短編 シリーズ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
友達の紹介で入居したアパートは都内で駅から徒歩15分以内間取り2LDKで7万円の破格。もしかして誰か死んでたりする?何て聞くと誰も死んでねぇよとお腹をかかえて笑われてしまった。ただ古いだけだと返ってきたけど、そんな事があるのかと契約ギリギリまで納得出来なかった。だけど在宅ワークにバイトまでしていてそんなに余裕も無いし本当に古いだけならまぁいいか。と最終的に納得し、住んでから何かあったら全部よろしくと言ってから契約書に班を押した
古くて年期が入っているが、外観のデザインが中々お洒落な所は魅力的だしコンビニも近い。まだちょっと内心事故物件かなと疑ってはいるけれど、とりあえず引越しが終わった事で一息つけたので様子を見る事にした
入居して6時間も経たずに気になったのは壁が薄いのか隣の角部屋の物音が煩いし、玄関を出入りする音もかなり響く。雑巾を干していると隣の窓が開いて煙草を吸う匂いが漂ってきて何だか嫌な気分になった
女性の1人暮らしだから隣に挨拶いらないよね?物騒だし。と物件を紹介してくれた友達にLINEを送ると、一応した方が良くね?別に手ぶらでいいからさと返信が返ってきて、中学の時はこんな律儀な子じゃ無かったのに人は変わるもんだなと感心してしまった
何を手土産にしようか考えたけれど、無難にタオルとか洗剤とかで良いかな?と考えながら洗剤のストックは何個あるか確認すると3個程あったので1つ目は洗剤で決まった。スーパーの買い物帰りにデパートを物色していると新しく入った雑貨屋さんを見つけてフラリと立ち寄った。お隣さんの事は忘れていて、すっかり可愛い雑貨達に夢中になっていると可愛らしいマグカップを見つけて張り付いている値段を確認する
1000円をマグカップに使う様なタイプでは無いけれど取っ手が猫のしっぽのモチーフなのが可愛い。黒猫とグレーの猫が寄り添っていて、良く見ると首輪がラインストーンなのが何だかグッと来てカゴにマグカップを入れた。そこでふと、マグカップなら渡しても特に大丈夫かな?と思い面倒なので色違いのマグカップをカゴに入れてお会計を済ませて夕飯の買い物をしてから自宅に帰宅した
家に着いてから買ったばかりのマグカップで珈琲をいれていると、隣からバタンと何か物音がしてその音に多少ビックリした所で挨拶を思い出した。面倒だとはいえ何故マグカップにしてしまったのだろうと思いながら洗濯洗剤と箱に入ったマグカップを綺麗な紙袋に入れて外に出るともう日は暮れかけていて、夕日が落ちる寸前だった。お腹空いたなー何て考えながら隣の部屋のインターホンを押すと、直ぐに若い男性の声ではい?と聞こえてくる
「すみません、隣に越してきた者です」
「……あぁ、お待ち下さい」
やり取りをしてから1分も経たない内に玄関のドアが開いて、そこには中学2年の時に同じクラスだった三ツ谷くんが立っていた。大人になった三ツ谷君は勿論髪型も体型も少し違うけれど瞳だけは昔と変わらないと思った。私が目を見開くと、少しだけ首を傾げた三ツ谷君は何秒かしてからもしかして…… 雪那?と口を開いた
どうしよう。少しだけ気まずいな何て頭に過ぎってしまったが過去は過去。今はあれから6年の時が経っている
「久しぶり、だね。三ツ谷君がお隣さん何て知らなかったよ」
「……あぁ、本当に久しぶり。てかこの物件て誰かに紹介されたの?」
「……パーちゃん」
「……プッ、マジかよ」
まだ連絡取ってたんだなと言って、三ツ谷君がフッと笑った顔が懐かしくて胸が少しドキッとした気がした。パーの奴、知ってて隣にしやがったなと少し腹立たしくなったけどニッコリと笑顔を作ってから、紙袋を渡してよろしくねと一言だけ言えば三ツ谷君は、サンキュと笑顔で受け取ってくれた。2人の間に沈黙が流れ、何だか気まずくて「じゃあね」と手を上げて三ツ谷くんの顔を見ずにそそくさと部屋に戻りクッションを抱いてソファに横になった
布をまるで魔法みたいに美しい服に変えるゴツゴツした手と、ヤンキーなのにフワリと優しく微笑んで頭を撫でてくれる所が大好きだった。会えて嬉しい反面、またあの頃の事を思い出してしまう。
中学2年の時に同じクラスだった三ツ谷くんとは女子の中では1番話していたと思う。最初は幼い妹が居る事が一緒だったのがきっかけで話す様になった、その後は自然と仲良くなってお祭りや買い物にも二人で出かけるくらいの仲に進展した。年頃の男女がそこまで仲良くしていて付き合わなかったのは、私からすると三ツ谷君は私の事を友人としてしか見てないんだなと思った事が何回かあったからかもしれない
仲良くなって1年が過ぎ、二人きりで夜に映画を見ていてもキスもされなくて私だけいつもドキドキしていた覚えがある。間違えて脱衣場を開けられて半裸を見られても、悪ぃ。と言ってパタンと閉まった扉に悲しくなったこともあった。いつも私だけ好きでドキドキして馬鹿みたいだなって思って来てしまった中学3年の秋頃から少しづつ溝が出来ていってしまった気がする。
その後直ぐに三ツ谷くんに彼女が出来た何て噂を聞いてしまった私は彼からのLINEを返さなかった
高校になって、既読スルーしてしまった三ツ谷くんからの最期のライン。何か怒ってる?この文を何回も見て泣いて自分の記憶を封印してしまった過去
また思い出してしんみりとしてしまい、冷蔵庫からビールを出して胃に流し込んでから私は少しだけまた泣いてしまった
お隣さんだからといって、特に鉢合わせる事も無く
越してから1週間近くが経とうとしていた。バイト帰りにスーパーで上等なステーキを買ってルンルンで自宅に帰り、早々と家事を済ませてからお気に入りのテーブルと椅子を2畳しかないベランダにセットして焼きたてのステーキとビールをテーブルの上に置いた
我が家の観葉植物が良い感じに雰囲気を出していて、2畳しか無いベランダに私の気分はまるでリゾートにいる様なテンションになった。一人暮らしをした時に絶対にやりたかった1つはベランダで少しだけお洒落に飲む事だったから、ランチョンマットや普段使わないコースター何かも出してきて笑顔で手を合わせてからビールを胃に流し込んだ。ベランダの雰囲気がそうさせるのか、ステーキが美味しいからかビール500を2本飲み干してから友人からの頂き物で冷やしておいたシャンパンを良いペースで飲んでると段々と気持ちが良くなってきて部屋では無い事も忘れて歌を口ずさんでいた
携帯から流れるメロディーが心地よくてシャンパンを片手に歌に酔いしれていると、ふと思い出した。中学の時に足を挫いた私を三ツ谷くんが自転車で送ってくれた時に三ツ谷の首にあったヘッドホンから流れていた曲だった。自転車を漕ぎながらこの曲良いだろと振り返った笑顔を思い出した。それから好きになって今迄ずっと暇さえあれば飽きもせずに聞いていた様な気がする
キーケースの薄汚れた布のストラップも、今付けているピアスも全部三ツ谷くんが昔作ってくれたりクリスマスにプレゼントしてくれた物だ
何か先に進めない女だな、何て考えながら歌うのを止めて溜息を吐いた
「……カラオケ終わり?」
突然聞こえて来た声にビックリして三ツ谷くんの部屋の方角を見つめた。えっ?カラオケ?聞いてた?と少し呂律が怪しい私が返事をすると隣から小さな笑い声が聞こえてくる
「……いつから居たの?音しなかったよね」
「最初から。煙草吸ってたんだけど、お前のビール美味しいぃって声にウケてたらカラオケやり出したからずっと聞いてたわ」
ちなみに美味そうだったから釣られて飲んじまったと言った三ツ谷くんはビールの缶を持っている手を仕切りの隙間から出すと乾杯と言ってきたので、うん。乾杯と言って缶にグラスを遠慮がちに当てた
「何食ってんの?」
「……ステーキとたこわさと長芋の漬物」
「すっげぇ美味そうじゃん。てかそのチョイスが面白ぇ」
「……メンチカツも買って来たんだけど、食べれなそうなんら」
「……なんらかよ。凄ぇ酔ってるじゃん。なぁ、じゃあ俺がメンチカツ食って良い?」
「……いいよ、今玄関開けるよ」
そう言った私に、やったと嬉しそうな声が小さく聞こえてから隣の部屋の窓が閉まる音がした。何だか凄く酔っ払って気分が良い、気まずいとかもいつの間にか無くなっていて三ツ谷くんと何話そうかな何て考えながら玄関を開けると片手にビールを持った三ツ谷がニコリと笑った
最後に覚えているのは右耳にしているピアスにそっと口付けられた事
何だかお腹の辺りが気持ちが悪い気がして目が覚めた
「……きぼちわるーい」
「……みず、そこにあっから飲め」
その声に従う様に手探りでサイドテーブルにあった水を飲み干した。ふぅと息を吐いてから買ったばかりのフワフワファーの寝具に体を埋めると、大きな温もりが私を抱きしめる。思わずゆっくりとその温もりを抱き締め返して顔を擦り寄せると、小さな笑い声が聞こえて来たので私も笑ってから意識を手放した
ムカムカとする胃の不快感で目を覚ますと、目の前にあったのは男性の胸板だった。思考回路が停止して、ゆっくりと上を向けば三ツ谷くんの寝顔が見えて顔を元の位置に戻す。自分の手が三ツ谷くんの腰に回っていて、その手を起こさない様にゆっくりと離し音を立てないように起き上がろうとすれば、グッと力が入った三ツ谷くんの腕が私を抱き締めて胸に閉じ込めた
「……はよ」
「……お、おはよう」
「どこ行くの?」
「……シャワー浴びてくるね」
「……お前さ、昨日の事覚えてる?」
「……お、覚えて……無い」
そう言った私の顔を優しく掴んだ三ツ谷は自分の方を向かせてくる。至近距離で目が合って、何だか覚えてなくて悲しいのにこの状況が嬉しくてどうしよう何て考えながら動揺していると、それが分かったのか三ツ谷はフッと悲しそうに薄く笑った
「……そんな顔すんなよ。」
「……私、どんな顔してる?」
「後悔してる顔」
「…そ、そっか…バレバレか」
「……以外に目の前で言われると傷付くな」
「……何で傷付くの?」
「……抱かれた事を後悔してるなんて言われて傷付かない男はいねーよ」
「ち、違うよ。……違う」
「……なんだよ」
記憶が無い事が悲しいんだよと少し強く言った私に三ツ谷くんは怪訝な顔をして首を傾げた
「……三ツ谷くんとキスしたり、抱いてもらうのは中学からの夢だったから。……記憶に残したかった」
恥ずかしくてモゴモゴしながら小さな声で言った私に三ツ谷くんは1度目を見開いてからお腹を抱えてゲラゲラと笑いだした。そんなに笑わないでよと顔が少し赤くなった私に悪ぃと一言言ってくれたけど、まだ笑い声はやまなかったので頬を膨らませながらシャワー浴びてくると言って寝室を出た
シャワーを浴びていると、玄関が閉まる音がした。三ツ谷くんもシャワー浴びに行ったのかな?と余り気にせずに体を洗い風呂から出て歯を磨こうとして洗面台の前に立つと、鏡の前の自分の首や胸の上に沢山の愛された跡が散らばっていた。それを見て何だか胸がいっぱいになってしまって涙が出てきてしまった
髪を乾かしてから寝室に戻り新しい部屋着に着替えながら携帯を開くと、LINEにいつの間にか三ツ谷くんの連絡先が登録されており、仕事だから1度帰ると入っていた。その携帯を胸に抱いて布団に包まると少しだけ二日酔いだったからか直ぐに眠気が来てそのまま眠ってしまった
「……雪那 」
「んん?」
「まだ気持ち悪ぃの?」
「……もう平気」
「まだ寝る?」
「……今何時?」
「13時」
「……寝すぎたね」
ゆっくり目を開けると優しく微笑む三ツ谷くんは私の頬を撫でてからゆっくりと背中に回した手に力を入れて抱き起こしてくれる。何だかまだ夢みたいでそのまま彼の首に口付けをして跡が残る様に強く吸い付いた
「……おい。今何した?」
「ふふっ、お返し」
「……俺もお返ししていい?」
「私9つ、三ツ谷くん1つ」
「プッ、キスマーク数えんなよ」
楽しそうに笑う三ツ谷くんの胸に顔を擦り寄せると強く抱き締められて幸せを感じる。飯出来てるよと言われて嬉しそうに万歳した私にその癖変わってねぇなと言ってもう1度強く抱き締めてくれた
その日から私の日常は幸福になった。大変な仕事の時も終われば彼がご飯を作ってくれて笑顔で抱き締めてくれる。夜は毎日愛して貰って、2人共笑顔が耐えなかった。そんな時間が穏やかに過ぎていって、半年が経った頃
新しいアシスタントが入るから少し楽になるぞと、嬉しそうに話してくれた隆に良かったね。と頷いたが新しいアシスタントさんが来てから私は毎日がモヤモヤでいっぱいになった
求人で来たのでは無く、高校時代のツテで連絡して来たアシスタントの女の子は笹山さんといって何度かエレベーターに乗る所を見かけたが美人でスタイルも良くて少しだけ心配になった。今日は新しい仕事が来たと言ってやる気満々な隆はウチにも顔を出さずに笹山さんと隣の部屋で黙々と作業を進めているのだろう
マグカップの取っ手を有り得ない程の力で握り締めながら隣から聞こえてくる笹山さんの笑い声に歯をギリギリさせてしまう自分がいた。隆が浮気とは無縁な男って事も承知だし、信用もしているのに何故だか心配になる。中学、高校時代からの友人にちょっと相談があるとLINEすれば久しぶりにお茶しようと返信が来た
美容関連の仕事をしている彼女は昔から美意識が高くて、肌をゴシゴシ擦るなとか保湿が足りないとか。食べ物はバランスを良く考えろなどと良く言われた気がする
今となっては少し考えても良かったと思うけど、学生の頃はそんな事も考えて無かったので適当にスルーしてた気がした。友人の麗奈とカフェで会ってから話を詳しく聞かせてと言われてまず引っ越した事から話し始めた
「……隣が三ツ谷とか。漫画じゃん」
「……うん。メッシュ入ったお洒落なお兄ちゃんみたいな感じだったけど、三ツ谷くんて直ぐ分かった」
「……林田やるねぇ。林田に会ったら奢ろうと思う」
「あぁ、麗奈それより笹山さんだってば」
「とゆうかさ、まだ再会して半年何でしょ?奥手な 雪那の事だからデートとかはしてない感じ?どこまでの関係なの?とりあえず和解は出来たの?」
「……それなんだけど」
再会して1週間で飲み過ぎて起きたら隣に裸の三ツ谷君が居たのと言った私に麗奈は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。目を見開いて見てきた麗奈にいやぁと照れながら頭を搔くと、良くやったと嬉しそうに笑った麗奈に笑ってしまった。
「…それからどんな感じなの?」
「うーん、時間ある時は毎日うちに居てくれるし、スーパー一緒に行ってくれたり食費も全部出してくれてさ。忙しいのに私の服作ってくれたり……て、言ってて思ったけど心配しなくていいじゃん私」
「……んだね。三ツ谷は中学の時からあんたしか見てなかったと思うよ。あいつは誰にでも優しいけどには特別にしてる感じがした」
「…そうかな…大事にしてくれてるのは分かるんだけどさ、可愛い女の子と2人で居ると心配で心配で」
「…その気持ちは分かるからさ、あんたもやり返してみれば?」
悪そうな顔で笑った麗奈は実は少し前に断った話があったんだけど、今なら丁度良さそうと言って笑った
「麗奈の紹介で来ました、1週間よろしくお願いします」
「久しぶりだね、よろしくね」
張り切った声で頭を下げられて、その勢いに私も頭を深々と下げた。中学から三ツ谷くんの影響があって裁縫と他にもバッグやアクセサリーなどを作って生計を立てている私のお手伝いをしたいと言ってくれたのは高校の時の麗奈と仲が良かった三上だった
お手伝いというよりは、鞄作りに興味があるらしく雑用やるから教えて欲しいみたいな感じらしい。女の子のひとり暮らしに三上を紹介するのはちょっとと断ったらしいけど、三ツ谷が隣にいるならいいよね?と麗奈は勧めてきた
やり返すとかは思っていないけど、鞄を作る事を教えるのは嫌では無かったので特に何も考えずに了承した。三上君が麗奈の事を高校時代ずっと好きでいたのを私は相談された事があるから知っていたし、何より話しやすくて良い奴だった。イケメンなのに可愛らしい中性的な性格が麗奈には相手にされていなかったけど、友達の私としては付き合いやすかった
「 雪那 、今回引き受けてくれてありがとうな」
「三上が鞄作りに興味あったの知らなかったよ」
「レザーの鞄作りに興味あってさ、1年くらい練習してからネット販売始めようかなって」
「レザーはちょっと高いけど人気あるし良いんじゃないかな?あ、三上何飲む?」
「買ってきたよ、雪那の紅茶と珈琲。後俺のオレンジジュース」
「好きだね、オレンジ」
まあな。と昔みたいに笑った三上に私もつられて笑ってしまう。作業部屋の床に座り込んで、二人でお茶しながらまずは生地を選んでデザインを書き出してと黙々と作業をしていると玄関の扉が開いた音がした
私が開けっ放しのドアを見つめると、自然に三上もそちらを見た。顔を出した隆は1度少しびっくりした顔をしてから私達の手元のデザイン画を見ると仕事の人?と首を傾げた。こんにちはと愛想良く言った三上に隆も頭を下げたので、高校からの友達で鞄作りを教えてる所と言えば「……ふーん」と言って頷いた隆はそのままリビングへと消えていった
小さな声で三ツ谷くんカッコイイなと三上に言われて、でしょ?とニッコリすると が幸せそうで良かったよと綺麗な笑みで言われて私は嬉しくなった。私が高校の時に付き合っていた人は好きだったけどやっぱり三ツ谷の事が忘れられなかったから長くうまくはいかなかった。中学の時の三ツ谷の事、そして高校時代の私の恋愛。その事を三上は私や麗奈聞いて全部知っているので尚更心を込めて三ツ谷との事を喜んでくれてる感じがした
それから2時間程作業を進めた所で覚える事がいっぱいでキツイとギブアップした三上にまた明日やろうかと言って肩を叩くと、明日は仕事が15時までだからそれから来ていいかと言われて頷いた。お邪魔しましたと言って帰っていった三上を送り出してから作業部屋の布や生地を片付けていると足音がしたので振り返る
「……帰ったの?」
「帰ったよ、明日また来るから」
「ふーん。スゲぇイケメンだな」
「うーん。まぁ、そうなのかな?ジャニーズとかにいそうなタイプだよね」
そう言って笑った私に隆は笑わなかった。あんまり機嫌良くないなと感じて、やっぱり麗奈の策に乗らない方が良かったと少しだけ後悔しながら片付け途中だった布を箱に戻して立ち上がる。その瞬間に後ろからゆっくり抱き締められて私は少しだけ声を出さずに笑ってしまう
「……たかしくーん、今日のご飯何食べたい?」
「……」
「……ご機嫌ななめなの?」
そう言って振り返るとあからさまに不機嫌な顔をした隆は不機嫌で悪ぃの?と言って私の両頬を片手で優しく潰してくる。突き出た唇が食べられる様に彼に塞がれて私は笑いながら目を閉じた。妬いてくれてるのかな何て思うと可愛くて仕方なくて隆の背中に手を回して抱き締めると優しい口付けが激しく深いものに変わってゆく
「……ストップ」
「……何で?ダメ?」
手で彼の唇を優しく触り、ご飯作るからと言えば首を傾げて駄目?と言った顔が可愛くてダメじゃないけど。と小さな声で言うと、ニッコリと微笑んだ隆は私を壁に押し付けてスカートを捲り上げる
首筋に口付けされて、激しく胸を揉まれて体がビクリとした。右手がスルりとショーツに入り少しだけ濡れていた秘部は指を簡単に飲み込んでしまう
「……んん」
「…………」
イヤらしい声が出た口を噤んで、良い所をひたすら攻めてくる彼の指に思わず腰が揺れてしまう。いつの間にか外されていたブラジャーがずり落ちて突起がいつもより強めに潰されると噤んでいた口からアァとまたイヤらしい声が出てしまう
初めてこんな激しい抱かれ方をした私は出てくる涙と感じる気持ちよさに戸惑いながらもただただ快楽に身を任せていた。秘部から聞こえて来た水音に頬が赤くなるのを感じていると指がスルッと抜けて次の瞬間には隆自身が入り込んで来て、グッとお腹の奥を押される感覚がして快楽に目の前がチカチカしてしまう
「……隆、ゴム着けた?」
「……着けてねぇ」
その言葉に焦って駄目と言った私の口を手で塞ぎ、激しく腰を打ち付けて来る。後ろからキツく抱き締めながら首筋を吸い上げられて喘ぐ事しか出来なくて、そこでハッと妊娠したらどうしようと不安になった。流石に中には出さないだろうと安心していたが、もうもたねぇと小さな声が聞こえたと同時にお腹の奥が熱くなった気がして呆然とした
一気に頭の中に、もし子供が出来たらどうしようとか隆の子供をこの目でみたいとか色んな考えが浮かんできた
「……悪ぃ、雪那。……怒ってる?」
はぁはぁと息を切らしながら私を強く抱き締めてくる隆の声は少しだけ不安を含んでいる声だった。そんな隆の顔を真っ直ぐに見つめてから柔らかい髪に手を入れると少し汗ばんだ首筋に顔を埋めた
「……怒ってない」
「……本当に?」
「うん。ちょっと嬉しかった」
「……何で?」
「……子供出来ても良いと思ってくれてるのかなって」
「お前が良いなら直ぐ欲しいよ、俺は」
その言葉が耳に入ってくると目一杯幸せを感じた気がして涙がつーっと頬を伝った。止まらない涙は隆の首筋を濡らして、それに気付いた隆は泣くなよと言って私の涙でびしょびしょな唇に口付けしてくれる
「…隆の口からさ…愛してるって聞きたいな」
「……お前、100回も言わせてまだ聞きたいの?」
可愛いなと笑った隆に私が100回って何?と首を傾げると、ベランダでご馳走になった時に俺がお前のピアスを見て嬉しくなってキスしたら愛してるって言ってって言われたから愛してるよってキスしたら、まだ足りないから100回言ってって言われたと隆は笑った。
自分のお酒の粗相の話をされるのがこんなに恥ずかしいのは初めてで、迷惑かけてごめんと言って隆の胸に抱き着いた
「迷惑何かじゃねぇよ」
「……本当に?」
「……その後お前を抱いてる時に俺も100回言わせたからな」
「……ぷっ」
ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべた隆に私が吹き出してから大笑いしていると、いつの間にか涙は止まっていた。汗がひいて冷たくなった首筋に顔を埋めて目を瞑ると昔の隆と変わらない匂いがした様な気がした
何だかアシスタントさんの事も気付いたらすっかり嫌な気持ちが無くなっている事に気付いて、自分の単純さにため息をついたが気持ちは晴れやかだった。
シャワーを二人で浴びてから二人でご飯を作っていると、隆が不思議そうな顔で戸棚を見ている事に気付く
「どしたの?」
「このマグカップ、俺にくれたのとお揃い?」
「あぁ、うん。雑貨屋で一目惚れしちゃってさ」
「普通、引越しの挨拶にお揃いのマグカップ渡さねぇよ」
そう言って笑う隆に私もそう思うと言って笑うと、まな板を洗っていた私を後ろから抱き締めてきた隆は耳元でそっと囁いてくる
「俺は中学の入学式でお前に一目惚れした」
いつも通りの口調で呟いた隆。嬉しくて、でも信じられなくて思わず「嘘でしょ?」と振り返った私の唇に微笑みながら口付けしてきた隆は「仲良くはなれたけど、惚れ過ぎてて手も出せなかった」と恥ずかしそうに笑った。「夜に二人で映画見ててもキスもしてくれないから女の子としてみられて無いと思ってた。でもそうじゃ無かったんだね。」そう呟いた私の手を取って、ごめんな。と言った彼に首を横に振り私がごめんねと胸に顔を埋めた
誤解して、怒って、無視して、離れて。何年も苦しんで馬鹿みたい。ごめんなさいと思えば思う程に涙が出て来て隆のシャツを濡らしてゆく。離れていた時間は戻らないし彼を傷付けてしまった事実も変わらない
「傷付けてごめんね、隆」
「……勇気が無くてごめんな。俺がお前に早く告白してたら良かった。高校の時になって改めて反省して、パーに話したんだよ。そしたらサプライズをくれた」
「……パーちゃん。もう本当に大好き」
「大好きなのは俺だけにしてよ、雪那」
「隆の事は愛してるもん」
「……俺も」
目尻が下がった目元に優しくキスをすると、ずっと一緒に居ようなと言ってくれた言葉が胸に染みて私はまた泣いてしまった
古くて年期が入っているが、外観のデザインが中々お洒落な所は魅力的だしコンビニも近い。まだちょっと内心事故物件かなと疑ってはいるけれど、とりあえず引越しが終わった事で一息つけたので様子を見る事にした
入居して6時間も経たずに気になったのは壁が薄いのか隣の角部屋の物音が煩いし、玄関を出入りする音もかなり響く。雑巾を干していると隣の窓が開いて煙草を吸う匂いが漂ってきて何だか嫌な気分になった
女性の1人暮らしだから隣に挨拶いらないよね?物騒だし。と物件を紹介してくれた友達にLINEを送ると、一応した方が良くね?別に手ぶらでいいからさと返信が返ってきて、中学の時はこんな律儀な子じゃ無かったのに人は変わるもんだなと感心してしまった
何を手土産にしようか考えたけれど、無難にタオルとか洗剤とかで良いかな?と考えながら洗剤のストックは何個あるか確認すると3個程あったので1つ目は洗剤で決まった。スーパーの買い物帰りにデパートを物色していると新しく入った雑貨屋さんを見つけてフラリと立ち寄った。お隣さんの事は忘れていて、すっかり可愛い雑貨達に夢中になっていると可愛らしいマグカップを見つけて張り付いている値段を確認する
1000円をマグカップに使う様なタイプでは無いけれど取っ手が猫のしっぽのモチーフなのが可愛い。黒猫とグレーの猫が寄り添っていて、良く見ると首輪がラインストーンなのが何だかグッと来てカゴにマグカップを入れた。そこでふと、マグカップなら渡しても特に大丈夫かな?と思い面倒なので色違いのマグカップをカゴに入れてお会計を済ませて夕飯の買い物をしてから自宅に帰宅した
家に着いてから買ったばかりのマグカップで珈琲をいれていると、隣からバタンと何か物音がしてその音に多少ビックリした所で挨拶を思い出した。面倒だとはいえ何故マグカップにしてしまったのだろうと思いながら洗濯洗剤と箱に入ったマグカップを綺麗な紙袋に入れて外に出るともう日は暮れかけていて、夕日が落ちる寸前だった。お腹空いたなー何て考えながら隣の部屋のインターホンを押すと、直ぐに若い男性の声ではい?と聞こえてくる
「すみません、隣に越してきた者です」
「……あぁ、お待ち下さい」
やり取りをしてから1分も経たない内に玄関のドアが開いて、そこには中学2年の時に同じクラスだった三ツ谷くんが立っていた。大人になった三ツ谷君は勿論髪型も体型も少し違うけれど瞳だけは昔と変わらないと思った。私が目を見開くと、少しだけ首を傾げた三ツ谷君は何秒かしてからもしかして…… 雪那?と口を開いた
どうしよう。少しだけ気まずいな何て頭に過ぎってしまったが過去は過去。今はあれから6年の時が経っている
「久しぶり、だね。三ツ谷君がお隣さん何て知らなかったよ」
「……あぁ、本当に久しぶり。てかこの物件て誰かに紹介されたの?」
「……パーちゃん」
「……プッ、マジかよ」
まだ連絡取ってたんだなと言って、三ツ谷君がフッと笑った顔が懐かしくて胸が少しドキッとした気がした。パーの奴、知ってて隣にしやがったなと少し腹立たしくなったけどニッコリと笑顔を作ってから、紙袋を渡してよろしくねと一言だけ言えば三ツ谷君は、サンキュと笑顔で受け取ってくれた。2人の間に沈黙が流れ、何だか気まずくて「じゃあね」と手を上げて三ツ谷くんの顔を見ずにそそくさと部屋に戻りクッションを抱いてソファに横になった
布をまるで魔法みたいに美しい服に変えるゴツゴツした手と、ヤンキーなのにフワリと優しく微笑んで頭を撫でてくれる所が大好きだった。会えて嬉しい反面、またあの頃の事を思い出してしまう。
中学2年の時に同じクラスだった三ツ谷くんとは女子の中では1番話していたと思う。最初は幼い妹が居る事が一緒だったのがきっかけで話す様になった、その後は自然と仲良くなってお祭りや買い物にも二人で出かけるくらいの仲に進展した。年頃の男女がそこまで仲良くしていて付き合わなかったのは、私からすると三ツ谷君は私の事を友人としてしか見てないんだなと思った事が何回かあったからかもしれない
仲良くなって1年が過ぎ、二人きりで夜に映画を見ていてもキスもされなくて私だけいつもドキドキしていた覚えがある。間違えて脱衣場を開けられて半裸を見られても、悪ぃ。と言ってパタンと閉まった扉に悲しくなったこともあった。いつも私だけ好きでドキドキして馬鹿みたいだなって思って来てしまった中学3年の秋頃から少しづつ溝が出来ていってしまった気がする。
その後直ぐに三ツ谷くんに彼女が出来た何て噂を聞いてしまった私は彼からのLINEを返さなかった
高校になって、既読スルーしてしまった三ツ谷くんからの最期のライン。何か怒ってる?この文を何回も見て泣いて自分の記憶を封印してしまった過去
また思い出してしんみりとしてしまい、冷蔵庫からビールを出して胃に流し込んでから私は少しだけまた泣いてしまった
お隣さんだからといって、特に鉢合わせる事も無く
越してから1週間近くが経とうとしていた。バイト帰りにスーパーで上等なステーキを買ってルンルンで自宅に帰り、早々と家事を済ませてからお気に入りのテーブルと椅子を2畳しかないベランダにセットして焼きたてのステーキとビールをテーブルの上に置いた
我が家の観葉植物が良い感じに雰囲気を出していて、2畳しか無いベランダに私の気分はまるでリゾートにいる様なテンションになった。一人暮らしをした時に絶対にやりたかった1つはベランダで少しだけお洒落に飲む事だったから、ランチョンマットや普段使わないコースター何かも出してきて笑顔で手を合わせてからビールを胃に流し込んだ。ベランダの雰囲気がそうさせるのか、ステーキが美味しいからかビール500を2本飲み干してから友人からの頂き物で冷やしておいたシャンパンを良いペースで飲んでると段々と気持ちが良くなってきて部屋では無い事も忘れて歌を口ずさんでいた
携帯から流れるメロディーが心地よくてシャンパンを片手に歌に酔いしれていると、ふと思い出した。中学の時に足を挫いた私を三ツ谷くんが自転車で送ってくれた時に三ツ谷の首にあったヘッドホンから流れていた曲だった。自転車を漕ぎながらこの曲良いだろと振り返った笑顔を思い出した。それから好きになって今迄ずっと暇さえあれば飽きもせずに聞いていた様な気がする
キーケースの薄汚れた布のストラップも、今付けているピアスも全部三ツ谷くんが昔作ってくれたりクリスマスにプレゼントしてくれた物だ
何か先に進めない女だな、何て考えながら歌うのを止めて溜息を吐いた
「……カラオケ終わり?」
突然聞こえて来た声にビックリして三ツ谷くんの部屋の方角を見つめた。えっ?カラオケ?聞いてた?と少し呂律が怪しい私が返事をすると隣から小さな笑い声が聞こえてくる
「……いつから居たの?音しなかったよね」
「最初から。煙草吸ってたんだけど、お前のビール美味しいぃって声にウケてたらカラオケやり出したからずっと聞いてたわ」
ちなみに美味そうだったから釣られて飲んじまったと言った三ツ谷くんはビールの缶を持っている手を仕切りの隙間から出すと乾杯と言ってきたので、うん。乾杯と言って缶にグラスを遠慮がちに当てた
「何食ってんの?」
「……ステーキとたこわさと長芋の漬物」
「すっげぇ美味そうじゃん。てかそのチョイスが面白ぇ」
「……メンチカツも買って来たんだけど、食べれなそうなんら」
「……なんらかよ。凄ぇ酔ってるじゃん。なぁ、じゃあ俺がメンチカツ食って良い?」
「……いいよ、今玄関開けるよ」
そう言った私に、やったと嬉しそうな声が小さく聞こえてから隣の部屋の窓が閉まる音がした。何だか凄く酔っ払って気分が良い、気まずいとかもいつの間にか無くなっていて三ツ谷くんと何話そうかな何て考えながら玄関を開けると片手にビールを持った三ツ谷がニコリと笑った
最後に覚えているのは右耳にしているピアスにそっと口付けられた事
何だかお腹の辺りが気持ちが悪い気がして目が覚めた
「……きぼちわるーい」
「……みず、そこにあっから飲め」
その声に従う様に手探りでサイドテーブルにあった水を飲み干した。ふぅと息を吐いてから買ったばかりのフワフワファーの寝具に体を埋めると、大きな温もりが私を抱きしめる。思わずゆっくりとその温もりを抱き締め返して顔を擦り寄せると、小さな笑い声が聞こえて来たので私も笑ってから意識を手放した
ムカムカとする胃の不快感で目を覚ますと、目の前にあったのは男性の胸板だった。思考回路が停止して、ゆっくりと上を向けば三ツ谷くんの寝顔が見えて顔を元の位置に戻す。自分の手が三ツ谷くんの腰に回っていて、その手を起こさない様にゆっくりと離し音を立てないように起き上がろうとすれば、グッと力が入った三ツ谷くんの腕が私を抱き締めて胸に閉じ込めた
「……はよ」
「……お、おはよう」
「どこ行くの?」
「……シャワー浴びてくるね」
「……お前さ、昨日の事覚えてる?」
「……お、覚えて……無い」
そう言った私の顔を優しく掴んだ三ツ谷は自分の方を向かせてくる。至近距離で目が合って、何だか覚えてなくて悲しいのにこの状況が嬉しくてどうしよう何て考えながら動揺していると、それが分かったのか三ツ谷はフッと悲しそうに薄く笑った
「……そんな顔すんなよ。」
「……私、どんな顔してる?」
「後悔してる顔」
「…そ、そっか…バレバレか」
「……以外に目の前で言われると傷付くな」
「……何で傷付くの?」
「……抱かれた事を後悔してるなんて言われて傷付かない男はいねーよ」
「ち、違うよ。……違う」
「……なんだよ」
記憶が無い事が悲しいんだよと少し強く言った私に三ツ谷くんは怪訝な顔をして首を傾げた
「……三ツ谷くんとキスしたり、抱いてもらうのは中学からの夢だったから。……記憶に残したかった」
恥ずかしくてモゴモゴしながら小さな声で言った私に三ツ谷くんは1度目を見開いてからお腹を抱えてゲラゲラと笑いだした。そんなに笑わないでよと顔が少し赤くなった私に悪ぃと一言言ってくれたけど、まだ笑い声はやまなかったので頬を膨らませながらシャワー浴びてくると言って寝室を出た
シャワーを浴びていると、玄関が閉まる音がした。三ツ谷くんもシャワー浴びに行ったのかな?と余り気にせずに体を洗い風呂から出て歯を磨こうとして洗面台の前に立つと、鏡の前の自分の首や胸の上に沢山の愛された跡が散らばっていた。それを見て何だか胸がいっぱいになってしまって涙が出てきてしまった
髪を乾かしてから寝室に戻り新しい部屋着に着替えながら携帯を開くと、LINEにいつの間にか三ツ谷くんの連絡先が登録されており、仕事だから1度帰ると入っていた。その携帯を胸に抱いて布団に包まると少しだけ二日酔いだったからか直ぐに眠気が来てそのまま眠ってしまった
「……雪那 」
「んん?」
「まだ気持ち悪ぃの?」
「……もう平気」
「まだ寝る?」
「……今何時?」
「13時」
「……寝すぎたね」
ゆっくり目を開けると優しく微笑む三ツ谷くんは私の頬を撫でてからゆっくりと背中に回した手に力を入れて抱き起こしてくれる。何だかまだ夢みたいでそのまま彼の首に口付けをして跡が残る様に強く吸い付いた
「……おい。今何した?」
「ふふっ、お返し」
「……俺もお返ししていい?」
「私9つ、三ツ谷くん1つ」
「プッ、キスマーク数えんなよ」
楽しそうに笑う三ツ谷くんの胸に顔を擦り寄せると強く抱き締められて幸せを感じる。飯出来てるよと言われて嬉しそうに万歳した私にその癖変わってねぇなと言ってもう1度強く抱き締めてくれた
その日から私の日常は幸福になった。大変な仕事の時も終われば彼がご飯を作ってくれて笑顔で抱き締めてくれる。夜は毎日愛して貰って、2人共笑顔が耐えなかった。そんな時間が穏やかに過ぎていって、半年が経った頃
新しいアシスタントが入るから少し楽になるぞと、嬉しそうに話してくれた隆に良かったね。と頷いたが新しいアシスタントさんが来てから私は毎日がモヤモヤでいっぱいになった
求人で来たのでは無く、高校時代のツテで連絡して来たアシスタントの女の子は笹山さんといって何度かエレベーターに乗る所を見かけたが美人でスタイルも良くて少しだけ心配になった。今日は新しい仕事が来たと言ってやる気満々な隆はウチにも顔を出さずに笹山さんと隣の部屋で黙々と作業を進めているのだろう
マグカップの取っ手を有り得ない程の力で握り締めながら隣から聞こえてくる笹山さんの笑い声に歯をギリギリさせてしまう自分がいた。隆が浮気とは無縁な男って事も承知だし、信用もしているのに何故だか心配になる。中学、高校時代からの友人にちょっと相談があるとLINEすれば久しぶりにお茶しようと返信が来た
美容関連の仕事をしている彼女は昔から美意識が高くて、肌をゴシゴシ擦るなとか保湿が足りないとか。食べ物はバランスを良く考えろなどと良く言われた気がする
今となっては少し考えても良かったと思うけど、学生の頃はそんな事も考えて無かったので適当にスルーしてた気がした。友人の麗奈とカフェで会ってから話を詳しく聞かせてと言われてまず引っ越した事から話し始めた
「……隣が三ツ谷とか。漫画じゃん」
「……うん。メッシュ入ったお洒落なお兄ちゃんみたいな感じだったけど、三ツ谷くんて直ぐ分かった」
「……林田やるねぇ。林田に会ったら奢ろうと思う」
「あぁ、麗奈それより笹山さんだってば」
「とゆうかさ、まだ再会して半年何でしょ?奥手な 雪那の事だからデートとかはしてない感じ?どこまでの関係なの?とりあえず和解は出来たの?」
「……それなんだけど」
再会して1週間で飲み過ぎて起きたら隣に裸の三ツ谷君が居たのと言った私に麗奈は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。目を見開いて見てきた麗奈にいやぁと照れながら頭を搔くと、良くやったと嬉しそうに笑った麗奈に笑ってしまった。
「…それからどんな感じなの?」
「うーん、時間ある時は毎日うちに居てくれるし、スーパー一緒に行ってくれたり食費も全部出してくれてさ。忙しいのに私の服作ってくれたり……て、言ってて思ったけど心配しなくていいじゃん私」
「……んだね。三ツ谷は中学の時からあんたしか見てなかったと思うよ。あいつは誰にでも優しいけどには特別にしてる感じがした」
「…そうかな…大事にしてくれてるのは分かるんだけどさ、可愛い女の子と2人で居ると心配で心配で」
「…その気持ちは分かるからさ、あんたもやり返してみれば?」
悪そうな顔で笑った麗奈は実は少し前に断った話があったんだけど、今なら丁度良さそうと言って笑った
「麗奈の紹介で来ました、1週間よろしくお願いします」
「久しぶりだね、よろしくね」
張り切った声で頭を下げられて、その勢いに私も頭を深々と下げた。中学から三ツ谷くんの影響があって裁縫と他にもバッグやアクセサリーなどを作って生計を立てている私のお手伝いをしたいと言ってくれたのは高校の時の麗奈と仲が良かった三上だった
お手伝いというよりは、鞄作りに興味があるらしく雑用やるから教えて欲しいみたいな感じらしい。女の子のひとり暮らしに三上を紹介するのはちょっとと断ったらしいけど、三ツ谷が隣にいるならいいよね?と麗奈は勧めてきた
やり返すとかは思っていないけど、鞄を作る事を教えるのは嫌では無かったので特に何も考えずに了承した。三上君が麗奈の事を高校時代ずっと好きでいたのを私は相談された事があるから知っていたし、何より話しやすくて良い奴だった。イケメンなのに可愛らしい中性的な性格が麗奈には相手にされていなかったけど、友達の私としては付き合いやすかった
「 雪那 、今回引き受けてくれてありがとうな」
「三上が鞄作りに興味あったの知らなかったよ」
「レザーの鞄作りに興味あってさ、1年くらい練習してからネット販売始めようかなって」
「レザーはちょっと高いけど人気あるし良いんじゃないかな?あ、三上何飲む?」
「買ってきたよ、雪那の紅茶と珈琲。後俺のオレンジジュース」
「好きだね、オレンジ」
まあな。と昔みたいに笑った三上に私もつられて笑ってしまう。作業部屋の床に座り込んで、二人でお茶しながらまずは生地を選んでデザインを書き出してと黙々と作業をしていると玄関の扉が開いた音がした
私が開けっ放しのドアを見つめると、自然に三上もそちらを見た。顔を出した隆は1度少しびっくりした顔をしてから私達の手元のデザイン画を見ると仕事の人?と首を傾げた。こんにちはと愛想良く言った三上に隆も頭を下げたので、高校からの友達で鞄作りを教えてる所と言えば「……ふーん」と言って頷いた隆はそのままリビングへと消えていった
小さな声で三ツ谷くんカッコイイなと三上に言われて、でしょ?とニッコリすると が幸せそうで良かったよと綺麗な笑みで言われて私は嬉しくなった。私が高校の時に付き合っていた人は好きだったけどやっぱり三ツ谷の事が忘れられなかったから長くうまくはいかなかった。中学の時の三ツ谷の事、そして高校時代の私の恋愛。その事を三上は私や麗奈聞いて全部知っているので尚更心を込めて三ツ谷との事を喜んでくれてる感じがした
それから2時間程作業を進めた所で覚える事がいっぱいでキツイとギブアップした三上にまた明日やろうかと言って肩を叩くと、明日は仕事が15時までだからそれから来ていいかと言われて頷いた。お邪魔しましたと言って帰っていった三上を送り出してから作業部屋の布や生地を片付けていると足音がしたので振り返る
「……帰ったの?」
「帰ったよ、明日また来るから」
「ふーん。スゲぇイケメンだな」
「うーん。まぁ、そうなのかな?ジャニーズとかにいそうなタイプだよね」
そう言って笑った私に隆は笑わなかった。あんまり機嫌良くないなと感じて、やっぱり麗奈の策に乗らない方が良かったと少しだけ後悔しながら片付け途中だった布を箱に戻して立ち上がる。その瞬間に後ろからゆっくり抱き締められて私は少しだけ声を出さずに笑ってしまう
「……たかしくーん、今日のご飯何食べたい?」
「……」
「……ご機嫌ななめなの?」
そう言って振り返るとあからさまに不機嫌な顔をした隆は不機嫌で悪ぃの?と言って私の両頬を片手で優しく潰してくる。突き出た唇が食べられる様に彼に塞がれて私は笑いながら目を閉じた。妬いてくれてるのかな何て思うと可愛くて仕方なくて隆の背中に手を回して抱き締めると優しい口付けが激しく深いものに変わってゆく
「……ストップ」
「……何で?ダメ?」
手で彼の唇を優しく触り、ご飯作るからと言えば首を傾げて駄目?と言った顔が可愛くてダメじゃないけど。と小さな声で言うと、ニッコリと微笑んだ隆は私を壁に押し付けてスカートを捲り上げる
首筋に口付けされて、激しく胸を揉まれて体がビクリとした。右手がスルりとショーツに入り少しだけ濡れていた秘部は指を簡単に飲み込んでしまう
「……んん」
「…………」
イヤらしい声が出た口を噤んで、良い所をひたすら攻めてくる彼の指に思わず腰が揺れてしまう。いつの間にか外されていたブラジャーがずり落ちて突起がいつもより強めに潰されると噤んでいた口からアァとまたイヤらしい声が出てしまう
初めてこんな激しい抱かれ方をした私は出てくる涙と感じる気持ちよさに戸惑いながらもただただ快楽に身を任せていた。秘部から聞こえて来た水音に頬が赤くなるのを感じていると指がスルッと抜けて次の瞬間には隆自身が入り込んで来て、グッとお腹の奥を押される感覚がして快楽に目の前がチカチカしてしまう
「……隆、ゴム着けた?」
「……着けてねぇ」
その言葉に焦って駄目と言った私の口を手で塞ぎ、激しく腰を打ち付けて来る。後ろからキツく抱き締めながら首筋を吸い上げられて喘ぐ事しか出来なくて、そこでハッと妊娠したらどうしようと不安になった。流石に中には出さないだろうと安心していたが、もうもたねぇと小さな声が聞こえたと同時にお腹の奥が熱くなった気がして呆然とした
一気に頭の中に、もし子供が出来たらどうしようとか隆の子供をこの目でみたいとか色んな考えが浮かんできた
「……悪ぃ、雪那。……怒ってる?」
はぁはぁと息を切らしながら私を強く抱き締めてくる隆の声は少しだけ不安を含んでいる声だった。そんな隆の顔を真っ直ぐに見つめてから柔らかい髪に手を入れると少し汗ばんだ首筋に顔を埋めた
「……怒ってない」
「……本当に?」
「うん。ちょっと嬉しかった」
「……何で?」
「……子供出来ても良いと思ってくれてるのかなって」
「お前が良いなら直ぐ欲しいよ、俺は」
その言葉が耳に入ってくると目一杯幸せを感じた気がして涙がつーっと頬を伝った。止まらない涙は隆の首筋を濡らして、それに気付いた隆は泣くなよと言って私の涙でびしょびしょな唇に口付けしてくれる
「…隆の口からさ…愛してるって聞きたいな」
「……お前、100回も言わせてまだ聞きたいの?」
可愛いなと笑った隆に私が100回って何?と首を傾げると、ベランダでご馳走になった時に俺がお前のピアスを見て嬉しくなってキスしたら愛してるって言ってって言われたから愛してるよってキスしたら、まだ足りないから100回言ってって言われたと隆は笑った。
自分のお酒の粗相の話をされるのがこんなに恥ずかしいのは初めてで、迷惑かけてごめんと言って隆の胸に抱き着いた
「迷惑何かじゃねぇよ」
「……本当に?」
「……その後お前を抱いてる時に俺も100回言わせたからな」
「……ぷっ」
ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべた隆に私が吹き出してから大笑いしていると、いつの間にか涙は止まっていた。汗がひいて冷たくなった首筋に顔を埋めて目を瞑ると昔の隆と変わらない匂いがした様な気がした
何だかアシスタントさんの事も気付いたらすっかり嫌な気持ちが無くなっている事に気付いて、自分の単純さにため息をついたが気持ちは晴れやかだった。
シャワーを二人で浴びてから二人でご飯を作っていると、隆が不思議そうな顔で戸棚を見ている事に気付く
「どしたの?」
「このマグカップ、俺にくれたのとお揃い?」
「あぁ、うん。雑貨屋で一目惚れしちゃってさ」
「普通、引越しの挨拶にお揃いのマグカップ渡さねぇよ」
そう言って笑う隆に私もそう思うと言って笑うと、まな板を洗っていた私を後ろから抱き締めてきた隆は耳元でそっと囁いてくる
「俺は中学の入学式でお前に一目惚れした」
いつも通りの口調で呟いた隆。嬉しくて、でも信じられなくて思わず「嘘でしょ?」と振り返った私の唇に微笑みながら口付けしてきた隆は「仲良くはなれたけど、惚れ過ぎてて手も出せなかった」と恥ずかしそうに笑った。「夜に二人で映画見ててもキスもしてくれないから女の子としてみられて無いと思ってた。でもそうじゃ無かったんだね。」そう呟いた私の手を取って、ごめんな。と言った彼に首を横に振り私がごめんねと胸に顔を埋めた
誤解して、怒って、無視して、離れて。何年も苦しんで馬鹿みたい。ごめんなさいと思えば思う程に涙が出て来て隆のシャツを濡らしてゆく。離れていた時間は戻らないし彼を傷付けてしまった事実も変わらない
「傷付けてごめんね、隆」
「……勇気が無くてごめんな。俺がお前に早く告白してたら良かった。高校の時になって改めて反省して、パーに話したんだよ。そしたらサプライズをくれた」
「……パーちゃん。もう本当に大好き」
「大好きなのは俺だけにしてよ、雪那」
「隆の事は愛してるもん」
「……俺も」
目尻が下がった目元に優しくキスをすると、ずっと一緒に居ようなと言ってくれた言葉が胸に染みて私はまた泣いてしまった
