幻想水滸伝2
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あらかた皆が料理を食べ終わり酒が回った頃、流れる音楽が変わり皆が席から立ちダンスを踊り始めた。
その様子を見て、まだ全然何も食べて無いやと唸った私にビクトールは笑って食いに行こうぜと立ち上がった
「そーいや、アイツはまだあそこにいるのか?」
「フリックならもう行っちゃったよ」
「じゃあ、とりあえず飯にするか。あいつも俺達見つけたら来るだろ」
2人で食事が残っている席に座って料理をつつきながらワインをおかわりしていると、隣に座っていたリキマルがもう食えないと言ってテーブルにうつ伏せる
賑やかなノースウィンドウが嬉しいのかビクトールは始終機嫌が良くて、皆のダンスを手を叩いて嬉しそうに笑っている。
「オラウータンがタンバリン叩いてるみたいだぞ。」
「なんだとこのヤロウ!」
ワインを片手にやって来たフリックがビクトールを見てシラッと失礼な事を言い
私がその言葉に吹き出して笑っていると、食事係の人なのかエプロンを巻いた可愛らしい女性がこちらに向かってきて、フリックに一緒に踊ってくれませんか?と頬を赤らめる
「…あーすまないが、俺はセツナと踊るから」
悪いなと言ってフリックが私の手をとると珍しく騎士の様に私の手に口付けをして一緒に踊ってもらえますか?と少しだけ照れながら言った。
ちょっと申し訳無くなり、女の子の方をチラッと見れば目が合う。意外に気が強いのか私に嫌な顔を向けるとプイっと顔を背けて何処かに行ってしまった
それを見てビクトールもフリックも女は怖いな…と小さく身震いをしていた。
「…私踊れるかな?足踏んじゃうかもよ」
「適当でいいさ。思い出作りだと思おうぜ」
気を取り直しフリックの手をとってそんな話をしていると、いつの間にかビクトールの前に立っていた女性が顔を赤らめて一緒に踊ってもらえますか?と彼に手を差し出した。
私達はそれを見て思わず歓喜の声を上げてしまう。
何気に自分の事だと照れるのか頬をかいたビクトールは、いいぜ。とだけ言って彼女の手をとって皆の中に混ざり踊り始める
私達も皆の中に混ざり踊り始めたのだが、ダンスが全く分からないのとビクトールが気になる事で踊れているとゆうよりは2人でビクトールを見ながら両手を繋いでステップを適当に踏むだけみたいな感じになってしまう。
「俺も人の事は言えんが、お前のダンスはどうかと思うぞ。」
「ビクトールが気になるから…と言いたい所だけど気にならなくても変わら無いと思う」
「だろうな」
見よう見真似だけど、フリックがリードしてくれて徐々に慣れて来た。その調子と微笑んだフリックにランタンの幻想的な光が彼の綺麗な顔立ちを照らしていて思わずドキリとしてしまう。
そういえば、今日は良く女性から声をかけられていたなと思い出すと何だか良い気分はしないけど、そんな沢山愛される人に愛されてると考えたら気分は少し晴れた気がしてきた
「どうした?ぼっーとしてると足踏んじまうぞ」
「…フリック、ちょっとちょっと。鼻にまつ毛ついてる」
取ってあげるから目瞑ってと言って彼が素直に瞑った所を見計らってから、皆に見えない様に頬に一瞬口付けた
丁度音楽が鳴り止んで皆が踊っていたパートナーにお辞儀をしたので、少し照れ臭そうに頬をかく彼にニヤニヤしながらお辞儀をする
「全く、可愛いやつだな」
「フリックさんも可愛いですよー」
「可愛い何て勘弁してくれ」
「そーいえばビクトールはどうしたのかしら?」
ビクトールの姿を探すと、彼はさっきの女の子と庭に多数設置されたベンチに座りワインで乾杯していた
そんな姿をウフフとニヤけながら見ていると、後ろに居たフリックが耳元で、まつ毛は取ってくれたのか?と耳元で聞いて来たので
ちょっとキスしたかっただけで嘘だよと笑うと顔を赤くして目元を手で覆いながら反則だろと呟いている
「反則?何それ?」
「…いや、何でもない。あっちの屋台にお前が好きなアイスが売ってたけど食べるか?」
「フリック様!愛してる」
いつもの様にそう冗談を言うと、珍しくはいはい、俺もだよでは無く
俺は死ぬ程愛してるよと言って頬に口付けられ、私が照れ臭そうに下を向いたのを見て満足した様にククっと笑っていた
その後、足を伸ばして草原でアイスを食べながらリオウやナナミと話をしたり、シロを触らせて貰ったりしながら私は束の間の平和の楽しさを身に染みて感じていた。
それからハイランドもこの砦には進軍して来なくなり、平和を感じて居たのだがリオウ達が少人数でトゥーリバーに向かったとアップルから聞いた3日後に私はシュウさんからの急な呼び出しを受けて彼の部屋を訪れていた。
「… セツナ、グリンヒルは知っているか?」
「確か学舎がある街でしたっけ?」
「ああ。トゥーリバーの後はグリンヒルを味方につけようと考えている。先に教師になりグリンヒルに潜入していてくれないか?」
「…えぇ…どうして私なんですかね。」
「グリンヒルには学舎があるといったな、そこには様々な職業が学べる様になっている。お前には剣術の教師としてトランから来た女教師を演じてもらいたい。
…何かあっても転移魔法が使えるとルックに聞いたからな。危険があっても剣術や紋章術に長けているし他の者より適任だと思った」
「…私は転移魔法が苦手なんですけど…」
「使わない様に上手くやるんだな、…ハイランドの動きが活発になって来ている。どうなるから分からない今緊急事態には的確な動きをしろよ」
それを聞いて溜息を吐いた私に、そんな顔をするなら仕事を増やすぞと言ってきたシュウの部屋から逃げる様に退散すると自室に戻り早速支度を開始した。
まず、私の髪は目立ち過ぎると言われたので、銀の髪をベージュに染めた。支給されたブラウスとロングスカートに履き替えてコルセットをしめて太腿にナイフを装備する。
化粧を変えて上品なアクセサリーを身につけた私は自分の剣と着替え何かをリュックに入れてから部屋を出た。フリックとビクトールが見つからなかったので書き置きを残してから部屋を出たのだが…
すれ違うカレダンも、アニタもバーバラさんも誰1人私をスルーだった。石板の横を通り過ぎる時にルックをチラリと見ると、つまらなそうな顔で私を見つめてから何秒かしてギョッとした顔になった。
「…… セツナ…イメチェンのつもり?」
「分かってくれた人が居た。凄い嬉しいわ。これからグリンヒルに潜入捜査に行ってくる事になってね…。危ない事は無いと思うけど何かあったら手紙だけ転移させるから読んでね」
後黙ってろって言われてるから内密に、と付け足すと面倒だけど送ってあげるよと珍しく優しい言葉を貰う
「疲れ無い?平気?」
「あのねぇ。転移魔法くらいで疲れる訳無いだろ」
「私何て1人転移させたら何時間かグッタリだよ。だから手紙だけ転移が上手くなったのさ」
「正統な魔法使いならそんな事にはならないけどね」
「色々邪道ですー」
そう言って笑った私に別に良いんじゃないそれで。とルックは面倒くさそうに言うと彼の右手が薄いグリーンの光に包まれた。
一瞬で場所が変わり、久しぶりに転移の魔法で移動した私はキョロキョロと辺りを見渡してしまう。のどかな草原が青々と茂る道の先にはグリンヒルへようこそと書かれた木の手作り看板があり
奥には宿屋や住宅も見える
少し進むと何故かハイランドの兵士が入り口の横に2人立っていて私は内心ギクリとした。何でハイランド兵?と思ったがウロウロしていると逆に怪しい
シュウから貰った偽造の書類を手に持ちながら私はトラン出身のブランシュですと何回か頭に叩きつけながら歩みを進める
「止まれ。ここから先はハイランドの占領地にある。何用だ」
「あー、トラン共和国から来ました。今日から此処の教師を任されているブランシュです、書類もあります」
そう言ってシラッっと書類を兵士に渡すと、兵士はうーんと唸ってから入れて良いのか?ともう1人の兵士に問いかける
その時、赤い髪の彼が横から書類をひったくると目を通しながら教師か…。と一言呟いて私を見つめた
「…ブランシュねぇ。まぁこの内容なら問題はねぇな。通っていいぜ」
「しかし大丈夫ですかね…」
「只の教師何だし別に良いだろ。一般人だぜ」
シードと目がずっと合っていて、内心シードが私を見て何て言うのか心臓がバクバクだったけれど、仲間も私に気付かないのだからシードが気づく訳は無いと泳がせていた目を彼に向けてにこやかに笑顔を作る。
「ありがとうございます、カッコいい将軍様」
「学舎まで案内してやるよ、美人な教師殿」
そう言ってから私の手をとったシードに私はポカンと口を開けてしまう。しかし彼は私の顔色には目もくれずにスタスタと歩いてゆく。手を引かれて少し兵達から離れると歩きながらまた私を上から下まで観察する様に見てくる
「…で?何の教師なんだ?」
「剣術を少し、後は紋章学ですね…」
「ほぉ、それは俺にも教えて欲しいな」
「はいはい、お戯を。それよりも此処は都市同盟領ですよね…いつからハイランドの占領地に?」
「知らねーのか?今日の朝にグリンヒルが降伏した。テレーズ、ワイズメルは行方不明で今彼女は捜索命令が出されている」
「…全然知らなかった」
「嘘じゃ無さそうだな。飯食ったか?」
「何で其処でご飯なのよ…」
私がケラケラと笑うと、彼は此処のグリーンサラダとホットドッグは最高だと笑顔を見せる
美味しそうと私が目を輝かせると、買って来てやるから此処で待ってろと言って彼は宿屋の一階にある食事所に早足で向かって行ってしまう。
シードは元気そうだな何て考えながら辺りを見渡していると、住宅地から男性の怒鳴り声や女性の泣く声が聞こえてくる。今日降伏した件と関係があるんだろうなと考えていると
待たせたなと両手に食事を抱えて来たシードは、どうした?何かあったか?と首を傾げながら顔を覗き込んできた。何か住人同士で喧嘩してるんだけど…と言うと
彼は私にホットドッグと珈琲を渡しながら少しだけ嫌そうな顔をした。
「…策としては立派だったが、お互いを歪み合う様な形に持ち込んだやり方だったからな…俺は正直あんまり好きじゃねー策だったな。」
「戦わないで歪み合わせる策か…。怖いけどハイランドにも切れ者がいたのね。クルガンかな?」
「クルガンじゃねーよ」
「へぇ。切れ者ならウドじゃないし…キバ様かクラウス?」
「随分と物知りなトランの教師様だな」
シードはそれにウドって誰だよと口に入れた珈琲に咽せ笑い出す
「ククク…まぁウドは切れ者より小物だからな。それより何でキバ殿だけキバ様なんだよ。クルガンにクラウスは呼び捨てなのによ」
「キバ様はカッコイイからねぇ。」
「好みがわかんねぇなぁ。まぁ…それより熱いうちに食えよ。出来たてだからな」
「ありがとう、頂きます」
そう言ってまだククッと思い出した様に笑うシードの顔を見ながら私も美味しく食事を頂いた。グリンヒルのベンチに座って食べるホットドッグは本当に美味しくて思わず笑顔が溢れてしまう。
シードがそんな私を見ながら、いつまで滞在なんだ?と聞いて来たので、そう言えばいつ迄何だろと言うと、彼は分かんねーのかよと笑っていた。
食べ終わった私を学舎の前まで送ってくれたシードは頑張ってこいよと私の肩をポンポンと叩く
「ご馳走様、ありがとうね」
「頑張ってこいよ、ブランシュ殿」
「シードも辛い事沢山あると思うけど、頑張って」
湖の城を落とせなかったソロンジーにルカは処刑を言い渡したと聞いていたので思わずそう言ってしまった。
クククっと小さく笑ったシードはクルリと身体を翻すと、ヘタうつなよと笑いながら行ってしまった。
受付でエミリアと名乗った彼女に詳しく話を聞いてから、自分が泊まる寮まで案内してもらった。
寮に向かう最中に学生寮や食堂など必要最低限の施設を見てまわると、トランから船旅で疲れてると思うし…今日はこの辺で休んで下さいねと優しく微笑まれた
船乗って無いし全然疲れてないとも言えずに愛想良く頷くと案内された寮の一室で服をクローゼットに掛けたり、本棚に色々な本が並べてあったのでそれを読んだりと寛いでいた
時間を忘れて読書を楽しんでいた私は、固まった体をコキコキと鳴らしてから本を閉じて窓の外をみる。夕陽がもう半分沈んでいた。通りでお腹が空くはずだと思い軽く上にカーディガンを羽織ってから外に出る
宿屋の一階にある食堂に向かって歩き出すと、向こうからやってくるのはラウドだった。兵を2人連れて肩で風を切って歩いてくるラウドに目が合わない様に早足で歩く
見ない顔だな、待て。と手を触られた私はなるべく普通の人っぽく、何ですか?離してください。何て言って少し目をうるうるさせながら怖がってる振りをした
「グリンヒルの者か?」
「トランから今日来たばかりなんです…。通行書もきちんと見せました」
「こんな時に何用で来たんだ?」
「学舎の教師です、もう行っていいですか?」
まじまじと私の顔を見つめて来たラウドは少し首を傾げたので、ちょっとマズいかなと思い掴まれていた手を振り解こうとした時
「おい、誰の女に触ってんだ」
「えっ?シード様の…お知り合いですか?」
「まぁな。俺のお気に入りだ」
そう言って現れたシードは私を掴んでいたラウドの手をはたくと私を守る様に間に入り込んでくれる。シード様のお知り合いでしたかと言ってヘコヘコしながら直ぐにその場を去ったラウドにはぁと溜息を吐いた
「ヘタこくなって言ったばっかだろ」
「すれ違っただけなのに掴んできたんだって」
シードと話しているとひょいと路地から出て来て私を見てギョッとした顔をしたのは久しぶりに見たクルガンだった。
何をそんなに驚いてるのかは分からないが久しぶりですとも言えないのでにこやかに笑顔を作るとこちらに向かって来たクルガンに一度頭を下げる
「…セツナ、だったかな?此処で何してるのか説明してもらっても?」
「えぇ!?何でばれてるの??」
「お前…バレてないと思いながら俺と飯食ってたのか??」
「…なんだシード最初から分かってたんだ」
「顔が一緒じゃねーか。あんな間近で見た奴は普通忘れねぇだろーよ」
「全然バレてないと思ってましたぁ」
ちょっと恥ずかしくなって顔を手で覆った私にシードは大笑いすると、涙目になりながらそんな簡単な変装じゃ誰でも分かるだろうと言ったので
仲間は皆分からなかったのに…としょんぼりした。
「一応シードから聞いていたが…。本当に学舎に同盟のヴァンパイヤの雪女が居るとはな…。」
「…クルガンさん、悪口ですか?」
「…まさかとは思っていたが、本当に吸血鬼なのか?」
少しだけ眉をしかめたシードに頷いてから、クルガンさんに何で知っているのか聞くと元ファレナ出身の兵がクルガンの軍に居て、砦の戦闘の後に皆に話ていたと聞いた。
「世間は狭いですねぇ。でもファレナにいた頃は加減が分からなくて雪を降らせちゃう事が多かったから雪女と呼ばれてましたけど。今はコントロールが上手くなったので雪女じゃないですよ」
「非常に敵としてはどうでも良いとゆうか…。返事に困る話ですね」
「雪女から氷女に進化したのか」
「シードうるさい」
「犯すぞ吸血鬼」
そう言ってシードは私の両頬をつねって痛いと言った私を見て満足そうに笑う
「いひゃいいひゃいよ、あかしーと」
「あー何だって?聞こえねぇなぁ」
「2人共うるさいですよ、それより何処かに行く途中なのでは?我々もそろそろ仕事に戻ります。余り派手な行動をすると目をつぶれなくなりますからそのつもりで」
だからさっき、シードはヘタうつなよって言ってくれたのかと私は思い返しながら、今だに頬から離してくれない手を加減してガブリと噛む
すると、シードは急に驚愕した様な顔を見せて手をだらりと落とした。
シードのビックリする顔は見た事が無かったので、噛むのは冗談が過ぎたかなと放心するシードに手を顔の前でブンブンと振りながら名前を呼ぶとゆっくり口を開いた
「…クルガンすまねぇ。俺吸血鬼になっちまった」
「…アホな事言ってないで行きますよ」
未だに放心したシードをクルガンが腕を引いて、それじゃあと言いながら立ち去って行った
噛まれると吸血鬼になるなんて迷信を今も信じてる奴がいるんだなぁと内心シードを少し可愛いく思いながら私は宿の食事所に行って店主オススメのハンバーグを食べてから宿舎に帰った
風呂に入りその後直ぐに寝てしまった私は、ふと人の気配を感じて目を開けた。
眠い目を凝らして、ドキドキと高鳴りそうな心臓を落ち着ける様に息をこらしながらゆっくりと吐き切る
腿のナイフにゆっくり手を滑らせるとその上にそっと手が置かれてビックリして飛び上がってしまう。
「やぁ、久しぶりだな。頼むから刺さないでくれよ」
「………」
私の横に片肘をつきながら優雅に寝そべるナッシュはニッコリとしながら私を見つめていた。
只異様に感じたのは巻かれている包帯にあちらこちらにある切り傷だった
風が肌に当たり、チラリと見ると窓が全開に開いていた。
「…窓から良く入れたわね」
「あれくらいならちょろいぜ」
「そーおーゆー事じゃないでしょおーがー」
ナッシュの両頬をつねりながら怒った私に何故か嬉しそうに、いひゃいやめへくれと笑顔で返してくる
「はぁ、…本当お前が元気で良かったよ。ミューズが落ちた時どうして無理やり攫って行かなかったんだろうって後悔したからさ」
「ナッシュ…。意外に逞しいから私は大丈夫よ。それより…何でそんなに斬り傷だらけなの??治りかけみたいだけど大丈夫?」
「まだ所々痛むが…まぁ大丈夫さ」
「誰にやられたの?」
「…ハイランドのシードとクルガン」
「…うわぁ。2人がかり」
私がナッシュに可哀想にと言いながら手を当てると、光が彼を包みナッシュの傷は綺麗に消えた
ありがとさん、また恩が出来たなと言ったナッシュに別にこれくらいならいいよと返すと
いつもそればっかりだからな…と何やら考えてる様だったけど、今日から教師の仕事がある私は早く寝たかったのでおやすみーと言ってそのまま寝てしまう事にした
私がそのまま瞳を閉じると、彼は何だかガサゴソ最初はやっていたが何分か経つとスースーと静かな寝息をかいて寝てしまった
その寝息を聞きながら、ナッシュに布団を胸までかけると私も深い眠りについた
朝起きるとまだ寝ていたナッシュに布団をかけ直してから支度をして直ぐに宿舎を出た。歩いていると少しづつ血が欲しいとまるで身体が訴えるかの様に胸が苦しくなりつい通行人の首元に目がいってしまう
フリックがいないのでこんな状態で大丈夫かと少し不安になったが、一度深呼吸をしてから水筒に入れたお茶を飲み干すとまた歩みを進めた
到着して受付に行くとエミリアにおはよう御座います、ブランシュさんと言われて
ああ私かと思い出し、にこやかに挨拶をするとエミリアは机の下から何枚か書類を取り出した
「今日は午前は生徒達への挨拶と素振りの練習の指導、昼食の後はこの書類に目を通してもらっておしまいです」
「えっと、午後の授業は無いんですか?」
「今はハイランドとの戦闘があったばかりで午前授業だけなのよ。落ち着いたら再会するから」
「あの、テレーズさんは…無事なんですか?」
「…分からないのよ。来たばかりのブランシュ先生にもハイランドの兵士が何か聞いてくるかもしれないけど、分からないって言ってればいいから」
「分かりました」
教師に向かい、生徒達に自己紹介をしてから皆の名前も教えて貰い直ぐに授業を開始した
エミリアが言っていた通り生徒の数が少なく授業はやりやすかったし、生徒達も特に問題がある子もいないのでこれなら問題無く先生が出来そうだと安心した。
昼休みになり外のベンチで昼食を食べていると、懐かしい顔がこちらに微笑みながら歩いてくる
ジーン!と嬉しくて食べかけのサンドイッチをベンチに放り出して彼女の胸に飛び込んだ
「窓から外を見たら貴女が居たからびっくりしたのよ。良く顔を見せて」
両手で頬を包む様に置かれた懐かしい手に、私はニッコリ笑う
「まさかグリンヒルにジーンが居るなんて…。こんなに早く会えるとは思わなかったよ」
「フフフ、貴女とは近いうちに必ず巡り会えると思っていたわ」
そう言って微笑んだジーンはベンチに座ると放り出したサンドイッチを私に渡して来た。
血は足りているの?と私の顔を覗き込む彼女は昔からやはり優しくて心が温かくなった
「今、いつも血をわけてくれる人が近くにいないから足りて無いんだよね…」
「あら、なら明日中には薬を作ってあげるわ。今日は無理しないで寮に戻りなさいな」
「助かるよ、ナッシュに分けてもらおうと思ってたからさ」
なるべくなら貰わないのが1番だしね。そう言った私に頷いたジーンはまた明日ねと言ってから学舎に入って行った。
ジーンが薬を作ってくれると言ってくれた事に安堵した私は少しだけ疼く衝動を我慢しながら帰路につく
宿に着いた私の目に飛び込んできたのは入り口に座り込むシードの姿だった
「何やってんの?」
「帰り早かったな。お裾分けだ」
紙袋を渡されて素直に受け取り中を見れば容器にビーフシチューとパンが入っていた。
「…シードが作ったの?」
「いや、俺は料理できねぇ。作ってもらったんだ」
「…何かこの前もご馳走になったし、貰ってばっかりで悪いな…。」
「そんな事気にするよーな女なんだな」
「とゆうか、どーして敵側にこんなに良くしてくれんの?」
「…前の礼だ」
「お礼を言うのは庇って貰った私の方じゃない、…てか自分で言って思い出したけどあの時はありがとう」「なんだそれ」
ケラケラと笑い出したシードは良いって事よと言ってからじゃあなと片手を上げて帰ろうとする
お礼にお茶をと言おうとしてシードの袖を掴むとクラリと来た目眩に足ががくりとして
膝が地に着く寸前シードの腕が私の腕を掴んだ
「おい、平気か?」
「…あー今血が足りなくて貧血なんだよね」
シードの肩を借りながらゆっくり体制を立て直した私はしんどいと一言付け足した
少し黙っていたシードだったが血があればいいのか?と言ってから自分の剣を抜いた。何と無く想像がついたのでその手を両手で掴むとやめてくれと悲願した
「何で駄目なんだよ」
「怪我するでしょ、見たく無い」
「…軍人が怪我にびびるかよ」
「…ここは戦場じゃ無いでしょ」
気持ちだけ受け取っておくと言って礼を言い、ポケットから鍵を取り出して扉を開けるとヒョイと鞄でも持ち上げる様な感じでシードは私の身体を抱き上げてズカズカと何も言わずに部屋に入ってゆく
「ちょ、シード」
「静かにしてろ」
珍しく眉を寄せたシードはベッドまで私を運ぶと優しく下ろし置いてあったプランケットを掛けてくれた
「…ありがとう」
「…お前は本当に…」
舌打ちをしたシードに私が眉を下げて頭を軽く下げると少し怒り気味だった彼は溜息をついてから私の頬を優しく撫でる
手袋をしていない、シードの手が優しく頬を撫でるとついついフリックを思い出して彼の事を考えてしまった。
ベッドの横に腰掛けたシードは私を心配そうに見つめていた
「なぁ、いつもはどうしてたんだよ。」
「こうゆう時?」
「ああ」
「…俺に頼れって言ってくれる人が居たから」
「…今はいないのか?」
「1人で来てるからね…そういえば、シードは何で門で私を捕まえなかったの?」
「…前の礼だ。それだけさ」
「もぉ、そればっかり」
「体調が悪いなら今は静かにしてろ」
布団が温かくて気持ちよくなってきた私はそのまま静かに目を閉じる。ゆっくりと意識が離れていく中、彼の手が優しく髪を撫でてくれている感触に私はとても安心しながら気持ちよく眠りについてしまった。
その様子を見て、まだ全然何も食べて無いやと唸った私にビクトールは笑って食いに行こうぜと立ち上がった
「そーいや、アイツはまだあそこにいるのか?」
「フリックならもう行っちゃったよ」
「じゃあ、とりあえず飯にするか。あいつも俺達見つけたら来るだろ」
2人で食事が残っている席に座って料理をつつきながらワインをおかわりしていると、隣に座っていたリキマルがもう食えないと言ってテーブルにうつ伏せる
賑やかなノースウィンドウが嬉しいのかビクトールは始終機嫌が良くて、皆のダンスを手を叩いて嬉しそうに笑っている。
「オラウータンがタンバリン叩いてるみたいだぞ。」
「なんだとこのヤロウ!」
ワインを片手にやって来たフリックがビクトールを見てシラッと失礼な事を言い
私がその言葉に吹き出して笑っていると、食事係の人なのかエプロンを巻いた可愛らしい女性がこちらに向かってきて、フリックに一緒に踊ってくれませんか?と頬を赤らめる
「…あーすまないが、俺はセツナと踊るから」
悪いなと言ってフリックが私の手をとると珍しく騎士の様に私の手に口付けをして一緒に踊ってもらえますか?と少しだけ照れながら言った。
ちょっと申し訳無くなり、女の子の方をチラッと見れば目が合う。意外に気が強いのか私に嫌な顔を向けるとプイっと顔を背けて何処かに行ってしまった
それを見てビクトールもフリックも女は怖いな…と小さく身震いをしていた。
「…私踊れるかな?足踏んじゃうかもよ」
「適当でいいさ。思い出作りだと思おうぜ」
気を取り直しフリックの手をとってそんな話をしていると、いつの間にかビクトールの前に立っていた女性が顔を赤らめて一緒に踊ってもらえますか?と彼に手を差し出した。
私達はそれを見て思わず歓喜の声を上げてしまう。
何気に自分の事だと照れるのか頬をかいたビクトールは、いいぜ。とだけ言って彼女の手をとって皆の中に混ざり踊り始める
私達も皆の中に混ざり踊り始めたのだが、ダンスが全く分からないのとビクトールが気になる事で踊れているとゆうよりは2人でビクトールを見ながら両手を繋いでステップを適当に踏むだけみたいな感じになってしまう。
「俺も人の事は言えんが、お前のダンスはどうかと思うぞ。」
「ビクトールが気になるから…と言いたい所だけど気にならなくても変わら無いと思う」
「だろうな」
見よう見真似だけど、フリックがリードしてくれて徐々に慣れて来た。その調子と微笑んだフリックにランタンの幻想的な光が彼の綺麗な顔立ちを照らしていて思わずドキリとしてしまう。
そういえば、今日は良く女性から声をかけられていたなと思い出すと何だか良い気分はしないけど、そんな沢山愛される人に愛されてると考えたら気分は少し晴れた気がしてきた
「どうした?ぼっーとしてると足踏んじまうぞ」
「…フリック、ちょっとちょっと。鼻にまつ毛ついてる」
取ってあげるから目瞑ってと言って彼が素直に瞑った所を見計らってから、皆に見えない様に頬に一瞬口付けた
丁度音楽が鳴り止んで皆が踊っていたパートナーにお辞儀をしたので、少し照れ臭そうに頬をかく彼にニヤニヤしながらお辞儀をする
「全く、可愛いやつだな」
「フリックさんも可愛いですよー」
「可愛い何て勘弁してくれ」
「そーいえばビクトールはどうしたのかしら?」
ビクトールの姿を探すと、彼はさっきの女の子と庭に多数設置されたベンチに座りワインで乾杯していた
そんな姿をウフフとニヤけながら見ていると、後ろに居たフリックが耳元で、まつ毛は取ってくれたのか?と耳元で聞いて来たので
ちょっとキスしたかっただけで嘘だよと笑うと顔を赤くして目元を手で覆いながら反則だろと呟いている
「反則?何それ?」
「…いや、何でもない。あっちの屋台にお前が好きなアイスが売ってたけど食べるか?」
「フリック様!愛してる」
いつもの様にそう冗談を言うと、珍しくはいはい、俺もだよでは無く
俺は死ぬ程愛してるよと言って頬に口付けられ、私が照れ臭そうに下を向いたのを見て満足した様にククっと笑っていた
その後、足を伸ばして草原でアイスを食べながらリオウやナナミと話をしたり、シロを触らせて貰ったりしながら私は束の間の平和の楽しさを身に染みて感じていた。
それからハイランドもこの砦には進軍して来なくなり、平和を感じて居たのだがリオウ達が少人数でトゥーリバーに向かったとアップルから聞いた3日後に私はシュウさんからの急な呼び出しを受けて彼の部屋を訪れていた。
「… セツナ、グリンヒルは知っているか?」
「確か学舎がある街でしたっけ?」
「ああ。トゥーリバーの後はグリンヒルを味方につけようと考えている。先に教師になりグリンヒルに潜入していてくれないか?」
「…えぇ…どうして私なんですかね。」
「グリンヒルには学舎があるといったな、そこには様々な職業が学べる様になっている。お前には剣術の教師としてトランから来た女教師を演じてもらいたい。
…何かあっても転移魔法が使えるとルックに聞いたからな。危険があっても剣術や紋章術に長けているし他の者より適任だと思った」
「…私は転移魔法が苦手なんですけど…」
「使わない様に上手くやるんだな、…ハイランドの動きが活発になって来ている。どうなるから分からない今緊急事態には的確な動きをしろよ」
それを聞いて溜息を吐いた私に、そんな顔をするなら仕事を増やすぞと言ってきたシュウの部屋から逃げる様に退散すると自室に戻り早速支度を開始した。
まず、私の髪は目立ち過ぎると言われたので、銀の髪をベージュに染めた。支給されたブラウスとロングスカートに履き替えてコルセットをしめて太腿にナイフを装備する。
化粧を変えて上品なアクセサリーを身につけた私は自分の剣と着替え何かをリュックに入れてから部屋を出た。フリックとビクトールが見つからなかったので書き置きを残してから部屋を出たのだが…
すれ違うカレダンも、アニタもバーバラさんも誰1人私をスルーだった。石板の横を通り過ぎる時にルックをチラリと見ると、つまらなそうな顔で私を見つめてから何秒かしてギョッとした顔になった。
「…… セツナ…イメチェンのつもり?」
「分かってくれた人が居た。凄い嬉しいわ。これからグリンヒルに潜入捜査に行ってくる事になってね…。危ない事は無いと思うけど何かあったら手紙だけ転移させるから読んでね」
後黙ってろって言われてるから内密に、と付け足すと面倒だけど送ってあげるよと珍しく優しい言葉を貰う
「疲れ無い?平気?」
「あのねぇ。転移魔法くらいで疲れる訳無いだろ」
「私何て1人転移させたら何時間かグッタリだよ。だから手紙だけ転移が上手くなったのさ」
「正統な魔法使いならそんな事にはならないけどね」
「色々邪道ですー」
そう言って笑った私に別に良いんじゃないそれで。とルックは面倒くさそうに言うと彼の右手が薄いグリーンの光に包まれた。
一瞬で場所が変わり、久しぶりに転移の魔法で移動した私はキョロキョロと辺りを見渡してしまう。のどかな草原が青々と茂る道の先にはグリンヒルへようこそと書かれた木の手作り看板があり
奥には宿屋や住宅も見える
少し進むと何故かハイランドの兵士が入り口の横に2人立っていて私は内心ギクリとした。何でハイランド兵?と思ったがウロウロしていると逆に怪しい
シュウから貰った偽造の書類を手に持ちながら私はトラン出身のブランシュですと何回か頭に叩きつけながら歩みを進める
「止まれ。ここから先はハイランドの占領地にある。何用だ」
「あー、トラン共和国から来ました。今日から此処の教師を任されているブランシュです、書類もあります」
そう言ってシラッっと書類を兵士に渡すと、兵士はうーんと唸ってから入れて良いのか?ともう1人の兵士に問いかける
その時、赤い髪の彼が横から書類をひったくると目を通しながら教師か…。と一言呟いて私を見つめた
「…ブランシュねぇ。まぁこの内容なら問題はねぇな。通っていいぜ」
「しかし大丈夫ですかね…」
「只の教師何だし別に良いだろ。一般人だぜ」
シードと目がずっと合っていて、内心シードが私を見て何て言うのか心臓がバクバクだったけれど、仲間も私に気付かないのだからシードが気づく訳は無いと泳がせていた目を彼に向けてにこやかに笑顔を作る。
「ありがとうございます、カッコいい将軍様」
「学舎まで案内してやるよ、美人な教師殿」
そう言ってから私の手をとったシードに私はポカンと口を開けてしまう。しかし彼は私の顔色には目もくれずにスタスタと歩いてゆく。手を引かれて少し兵達から離れると歩きながらまた私を上から下まで観察する様に見てくる
「…で?何の教師なんだ?」
「剣術を少し、後は紋章学ですね…」
「ほぉ、それは俺にも教えて欲しいな」
「はいはい、お戯を。それよりも此処は都市同盟領ですよね…いつからハイランドの占領地に?」
「知らねーのか?今日の朝にグリンヒルが降伏した。テレーズ、ワイズメルは行方不明で今彼女は捜索命令が出されている」
「…全然知らなかった」
「嘘じゃ無さそうだな。飯食ったか?」
「何で其処でご飯なのよ…」
私がケラケラと笑うと、彼は此処のグリーンサラダとホットドッグは最高だと笑顔を見せる
美味しそうと私が目を輝かせると、買って来てやるから此処で待ってろと言って彼は宿屋の一階にある食事所に早足で向かって行ってしまう。
シードは元気そうだな何て考えながら辺りを見渡していると、住宅地から男性の怒鳴り声や女性の泣く声が聞こえてくる。今日降伏した件と関係があるんだろうなと考えていると
待たせたなと両手に食事を抱えて来たシードは、どうした?何かあったか?と首を傾げながら顔を覗き込んできた。何か住人同士で喧嘩してるんだけど…と言うと
彼は私にホットドッグと珈琲を渡しながら少しだけ嫌そうな顔をした。
「…策としては立派だったが、お互いを歪み合う様な形に持ち込んだやり方だったからな…俺は正直あんまり好きじゃねー策だったな。」
「戦わないで歪み合わせる策か…。怖いけどハイランドにも切れ者がいたのね。クルガンかな?」
「クルガンじゃねーよ」
「へぇ。切れ者ならウドじゃないし…キバ様かクラウス?」
「随分と物知りなトランの教師様だな」
シードはそれにウドって誰だよと口に入れた珈琲に咽せ笑い出す
「ククク…まぁウドは切れ者より小物だからな。それより何でキバ殿だけキバ様なんだよ。クルガンにクラウスは呼び捨てなのによ」
「キバ様はカッコイイからねぇ。」
「好みがわかんねぇなぁ。まぁ…それより熱いうちに食えよ。出来たてだからな」
「ありがとう、頂きます」
そう言ってまだククッと思い出した様に笑うシードの顔を見ながら私も美味しく食事を頂いた。グリンヒルのベンチに座って食べるホットドッグは本当に美味しくて思わず笑顔が溢れてしまう。
シードがそんな私を見ながら、いつまで滞在なんだ?と聞いて来たので、そう言えばいつ迄何だろと言うと、彼は分かんねーのかよと笑っていた。
食べ終わった私を学舎の前まで送ってくれたシードは頑張ってこいよと私の肩をポンポンと叩く
「ご馳走様、ありがとうね」
「頑張ってこいよ、ブランシュ殿」
「シードも辛い事沢山あると思うけど、頑張って」
湖の城を落とせなかったソロンジーにルカは処刑を言い渡したと聞いていたので思わずそう言ってしまった。
クククっと小さく笑ったシードはクルリと身体を翻すと、ヘタうつなよと笑いながら行ってしまった。
受付でエミリアと名乗った彼女に詳しく話を聞いてから、自分が泊まる寮まで案内してもらった。
寮に向かう最中に学生寮や食堂など必要最低限の施設を見てまわると、トランから船旅で疲れてると思うし…今日はこの辺で休んで下さいねと優しく微笑まれた
船乗って無いし全然疲れてないとも言えずに愛想良く頷くと案内された寮の一室で服をクローゼットに掛けたり、本棚に色々な本が並べてあったのでそれを読んだりと寛いでいた
時間を忘れて読書を楽しんでいた私は、固まった体をコキコキと鳴らしてから本を閉じて窓の外をみる。夕陽がもう半分沈んでいた。通りでお腹が空くはずだと思い軽く上にカーディガンを羽織ってから外に出る
宿屋の一階にある食堂に向かって歩き出すと、向こうからやってくるのはラウドだった。兵を2人連れて肩で風を切って歩いてくるラウドに目が合わない様に早足で歩く
見ない顔だな、待て。と手を触られた私はなるべく普通の人っぽく、何ですか?離してください。何て言って少し目をうるうるさせながら怖がってる振りをした
「グリンヒルの者か?」
「トランから今日来たばかりなんです…。通行書もきちんと見せました」
「こんな時に何用で来たんだ?」
「学舎の教師です、もう行っていいですか?」
まじまじと私の顔を見つめて来たラウドは少し首を傾げたので、ちょっとマズいかなと思い掴まれていた手を振り解こうとした時
「おい、誰の女に触ってんだ」
「えっ?シード様の…お知り合いですか?」
「まぁな。俺のお気に入りだ」
そう言って現れたシードは私を掴んでいたラウドの手をはたくと私を守る様に間に入り込んでくれる。シード様のお知り合いでしたかと言ってヘコヘコしながら直ぐにその場を去ったラウドにはぁと溜息を吐いた
「ヘタこくなって言ったばっかだろ」
「すれ違っただけなのに掴んできたんだって」
シードと話しているとひょいと路地から出て来て私を見てギョッとした顔をしたのは久しぶりに見たクルガンだった。
何をそんなに驚いてるのかは分からないが久しぶりですとも言えないのでにこやかに笑顔を作るとこちらに向かって来たクルガンに一度頭を下げる
「…セツナ、だったかな?此処で何してるのか説明してもらっても?」
「えぇ!?何でばれてるの??」
「お前…バレてないと思いながら俺と飯食ってたのか??」
「…なんだシード最初から分かってたんだ」
「顔が一緒じゃねーか。あんな間近で見た奴は普通忘れねぇだろーよ」
「全然バレてないと思ってましたぁ」
ちょっと恥ずかしくなって顔を手で覆った私にシードは大笑いすると、涙目になりながらそんな簡単な変装じゃ誰でも分かるだろうと言ったので
仲間は皆分からなかったのに…としょんぼりした。
「一応シードから聞いていたが…。本当に学舎に同盟のヴァンパイヤの雪女が居るとはな…。」
「…クルガンさん、悪口ですか?」
「…まさかとは思っていたが、本当に吸血鬼なのか?」
少しだけ眉をしかめたシードに頷いてから、クルガンさんに何で知っているのか聞くと元ファレナ出身の兵がクルガンの軍に居て、砦の戦闘の後に皆に話ていたと聞いた。
「世間は狭いですねぇ。でもファレナにいた頃は加減が分からなくて雪を降らせちゃう事が多かったから雪女と呼ばれてましたけど。今はコントロールが上手くなったので雪女じゃないですよ」
「非常に敵としてはどうでも良いとゆうか…。返事に困る話ですね」
「雪女から氷女に進化したのか」
「シードうるさい」
「犯すぞ吸血鬼」
そう言ってシードは私の両頬をつねって痛いと言った私を見て満足そうに笑う
「いひゃいいひゃいよ、あかしーと」
「あー何だって?聞こえねぇなぁ」
「2人共うるさいですよ、それより何処かに行く途中なのでは?我々もそろそろ仕事に戻ります。余り派手な行動をすると目をつぶれなくなりますからそのつもりで」
だからさっき、シードはヘタうつなよって言ってくれたのかと私は思い返しながら、今だに頬から離してくれない手を加減してガブリと噛む
すると、シードは急に驚愕した様な顔を見せて手をだらりと落とした。
シードのビックリする顔は見た事が無かったので、噛むのは冗談が過ぎたかなと放心するシードに手を顔の前でブンブンと振りながら名前を呼ぶとゆっくり口を開いた
「…クルガンすまねぇ。俺吸血鬼になっちまった」
「…アホな事言ってないで行きますよ」
未だに放心したシードをクルガンが腕を引いて、それじゃあと言いながら立ち去って行った
噛まれると吸血鬼になるなんて迷信を今も信じてる奴がいるんだなぁと内心シードを少し可愛いく思いながら私は宿の食事所に行って店主オススメのハンバーグを食べてから宿舎に帰った
風呂に入りその後直ぐに寝てしまった私は、ふと人の気配を感じて目を開けた。
眠い目を凝らして、ドキドキと高鳴りそうな心臓を落ち着ける様に息をこらしながらゆっくりと吐き切る
腿のナイフにゆっくり手を滑らせるとその上にそっと手が置かれてビックリして飛び上がってしまう。
「やぁ、久しぶりだな。頼むから刺さないでくれよ」
「………」
私の横に片肘をつきながら優雅に寝そべるナッシュはニッコリとしながら私を見つめていた。
只異様に感じたのは巻かれている包帯にあちらこちらにある切り傷だった
風が肌に当たり、チラリと見ると窓が全開に開いていた。
「…窓から良く入れたわね」
「あれくらいならちょろいぜ」
「そーおーゆー事じゃないでしょおーがー」
ナッシュの両頬をつねりながら怒った私に何故か嬉しそうに、いひゃいやめへくれと笑顔で返してくる
「はぁ、…本当お前が元気で良かったよ。ミューズが落ちた時どうして無理やり攫って行かなかったんだろうって後悔したからさ」
「ナッシュ…。意外に逞しいから私は大丈夫よ。それより…何でそんなに斬り傷だらけなの??治りかけみたいだけど大丈夫?」
「まだ所々痛むが…まぁ大丈夫さ」
「誰にやられたの?」
「…ハイランドのシードとクルガン」
「…うわぁ。2人がかり」
私がナッシュに可哀想にと言いながら手を当てると、光が彼を包みナッシュの傷は綺麗に消えた
ありがとさん、また恩が出来たなと言ったナッシュに別にこれくらいならいいよと返すと
いつもそればっかりだからな…と何やら考えてる様だったけど、今日から教師の仕事がある私は早く寝たかったのでおやすみーと言ってそのまま寝てしまう事にした
私がそのまま瞳を閉じると、彼は何だかガサゴソ最初はやっていたが何分か経つとスースーと静かな寝息をかいて寝てしまった
その寝息を聞きながら、ナッシュに布団を胸までかけると私も深い眠りについた
朝起きるとまだ寝ていたナッシュに布団をかけ直してから支度をして直ぐに宿舎を出た。歩いていると少しづつ血が欲しいとまるで身体が訴えるかの様に胸が苦しくなりつい通行人の首元に目がいってしまう
フリックがいないのでこんな状態で大丈夫かと少し不安になったが、一度深呼吸をしてから水筒に入れたお茶を飲み干すとまた歩みを進めた
到着して受付に行くとエミリアにおはよう御座います、ブランシュさんと言われて
ああ私かと思い出し、にこやかに挨拶をするとエミリアは机の下から何枚か書類を取り出した
「今日は午前は生徒達への挨拶と素振りの練習の指導、昼食の後はこの書類に目を通してもらっておしまいです」
「えっと、午後の授業は無いんですか?」
「今はハイランドとの戦闘があったばかりで午前授業だけなのよ。落ち着いたら再会するから」
「あの、テレーズさんは…無事なんですか?」
「…分からないのよ。来たばかりのブランシュ先生にもハイランドの兵士が何か聞いてくるかもしれないけど、分からないって言ってればいいから」
「分かりました」
教師に向かい、生徒達に自己紹介をしてから皆の名前も教えて貰い直ぐに授業を開始した
エミリアが言っていた通り生徒の数が少なく授業はやりやすかったし、生徒達も特に問題がある子もいないのでこれなら問題無く先生が出来そうだと安心した。
昼休みになり外のベンチで昼食を食べていると、懐かしい顔がこちらに微笑みながら歩いてくる
ジーン!と嬉しくて食べかけのサンドイッチをベンチに放り出して彼女の胸に飛び込んだ
「窓から外を見たら貴女が居たからびっくりしたのよ。良く顔を見せて」
両手で頬を包む様に置かれた懐かしい手に、私はニッコリ笑う
「まさかグリンヒルにジーンが居るなんて…。こんなに早く会えるとは思わなかったよ」
「フフフ、貴女とは近いうちに必ず巡り会えると思っていたわ」
そう言って微笑んだジーンはベンチに座ると放り出したサンドイッチを私に渡して来た。
血は足りているの?と私の顔を覗き込む彼女は昔からやはり優しくて心が温かくなった
「今、いつも血をわけてくれる人が近くにいないから足りて無いんだよね…」
「あら、なら明日中には薬を作ってあげるわ。今日は無理しないで寮に戻りなさいな」
「助かるよ、ナッシュに分けてもらおうと思ってたからさ」
なるべくなら貰わないのが1番だしね。そう言った私に頷いたジーンはまた明日ねと言ってから学舎に入って行った。
ジーンが薬を作ってくれると言ってくれた事に安堵した私は少しだけ疼く衝動を我慢しながら帰路につく
宿に着いた私の目に飛び込んできたのは入り口に座り込むシードの姿だった
「何やってんの?」
「帰り早かったな。お裾分けだ」
紙袋を渡されて素直に受け取り中を見れば容器にビーフシチューとパンが入っていた。
「…シードが作ったの?」
「いや、俺は料理できねぇ。作ってもらったんだ」
「…何かこの前もご馳走になったし、貰ってばっかりで悪いな…。」
「そんな事気にするよーな女なんだな」
「とゆうか、どーして敵側にこんなに良くしてくれんの?」
「…前の礼だ」
「お礼を言うのは庇って貰った私の方じゃない、…てか自分で言って思い出したけどあの時はありがとう」「なんだそれ」
ケラケラと笑い出したシードは良いって事よと言ってからじゃあなと片手を上げて帰ろうとする
お礼にお茶をと言おうとしてシードの袖を掴むとクラリと来た目眩に足ががくりとして
膝が地に着く寸前シードの腕が私の腕を掴んだ
「おい、平気か?」
「…あー今血が足りなくて貧血なんだよね」
シードの肩を借りながらゆっくり体制を立て直した私はしんどいと一言付け足した
少し黙っていたシードだったが血があればいいのか?と言ってから自分の剣を抜いた。何と無く想像がついたのでその手を両手で掴むとやめてくれと悲願した
「何で駄目なんだよ」
「怪我するでしょ、見たく無い」
「…軍人が怪我にびびるかよ」
「…ここは戦場じゃ無いでしょ」
気持ちだけ受け取っておくと言って礼を言い、ポケットから鍵を取り出して扉を開けるとヒョイと鞄でも持ち上げる様な感じでシードは私の身体を抱き上げてズカズカと何も言わずに部屋に入ってゆく
「ちょ、シード」
「静かにしてろ」
珍しく眉を寄せたシードはベッドまで私を運ぶと優しく下ろし置いてあったプランケットを掛けてくれた
「…ありがとう」
「…お前は本当に…」
舌打ちをしたシードに私が眉を下げて頭を軽く下げると少し怒り気味だった彼は溜息をついてから私の頬を優しく撫でる
手袋をしていない、シードの手が優しく頬を撫でるとついついフリックを思い出して彼の事を考えてしまった。
ベッドの横に腰掛けたシードは私を心配そうに見つめていた
「なぁ、いつもはどうしてたんだよ。」
「こうゆう時?」
「ああ」
「…俺に頼れって言ってくれる人が居たから」
「…今はいないのか?」
「1人で来てるからね…そういえば、シードは何で門で私を捕まえなかったの?」
「…前の礼だ。それだけさ」
「もぉ、そればっかり」
「体調が悪いなら今は静かにしてろ」
布団が温かくて気持ちよくなってきた私はそのまま静かに目を閉じる。ゆっくりと意識が離れていく中、彼の手が優しく髪を撫でてくれている感触に私はとても安心しながら気持ちよく眠りについてしまった。