幻想水滸伝2
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ファレナで産まれ、蒼き月の村で人間から吸血鬼になった私は普通の人間の時間があった分血を欲っする時間は思っていたよりかなり苦痛だった。元々人間だったからなのかなとシエラに聞けば、ネクロードだって元は人間だったじゃろう。と言われ口を閉じた。
血を吸われても吸血鬼にはならない。血を与えられた者のみが吸血鬼になる
それを何故が知っていたフリックは私の胸で泣きながら、君が1人なのが辛いなら俺に血を与えてくれと声を振り絞り呟いた。
その酷な言葉がどれだけ私の心を癒してくれたのか彼には分から無いだろう。
シエラが紋章を取り返せたら血の衝動はおさまるけれど、いつ取り返せるかもわからないし彼には長い永遠を生きる何て辛い思いはして欲しくない。
ただ、だけどその言葉だけでも貰えた事が私は本当に嬉しかった。
「…そんな事、フリックはしなくていいの」
「… セツナ」
気付いた時にはビクトールのイビキが静かになっていて、私達はそれから何も言わずにお互い目を閉じた。抱き締められている体よりも私の心は温かかった
起きてから顔を洗っていると、また新たな仲間がこの砦に到着した様なので自己紹介がてら皆んなで今度は上のフロアの建物の掃除と瓦礫の片付けを開始した。
ネクロードが弾いていたと思われるピアノを剣でバッキバキに使い物に出来なくしている所をカレダンと砦の兵士に目撃され
セツナさんが乱心だとフリックとビクトールに伝わったのか、焦った顔の2人が屋上まですっ飛んできたハプニングがあったがそれ以外はスムーズに片付けは済んでいった。
「セツナ、今日も元気だな。ピアノがぐっちゃぐちゃで見る影もない」
「はぁ、ビックリさせるなよ。カレダンもトゥーリもリバルも震えてたぞ…」
「ごめーん。何かアイツが優雅にこのピアノを弾いてる所を想像したら頭に来ちゃって。それより、ビクトールのフロアは終わったの?」
全部完了だと言ったビクトールはレオナの所で飯にしようぜと階段を降りて行く。私の所も後少しだから先に行っててとフリックに伝え最後の瓦礫をまとめるとゴミと一緒に1階の倉庫に置いた。
レオナさんの所に行く前に、一度釣り場に行って水を汲んで墓場までやってくる
花々は日光が無くても元気に咲いていた。水を2回釣り場まで汲みに行くはめになったが何とか全部の花に水をやる事が出来た。
「久しぶり、セツナ。君は相変わらずだね」
ディジーの墓に手を合わせていた私は、懐かしいその声に振り返る。
ルック!と名前を呼びながら走りそのまま強く抱き締めるとルックはグェッと声を出してから、馬鹿力やめろといつもの様に怒り出した。
「とゆーか、何でセツナが此処にいるのさ。あの吸血鬼はもう仕留めたの?」
「フリックとビクトールとリオウと行動してるからだよ。ネクロードにも此処で会えた。逃しちゃったけど」
「…そう。じゃあ今回は君もこの戦争に付き合うんだ。3年前は来なかったのに…。まぁ付き合うならジーンにもその内会えるだろうしね」
「ジーンにも会いたいけど、可愛い弟に会えただけで嬉しいよ」
「…君みたいな血生臭い姉は死んでも嫌だね。じゃあ僕は行くよ」
いやーんと冗談を言うともう目の前には誰もいなくてしょんぼりしながらレオナさんの所に向かって歩き出した。ルックに会ったのは大分久しぶりだった。
初めて会った時はまだ小さくてレックナート様の後ろに隠れてジーッと様子を伺う様な子だったのに
何回か会う度に段々と子生意気になって来ていたけれど、彼の生い立ち何かを考えれば当たり前なのかなとも思う
もう30年過ぎてあの感じだ。三十路でまだ反抗期か…。と思ったが言うとマジに怒りそうなので言うのはやめにしておく事にした
レオナさんの所で3人で食事をとっていると、リオウが帰って来たと同時にハイランドがこの砦に向かって進軍してきているとビクトールに伝令が来た。2階に集まっていると聞いた私達は食べかけの食事をそのままに2階へと早足で向かった
部屋に入って来た私達に笑顔で駆け寄ってきたナナミの頭を撫でると、ラダトで池に入ってコイン探したんだとか、ピリカちゃんは元気だった?とか笑って話してくれるナナミにそんなに久しぶりでもないのに何故か安心した。
アップルから詳しい状況を聞いた私達は、元ミューズとサウスウィンドウの兵を取り込んだハイランドの兵の多さに困惑を隠せ無いでいた
「そーいえば連れて来た軍師殿は?」
「シュウ兄さんは支度をしてから行くと言っていたので、もうすぐ着くはずです」
その言葉にビクトールが、破門された奴なんだろ?大丈夫なのか?といつもの口調で口を開くと
ならば即刻立ち去れと言って長髪の身なりの良い男性が部屋に入ってきた
「お前がビクトールか…それに青いのはフリックだな。こちらの兵の数は?」
「俺は青いの扱いかよ…こっちは非戦闘員合わせて5000て所だな」
勝ち目ならあると言ったシュウに、皆んなの目の色が変わった。そこからはもうトントン拍子だった。
元都市同盟の兵は戦が終わったら処刑されると噂を内部から流すため、フリードは大勢のサウスウィンドウの兵士に見送られながら此処を直ぐに出た。
シュウからリーダーに推薦されたのは真の紋章を宿すリオウで、ソロンジーの部隊を叩いて欲しいと軍師殿に頼まれていた
少し自信が無さそうな顔で分かりましたと言ったリオウはナナミの猛反対する言葉も聞こえていないようだった
話が終わり少し休むと言ったリオウにビクトールとフリックが俺達が援護するから大丈夫だと言うと、少しだけ笑顔になってから部屋を出た
自信が無いのは最初は当たり前だよなと皆思ったのか、リオウに強くやれと言うものはその中には1人もいなかった
「おい、お前がセツナか?」
「はぁ、そうですけど」
「お前の紋章の話は聞いてる、当日にリオウ殿がソロンジー以外の部隊に囲まれ無い様に他の部隊が近づいて来たら紋章を使って欲しい。出来るか?」
やれるだけやってみます。と言った私に軍師殿は一度頷いてから今日はもう休ませてもらう言って部屋を出て行った。
アップルとシュウの話をしていると、ビクトールはシュウは中々切れ者だが負けても自分の策は間違って無いとか言いそうだなとケラケラ笑った。
そういえば、昔に軍師は負けても絶対に謝ってはいけないし、仮に失敗してもこれが最善策だったと胸を張っていないといけないんだよとそれを聞いた事を思い出してそれを言っていた彼女に会いたくなった。
その後、アップルに隊を編成してもらってなるべく剣を使えて魔力もある兵を隊に入れてもらえる様に頼んだ。元ミューズ兵のネローと元砦の兵士のカレダンは私の隊に入れたいとフリックとアップルに頼むと、どうしてかと聞かれたので騎馬の回復隊を作りたいと言うと
アップルはシュウ兄さんに相談してきますと言ってくれた。フリックは騎馬の弓兵も剣術も出来るから回復と剣術が出来る隊にしたかった。
どうせ隊を任されるなら紋章だけでは無く最前線もいける隊にしたかったのだ。
「セツナ、最前線に行きたい何て考えてるんじゃないだろうなぁ。」
「もうバレたよ」
「どうせ、もう止めても無駄なんだろ」
「流石フリック、良く分かってる」
そう言ってため息をついたフリックにビクトールは人手が少ない今はセツナにも最前線に出てもらわ無いとこっちも危うくなると味方をしてくれる
「こいつは人が増えた所で前線から引かないぞ…」
「うんうん、戦える人間が前に出るのは当然」
そう言った私に、絶対怪我するなよと言ってフリックはそれ以上何も言わなくなった。
過保護だなぁと笑うビクトールに、何を今更と私も笑った。
それから戦いに備え3人で戦える兵士達を集めて訓練を夜まで続けた。クタクタになった私達に新しく仲間に入ったアニタとオウランがビールを持って来てくれてビクトールと私は手をあげて喜んだ。
5人で明日の戦の話をしていると、オウランが隣に居たビクトールに汗臭いと言って鼻をつまんだので凄く悲しそうなビクトールをよそにフリックが風呂に入るかと言った一言で私達は皆んなで風呂に向かった。
入り口で2人と別れ3人で女湯に入ると、湯で汗を流して温かさが染み渡り極楽を感じる
気持ちがいいね〜と間の抜けた声で私が髪を洗っていると首筋をつんと指で突かれた感じがした。
「えっ?誰?何?」
その問いには誰も答えてくれずに小さな笑い声だけが聞こえる。
目を開けようとするとシャンプーが入ってしまうので直ぐに洗い流してから、突かれた方向を見ると面白そうな顔でアニタが私の横に座り身体を洗っていた
「そんなにセクシーな痕、誰につけられたんだい?」
「聞いたら野暮だろう。アニタ」
アニタの横に座って身体を洗うオウランもそう言って少し笑う。痕って何だろうと思い、鏡で突かれた箇所を見ると昨日口付けの時に吸われた痕が色濃く残っていた。
「…わっ本当だ。けっこう濃く残ってる」
「これを付けた奴は、けっこう嫉妬深い奴だね」
こうやって見える所に付けて虫除けしてるんだよ。そうアニタが言うと隣の男湯から、バターンと派手に転ぶような音が聞こえてビクトールの大笑いがこちらまで聞こえてくる
「セツナ、無理やりされたんじゃないだろうね?もしそうなら、私に言いなよ」
そう言ったオウランに、無理やり何てされてないよと笑うと3人で湯に浸かった。
「それで?どうだったんだい?その男は上手かったのかい?」
「えっ?ちょっとアニタそんな事まで聞いちゃう?」
「セツナ、言いたくなきゃ言わなくていいんだよ。そうゆうのは上手い下手じゃ無いって言ってやんな」
「うーん。凄い上手かったよ」
私が正直に話すと、また隣の男湯から今度はポカーンと木のたらいが何かにぶつかる音がしてビクトールの笑い声がこだまする
さっきから隣はうるさいねぇと言ったアニタに、本人に聞こえてますよー思っていた私は最後まで知らん顔を突き通す事に決め会話を続けていた。
「へぇ、上手いならいいな。愛情が1番大事だけど、相性が良くて上手いに越した事ないからねぇ」
「それで??その男は顔はカッコいいのかい?」
「…カッコイイし優しいし背も高いし、私を甘やかしてくれて。可愛い人かな」
のろけじゃないかと声をあげて笑う2人に私も照れ臭くて笑ってしまった。3人で出たらまたビールでも飲むかと話しながら風呂を出て、面倒なので部屋に戻らずにキャミソールの薄着のワンピースのまま酒場に向かった。
酒場は満員で、兵士から食事作りの女性達まで酒を呑んで盛り上がっていた。
空いている席が無くてどうしようかと3人で話していると、今日片付けで一緒だった元サウスウィンドウの兵士のユーリルがセツナさん!と手招きをしている
3人でそちらに向かうとベンチを詰めるから一緒に座ら無いかと言ってくれて、私達は有り難く座らせてもらう事にした
ビールを頼んだ私達が盛り上がっていると、横に居たユーリルが自分の仲間達を紹介してきた。
皆んな兵士みたいで剣を身につけている。私達もこれから一緒に戦うからよろしくと言って一緒に飲んでいると
酔っ払っていたユーリルの仲間のセインがこちらに千鳥足で歩いて来た。
肩に手を回されて自己紹介をされたので、さっき聞いたわと笑ってあしらうと隣に居たユーリルがからむなよと言ってセイン頭に軽くチョップする
アニタとオウランが溜息を吐きながらそれくらいにしておきなと言って彼に自分の席に戻る様に言ってくれた。
回された手が軽く鎖骨を撫でて来て、酒の匂いと彼の吐息に身震いした時にその手が急に肩から無くなってセインの悲痛な痛いと言う声が酒場に響く
セインの腕を掴んで捻り上げているフリックの表情は本当に寒気がするくらい恐ろしくて私は思わず口を開けたまま表情が引き攣ってしまう
アニタとオウランも最初はビックリした様だったけど何かに気付いた様に吹き出して笑ってしまっていた。ユーリルだけはフリックに本当すみませんと言ってすぐに頭を下げ立ち上がる
眉間にシワを寄せ、私に大丈夫か?と言いながらユーリルの顔に顔を近づけると笑顔で彼女に触るなよと言い彼から手を離した
口を開かずコクコクと頷いたセインはフリックが怖かったのか走り去る様に酒場を出て行ってしまった
フリックは私に自分のマントを掛けてから触らせるなよと怒り口調で言い残すと自分の席に戻って行ってしまった。
シーンとするテーブルの空気に耐えられなくなり、なんか怒られちゃったと私が吹き出して笑うとアニタとオウランは嫉妬深いって当たってたね〜とケラケラ笑った。
逆に男性軍は顔を青くしてしまい、ユーリルはすみません本当にと言いながら私に頭を下げてくる
こちらこそ本当にすみませんと私は心から思い頭を下げた
それから酔っ払ったアニタとオウランがニヤニヤしながら私の肩を抱いて来て急に私の頬にキスをすると、フリックとビクトールの席の方を向き、触っちゃったーと笑う。そのおふざけにフリックが顔を手で覆いながら顔を赤くして、からかうなよと嫌そうにしていた
その姿に私達はまた大笑いすると、それを見ていたビクトールが続けて大笑いした。
酔いながら自室に帰ってくると、当たり前の様にフリックがラフな格好でベッドに寝転んでいた。
「マントありがとう、でも怒り過ぎ。あの子怪我したらどうするの?」
「…お前に触ったのが悪い」
そう言ったフリックはフイと私から顔を背ける。
はぁと溜息を吐いてからフリックの横に寝っ転がると彼は背けていた顔をこちらに向けてから首筋と鎖骨に優しく口付けてくる。
「…これを付けた奴は絶対嫉妬深い男だって言われてたね」
「…勿論聞いてたさ。」
あれで風呂で転んで頭をぶつけたんだよと言ってコブを見せて来たフリックに私は大笑いした。
髪に手を入れられて、頭を掴まれるとそのまま深く口付けられ反対のフリックの手が優しく服の中に入り胸を触られる
「…今日は疲れてるから明日にしよ?」
「上手いって言ってくれたのにか?」
バカと笑って言った私にフリックは手も唇も止めてくれなかった。耳元で愛してると囁かれると何だかもうどうでも良くなってしまって。
温かいぬくもりで全身に口付けられている感覚に頭がふわふわしてきてしまう。
中を突き動かされる感覚に小さく出てしまう声が部屋に響く。大所帯なのが今だけは辛く思わず声が出ちゃうと言って困った様な顔をした私に、フリックは一度動きを止めると切なそうに私を見つめてくる
「…どしたの?」
「いや、…変な事を言うが…。一度してしまうと病みつきになると聞いた事があったんだけどな。本当にその通りだなって」
何それと小さな声で私が笑うと、フリックは急に真面目な顔になって耳元に唇を寄せる
子供ができたら責任とらせてくれないか?と言ったフリックに私は微笑んでから頷いた。
朝起きると直ぐに風呂に入ってから旅用の服に着替え会議室に入った。会議室に来るまでに朝から全員がバタバタと色々な準備をして走り回っていてハイランド軍がすぐそこまで来ている事を示していた。
正式にリーダーになったリオウにシュウとナナミがサポートに。ギルバートさんとフリック、ビクトールと私が一軍を任される事になり私の軍にはオウランとアニタが入ってくれた。
「さぁ、リオウ殿よろしくお願いします」
そう言ったシュウにリオウは全員出軍と大きな声で同盟の旗をかかげた
全員がその声におぉと右手をあげると直ぐに配置に付く為の移動が開始された。リオウの近くで彼を守るための策を頼まれていた私は兵達と雑木林の中で静かに
その時を待っていた。
「隊長、この度はご指名ありがとうございます。」
「急に何言ってんの、隊長何て呼ばなくていいよ」
そう言って来たカレダンは、必ず御守りしますと手を剣にかける。守るのはリオウだよと笑って言うと副長からも頼まれてますのでと少し笑った。
私が推薦していたカレダンと砦の時のカレダンの小隊を丸ごとうちの軍に入れてくれたのはフリックだった
昨日は大変だったみたいですね。と苦笑いしたカレダンに私があのセインて子大丈夫かなと呟くと
運の悪い事に副長の軍に配属されたと今日聞きましたよと言ってくる。その事にお互い無言をつらぬいているとシュウの合図が聞こえて森からリオウの軍がソロンジーの部隊に一直線に走り出した。
「さぁ、私達も行くわよ」
自分の軍に号令をかけると、全員が馬に騎乗する
私が馬の腹を足で軽く叩くと馬は一度大きく鳴いてから走り出した。それを合図かの様に全員が私の後に続いてくる
林から出た所でソロンジーを助けようとしていた一軍に右手をあげて紋章を発動させる。リオウの軍に余波がいかないか不安があったけれど、遠くに見える霧は紛れもなくソロンジーの部隊とその他のハイランドの一軍がいる地面を凍らせていた。
「良かったぁぁ」
思わずホッとして口から出てしまった言葉に胸を撫で下ろすと、全員突撃と言ってからリオウの部隊を援護する為に馬を走らせたが私達が到着した時には既に大半のハイランド兵は退却していていた。
フリードに与えた策が成功したのか、戦場に残っていたハイランド兵も全員が元ミューズやサウスウィンドウの兵士だった。
アニタとオウランと一戦もしなかったとか戦い足り無いだとか話しながらノースウィンドウに戻ると、リオウは皆んなから英雄の誕生だと胴上げをされていた
そんな中、それを悲しそうに見つめるナナミは私の視線に気付くと直ぐ焦った様に笑った。
無理をしなくていいのにと思ったけれど、その健気な姿に何も言えずに私はそのまま会議室に向かった。
会議室の中はもうお祭り気分で、全員が笑顔でリオウの周りに集まっていた。
私に気付いたリオウが走ってきて優しく手を握られる
「ありがとうございました。あの魔法があったから僕の軍は被害があまり無く済んだんです」
「いえいえ、リオウもお疲れ様ね。でも本当に紋章の余波がリオウ達に当たらなくて良かったよ」
「当たっていたらお前はクビだったな」
そう言ったシュウに私は、クビって…と苦笑いすると
フッと笑ったシュウはお前のコントロールは素晴らしかった。良くやってくれたと肩を優しく叩かれて思わず唖然としてしまった。
それから直ぐにレオナさんとバーバラさんや非戦闘員の人達が昼から作ってくれていたご馳走が酒場と、庭に置かれたテーブルに並べられて祝いの宴が開かれる事になった。
いつもは闇に包まれている時間なのに外に出れば、色とりどりのランタンに火が灯されて、テーブルにはご馳走が並び皆タルのワインで乾杯している。
歌を歌い踊りを踊っている人も多く、活気と熱気に包まれたまるで異空間の様な幻想的な雰囲気に私は心が弾んだ様に思えた。
ワインをもらった私は上品に肉を食べるシロちゃんの横に座り体を撫でさせて貰っていた。
キニスンにナナミとミリーがワインを呑んで不味いと言っているのを見て笑っていると、ふと奥の道にフリックの青いマントが見えて私はその姿を追いかける
曲がり角に差し掛かった辺りで、聞こえる話し声に何と無く耳をすましてしまった。
「あの…フリックさん。私同じ部隊のエイミーと言います」
「ああ、勿論知ってる。今日はお疲れさんな、それで話って何だ?」
「…私今日セインから昨日の酒場の事聞いて。…私ミューズに居た頃からフリックさんの事好きだったんです。昨日…セツナさんに触るなって怒ったって聞いて」
「…君は俺がセツナの事をどう思ってるのかが聞きたいのか?」
「はい」
「俺は彼女が、好きで愛してるよ」
「…そうですか。分かりました」
私が口に手を当てて声を出さ無い様にしていると、その女の子は走り去っていったのが見えた。
その姿を目で追っているとガバリと急に肩を抱かれて慌てて振り向く。そこにはニヤニヤしたビクトールが良かったなぁセツナと笑っていた。
「なんだビクトールか、ビックリした」
座り込んだ私の隣にビクトールも座り、冷えたビールを渡して来た。礼を言って受け取るとビクトールは自分のグラスに口を付ける
「…昨日よ、悪いんだが途中で起きて話聞いちまってよ。」
「…何の話?」
「夜中に目覚めたら、珍しくフリックが泣いてるから寝れなくなっちまって。」
「…ああ。あの時だね」
「フリックが…お前が寂しいのなら俺も吸血鬼になってもいいって言った時の言葉があれから離れなくてな…。お前の事をそこまで愛してるのかって」
「…ビクトール?どうしたの…泣いてるの?」
オデッサは死にました。そう言われた時のアイツの顔がまだ頭に残っていて。悲しむ時間も無くすぐに戦いに出たアイツはそれからずっと夜になると月を見て何かを考えていた。
三年半、ずっと辛かったんだろうよ
最近のアイツはお前を見て笑ったり泣いたり怒ったりして夜はお前が抱きしめてやってる。
俺は本当に安心したんだ。そう言ってビクトールが静かに溢した涙が月に照らされて何だか綺麗だなって思った。
「だからよ、お前は絶対ずっと生きててくれよ。」
俺とも約束してくれと小指を出して来たビクトールに私は微笑んで小指を出した。
話す事に夢中になっていて勘の良いビクトールが、影からその話を聞いて目を真っ赤にしているフリックがいる事に気がつかないのを私は知らないフリをした。
お前のおかげで吸血鬼がそんなに嫌じゃなくなりそうだと言ったビクトールに私は彼に会えて本当に良かったと月を見ながら思った。
血を吸われても吸血鬼にはならない。血を与えられた者のみが吸血鬼になる
それを何故が知っていたフリックは私の胸で泣きながら、君が1人なのが辛いなら俺に血を与えてくれと声を振り絞り呟いた。
その酷な言葉がどれだけ私の心を癒してくれたのか彼には分から無いだろう。
シエラが紋章を取り返せたら血の衝動はおさまるけれど、いつ取り返せるかもわからないし彼には長い永遠を生きる何て辛い思いはして欲しくない。
ただ、だけどその言葉だけでも貰えた事が私は本当に嬉しかった。
「…そんな事、フリックはしなくていいの」
「… セツナ」
気付いた時にはビクトールのイビキが静かになっていて、私達はそれから何も言わずにお互い目を閉じた。抱き締められている体よりも私の心は温かかった
起きてから顔を洗っていると、また新たな仲間がこの砦に到着した様なので自己紹介がてら皆んなで今度は上のフロアの建物の掃除と瓦礫の片付けを開始した。
ネクロードが弾いていたと思われるピアノを剣でバッキバキに使い物に出来なくしている所をカレダンと砦の兵士に目撃され
セツナさんが乱心だとフリックとビクトールに伝わったのか、焦った顔の2人が屋上まですっ飛んできたハプニングがあったがそれ以外はスムーズに片付けは済んでいった。
「セツナ、今日も元気だな。ピアノがぐっちゃぐちゃで見る影もない」
「はぁ、ビックリさせるなよ。カレダンもトゥーリもリバルも震えてたぞ…」
「ごめーん。何かアイツが優雅にこのピアノを弾いてる所を想像したら頭に来ちゃって。それより、ビクトールのフロアは終わったの?」
全部完了だと言ったビクトールはレオナの所で飯にしようぜと階段を降りて行く。私の所も後少しだから先に行っててとフリックに伝え最後の瓦礫をまとめるとゴミと一緒に1階の倉庫に置いた。
レオナさんの所に行く前に、一度釣り場に行って水を汲んで墓場までやってくる
花々は日光が無くても元気に咲いていた。水を2回釣り場まで汲みに行くはめになったが何とか全部の花に水をやる事が出来た。
「久しぶり、セツナ。君は相変わらずだね」
ディジーの墓に手を合わせていた私は、懐かしいその声に振り返る。
ルック!と名前を呼びながら走りそのまま強く抱き締めるとルックはグェッと声を出してから、馬鹿力やめろといつもの様に怒り出した。
「とゆーか、何でセツナが此処にいるのさ。あの吸血鬼はもう仕留めたの?」
「フリックとビクトールとリオウと行動してるからだよ。ネクロードにも此処で会えた。逃しちゃったけど」
「…そう。じゃあ今回は君もこの戦争に付き合うんだ。3年前は来なかったのに…。まぁ付き合うならジーンにもその内会えるだろうしね」
「ジーンにも会いたいけど、可愛い弟に会えただけで嬉しいよ」
「…君みたいな血生臭い姉は死んでも嫌だね。じゃあ僕は行くよ」
いやーんと冗談を言うともう目の前には誰もいなくてしょんぼりしながらレオナさんの所に向かって歩き出した。ルックに会ったのは大分久しぶりだった。
初めて会った時はまだ小さくてレックナート様の後ろに隠れてジーッと様子を伺う様な子だったのに
何回か会う度に段々と子生意気になって来ていたけれど、彼の生い立ち何かを考えれば当たり前なのかなとも思う
もう30年過ぎてあの感じだ。三十路でまだ反抗期か…。と思ったが言うとマジに怒りそうなので言うのはやめにしておく事にした
レオナさんの所で3人で食事をとっていると、リオウが帰って来たと同時にハイランドがこの砦に向かって進軍してきているとビクトールに伝令が来た。2階に集まっていると聞いた私達は食べかけの食事をそのままに2階へと早足で向かった
部屋に入って来た私達に笑顔で駆け寄ってきたナナミの頭を撫でると、ラダトで池に入ってコイン探したんだとか、ピリカちゃんは元気だった?とか笑って話してくれるナナミにそんなに久しぶりでもないのに何故か安心した。
アップルから詳しい状況を聞いた私達は、元ミューズとサウスウィンドウの兵を取り込んだハイランドの兵の多さに困惑を隠せ無いでいた
「そーいえば連れて来た軍師殿は?」
「シュウ兄さんは支度をしてから行くと言っていたので、もうすぐ着くはずです」
その言葉にビクトールが、破門された奴なんだろ?大丈夫なのか?といつもの口調で口を開くと
ならば即刻立ち去れと言って長髪の身なりの良い男性が部屋に入ってきた
「お前がビクトールか…それに青いのはフリックだな。こちらの兵の数は?」
「俺は青いの扱いかよ…こっちは非戦闘員合わせて5000て所だな」
勝ち目ならあると言ったシュウに、皆んなの目の色が変わった。そこからはもうトントン拍子だった。
元都市同盟の兵は戦が終わったら処刑されると噂を内部から流すため、フリードは大勢のサウスウィンドウの兵士に見送られながら此処を直ぐに出た。
シュウからリーダーに推薦されたのは真の紋章を宿すリオウで、ソロンジーの部隊を叩いて欲しいと軍師殿に頼まれていた
少し自信が無さそうな顔で分かりましたと言ったリオウはナナミの猛反対する言葉も聞こえていないようだった
話が終わり少し休むと言ったリオウにビクトールとフリックが俺達が援護するから大丈夫だと言うと、少しだけ笑顔になってから部屋を出た
自信が無いのは最初は当たり前だよなと皆思ったのか、リオウに強くやれと言うものはその中には1人もいなかった
「おい、お前がセツナか?」
「はぁ、そうですけど」
「お前の紋章の話は聞いてる、当日にリオウ殿がソロンジー以外の部隊に囲まれ無い様に他の部隊が近づいて来たら紋章を使って欲しい。出来るか?」
やれるだけやってみます。と言った私に軍師殿は一度頷いてから今日はもう休ませてもらう言って部屋を出て行った。
アップルとシュウの話をしていると、ビクトールはシュウは中々切れ者だが負けても自分の策は間違って無いとか言いそうだなとケラケラ笑った。
そういえば、昔に軍師は負けても絶対に謝ってはいけないし、仮に失敗してもこれが最善策だったと胸を張っていないといけないんだよとそれを聞いた事を思い出してそれを言っていた彼女に会いたくなった。
その後、アップルに隊を編成してもらってなるべく剣を使えて魔力もある兵を隊に入れてもらえる様に頼んだ。元ミューズ兵のネローと元砦の兵士のカレダンは私の隊に入れたいとフリックとアップルに頼むと、どうしてかと聞かれたので騎馬の回復隊を作りたいと言うと
アップルはシュウ兄さんに相談してきますと言ってくれた。フリックは騎馬の弓兵も剣術も出来るから回復と剣術が出来る隊にしたかった。
どうせ隊を任されるなら紋章だけでは無く最前線もいける隊にしたかったのだ。
「セツナ、最前線に行きたい何て考えてるんじゃないだろうなぁ。」
「もうバレたよ」
「どうせ、もう止めても無駄なんだろ」
「流石フリック、良く分かってる」
そう言ってため息をついたフリックにビクトールは人手が少ない今はセツナにも最前線に出てもらわ無いとこっちも危うくなると味方をしてくれる
「こいつは人が増えた所で前線から引かないぞ…」
「うんうん、戦える人間が前に出るのは当然」
そう言った私に、絶対怪我するなよと言ってフリックはそれ以上何も言わなくなった。
過保護だなぁと笑うビクトールに、何を今更と私も笑った。
それから戦いに備え3人で戦える兵士達を集めて訓練を夜まで続けた。クタクタになった私達に新しく仲間に入ったアニタとオウランがビールを持って来てくれてビクトールと私は手をあげて喜んだ。
5人で明日の戦の話をしていると、オウランが隣に居たビクトールに汗臭いと言って鼻をつまんだので凄く悲しそうなビクトールをよそにフリックが風呂に入るかと言った一言で私達は皆んなで風呂に向かった。
入り口で2人と別れ3人で女湯に入ると、湯で汗を流して温かさが染み渡り極楽を感じる
気持ちがいいね〜と間の抜けた声で私が髪を洗っていると首筋をつんと指で突かれた感じがした。
「えっ?誰?何?」
その問いには誰も答えてくれずに小さな笑い声だけが聞こえる。
目を開けようとするとシャンプーが入ってしまうので直ぐに洗い流してから、突かれた方向を見ると面白そうな顔でアニタが私の横に座り身体を洗っていた
「そんなにセクシーな痕、誰につけられたんだい?」
「聞いたら野暮だろう。アニタ」
アニタの横に座って身体を洗うオウランもそう言って少し笑う。痕って何だろうと思い、鏡で突かれた箇所を見ると昨日口付けの時に吸われた痕が色濃く残っていた。
「…わっ本当だ。けっこう濃く残ってる」
「これを付けた奴は、けっこう嫉妬深い奴だね」
こうやって見える所に付けて虫除けしてるんだよ。そうアニタが言うと隣の男湯から、バターンと派手に転ぶような音が聞こえてビクトールの大笑いがこちらまで聞こえてくる
「セツナ、無理やりされたんじゃないだろうね?もしそうなら、私に言いなよ」
そう言ったオウランに、無理やり何てされてないよと笑うと3人で湯に浸かった。
「それで?どうだったんだい?その男は上手かったのかい?」
「えっ?ちょっとアニタそんな事まで聞いちゃう?」
「セツナ、言いたくなきゃ言わなくていいんだよ。そうゆうのは上手い下手じゃ無いって言ってやんな」
「うーん。凄い上手かったよ」
私が正直に話すと、また隣の男湯から今度はポカーンと木のたらいが何かにぶつかる音がしてビクトールの笑い声がこだまする
さっきから隣はうるさいねぇと言ったアニタに、本人に聞こえてますよー思っていた私は最後まで知らん顔を突き通す事に決め会話を続けていた。
「へぇ、上手いならいいな。愛情が1番大事だけど、相性が良くて上手いに越した事ないからねぇ」
「それで??その男は顔はカッコいいのかい?」
「…カッコイイし優しいし背も高いし、私を甘やかしてくれて。可愛い人かな」
のろけじゃないかと声をあげて笑う2人に私も照れ臭くて笑ってしまった。3人で出たらまたビールでも飲むかと話しながら風呂を出て、面倒なので部屋に戻らずにキャミソールの薄着のワンピースのまま酒場に向かった。
酒場は満員で、兵士から食事作りの女性達まで酒を呑んで盛り上がっていた。
空いている席が無くてどうしようかと3人で話していると、今日片付けで一緒だった元サウスウィンドウの兵士のユーリルがセツナさん!と手招きをしている
3人でそちらに向かうとベンチを詰めるから一緒に座ら無いかと言ってくれて、私達は有り難く座らせてもらう事にした
ビールを頼んだ私達が盛り上がっていると、横に居たユーリルが自分の仲間達を紹介してきた。
皆んな兵士みたいで剣を身につけている。私達もこれから一緒に戦うからよろしくと言って一緒に飲んでいると
酔っ払っていたユーリルの仲間のセインがこちらに千鳥足で歩いて来た。
肩に手を回されて自己紹介をされたので、さっき聞いたわと笑ってあしらうと隣に居たユーリルがからむなよと言ってセイン頭に軽くチョップする
アニタとオウランが溜息を吐きながらそれくらいにしておきなと言って彼に自分の席に戻る様に言ってくれた。
回された手が軽く鎖骨を撫でて来て、酒の匂いと彼の吐息に身震いした時にその手が急に肩から無くなってセインの悲痛な痛いと言う声が酒場に響く
セインの腕を掴んで捻り上げているフリックの表情は本当に寒気がするくらい恐ろしくて私は思わず口を開けたまま表情が引き攣ってしまう
アニタとオウランも最初はビックリした様だったけど何かに気付いた様に吹き出して笑ってしまっていた。ユーリルだけはフリックに本当すみませんと言ってすぐに頭を下げ立ち上がる
眉間にシワを寄せ、私に大丈夫か?と言いながらユーリルの顔に顔を近づけると笑顔で彼女に触るなよと言い彼から手を離した
口を開かずコクコクと頷いたセインはフリックが怖かったのか走り去る様に酒場を出て行ってしまった
フリックは私に自分のマントを掛けてから触らせるなよと怒り口調で言い残すと自分の席に戻って行ってしまった。
シーンとするテーブルの空気に耐えられなくなり、なんか怒られちゃったと私が吹き出して笑うとアニタとオウランは嫉妬深いって当たってたね〜とケラケラ笑った。
逆に男性軍は顔を青くしてしまい、ユーリルはすみません本当にと言いながら私に頭を下げてくる
こちらこそ本当にすみませんと私は心から思い頭を下げた
それから酔っ払ったアニタとオウランがニヤニヤしながら私の肩を抱いて来て急に私の頬にキスをすると、フリックとビクトールの席の方を向き、触っちゃったーと笑う。そのおふざけにフリックが顔を手で覆いながら顔を赤くして、からかうなよと嫌そうにしていた
その姿に私達はまた大笑いすると、それを見ていたビクトールが続けて大笑いした。
酔いながら自室に帰ってくると、当たり前の様にフリックがラフな格好でベッドに寝転んでいた。
「マントありがとう、でも怒り過ぎ。あの子怪我したらどうするの?」
「…お前に触ったのが悪い」
そう言ったフリックはフイと私から顔を背ける。
はぁと溜息を吐いてからフリックの横に寝っ転がると彼は背けていた顔をこちらに向けてから首筋と鎖骨に優しく口付けてくる。
「…これを付けた奴は絶対嫉妬深い男だって言われてたね」
「…勿論聞いてたさ。」
あれで風呂で転んで頭をぶつけたんだよと言ってコブを見せて来たフリックに私は大笑いした。
髪に手を入れられて、頭を掴まれるとそのまま深く口付けられ反対のフリックの手が優しく服の中に入り胸を触られる
「…今日は疲れてるから明日にしよ?」
「上手いって言ってくれたのにか?」
バカと笑って言った私にフリックは手も唇も止めてくれなかった。耳元で愛してると囁かれると何だかもうどうでも良くなってしまって。
温かいぬくもりで全身に口付けられている感覚に頭がふわふわしてきてしまう。
中を突き動かされる感覚に小さく出てしまう声が部屋に響く。大所帯なのが今だけは辛く思わず声が出ちゃうと言って困った様な顔をした私に、フリックは一度動きを止めると切なそうに私を見つめてくる
「…どしたの?」
「いや、…変な事を言うが…。一度してしまうと病みつきになると聞いた事があったんだけどな。本当にその通りだなって」
何それと小さな声で私が笑うと、フリックは急に真面目な顔になって耳元に唇を寄せる
子供ができたら責任とらせてくれないか?と言ったフリックに私は微笑んでから頷いた。
朝起きると直ぐに風呂に入ってから旅用の服に着替え会議室に入った。会議室に来るまでに朝から全員がバタバタと色々な準備をして走り回っていてハイランド軍がすぐそこまで来ている事を示していた。
正式にリーダーになったリオウにシュウとナナミがサポートに。ギルバートさんとフリック、ビクトールと私が一軍を任される事になり私の軍にはオウランとアニタが入ってくれた。
「さぁ、リオウ殿よろしくお願いします」
そう言ったシュウにリオウは全員出軍と大きな声で同盟の旗をかかげた
全員がその声におぉと右手をあげると直ぐに配置に付く為の移動が開始された。リオウの近くで彼を守るための策を頼まれていた私は兵達と雑木林の中で静かに
その時を待っていた。
「隊長、この度はご指名ありがとうございます。」
「急に何言ってんの、隊長何て呼ばなくていいよ」
そう言って来たカレダンは、必ず御守りしますと手を剣にかける。守るのはリオウだよと笑って言うと副長からも頼まれてますのでと少し笑った。
私が推薦していたカレダンと砦の時のカレダンの小隊を丸ごとうちの軍に入れてくれたのはフリックだった
昨日は大変だったみたいですね。と苦笑いしたカレダンに私があのセインて子大丈夫かなと呟くと
運の悪い事に副長の軍に配属されたと今日聞きましたよと言ってくる。その事にお互い無言をつらぬいているとシュウの合図が聞こえて森からリオウの軍がソロンジーの部隊に一直線に走り出した。
「さぁ、私達も行くわよ」
自分の軍に号令をかけると、全員が馬に騎乗する
私が馬の腹を足で軽く叩くと馬は一度大きく鳴いてから走り出した。それを合図かの様に全員が私の後に続いてくる
林から出た所でソロンジーを助けようとしていた一軍に右手をあげて紋章を発動させる。リオウの軍に余波がいかないか不安があったけれど、遠くに見える霧は紛れもなくソロンジーの部隊とその他のハイランドの一軍がいる地面を凍らせていた。
「良かったぁぁ」
思わずホッとして口から出てしまった言葉に胸を撫で下ろすと、全員突撃と言ってからリオウの部隊を援護する為に馬を走らせたが私達が到着した時には既に大半のハイランド兵は退却していていた。
フリードに与えた策が成功したのか、戦場に残っていたハイランド兵も全員が元ミューズやサウスウィンドウの兵士だった。
アニタとオウランと一戦もしなかったとか戦い足り無いだとか話しながらノースウィンドウに戻ると、リオウは皆んなから英雄の誕生だと胴上げをされていた
そんな中、それを悲しそうに見つめるナナミは私の視線に気付くと直ぐ焦った様に笑った。
無理をしなくていいのにと思ったけれど、その健気な姿に何も言えずに私はそのまま会議室に向かった。
会議室の中はもうお祭り気分で、全員が笑顔でリオウの周りに集まっていた。
私に気付いたリオウが走ってきて優しく手を握られる
「ありがとうございました。あの魔法があったから僕の軍は被害があまり無く済んだんです」
「いえいえ、リオウもお疲れ様ね。でも本当に紋章の余波がリオウ達に当たらなくて良かったよ」
「当たっていたらお前はクビだったな」
そう言ったシュウに私は、クビって…と苦笑いすると
フッと笑ったシュウはお前のコントロールは素晴らしかった。良くやってくれたと肩を優しく叩かれて思わず唖然としてしまった。
それから直ぐにレオナさんとバーバラさんや非戦闘員の人達が昼から作ってくれていたご馳走が酒場と、庭に置かれたテーブルに並べられて祝いの宴が開かれる事になった。
いつもは闇に包まれている時間なのに外に出れば、色とりどりのランタンに火が灯されて、テーブルにはご馳走が並び皆タルのワインで乾杯している。
歌を歌い踊りを踊っている人も多く、活気と熱気に包まれたまるで異空間の様な幻想的な雰囲気に私は心が弾んだ様に思えた。
ワインをもらった私は上品に肉を食べるシロちゃんの横に座り体を撫でさせて貰っていた。
キニスンにナナミとミリーがワインを呑んで不味いと言っているのを見て笑っていると、ふと奥の道にフリックの青いマントが見えて私はその姿を追いかける
曲がり角に差し掛かった辺りで、聞こえる話し声に何と無く耳をすましてしまった。
「あの…フリックさん。私同じ部隊のエイミーと言います」
「ああ、勿論知ってる。今日はお疲れさんな、それで話って何だ?」
「…私今日セインから昨日の酒場の事聞いて。…私ミューズに居た頃からフリックさんの事好きだったんです。昨日…セツナさんに触るなって怒ったって聞いて」
「…君は俺がセツナの事をどう思ってるのかが聞きたいのか?」
「はい」
「俺は彼女が、好きで愛してるよ」
「…そうですか。分かりました」
私が口に手を当てて声を出さ無い様にしていると、その女の子は走り去っていったのが見えた。
その姿を目で追っているとガバリと急に肩を抱かれて慌てて振り向く。そこにはニヤニヤしたビクトールが良かったなぁセツナと笑っていた。
「なんだビクトールか、ビックリした」
座り込んだ私の隣にビクトールも座り、冷えたビールを渡して来た。礼を言って受け取るとビクトールは自分のグラスに口を付ける
「…昨日よ、悪いんだが途中で起きて話聞いちまってよ。」
「…何の話?」
「夜中に目覚めたら、珍しくフリックが泣いてるから寝れなくなっちまって。」
「…ああ。あの時だね」
「フリックが…お前が寂しいのなら俺も吸血鬼になってもいいって言った時の言葉があれから離れなくてな…。お前の事をそこまで愛してるのかって」
「…ビクトール?どうしたの…泣いてるの?」
オデッサは死にました。そう言われた時のアイツの顔がまだ頭に残っていて。悲しむ時間も無くすぐに戦いに出たアイツはそれからずっと夜になると月を見て何かを考えていた。
三年半、ずっと辛かったんだろうよ
最近のアイツはお前を見て笑ったり泣いたり怒ったりして夜はお前が抱きしめてやってる。
俺は本当に安心したんだ。そう言ってビクトールが静かに溢した涙が月に照らされて何だか綺麗だなって思った。
「だからよ、お前は絶対ずっと生きててくれよ。」
俺とも約束してくれと小指を出して来たビクトールに私は微笑んで小指を出した。
話す事に夢中になっていて勘の良いビクトールが、影からその話を聞いて目を真っ赤にしているフリックがいる事に気がつかないのを私は知らないフリをした。
お前のおかげで吸血鬼がそんなに嫌じゃなくなりそうだと言ったビクトールに私は彼に会えて本当に良かったと月を見ながら思った。