幻想水滸伝2
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フリックはピリカちゃんが寝返りをうつまで何も言わずにずっと私を抱き締めていた。
うーんと指を咥えてもぞもぞと動き出したピリカを見て私から手を離して立ち上がるとピリカに布団を掛けて髪をそっと撫でてやっていた
「…大丈夫?平気??」
「ああ、落ち着いた。悪かったな…。明日はリオウをグランマイヤー様に紹介してくる。グランマイヤー様からも何か話があるみたいだからな」
「…分かった。何かあったら声を掛けてね。後ピリカはこのまま寝かせておくね」
「ああ。おやすみ」
うんと私が頷いたのを見てフリックが部屋を出ると、右手で胸に流れた渇ききっていない涙の後をそっと撫でる。フリックの事を考えると今とても幸せな様な失くすのが怖い様なそんな気持ちで胸がいっぱいになってきた。
村が帰る所だと思っていたけど、彼のそばがもう私の居場所みたいになってきていて。側にずっといても老いない私よりも一緒に老いて死んでくれる女性と居た方が彼が幸せなんじゃないかとか。
そんな事を考えてモヤモヤしていると、可愛らしい天使の様な寝顔のピリカが小さな声でお母さんと言った
ピリカが寝ている時だけでも声が出た事に自然と嬉しくなって微笑んでいると、そこで少し自分の気持ちが落ち着いた。今一緒に居たいからいる。
それだけで良いって思っていた方がいいなと思えた。
朝、服を引っ張られて目を覚ますとお腹をさするピリカが目の前に立っていた。一緒に朝風呂に入ってからご飯にしようか?と笑いかけるとコクンと頷いたピリカと一緒に風呂場に向かった。
女湯の脱衣所にあるカゴに畳まれた洋服が入っており中から話声が聞こえる。
「誰か入ってるね、アップルちゃんかな?」
私達も入ろうかとピリカと一緒に服を脱いでから女湯の中に入ると昨日リオウに簡単に紹介してもらった姉妹のリィナとアイリが湯船に浸かっていた。
「ああ、リィナにアイリ。おはよう」
「あら?おはよう御座います。ピリカちゃんも」
「セツナちゃん、おはよう」
声がうまく出ないからか可愛く手を上げたピリカの姿を見てリィナもアイリも優しく微笑んだ。
ピリカと身体の洗いっこをしてから湯船に浸かるとリィナが私を見て話しかけてきた。
「昨日はゆっくり話せませんでしたね、セツナさんはビクトール傭兵隊の方何ですか?」
「うーん。何て言えば良いんだろうな…ハイランドに向かう途中にたまたま怪我してたフリックを拾ったらビクトールに兵の訓練を頼まれて。そしたらハイランドが砦に攻めてきて戦って今に至るかな…」
それを聞いてハハハと渇いた様に笑ったアイリに私もアハハと苦笑いで返すと、リィナが凄い巻き込まれましたね、大変だったでしょうと言ってくる。
まぁ巻き込まれる何て言ったら皆そうだよと返すとアイリがまぁそうだねと頷いた。
4人で世間話をしてから女湯を出て食事所に向かうとビクトールとフリックとリオウが3人で朝食をとっていた。
「おはよう、3人とも」
「おー皆美人で風呂あがりなんてたまらんな」
「ビクトールはおっさんみたいな事言って…」
えいっとビクトールにデコピンをして遊んでいるとピリカも真似をしてビクトールの足にデコピンをして笑っていた。
ふと視線を感じてその方向を見るとリオウが私を見つめている。
「どしたの?リオウ。何かついてる?」
「セツナさん、ピアス変えました?肌が白いからか青が凄く似合います」
「えー、何かそう言われると嬉しいな。フリックがくれたのよ」
「へぇ、フリックさんは意外に手が早いんですね」
そう言ったリオウにフリックが飲んでいた珈琲を吹き出すと、ビクトールが大笑いしながらリオウの背中を叩いた。
ピアスで手が早いって何かな?と思ったけど、リオウの珍しい冗談に私も笑ってしまう。
隣にいたリィナとアイリもプレゼントしてくれる男性がいるなんていいなと言ってきたので、ビクトールに買ってもらいなと言うと2人は家を買ってくれとか、城が欲しいとビクトールに詰め寄ってまたそれを見て皆んなで笑ってしまった。
「ほら、そろそろ行くぞ二人とも」
フリックの一言にリオウとビクトールが立ち上がると3人は行ってくると言って宿を出て行った。
それから四人で食事をしていると、寝ぼけたアップルとナナミが2階から降りて来たので合流して6人でお茶を楽しんでいた。
少し経ってから宿のドアが開くと、3人の他に眼鏡を掛けた真面目そうな男性が一緒に入ってくる。
「おう!セツナ。お前のお目当てと会えるかもしれねーぞ」
そのビクトールの言葉に私は直ぐに支度をしてくると言って部屋に戻った。
部屋に置いてあった袋から破魔の札と銀のナイフを取り出して腿のホルスターに装備し旅用の服に着替えブーツに履き替えた。
ふと、ビクトールにネクロードの話はしてない筈だと一瞬思ったけれど、勘のいい彼の事だから話さなくても分かるのだろうと勝手に解釈する事にした。
磨いておいた剣を手に持つと、自然と手は武者震いで震えていた。鏡に映った自分の顔が悪鬼の様に写り顔を背けて一階に早足で戻った。
「支度出来たよ」
「じゃあ行くか、フリード道案内頼むぜ」
「了解です」
私はここでピリカを見てますと言ってくれたリィナとボルカン、アップルにお礼を言ってまだ寝ぼけているナナミと行きたいと言ってきたアイリを連れてサウスウィンドゥを出た
草原をみんなで歩いていると、横からフリードと呼ばれた男性が挨拶してくる。
そう言えば、どうゆう状況なのかと聞くと今回の事はノースウィンドウがビクトールの故郷で、怪物が出るとゆう噂が絶えないのでグランマイヤー様が直々にビクトール殿に調査をお願いしましたとフリードから説明を受けた私はビクトールから昔の話を聞いていたので、その現場に行くのかと少し胸が痛くなった。
ネクロードに会える事を待ち望んでいた私にとっては有難いけれど、自分が穴を掘った墓だらけの村に帰るなんてと自分と同じ境遇のビクトールに同情してしまう。
シエラと一緒に何回も何回も仲間の墓を掘ったのを思い出して行く前から悲しい気持ちになってしまった。
ノースウィンドウに着くと、錆びれた建物と伸びっぱなしの雑草に数え切れない墓があるだけで。
全員で建物から調べようかと話し合い、中に入ろうと進むと土がボコリと音を立てて私は直ぐに剣を抜いた
私の前に出たフリックとビクトールが慌てるなよと言ったのでカタカタと震える手を強く握り直した。
「私の家に入ってくるとは良い度胸ですね」
そう、本当に久しぶりに聞く声が聞こえて、土から甦った死体と共に静かにネクロードは姿を見せた。
「野蛮な人達ですね…。おや?女性の方々には私の食事になってもらいましょうか?」
ビクトールがそれを聞いてふざけるなと大声で叫んだ
それと同時に、皆に目を瞑ってと叫びながら用意していたシエラ特製の破魔の札にたっぷりと魔力を上乗せして発動した。
壮絶な光を放ちまるで月の様な黄色い光がネクロードの身体を一瞬で包み叫び声を上げたネクロードの右腕がボトリと地面に落ちた。
蘇った死体は粉々に砕け散り、ネクロードの顔も半分溶けていて光が消え去っても悲痛な声をあげる
「く、クソがぁぁぁ。隠し身が通じない。何で…」
銀のナイフを取り出した私がビクトールの前に出てニッコリと笑うと、ネクロードは元から青かった顔を更にまっ青にして口を金魚の様にパクパクさせた。
「ゲェ…セツナ様…」
「久しぶりだねぇ。シエラ特製の札はどうだい?散々探したよ」
ゲェと、物っ凄い嫌そうな顔をされた私は武者震いが止まらない右手の剣を振りかぶってネクロードの額に投げつける。
寸前の所で避けたネクロードに出来た隙の一瞬を見逃さずに銀のナイフを股間に突き刺した。もの凄い叫び声で痛がるネクロードは膝をついて申し訳ありませんでしたと謝りながら命乞いをしてきた
そのわざとらしい命乞いは私の感情を掻き乱し、ナイフを乱暴に引き抜いてもう一度振りかぶる
「セツナ!伏せろ」
ビクトールの声で直ぐにその言葉通りに伏せると、ネクロードが放っていたのか真空派の様なものがヒュンヒュンと音をたてながら私の真上を通り過ぎていく
その瞬間にビクトールとフリック、リオウがたたみかけるようにネクロードに一撃を入れようと飛びかかったのだが、一瞬の隙にネクロードは少し笑った様な顔で蝙蝠に姿を変え飛び去ってしまった
「チッ、やっぱり星辰剣じゃないと駄目だったか」
舌打ちをして落ちているネクロードの右腕を力任せに蹴っ飛ばす
むしゃくしゃした気持ちが抑えきれずにイライラしていると、ふと私は視線に気付きそちらを振り返る。リオウもナナミもアイリもまるで怖い物でも見たかの様な顔で私を見ていた
フリックとビクトールも目を見開き珍しいものを見た様な顔で私を凝視している
「…あっ、ご、ごめん。あの札もナイフも何十年もかけて作った物だったから。あまり効かなくてイライラしちゃって…」
ネクロードに凄く効いてたと思うよ。とリオウがポロっと口にした言葉に、でも結局逃しちゃったし。と肩を落としシュンとした私にナナミが泣きながら私の腕に抱きついてくる。
「良かったーいつものセツナちゃんだー」
「あーネクロードより途中からセツナさんのが怖かったよ」
そう言ったアイリにリオウが、それだけの事されたんだよと小さな声で呟いた。
ビクトールが女は怒らせない方がいいと決めた瞬間だったぜと笑いながら私の投げた剣を拾って渡してくれた。
何も言わないフリックに、フリックも怖かった?と聞くと少し考えてから咳払いし、ネクロードだから仕方ないと言ってくれる
「フリック様!愛してる」
「はいはい、俺もだよ」
そう冗談を言って笑った私に、ビクトールは俺もフリック様愛してると言って気持ちが悪いと殴られていた
そんな冗談を言い合ってると、むしゃくしゃした気持ちは何処かに消え失せていっていた
長い事1人で旅をしていたからやっぱり仲間って良いなって改めて思った
持って来ていた簡単な昼食を食べて少し休憩しているとフリードさんが口を開く
「セツナさんが先程言っていた星辰剣とは何の事何ですか?」
「えっと、夜の紋章が剣になったものらしいんだけど探したんだけど見つからなくて。だから長老と長年かけて星辰剣に匹敵する道具を開発してたんだ…。噂によると星辰剣は大きな熊が咥えて持ち去ったって変な噂をカクの町で聞いたんだけど、結局見つからなかったな…」
そう言った私に隣に座っていたフリックが思いっきり吹き出して私の肩に顔を埋めて笑い出した。
リオウとナナミと私が首を傾げるとビクトールの顔がどんどん赤くなって来てついに叫び出す
「誰がくまじゃー」
耳を塞いだ私達とは違い、フリックはまだ笑いがおさまらないのかヒーヒーと笑いながら涙を拭っていてピンときた。
「もしかして…噂のくまさんて…」
「チッ、俺が持ってたんだよ。あのクソ煩い剣を。とゆーか何だよその噂」
そう言って怒り出したビクトールにシラッとフリードさんは良かった見つかりましたね。解決ですと言って立ち上がる。
「ぷっ、さぁ熊。星辰剣を取りにいくぞ」
「うるせーぞフリック!」
「なんだ…ビクトールの事だったのか…。森を探しまくった私とシエラは一体何だったのか…」
「お前、森の中探してたのか?」
「…だって熊が住んでそうなのは森だと思ったんだもん」
「まぁ、お目当ての熊は森に囲まれた砦にいたじゃないか。見つかって良かったな」
「おいフリック、後で覚えてろよ」
そんなやり取りをしながら星辰剣を取りにビクトールの後に続く私達にアイリだけが渇いた笑いをこぼしていた。
案内された風の洞窟には、そんなに強いモンスターもいなかったけれど所々に突風が吹いていてそちらの方が苦労した。ビクトールがうろ覚えだったので途中手分けして枝分かれの道を捜索したりしたけれど、何とか奥にたどり着いた時に暗闇から人影が出て来てビクトールの名前を呼んだ。
「待ってましたよ、ビクトールさん」
「誰だ?お前…知らない顔だな」
「貴方とゆうより星辰剣に用があります。私はヴァンパイヤハンターのカーンと言います。」
それを聞いてゾッとした私はサッと身体が反応してフリックの後ろに隠れるとフリックがどうした?と私を見る。
そんな私を覗き込むように見て来たカーンをジトリと見つめると私に苦笑いしながら口を開いた。
「セツナ様ですね、シエラ様とセツナ様の事は知っています。どうか安心して下さい、私の狙いはネクロードだけですので」
「…はぁ、良かった。破魔の紋章とか使われたらどうしようかと思った。」
「どうなるんだ?」
「うーん。凄い痛がる。弱点だね」
そう言って笑った私にフリックが、おいたをしたら破魔だなと笑ったので洒落にならないよと返す。
そのやりとりにリオウもナナミもアイリも何となく私の正体を察したみたいだったけど、私に対する彼らの言動はそれからも全く変わらなくて、それがとても嬉しかった。
カーンと一緒に奥まで進むと、岩に剣が突き刺さっているのが遠くから見える。顔の様に見える模様に目を凝らしてじっとその姿を見つめると突き刺さっているのでは無く剣は本当に岩から少し上の所に浮いていた
「よぉ!相棒。元気にしてたか?」
「ビクトール貴様…。こんな洞窟に置き去りにするばかりか吸血鬼まで連れて来おって。気が狂ったか馬鹿者め」
余程お怒りなのか、落雷が洞窟内に落ちその中の1つがビクトールの頭を直撃した。
痛かったのか頭を抑えて唸るビクトールに皆剣が喋ってると驚愕する。
私も喋った事に驚きはしたけれど、今しっかりと話して協力を求めないと。と思い長年探した思いを噛み締めながら星辰剣の前まで歩いて行く。
「…星辰剣様、蒼き月の村の生き残りのセツナと申します。月の紋章を盗んだネクロードを村の長老シエラ様に代わり消滅させる為に参りました。どうかお力をお貸し下さい」
そう言って星辰剣の前で跪いた私の隣にカーンも跪くと、我がヴァンパイアハンター一族もネクロードを追っています。星辰剣様のお力をお貸し下さいと頭を下げた。
「…ビクトールとは大違いだな。こやつらの方が話が分かる」
なんだと!と怒り出すビクトールにリオウとフリックが止めに入ると、星辰剣は私とカーンに抜くが良いと言ってくれた。何とかなりましたねぇと言いたそうな顔でカーンが私を見たので、うんうんと頷いて胸を撫で下ろした。
そのままノースウィンドウに向かった私達は途中で休憩を一度挟み、体力を回復させてから村に入った。
村に入った瞬間に死者の気配が全く無くなっている事に気付く。
「本格的に逃げたな…」
やっと星辰剣が手に入ったのにと思うと悔しくて堪らなくて涙が出てくる
「…まぁ、でもあれは…誰でも逃げるって」
そう言ったアイリに私は何も言えずにしょんぼりと肩を落とした。
建物内のモンスターを狩って怒りを発散させていると、外が騒がしくなって来て窓から外を覗く。
そこにはアップルにレオナさん、バーバラさんにリィナ達がビクトール達と話をしているのが見えた。
急いで下に降りると、レオナさんとバーバラさんは私を見つけると嬉しそうに駆け寄って来てくれた。400年以降は数えていないから本当の年は分からなくなってしまったけど、砦からの付き合いで半年も経っていないのに…。こんなに生きていた事を喜んでくれる何てと心が温かくなった。
その時、門の入り口付近でアップルと話していたフリードが急に膝を付いたのが見えた。
えっ?と私がレオナさんとバーバラさんを見ると2人はグランマイヤー様が処刑されたんだよと言って悲しそうに目を閉じた
それから先が塞がれてしまった私達は建物内に入り、皆でこれからの話し合いになった。アップルの必ず勝利に導いてくれる軍師がいるから仲間に引き入れたいとゆう強い希望で、アップルとアイリとリオウとナナミがラダトに迎えに行く事になった。
直ぐに出発した4人を見送ってから建物内の掃除に取り掛かっていると、ミューズやサウスウィンドウから逃げて来た人々が集まって来ていた。
その中にいた砦の仲間のカレダンやシロとキニスンを見つけた時は嬉しくてつい少し涙目になってしまった
その日の夕方過ぎ、人数が増えたので瓦礫やゴミなどの片付けが思ったよりも早く終わり
釣りでもして夕飯を作ろうかと水辺に行く途中で話し声が聞こえて私は立ち止まった。
「随分綺麗になっただろ、ディジー。ずっとこんな錆びれた所で寂しかっただろ。これから此処には多くの人間が集まる、もう寂しくないさ」
そう、ビクトールが墓に向かって話しかけていた。
何となく聞いてはいけない気がして来た道を戻るとフリックが私を探していたのかこちらに向かってくる
「そんなに慌てて何処に行くんだ?」
「…丁度良かった、フリックも手伝ってくれる?」
「ん?何をだ?」
いいけどよ。と言ったフリックの手を掴み外に出ると入り口から少し出た所に可愛らしい色とりどりの花が咲き乱れているのを見つけた。私があったと言って根を掘り起こしているとフリックが駆け寄ってくる
「何処に植えるんだ?」
「…ビクトールが…さっき墓場でディジーさんて人に話しかけててさ…。」
「ディジー何て奴仲間にいたか?」
「…お墓の中にいるみたい」
「……そうか。ディジーなら女性だろうな。ピンクの花と黄色の花も持って行くか?」
「フリック様素敵」
「はいはい、知ってる」
そう言って笑ってあしらうフリックは一生懸命に花を優しく根から沢山摘んでくれた。2人で花を持って墓場に入るとビクトールはまだ墓の前に座っていた
「ビクトール」
「…お前ら…」
私達が持っている沢山の花を見るとビクトールは何も言わずに下を向いてしまった。
フリックと一緒にお墓の1つ1つに花を植えていると目を真っ赤にしたビクトールが無言で手伝ってくれる
ディジーさんは何色が好きだった?と聞くと、少しビックリした顔をしてからピンクだなと笑った。
3人で植えた花々に水をやって、その日は花畑になった墓場で酒を呑んだ。
酔ってきたビクトールが少しだけしんみりとしてディジーさんの話をしだしたので私達は静かに聞いていた。ビクトールがディジーさんの墓に手をついて守ってあげれなくてごめんな
そう言った瞬間に優しい薄いグリーンの光がビクトールを包み、ありがとうビクトールと優しい女性の声が墓場に響く。
それを聞いてビクトールは声をあげて泣きだした
その光はまるでビクトールを抱きしめる様な女性の形をしていた。
私もそれを見て自然と涙が出て来てしまって、自分の服の袖で涙を拭っていると横にいたフリックがビクトールとその光を見ながら小さな声で
守れなくてごめんな…とボンヤリとした顔で呟いた
その後墓の前で眠ってしまったビクトールをフリックは珍しく文句も言わずにベッドまで運んでいた。
私も疲れてしまいビクトールが眠るベッドの下に厚手のマットを敷いて横になるとフリックが私の隣に座って髪を撫でてくる
「…さっきの、不思議だったね」
「ああ。ディジーだったんだろうな…」
「…ビクトール、守れなくて悔しかったんだろうね」
「…俺も、お前が俺の居ない所で死んだらと思うと」
そう言ったフリックは凄く辛そうな顔をして、私の頭を抱き締める。
「…私はオデッサじゃないよ…」
「…そんなつもりは……あったのかもしれないな…。すまない、ちょっと頭を冷やしてくる」
意地悪な言い方をしてしまったと直ぐに反省したけれど、部屋を出て行くのを止めれなかった
目を瞑っていると身体が疲れていたのか直ぐに眠気がきてフリックが気になるのに、意識は離れていってしまった
約束よと呟いた自分の声で目が覚めた。凄く切ない夢を見た。
外はまだ暗い。ビクトールのイビキが部屋中にこだましていて、何て煩いんだと思いながら反対にゴロンと寝返りをうてばフリックが横になっていた。
「なんだ、起きたのか?まだ夜中だから寝てろ」
そう言ってまだハッキリと目が覚めていない私にマントをかけ直してくれる。彼の腕に頭を乗せて胸に抱き付けば、背中に回ってきた腕の温かさにホッとしてしまう。
「さっきは…」
「いや…言わなくて良い。」
そう言って私の額に唇を寄せてきたフリックに少し恥ずかしいけど本音をもらす
「…でも…傷付けてごめん…。フリックがまだオデッサの事…大事に想う気持ちは大切に尊重してあげたいけど…なんだか淋しかったのかもしれない…。」
そう言うと彼から返事は貰えずに、不安になった。
やっぱり怒らせてしまったか。言わない方が良かったかなと考えていると、急にククっとフリックの押し殺した様な声が聞こえて私は彼を見つめる
「…笑ってんの?」
「…可愛いなぁと思っただけさ。初めて妬いてもらえたな」
「もう、怒ってるのかと思った」
「好きな女に妬いてもらって怒る男はいないさ」
「はぁ、やられた。…でもね、聞いてくれる?」
「なんだ?」
「さっき不思議な夢を見たの。ディジーさんの影響だと思うんだけどね。夢にオデッサが出て来て、指切りしたのよ。絶対に死なないって約束したの」
これは本当に誰にも言う気は無かったんだけどね、充分長く生きたからネクロードを殺して紋章を始祖に渡したら、死んで行った仲間の元に行こうと思っていたからさ。何かオデッサに見破られたな…って。不思議な夢だった
私が穏やかに笑うと、フリックは瞳を揺るがせてその瞳から涙を溢した
私をそのまま抱き締めて唇に深く口付ける。涙の味の口付けが悲しくて私もそのまま彼の温かさを感じて瞳を閉じる
絶対に死なないでくれ。俺とも約束してくれと小さな声で子供の様に私の胸で泣くフリックに約束すると言って私は彼を抱き締めた
うーんと指を咥えてもぞもぞと動き出したピリカを見て私から手を離して立ち上がるとピリカに布団を掛けて髪をそっと撫でてやっていた
「…大丈夫?平気??」
「ああ、落ち着いた。悪かったな…。明日はリオウをグランマイヤー様に紹介してくる。グランマイヤー様からも何か話があるみたいだからな」
「…分かった。何かあったら声を掛けてね。後ピリカはこのまま寝かせておくね」
「ああ。おやすみ」
うんと私が頷いたのを見てフリックが部屋を出ると、右手で胸に流れた渇ききっていない涙の後をそっと撫でる。フリックの事を考えると今とても幸せな様な失くすのが怖い様なそんな気持ちで胸がいっぱいになってきた。
村が帰る所だと思っていたけど、彼のそばがもう私の居場所みたいになってきていて。側にずっといても老いない私よりも一緒に老いて死んでくれる女性と居た方が彼が幸せなんじゃないかとか。
そんな事を考えてモヤモヤしていると、可愛らしい天使の様な寝顔のピリカが小さな声でお母さんと言った
ピリカが寝ている時だけでも声が出た事に自然と嬉しくなって微笑んでいると、そこで少し自分の気持ちが落ち着いた。今一緒に居たいからいる。
それだけで良いって思っていた方がいいなと思えた。
朝、服を引っ張られて目を覚ますとお腹をさするピリカが目の前に立っていた。一緒に朝風呂に入ってからご飯にしようか?と笑いかけるとコクンと頷いたピリカと一緒に風呂場に向かった。
女湯の脱衣所にあるカゴに畳まれた洋服が入っており中から話声が聞こえる。
「誰か入ってるね、アップルちゃんかな?」
私達も入ろうかとピリカと一緒に服を脱いでから女湯の中に入ると昨日リオウに簡単に紹介してもらった姉妹のリィナとアイリが湯船に浸かっていた。
「ああ、リィナにアイリ。おはよう」
「あら?おはよう御座います。ピリカちゃんも」
「セツナちゃん、おはよう」
声がうまく出ないからか可愛く手を上げたピリカの姿を見てリィナもアイリも優しく微笑んだ。
ピリカと身体の洗いっこをしてから湯船に浸かるとリィナが私を見て話しかけてきた。
「昨日はゆっくり話せませんでしたね、セツナさんはビクトール傭兵隊の方何ですか?」
「うーん。何て言えば良いんだろうな…ハイランドに向かう途中にたまたま怪我してたフリックを拾ったらビクトールに兵の訓練を頼まれて。そしたらハイランドが砦に攻めてきて戦って今に至るかな…」
それを聞いてハハハと渇いた様に笑ったアイリに私もアハハと苦笑いで返すと、リィナが凄い巻き込まれましたね、大変だったでしょうと言ってくる。
まぁ巻き込まれる何て言ったら皆そうだよと返すとアイリがまぁそうだねと頷いた。
4人で世間話をしてから女湯を出て食事所に向かうとビクトールとフリックとリオウが3人で朝食をとっていた。
「おはよう、3人とも」
「おー皆美人で風呂あがりなんてたまらんな」
「ビクトールはおっさんみたいな事言って…」
えいっとビクトールにデコピンをして遊んでいるとピリカも真似をしてビクトールの足にデコピンをして笑っていた。
ふと視線を感じてその方向を見るとリオウが私を見つめている。
「どしたの?リオウ。何かついてる?」
「セツナさん、ピアス変えました?肌が白いからか青が凄く似合います」
「えー、何かそう言われると嬉しいな。フリックがくれたのよ」
「へぇ、フリックさんは意外に手が早いんですね」
そう言ったリオウにフリックが飲んでいた珈琲を吹き出すと、ビクトールが大笑いしながらリオウの背中を叩いた。
ピアスで手が早いって何かな?と思ったけど、リオウの珍しい冗談に私も笑ってしまう。
隣にいたリィナとアイリもプレゼントしてくれる男性がいるなんていいなと言ってきたので、ビクトールに買ってもらいなと言うと2人は家を買ってくれとか、城が欲しいとビクトールに詰め寄ってまたそれを見て皆んなで笑ってしまった。
「ほら、そろそろ行くぞ二人とも」
フリックの一言にリオウとビクトールが立ち上がると3人は行ってくると言って宿を出て行った。
それから四人で食事をしていると、寝ぼけたアップルとナナミが2階から降りて来たので合流して6人でお茶を楽しんでいた。
少し経ってから宿のドアが開くと、3人の他に眼鏡を掛けた真面目そうな男性が一緒に入ってくる。
「おう!セツナ。お前のお目当てと会えるかもしれねーぞ」
そのビクトールの言葉に私は直ぐに支度をしてくると言って部屋に戻った。
部屋に置いてあった袋から破魔の札と銀のナイフを取り出して腿のホルスターに装備し旅用の服に着替えブーツに履き替えた。
ふと、ビクトールにネクロードの話はしてない筈だと一瞬思ったけれど、勘のいい彼の事だから話さなくても分かるのだろうと勝手に解釈する事にした。
磨いておいた剣を手に持つと、自然と手は武者震いで震えていた。鏡に映った自分の顔が悪鬼の様に写り顔を背けて一階に早足で戻った。
「支度出来たよ」
「じゃあ行くか、フリード道案内頼むぜ」
「了解です」
私はここでピリカを見てますと言ってくれたリィナとボルカン、アップルにお礼を言ってまだ寝ぼけているナナミと行きたいと言ってきたアイリを連れてサウスウィンドゥを出た
草原をみんなで歩いていると、横からフリードと呼ばれた男性が挨拶してくる。
そう言えば、どうゆう状況なのかと聞くと今回の事はノースウィンドウがビクトールの故郷で、怪物が出るとゆう噂が絶えないのでグランマイヤー様が直々にビクトール殿に調査をお願いしましたとフリードから説明を受けた私はビクトールから昔の話を聞いていたので、その現場に行くのかと少し胸が痛くなった。
ネクロードに会える事を待ち望んでいた私にとっては有難いけれど、自分が穴を掘った墓だらけの村に帰るなんてと自分と同じ境遇のビクトールに同情してしまう。
シエラと一緒に何回も何回も仲間の墓を掘ったのを思い出して行く前から悲しい気持ちになってしまった。
ノースウィンドウに着くと、錆びれた建物と伸びっぱなしの雑草に数え切れない墓があるだけで。
全員で建物から調べようかと話し合い、中に入ろうと進むと土がボコリと音を立てて私は直ぐに剣を抜いた
私の前に出たフリックとビクトールが慌てるなよと言ったのでカタカタと震える手を強く握り直した。
「私の家に入ってくるとは良い度胸ですね」
そう、本当に久しぶりに聞く声が聞こえて、土から甦った死体と共に静かにネクロードは姿を見せた。
「野蛮な人達ですね…。おや?女性の方々には私の食事になってもらいましょうか?」
ビクトールがそれを聞いてふざけるなと大声で叫んだ
それと同時に、皆に目を瞑ってと叫びながら用意していたシエラ特製の破魔の札にたっぷりと魔力を上乗せして発動した。
壮絶な光を放ちまるで月の様な黄色い光がネクロードの身体を一瞬で包み叫び声を上げたネクロードの右腕がボトリと地面に落ちた。
蘇った死体は粉々に砕け散り、ネクロードの顔も半分溶けていて光が消え去っても悲痛な声をあげる
「く、クソがぁぁぁ。隠し身が通じない。何で…」
銀のナイフを取り出した私がビクトールの前に出てニッコリと笑うと、ネクロードは元から青かった顔を更にまっ青にして口を金魚の様にパクパクさせた。
「ゲェ…セツナ様…」
「久しぶりだねぇ。シエラ特製の札はどうだい?散々探したよ」
ゲェと、物っ凄い嫌そうな顔をされた私は武者震いが止まらない右手の剣を振りかぶってネクロードの額に投げつける。
寸前の所で避けたネクロードに出来た隙の一瞬を見逃さずに銀のナイフを股間に突き刺した。もの凄い叫び声で痛がるネクロードは膝をついて申し訳ありませんでしたと謝りながら命乞いをしてきた
そのわざとらしい命乞いは私の感情を掻き乱し、ナイフを乱暴に引き抜いてもう一度振りかぶる
「セツナ!伏せろ」
ビクトールの声で直ぐにその言葉通りに伏せると、ネクロードが放っていたのか真空派の様なものがヒュンヒュンと音をたてながら私の真上を通り過ぎていく
その瞬間にビクトールとフリック、リオウがたたみかけるようにネクロードに一撃を入れようと飛びかかったのだが、一瞬の隙にネクロードは少し笑った様な顔で蝙蝠に姿を変え飛び去ってしまった
「チッ、やっぱり星辰剣じゃないと駄目だったか」
舌打ちをして落ちているネクロードの右腕を力任せに蹴っ飛ばす
むしゃくしゃした気持ちが抑えきれずにイライラしていると、ふと私は視線に気付きそちらを振り返る。リオウもナナミもアイリもまるで怖い物でも見たかの様な顔で私を見ていた
フリックとビクトールも目を見開き珍しいものを見た様な顔で私を凝視している
「…あっ、ご、ごめん。あの札もナイフも何十年もかけて作った物だったから。あまり効かなくてイライラしちゃって…」
ネクロードに凄く効いてたと思うよ。とリオウがポロっと口にした言葉に、でも結局逃しちゃったし。と肩を落としシュンとした私にナナミが泣きながら私の腕に抱きついてくる。
「良かったーいつものセツナちゃんだー」
「あーネクロードより途中からセツナさんのが怖かったよ」
そう言ったアイリにリオウが、それだけの事されたんだよと小さな声で呟いた。
ビクトールが女は怒らせない方がいいと決めた瞬間だったぜと笑いながら私の投げた剣を拾って渡してくれた。
何も言わないフリックに、フリックも怖かった?と聞くと少し考えてから咳払いし、ネクロードだから仕方ないと言ってくれる
「フリック様!愛してる」
「はいはい、俺もだよ」
そう冗談を言って笑った私に、ビクトールは俺もフリック様愛してると言って気持ちが悪いと殴られていた
そんな冗談を言い合ってると、むしゃくしゃした気持ちは何処かに消え失せていっていた
長い事1人で旅をしていたからやっぱり仲間って良いなって改めて思った
持って来ていた簡単な昼食を食べて少し休憩しているとフリードさんが口を開く
「セツナさんが先程言っていた星辰剣とは何の事何ですか?」
「えっと、夜の紋章が剣になったものらしいんだけど探したんだけど見つからなくて。だから長老と長年かけて星辰剣に匹敵する道具を開発してたんだ…。噂によると星辰剣は大きな熊が咥えて持ち去ったって変な噂をカクの町で聞いたんだけど、結局見つからなかったな…」
そう言った私に隣に座っていたフリックが思いっきり吹き出して私の肩に顔を埋めて笑い出した。
リオウとナナミと私が首を傾げるとビクトールの顔がどんどん赤くなって来てついに叫び出す
「誰がくまじゃー」
耳を塞いだ私達とは違い、フリックはまだ笑いがおさまらないのかヒーヒーと笑いながら涙を拭っていてピンときた。
「もしかして…噂のくまさんて…」
「チッ、俺が持ってたんだよ。あのクソ煩い剣を。とゆーか何だよその噂」
そう言って怒り出したビクトールにシラッとフリードさんは良かった見つかりましたね。解決ですと言って立ち上がる。
「ぷっ、さぁ熊。星辰剣を取りにいくぞ」
「うるせーぞフリック!」
「なんだ…ビクトールの事だったのか…。森を探しまくった私とシエラは一体何だったのか…」
「お前、森の中探してたのか?」
「…だって熊が住んでそうなのは森だと思ったんだもん」
「まぁ、お目当ての熊は森に囲まれた砦にいたじゃないか。見つかって良かったな」
「おいフリック、後で覚えてろよ」
そんなやり取りをしながら星辰剣を取りにビクトールの後に続く私達にアイリだけが渇いた笑いをこぼしていた。
案内された風の洞窟には、そんなに強いモンスターもいなかったけれど所々に突風が吹いていてそちらの方が苦労した。ビクトールがうろ覚えだったので途中手分けして枝分かれの道を捜索したりしたけれど、何とか奥にたどり着いた時に暗闇から人影が出て来てビクトールの名前を呼んだ。
「待ってましたよ、ビクトールさん」
「誰だ?お前…知らない顔だな」
「貴方とゆうより星辰剣に用があります。私はヴァンパイヤハンターのカーンと言います。」
それを聞いてゾッとした私はサッと身体が反応してフリックの後ろに隠れるとフリックがどうした?と私を見る。
そんな私を覗き込むように見て来たカーンをジトリと見つめると私に苦笑いしながら口を開いた。
「セツナ様ですね、シエラ様とセツナ様の事は知っています。どうか安心して下さい、私の狙いはネクロードだけですので」
「…はぁ、良かった。破魔の紋章とか使われたらどうしようかと思った。」
「どうなるんだ?」
「うーん。凄い痛がる。弱点だね」
そう言って笑った私にフリックが、おいたをしたら破魔だなと笑ったので洒落にならないよと返す。
そのやりとりにリオウもナナミもアイリも何となく私の正体を察したみたいだったけど、私に対する彼らの言動はそれからも全く変わらなくて、それがとても嬉しかった。
カーンと一緒に奥まで進むと、岩に剣が突き刺さっているのが遠くから見える。顔の様に見える模様に目を凝らしてじっとその姿を見つめると突き刺さっているのでは無く剣は本当に岩から少し上の所に浮いていた
「よぉ!相棒。元気にしてたか?」
「ビクトール貴様…。こんな洞窟に置き去りにするばかりか吸血鬼まで連れて来おって。気が狂ったか馬鹿者め」
余程お怒りなのか、落雷が洞窟内に落ちその中の1つがビクトールの頭を直撃した。
痛かったのか頭を抑えて唸るビクトールに皆剣が喋ってると驚愕する。
私も喋った事に驚きはしたけれど、今しっかりと話して協力を求めないと。と思い長年探した思いを噛み締めながら星辰剣の前まで歩いて行く。
「…星辰剣様、蒼き月の村の生き残りのセツナと申します。月の紋章を盗んだネクロードを村の長老シエラ様に代わり消滅させる為に参りました。どうかお力をお貸し下さい」
そう言って星辰剣の前で跪いた私の隣にカーンも跪くと、我がヴァンパイアハンター一族もネクロードを追っています。星辰剣様のお力をお貸し下さいと頭を下げた。
「…ビクトールとは大違いだな。こやつらの方が話が分かる」
なんだと!と怒り出すビクトールにリオウとフリックが止めに入ると、星辰剣は私とカーンに抜くが良いと言ってくれた。何とかなりましたねぇと言いたそうな顔でカーンが私を見たので、うんうんと頷いて胸を撫で下ろした。
そのままノースウィンドウに向かった私達は途中で休憩を一度挟み、体力を回復させてから村に入った。
村に入った瞬間に死者の気配が全く無くなっている事に気付く。
「本格的に逃げたな…」
やっと星辰剣が手に入ったのにと思うと悔しくて堪らなくて涙が出てくる
「…まぁ、でもあれは…誰でも逃げるって」
そう言ったアイリに私は何も言えずにしょんぼりと肩を落とした。
建物内のモンスターを狩って怒りを発散させていると、外が騒がしくなって来て窓から外を覗く。
そこにはアップルにレオナさん、バーバラさんにリィナ達がビクトール達と話をしているのが見えた。
急いで下に降りると、レオナさんとバーバラさんは私を見つけると嬉しそうに駆け寄って来てくれた。400年以降は数えていないから本当の年は分からなくなってしまったけど、砦からの付き合いで半年も経っていないのに…。こんなに生きていた事を喜んでくれる何てと心が温かくなった。
その時、門の入り口付近でアップルと話していたフリードが急に膝を付いたのが見えた。
えっ?と私がレオナさんとバーバラさんを見ると2人はグランマイヤー様が処刑されたんだよと言って悲しそうに目を閉じた
それから先が塞がれてしまった私達は建物内に入り、皆でこれからの話し合いになった。アップルの必ず勝利に導いてくれる軍師がいるから仲間に引き入れたいとゆう強い希望で、アップルとアイリとリオウとナナミがラダトに迎えに行く事になった。
直ぐに出発した4人を見送ってから建物内の掃除に取り掛かっていると、ミューズやサウスウィンドウから逃げて来た人々が集まって来ていた。
その中にいた砦の仲間のカレダンやシロとキニスンを見つけた時は嬉しくてつい少し涙目になってしまった
その日の夕方過ぎ、人数が増えたので瓦礫やゴミなどの片付けが思ったよりも早く終わり
釣りでもして夕飯を作ろうかと水辺に行く途中で話し声が聞こえて私は立ち止まった。
「随分綺麗になっただろ、ディジー。ずっとこんな錆びれた所で寂しかっただろ。これから此処には多くの人間が集まる、もう寂しくないさ」
そう、ビクトールが墓に向かって話しかけていた。
何となく聞いてはいけない気がして来た道を戻るとフリックが私を探していたのかこちらに向かってくる
「そんなに慌てて何処に行くんだ?」
「…丁度良かった、フリックも手伝ってくれる?」
「ん?何をだ?」
いいけどよ。と言ったフリックの手を掴み外に出ると入り口から少し出た所に可愛らしい色とりどりの花が咲き乱れているのを見つけた。私があったと言って根を掘り起こしているとフリックが駆け寄ってくる
「何処に植えるんだ?」
「…ビクトールが…さっき墓場でディジーさんて人に話しかけててさ…。」
「ディジー何て奴仲間にいたか?」
「…お墓の中にいるみたい」
「……そうか。ディジーなら女性だろうな。ピンクの花と黄色の花も持って行くか?」
「フリック様素敵」
「はいはい、知ってる」
そう言って笑ってあしらうフリックは一生懸命に花を優しく根から沢山摘んでくれた。2人で花を持って墓場に入るとビクトールはまだ墓の前に座っていた
「ビクトール」
「…お前ら…」
私達が持っている沢山の花を見るとビクトールは何も言わずに下を向いてしまった。
フリックと一緒にお墓の1つ1つに花を植えていると目を真っ赤にしたビクトールが無言で手伝ってくれる
ディジーさんは何色が好きだった?と聞くと、少しビックリした顔をしてからピンクだなと笑った。
3人で植えた花々に水をやって、その日は花畑になった墓場で酒を呑んだ。
酔ってきたビクトールが少しだけしんみりとしてディジーさんの話をしだしたので私達は静かに聞いていた。ビクトールがディジーさんの墓に手をついて守ってあげれなくてごめんな
そう言った瞬間に優しい薄いグリーンの光がビクトールを包み、ありがとうビクトールと優しい女性の声が墓場に響く。
それを聞いてビクトールは声をあげて泣きだした
その光はまるでビクトールを抱きしめる様な女性の形をしていた。
私もそれを見て自然と涙が出て来てしまって、自分の服の袖で涙を拭っていると横にいたフリックがビクトールとその光を見ながら小さな声で
守れなくてごめんな…とボンヤリとした顔で呟いた
その後墓の前で眠ってしまったビクトールをフリックは珍しく文句も言わずにベッドまで運んでいた。
私も疲れてしまいビクトールが眠るベッドの下に厚手のマットを敷いて横になるとフリックが私の隣に座って髪を撫でてくる
「…さっきの、不思議だったね」
「ああ。ディジーだったんだろうな…」
「…ビクトール、守れなくて悔しかったんだろうね」
「…俺も、お前が俺の居ない所で死んだらと思うと」
そう言ったフリックは凄く辛そうな顔をして、私の頭を抱き締める。
「…私はオデッサじゃないよ…」
「…そんなつもりは……あったのかもしれないな…。すまない、ちょっと頭を冷やしてくる」
意地悪な言い方をしてしまったと直ぐに反省したけれど、部屋を出て行くのを止めれなかった
目を瞑っていると身体が疲れていたのか直ぐに眠気がきてフリックが気になるのに、意識は離れていってしまった
約束よと呟いた自分の声で目が覚めた。凄く切ない夢を見た。
外はまだ暗い。ビクトールのイビキが部屋中にこだましていて、何て煩いんだと思いながら反対にゴロンと寝返りをうてばフリックが横になっていた。
「なんだ、起きたのか?まだ夜中だから寝てろ」
そう言ってまだハッキリと目が覚めていない私にマントをかけ直してくれる。彼の腕に頭を乗せて胸に抱き付けば、背中に回ってきた腕の温かさにホッとしてしまう。
「さっきは…」
「いや…言わなくて良い。」
そう言って私の額に唇を寄せてきたフリックに少し恥ずかしいけど本音をもらす
「…でも…傷付けてごめん…。フリックがまだオデッサの事…大事に想う気持ちは大切に尊重してあげたいけど…なんだか淋しかったのかもしれない…。」
そう言うと彼から返事は貰えずに、不安になった。
やっぱり怒らせてしまったか。言わない方が良かったかなと考えていると、急にククっとフリックの押し殺した様な声が聞こえて私は彼を見つめる
「…笑ってんの?」
「…可愛いなぁと思っただけさ。初めて妬いてもらえたな」
「もう、怒ってるのかと思った」
「好きな女に妬いてもらって怒る男はいないさ」
「はぁ、やられた。…でもね、聞いてくれる?」
「なんだ?」
「さっき不思議な夢を見たの。ディジーさんの影響だと思うんだけどね。夢にオデッサが出て来て、指切りしたのよ。絶対に死なないって約束したの」
これは本当に誰にも言う気は無かったんだけどね、充分長く生きたからネクロードを殺して紋章を始祖に渡したら、死んで行った仲間の元に行こうと思っていたからさ。何かオデッサに見破られたな…って。不思議な夢だった
私が穏やかに笑うと、フリックは瞳を揺るがせてその瞳から涙を溢した
私をそのまま抱き締めて唇に深く口付ける。涙の味の口付けが悲しくて私もそのまま彼の温かさを感じて瞳を閉じる
絶対に死なないでくれ。俺とも約束してくれと小さな声で子供の様に私の胸で泣くフリックに約束すると言って私は彼を抱き締めた