短編 シリーズ
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隆の部活が終わる頃には、いつの間にか気まずさも消えて意地もサッパリと無くなっていて逆に誤解を解いてしっかりもう一度謝らないとなと思っていた。手芸部の後輩の女の子の話を聞いてから尚更そう思う自分が居た。
全員が家庭科室から出たのを確認して鍵を閉めた隆は先生に鍵を渡してくると言って職員室に向かったので校門で待ってると言ってのんびりと歩き出した。昇降口で靴を履き替えて居たら走って来たのか息を切らせた隆がお待たせと言ってきたので全然待ってないよと笑う
私達は小学生から隆の性格がこんな感じだからかそんなに大きな喧嘩もした事も無かったし、異性関係で揉めたことも無かった。そもそも私は普通の人とちょっと違って鈍いし、欠落している部分もあるんだと思う。そこをイライラしないでいつも暖かく見守ってくれる彼だから喧嘩も避けられて来たのかもしれない。そういえばかなり昔、いつもの面子で神社にたむろしていた頃。小さな事だったと思うけど隆は本当に大人だなって思う事があって「私は多分一生隆以外と付き合えないんじゃないかな」と皆に言うとそれを聞いて面白そうに笑った一虎に「三ツ谷が居なかったら誰と付き合ってた?」と聞かれて、「煩くなさそうで、私と一緒で抜けてるパーとしかうまくいかなそう」と言った私に「お前は怖いから嫌だ」と真顔でパーに言われて皆に大爆笑された思い出を思い出した
そんな事を思い出しながら、握られた手が久しぶりに感じて内心喜びに浸る。腕に抱き着いて顔を寄せると、「ん?」と私を覗き込んでくる隆に何でもない、帰ろと少し微笑んで首を振った
「ねぇ、聞いた事無かったけどさ。隆って告白された事ある?」
「……何だよ急に」
「いや、あるのかな?って」
「……俺らが付き合ってるの学校で知らねー奴いねぇじゃん。まぁ、だからあんまり無いかな」
「……あんまりって何?」
「された事はある。他校の子とか……新入生とか」
「……そんなにあるの??」
「ちゃんと彼女いるって言って断ってるよ」
「モテるんだね、私は……痴漢とか変質者とかにしかモテないからな」
「……お前は怖いからモテなかっただけで、俺が居なくて普通なら多分凄いモテるんじゃね?……お前は嫌がるけどお父さんに似て美人だしな」
「……ま、別にモテなくていいけどね」
「お前がそんな感じだから俺は良いんだけどな」
手が繋がれていない方の手で頭をクシャクシャと撫でられて、私は頷いた。いつもよりゆっくりな歩幅で歩く隆は今日の夕飯の献立何にしようかなとブツブツ言っていて、それを聞いていたけれどやっぱり話しておきたくて彼の話を遮って口を開いた
「……あのさ、乾の事なんだけど。多分誤解もあるからちゃんと私の口から話す」
「……おう」
「まずさ、どこまで知ってるか分からないけど。私達は最初稽古してたんだよね、首の痣は乾の拳が掠っただけでやましい事じゃない」
「……お前アイツに殴られたの?」
「組手してただけだよ。八戒の家で昔会った時にも1回組手してって言われたんだ……考えてみたら小学校の時からワンコは昔から組手付き合ってくれてた」
「…ふーん。…それは俺がメールに振り回されて誤解してたわ」
「隆が1番怒ってたのはキスの事?」
「……お前に伝わるか分かんねぇけど、凄い複雑だった。俺からすればお前がキスされる事がまず分からないから」
「……」
「……お前ならされる前に何かしら方法取るだろ。それだけ護身術もマイキーの道場でも訓練してきてたのを俺は知ってるから。……だからアイツに気があるのかと思っちまったんだよ」
「……正直ヘトヘト過ぎて油断してた」
「……」
「……ワンコだって聞いた後は……彼を痛めつけるくらいなら、キスくらいくれてやるとか思ってたのかな。……最低な事言うけど実際減るもんじゃないし」
「……お前はそう言うけど俺は嫌なんだよ」
「……隆はさ、安田さんに無理やりキスされたら殴れる?突き飛ばせる??好きで堪らないって顔されて泣かれたらさ……。キツくない?」
そう言って隆を見つめると「安田さんは無しだろ」と馬鹿かみたいな顔で言われて私は眉を寄せ口を尖らせる
「……まぁ、女の子だしね。でも殴れないのは当たり前だけど突き飛ばせないでしょ?」
「……じゃあ、お前。俺が安田さんにされっぱなしで何もしないでキスくらいにくれてやるって言ってたら良いの?」
「……嫌です」
舌打ちした私に、だろ?と言った隆は馬鹿と続けた
「……何か相手の立場って難しい」
「……まぁな。だからただ俺は乾と別れた後に連絡くれて、頼ってくれたら良かったのにと思った。お前の口からじゃなくて、変な奴からのメールで聞かされたから尚更腹たった」
「…乾にはハッキリとそうゆう関係にはなれないって断ったから。下手に波風たてるより、隆に言わない方が良いかなって思っちゃったんだ。実際……これから誰かに告白されたりしてもわざわざ言わないと思う」
「……まぁ、俺も告白くらいじゃ言わねぇしな」
「……1番気になるのはメールの奴だよね」
「俺は九井だと思うけど」
「……はっ?何で?」
「イヌピーの昔からの恋を実らせてあげたかった。とかで汚ぇ策使いそうだから」
「……でも、確かに九井なら出来るかも」
「……まぁ、俺はお前が傍に居るならもういいよ。だけど、今度から絶対俺に1番に言えよ」
「うん。こんな事もう無いと思うけど」
「……こんなの何回もあってたまるかよ」
そう言った隆の顔はバッドで頭を殴られた時よりも苦痛そうに見えた。私も今回の事は体が痛いよりも辛くて胸が痛かったな。何て考えながら互いに特に口を開かずに自宅へ帰宅した
家に着いてまだ時間も早いので夕飯の下ごしらえだけしてしまおうと思い、靴を脱いでキッチンに向かおうとすると右腕を掴まれて引き寄せられる
「……どしたの?」
かなり強い力で壁に抑えられそのまま唇を奪われて少し驚いたけど、隆の背中に手を回すと口の中に入って来た舌が私の舌に絡め始めると、スカートに入ってきた温かい手が太腿を撫でて自分の口から吐息が溢れた
「…… 雪那 」
唇が離れて名前を呼ばれ目尻の下がった菫色の瞳が私を見つめていた。ワックスが付いた固めの髪に手を入れて優しく撫でていると、もう一度口付けされてカーディガンに入って来た手が胸を撫でた瞬間に玄関の扉が勢い良く開いた
「 雪那ちゃーん!」
「……お兄ちゃん何やってんの?」
「……あーあ。タイミング悪ぃ」
間抜けな顔をして固まる私達に、雪那ちゃんを虐めないでと何か勘違いをしている小さな隆の妹達と何故か圭介が立っていて、隆は無言で私の服から手をゆっくり退けた
「たまたまそこでチビ達に会ったから連れてきた。それより三ツ谷、お前玄関ですんなや」
「……何か場地に言われると素直に頷けねぇ」
「マナちゃん、ルナちゃん、ジュース飲む?」
「飲む」
「じゃあリビング行こうか」
わーいと無邪気に笑う2人を連れてキッチンに向かい冷蔵庫からオレンジジュースを出してコップに注いであげると、マナちゃんがさっきお兄ちゃんに何されてたの?と首を傾げて来たので「大好きだよって頬っぺにチューしてくれたの」と言って苦笑いすると、うんうんと同じ様に苦笑いした隆が首を縦に振りながらリビングに入ってきた。「スカートに手入れてたべ」と余計な事を言いながらソファに座った圭介の頭をテーブルにあった雑誌で思い切り叩くとルナとマナは楽しそうに笑った
「けーすけ叩かれた」
「マナもやるー」
「おい、辞めろ。三ツ谷どうにかしろや」
「……今回は助けねぇよ、ルナマナやっちまえ」
圭介を雑誌でポカポカと叩くルナとマナを見ながら笑っていると、玄関が開いた音がしてバタバタと沢山の足音がこちらに向かってきた。リビングの扉を開けたのはドラちゃんとパーと一虎で、隆が居るのを確認するとフッと笑った3人に心配かけたなぁと思った
「良かったな」
「……うん、3人共ありがとうね」
「雪那、礼はいらねーから飯」
「えぇ、何人分作んのよ。パーも手伝ってよ」
「何で場地叩かれてんの?」
「スケベだから」
「はっ?スケベなのは三ツ谷だろ」
「妹いんだからやめろボケ」
結局、その後マンジロとエマの2人が今出先きで帰りに寄ると言って来て10人と子供2人になりリビングに人が溢れてしまったけれど久しぶりにパーと隆と3人で皆のご飯を作って、エマとルナマナをお風呂に入れていると楽しくてすっかりあの辛さは消えて私は笑っていた。今日は久しぶりに隆に抱き締めてもらいながら寝れたらな何て考えていたけれど、隣で遊び疲れて眠ってしまったルナとマナ、そして子守りでヘトヘトになり眠るエマ見ていると自分も眠くなってきてしまってそのまま隣に居たエマを抱き枕にして眠ってしまう事にした
それから数日が経っていつも通り学校に行き授業を受けていると昼休みに私の教室にやって来たパーの顔には少しだけ怒りを隠している様なそんな気配がした。
何か気立ってんの?と聞きたかったけれど、「三ツ谷知らねぇ?」と言われて頭を横に振れば分かったと行ってさっさと立ち去ってしまったパーに結局何も言えなかった。4限目が終わって、やっぱり気になってパーの教室を覗けばパーは居なくて近くに居た子に聞けば早退したと言われて私は何だか嫌な予感がした
隆に電話をかけながら自分も鞄を持って直ぐに学校を出た。留守番電話になってしまった隆との通話を切ってペーに電話すると「もしもし?授業中だぞ」と言われたので「パーの様子がおかしかったけど何か知ってる?」と聞けば小さな声で「……昨日長内にやられた女の子の病院に二人で行ってきた」との返事を聞いて溜息をついてから隆に会ったら折り返してって伝えてと言って電話を切った
それから直ぐに一虎に電話をすると、直ぐに電話に出た彼に事情を話せば10分しないうちにバイクで校門の近くまで迎えに来てくれた。後ろに飛び乗ってからなるべく急いで長内が居る所探そうと言うと、心当たりがあるのか分かったと一言だけ言ってスピードを早めた一虎のお腹に手を回した
内心はハラハラしていた。もしも行った時には取り返しのつかない事になってしまっていたらと思うと少しだけ怖くて唇を噛み締める。一虎に「間に合うよね?大丈夫だよね?」と口を開いた私に「分かんねぇ」と珍しく大口も軽口も叩かない一虎に私は口を閉じた
バイクが止まり、いかにも暴走族がたむろしている様な工場跡地が目の前に見える。赤いスプレーで大きくメビウスと書いてある事と、中から下品な笑い声が聞こえる事が長内が居る事をものがたっていた。鞄から出したジャージをスカートの下に履いてからローファーを鉄板靴に履き替えていると、凄く白い目で一虎に見られて「仕方ないでしょ!」と睨み付けた
「……どうする?正面から入る?」
「うーん。私が正面から入るから一虎は窓からバレない様に入って長内だけ狙ってくれない?」
「……パー本当にいんの?」
「分からない。とりあえず入っていなかったら全速力で逃げる」
「……何だそれ。なら1回窓から確認しようぜ」
「……それもそうか」
ブレザーに入れておいた軍手をしながら二人で息を殺して窓から中を見た。ゲラゲラと笑い血だらけで転がったパーの背中を踏み潰している男達を見た瞬間に入口に向かって走り、中まで全力疾走しながらブレザーの内ポケットに入っている小型のスタンガンを取り出した
「おい!後ろ」
パーを囲んでいたうちの一人と目が合って、その男がそう叫んだ時には後ろを向いて居た男の背中にスタンガンを打ち付けた。悲鳴が上がる中、躊躇せずに思いっきりその隣の男の肋を狙い蹴りを叩き付けてから少し後ずさる。写真で見た事しか無い長内は私を見てから地面に伏せる仲間を見て一度間の抜けた様な顔をしてから大笑いした
チラリと窓を見れば一虎がゆっくりと入って来ていたので、地面に素早く手を付けて砂を拾い長内の隣に居た2人の目に投げ付ける。驚いた様に目を触る男の腕を両手で掴んで自分の体に引き寄せて背負い投げで地面に叩きつけると、パーが立ち上がったのが横目で見えて少し安心してからもう1人の男の股間を蹴り上げた。「やめろ馬鹿」と怒鳴り声が聞こえてそちらを見れば一虎が後ろから長内を羽交い締めにしていて上手くいったと思い駆け出そうとすると、私の横に居たパーがポケットから小さなナイフを取り出し地面を蹴った
「おいっ!!パーやめろ!」
長内を抑えていた一虎の顔が歪み、悲痛に叫ぶ
昔想像したパーが檻の中で泣いているような風景を思い出した私は何も考えずに走り出していた
長内に抱き着くような形になり飛び出した自分の脇腹に深く鋭い痛みと熱い様な感覚に歯を食いしばる。長内を見れば刺されなかった事が分かったのかヘラりとした表情を浮かべた。それが許せなくて頭に来て後ろで私の名を呼んで叫ぶパーの声を聞きながら長内の顔に思いっきりスタンガンを当ててやる
ぎゃああああと顔を抑えながら気絶出来ずに痛みもがく長内の頭を一虎が蹴り飛ばしたのを見たら、安心したのか膝をついてしまう。脇腹から流れる血を自分の手でなるべくキツく押さえていると、自分の服を破いた一虎がキツめに巻いてくれてそれが痛くて唸ってしまう
「…くぅぅぅ…痛ってぇぇ」
「…… 雪那 。悪ぃ本当に悪ぃ」
瞳が揺らぐパーに腕を掴まれて、何だか安心してしまってそのままパーの肩に頭を押し付けた
「……パー、大丈夫。脇腹なら死なないから。それより自分が刺したとか自首しないでね。庇った意味無くなっちゃう」
「……」
「……見てたのは2人しか居ない。他は全員気絶してた。……長内にレイプされそうになって刺されたって警察に言うから話合わせて」
病院に居る女の子の仇も取るぞと少しだけ微笑んだ私にパーの目から涙が零れ落ちて「お前はやっぱり怖い」と小さく呟いたパーに「また振られた」と私が笑う。顔を上げて一虎と目が合った瞬間に私はそのまま意識を手放してしまった
自分の名前が呼ばれている様な気がした。気が付くと自分の母親と父親が目の前に居て、昔見た様な私を邪見にする様な瞳で見ていなかった。悲しみと後悔に満ち溢れる様な瞳をしている2人は私に向かって呟いた
「……未熟でごめんなさい」
こんな事も言える様な人達だったっけ?と思う。何だか体が痛い気がしてゆっくりと目を開けた
「……病院かな?」
自分のベッドの周りを囲み、目が赤い皆に口からつい出た言葉。それを聞いて全員が一斉にこちらを向いた
「雪那」
ガバリと顔に抱き着いて来たのは珍しくパーだった。そんなパーに私が笑うと右手が握りしめられて、握ってくれていた隆と目が合った。瞳は真っ赤に充血していて頬には涙の跡がハッキリと見える。パーの背を擦りながら見渡して見れば、八戒に柚葉、マンジロに圭介に千冬、一虎にペー、ドラちゃんに隆、エマと河合さんとパー。皆目が真っ赤だった
「……心配かけてごめんね」
そう言った私にドラちゃんが首を横に降ってくれる
「俺に連絡しろよ馬鹿」
拗ねたように言ったマンジロに、兎に角急いでたんだと言い訳をしながら一虎に助けを求める様に見つめれば何故か一虎は傷だらけだった。良く見れば隆も口の端が切れてるしパーは1個歯がない。圭介と千冬は拳と瞼から血が少しだけ流れている
「……何で皆傷だらけなの?」
首を傾げた私に、溜息を吐きながらドラちゃんが口を開いた
「パーと一虎と三ツ谷と場地でケンカになって、俺とマイキーで止めた。千冬は完全にとばっちり受けただけ」
「……ちー、可哀想に」
「大丈夫っす」
私に心配をかけないようにか、微笑んだ千冬に少し笑いかけてから一虎に目をやった
「……一虎、私もう少し寝たいから。あの事皆と河合さんに話しておいて貰えないかな?」
「……もう話したよ」
「ありがと。……パー、絶対に話合わせてね。約束して」
そう言った私にパーは一度頷いてから小指を差し出してくる。パーの小指に自分の小指を絡めると、私は後はよろしくと言ってから目を瞑った
次に起きると部屋は暗くて窓の外は薄暗かった。少し離れた所に、付き添いの人が休む小さなベッドに丸まっているのは髪の色から隆だと分かった。こちらまで聞こえてくる規則正しい寝息に深く眠っているなと安心した。ゆっくりと立ち上がり痛む横っ腹を押さえて一度トイレに入って出ると起き上がっている隆が私を見てこちらに手を差し伸べてくれる
「……起こせよ」
「トイレくらい行けるよ。でも個室は本当に便利だね」
「……お前の親父さんが金出して個室にしてくれたらしいぜ。河合さんが言ってた」
「……ふーん」
特に何も感じなくて、そう。と頷いた私を優しくベッドまで運んでくれた隆は「あの後また警察が来た」と言って色々話してくれた。病院に運ばれた後に直ぐに一虎とパーは警察と他の皆にも私が頼んだ通りに言ってくれたらしい。その後にチームのメンバーだけを集めて「本当は俺が刺した」と土下座したパーに隆と圭介が殴りかかって一虎とドラちゃんが止めて喧嘩になったと隆は溜息をついた
「……私が飛び出したの」
「全部一虎から聞いてる。パーを殴ったら雪那に後で殺されるぞって一虎に言われたよ」
「さすが一虎。良く分かってる」
フフッと小さく笑った私に、隆は真剣な瞳で私を見つめた
「……馬鹿。本当に……死んだら…どうしようかと、思った」
隆の声が、最後の方はゆっくりになって嗚咽が混じる
私の肩に優しく顔を埋めて涙を流す隆の背中に手を回したら何だか凄く悲しくなってきて「……ごめんなさい」としか口から出なくて私も気付いたらポロポロと泣いていた
「……自分なんかどうなっても良いとかは今は思って無いから」
「……ああ」
「……ただ、パーが長内刺しちゃったら檻に入っちゃうしか考えられなくて。気が付いたら走ってて……」
「……それは、分かるから」
「……でも、心配かけてごめんね。」
「お前が死んだらって思ったら…カッコ悪ぃけどすげぇ怖かった」
「……」
「……お前が死んだら俺は多分立ち直れない。生きてても……嫌、何でもねぇ。これ以上は口に出さない」
「………死なないよ」
涙が止まった隆の目元に優しく口付けすると、頬を撫でられて微笑まれる
「……隆一緒に寝よ」
「……ここで寝てたら看護婦さんびっくりすんだろ」
「そんな事言われても離れないもん」
ギュッと隆の胸に抱き着くと「かわい」と言われ、そのままゆっくりと枕に隆の頭を押し付けて自分も横になる。痛み止めが効いているのか激しく動かなければ痛くないのでこのまま痛くない内に寝てしまおうと思いめをつむると優しく頭を撫でられてそれが心地よくて意識を手放した
起きてから右手が暖かくて、隆がまた手を握ってくれてるのかと思い目を開けるとギョッとした
「…… 雪那。大丈夫か?」
「ワンコ……どしたの?」
「イヌピーが雪那さんの見舞いに行くって気かねーからさ」
「……あ、九井。お前、隆に変なメールしたでしょ?退院したら覚えておけよ。また立てなくするからな」
そう言って私が睨み付けると、バレてるしと苦笑いをした九井にワンコは苦虫を噛み潰したような顔で「本当にごめんな」と言って私の手を握りしめた
「……あのー。あんまり姉さんに触らないで貰えませんか?」
「……うるせぇよ。餓鬼殺すぞ」
「……ワンコ、頼むから千冬にそういう事言わないで。後腕の殺人部隊て奴ポッケにしまっておいて」
「……分かったよ」
隆に頼まれているのか、千冬はワンコに殺すぞと言われても額をピクピクさせながら我慢した様に椅子に座り直した。その様子を見て可笑しそうに笑う九井に腹が立つが私も我慢する事にした。ワンコに傷の様子や、長内の事何かを聞かれてもうそこまで知ってるのかと思いながら話をしていると、病室のドアが開いて入ってきたマンジロとドラちゃんと隆は一瞬だけ怪訝な顔をする。その表情を見た九井とワンコもピリッとした空気を出した
「……頼むからここで喧嘩しないでね」
「……分かった」
コックリと頷いたのはワンコだけだった。いまだに私の右手を握るワンコの手を隆は無言で振りほどくと九井を睨み付ける。「……てめぇ。九井、ふざけたメールしてきやがって」そう言った隆の言葉に、フッと鼻で笑った九井は窓辺からワンコの元まで歩いてくると彼の耳元で何かを話した。すると直ぐにワンコは立ち上がり私を一度見てから「お大事に」と言って自分の膝に置いてあった花束を私に渡して帰って行った
「……」
「…… 雪那 、アイツが乾?」
「うん」
ドラちゃんに聞かれて頷くと、私の手元にある花を見て花瓶に水入れてきてやるよと言ってくれたので花束を渡してお礼を言った。私の横に座り何故かお見舞いの品のケーキを何も言わずにむしゃむしゃと食べているマンジロをスルーして、面白くない様な顔をしている隆に謝ると優しい顔付きに変わり首を横に降ってくれた
「雪那 、これ全部食っていい?」
「もう沢山食べたでしょ。ちー、ケーキ食べな」
「あ、はい頂きます」
「千冬はお預け」
「……あ!はい」
「……お預けはアンタでしょ、もう。…じゃあマンジロとちーで二人で半分こね。冷蔵庫にジュースあるから飲んで良いよ。ケーキだけ食べると喉につまる」
やりぃと笑ったマンジロに仕方ないなと微笑むと、隆は「お前は俺には甘えん坊なのに、マイキーの事は甘やかしいだよな」と言われて「昔からこうゆう人だからね」と笑った。
そんなやりとりをしている私達に、いつか俺が愛を無くす様な選択をしたら甘やかさないで言ってな。と珍しく無表情でケーキを平らげるマンジロに私と隆は目を合わせて首を傾げた
それから警察が来て事情を直接聞かれて、良くこんなにペラペラと嘘がつけるなと自分で関心する程には感情を込めながら上手く話せた。警察が帰る時に「彼はここだけの話、かなり前科もあるから当分出てこれなくなる」と呟いた言葉によろしくお願いしますと頭を下げて見送った
「「「お前怖い」」」「姉さんカッケェ」
「……3人揃って言わなくても」
「千冬は女に多分騙されるタイプだな」
「えっ」
「うーん。ちーは彼女出来たら1回紹介してね。心配だから」
「何それ怖い」
「でも、上手く言ったもんだな。」
「辻褄合わせてずっと考えてたからね。……レイプされた女の子が少しでも気が晴れると良い。親御さんだって本当は殺してやりたいくらい憎い筈だし」
こうゆう嘘なら誰かが許してくれなくても私だけは自分を許すの。そう言った私にマンジロだけは大笑いした。「女は敵に回すもんじゃねぇな」と呟いたドラちゃんに隆が、女のが頭良い時あるしな。と呟く
「本当にあの女の子が元気になってくれたら良いですよね」と真顔で言ったちーに私は本当にね。と言って頷いた
それから少しづつ傷が塞がって来て痛みも軽くなって来ると無事に退院出来てまた普段通りの生活が始まった
全員が家庭科室から出たのを確認して鍵を閉めた隆は先生に鍵を渡してくると言って職員室に向かったので校門で待ってると言ってのんびりと歩き出した。昇降口で靴を履き替えて居たら走って来たのか息を切らせた隆がお待たせと言ってきたので全然待ってないよと笑う
私達は小学生から隆の性格がこんな感じだからかそんなに大きな喧嘩もした事も無かったし、異性関係で揉めたことも無かった。そもそも私は普通の人とちょっと違って鈍いし、欠落している部分もあるんだと思う。そこをイライラしないでいつも暖かく見守ってくれる彼だから喧嘩も避けられて来たのかもしれない。そういえばかなり昔、いつもの面子で神社にたむろしていた頃。小さな事だったと思うけど隆は本当に大人だなって思う事があって「私は多分一生隆以外と付き合えないんじゃないかな」と皆に言うとそれを聞いて面白そうに笑った一虎に「三ツ谷が居なかったら誰と付き合ってた?」と聞かれて、「煩くなさそうで、私と一緒で抜けてるパーとしかうまくいかなそう」と言った私に「お前は怖いから嫌だ」と真顔でパーに言われて皆に大爆笑された思い出を思い出した
そんな事を思い出しながら、握られた手が久しぶりに感じて内心喜びに浸る。腕に抱き着いて顔を寄せると、「ん?」と私を覗き込んでくる隆に何でもない、帰ろと少し微笑んで首を振った
「ねぇ、聞いた事無かったけどさ。隆って告白された事ある?」
「……何だよ急に」
「いや、あるのかな?って」
「……俺らが付き合ってるの学校で知らねー奴いねぇじゃん。まぁ、だからあんまり無いかな」
「……あんまりって何?」
「された事はある。他校の子とか……新入生とか」
「……そんなにあるの??」
「ちゃんと彼女いるって言って断ってるよ」
「モテるんだね、私は……痴漢とか変質者とかにしかモテないからな」
「……お前は怖いからモテなかっただけで、俺が居なくて普通なら多分凄いモテるんじゃね?……お前は嫌がるけどお父さんに似て美人だしな」
「……ま、別にモテなくていいけどね」
「お前がそんな感じだから俺は良いんだけどな」
手が繋がれていない方の手で頭をクシャクシャと撫でられて、私は頷いた。いつもよりゆっくりな歩幅で歩く隆は今日の夕飯の献立何にしようかなとブツブツ言っていて、それを聞いていたけれどやっぱり話しておきたくて彼の話を遮って口を開いた
「……あのさ、乾の事なんだけど。多分誤解もあるからちゃんと私の口から話す」
「……おう」
「まずさ、どこまで知ってるか分からないけど。私達は最初稽古してたんだよね、首の痣は乾の拳が掠っただけでやましい事じゃない」
「……お前アイツに殴られたの?」
「組手してただけだよ。八戒の家で昔会った時にも1回組手してって言われたんだ……考えてみたら小学校の時からワンコは昔から組手付き合ってくれてた」
「…ふーん。…それは俺がメールに振り回されて誤解してたわ」
「隆が1番怒ってたのはキスの事?」
「……お前に伝わるか分かんねぇけど、凄い複雑だった。俺からすればお前がキスされる事がまず分からないから」
「……」
「……お前ならされる前に何かしら方法取るだろ。それだけ護身術もマイキーの道場でも訓練してきてたのを俺は知ってるから。……だからアイツに気があるのかと思っちまったんだよ」
「……正直ヘトヘト過ぎて油断してた」
「……」
「……ワンコだって聞いた後は……彼を痛めつけるくらいなら、キスくらいくれてやるとか思ってたのかな。……最低な事言うけど実際減るもんじゃないし」
「……お前はそう言うけど俺は嫌なんだよ」
「……隆はさ、安田さんに無理やりキスされたら殴れる?突き飛ばせる??好きで堪らないって顔されて泣かれたらさ……。キツくない?」
そう言って隆を見つめると「安田さんは無しだろ」と馬鹿かみたいな顔で言われて私は眉を寄せ口を尖らせる
「……まぁ、女の子だしね。でも殴れないのは当たり前だけど突き飛ばせないでしょ?」
「……じゃあ、お前。俺が安田さんにされっぱなしで何もしないでキスくらいにくれてやるって言ってたら良いの?」
「……嫌です」
舌打ちした私に、だろ?と言った隆は馬鹿と続けた
「……何か相手の立場って難しい」
「……まぁな。だからただ俺は乾と別れた後に連絡くれて、頼ってくれたら良かったのにと思った。お前の口からじゃなくて、変な奴からのメールで聞かされたから尚更腹たった」
「…乾にはハッキリとそうゆう関係にはなれないって断ったから。下手に波風たてるより、隆に言わない方が良いかなって思っちゃったんだ。実際……これから誰かに告白されたりしてもわざわざ言わないと思う」
「……まぁ、俺も告白くらいじゃ言わねぇしな」
「……1番気になるのはメールの奴だよね」
「俺は九井だと思うけど」
「……はっ?何で?」
「イヌピーの昔からの恋を実らせてあげたかった。とかで汚ぇ策使いそうだから」
「……でも、確かに九井なら出来るかも」
「……まぁ、俺はお前が傍に居るならもういいよ。だけど、今度から絶対俺に1番に言えよ」
「うん。こんな事もう無いと思うけど」
「……こんなの何回もあってたまるかよ」
そう言った隆の顔はバッドで頭を殴られた時よりも苦痛そうに見えた。私も今回の事は体が痛いよりも辛くて胸が痛かったな。何て考えながら互いに特に口を開かずに自宅へ帰宅した
家に着いてまだ時間も早いので夕飯の下ごしらえだけしてしまおうと思い、靴を脱いでキッチンに向かおうとすると右腕を掴まれて引き寄せられる
「……どしたの?」
かなり強い力で壁に抑えられそのまま唇を奪われて少し驚いたけど、隆の背中に手を回すと口の中に入って来た舌が私の舌に絡め始めると、スカートに入ってきた温かい手が太腿を撫でて自分の口から吐息が溢れた
「…… 雪那 」
唇が離れて名前を呼ばれ目尻の下がった菫色の瞳が私を見つめていた。ワックスが付いた固めの髪に手を入れて優しく撫でていると、もう一度口付けされてカーディガンに入って来た手が胸を撫でた瞬間に玄関の扉が勢い良く開いた
「 雪那ちゃーん!」
「……お兄ちゃん何やってんの?」
「……あーあ。タイミング悪ぃ」
間抜けな顔をして固まる私達に、雪那ちゃんを虐めないでと何か勘違いをしている小さな隆の妹達と何故か圭介が立っていて、隆は無言で私の服から手をゆっくり退けた
「たまたまそこでチビ達に会ったから連れてきた。それより三ツ谷、お前玄関ですんなや」
「……何か場地に言われると素直に頷けねぇ」
「マナちゃん、ルナちゃん、ジュース飲む?」
「飲む」
「じゃあリビング行こうか」
わーいと無邪気に笑う2人を連れてキッチンに向かい冷蔵庫からオレンジジュースを出してコップに注いであげると、マナちゃんがさっきお兄ちゃんに何されてたの?と首を傾げて来たので「大好きだよって頬っぺにチューしてくれたの」と言って苦笑いすると、うんうんと同じ様に苦笑いした隆が首を縦に振りながらリビングに入ってきた。「スカートに手入れてたべ」と余計な事を言いながらソファに座った圭介の頭をテーブルにあった雑誌で思い切り叩くとルナとマナは楽しそうに笑った
「けーすけ叩かれた」
「マナもやるー」
「おい、辞めろ。三ツ谷どうにかしろや」
「……今回は助けねぇよ、ルナマナやっちまえ」
圭介を雑誌でポカポカと叩くルナとマナを見ながら笑っていると、玄関が開いた音がしてバタバタと沢山の足音がこちらに向かってきた。リビングの扉を開けたのはドラちゃんとパーと一虎で、隆が居るのを確認するとフッと笑った3人に心配かけたなぁと思った
「良かったな」
「……うん、3人共ありがとうね」
「雪那、礼はいらねーから飯」
「えぇ、何人分作んのよ。パーも手伝ってよ」
「何で場地叩かれてんの?」
「スケベだから」
「はっ?スケベなのは三ツ谷だろ」
「妹いんだからやめろボケ」
結局、その後マンジロとエマの2人が今出先きで帰りに寄ると言って来て10人と子供2人になりリビングに人が溢れてしまったけれど久しぶりにパーと隆と3人で皆のご飯を作って、エマとルナマナをお風呂に入れていると楽しくてすっかりあの辛さは消えて私は笑っていた。今日は久しぶりに隆に抱き締めてもらいながら寝れたらな何て考えていたけれど、隣で遊び疲れて眠ってしまったルナとマナ、そして子守りでヘトヘトになり眠るエマ見ていると自分も眠くなってきてしまってそのまま隣に居たエマを抱き枕にして眠ってしまう事にした
それから数日が経っていつも通り学校に行き授業を受けていると昼休みに私の教室にやって来たパーの顔には少しだけ怒りを隠している様なそんな気配がした。
何か気立ってんの?と聞きたかったけれど、「三ツ谷知らねぇ?」と言われて頭を横に振れば分かったと行ってさっさと立ち去ってしまったパーに結局何も言えなかった。4限目が終わって、やっぱり気になってパーの教室を覗けばパーは居なくて近くに居た子に聞けば早退したと言われて私は何だか嫌な予感がした
隆に電話をかけながら自分も鞄を持って直ぐに学校を出た。留守番電話になってしまった隆との通話を切ってペーに電話すると「もしもし?授業中だぞ」と言われたので「パーの様子がおかしかったけど何か知ってる?」と聞けば小さな声で「……昨日長内にやられた女の子の病院に二人で行ってきた」との返事を聞いて溜息をついてから隆に会ったら折り返してって伝えてと言って電話を切った
それから直ぐに一虎に電話をすると、直ぐに電話に出た彼に事情を話せば10分しないうちにバイクで校門の近くまで迎えに来てくれた。後ろに飛び乗ってからなるべく急いで長内が居る所探そうと言うと、心当たりがあるのか分かったと一言だけ言ってスピードを早めた一虎のお腹に手を回した
内心はハラハラしていた。もしも行った時には取り返しのつかない事になってしまっていたらと思うと少しだけ怖くて唇を噛み締める。一虎に「間に合うよね?大丈夫だよね?」と口を開いた私に「分かんねぇ」と珍しく大口も軽口も叩かない一虎に私は口を閉じた
バイクが止まり、いかにも暴走族がたむろしている様な工場跡地が目の前に見える。赤いスプレーで大きくメビウスと書いてある事と、中から下品な笑い声が聞こえる事が長内が居る事をものがたっていた。鞄から出したジャージをスカートの下に履いてからローファーを鉄板靴に履き替えていると、凄く白い目で一虎に見られて「仕方ないでしょ!」と睨み付けた
「……どうする?正面から入る?」
「うーん。私が正面から入るから一虎は窓からバレない様に入って長内だけ狙ってくれない?」
「……パー本当にいんの?」
「分からない。とりあえず入っていなかったら全速力で逃げる」
「……何だそれ。なら1回窓から確認しようぜ」
「……それもそうか」
ブレザーに入れておいた軍手をしながら二人で息を殺して窓から中を見た。ゲラゲラと笑い血だらけで転がったパーの背中を踏み潰している男達を見た瞬間に入口に向かって走り、中まで全力疾走しながらブレザーの内ポケットに入っている小型のスタンガンを取り出した
「おい!後ろ」
パーを囲んでいたうちの一人と目が合って、その男がそう叫んだ時には後ろを向いて居た男の背中にスタンガンを打ち付けた。悲鳴が上がる中、躊躇せずに思いっきりその隣の男の肋を狙い蹴りを叩き付けてから少し後ずさる。写真で見た事しか無い長内は私を見てから地面に伏せる仲間を見て一度間の抜けた様な顔をしてから大笑いした
チラリと窓を見れば一虎がゆっくりと入って来ていたので、地面に素早く手を付けて砂を拾い長内の隣に居た2人の目に投げ付ける。驚いた様に目を触る男の腕を両手で掴んで自分の体に引き寄せて背負い投げで地面に叩きつけると、パーが立ち上がったのが横目で見えて少し安心してからもう1人の男の股間を蹴り上げた。「やめろ馬鹿」と怒鳴り声が聞こえてそちらを見れば一虎が後ろから長内を羽交い締めにしていて上手くいったと思い駆け出そうとすると、私の横に居たパーがポケットから小さなナイフを取り出し地面を蹴った
「おいっ!!パーやめろ!」
長内を抑えていた一虎の顔が歪み、悲痛に叫ぶ
昔想像したパーが檻の中で泣いているような風景を思い出した私は何も考えずに走り出していた
長内に抱き着くような形になり飛び出した自分の脇腹に深く鋭い痛みと熱い様な感覚に歯を食いしばる。長内を見れば刺されなかった事が分かったのかヘラりとした表情を浮かべた。それが許せなくて頭に来て後ろで私の名を呼んで叫ぶパーの声を聞きながら長内の顔に思いっきりスタンガンを当ててやる
ぎゃああああと顔を抑えながら気絶出来ずに痛みもがく長内の頭を一虎が蹴り飛ばしたのを見たら、安心したのか膝をついてしまう。脇腹から流れる血を自分の手でなるべくキツく押さえていると、自分の服を破いた一虎がキツめに巻いてくれてそれが痛くて唸ってしまう
「…くぅぅぅ…痛ってぇぇ」
「…… 雪那 。悪ぃ本当に悪ぃ」
瞳が揺らぐパーに腕を掴まれて、何だか安心してしまってそのままパーの肩に頭を押し付けた
「……パー、大丈夫。脇腹なら死なないから。それより自分が刺したとか自首しないでね。庇った意味無くなっちゃう」
「……」
「……見てたのは2人しか居ない。他は全員気絶してた。……長内にレイプされそうになって刺されたって警察に言うから話合わせて」
病院に居る女の子の仇も取るぞと少しだけ微笑んだ私にパーの目から涙が零れ落ちて「お前はやっぱり怖い」と小さく呟いたパーに「また振られた」と私が笑う。顔を上げて一虎と目が合った瞬間に私はそのまま意識を手放してしまった
自分の名前が呼ばれている様な気がした。気が付くと自分の母親と父親が目の前に居て、昔見た様な私を邪見にする様な瞳で見ていなかった。悲しみと後悔に満ち溢れる様な瞳をしている2人は私に向かって呟いた
「……未熟でごめんなさい」
こんな事も言える様な人達だったっけ?と思う。何だか体が痛い気がしてゆっくりと目を開けた
「……病院かな?」
自分のベッドの周りを囲み、目が赤い皆に口からつい出た言葉。それを聞いて全員が一斉にこちらを向いた
「雪那」
ガバリと顔に抱き着いて来たのは珍しくパーだった。そんなパーに私が笑うと右手が握りしめられて、握ってくれていた隆と目が合った。瞳は真っ赤に充血していて頬には涙の跡がハッキリと見える。パーの背を擦りながら見渡して見れば、八戒に柚葉、マンジロに圭介に千冬、一虎にペー、ドラちゃんに隆、エマと河合さんとパー。皆目が真っ赤だった
「……心配かけてごめんね」
そう言った私にドラちゃんが首を横に降ってくれる
「俺に連絡しろよ馬鹿」
拗ねたように言ったマンジロに、兎に角急いでたんだと言い訳をしながら一虎に助けを求める様に見つめれば何故か一虎は傷だらけだった。良く見れば隆も口の端が切れてるしパーは1個歯がない。圭介と千冬は拳と瞼から血が少しだけ流れている
「……何で皆傷だらけなの?」
首を傾げた私に、溜息を吐きながらドラちゃんが口を開いた
「パーと一虎と三ツ谷と場地でケンカになって、俺とマイキーで止めた。千冬は完全にとばっちり受けただけ」
「……ちー、可哀想に」
「大丈夫っす」
私に心配をかけないようにか、微笑んだ千冬に少し笑いかけてから一虎に目をやった
「……一虎、私もう少し寝たいから。あの事皆と河合さんに話しておいて貰えないかな?」
「……もう話したよ」
「ありがと。……パー、絶対に話合わせてね。約束して」
そう言った私にパーは一度頷いてから小指を差し出してくる。パーの小指に自分の小指を絡めると、私は後はよろしくと言ってから目を瞑った
次に起きると部屋は暗くて窓の外は薄暗かった。少し離れた所に、付き添いの人が休む小さなベッドに丸まっているのは髪の色から隆だと分かった。こちらまで聞こえてくる規則正しい寝息に深く眠っているなと安心した。ゆっくりと立ち上がり痛む横っ腹を押さえて一度トイレに入って出ると起き上がっている隆が私を見てこちらに手を差し伸べてくれる
「……起こせよ」
「トイレくらい行けるよ。でも個室は本当に便利だね」
「……お前の親父さんが金出して個室にしてくれたらしいぜ。河合さんが言ってた」
「……ふーん」
特に何も感じなくて、そう。と頷いた私を優しくベッドまで運んでくれた隆は「あの後また警察が来た」と言って色々話してくれた。病院に運ばれた後に直ぐに一虎とパーは警察と他の皆にも私が頼んだ通りに言ってくれたらしい。その後にチームのメンバーだけを集めて「本当は俺が刺した」と土下座したパーに隆と圭介が殴りかかって一虎とドラちゃんが止めて喧嘩になったと隆は溜息をついた
「……私が飛び出したの」
「全部一虎から聞いてる。パーを殴ったら雪那に後で殺されるぞって一虎に言われたよ」
「さすが一虎。良く分かってる」
フフッと小さく笑った私に、隆は真剣な瞳で私を見つめた
「……馬鹿。本当に……死んだら…どうしようかと、思った」
隆の声が、最後の方はゆっくりになって嗚咽が混じる
私の肩に優しく顔を埋めて涙を流す隆の背中に手を回したら何だか凄く悲しくなってきて「……ごめんなさい」としか口から出なくて私も気付いたらポロポロと泣いていた
「……自分なんかどうなっても良いとかは今は思って無いから」
「……ああ」
「……ただ、パーが長内刺しちゃったら檻に入っちゃうしか考えられなくて。気が付いたら走ってて……」
「……それは、分かるから」
「……でも、心配かけてごめんね。」
「お前が死んだらって思ったら…カッコ悪ぃけどすげぇ怖かった」
「……」
「……お前が死んだら俺は多分立ち直れない。生きてても……嫌、何でもねぇ。これ以上は口に出さない」
「………死なないよ」
涙が止まった隆の目元に優しく口付けすると、頬を撫でられて微笑まれる
「……隆一緒に寝よ」
「……ここで寝てたら看護婦さんびっくりすんだろ」
「そんな事言われても離れないもん」
ギュッと隆の胸に抱き着くと「かわい」と言われ、そのままゆっくりと枕に隆の頭を押し付けて自分も横になる。痛み止めが効いているのか激しく動かなければ痛くないのでこのまま痛くない内に寝てしまおうと思いめをつむると優しく頭を撫でられてそれが心地よくて意識を手放した
起きてから右手が暖かくて、隆がまた手を握ってくれてるのかと思い目を開けるとギョッとした
「…… 雪那。大丈夫か?」
「ワンコ……どしたの?」
「イヌピーが雪那さんの見舞いに行くって気かねーからさ」
「……あ、九井。お前、隆に変なメールしたでしょ?退院したら覚えておけよ。また立てなくするからな」
そう言って私が睨み付けると、バレてるしと苦笑いをした九井にワンコは苦虫を噛み潰したような顔で「本当にごめんな」と言って私の手を握りしめた
「……あのー。あんまり姉さんに触らないで貰えませんか?」
「……うるせぇよ。餓鬼殺すぞ」
「……ワンコ、頼むから千冬にそういう事言わないで。後腕の殺人部隊て奴ポッケにしまっておいて」
「……分かったよ」
隆に頼まれているのか、千冬はワンコに殺すぞと言われても額をピクピクさせながら我慢した様に椅子に座り直した。その様子を見て可笑しそうに笑う九井に腹が立つが私も我慢する事にした。ワンコに傷の様子や、長内の事何かを聞かれてもうそこまで知ってるのかと思いながら話をしていると、病室のドアが開いて入ってきたマンジロとドラちゃんと隆は一瞬だけ怪訝な顔をする。その表情を見た九井とワンコもピリッとした空気を出した
「……頼むからここで喧嘩しないでね」
「……分かった」
コックリと頷いたのはワンコだけだった。いまだに私の右手を握るワンコの手を隆は無言で振りほどくと九井を睨み付ける。「……てめぇ。九井、ふざけたメールしてきやがって」そう言った隆の言葉に、フッと鼻で笑った九井は窓辺からワンコの元まで歩いてくると彼の耳元で何かを話した。すると直ぐにワンコは立ち上がり私を一度見てから「お大事に」と言って自分の膝に置いてあった花束を私に渡して帰って行った
「……」
「…… 雪那 、アイツが乾?」
「うん」
ドラちゃんに聞かれて頷くと、私の手元にある花を見て花瓶に水入れてきてやるよと言ってくれたので花束を渡してお礼を言った。私の横に座り何故かお見舞いの品のケーキを何も言わずにむしゃむしゃと食べているマンジロをスルーして、面白くない様な顔をしている隆に謝ると優しい顔付きに変わり首を横に降ってくれた
「雪那 、これ全部食っていい?」
「もう沢山食べたでしょ。ちー、ケーキ食べな」
「あ、はい頂きます」
「千冬はお預け」
「……あ!はい」
「……お預けはアンタでしょ、もう。…じゃあマンジロとちーで二人で半分こね。冷蔵庫にジュースあるから飲んで良いよ。ケーキだけ食べると喉につまる」
やりぃと笑ったマンジロに仕方ないなと微笑むと、隆は「お前は俺には甘えん坊なのに、マイキーの事は甘やかしいだよな」と言われて「昔からこうゆう人だからね」と笑った。
そんなやりとりをしている私達に、いつか俺が愛を無くす様な選択をしたら甘やかさないで言ってな。と珍しく無表情でケーキを平らげるマンジロに私と隆は目を合わせて首を傾げた
それから警察が来て事情を直接聞かれて、良くこんなにペラペラと嘘がつけるなと自分で関心する程には感情を込めながら上手く話せた。警察が帰る時に「彼はここだけの話、かなり前科もあるから当分出てこれなくなる」と呟いた言葉によろしくお願いしますと頭を下げて見送った
「「「お前怖い」」」「姉さんカッケェ」
「……3人揃って言わなくても」
「千冬は女に多分騙されるタイプだな」
「えっ」
「うーん。ちーは彼女出来たら1回紹介してね。心配だから」
「何それ怖い」
「でも、上手く言ったもんだな。」
「辻褄合わせてずっと考えてたからね。……レイプされた女の子が少しでも気が晴れると良い。親御さんだって本当は殺してやりたいくらい憎い筈だし」
こうゆう嘘なら誰かが許してくれなくても私だけは自分を許すの。そう言った私にマンジロだけは大笑いした。「女は敵に回すもんじゃねぇな」と呟いたドラちゃんに隆が、女のが頭良い時あるしな。と呟く
「本当にあの女の子が元気になってくれたら良いですよね」と真顔で言ったちーに私は本当にね。と言って頷いた
それから少しづつ傷が塞がって来て痛みも軽くなって来ると無事に退院出来てまた普段通りの生活が始まった
