてと頼まれる。……彼が心配するのも当然だと思った
でも……私はどうしても隆に触れたかっし、他の男じゃなくて隆だけに支えて貰いたかった
信じて貰えないと決め付けて理由も話せない私だからこんな悲しい思いをしても仕方ないけれど。こんな未来から来ました、君が死んで悲しいです。みたいな話を信頼関係が無いのに話す程子供じゃない
そんな事を考えていると重い瞼が下がってきて気が付いたら眠ってしまっていた。ガラケーの音で目を開けると麗奈から何で休み?風邪?とメッセージが来ていて、嬉しくなった私は起き上がるとちょっと熱っぽいと嘘のメッセージを返信した
時刻は12時を過ぎていて、1度シャワーを浴びようと脱衣場に入れば乾燥機に入っている2人分のセーターと靴下を見て唇を噛み締めた。乾燥機から取り出した隆のセーターを縮んでいないかチェックしてから畳み、靴下も同様にしてから紙袋に入れた
シャワーを浴びてから何だかモヤモヤする胸をスッキリさせたくて珈琲をしこたま飲んでからシュークリームを食べようと冷蔵庫を漁ると、ふと冷蔵庫に生クリームを見つけてテンションが一気に下降した。隆の誕生日だから一緒にお祝い出来なくてもケーキを作って一人で食べようと思ってこの間買い物のついでに購入しておいた物だった
「……ハンバーグも……作ってあげれなかった」
独り言を呟けばシンとした部屋に響いた自身の寂しそうな声にもっと惨めになる。ガラケーを開けば6月9日と表示された日付けに右手を握りしめてから自身に喝を入れる様に彼の亡骸の光景を1度思い出した
無心で作ったハンバーグとイチゴのケーキをテーブルに乗せて眺めていると、外から差していた夕日はいつの間にか無くなり辺りは少しだけ暗くなっていた。リビングの電気を付けてから自室から持ってきたピンクの便箋に『心配してくれたのにあんな言い方してごめんなさい』
と書いて早いけどお誕生日おめでとうと付け足す様に筆を走らせた。洗濯物は別に紙袋に入れ、タッパーに入れたハンバーグと食品を入れる綺麗な箱にケーキを入れて、手紙を添えてから久しぶりに隆のアパートの前まで早足で向かった
隆に面と向かい渡す勇気は今は無く、部屋着で顔もパンパンなので会いたくも無い。でもどうしても一目隆を見たくて、気持ちが悪いのを承知で家の前に紙袋を2つ置いてからピンポンを押して近くの車の影に隠れると、少ししてから出てきたのは部屋着の隆で紙袋を見つけて中を覗き込んでいる。覗き込んだ瞬間にハッとした表情をしてそのまま私の自宅の方に向かって走り出した隆に私は驚愕したがその場から足が動かなかった
「……やばい。どうしよう」
車の影から隆の後ろ姿を見送り途方に暮れていると、「隆?」とおばさんの声がしておばさんはそのまま紙袋にふと目線を落とした。首を傾げ紙袋から手紙を取り出しそれを読んでいる様に見えて顔が熱を持った様に熱くなった
恥ずかしいし、どうしていいのか分からずに途方にくれながら立ち上がり帰宅するしか思い浮かばなくて結局トボトボと自宅に帰ってくると家の玄関の前に座り込んでいる隆を見つけて顔を隠すように鼻から下を袖で隠した
私の足音にハッとした隆がこちらを見たので私も無言で彼に近寄ると、ゆっくりと立ち上がったパーカーにスウェット姿の隆は私を見下ろした
「…… 白石、ごめんな」
「…ううん…心配してくれたの本当は分かってた。色々あって苦しくて隆に甘えてごめん」
「甘えられたのが嫌だったんじゃねぇよ。理由がわかんねぇし、……もし変な奴に何かされたとかだったら心配だっただけだ」
「……男関係は本当に何も無い。平気」
「……そっか…何もされてねぇなら良いんだ。そういえばあの紙袋ケーキだろ?」
「……うん。後食べて欲しかったハンバーグ」
「ありがとうな」
「……頑張って作ったから食べてくれたら嬉しい」
「……少し話さねぇ間に本当に変わったよな」
そう言った隆の瞳は何だか困っている様に見えて少しだけ困惑した。ずっと話したかったし抱き締めて貰いたかったのに今は何だか生きてるだけで良いし、その気持ちが落ち着いた様に静かな気がした
「……ご飯食べたの?」
「まだ」
「早く帰って食べて、私はもう大丈夫だから」
「…………ああ。ありがとうな」
そう言って隆はエレベーターに消えていった。自室に入りそのままベットに横になると抱き枕を抱き締めて目を瞑った。今日は料理を渡せて、おめでとうと言えただけでも行動出来て良かったのかもしれないと思うと少しだけ心が軽くなった気がした
それから直ぐに夏は来て、何とか東京卍會の情報を探ろうかと、隆にバレない様に色々調べてみたけれ今の東京卍會は立ち上げたばかりみたいで創設メンバーだけの小さな喧嘩チームだった
良く考えて見れば13歳何だし当たり前だと思った。確か付き合っていた頃は14歳~15歳だったから東京卍會には活気があってもっと人数も多かった気がする
こんな事なら昔にもっと沢山彼等と仲良くして沢山情報を仕入れておくんだったと私はがっくりと肩を落とした。色々作戦を考えて、皆と仲良く出来る様にバイクでも趣味にしようかと思ったが自分の運動神経で乗れるのか?と頭を捻った。そういえばマイキーのお兄ちゃんがバイク屋をやっていたと隆が話して居た事を思い出して私は少しドキリとした。「……マイキーのお兄ちゃん、もしかしてそろそろ死んじゃう?」
中学1年の時に新聞で見た佐野真一郎君がマイキーのお兄ちゃんだと知ったのは隆と付き合って少し経ってからだった。地元での凶悪な事件、それも犯人が圭ちゃんと一虎君だと知った時は苦しい顔で話してくれた隆に何も言えずに背中を撫でた覚えがあった
もしかして、佐野真一郎君を助けれたら東京卍會の情報が入ったり恩人として扱われて悪い方向に行くのを止められるかもと中学生の簡単な頭で考えると何故か上手くいくかも分からないのにやる気が出て来て、直ぐにネットから佐野真一郎を検索した
真一郎君のバイク屋の場所が特定出来たけど、隆に聞いたのは夜に忍び込んだ圭ちゃんと一虎君と鉢合わせて真一郎君は鉄パイプで殴られ亡くなった。くらいしかハッキリと覚えていない。1番大事な日にちが分からなくてとりあえず生存確認だけしたくて学校帰りにバイク屋に向かうと、少しだけマイキーに似ている黒髪のお兄さんがせっせとバイクを磨いている姿がガラス越しに目に映って私は胸を撫で下ろした
一応色々考えて来たのでまずは顔見知りになろうと思いガラスを優しくノックすると、振り返った時の顔がマイキーにそっくりで少し微笑んでしまった。そんな私を見た真一郎君は少しだけ困った様な顔でこちらに向かって歩いて来るとガラス戸を開けた
「うちに何か用事かな?」
「あ、初めまして。すみませんバイクのパーツが欲しいんですけど相談に乗ってもらえたりしますか?」
「……君が?欲しいの?」
少しだけ目を見開いてから上から下まで見られて少しだけ苦笑いすると「プレゼント?」と言われて頷いた
バイクに詳しくないけれど、好きな人がバイクが大好きでと下を向いて口を開けば先程とは違う優しい声で「そう言う事なら任せなさい」と言ってニカッと笑った。マイキーと話しているみたいで凄く懐かしくなって来てしまって、気が付けば真一郎君が優しいのを良い事に普通に同い年の子と話す様に気軽に話してしまっていた
「……すみません、お話が楽しくてタメ口聞いちゃってました」
「全然いいよ、気にすんなって。それよりも好きな男は何乗ってるか分かる?」
「え、と確かインパルスって言ってました」
「……あれ?その制服でインパルスだと……もしかして隆の事だったりする?好きな男って」
「…………は、はい」
わざとらしく恥ずかしそうにした私に真一郎君は嬉しそうに「隆かー。見る目あるな」と声を出して笑った。真一郎君にこの制服姿を見せてインパルスって名前を出せば隆だってバレるのは100も承知だったし、それで少しでも共通点が出来て心を開いてくれればこちらのものだった。大事なのは彼が死なない事と大事な時に自分の味方についてもらう事。彼の一声があればもしかしたら東京卍會も将来犯罪組織にはならないかもしれないから
