短編 シリーズ
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雨が少し強くなってきたのか、急にザァァァっと音をたてる。隣にいる乾は窓の外を眺めながら静かに座っているだけで口も開かない。考えてみれば私は今迄男の人に告白何てされた事も無いし隆以外の人から熱の込められた瞳で見つめられた事も無かった。とりあえず帰ろうと思ったが無言で帰れる訳も無く、隆が好きだからと言って立ち去ろうと決めて口を開いた
「…ねぇ…乾、私は隆が好きなんだけど」
「それは分かってる」
「 …………」
「…… 雪那さんは三ツ谷以外知らないだけだ。」
「……まぁ、知らないけどさ」
「今は俺はこれで満足。気持ちだけでも伝えたかった」
「……口で言いなよ。彼氏いる女にキスなんてすんな馬鹿」
「……それは、悔しかったから」
はっ?と表情を変えた私に、彼の冷たい視線が突き刺さる。普通の女の子ならたじろぐ様な厳しい視線だった「俺のが前から好きだったのに」と小さく呟いた彼に怪訝な顔で首を傾げ、乾と会ったのは中学の時からだからそんな筈は無いと思い1度記憶を探って見たが分からず。どうゆう事?と聞けばその質問の答えはすぐには返って来なかった
「前に……三ツ谷と居る所をたまたま見た。雪那さんは幸せそうだったし三ツ谷もそんな風に見えた」
「……うん。」
「2人に干渉する気は無かったけど、この間会った時に自分の気持ちが抑えられなくなった。……会わなければ良かったとも思ったよ」
「……あのさ……私は乾に好かれてる自覚とかまるで無いし未だに信じられないんだけど」
「……俺は小学校3年から雪那さんが好きだったから」
その言葉に同じ学年だった子達を頭に思い浮かべてみるが該当せず、ますます謎は深まるばかりで段々と謎謎をしている様な不思議な気分になる
「…そんな昔に…会った事あった?」
「昔から一緒にいる時もあんたは俺の事何て男として見ても無かった。………ひたすら強くなる事しか考えてなかったし。まぁ、そこに惹かれた」
「……それを知ってるんだ」
「前に話してくれたからね」
「話した?私がその話をしたのは……もしかして……ワンコ??」
「思い出した?」
小学校の時に学校も違うのにやたら構ってくる女の子が居た。友達が居ない私を気遣ってか公園で組手の相手をしてくれたり、たまにプレゼントにお花をくれた顔の綺麗な子だった。マンジロの道場にも1度連れてった事があったけど、高学年になると私の前にワンコは急に姿を現さなくなった。気になって手当り次第色んな子に聞いてみたり、小学生なりに探してみたけど知っているのはワンコってあだ名だけで住んでる所も知らなかった
「……何でワンコだったんだっけ?」
「名前聞かれて、乾って言ったらワンコじゃんて言われた。それからワンコ」
「……流石昔の私……酷いな」
「… 雪那さんは仲良くなると優しかったけど」
そう言って少しだけ微笑んだ乾の顔は、ワンコだと言われてみるとあの頃の面影が少し残っている様な気がした。色素が薄くて綺麗な目鼻立ちをして、いつも一人ぼっちの私に寄り添ってくれた。私と一緒で女の子の癖にジャージしか着ないワンコが何だか凄く好きだった覚えがある
「……ワンコ、男だったんだ」
「……まぁ、昔は声高かったし」
「そっか、何か会えて嬉しいけど複雑だな」
「……」
何を考えているのか分からない無表情の乾に私は少し困ってしまった。ワンコは特別だったからまた仲良くなれたら嬉しい反面、乾は私を友人とは見てくれていない。だけどあの当時虐められていた私を救ってくれたのは傍にいてくれたワンコとアドバイスをくれたマンジロと圭介だったのは確かだった
「……ワン……乾のお陰で私は、あの時頑張れたのは確かだよ。ありがとう」
目を閉じて心からの感謝を口にすると、不意に隣に居た乾は1度歯を食いしばってから私の頭を急にキツく抱き締めてくる。ワンコだと思うと抱き返したいのに乾だと思うと抱き返せなくて震える右手を握りしめる
「……たまにでいいから会いたい」
振り絞るような声に切なくて悲しくて、でも隆を裏切る様な気がして私は首をゆっくり横に振る。気付いたら涙が出ていて、鼻がツンとして何だか息苦しい
喉から出てきた声にならない様な嗚咽が涙を加速させて乾の首筋をびちょびちょに濡らしていた。「ごめ」
んは言えなくて強引に顎を掴まれて深く口付けられる
悲しくて苦しくて、体を押し返そうとしてもビクともしなくてそれが何だか胸を痛くさせた。色んな気持ちがぐちゃぐちゃで、ずっと男の子に混ざって喧嘩して来たのにこんな時は彼の胸ぐらを掴んで一撃も入れれない。自分の涙がしょっぱくて目を開けたら目の前の乾の瞳から流れている涙が頬から伝い、私の口に入っていて痛い胸がズキンともう1度痛んだ気がした
涙が枯れ果てた腫れた目で自宅に帰宅してお風呂に入った。瞼が重くて眠くてまだ整理出来てない頭は働かなかった、そのままフラフラとお風呂を出てお岩さんみたいな顔でリビングにアイスを取りに行くとソファに座っていたドラちゃんとパーが私を見て目を見開いた
「……おい、どうしたよ」
「 雪那?顔やばいぞ」
2人がリビングに居るなんて思いもしなくて、何だか2人の顔を見たら急に張り詰めていた物がパーンと弾けた様にチリジリになった気がした。もう泣きたくないのにまた涙が出てきてしまってそのままパーの肩に抱きついて子供みたいに泣いてしまう
囚人みたいなセットアップを着たパーはトントンと優しく背中を叩いて私を気遣ってくれる。その気持ちを受け取って、少しづつ落ち着いてきた私に2人は「言いたくないなら何も言わなくて良いぞ」と言ってくれた。三ツ谷と喧嘩でもしたのか?と柔らかい口調で聞いてくるドラちゃんに首をゆっくり横に降った
「雪那 、三ツ谷呼んでやろうか?」
「いい」
「……喧嘩したんじゃないんだろ?」
「うん」
「……おま、もしかして長内に何かされたのか?」
「……違う。まだ会ってもないよ」
目が開かなくて瞑ったまま答えていると、何だか全部ぶちまけてやりたくなってきて恐る恐る2人に聞いてみる事にして覚悟を決めて口を開いた
「……2人共さ、誰にも言わないでね」
「あぁ」
「……分かった」
実は……と言って今日学校帰りに乾に会った事、彼と格闘技の練習をしてから口付けされた事。実は彼は昔の女友達で大事な子だった事、色んな事を思って辛くて泣いてしまったら乾も泣いていてもっと辛くなった事を上手く話せなくてボロボロと口から出るままに2人に話した。ずっと目を見開いているパーと、困った様な複雑な顔で頷いているドラちゃんに私は一通り話してから下を向いた
「……そうか、……乾ってBDの奴だろ?」
「……うん」
静まり返るリビングで、パーがよく分かんねぇけど乾とはもう会わない方がいいんじゃね?と口を開いたのでそれは分かってると言うとじゃあ解決だな。と言われて確かにそうか。と思ったけれど何だか腑に落ちない気がした
「パー、確かにそうだけどな。乾は雪那に会いに来るかもしれねぇ。雪那がしっかり断らないと終わらねぇよ」
「……私は、しっかり断ったつもりだよ」
「……まぁ、それもそうか」
「俺が乾だったら……諦められねぇ気持ちも分かるならな。 お前だって三ツ谷に彼女が居て、もしずっと好きだったら悔しくないか?」
そう言われてみて少しゾッとした。隆がもし他の子が好きで付き合っていたら、私はどうするんだろうって
「……考えたら苦しいね」
「…普通はな。…乾はそれくらい三ツ谷が憎いしお前が好きなんだよ。……普通の奴は諦めるけどな」
「……俺には良く分かんねぇけど、三ツ谷を悲しませたくねーよな」
「……うん。だから黙っておくし、裏切りたく無いから乾には会わないよ」
「また待ち伏せされたらどうすんの?お前?」
「……もう1回ハッキリ言うよ」
「今はそれしかねーか」
はァと吐いた溜息。パーの温かい手にポンポンと撫でられた頭が何だか癒された気がして私は少しだけ微笑んだ。少し落ち着いたらお腹が空いてきたので3人で冷凍のピザを食べてコーラを飲んで下らない話をしていたらいつの間にかリビングで眠ってしまっていた
朝起きると多分ドラちゃんが布団に運んでくれたのか自室のベッドに居た。洗面所で顔を洗えば腫れている目はあまり良くなって無くて、このまま学校に行くと隆に何か言われるのが分かりきっていたので私はそのまま布団に戻り寝てしまう事にした。ウトウトとしているとインターホンが鳴る音がして、半分夢の世界のまま玄関を開けた
「…… 」
「……隆、どしたの?」
彼の顔を見て、夢からハッキリと覚めた。今まで見た事が無いような怒った様な悲しい様な瞳を私に向けていた
「お前、昨日何してた?」
「……ドラちゃんとパーが家に来てたからピザ食べてた」
「…それだけなら…何でそんな瞼腫れてんの?」
「…………」
「……言えねぇ事してたのかよ」
憎悪を感じる様な感情剥き出しの言葉に少しだけ怯んでしまう。まるでナイフで刺すような鋭い目付きで私を見た隆は右手で私の髪を掴んで上にあげた
その行動の意味が良く分からなくて、何?と言えばそれが感に触ったのか何なのか良く分からないけれど唇を噛み締めて下を向いた
「……隆、そんなに噛んだら血が出ちゃう」
「……」
伸ばした手は彼に触れようとしたけれど、またあの目で見られてしまい私はそのまま手を下ろした。一瞬、パーかドラちゃんが何か言ったのかと思ったが2人が隆に言う事は絶対に無い。約束したからだ
「……隆、何が聞きたいの?」
「……お前、昨日乾とあんな廃墟みたいな所で2人っきりでキスしてて……首にはそんな痕付けて何が聞きたいの?じゃねぇーだろーが」
「…………」
最悪だと思った。首に付いた痕は分からないけど何でそこまで知っているのか不思議だった。もしかして見てた?と思ったけれど彼なら黙って見てる事はしない筈だ。何も言い訳出来なくてただ黙っている私に隆はそのまま私に背を向けた
インパルスの音が遠ざかって行って、目からポツポツと涙が出てきた。自室に戻り鏡で首を見たら昨日乾の拳が掠った時に出来た痣があり少し赤くなっていた
何だか、言っても嘘つきだなんて言われそうで何も言う気も起きずにただ今は瞼が重くて眠くて仕方ない
ゆっくりと目を閉じて意識を手放した
何時間か眠って起き、シャワーを浴びてから歯を磨いてメイクをして髪を整えていると少しシャキッとした気分になった。隆は今嫌な気分だろうな、何て思ったけどどうしていいか分からなくて自室に戻りとりあえず服の作業をする事にした。カタカタとミシンの音が部屋に響いて少しだけど気持ちが落ち着いてきた
開けっ放しの窓から聞きなれないバイクの音がして家の前で止まった。誰だろうと思い玄関を開ければ、乾が立っていて私は目を見開いた
「……えっ?……どしたの?」
「……昨日、泣かせたから。これ、お詫び」
私の目の前に差し出して来たのは綺麗に包装された美しい花束だった。ピンク、黄色、紫、白のスイートピーにかすみ草が散らされていて見目麗しい
何だか少しだけ嬉しくなって微笑むと、乾は私の顔を見て嬉しそうに笑ったが、視界の端に見えるシルバーの髪と先程とは違い制服を着た隆の姿にビクリと私の体は揺れた
「……お前、昨日の今日で何してんだよ乾」
「……三ツ谷か」
私に向けていた笑顔から急に表情を無くした乾は振り返って隆を見つめる。無表情でスタスタと歩いてきた隆は私を背中で隠してから乾に詰め寄る様に顔を寄せた
「……お前、人の女に何してんの?」
「……お前より前に俺達は知り合いだったし、そんな事言われる筋合いねーよ」
「今付き合ってんのは俺なんだけど」
「……俺は小学生からずっと雪那さんが好きだった。お前には遠慮しない。付き合っててもな」
「……ふざけんなよ」
急に腕を振りかざした隆の右手を掴んだ自分が居た
ワンコを殴らないでと心が叫んだ気がして、そのまま行動に出してしまった。掴んだ手を振りほどいた隆の、私を見る目はいつもの隆じゃ無かった。裏切り者みたいな目をしていて、その目で見られただけで私の心は大きく揺さぶられてしまう
「……そんな目で見ないで」
「…………」
「……そんなに……私が嫌ならもういい」
本当は話したい事が沢山あった、誤解も解きたいのにその目で見られているだけで心が張り裂けそうだ。花を抱いてそのまま玄関に入り鍵を閉めてからチェーンを掛けてベッドに横になった、殴り合いをしていても2人が怪我をしても今はなんだかどうでも良かった。
外から聞こえる怒鳴り声も直ぐに止んで、バイクが去る音がした。花の香りを嗅ぎながらウトウトしているとまた眠気がやってきて今の状況から逃げたくて目を瞑り寝てしまおうと思ったが廊下を歩くような足音にハッとして目を開けた
ドアが開いて、そこには一虎が居て私は目を見開いた。「……何か面倒な事になってる?」そう言った一虎は私の隣に座り乱暴に頭をくしゃりと撫でてくる
「……どっから入ったの?」
「庭の窓が開いてた」
「閉めるの忘れてた。……見てたの?」
「この間破れた服直して貰おうと思って来たら三ツ谷が知らねー奴にブチ切れてたから」
「……うん」
「あれ誰?」
「昔の知り合い」
「この花くれたの?早く水にさせよ」
「……うん、そだね。……隆と、あの子喧嘩しちゃってた?」
「ああ、何か相手も強かったからマジ喧嘩になってて一応止めた」
「……一虎が止めてくれたんだ」
「お前の事頼むって三ツ谷に言われてさ、良く分かんねぇけど鍵閉まってたから窓から入った」
「……そっか、わかった。一虎お腹空いた?私今日朝から何も食べてないんだよね。何か作るから一緒食べよ」
「……お前、大丈夫??」
「何で?」
「……顔が、昔の顔してる」
「……本当は泣きたいよ、でも泣く資格無いのかな」
そう言った私に、馬鹿だなと笑った一虎は資格何かいらねーよと言って頭を強引に掴んで自分の胸に寄せた
雑で荒いけど、何だか嬉しくてワンワン泣いていると背中を優しく摩ってくれて安心する。あの時自分が乾について行かなかったらとか、稽古を断っていたらとか色んな事が頭に過ぎってきて自分を責めたいんだなとか思った。責めたって悲しくなるだけだし、ちゃんと隆に説明すればそれでいいのにとブツブツ独りで話す私に、ずっとうんうんと相槌を打ってくれてる一虎はいつもより優しく感じて嬉しくなった
涙も止まり一虎にお礼を言ってからキッチンで簡単に丼物と味噌汁を作って二人で食べた。双子の兄弟が居たらこんな感じなんだろうなと一虎といると毎回思う。ドラちゃんみたいに思慮深くも無いし、隆みたいに気遣いも出来ないけれど一緒に居て遠慮無く過ごせる所は圭介と似ていると思った
「……お前これからどうすんの?」
まだご飯が口に入っているのに話し出した一虎にお手上げのポーズを取れば、フッと鼻で笑われる。三ツ谷とちゃんと話せよと言われて、あの目で見られたく無いから今は話したくないと言えば仕方ないか。みたいな顔をした
「……つーか、何も分かんねぇんだけどどうゆう事なの?」
「……まぁ、実は」
パーやドラちゃんに話した様に真実のみを一から全部話すと、一虎は怪訝な顔をした
「……お前嵌められてない?」
「……誰に?」
「乾って奴が嘘言ってる様には聞こえないし、多分三ツ谷にそれ教えた奴がお前らを別れさせるようにしむけてるとしか考えらんねぇ」
「…そういえば…隆、誰から聞いたんだろ」
「お前が話したくないなら俺が聞いてやるよ」
うん、と下を向いた私に一虎はニカっと歯を見せて笑った。確かに昨日の今日で隆が知ってるのは誰かから聞いたか見たかしないとおかしい。乾かドラちゃんかパーしか知らない筈だけど、パーとドラちゃんは約束を違えたりしないし乾が隆の連絡先を知ってるとは思えなかった
「……分からないなぁ」
ぼんやりと考えながら食べ終わった2人分の食器を片付けていると、一虎はご馳走様と言ってから暗い庭に出て行った。煙草でも吸っているのかと思ったがどうやら電話しているみたいだった
行動が早いな何て思いながら食器を洗い、お湯を沸かして珈琲をいれ終わると庭に続く窓が開いてから微妙な顔をした一虎が私を見ていた
「……何?怖いんだけど」
「……三ツ谷も誰か分かんねぇらしいぜ」
「……は?」
「朝起きたらお前達がキスしてる写真と、首の痕が証拠だ。みたいな文がメールで来てたらしい」
「差出人不明なの?」
「三ツ谷は知らねぇアドレスだったって言ってた」
「何か気持ち悪」
「乾に、こんなの送り付けやがってってキレたら、乾も知らなかったらしい。演技してる様には見えなかったって言ってたぜ」
「……何それ、その写真撮った奴は何で隆のアドレス知ってんのか怖いわ。……ねぇ、隆は元気無かった?」
「無いに決まってんだろ。馬鹿」
「……そっか。」
「 雪那は?って聞かれたから、今は飯食えて落ち着いてるって言った」
「そう、……ありがと」
モヤモヤとするけれど、誰が送ったのかも分からないし生憎検討もつかない。明日学校で顔見るの辛いなぁ何て思いながら一虎とゲームをしてから夜食を食べて夜更かしして眠りについた
やっぱり朝は起きれなくて、昼過ぎに一虎に学校の前まで送って貰い、手を振って別れた。昇降口に向かって歩いていると4階の教室からこちらを見ている隆に気付いてなるべく自然に目を逸らした。階段を上がり自分の教室に入ると昼休みが丁度終わる所だったので昼ご飯は諦めて自分の席に座り窓の外を眺めていた
「雪那ちゃん、凄い遅刻だね」
「……あぁ。うん、ちょっと色々あって」
「そういえば、2限目の終わりに三ツ谷君が来てたよ」
「……何で?」
「何でっていつも来てるじゃん。 雪那ちゃんまだ来てないよって言ったら分かったって言ってたけど」
「……そっか」
「……喧嘩したの?」
「ううん、大丈夫」
そんな話を隣の席の子と話していると、先生が教室に入ってきて私達の話は自然と終わった。耳に入って来ない授業を聞きながら、隆にメールを送った奴の事ばかり考えているといつの間にかチャイムが鳴っていた。逃げる様で嫌だったけど、顔を合わせたくなくてトイレに行こうと廊下に出て歩いているとガシッと肩を抱かれて思わずビクッとした
「 雪那、平気か?」
「……何だ、パーか。ビックリしたな」
「顔浮腫んでんぞ」
「……昨日一虎と夜中にゲームして夜食食べたら朝顔パンパンだよ」
「……お前さ、あの事三ツ谷に話したの?」
「話したんじゃなくて、誰かが隆に写真送り付けたらしい」
「……はっ?どうゆう事だよ」
「……話せば長くなるから」
珍しくパーがこっちこいと言って強引に私の手を掴む
そのまま引きづられる様に屋上に続く階段まで来ると誰も居ないのを確認して腰を下ろしたパーの横に私も腰を下ろした。5限目が始まるチャイムが鳴ったのも気にせずに、とりあえず昨日朝に隆が家に来た時から今迄の話をするとパーは顔を顰めた
「……それは、嵌められてるよな」
「…でも誰が送ったかも分からないし」
「…昨日さ、三ツ谷は昼過ぎてから学校来たんだけどよ。何か苛立ってて様子変だし、俺てっきりお前が言ったのかと思った」
「……まぁ、そう思うよね」
そんな話を二人でしていると、5限目終了のチャイムが鳴り響いた
「また何かあったら言えよ」と言ってくれたパーと別れて教室に戻りそそくさと鞄を持って直ぐに昇降口に向かった。まだ顔を合わせたくは無いし、早く帰って作り途中の洋服だけ仕上げてしまおうと階段を駆け下りる。1階まで降りて曲がった所で急にガッシリとお腹に手を回されて、その早業にビックリして顔を上げると少し不機嫌な顔をした隆の顔が目の前にあった
「……ビックリした」
「……俺の事避けんなよ」
「…………」
「お前が、ああしたかった訳じゃ無いのは聞いた。乾が無理やりしたって言ってた」
「……話も聞かないで裏切られたみたいな顔をして私を拒絶したじゃない」
「……悪かったよ、正直お前を疑うって事よりもあの写真にショックを受けてて冷静でいれなかった」
「……うん、そう、か。……だよね」
自分を拒絶したと自分の口から出た本音に自分でビックリした。隆は何も悪くないのに、私は自分の事しか考えれて無くて何だか悲しくなってきた。お腹に回されていた腕は思っていたよりも力が入っていて抜けれそうにも無い、抜ける方法は沢山あったけどどれも彼が激怒しそうなので止める事にして今は大人しくする事にした
「……お前は、俺と別れたいの?」
「…私は、ちゃんと乾に言ったよ。隆が居るから乾と付き合う気は無いって。何でそうなるの?」
「……お前がアイツに少し気がある様な気がしたから」
「……気があるんじゃない。小学校の時の大事な友達だった。ワンコの話、隆にもした事あるじゃん」
「……あれ女だろ。美人な子」
「ワンコが、乾だったから……殴って欲しく無かった」
「……嘘だろ」
「……嘘なんかつかないよ」
「………」
少しだけ困った顔をした隆は「分かった」と小さく呟いた。隆の腕が少し緩んだので直ぐに離れようとすると首を掴まれて反射的にバチンと平手打ちしてしまい「あ……」と言葉が口から漏れた
ごめん、と呟いた私は彼の顔も見ずにそのまま下駄箱に走り出した。頭の中でこんな筈じゃ無かったのにと何回も繰り返しながら靴を履いて自宅に向かって走り出す、自宅に着いた時には息が切れていて玄関の前でしゃがみこんでしまった
多分、凄い傷付けたし頬も痛い筈だ。咄嗟とはいえ彼に手を出してしまった事を後悔していると目から出てきた涙はスカートにポロポロと落ちて染みを作った
膝を抱えて、泣き過ぎて苦しくなってきて深く深呼吸して空気を吸い込もうとしているのに嗚咽が出て咳まで出てきて本格的に苦しくなってきた、ゲホゲホと繰り返し咳をしていると急にフワリと優しく抱き締められて背中が摩られてゆっくり顔を上げた
悲しそうに私を見つめて居たのは乾で、私と目が合うと「……ごめんね」と小さく呟いて顔をギュッと抱き締めらる。背中を上下に摩られていると少しづつだけど落ち着いてきて呼吸が整ってきた
「……ワンコ、ありがと」
「ごめんな。俺が……」
俺がの続きは言わずに私を優しく抱き抱えて立ち上がった乾に咄嗟に「歩けるよ」と言えば「家の中に入れちゃいけないんだっけ?」と少し微笑まれて顔を縦に降った
「……ちなみに触られても駄目だから下ろして」
「……分かった」
すんなりと降ろしてくれた乾は、いつの間にか石段に置いてある包まれた花を無表情で私に渡してくる。
「……何で花?」
「……前から喜ぶから。俺は女の扱いが分からないし、三ツ谷みたいに器用でも無いから。面白い事も言えねーし」
「……向日葵か、ありがとう」
小さな向日葵を見ていると少しだけ元気になった気がして私は自然と微笑んでいた。「……もう2度と家に来ないで」と言わなきゃいけないのにどうもその言葉が口から出て来なくて下を向いてモゴモゴしてしまう
何だかこうゆう中途半端な私が1番駄目なんだなって良く分かったし、泣いてばかりで結局皆に心配をかけてしまって自分に呆れた。今だって本当の気持ちは普通に珈琲をいれて乾と昔話をしたいしこの間の続きの組手もしたい。それを言ってしまったら隆との関係が崩壊するなら言いたくないと思ったけど、何だか段々と考えるのも面倒になってきて吹っ切れてしまった
「ねぇ、……ワンコ、昔話したいんだけど付き合ってくれる?」
「……急にどうした?」
「やっぱりワンコとは友達で居たいよ。……でも、キスとかそうゆうのは無しにしたい」
「……あれは、ごめん。……分かった」
「約束してね」
「……ああ。約束する」
長い睫毛を揺らしたワンコはやっぱり昔のワンコのままに見えた。向日葵を抱いて笑顔を向けて家に招くと、1度躊躇したけれどお邪魔しますと言って家に入ったワンコをリビングに通した。珈琲をいれて二人で小学生の時の話をだらだらとして、それから1番聞きたかった何故急に姿を見せなくなったのかを聞いてみる事にした
「……声が低くなったから」
「…はっ?声変わりしただけで?」
「 雪那さんは俺を女だと思ってたし。実際あの時は佐野と場地以外の男嫌いだったじゃん」
「……痴漢にも良くあってたしね」
「今は……痴漢とか平気か?」
「うん、小さい頃よりは合わなくなったかな」
良かったと少しだけ微笑むワンコに、強いから心配しなくても大丈夫だよと笑うと少しだけ悲しそうな顔をした彼は、嫌なら躊躇しないで殴れよと言った
実際、昨日も今日もワンコに隆だから掴まれても押さえつけられても酷く手を出さなかっただけだ。あれが痴漢や変質者なら手加減はしないし油断も絶対にしなかった
「……大事な人だと油断するのは仕方ないよ」
「……悪い。ありがとう」
もう、しないからと呟いたワンコに笑顔を向けてからもう1度昔話に花を咲かせて笑いあった。何だかんだお喋りしていると時間は早く過ぎるもので、気付けば夜の9時を過ぎていた。お腹が空いたので適当に作って二人で食べて、そろそろ帰ると言ったワンコを外まで見送りに出た
「ありがとうな、 雪那さん」
「……もうさんはいらないよ」
頷いたワンコはまたね。と言ってそのまま私に背を向けた。その後ろ姿を見てこれで良かったんだなって気持ちを強く持つ事にした
それから、学校で隆が私の教室に来る事も無く連絡も無く1週間が過ぎた。全学年である集会の時にたまに友人とお喋りしている、笑っている隆を見れて少し嬉しくなったけど、あれからどうにも気まずくて話しかけられない自分は臆病者なのかもしれない
もうすぐ隆の誕生日で、ずっと前から一人で黙々と内緒で作っていた夏用のセットアップをプレゼントする筈だったのに、これも渡せないかなと机にうつ伏していると教室の後方のドアからこちらを見ているペーとパーと目が合ったので顔を反対に向けてうつ伏した
暫くすると、急にドスッと体に重みがかかり潰れそうになった。「…パー…重い」私が機嫌が悪いのが分かるのかちょっと楽しそうに揶揄う様に2人は笑い、パーは私の背を潰していた体を退けた。
「 雪那、三ツ谷と喧嘩したのか?」
「……この間掴まれて反射的に叩いちゃたの。謝ったけど、気まずくて」
「…… 雪那のビンタとかスゲェ痛そう」
やっちまった感があるとションボリした私に、ペーが一緒に謝ってやるよと言ってくれてその気持ちが嬉しかったけれど、何だかまだ謝りたく無くて溜息を吐く私にパーは私の背を叩いた
「……男らしくねぇぞ、雪那 」
「……まあ、一応女だからね」
そんな話を3人でしていると「パー」と声がして、その聞き慣れた大好きな声に私はハッとした。振り返ると教室にスタスタと入って来た隆は「先生が呼んでんぞ」とパーに声を掛ける。そんな中、ペーが私を見ている事が分かったけど知らんぷりしているとパーは分かったと言って教室を出て行った
「……なぁ、2人話した方が良くね?」
気を利かせたペーの一言に、何だか私もウジウジしてるのが嫌だったから覚悟を決めた。急に私が立ち上がって隆の目の前に立ったので隆もペーもちょっとビックリしている様だったけど、真っ直ぐに隆を見て口を開いた
「…隆………叩いちゃってごめんね」
「……」
「……私あの日、家の前で泣いてたらワンコが家に来たから家にあげて二人で珈琲飲んだ。……ずっと聞きたかった、何で私の前に急に現れなくなったのかも聞けて彼とは友達になったから」
「…………」
「……彼には絶対に恋人にはなれないし、手を出すなら会わないとも話した。それだけ……家にあげないって約束守んなくてごめん」
そう言って鞄を持って去ろうとした私の腹に手を回して抱える様に持ち上げた隆に「ちょっと」と言ったけど完全にシカトされてスタスタと廊下に向かい彼は早足で歩き出す。ポカンとしてるペーに手を伸ばすと、ちゃんと話せよとガッツポーズをしてくるペーを殴りたくなった
いつも二人でご飯を食べている場所に降ろされてからガッチリと壁の隅に追いやられて両手で進路を塞がれた。逃げる気は今回は無かったし、言いたい事はさっき言ったから直ぐそこにある隆の顔を見上げる様に見つめた
「……私はもう何も言う事無いよ」
「……大事なのがあんだろ」
「……?大事?……叩いちゃって、色々…傷付けてごめんね」
「……そうじゃねーよ。そんなの俺は大丈夫だよ」
「…………分かんない」
「…お前は……俺が好きなのに何で避けんの?」
「嫌な目で見られたくないし、怒鳴られたくなかった。……隆だから辛い」
「……それは……俺も悪かったけどよ」
「……色々ごめん。悲しくて避けてごめん。あんな目で見るから私の事要らないのかと思った」
「……そんな訳ねぇだろ」
怒りを含んだ様な隆の声、「俺がお前を要らない何て思う訳ねぇだろ」と直接言われてみると、そうだなとやけに納得してしまい素直に頷いた。背中に回って来た腕はスッポリと私包み温かい優しい匂いに安心して彼の胸に顔を寄せる。何だか凄く安心して、離れたくないなって思った
「……ねぇ」
「……なんだよ」
「今日はずっと一緒に居て」
「…………」
返事が返ってこないので、少し心配になりゆっくりと上を向いて隆の顔を見つめると彼は真っ直ぐ私を見つめていた。
「……嫌?」「……逆だ、ボケ」
背中が折れるんじゃないかってくらい強く抱き締められて、唇に深く口付けられる。後頭部に回った手が逃がさないとでも言う様にガッチリと頭を掴まれて角度を変えて口付けられて何だか心が切なくなった気がした
「……苦しいよ」
「……悪ぃ。……でももう1回」
「……学校だから、帰ってからしよ」
「あー、俺部活だからちょっと待ってろよ」
「……私も行っていい?」
「……珍しいな。来て何してんの?」
「…何か……縫うものある?手伝うよ」
そう言うと嬉しそうに笑った隆は「じゃあ隣に居て」と言ってくれたので頷いた。家庭科室の木の机に座って、特にやる事も無いので皆に指示をする隆を見ながらボンヤリとしていると、隣に座ってきた名前も知らない女の子が小さな声で話しかけて来た
「雪那さん?ですよね?」
「うん」
「私1個下の田中っていいます。部長が彼女連れてくるなんて珍しいなと思って」
「……あぁ、そうだね」
「失礼なんですけど、ここ1週間部長に何かありませんでしたか?」
「…………何で?」
「ずっと上の空だし元気無くて、皆心配してたんです。そしたら今日は雪那さん連れてきて顔も元気になってて、皆凄く安心したって言ってました」
「……そっか。ごめんね。色々あったから」
何かあったんですねと眉を下げた隆の後輩に、もう大丈夫だからと言えば良かったと歯を見せて笑いかけてくる。自分が思っているよりも何倍も彼に思われていたのかなと思うと何だか良い意味で切なくなった様な気がして私は自分の胸を優しく撫でた
「…ねぇ…乾、私は隆が好きなんだけど」
「それは分かってる」
「 …………」
「…… 雪那さんは三ツ谷以外知らないだけだ。」
「……まぁ、知らないけどさ」
「今は俺はこれで満足。気持ちだけでも伝えたかった」
「……口で言いなよ。彼氏いる女にキスなんてすんな馬鹿」
「……それは、悔しかったから」
はっ?と表情を変えた私に、彼の冷たい視線が突き刺さる。普通の女の子ならたじろぐ様な厳しい視線だった「俺のが前から好きだったのに」と小さく呟いた彼に怪訝な顔で首を傾げ、乾と会ったのは中学の時からだからそんな筈は無いと思い1度記憶を探って見たが分からず。どうゆう事?と聞けばその質問の答えはすぐには返って来なかった
「前に……三ツ谷と居る所をたまたま見た。雪那さんは幸せそうだったし三ツ谷もそんな風に見えた」
「……うん。」
「2人に干渉する気は無かったけど、この間会った時に自分の気持ちが抑えられなくなった。……会わなければ良かったとも思ったよ」
「……あのさ……私は乾に好かれてる自覚とかまるで無いし未だに信じられないんだけど」
「……俺は小学校3年から雪那さんが好きだったから」
その言葉に同じ学年だった子達を頭に思い浮かべてみるが該当せず、ますます謎は深まるばかりで段々と謎謎をしている様な不思議な気分になる
「…そんな昔に…会った事あった?」
「昔から一緒にいる時もあんたは俺の事何て男として見ても無かった。………ひたすら強くなる事しか考えてなかったし。まぁ、そこに惹かれた」
「……それを知ってるんだ」
「前に話してくれたからね」
「話した?私がその話をしたのは……もしかして……ワンコ??」
「思い出した?」
小学校の時に学校も違うのにやたら構ってくる女の子が居た。友達が居ない私を気遣ってか公園で組手の相手をしてくれたり、たまにプレゼントにお花をくれた顔の綺麗な子だった。マンジロの道場にも1度連れてった事があったけど、高学年になると私の前にワンコは急に姿を現さなくなった。気になって手当り次第色んな子に聞いてみたり、小学生なりに探してみたけど知っているのはワンコってあだ名だけで住んでる所も知らなかった
「……何でワンコだったんだっけ?」
「名前聞かれて、乾って言ったらワンコじゃんて言われた。それからワンコ」
「……流石昔の私……酷いな」
「… 雪那さんは仲良くなると優しかったけど」
そう言って少しだけ微笑んだ乾の顔は、ワンコだと言われてみるとあの頃の面影が少し残っている様な気がした。色素が薄くて綺麗な目鼻立ちをして、いつも一人ぼっちの私に寄り添ってくれた。私と一緒で女の子の癖にジャージしか着ないワンコが何だか凄く好きだった覚えがある
「……ワンコ、男だったんだ」
「……まぁ、昔は声高かったし」
「そっか、何か会えて嬉しいけど複雑だな」
「……」
何を考えているのか分からない無表情の乾に私は少し困ってしまった。ワンコは特別だったからまた仲良くなれたら嬉しい反面、乾は私を友人とは見てくれていない。だけどあの当時虐められていた私を救ってくれたのは傍にいてくれたワンコとアドバイスをくれたマンジロと圭介だったのは確かだった
「……ワン……乾のお陰で私は、あの時頑張れたのは確かだよ。ありがとう」
目を閉じて心からの感謝を口にすると、不意に隣に居た乾は1度歯を食いしばってから私の頭を急にキツく抱き締めてくる。ワンコだと思うと抱き返したいのに乾だと思うと抱き返せなくて震える右手を握りしめる
「……たまにでいいから会いたい」
振り絞るような声に切なくて悲しくて、でも隆を裏切る様な気がして私は首をゆっくり横に振る。気付いたら涙が出ていて、鼻がツンとして何だか息苦しい
喉から出てきた声にならない様な嗚咽が涙を加速させて乾の首筋をびちょびちょに濡らしていた。「ごめ」
んは言えなくて強引に顎を掴まれて深く口付けられる
悲しくて苦しくて、体を押し返そうとしてもビクともしなくてそれが何だか胸を痛くさせた。色んな気持ちがぐちゃぐちゃで、ずっと男の子に混ざって喧嘩して来たのにこんな時は彼の胸ぐらを掴んで一撃も入れれない。自分の涙がしょっぱくて目を開けたら目の前の乾の瞳から流れている涙が頬から伝い、私の口に入っていて痛い胸がズキンともう1度痛んだ気がした
涙が枯れ果てた腫れた目で自宅に帰宅してお風呂に入った。瞼が重くて眠くてまだ整理出来てない頭は働かなかった、そのままフラフラとお風呂を出てお岩さんみたいな顔でリビングにアイスを取りに行くとソファに座っていたドラちゃんとパーが私を見て目を見開いた
「……おい、どうしたよ」
「 雪那?顔やばいぞ」
2人がリビングに居るなんて思いもしなくて、何だか2人の顔を見たら急に張り詰めていた物がパーンと弾けた様にチリジリになった気がした。もう泣きたくないのにまた涙が出てきてしまってそのままパーの肩に抱きついて子供みたいに泣いてしまう
囚人みたいなセットアップを着たパーはトントンと優しく背中を叩いて私を気遣ってくれる。その気持ちを受け取って、少しづつ落ち着いてきた私に2人は「言いたくないなら何も言わなくて良いぞ」と言ってくれた。三ツ谷と喧嘩でもしたのか?と柔らかい口調で聞いてくるドラちゃんに首をゆっくり横に降った
「雪那 、三ツ谷呼んでやろうか?」
「いい」
「……喧嘩したんじゃないんだろ?」
「うん」
「……おま、もしかして長内に何かされたのか?」
「……違う。まだ会ってもないよ」
目が開かなくて瞑ったまま答えていると、何だか全部ぶちまけてやりたくなってきて恐る恐る2人に聞いてみる事にして覚悟を決めて口を開いた
「……2人共さ、誰にも言わないでね」
「あぁ」
「……分かった」
実は……と言って今日学校帰りに乾に会った事、彼と格闘技の練習をしてから口付けされた事。実は彼は昔の女友達で大事な子だった事、色んな事を思って辛くて泣いてしまったら乾も泣いていてもっと辛くなった事を上手く話せなくてボロボロと口から出るままに2人に話した。ずっと目を見開いているパーと、困った様な複雑な顔で頷いているドラちゃんに私は一通り話してから下を向いた
「……そうか、……乾ってBDの奴だろ?」
「……うん」
静まり返るリビングで、パーがよく分かんねぇけど乾とはもう会わない方がいいんじゃね?と口を開いたのでそれは分かってると言うとじゃあ解決だな。と言われて確かにそうか。と思ったけれど何だか腑に落ちない気がした
「パー、確かにそうだけどな。乾は雪那に会いに来るかもしれねぇ。雪那がしっかり断らないと終わらねぇよ」
「……私は、しっかり断ったつもりだよ」
「……まぁ、それもそうか」
「俺が乾だったら……諦められねぇ気持ちも分かるならな。 お前だって三ツ谷に彼女が居て、もしずっと好きだったら悔しくないか?」
そう言われてみて少しゾッとした。隆がもし他の子が好きで付き合っていたら、私はどうするんだろうって
「……考えたら苦しいね」
「…普通はな。…乾はそれくらい三ツ谷が憎いしお前が好きなんだよ。……普通の奴は諦めるけどな」
「……俺には良く分かんねぇけど、三ツ谷を悲しませたくねーよな」
「……うん。だから黙っておくし、裏切りたく無いから乾には会わないよ」
「また待ち伏せされたらどうすんの?お前?」
「……もう1回ハッキリ言うよ」
「今はそれしかねーか」
はァと吐いた溜息。パーの温かい手にポンポンと撫でられた頭が何だか癒された気がして私は少しだけ微笑んだ。少し落ち着いたらお腹が空いてきたので3人で冷凍のピザを食べてコーラを飲んで下らない話をしていたらいつの間にかリビングで眠ってしまっていた
朝起きると多分ドラちゃんが布団に運んでくれたのか自室のベッドに居た。洗面所で顔を洗えば腫れている目はあまり良くなって無くて、このまま学校に行くと隆に何か言われるのが分かりきっていたので私はそのまま布団に戻り寝てしまう事にした。ウトウトとしているとインターホンが鳴る音がして、半分夢の世界のまま玄関を開けた
「…… 」
「……隆、どしたの?」
彼の顔を見て、夢からハッキリと覚めた。今まで見た事が無いような怒った様な悲しい様な瞳を私に向けていた
「お前、昨日何してた?」
「……ドラちゃんとパーが家に来てたからピザ食べてた」
「…それだけなら…何でそんな瞼腫れてんの?」
「…………」
「……言えねぇ事してたのかよ」
憎悪を感じる様な感情剥き出しの言葉に少しだけ怯んでしまう。まるでナイフで刺すような鋭い目付きで私を見た隆は右手で私の髪を掴んで上にあげた
その行動の意味が良く分からなくて、何?と言えばそれが感に触ったのか何なのか良く分からないけれど唇を噛み締めて下を向いた
「……隆、そんなに噛んだら血が出ちゃう」
「……」
伸ばした手は彼に触れようとしたけれど、またあの目で見られてしまい私はそのまま手を下ろした。一瞬、パーかドラちゃんが何か言ったのかと思ったが2人が隆に言う事は絶対に無い。約束したからだ
「……隆、何が聞きたいの?」
「……お前、昨日乾とあんな廃墟みたいな所で2人っきりでキスしてて……首にはそんな痕付けて何が聞きたいの?じゃねぇーだろーが」
「…………」
最悪だと思った。首に付いた痕は分からないけど何でそこまで知っているのか不思議だった。もしかして見てた?と思ったけれど彼なら黙って見てる事はしない筈だ。何も言い訳出来なくてただ黙っている私に隆はそのまま私に背を向けた
インパルスの音が遠ざかって行って、目からポツポツと涙が出てきた。自室に戻り鏡で首を見たら昨日乾の拳が掠った時に出来た痣があり少し赤くなっていた
何だか、言っても嘘つきだなんて言われそうで何も言う気も起きずにただ今は瞼が重くて眠くて仕方ない
ゆっくりと目を閉じて意識を手放した
何時間か眠って起き、シャワーを浴びてから歯を磨いてメイクをして髪を整えていると少しシャキッとした気分になった。隆は今嫌な気分だろうな、何て思ったけどどうしていいか分からなくて自室に戻りとりあえず服の作業をする事にした。カタカタとミシンの音が部屋に響いて少しだけど気持ちが落ち着いてきた
開けっ放しの窓から聞きなれないバイクの音がして家の前で止まった。誰だろうと思い玄関を開ければ、乾が立っていて私は目を見開いた
「……えっ?……どしたの?」
「……昨日、泣かせたから。これ、お詫び」
私の目の前に差し出して来たのは綺麗に包装された美しい花束だった。ピンク、黄色、紫、白のスイートピーにかすみ草が散らされていて見目麗しい
何だか少しだけ嬉しくなって微笑むと、乾は私の顔を見て嬉しそうに笑ったが、視界の端に見えるシルバーの髪と先程とは違い制服を着た隆の姿にビクリと私の体は揺れた
「……お前、昨日の今日で何してんだよ乾」
「……三ツ谷か」
私に向けていた笑顔から急に表情を無くした乾は振り返って隆を見つめる。無表情でスタスタと歩いてきた隆は私を背中で隠してから乾に詰め寄る様に顔を寄せた
「……お前、人の女に何してんの?」
「……お前より前に俺達は知り合いだったし、そんな事言われる筋合いねーよ」
「今付き合ってんのは俺なんだけど」
「……俺は小学生からずっと雪那さんが好きだった。お前には遠慮しない。付き合っててもな」
「……ふざけんなよ」
急に腕を振りかざした隆の右手を掴んだ自分が居た
ワンコを殴らないでと心が叫んだ気がして、そのまま行動に出してしまった。掴んだ手を振りほどいた隆の、私を見る目はいつもの隆じゃ無かった。裏切り者みたいな目をしていて、その目で見られただけで私の心は大きく揺さぶられてしまう
「……そんな目で見ないで」
「…………」
「……そんなに……私が嫌ならもういい」
本当は話したい事が沢山あった、誤解も解きたいのにその目で見られているだけで心が張り裂けそうだ。花を抱いてそのまま玄関に入り鍵を閉めてからチェーンを掛けてベッドに横になった、殴り合いをしていても2人が怪我をしても今はなんだかどうでも良かった。
外から聞こえる怒鳴り声も直ぐに止んで、バイクが去る音がした。花の香りを嗅ぎながらウトウトしているとまた眠気がやってきて今の状況から逃げたくて目を瞑り寝てしまおうと思ったが廊下を歩くような足音にハッとして目を開けた
ドアが開いて、そこには一虎が居て私は目を見開いた。「……何か面倒な事になってる?」そう言った一虎は私の隣に座り乱暴に頭をくしゃりと撫でてくる
「……どっから入ったの?」
「庭の窓が開いてた」
「閉めるの忘れてた。……見てたの?」
「この間破れた服直して貰おうと思って来たら三ツ谷が知らねー奴にブチ切れてたから」
「……うん」
「あれ誰?」
「昔の知り合い」
「この花くれたの?早く水にさせよ」
「……うん、そだね。……隆と、あの子喧嘩しちゃってた?」
「ああ、何か相手も強かったからマジ喧嘩になってて一応止めた」
「……一虎が止めてくれたんだ」
「お前の事頼むって三ツ谷に言われてさ、良く分かんねぇけど鍵閉まってたから窓から入った」
「……そっか、わかった。一虎お腹空いた?私今日朝から何も食べてないんだよね。何か作るから一緒食べよ」
「……お前、大丈夫??」
「何で?」
「……顔が、昔の顔してる」
「……本当は泣きたいよ、でも泣く資格無いのかな」
そう言った私に、馬鹿だなと笑った一虎は資格何かいらねーよと言って頭を強引に掴んで自分の胸に寄せた
雑で荒いけど、何だか嬉しくてワンワン泣いていると背中を優しく摩ってくれて安心する。あの時自分が乾について行かなかったらとか、稽古を断っていたらとか色んな事が頭に過ぎってきて自分を責めたいんだなとか思った。責めたって悲しくなるだけだし、ちゃんと隆に説明すればそれでいいのにとブツブツ独りで話す私に、ずっとうんうんと相槌を打ってくれてる一虎はいつもより優しく感じて嬉しくなった
涙も止まり一虎にお礼を言ってからキッチンで簡単に丼物と味噌汁を作って二人で食べた。双子の兄弟が居たらこんな感じなんだろうなと一虎といると毎回思う。ドラちゃんみたいに思慮深くも無いし、隆みたいに気遣いも出来ないけれど一緒に居て遠慮無く過ごせる所は圭介と似ていると思った
「……お前これからどうすんの?」
まだご飯が口に入っているのに話し出した一虎にお手上げのポーズを取れば、フッと鼻で笑われる。三ツ谷とちゃんと話せよと言われて、あの目で見られたく無いから今は話したくないと言えば仕方ないか。みたいな顔をした
「……つーか、何も分かんねぇんだけどどうゆう事なの?」
「……まぁ、実は」
パーやドラちゃんに話した様に真実のみを一から全部話すと、一虎は怪訝な顔をした
「……お前嵌められてない?」
「……誰に?」
「乾って奴が嘘言ってる様には聞こえないし、多分三ツ谷にそれ教えた奴がお前らを別れさせるようにしむけてるとしか考えらんねぇ」
「…そういえば…隆、誰から聞いたんだろ」
「お前が話したくないなら俺が聞いてやるよ」
うん、と下を向いた私に一虎はニカっと歯を見せて笑った。確かに昨日の今日で隆が知ってるのは誰かから聞いたか見たかしないとおかしい。乾かドラちゃんかパーしか知らない筈だけど、パーとドラちゃんは約束を違えたりしないし乾が隆の連絡先を知ってるとは思えなかった
「……分からないなぁ」
ぼんやりと考えながら食べ終わった2人分の食器を片付けていると、一虎はご馳走様と言ってから暗い庭に出て行った。煙草でも吸っているのかと思ったがどうやら電話しているみたいだった
行動が早いな何て思いながら食器を洗い、お湯を沸かして珈琲をいれ終わると庭に続く窓が開いてから微妙な顔をした一虎が私を見ていた
「……何?怖いんだけど」
「……三ツ谷も誰か分かんねぇらしいぜ」
「……は?」
「朝起きたらお前達がキスしてる写真と、首の痕が証拠だ。みたいな文がメールで来てたらしい」
「差出人不明なの?」
「三ツ谷は知らねぇアドレスだったって言ってた」
「何か気持ち悪」
「乾に、こんなの送り付けやがってってキレたら、乾も知らなかったらしい。演技してる様には見えなかったって言ってたぜ」
「……何それ、その写真撮った奴は何で隆のアドレス知ってんのか怖いわ。……ねぇ、隆は元気無かった?」
「無いに決まってんだろ。馬鹿」
「……そっか。」
「 雪那は?って聞かれたから、今は飯食えて落ち着いてるって言った」
「そう、……ありがと」
モヤモヤとするけれど、誰が送ったのかも分からないし生憎検討もつかない。明日学校で顔見るの辛いなぁ何て思いながら一虎とゲームをしてから夜食を食べて夜更かしして眠りについた
やっぱり朝は起きれなくて、昼過ぎに一虎に学校の前まで送って貰い、手を振って別れた。昇降口に向かって歩いていると4階の教室からこちらを見ている隆に気付いてなるべく自然に目を逸らした。階段を上がり自分の教室に入ると昼休みが丁度終わる所だったので昼ご飯は諦めて自分の席に座り窓の外を眺めていた
「雪那ちゃん、凄い遅刻だね」
「……あぁ。うん、ちょっと色々あって」
「そういえば、2限目の終わりに三ツ谷君が来てたよ」
「……何で?」
「何でっていつも来てるじゃん。 雪那ちゃんまだ来てないよって言ったら分かったって言ってたけど」
「……そっか」
「……喧嘩したの?」
「ううん、大丈夫」
そんな話を隣の席の子と話していると、先生が教室に入ってきて私達の話は自然と終わった。耳に入って来ない授業を聞きながら、隆にメールを送った奴の事ばかり考えているといつの間にかチャイムが鳴っていた。逃げる様で嫌だったけど、顔を合わせたくなくてトイレに行こうと廊下に出て歩いているとガシッと肩を抱かれて思わずビクッとした
「 雪那、平気か?」
「……何だ、パーか。ビックリしたな」
「顔浮腫んでんぞ」
「……昨日一虎と夜中にゲームして夜食食べたら朝顔パンパンだよ」
「……お前さ、あの事三ツ谷に話したの?」
「話したんじゃなくて、誰かが隆に写真送り付けたらしい」
「……はっ?どうゆう事だよ」
「……話せば長くなるから」
珍しくパーがこっちこいと言って強引に私の手を掴む
そのまま引きづられる様に屋上に続く階段まで来ると誰も居ないのを確認して腰を下ろしたパーの横に私も腰を下ろした。5限目が始まるチャイムが鳴ったのも気にせずに、とりあえず昨日朝に隆が家に来た時から今迄の話をするとパーは顔を顰めた
「……それは、嵌められてるよな」
「…でも誰が送ったかも分からないし」
「…昨日さ、三ツ谷は昼過ぎてから学校来たんだけどよ。何か苛立ってて様子変だし、俺てっきりお前が言ったのかと思った」
「……まぁ、そう思うよね」
そんな話を二人でしていると、5限目終了のチャイムが鳴り響いた
「また何かあったら言えよ」と言ってくれたパーと別れて教室に戻りそそくさと鞄を持って直ぐに昇降口に向かった。まだ顔を合わせたくは無いし、早く帰って作り途中の洋服だけ仕上げてしまおうと階段を駆け下りる。1階まで降りて曲がった所で急にガッシリとお腹に手を回されて、その早業にビックリして顔を上げると少し不機嫌な顔をした隆の顔が目の前にあった
「……ビックリした」
「……俺の事避けんなよ」
「…………」
「お前が、ああしたかった訳じゃ無いのは聞いた。乾が無理やりしたって言ってた」
「……話も聞かないで裏切られたみたいな顔をして私を拒絶したじゃない」
「……悪かったよ、正直お前を疑うって事よりもあの写真にショックを受けてて冷静でいれなかった」
「……うん、そう、か。……だよね」
自分を拒絶したと自分の口から出た本音に自分でビックリした。隆は何も悪くないのに、私は自分の事しか考えれて無くて何だか悲しくなってきた。お腹に回されていた腕は思っていたよりも力が入っていて抜けれそうにも無い、抜ける方法は沢山あったけどどれも彼が激怒しそうなので止める事にして今は大人しくする事にした
「……お前は、俺と別れたいの?」
「…私は、ちゃんと乾に言ったよ。隆が居るから乾と付き合う気は無いって。何でそうなるの?」
「……お前がアイツに少し気がある様な気がしたから」
「……気があるんじゃない。小学校の時の大事な友達だった。ワンコの話、隆にもした事あるじゃん」
「……あれ女だろ。美人な子」
「ワンコが、乾だったから……殴って欲しく無かった」
「……嘘だろ」
「……嘘なんかつかないよ」
「………」
少しだけ困った顔をした隆は「分かった」と小さく呟いた。隆の腕が少し緩んだので直ぐに離れようとすると首を掴まれて反射的にバチンと平手打ちしてしまい「あ……」と言葉が口から漏れた
ごめん、と呟いた私は彼の顔も見ずにそのまま下駄箱に走り出した。頭の中でこんな筈じゃ無かったのにと何回も繰り返しながら靴を履いて自宅に向かって走り出す、自宅に着いた時には息が切れていて玄関の前でしゃがみこんでしまった
多分、凄い傷付けたし頬も痛い筈だ。咄嗟とはいえ彼に手を出してしまった事を後悔していると目から出てきた涙はスカートにポロポロと落ちて染みを作った
膝を抱えて、泣き過ぎて苦しくなってきて深く深呼吸して空気を吸い込もうとしているのに嗚咽が出て咳まで出てきて本格的に苦しくなってきた、ゲホゲホと繰り返し咳をしていると急にフワリと優しく抱き締められて背中が摩られてゆっくり顔を上げた
悲しそうに私を見つめて居たのは乾で、私と目が合うと「……ごめんね」と小さく呟いて顔をギュッと抱き締めらる。背中を上下に摩られていると少しづつだけど落ち着いてきて呼吸が整ってきた
「……ワンコ、ありがと」
「ごめんな。俺が……」
俺がの続きは言わずに私を優しく抱き抱えて立ち上がった乾に咄嗟に「歩けるよ」と言えば「家の中に入れちゃいけないんだっけ?」と少し微笑まれて顔を縦に降った
「……ちなみに触られても駄目だから下ろして」
「……分かった」
すんなりと降ろしてくれた乾は、いつの間にか石段に置いてある包まれた花を無表情で私に渡してくる。
「……何で花?」
「……前から喜ぶから。俺は女の扱いが分からないし、三ツ谷みたいに器用でも無いから。面白い事も言えねーし」
「……向日葵か、ありがとう」
小さな向日葵を見ていると少しだけ元気になった気がして私は自然と微笑んでいた。「……もう2度と家に来ないで」と言わなきゃいけないのにどうもその言葉が口から出て来なくて下を向いてモゴモゴしてしまう
何だかこうゆう中途半端な私が1番駄目なんだなって良く分かったし、泣いてばかりで結局皆に心配をかけてしまって自分に呆れた。今だって本当の気持ちは普通に珈琲をいれて乾と昔話をしたいしこの間の続きの組手もしたい。それを言ってしまったら隆との関係が崩壊するなら言いたくないと思ったけど、何だか段々と考えるのも面倒になってきて吹っ切れてしまった
「ねぇ、……ワンコ、昔話したいんだけど付き合ってくれる?」
「……急にどうした?」
「やっぱりワンコとは友達で居たいよ。……でも、キスとかそうゆうのは無しにしたい」
「……あれは、ごめん。……分かった」
「約束してね」
「……ああ。約束する」
長い睫毛を揺らしたワンコはやっぱり昔のワンコのままに見えた。向日葵を抱いて笑顔を向けて家に招くと、1度躊躇したけれどお邪魔しますと言って家に入ったワンコをリビングに通した。珈琲をいれて二人で小学生の時の話をだらだらとして、それから1番聞きたかった何故急に姿を見せなくなったのかを聞いてみる事にした
「……声が低くなったから」
「…はっ?声変わりしただけで?」
「 雪那さんは俺を女だと思ってたし。実際あの時は佐野と場地以外の男嫌いだったじゃん」
「……痴漢にも良くあってたしね」
「今は……痴漢とか平気か?」
「うん、小さい頃よりは合わなくなったかな」
良かったと少しだけ微笑むワンコに、強いから心配しなくても大丈夫だよと笑うと少しだけ悲しそうな顔をした彼は、嫌なら躊躇しないで殴れよと言った
実際、昨日も今日もワンコに隆だから掴まれても押さえつけられても酷く手を出さなかっただけだ。あれが痴漢や変質者なら手加減はしないし油断も絶対にしなかった
「……大事な人だと油断するのは仕方ないよ」
「……悪い。ありがとう」
もう、しないからと呟いたワンコに笑顔を向けてからもう1度昔話に花を咲かせて笑いあった。何だかんだお喋りしていると時間は早く過ぎるもので、気付けば夜の9時を過ぎていた。お腹が空いたので適当に作って二人で食べて、そろそろ帰ると言ったワンコを外まで見送りに出た
「ありがとうな、 雪那さん」
「……もうさんはいらないよ」
頷いたワンコはまたね。と言ってそのまま私に背を向けた。その後ろ姿を見てこれで良かったんだなって気持ちを強く持つ事にした
それから、学校で隆が私の教室に来る事も無く連絡も無く1週間が過ぎた。全学年である集会の時にたまに友人とお喋りしている、笑っている隆を見れて少し嬉しくなったけど、あれからどうにも気まずくて話しかけられない自分は臆病者なのかもしれない
もうすぐ隆の誕生日で、ずっと前から一人で黙々と内緒で作っていた夏用のセットアップをプレゼントする筈だったのに、これも渡せないかなと机にうつ伏していると教室の後方のドアからこちらを見ているペーとパーと目が合ったので顔を反対に向けてうつ伏した
暫くすると、急にドスッと体に重みがかかり潰れそうになった。「…パー…重い」私が機嫌が悪いのが分かるのかちょっと楽しそうに揶揄う様に2人は笑い、パーは私の背を潰していた体を退けた。
「 雪那、三ツ谷と喧嘩したのか?」
「……この間掴まれて反射的に叩いちゃたの。謝ったけど、気まずくて」
「…… 雪那のビンタとかスゲェ痛そう」
やっちまった感があるとションボリした私に、ペーが一緒に謝ってやるよと言ってくれてその気持ちが嬉しかったけれど、何だかまだ謝りたく無くて溜息を吐く私にパーは私の背を叩いた
「……男らしくねぇぞ、雪那 」
「……まあ、一応女だからね」
そんな話を3人でしていると「パー」と声がして、その聞き慣れた大好きな声に私はハッとした。振り返ると教室にスタスタと入って来た隆は「先生が呼んでんぞ」とパーに声を掛ける。そんな中、ペーが私を見ている事が分かったけど知らんぷりしているとパーは分かったと言って教室を出て行った
「……なぁ、2人話した方が良くね?」
気を利かせたペーの一言に、何だか私もウジウジしてるのが嫌だったから覚悟を決めた。急に私が立ち上がって隆の目の前に立ったので隆もペーもちょっとビックリしている様だったけど、真っ直ぐに隆を見て口を開いた
「…隆………叩いちゃってごめんね」
「……」
「……私あの日、家の前で泣いてたらワンコが家に来たから家にあげて二人で珈琲飲んだ。……ずっと聞きたかった、何で私の前に急に現れなくなったのかも聞けて彼とは友達になったから」
「…………」
「……彼には絶対に恋人にはなれないし、手を出すなら会わないとも話した。それだけ……家にあげないって約束守んなくてごめん」
そう言って鞄を持って去ろうとした私の腹に手を回して抱える様に持ち上げた隆に「ちょっと」と言ったけど完全にシカトされてスタスタと廊下に向かい彼は早足で歩き出す。ポカンとしてるペーに手を伸ばすと、ちゃんと話せよとガッツポーズをしてくるペーを殴りたくなった
いつも二人でご飯を食べている場所に降ろされてからガッチリと壁の隅に追いやられて両手で進路を塞がれた。逃げる気は今回は無かったし、言いたい事はさっき言ったから直ぐそこにある隆の顔を見上げる様に見つめた
「……私はもう何も言う事無いよ」
「……大事なのがあんだろ」
「……?大事?……叩いちゃって、色々…傷付けてごめんね」
「……そうじゃねーよ。そんなの俺は大丈夫だよ」
「…………分かんない」
「…お前は……俺が好きなのに何で避けんの?」
「嫌な目で見られたくないし、怒鳴られたくなかった。……隆だから辛い」
「……それは……俺も悪かったけどよ」
「……色々ごめん。悲しくて避けてごめん。あんな目で見るから私の事要らないのかと思った」
「……そんな訳ねぇだろ」
怒りを含んだ様な隆の声、「俺がお前を要らない何て思う訳ねぇだろ」と直接言われてみると、そうだなとやけに納得してしまい素直に頷いた。背中に回って来た腕はスッポリと私包み温かい優しい匂いに安心して彼の胸に顔を寄せる。何だか凄く安心して、離れたくないなって思った
「……ねぇ」
「……なんだよ」
「今日はずっと一緒に居て」
「…………」
返事が返ってこないので、少し心配になりゆっくりと上を向いて隆の顔を見つめると彼は真っ直ぐ私を見つめていた。
「……嫌?」「……逆だ、ボケ」
背中が折れるんじゃないかってくらい強く抱き締められて、唇に深く口付けられる。後頭部に回った手が逃がさないとでも言う様にガッチリと頭を掴まれて角度を変えて口付けられて何だか心が切なくなった気がした
「……苦しいよ」
「……悪ぃ。……でももう1回」
「……学校だから、帰ってからしよ」
「あー、俺部活だからちょっと待ってろよ」
「……私も行っていい?」
「……珍しいな。来て何してんの?」
「…何か……縫うものある?手伝うよ」
そう言うと嬉しそうに笑った隆は「じゃあ隣に居て」と言ってくれたので頷いた。家庭科室の木の机に座って、特にやる事も無いので皆に指示をする隆を見ながらボンヤリとしていると、隣に座ってきた名前も知らない女の子が小さな声で話しかけて来た
「雪那さん?ですよね?」
「うん」
「私1個下の田中っていいます。部長が彼女連れてくるなんて珍しいなと思って」
「……あぁ、そうだね」
「失礼なんですけど、ここ1週間部長に何かありませんでしたか?」
「…………何で?」
「ずっと上の空だし元気無くて、皆心配してたんです。そしたら今日は雪那さん連れてきて顔も元気になってて、皆凄く安心したって言ってました」
「……そっか。ごめんね。色々あったから」
何かあったんですねと眉を下げた隆の後輩に、もう大丈夫だからと言えば良かったと歯を見せて笑いかけてくる。自分が思っているよりも何倍も彼に思われていたのかなと思うと何だか良い意味で切なくなった様な気がして私は自分の胸を優しく撫でた
