歩くような速さで
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月曜日になり学校が始まった
私にとって学校は勉強に励む場所では無かった
学ぶ楽しさよりも友人との中を深めたり、恋愛したり皆でワイワイしたり。そんな学生生活だった気がする
10年振りに会う懐かしい友人や先生との話は思ってたよりもとても新鮮で、考えていたよりは学校生活が楽しい自分がいたけれど以外に勉強が面倒臭い。昔やった事をもう1度勉強するのも嫌だし、大人になって特に役に立った事もないので好きな科目だけ程々に頑張る事にした
数学の授業中にノートに今後やる事を書き込んで頭を整理していると、先生が黒板に書き込むチョークの音すら私には懐かしくて心地良くて。気付けば手を止めて目を閉じボンヤリとその音を聞いていた
……昔は先週の土曜日の夕方には確か1度隆とは別れていた。かなり曖昧な記憶だが、その後寄りをもどした記憶もあるし口付けされた記憶もあるがあまり細かくは覚えていないし他に中学3年生の時に何があったかと思いだしてみようとしたが考えれば考える程浮かんですらこない
早めに結婚して真面目に働いて貰えれば死なないのかな何て簡単な考えしか出て来なくて、ボンヤリとしながら数学のノートの切れ端に三ツ谷隆君結婚して下さいと書いて恥ずかしくなって破りポケットにしまった
昼休みになって私の席の隣に座ってきた麗奈が、卵焼き食べたいと言うので自分のお弁当箱から1つ渡すと美味しそうに頬張る彼女の若い笑顔に私も釣られて笑ってしまう
「雪那の卵焼き美味しい~。お母さんの手作り??お弁当珍しいね」
「ううん、最近帰って来なくてさ。自分で作ったよ。調味料とか全然揃って無くて今日また買い出し行かないと。普通の家庭に砂糖が無いってやばいよね」
ははっと呆れ笑いをした私に麗奈は何とも言えない様な顔をして無言になった。まぁ、人の家の母親を悪く言えないよな、と思い牛蒡の肉巻きを箸で取り麗奈にアーンと言おうとすると、反対隣からあーんと低い声が聞こえて振り返る。そこに居たのは隆で、無表情で口を開けて私を見ていた。そのまま肉巻きを隆の口に納めると、美味いと笑ったので次は卵焼きを取りアーンと言うと彼は素直に口を開けた
「俺レベルで美味い」
「フッ、隆くんを越してます」
「言ったな、今度勝負しよーぜ。後もう1個食いたい」
お腹減って無いから全部あげるとお弁当箱を差し出すと、風邪か?と隆は私の額に触れた。その瞬間にキャーと女性の叫び声が聞こえて私達を含めたクラスメイトの大勢がそちらを皆振り返る。見られた女の子と横に居た友人2人は少しだけ恥ずかしそうにしながら廊下に消えて行った
「何あれ」
「あぁ、今叫んだ子が三ツ谷の事好きらしいよ」
「ふーん」
「三ツ谷知らないの??三ツ谷はこの学校で1番モテるんだよ~」
「鴨志田さんだけじゃね?そう思ってんの」
「失礼な!鴨志田さんの情報なめんなよ」
「プッ、すみませんね。なぁ雪那、本当に弁当食っていいの?」
「いいよ、早く食べちゃいな。ねぇ、瞼の絆創膏取っちゃったの??駄目じゃん」
「単車に乗りにくいんだよ」
いつの間にか隣の椅子に座りお弁当を口に入れながら話す隆に溜息をついてから、財布に入っている絆創膏を取り出して瞼に新しいのを貼り付ける。大人しく貼られた隆はご飯を咀嚼しながらキンピラも美味いと言って機嫌良く笑った
「ねぇ、何か二人仲良くない?」
「ん?そうかな?」
「……」
雪那、あの事三ツ谷に話したの?もしかして解決した感じ??そう言った麗奈の興味深々な眼差しに私と隆は目を合わせてから首を傾げる
「……隆、何の事?」
「俺が聞きたいわ」
「麗奈、何の話??」
「えっ??私が言って大丈夫なの?てか、雪那何で分かんないのよ。あんなに怒ってたのに」
「えっ?!本当に忘れた。教えて」
私の忘れたとゆう言葉に呆れた顔をした麗奈は雪那脅迫されてたじゃん。とスッパリ言い放つ
「「ハァ??!誰に!?!」」
隆と私の驚いた声が教室に響く。その驚いた私の顔を見て、三ツ谷が驚くのは分かるけど何であんたが驚くのよと呆れた口調で言われて、確かにと頷いた
「んで?鴨志田さん、詳しく教えてくんね?」
「それは良いけど、本当に覚えてないの?」
「……こ、この間頭打ってから色々覚えてなくてさ」
ハハハと困った様に笑う私に、何故か隆が困った顔をしながら「そうなんだよね」とフォローする様に話を合わせてから私の頭を優しくポンポンと叩いた。そんな様子を見ていた麗奈は「ふーん」と言ってから眉を寄せた
「まぁ、雪那が話していいんならいいけどさ。
私は元々三ツ谷に言おうと思ってたし。...さっき居た多田さんて女の子達のグループなんだけど、2ヶ月くらい前から雪那の下駄箱とか机の中に三ツ谷と別れろとか書いた紙入れたり、先週は呼び出してビンタしたりと中々酷いのよ」
多田って名前とビンタと聞いてふと、記憶が蘇る。セミが泣き叫ぶ様な場所。多分学校の裏庭辺りか…。日差しが照りつけてきて、私は眩しくて目を庇うように手で影を作ろうとした瞬間に頬に衝撃が走った
ブスが、別れなさいよ。釣り合ってない
そんな事があった気がして私はハッと麗奈を見つめた
「釣り合ってないから別れろって叩かれたわ」
思い出した、と言った私に麗奈があれいいの?と首を傾げる。何が?と聞くと横に居てお弁当を食べていた隆の姿は何処にも無かった
「あれ?」
「物凄い怒ってたよ、あの顔はヤバいんじゃない?
まぁ、でも私的には三ツ谷が怒ってくれた方がスッキリするわ」
そう言って舌打ちした麗奈を見ていると少しづつ、頭の中で話が繋がってくる気がした。「お前は2ヶ月前くらいから冷たかった。出掛けようと誘っても断られるしキスも嫌がられる」そう言って苦い顔をした隆の顔を思い出した
直ぐに廊下に出て、さっき多田さん達が向かった様に見えた方へ走る。トイレの前の少し広くなっているスペースに、自身のスカートの裾を握り泣きそうになっている多田さんと、いつも一緒にいる友人の2人。顔は少し怒っているが冷静な隆が話しているのが見えて直ぐに駆け寄った
「隆」
「……んで?こいつの事叩いたのって本当か聞いてるんだけど」
「……叩いてません」
「えっ?叩かれたけど。何で多田さん嘘つくの?」
「…… 白石さんが嘘ついてるんじゃない?三ツ谷くんの前だから」
その言葉を平然と言って来た多田さんに唖然とした。まさかシラを切るとは思わなかったからだ
「三ツ谷君の他にも男居るって聞いた事あるし」
小さな声だったけどハッキリと聞こえた多田さんのその台詞に頭に来てしまい手を振りあげた瞬間にその手首は隆の右手に掴まれていた
「……手出すな」
「……分かった」
厳しい表情をした隆に頷いてから振り上げた手を下ろして気持ちを落ち着かせる様に1度息を吐くと、急に凍り付くような目に変わった隆は多田さんを睨み付けた
「……次にこいつに何かしてみろ……。本当に怒るからな」
そのドスが聞いた様な低い声は辺りに響かずに多田さんだけに刺さったのだろう。その場で泣き出した多田さんの姿を見た友人2人は彼女の背を優しく抱きながら早々と保健室の方に立ち去っていった。隆の冷たい声に内心驚いていた私は3人が直ぐに立ち去ってくれた事に少しだけ安心して肩の力が抜けた
「……隆めっちゃ怖い」
「他に男居るなんて言われたら怒るに決まってんだろ」
「……言われたの私だけどね」
「お前が言われたからキレるんだろ、馬鹿か」
「巻き込んでごめんね。私が冷たかったのは……多分彼女達からの嫌がらせが原因だと思う」
「……その言い方だと第三者みたいだぞ」
「……だね。でも、本当に弱くてごめん。あんな子達に振り回されて隆を不安にさせちゃった」
「……いいよ、でも。今度から鴨志田さんの前に俺に言えよ」
言えたらでいいからと付け足してくれた隆を見れば、藤色の優しい瞳が私を見つめていて何だか悲しくて嬉しくて学校だって事も忘れてしまい、隆の胸に顔を寄せて背中に手を回し力を込めた
「……おま、ここ学校……ま、いっか」
「……ありがとう。本当に好き。大好き」
「……それは後で聞くわ」
「おーい、そこのバカップル。教室に戻りなさい」
その声にハッとすると、いつから見ていたのか分からないが隆の担任の先生が教室の開けっ放しのドアからこちらを見て叫んでる。恥ずかしくて思わず吹き出してしまうと、隆はへーいとやる気の無い返事をしてから私の頭を1度撫で教室に戻っていった
全ての授業が終わると全速力で学校を出てスーパーに向かう。足りない調味料やら食材を書いておいたメモを見ながら激安と書かれた業務用スーパーに入り値段をチェックしながら買い物を済ませた
隣の薬局に寄ってヘアトリートメントやヘアカラー、トイレットペーパーなどの日用品を買い外に出ると薄々嫌な予感はしていたが勢い余ってこんなに買ってしまい荷物の重さに途方に暮れていた。持てる事には持てるが重くて少し歩くとへばってしまい、休憩してを繰り返しているとポケットの携帯が鳴った
「はぁ、はぁ、もし、もしもし」
「……何で息切れしてんだよ、大丈夫か?」
「た、隆助けて」
「はっ?今どこ?」
「〇〇の薬局の前」
「今行く」
まだ話そうとしているのに通話終了の画面が出たスマホをポケットにしまうと、そう言えば車で来てと言うの忘れたなと思ったが車まだ無いじゃんとガックリした。帰ろうとして頑張って進んだ道を薬局まで戻り、ベンチに座り息切れを起こした体を休めていると何分かしてから近付いてきたインパルスの音に頭を上げた
「…はっ?…買い物?」
「お、重くて動けなくなっちゃった」
「はァ、紛らわしぃ。何かあったかと思っただろ」
「ごめんごめん」
「……お前マスク持って無いの?」
「何で?」
「顔隠して乗れよ。もし追いかけられたら逃げれるけど写真撮られてお前が捕まったら親御さんに顔向けできねー」
「……はーい」
バイクから降りた隆は手早く荷物をメットインの中に入れて、私にヘルメットを渡す。本当は危ないから乗せたくないのが丸わかりの態度に少し笑ってしまうと「ちゃんと被れよ」と言われ、頷くと後ろに乗りしっかりと彼のお腹に腕を回して掴まった
バイクに乗ったのは本当に久しぶりで、最初は少しだけ怖かったけど何分か経てば移り変わる景色が楽しいし、風も気持ちが良いし最高の気分だった
自宅のマンションに到着すると、隆はインパルスを置いて荷物は俺が持って行くから先に家に入ってろと言われ、お言葉に甘える事にした。本当に助かったなと思いながらエレベーターの前で隆を待っていると
5分も経たない内に軽々と荷物を持ち、私の前に現れた隆にターミネーターみたいだねと言うと意味わかんねぇと返されて終わった
自宅に入り荷物をキッチンに置いてくれた隆は直ぐに食材を冷蔵庫に入れ、日用品のトイレットペーパーやキッチンペーパーを袋から取り出し収納してくれた
1人だと時間がかかるのに二人でやればこんなに早いんだなと感動していると「他にやる事あんの?」と聞かれて首を横に振ればソファに腰掛けた隆はテレビを付けてクッションに頭を預けている
麦茶を入れて隆に差し出すと「サンキュな」と言った隆の隣に座り彼の肩に頭を置いた。何も言わずに麦茶を飲んでいた隆は、グラスを置くと優しい手つきで私の肩に腕を回し頭に手を添えてくる。チュッと可愛く控えめなキスをされて何やら一瞬考えた顔をしたが、またこちらを見ると今度は深く口付けして来た。唇の中に入ってきた冷たい舌が口の中を掻き混ぜるような感覚に少し気持ちが良くなってくる。ンンっと自然に声が出ると、唇が離れて今度は首筋にキスをされ、手がワイシャツの中に入ってきてブラジャーを片手で外される
「……まだ夕方にもなってないって」
「……だめ?」
目尻の垂れた目で首を傾げられ「ダメ?」と言われると私はもう何も言えずにダメじゃないよと言うしか無かった
1度優しい口付けを落としてからスカートの中に手を入れた瞬間にガチャっと玄関のドアが開く音がして、くっ付いていたお互いの体がびくっと揺れて私達は1度硬直した。彼と目を合わせてから直ぐにブラジャーを付け直した私は立ち上がりリビングから玄関に続くドアを開けて廊下を覗き込む
「たっだいまー雪那ちゃん」
「こんにちは雪那ちゃん、久しぶりだね」
そこに居たのはご機嫌な様子のお母さんと彼氏の三浦さんだった。相変わらず仲が良さそうに談笑しながらリビングに入って来た2人は隆を見てギョっとした顔をすると直ぐに我に返り「こんにちは」と隆に頭を下げた。その2人の様子に私が笑いを堪えていると隆は優しく微笑んでからこちらに向かってくる
「初めましてお邪魔してます。雪那さんとお付き合いさせて頂いている三ツ谷隆といいます」
そう言ってお辞儀をする隆にお母さんは最近見た中で1番嬉しそうな顔で微笑んだ
「可愛い子じゃない!雪那ちゃんやるわね」
「……まぁ、うん。ありがと」
「三ツ谷君、雪那ちゃんと同じクラスなの?タカちゃんて呼んでもいーい?」
「あ、はい。クラスは隣です」
「ふふっ、この子はこう見えて気が強いから大変でしょう」
「……三浦さん、お母さんはこう見えて気が強いから大変でしょう」
「わぁ、雪那ちゃん。良く分かるね大正解」
「んもぉ、雪那ちゃんたら」
「それより、何しに来たの?忘れ物?」
「ああ、そうそう。これから海外に行ってくるからパスポート取りに来たの」
「へぇ、どこ行くの?」
「ドバイに行ってくるから、お土産楽しみにしてて」
「ドバイなら、天然石が沢山あると思うから質が良いのあったら沢山買ってきて」
「それはパパにお願いしなさい」
「三浦パパさんお願いします」
「雪那ちゃん、任せなさい!三ツ谷君は何が良い?」
「いや、俺は大丈夫です」
「隆の所は小さい姉妹が沢山いるから、美味しい物を沢山送って下さいパパ」
「……任せなさい!」
「……あんた、そんな子だったっけ?」
そう言われても仕方ない。私は今まで三浦さんに良い顔をした事が一度も無かったからだ。驚いた様子のお母さんを見て三浦さんは少しだけ困った様に微笑みながら私を見た
「……三浦さんは良い人そうだから」
そう言って三浦さんに微笑み返した私に2人は心底喜んだ顔をしたので、少しだけ照れてしまい隆の方を見ると温かい眼差しと目が合い私はどこを見ていいか分からずに目が泳いでしまった
確かこの後何年か付き合ってたこの2人は、三浦さんの病気により破局する。泣いているお母さんから胃がんの末期だったって聞いた気がした。聞いた時に少しだけ心が痛かったのを今でも覚えている
何故あの時、優しくしてあげなかったんだろうって
「そう言えば何でドバイなの?」
「最近疲れてて食欲も無くてね、胃も痛いし。仕事の疲れだと思うからパーっと遊ぼと思って」
「…えっ??その状態で行く気なんですか?」
「まぁ、只のストレスだと思うからさ」
「……三浦さん、ドバイ行く前に絶対に検査に行って下さい。胃痛の原因をキチンと見てもらってから旅行に行って下さい」
「……えっ?」
「……最近友達のお父さんが胃痛や食欲不振になって放っておいたら胃がんで亡くなってしまったんです」
「……まぁ、そうだったの」
そうだったのじゃないわ!と言ってジロっとお母さんを睨むと、お母さんはビクリと肩を揺らした。隆もビックリしたのか少しだけ表情が強ばったが流石に口は出して来ない
三浦さんがこう言ってるのに一緒に遊び呆けて何やってんのと言うと、でも、だってと言い訳ばかりしてくるお母さんに対して頭に来てしまう。優しく言ってあげたくても命がかかっているからか私の口は止まらない
「本来なら私じゃなく、お母さんが検査してきなってすすめるのが当然でしょ??胃が痛いって言ってる人に肉やら油っこい高級なご馳走ばかり食べさせて何やってるの?自分も贅沢したいのかもしれないけど、大事な物の順番違うじゃん」
最後に、んもぉ!と付け加えて言った私に三浦さんと隆は可笑しそうに笑い出した
「……何で笑うの?」
「んもぉとか、口癖がマリちゃんと一緒」
「やっぱり親子だな」
唇を尖らせて拗ねているお母さんを見て隆は優しく笑っていた。男性軍は甘すぎると言って私が頬を膨らますと、んもぉ。意地悪言わないでと言って来たお母さんに何だか段々と怒る気も失せてきてしまった
それから、三浦さんは明日直ぐに大きな病気で検査すると私に約束して仲良く二人で家を出ていった。このお金で2人で食事でもしてきなと言われ1万円を渡されたけれど仕事の材料と日用品に回すと言った私に三浦さんは衝撃を受けた様な顔をしてから3万円を握らせて来たので有難く受け取っておいた
「疲れたー。本当にお母さんと話してると疲れるわ」
ごめんね、と付け加えてソファに掛けた隆の背中を撫でると優しい瞳が私を見つめていた
「どしたの?」
「前にさ、お前がウチに急に来た事あったじゃん。まだ付き合って少しした頃」
「うーん?いつだろ」
「……その時、お母さんの彼氏嫌だって言ってたのに、その後全然その話しねーからどうなったのか気にはなってたんだよな」
「あー、確か2人がご飯に誘ってきてさ。イチャイチャしてて何か受け入れられなかったんだよね」
「……母親のイチャイチャとか見たくねーのは分かるからな。でも、何かお前の母ちゃん可愛いよな」
「……うん、何か憎めないんだよね」
ハハハと言って笑う隆を見ていたら私も笑ってしまった。何だかんだ阿呆でどうしようも無い所沢山あるけれど、母親ってだけで憎めないのかもしれないね何て言って隆の肩に寄りかかると、いつの間にあったのか隆の手に持っている可愛いらしい箱に目がいく
「何それ」
「分かんねぇ。帰り際にお母さんが渡してきた」
「飴かな?ルナとマナにあげたら?」
パカりと箱を開けた隆が絶句しているのを見て、箱を引ったくって中身を見る。そこには沢山の避妊具が入っていて、私はその時に自分の額にうっすらと青筋が浮き出たのが分かった
「……ちょっと電話してくる」
「待てって」
「……何?」
「ちゃんと避妊しなって事だろ。良い母親って事で怒んなよ」
「……持ち歩いてる事が嫌だ」
「……それ言われたら俺も何も言えねーじゃん」
丁度良かったかもと耳元で囁いてきた隆は私をキツく抱き締めて唇に口付けしてくる。シャツに入ってきた手が少し荒々しく胸を揉みしだき、ブラジャーが手早く外され脱がされてゆく。少し興奮気味な隆のシャツに手を入れて背中を撫でると、ソファにそのまま倒されたと同時に隆の携帯が鳴った
1度携帯を見たがそのまま放り、荒々しくスカートの中に侵入して来た手が下着を触った途端にまた携帯が鳴った
「ふふふ……出てあげなよ」
「……ああ」
明らかに不機嫌な態度で携帯を持ってベランダに出た隆に内心笑っていると「はァ?」とこちらにも聞こえる大きな声を出した隆は柵から身を乗り出して下を見ていた。首を傾げている私の方を向き手招きしてくる。何事だ?とベランダに出た私にまたお預けかよと小さく呟いて肩に顔を埋めてくる隆の背中を擦りながら下を見ればマイキーとドラちゃん、後何人かの人がこちらに向かって歩いて来るのが見えた
「……今日集会なの?」
「いや、さっきお前迎えに行く途中にマイキーからメール来ててさ。雪那んちに行くからって返したら今向かってるって今電話きた」
「……何しにくんの?」
「暇なんだとさ」
とりあえず服を着て身なりを整えていると、ピンポンと鳴ったインターホンに隆が不満そうな顔で出て行った。直ぐにやっほーと明るい軽いマイキーの声が聞こえて、リビングにズカズカと入ってくる男連中の中に金髪の見慣れない顔を見つけた
「お邪魔します」
「雪那~お腹空いた」
「悪ぃな、デート中に」
千冬、マイキー、ドラちゃん。多分絶対悪いと思って無い。そんな中挨拶をしてくれた初めて合う優しい顔付きの男の子。目があった瞬間に何か不思議な感覚を感じた
「あ、初めまして花垣と言います」
「……あ、ああ。雪那です。」
「たけみっちは最近ウチの2番隊に入った新人。マイキーのダチになったからよろしくな」
「花垣くん、よろしくね」
「よろしくお願いします」
私達が見つめ合い微笑んでいると「腹減ったよ」と言って袖を引っ張ってくる笑顔のマイキーに、はいはいと言って台所に立った私の目は今だに花垣くんに釘付けだった。
ソファでマイキーを囲み、何やら皆で物騒な話をしている男連中の話を聞きながらご飯を炊き、簡単で大量に出来る鍋を作っていると花垣君の声が耳に入ってきた
稀咲だけはやめた方が良いです
うまく言えないんですけど
稀咲。最後に隆と飲んだ時に話に出てた男だった
稀咲の出方によっては、今からどうなるか分からない
まぁ、うまくやるわ
飲み屋の件は片付いたと言っていたのに、何故か酔ってこぼした言葉
静かに皆の話が聞こえるようになるべく聞き耳を立てて静かに野菜を切り続けた
「ご飯出来たよ」
「やったー」
手をあげて大袈裟なくらいに喜ぶマイキーに、これくらい喜んでくれると以外に作りがいもあるなと笑うと
千冬が手伝いますと言って、隆とドラちゃんの真剣に話し合う横をすり抜けてこちらに来てくれた
「ちーちゃん、ご飯よそってくれる?」
「雪那さんだと重いと思うので先に鍋テーブルに運びますね」
「ちーちゃんは本当に気がきくよね、彼女にもそんな感じ?」
「いや、居たこと無いです」
「うーん。けいちゃんより良い女探さないとね」
その言葉にブハッっと吹き出したマイキーは珍しく手伝うと言ってご飯をよそってくれる
「千冬は場地大好きだもんなー」
「マイキーだってけいちゃん好きじゃん」
「俺は皆好きなんですー」
「良い子いい子。そんな良い子ちゃんにはオヤツにプリンあげちゃう」
「雪那大好きー」
「よしよし」
そんなふざけた事をしていると、マイキーが私の手首を掴んだ。痛くは無かったが、何?と私が首を傾げると珍しく真面目な顔をした
「ねぇ、本当にお前は 雪那?」
「……」
その瞬間に私に走り寄り、立ち塞がった隆の背中は大きく感じた
「……マイキーやめろ」
「いいよ隆。大丈夫だよ。別にマイキー怒ってる訳じゃないじゃん」
何だ急にどしたんだ?と眉を潜めたドラちゃんが焦った様な顔をして、隆とマイキーの間に立った
「雪那は、俺にそんな子供を可愛がる様な目は向けないよ。言動も違いすぎる」
「……そんな事言われても覚えてないよ」
「……覚えてないって何だよ」
「……」
確信を付いてくるような誘導尋問に感じた
「……マイキーは何が聞きたいの?」
「……カマかけるのはやめるわ。率直にする。これは?」
マイキーが握っているのは私の25歳の時の黒い携帯電話だ。何故彼が持っているのか全く検討がつかない
「……中見た?」
「……中は見てない。だけど、調べたけどこの世の中にこのモデルは存在しない。後、この間の集会の時の態度と目。明らかに人間が違う」
この画面のお前の顔も全然違うしねと言って、サイドボタンを押すと25歳の私と麗奈の嬉しそうな顔が画面いっぱいに広がる
「……何でそう言い切る?」
「……同じような人間を知ってるからさ」
少しだけ悲しい瞳をしたマイキーの顔を見て、私は私以外にこうなった人間が身近に居た事に言いはしないが、内心安堵していた
「…なぁ、…三ツ谷のがおかしいって感じてただろ?」
「……まぁな。」
味方だからなと言うように隆は私の頭を撫で、マイキーに向き直る。チラチラと視界に入る花垣くんが何かを言いたそうにこちらを見ているのが分かった。ドラちゃんはまだ良く分からない様で、意味が分からんと言って私達を見つめている
「……どこから話したら良いんだろう」
「……俺はお前が話したくないなら別に詳しくは聞かないよ。雪那が俺達に危害を加えるとかは思ってないからね」
「…ありがとう。…でもマイキーには話しておいても良いかもしれない」
25歳の時の携帯から、最後に隆と撮った写真を表示して、その画面を皆が見えるように見せる。幸せそうな私達の顔。皆にはどう映るのか……
「これ、俺?」
目を怪訝に細めて画面を見る皆、やっぱり1番に口を開いたのは隆だった
「おいおい、三ツ谷オッサンじゃねーか」
どうゆう事だよと焦った様なドラちゃんの一言に私はまだ若いよと笑って突っ込む
優しい顔に戻っているマイキーがこの未来から来たのか?と私に問いかけてきて首を縦にふる
「……幸せだったのに?来たんですか?何かあったんですか?」
と口を開いたのは花垣くんだった
皆が花垣君のその一言に彼を見つめる。すみませんと言った花垣君に私は、幸せじゃなくなったと言った
「…… 雪那さん、こうしたい、変えたいって強い気持ちがリープするトリガーになってる気がするんですけど、そうゆう体験をこの写真を撮った後にしたんですか?……」
そう、全部知っている様に言った花垣君の言葉に私は崩れる様にその場に座り込んだ。肩を抱いてくれる隆の額を撫でるといきなりの私の行動に隆が眉を寄せる
私の名前を呼び、心配そうな顔の隆の目を見て覚悟を決めた
「あの写真をね、撮った日に隆と再開したの。10年ぶりだった。これからずっと一緒にいようってお互い確かめあった日だったんだ……」
10年ぶり?と隆が目を細めた
「でもね、次の次の日に殺された」
その私の言葉に全員が目を見開いたのが分かって
凄く不謹慎なのに、私を信じてくれてるって凄く嬉しかった
「……信じられなかったよ、額と心臓に穴が空いた隆を見た時に。生きてて初めてくらいの勢いで心から思った。隆の手を握ってやり直したいって。花垣君が言った通りだよ」
そう言った私に、横に居た花垣君の顔面がどんどん崩れていって鼻水を垂らしながらすげー分かりますと言ってくれた時、私の心は何故か救われたような気がして。咄嗟に、ありがとうと言ってしまう
ちーがハンカチで私の涙をそっと拭いてくれて、私は目を伏せて口を開く
「……隆を殺したのは東京卍會幹部。25歳の時は裏組織で、反社。……それしか分からないの」
「俺達幹部が三ツ谷を殺したと?」
以外にマイキーの声は優しく冷静だった。私はその問に首を横に降った
「分からないけど、違うと思う。……隆はマイキーとは全然会えてないって言ってた。ドラちゃんは刑務所。」
「……俺はムショかよ」
「ドラちゃんが居てくれたらなって何回か言ってた」
「……俺がそれを言う時は相当参ってるな」
隆がそう苦笑いをするとドラちゃんは少し納得がいかない様な顔をして溜息を吐いた
「……ヘマしたって言ってた。隆。今考えたら嘘ついてたんだと思う。縄張りの飲み屋でヘマしただけだって笑ってたけど本当は違ったのかもしれない。そんな小さい事なら殺されたりはしないもんね」
稀咲って名前の人の話をした時が1番嫌そうな話し方をしてた…多分隆の口ぶりからこの人が幹部の上みたいな感じだったと思う
その台詞が私の口から出た時に、皆の目が変わった
花垣くんとちーが二人で目配せをしていて、皆何かしら稀咲とゆう人物に思いあたる節があるのかなと感じる
「……稀咲か。」
「…… 雪那さん、僕も稀咲が1番怪しいと思います」
花垣君の言葉に、ちーが何かを知っているような顔で頷く。詳しくは聞かないけど花垣君も大変だったんだね。と私が泣きながら彼の手を握ると何かを感じてくれたのか、はいぃと素直な涙と真っ直ぐさが伝わってきて私の心の悲しみが溶けてゆくよう感じた
「……」
「妬くな三ツ谷。雪那はたけみっちに癒されてるだけだ」
「……分かってんだよ」
複雑そうな顔の隆の肩を叩き、マイキーがニィと笑う
「雪那が、お前の、お前の為だけに未来から来て頑張ってんだぞ。1番の愛じゃねーか」
「……何か、説得力あるな。マイキー」
「……経験者だからな……」
「えっ?……」
「……その愛情をもっと信じてやれ」
三日月になったマイキーの目、ひひっと可愛らしく笑うマイキーの顔に隆はかなわねぇなぁ。と一言呟いて頷いた。珍しく、いつも必要以上に話しかけてこないちーちゃんが何か精神的に食い違ってて困っている事があったら言って下さいねと気遣いの言葉をくれた
「……よく分かるね。1番困ったよそれ」
「千冬は気がきくからな」
「例えば、どんな事が困りました?」
「んー、距離感とかもあったけど。……例えば私はこの間まで不安でさ。起きたらまた死んでる隆の顔を見るんじゃないかって思うと眠りたく無くて」
あぁそうゆう事だったのと隆が納得した様に頷いた
「……それで前置きも無く、事情も話さずに一緒に寝て欲しいって言ったけど、隆的にはびっくりしたでしょ?」
「ああ、口からスープ全部出て顔からお前に全部かけたもんな」
ちーちゃんが、何も知らないと素晴らしいお誘いですねと言うと隆がちーちゃんの額にデコピンをかましていた
私の話を聞いてお腹を抱えて笑いだしたマイキーとドラちゃんをジトリと睨む。何で三ツ谷君はびっくりしたんですか?と言った花垣君に25歳の時は好きな人と一緒に眠るのは普通だったけど……。中学生はちょっと違うじゃんと私が笑うと、確かにそれもそうですね。と固まってしまったのではははと笑って流してしまう事にした
「今の歳では苦手だった料理や珈琲何かも未来では大好きだし、子供も好きには好きだけど、中学生の時は少し扱いが苦手でさ。でも懐かしいし今は皆が凄く可愛いい。元々隠す気も無いから直ぐに変だなとは思われるよね」
「出てる雰囲気が全然違うしね」
まだ少し笑っているマイキーは起き上がると私を見て安心させるように肩を優しく叩いてくる
大丈夫だから。と一言貰えただけで私の心の闇は洗われたようにスッキリとした気がした
放置されていた鍋を卓上コンロの火を付けてグツグツと煮立たせる。さっきまでのシリアスさが嘘のように肉の争奪戦を始める花垣君以外のメンバーにゲンナリとしながら切った肉を追加していく作業に追われ続けた
それから1時間も経たずに眠ったマイキーをドラちゃんが背負い皆も、もう夜遅いからと帰っていった
帰り際に花垣君がまた良かったら話せませんか?と聞いてくれて、少し嬉しくて頷くとそんな私に少し笑顔を向けてちーちゃんと二人でうちを後にした
洗い物や片付けはちーちゃんと隆がしてくれたから、お風呂に入ってゆっくりしようと決め込み
浴室に湯船をはっていると、浴室から顔だけ覗かせた隆が珈琲いれたけど飲む?お前んちのだけどと言って優しく笑う
「飲む」
「ちょっと休もうぜ」
「飲んでお風呂入ってから休む」
「……一緒入る?」
「……それはちょっと」
「なんでだよ」
「……この体、明るい所で見るとくびれないし。胸も小さいし恥ずかしい」
「……25歳の時は違うのかよ」
「……言われてみるとそんな変わんないかな」
「……」
はァと溜息を付いた隆は、珈琲冷めんぞとだけ言ってリビングに戻っていく。その後ろ姿を見ていたら胸が締め付けられるように熱くなる気がした。ただ、珈琲を入れてくれただけでこんなに嬉しいなんて昔の自分には余り無かったなとしみじみ思う
嬉しくなって「やっぱり一緒にお風呂入ろ」と言った私に隆は少しだけ顔が赤くなった気がしたけど「おー」と言って顔を逸らされてしまったのでバレない様に笑いを堪えていた。珈琲を飲んで二人で脱衣場で服を脱いでいると「何だよこれ」と言われて私が振り返ると、どこから取り出したか分からないが折り畳まれているノートの用紙を開いた隆は目を見開いてから私を見つめた
「……何その紙」
「……返事いる?」
「何言ってんの?返事って何?」
そう言って隆から紙を取り上げて中を見れば、三ツ谷隆くん結婚して下さいと書かれていて私は両手で顔を覆ってしまった。恥ずかしくてチラッと指の隙間から彼の顔を見れば嬉しそうに微笑んで私を見ていた
「うわぁぁぁ。棄てるの忘れてたぁ」
「お前はそんなに俺が好きなんだな」
満足そうな顔をして、ケラケラと笑う隆の顔を見上げて「悪い?」と言えば「愛してるよ」と急に真顔で言われて私は口をポカンと開けたまま固まってしまった。その顔を見て、またゲラゲラと笑い出した隆に私も釣られて笑ってしまった
私にとって学校は勉強に励む場所では無かった
学ぶ楽しさよりも友人との中を深めたり、恋愛したり皆でワイワイしたり。そんな学生生活だった気がする
10年振りに会う懐かしい友人や先生との話は思ってたよりもとても新鮮で、考えていたよりは学校生活が楽しい自分がいたけれど以外に勉強が面倒臭い。昔やった事をもう1度勉強するのも嫌だし、大人になって特に役に立った事もないので好きな科目だけ程々に頑張る事にした
数学の授業中にノートに今後やる事を書き込んで頭を整理していると、先生が黒板に書き込むチョークの音すら私には懐かしくて心地良くて。気付けば手を止めて目を閉じボンヤリとその音を聞いていた
……昔は先週の土曜日の夕方には確か1度隆とは別れていた。かなり曖昧な記憶だが、その後寄りをもどした記憶もあるし口付けされた記憶もあるがあまり細かくは覚えていないし他に中学3年生の時に何があったかと思いだしてみようとしたが考えれば考える程浮かんですらこない
早めに結婚して真面目に働いて貰えれば死なないのかな何て簡単な考えしか出て来なくて、ボンヤリとしながら数学のノートの切れ端に三ツ谷隆君結婚して下さいと書いて恥ずかしくなって破りポケットにしまった
昼休みになって私の席の隣に座ってきた麗奈が、卵焼き食べたいと言うので自分のお弁当箱から1つ渡すと美味しそうに頬張る彼女の若い笑顔に私も釣られて笑ってしまう
「雪那の卵焼き美味しい~。お母さんの手作り??お弁当珍しいね」
「ううん、最近帰って来なくてさ。自分で作ったよ。調味料とか全然揃って無くて今日また買い出し行かないと。普通の家庭に砂糖が無いってやばいよね」
ははっと呆れ笑いをした私に麗奈は何とも言えない様な顔をして無言になった。まぁ、人の家の母親を悪く言えないよな、と思い牛蒡の肉巻きを箸で取り麗奈にアーンと言おうとすると、反対隣からあーんと低い声が聞こえて振り返る。そこに居たのは隆で、無表情で口を開けて私を見ていた。そのまま肉巻きを隆の口に納めると、美味いと笑ったので次は卵焼きを取りアーンと言うと彼は素直に口を開けた
「俺レベルで美味い」
「フッ、隆くんを越してます」
「言ったな、今度勝負しよーぜ。後もう1個食いたい」
お腹減って無いから全部あげるとお弁当箱を差し出すと、風邪か?と隆は私の額に触れた。その瞬間にキャーと女性の叫び声が聞こえて私達を含めたクラスメイトの大勢がそちらを皆振り返る。見られた女の子と横に居た友人2人は少しだけ恥ずかしそうにしながら廊下に消えて行った
「何あれ」
「あぁ、今叫んだ子が三ツ谷の事好きらしいよ」
「ふーん」
「三ツ谷知らないの??三ツ谷はこの学校で1番モテるんだよ~」
「鴨志田さんだけじゃね?そう思ってんの」
「失礼な!鴨志田さんの情報なめんなよ」
「プッ、すみませんね。なぁ雪那、本当に弁当食っていいの?」
「いいよ、早く食べちゃいな。ねぇ、瞼の絆創膏取っちゃったの??駄目じゃん」
「単車に乗りにくいんだよ」
いつの間にか隣の椅子に座りお弁当を口に入れながら話す隆に溜息をついてから、財布に入っている絆創膏を取り出して瞼に新しいのを貼り付ける。大人しく貼られた隆はご飯を咀嚼しながらキンピラも美味いと言って機嫌良く笑った
「ねぇ、何か二人仲良くない?」
「ん?そうかな?」
「……」
雪那、あの事三ツ谷に話したの?もしかして解決した感じ??そう言った麗奈の興味深々な眼差しに私と隆は目を合わせてから首を傾げる
「……隆、何の事?」
「俺が聞きたいわ」
「麗奈、何の話??」
「えっ??私が言って大丈夫なの?てか、雪那何で分かんないのよ。あんなに怒ってたのに」
「えっ?!本当に忘れた。教えて」
私の忘れたとゆう言葉に呆れた顔をした麗奈は雪那脅迫されてたじゃん。とスッパリ言い放つ
「「ハァ??!誰に!?!」」
隆と私の驚いた声が教室に響く。その驚いた私の顔を見て、三ツ谷が驚くのは分かるけど何であんたが驚くのよと呆れた口調で言われて、確かにと頷いた
「んで?鴨志田さん、詳しく教えてくんね?」
「それは良いけど、本当に覚えてないの?」
「……こ、この間頭打ってから色々覚えてなくてさ」
ハハハと困った様に笑う私に、何故か隆が困った顔をしながら「そうなんだよね」とフォローする様に話を合わせてから私の頭を優しくポンポンと叩いた。そんな様子を見ていた麗奈は「ふーん」と言ってから眉を寄せた
「まぁ、雪那が話していいんならいいけどさ。
私は元々三ツ谷に言おうと思ってたし。...さっき居た多田さんて女の子達のグループなんだけど、2ヶ月くらい前から雪那の下駄箱とか机の中に三ツ谷と別れろとか書いた紙入れたり、先週は呼び出してビンタしたりと中々酷いのよ」
多田って名前とビンタと聞いてふと、記憶が蘇る。セミが泣き叫ぶ様な場所。多分学校の裏庭辺りか…。日差しが照りつけてきて、私は眩しくて目を庇うように手で影を作ろうとした瞬間に頬に衝撃が走った
ブスが、別れなさいよ。釣り合ってない
そんな事があった気がして私はハッと麗奈を見つめた
「釣り合ってないから別れろって叩かれたわ」
思い出した、と言った私に麗奈があれいいの?と首を傾げる。何が?と聞くと横に居てお弁当を食べていた隆の姿は何処にも無かった
「あれ?」
「物凄い怒ってたよ、あの顔はヤバいんじゃない?
まぁ、でも私的には三ツ谷が怒ってくれた方がスッキリするわ」
そう言って舌打ちした麗奈を見ていると少しづつ、頭の中で話が繋がってくる気がした。「お前は2ヶ月前くらいから冷たかった。出掛けようと誘っても断られるしキスも嫌がられる」そう言って苦い顔をした隆の顔を思い出した
直ぐに廊下に出て、さっき多田さん達が向かった様に見えた方へ走る。トイレの前の少し広くなっているスペースに、自身のスカートの裾を握り泣きそうになっている多田さんと、いつも一緒にいる友人の2人。顔は少し怒っているが冷静な隆が話しているのが見えて直ぐに駆け寄った
「隆」
「……んで?こいつの事叩いたのって本当か聞いてるんだけど」
「……叩いてません」
「えっ?叩かれたけど。何で多田さん嘘つくの?」
「…… 白石さんが嘘ついてるんじゃない?三ツ谷くんの前だから」
その言葉を平然と言って来た多田さんに唖然とした。まさかシラを切るとは思わなかったからだ
「三ツ谷君の他にも男居るって聞いた事あるし」
小さな声だったけどハッキリと聞こえた多田さんのその台詞に頭に来てしまい手を振りあげた瞬間にその手首は隆の右手に掴まれていた
「……手出すな」
「……分かった」
厳しい表情をした隆に頷いてから振り上げた手を下ろして気持ちを落ち着かせる様に1度息を吐くと、急に凍り付くような目に変わった隆は多田さんを睨み付けた
「……次にこいつに何かしてみろ……。本当に怒るからな」
そのドスが聞いた様な低い声は辺りに響かずに多田さんだけに刺さったのだろう。その場で泣き出した多田さんの姿を見た友人2人は彼女の背を優しく抱きながら早々と保健室の方に立ち去っていった。隆の冷たい声に内心驚いていた私は3人が直ぐに立ち去ってくれた事に少しだけ安心して肩の力が抜けた
「……隆めっちゃ怖い」
「他に男居るなんて言われたら怒るに決まってんだろ」
「……言われたの私だけどね」
「お前が言われたからキレるんだろ、馬鹿か」
「巻き込んでごめんね。私が冷たかったのは……多分彼女達からの嫌がらせが原因だと思う」
「……その言い方だと第三者みたいだぞ」
「……だね。でも、本当に弱くてごめん。あんな子達に振り回されて隆を不安にさせちゃった」
「……いいよ、でも。今度から鴨志田さんの前に俺に言えよ」
言えたらでいいからと付け足してくれた隆を見れば、藤色の優しい瞳が私を見つめていて何だか悲しくて嬉しくて学校だって事も忘れてしまい、隆の胸に顔を寄せて背中に手を回し力を込めた
「……おま、ここ学校……ま、いっか」
「……ありがとう。本当に好き。大好き」
「……それは後で聞くわ」
「おーい、そこのバカップル。教室に戻りなさい」
その声にハッとすると、いつから見ていたのか分からないが隆の担任の先生が教室の開けっ放しのドアからこちらを見て叫んでる。恥ずかしくて思わず吹き出してしまうと、隆はへーいとやる気の無い返事をしてから私の頭を1度撫で教室に戻っていった
全ての授業が終わると全速力で学校を出てスーパーに向かう。足りない調味料やら食材を書いておいたメモを見ながら激安と書かれた業務用スーパーに入り値段をチェックしながら買い物を済ませた
隣の薬局に寄ってヘアトリートメントやヘアカラー、トイレットペーパーなどの日用品を買い外に出ると薄々嫌な予感はしていたが勢い余ってこんなに買ってしまい荷物の重さに途方に暮れていた。持てる事には持てるが重くて少し歩くとへばってしまい、休憩してを繰り返しているとポケットの携帯が鳴った
「はぁ、はぁ、もし、もしもし」
「……何で息切れしてんだよ、大丈夫か?」
「た、隆助けて」
「はっ?今どこ?」
「〇〇の薬局の前」
「今行く」
まだ話そうとしているのに通話終了の画面が出たスマホをポケットにしまうと、そう言えば車で来てと言うの忘れたなと思ったが車まだ無いじゃんとガックリした。帰ろうとして頑張って進んだ道を薬局まで戻り、ベンチに座り息切れを起こした体を休めていると何分かしてから近付いてきたインパルスの音に頭を上げた
「…はっ?…買い物?」
「お、重くて動けなくなっちゃった」
「はァ、紛らわしぃ。何かあったかと思っただろ」
「ごめんごめん」
「……お前マスク持って無いの?」
「何で?」
「顔隠して乗れよ。もし追いかけられたら逃げれるけど写真撮られてお前が捕まったら親御さんに顔向けできねー」
「……はーい」
バイクから降りた隆は手早く荷物をメットインの中に入れて、私にヘルメットを渡す。本当は危ないから乗せたくないのが丸わかりの態度に少し笑ってしまうと「ちゃんと被れよ」と言われ、頷くと後ろに乗りしっかりと彼のお腹に腕を回して掴まった
バイクに乗ったのは本当に久しぶりで、最初は少しだけ怖かったけど何分か経てば移り変わる景色が楽しいし、風も気持ちが良いし最高の気分だった
自宅のマンションに到着すると、隆はインパルスを置いて荷物は俺が持って行くから先に家に入ってろと言われ、お言葉に甘える事にした。本当に助かったなと思いながらエレベーターの前で隆を待っていると
5分も経たない内に軽々と荷物を持ち、私の前に現れた隆にターミネーターみたいだねと言うと意味わかんねぇと返されて終わった
自宅に入り荷物をキッチンに置いてくれた隆は直ぐに食材を冷蔵庫に入れ、日用品のトイレットペーパーやキッチンペーパーを袋から取り出し収納してくれた
1人だと時間がかかるのに二人でやればこんなに早いんだなと感動していると「他にやる事あんの?」と聞かれて首を横に振ればソファに腰掛けた隆はテレビを付けてクッションに頭を預けている
麦茶を入れて隆に差し出すと「サンキュな」と言った隆の隣に座り彼の肩に頭を置いた。何も言わずに麦茶を飲んでいた隆は、グラスを置くと優しい手つきで私の肩に腕を回し頭に手を添えてくる。チュッと可愛く控えめなキスをされて何やら一瞬考えた顔をしたが、またこちらを見ると今度は深く口付けして来た。唇の中に入ってきた冷たい舌が口の中を掻き混ぜるような感覚に少し気持ちが良くなってくる。ンンっと自然に声が出ると、唇が離れて今度は首筋にキスをされ、手がワイシャツの中に入ってきてブラジャーを片手で外される
「……まだ夕方にもなってないって」
「……だめ?」
目尻の垂れた目で首を傾げられ「ダメ?」と言われると私はもう何も言えずにダメじゃないよと言うしか無かった
1度優しい口付けを落としてからスカートの中に手を入れた瞬間にガチャっと玄関のドアが開く音がして、くっ付いていたお互いの体がびくっと揺れて私達は1度硬直した。彼と目を合わせてから直ぐにブラジャーを付け直した私は立ち上がりリビングから玄関に続くドアを開けて廊下を覗き込む
「たっだいまー雪那ちゃん」
「こんにちは雪那ちゃん、久しぶりだね」
そこに居たのはご機嫌な様子のお母さんと彼氏の三浦さんだった。相変わらず仲が良さそうに談笑しながらリビングに入って来た2人は隆を見てギョっとした顔をすると直ぐに我に返り「こんにちは」と隆に頭を下げた。その2人の様子に私が笑いを堪えていると隆は優しく微笑んでからこちらに向かってくる
「初めましてお邪魔してます。雪那さんとお付き合いさせて頂いている三ツ谷隆といいます」
そう言ってお辞儀をする隆にお母さんは最近見た中で1番嬉しそうな顔で微笑んだ
「可愛い子じゃない!雪那ちゃんやるわね」
「……まぁ、うん。ありがと」
「三ツ谷君、雪那ちゃんと同じクラスなの?タカちゃんて呼んでもいーい?」
「あ、はい。クラスは隣です」
「ふふっ、この子はこう見えて気が強いから大変でしょう」
「……三浦さん、お母さんはこう見えて気が強いから大変でしょう」
「わぁ、雪那ちゃん。良く分かるね大正解」
「んもぉ、雪那ちゃんたら」
「それより、何しに来たの?忘れ物?」
「ああ、そうそう。これから海外に行ってくるからパスポート取りに来たの」
「へぇ、どこ行くの?」
「ドバイに行ってくるから、お土産楽しみにしてて」
「ドバイなら、天然石が沢山あると思うから質が良いのあったら沢山買ってきて」
「それはパパにお願いしなさい」
「三浦パパさんお願いします」
「雪那ちゃん、任せなさい!三ツ谷君は何が良い?」
「いや、俺は大丈夫です」
「隆の所は小さい姉妹が沢山いるから、美味しい物を沢山送って下さいパパ」
「……任せなさい!」
「……あんた、そんな子だったっけ?」
そう言われても仕方ない。私は今まで三浦さんに良い顔をした事が一度も無かったからだ。驚いた様子のお母さんを見て三浦さんは少しだけ困った様に微笑みながら私を見た
「……三浦さんは良い人そうだから」
そう言って三浦さんに微笑み返した私に2人は心底喜んだ顔をしたので、少しだけ照れてしまい隆の方を見ると温かい眼差しと目が合い私はどこを見ていいか分からずに目が泳いでしまった
確かこの後何年か付き合ってたこの2人は、三浦さんの病気により破局する。泣いているお母さんから胃がんの末期だったって聞いた気がした。聞いた時に少しだけ心が痛かったのを今でも覚えている
何故あの時、優しくしてあげなかったんだろうって
「そう言えば何でドバイなの?」
「最近疲れてて食欲も無くてね、胃も痛いし。仕事の疲れだと思うからパーっと遊ぼと思って」
「…えっ??その状態で行く気なんですか?」
「まぁ、只のストレスだと思うからさ」
「……三浦さん、ドバイ行く前に絶対に検査に行って下さい。胃痛の原因をキチンと見てもらってから旅行に行って下さい」
「……えっ?」
「……最近友達のお父さんが胃痛や食欲不振になって放っておいたら胃がんで亡くなってしまったんです」
「……まぁ、そうだったの」
そうだったのじゃないわ!と言ってジロっとお母さんを睨むと、お母さんはビクリと肩を揺らした。隆もビックリしたのか少しだけ表情が強ばったが流石に口は出して来ない
三浦さんがこう言ってるのに一緒に遊び呆けて何やってんのと言うと、でも、だってと言い訳ばかりしてくるお母さんに対して頭に来てしまう。優しく言ってあげたくても命がかかっているからか私の口は止まらない
「本来なら私じゃなく、お母さんが検査してきなってすすめるのが当然でしょ??胃が痛いって言ってる人に肉やら油っこい高級なご馳走ばかり食べさせて何やってるの?自分も贅沢したいのかもしれないけど、大事な物の順番違うじゃん」
最後に、んもぉ!と付け加えて言った私に三浦さんと隆は可笑しそうに笑い出した
「……何で笑うの?」
「んもぉとか、口癖がマリちゃんと一緒」
「やっぱり親子だな」
唇を尖らせて拗ねているお母さんを見て隆は優しく笑っていた。男性軍は甘すぎると言って私が頬を膨らますと、んもぉ。意地悪言わないでと言って来たお母さんに何だか段々と怒る気も失せてきてしまった
それから、三浦さんは明日直ぐに大きな病気で検査すると私に約束して仲良く二人で家を出ていった。このお金で2人で食事でもしてきなと言われ1万円を渡されたけれど仕事の材料と日用品に回すと言った私に三浦さんは衝撃を受けた様な顔をしてから3万円を握らせて来たので有難く受け取っておいた
「疲れたー。本当にお母さんと話してると疲れるわ」
ごめんね、と付け加えてソファに掛けた隆の背中を撫でると優しい瞳が私を見つめていた
「どしたの?」
「前にさ、お前がウチに急に来た事あったじゃん。まだ付き合って少しした頃」
「うーん?いつだろ」
「……その時、お母さんの彼氏嫌だって言ってたのに、その後全然その話しねーからどうなったのか気にはなってたんだよな」
「あー、確か2人がご飯に誘ってきてさ。イチャイチャしてて何か受け入れられなかったんだよね」
「……母親のイチャイチャとか見たくねーのは分かるからな。でも、何かお前の母ちゃん可愛いよな」
「……うん、何か憎めないんだよね」
ハハハと言って笑う隆を見ていたら私も笑ってしまった。何だかんだ阿呆でどうしようも無い所沢山あるけれど、母親ってだけで憎めないのかもしれないね何て言って隆の肩に寄りかかると、いつの間にあったのか隆の手に持っている可愛いらしい箱に目がいく
「何それ」
「分かんねぇ。帰り際にお母さんが渡してきた」
「飴かな?ルナとマナにあげたら?」
パカりと箱を開けた隆が絶句しているのを見て、箱を引ったくって中身を見る。そこには沢山の避妊具が入っていて、私はその時に自分の額にうっすらと青筋が浮き出たのが分かった
「……ちょっと電話してくる」
「待てって」
「……何?」
「ちゃんと避妊しなって事だろ。良い母親って事で怒んなよ」
「……持ち歩いてる事が嫌だ」
「……それ言われたら俺も何も言えねーじゃん」
丁度良かったかもと耳元で囁いてきた隆は私をキツく抱き締めて唇に口付けしてくる。シャツに入ってきた手が少し荒々しく胸を揉みしだき、ブラジャーが手早く外され脱がされてゆく。少し興奮気味な隆のシャツに手を入れて背中を撫でると、ソファにそのまま倒されたと同時に隆の携帯が鳴った
1度携帯を見たがそのまま放り、荒々しくスカートの中に侵入して来た手が下着を触った途端にまた携帯が鳴った
「ふふふ……出てあげなよ」
「……ああ」
明らかに不機嫌な態度で携帯を持ってベランダに出た隆に内心笑っていると「はァ?」とこちらにも聞こえる大きな声を出した隆は柵から身を乗り出して下を見ていた。首を傾げている私の方を向き手招きしてくる。何事だ?とベランダに出た私にまたお預けかよと小さく呟いて肩に顔を埋めてくる隆の背中を擦りながら下を見ればマイキーとドラちゃん、後何人かの人がこちらに向かって歩いて来るのが見えた
「……今日集会なの?」
「いや、さっきお前迎えに行く途中にマイキーからメール来ててさ。雪那んちに行くからって返したら今向かってるって今電話きた」
「……何しにくんの?」
「暇なんだとさ」
とりあえず服を着て身なりを整えていると、ピンポンと鳴ったインターホンに隆が不満そうな顔で出て行った。直ぐにやっほーと明るい軽いマイキーの声が聞こえて、リビングにズカズカと入ってくる男連中の中に金髪の見慣れない顔を見つけた
「お邪魔します」
「雪那~お腹空いた」
「悪ぃな、デート中に」
千冬、マイキー、ドラちゃん。多分絶対悪いと思って無い。そんな中挨拶をしてくれた初めて合う優しい顔付きの男の子。目があった瞬間に何か不思議な感覚を感じた
「あ、初めまして花垣と言います」
「……あ、ああ。雪那です。」
「たけみっちは最近ウチの2番隊に入った新人。マイキーのダチになったからよろしくな」
「花垣くん、よろしくね」
「よろしくお願いします」
私達が見つめ合い微笑んでいると「腹減ったよ」と言って袖を引っ張ってくる笑顔のマイキーに、はいはいと言って台所に立った私の目は今だに花垣くんに釘付けだった。
ソファでマイキーを囲み、何やら皆で物騒な話をしている男連中の話を聞きながらご飯を炊き、簡単で大量に出来る鍋を作っていると花垣君の声が耳に入ってきた
稀咲だけはやめた方が良いです
うまく言えないんですけど
稀咲。最後に隆と飲んだ時に話に出てた男だった
稀咲の出方によっては、今からどうなるか分からない
まぁ、うまくやるわ
飲み屋の件は片付いたと言っていたのに、何故か酔ってこぼした言葉
静かに皆の話が聞こえるようになるべく聞き耳を立てて静かに野菜を切り続けた
「ご飯出来たよ」
「やったー」
手をあげて大袈裟なくらいに喜ぶマイキーに、これくらい喜んでくれると以外に作りがいもあるなと笑うと
千冬が手伝いますと言って、隆とドラちゃんの真剣に話し合う横をすり抜けてこちらに来てくれた
「ちーちゃん、ご飯よそってくれる?」
「雪那さんだと重いと思うので先に鍋テーブルに運びますね」
「ちーちゃんは本当に気がきくよね、彼女にもそんな感じ?」
「いや、居たこと無いです」
「うーん。けいちゃんより良い女探さないとね」
その言葉にブハッっと吹き出したマイキーは珍しく手伝うと言ってご飯をよそってくれる
「千冬は場地大好きだもんなー」
「マイキーだってけいちゃん好きじゃん」
「俺は皆好きなんですー」
「良い子いい子。そんな良い子ちゃんにはオヤツにプリンあげちゃう」
「雪那大好きー」
「よしよし」
そんなふざけた事をしていると、マイキーが私の手首を掴んだ。痛くは無かったが、何?と私が首を傾げると珍しく真面目な顔をした
「ねぇ、本当にお前は 雪那?」
「……」
その瞬間に私に走り寄り、立ち塞がった隆の背中は大きく感じた
「……マイキーやめろ」
「いいよ隆。大丈夫だよ。別にマイキー怒ってる訳じゃないじゃん」
何だ急にどしたんだ?と眉を潜めたドラちゃんが焦った様な顔をして、隆とマイキーの間に立った
「雪那は、俺にそんな子供を可愛がる様な目は向けないよ。言動も違いすぎる」
「……そんな事言われても覚えてないよ」
「……覚えてないって何だよ」
「……」
確信を付いてくるような誘導尋問に感じた
「……マイキーは何が聞きたいの?」
「……カマかけるのはやめるわ。率直にする。これは?」
マイキーが握っているのは私の25歳の時の黒い携帯電話だ。何故彼が持っているのか全く検討がつかない
「……中見た?」
「……中は見てない。だけど、調べたけどこの世の中にこのモデルは存在しない。後、この間の集会の時の態度と目。明らかに人間が違う」
この画面のお前の顔も全然違うしねと言って、サイドボタンを押すと25歳の私と麗奈の嬉しそうな顔が画面いっぱいに広がる
「……何でそう言い切る?」
「……同じような人間を知ってるからさ」
少しだけ悲しい瞳をしたマイキーの顔を見て、私は私以外にこうなった人間が身近に居た事に言いはしないが、内心安堵していた
「…なぁ、…三ツ谷のがおかしいって感じてただろ?」
「……まぁな。」
味方だからなと言うように隆は私の頭を撫で、マイキーに向き直る。チラチラと視界に入る花垣くんが何かを言いたそうにこちらを見ているのが分かった。ドラちゃんはまだ良く分からない様で、意味が分からんと言って私達を見つめている
「……どこから話したら良いんだろう」
「……俺はお前が話したくないなら別に詳しくは聞かないよ。雪那が俺達に危害を加えるとかは思ってないからね」
「…ありがとう。…でもマイキーには話しておいても良いかもしれない」
25歳の時の携帯から、最後に隆と撮った写真を表示して、その画面を皆が見えるように見せる。幸せそうな私達の顔。皆にはどう映るのか……
「これ、俺?」
目を怪訝に細めて画面を見る皆、やっぱり1番に口を開いたのは隆だった
「おいおい、三ツ谷オッサンじゃねーか」
どうゆう事だよと焦った様なドラちゃんの一言に私はまだ若いよと笑って突っ込む
優しい顔に戻っているマイキーがこの未来から来たのか?と私に問いかけてきて首を縦にふる
「……幸せだったのに?来たんですか?何かあったんですか?」
と口を開いたのは花垣くんだった
皆が花垣君のその一言に彼を見つめる。すみませんと言った花垣君に私は、幸せじゃなくなったと言った
「…… 雪那さん、こうしたい、変えたいって強い気持ちがリープするトリガーになってる気がするんですけど、そうゆう体験をこの写真を撮った後にしたんですか?……」
そう、全部知っている様に言った花垣君の言葉に私は崩れる様にその場に座り込んだ。肩を抱いてくれる隆の額を撫でるといきなりの私の行動に隆が眉を寄せる
私の名前を呼び、心配そうな顔の隆の目を見て覚悟を決めた
「あの写真をね、撮った日に隆と再開したの。10年ぶりだった。これからずっと一緒にいようってお互い確かめあった日だったんだ……」
10年ぶり?と隆が目を細めた
「でもね、次の次の日に殺された」
その私の言葉に全員が目を見開いたのが分かって
凄く不謹慎なのに、私を信じてくれてるって凄く嬉しかった
「……信じられなかったよ、額と心臓に穴が空いた隆を見た時に。生きてて初めてくらいの勢いで心から思った。隆の手を握ってやり直したいって。花垣君が言った通りだよ」
そう言った私に、横に居た花垣君の顔面がどんどん崩れていって鼻水を垂らしながらすげー分かりますと言ってくれた時、私の心は何故か救われたような気がして。咄嗟に、ありがとうと言ってしまう
ちーがハンカチで私の涙をそっと拭いてくれて、私は目を伏せて口を開く
「……隆を殺したのは東京卍會幹部。25歳の時は裏組織で、反社。……それしか分からないの」
「俺達幹部が三ツ谷を殺したと?」
以外にマイキーの声は優しく冷静だった。私はその問に首を横に降った
「分からないけど、違うと思う。……隆はマイキーとは全然会えてないって言ってた。ドラちゃんは刑務所。」
「……俺はムショかよ」
「ドラちゃんが居てくれたらなって何回か言ってた」
「……俺がそれを言う時は相当参ってるな」
隆がそう苦笑いをするとドラちゃんは少し納得がいかない様な顔をして溜息を吐いた
「……ヘマしたって言ってた。隆。今考えたら嘘ついてたんだと思う。縄張りの飲み屋でヘマしただけだって笑ってたけど本当は違ったのかもしれない。そんな小さい事なら殺されたりはしないもんね」
稀咲って名前の人の話をした時が1番嫌そうな話し方をしてた…多分隆の口ぶりからこの人が幹部の上みたいな感じだったと思う
その台詞が私の口から出た時に、皆の目が変わった
花垣くんとちーが二人で目配せをしていて、皆何かしら稀咲とゆう人物に思いあたる節があるのかなと感じる
「……稀咲か。」
「…… 雪那さん、僕も稀咲が1番怪しいと思います」
花垣君の言葉に、ちーが何かを知っているような顔で頷く。詳しくは聞かないけど花垣君も大変だったんだね。と私が泣きながら彼の手を握ると何かを感じてくれたのか、はいぃと素直な涙と真っ直ぐさが伝わってきて私の心の悲しみが溶けてゆくよう感じた
「……」
「妬くな三ツ谷。雪那はたけみっちに癒されてるだけだ」
「……分かってんだよ」
複雑そうな顔の隆の肩を叩き、マイキーがニィと笑う
「雪那が、お前の、お前の為だけに未来から来て頑張ってんだぞ。1番の愛じゃねーか」
「……何か、説得力あるな。マイキー」
「……経験者だからな……」
「えっ?……」
「……その愛情をもっと信じてやれ」
三日月になったマイキーの目、ひひっと可愛らしく笑うマイキーの顔に隆はかなわねぇなぁ。と一言呟いて頷いた。珍しく、いつも必要以上に話しかけてこないちーちゃんが何か精神的に食い違ってて困っている事があったら言って下さいねと気遣いの言葉をくれた
「……よく分かるね。1番困ったよそれ」
「千冬は気がきくからな」
「例えば、どんな事が困りました?」
「んー、距離感とかもあったけど。……例えば私はこの間まで不安でさ。起きたらまた死んでる隆の顔を見るんじゃないかって思うと眠りたく無くて」
あぁそうゆう事だったのと隆が納得した様に頷いた
「……それで前置きも無く、事情も話さずに一緒に寝て欲しいって言ったけど、隆的にはびっくりしたでしょ?」
「ああ、口からスープ全部出て顔からお前に全部かけたもんな」
ちーちゃんが、何も知らないと素晴らしいお誘いですねと言うと隆がちーちゃんの額にデコピンをかましていた
私の話を聞いてお腹を抱えて笑いだしたマイキーとドラちゃんをジトリと睨む。何で三ツ谷君はびっくりしたんですか?と言った花垣君に25歳の時は好きな人と一緒に眠るのは普通だったけど……。中学生はちょっと違うじゃんと私が笑うと、確かにそれもそうですね。と固まってしまったのではははと笑って流してしまう事にした
「今の歳では苦手だった料理や珈琲何かも未来では大好きだし、子供も好きには好きだけど、中学生の時は少し扱いが苦手でさ。でも懐かしいし今は皆が凄く可愛いい。元々隠す気も無いから直ぐに変だなとは思われるよね」
「出てる雰囲気が全然違うしね」
まだ少し笑っているマイキーは起き上がると私を見て安心させるように肩を優しく叩いてくる
大丈夫だから。と一言貰えただけで私の心の闇は洗われたようにスッキリとした気がした
放置されていた鍋を卓上コンロの火を付けてグツグツと煮立たせる。さっきまでのシリアスさが嘘のように肉の争奪戦を始める花垣君以外のメンバーにゲンナリとしながら切った肉を追加していく作業に追われ続けた
それから1時間も経たずに眠ったマイキーをドラちゃんが背負い皆も、もう夜遅いからと帰っていった
帰り際に花垣君がまた良かったら話せませんか?と聞いてくれて、少し嬉しくて頷くとそんな私に少し笑顔を向けてちーちゃんと二人でうちを後にした
洗い物や片付けはちーちゃんと隆がしてくれたから、お風呂に入ってゆっくりしようと決め込み
浴室に湯船をはっていると、浴室から顔だけ覗かせた隆が珈琲いれたけど飲む?お前んちのだけどと言って優しく笑う
「飲む」
「ちょっと休もうぜ」
「飲んでお風呂入ってから休む」
「……一緒入る?」
「……それはちょっと」
「なんでだよ」
「……この体、明るい所で見るとくびれないし。胸も小さいし恥ずかしい」
「……25歳の時は違うのかよ」
「……言われてみるとそんな変わんないかな」
「……」
はァと溜息を付いた隆は、珈琲冷めんぞとだけ言ってリビングに戻っていく。その後ろ姿を見ていたら胸が締め付けられるように熱くなる気がした。ただ、珈琲を入れてくれただけでこんなに嬉しいなんて昔の自分には余り無かったなとしみじみ思う
嬉しくなって「やっぱり一緒にお風呂入ろ」と言った私に隆は少しだけ顔が赤くなった気がしたけど「おー」と言って顔を逸らされてしまったのでバレない様に笑いを堪えていた。珈琲を飲んで二人で脱衣場で服を脱いでいると「何だよこれ」と言われて私が振り返ると、どこから取り出したか分からないが折り畳まれているノートの用紙を開いた隆は目を見開いてから私を見つめた
「……何その紙」
「……返事いる?」
「何言ってんの?返事って何?」
そう言って隆から紙を取り上げて中を見れば、三ツ谷隆くん結婚して下さいと書かれていて私は両手で顔を覆ってしまった。恥ずかしくてチラッと指の隙間から彼の顔を見れば嬉しそうに微笑んで私を見ていた
「うわぁぁぁ。棄てるの忘れてたぁ」
「お前はそんなに俺が好きなんだな」
満足そうな顔をして、ケラケラと笑う隆の顔を見上げて「悪い?」と言えば「愛してるよ」と急に真顔で言われて私は口をポカンと開けたまま固まってしまった。その顔を見て、またゲラゲラと笑い出した隆に私も釣られて笑ってしまった
