幻想水滸伝2
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落ちかけの夕陽に照らされたリオウとナナミに声をかけてからピリカの横に私もそっと座る。2人のしんみりとした様子に何て声をかけようか迷ったけれど、素直にそのまま聞く事にした。
「…何かあったの?」
「セツナちゃん…ジョウイがね、帰って来ないの。ハイランド軍の食糧を見に行ったんだけど…ううっどうしよう」
そう言ったナナミの目は涙で潤み、事態を理解した私はピリカを膝に乗せてから2人になるべく安心する様に笑いかける
「ジョウイの紋章は凄い力を放っていたし、きっと余程の事が無い限り負けないから逃げてくる分には絶対大丈夫よ」
まさか自分が寝ている間にこんなことになって居るなんてと内心少しだけ後悔した。
「そう、ですよね。」
「もし帰って来なかったら私とリオウとナナミで探しに行きましょう。…じっと待つのは辛いよね」
私がそう言うと、ハッとした様にリオウは顔を上げて一度頷いてから下を向き眉を寄せた。
「…ジョウイが怪我でもしていて動けなかったらとかもしかしたら捕まったんじゃ無いかって色々悪い風に考えちゃって」
「それが普通だよリオウ、頭働いてる証拠。」
子供扱いするなとビクトールに言われた事を思い出して、リオウの頭を撫でようとした手を引っ込めた。
私の胸に顔ピッタリとくっつけて目を閉じたピリカを見て、珍しく静かなナナミが肩に頭を乗せてきた。
震えてはいなかったけれど、とても滅入っているような感じで思わず片手で抱き締めてしまう。
それから、私達に会話が無くなって少しして遠くの方に見えた青に皆立ち上がった。
リオウとナナミが目一杯の笑顔でジョウイに向かって駆けて行く。胸で眠るピリカちゃんを起こして、帰ってきたよと声を掛けると彼女も目一杯笑顔になりこちらに走ってきたジョウイに小さな体で目一杯抱き付いていた
「セツナさんにもご心配おかけしました…」
「ううん、誰に頼まれたか知らないけど。もし今度危険な事を頼まれたら私も一緒に行くから言ってね。」
目の前にいるジョウイの肩を優しく抱くと、彼は小さくハイと言って私の背に手を回した。
悪い癖なのかもしれないけれど、頭を撫でてやりたくなるのは子供扱いに入るのだろうか。私から離れピリカを抱き上げたジョウイとナナミとリオウと無事に宿に帰宅した。
酒場に入るとビクトールとフリックが酒を飲んでいて
ジョウイを見た途端に笑顔で立ち上がった
「戻ったか」
「良かったな、リオウ」
ご心配おかけしましたと律儀に2人にも頭を下げているジョウイを見て、育ちが良い子なんだなぁと内心笑ってしまうと同時に関心してしまう。
今はゆっくり休んで明日詳しく聞かせてくれと言ったビクトールに4人は頷いて部屋に戻って行った。
元の位置に座り直した2人は私にご苦労さんだったなと言って酒を飲み出した。ジトリとした目でフリックを睨んでいると、それに気が付いた彼は苦笑いで私に話しかける
「何だよセツナ…何で怒ってるんだ?」
「ふーんだ」
そう言ってフリックの後ろから堂々とテーブルにあった彼の酒を取り全て飲み干す。
それを見てあっはっはっ元気になったなと酒場中に聞こえる声で笑うビクトールに釣られて笑ってしまいそうになるが、空になったジョッキを少し悲しそうに見つめるだけで私に何も文句を言わないフリックの耳元で、フリックのスケベと誰にも聞こえない様に呟くと彼はビシリと固まった
そんな様子にスッキリした私はおやすみーと言って部屋に戻るのだった。
部屋に戻り洋服の整理をして、風呂に入ろうか悩んでいると部屋のドアがノックされて扉を開ければナッシュとビクトールとゆう珍しい組み合わせだった。
「具合はどうだ?」
「全然大丈夫、お酒一気飲みできるくらい平気。ナッシュには悪い事したね」
「いや、顔色が良いから貧血は治ったんだな、安心したよ」
「あんだけ飲めればもう大丈夫だろう、ナッシュもあんまり心配すんなよ、こいつは意外に丈夫だよ」
そう言ったビクトールはナッシュにあんまり長居すると狼にキレられるぞと付け足してから部屋に戻って行った。
ナッシュはその言葉に、狼?と一度首を傾げてから、私に向き直ると俺は明日此処を経つから。とだけ言って少し笑った
「分かった。明日のいつ経つの?」
「昼だな。」
「…最後に見送りくらいさせて頂戴」
そう言って彼の手を握って握手を求めると
「握手は色気が無いな」
そう言って私の髪をすくうように触ると、頬に口付ける。口を開けて呆然とする私に明日見送りよろしくなと言ってウインクをするとそのまま部屋に戻ってしまった。
何だか風の様な王子様だなぁと内心笑ってしまうが、明日最後にお弁当でも作っておいてやるかと決めてベッドに潜り込んだ。
朝中々早く起きれた私は顔を洗い歯を磨くと、ミューズで新しく買った肩が出た黒いワンピースに袖を通した。胸元が少し開いていて、タイトのロングだがスリットが入っていて気に入ってつい買ってしまった。
お腹に上からコルセットを巻くと気に入っているピアスとネックレスを付けた。
今日は戦う予定も無いし剣を下げなくても良いので久しぶりに少しお洒落したくなったのだ。
一階に降りると直ぐに厨房に入りナッシュのお弁当を作る為に作業に取り掛かった。卵焼きに唐揚げ、ウインナーにおにぎりと簡単な物だけど、おにぎりは余分に作って子供達に。唐揚げなどはビクトールとフリックのつまみにと作っていると、レオナさんやビクトールとフリック。リオウ達も起きてきたのか厨房にいても賑わっている声が聞こえてくる
ナッシュのお弁当を詰め終わり、レオナさんと自分の分のオニギリを握っているとビクトールのナッシュを呼ぶ声が聞こえて私は慌てて弁当を片手に厨房を出るとナッシュはもう挨拶を終えて宿を出ようとドアに手をかける所だった。
「ナッシュ!待って」
「セツナ、…可愛いじゃないか。そんな格好もするんだな」
「ふふ。ありがとう、はい。これ唐揚げ弁当」
鳥さんと食べてねと言って渡すと、ドミンゲスが唐揚げを見て何て言うか楽しみだとナッシュは笑った。
「可愛い格好してるじゃねーかセツナ!」
声の方に振り向けばビクトールが笑顔で、なぁフリックと彼に同意を求めている。
フリックはああ。とテーブルに肘を突きながら機嫌が良くなさそうに返事をする。そのフリックにナッシュは少し吹き出していた。
「…なぁセツナ、もしもあの2人から離れる事があったら…。いや、何でもない」
小さな声で顔を私に寄せそう呟いたナッシュはやっぱりいい。と言ってから笑うとジョウイを見張ってろよと言った。
その言葉に、何で?と言おうとした瞬間に彼の顔が目の前にあって唇にチュッと何かが触れた。
その瞬間にフリックが剣に手をかけて立ち上がるとガタンと椅子が倒れた音が響く。ナッシュはそのフリックの様子に笑いながら直ぐに宿を出て行った。
「ちょ、今のどうゆう意味!?!」
慌ててドアを開けて外のナッシュを追いかけ様とすると、もう彼の姿は何処にも無かった
私は1人困惑したまま宿に戻る。扉を開けると案の定ビクトールが大笑いをしながら、あいつやるなぁと言ってレオナさんに酒をねだって断られている所だった
「セツナ、大丈夫か??」
フリックが私の元に来て直ぐにハンカチで口を拭われる。その様子にビクトール以外の皆もフリックに笑ってしまっていた。
普段なら私も笑ってしまっていたけれど、今のナッシュの言葉にまだ混乱して笑える気分では無かった。
ビクトール達は今日は都市同盟の丘上会議に行くと言っていたから、私は留守番でもしてようと思っていたのだがアナベルを一度見ておけと言われて渋々頷いた。
料理途中の厨房に戻り片付けをしてから行くとビクトールに伝えると、早々と厨房に戻り片付けをしてから丘の上まで早足で向かう。
景色が良いのは聞いていたが、風が気持ちよくて気分転換には大分いいなと思いながら歩いていると入り口が騒がしい。
この声はビクトールじゃないか?と苦笑いで足を進めれば案の定俺の顔を知らないのか?通せと怒った様な口調のビクトールがリオウ達と入り口で揉めていた
「またその手か?ビクトール」
「フリック、遅かったな」
「ビクトール、お姉さんに怒鳴らないでよ。」
「セツナも来たか。だけどよ、ミューズ市に雇われてる隊長だって言っても通してくれないんだぜ」
ったくよ、この顔が何よりの証明じゃねーかと悪態を吐いたビクトールに役員のお姉さんは知らん顔をしてフリックを見つめていた。
「あの、青雷のフリックさんですか?」
「ん?ああ。フリックだ。」
「あっ、どうぞお通り下さい」
「…何でお前のことは知ってるんだよ」
「ビクトール、すねないの。行こう」
またうんたら文句を言い出す前に彼の背を押して中に入った。
中に入ると中々立派な会議室にナナミが嬉しそうにはしゃぐとリオウとジョウイがナナミを優しく席に着かせた。
長い間いるだけあって良いコンビネーションだなと思いながらビクトールのフリックの隣に着席すると直ぐにマチルダ騎士団の3人が入場してきた。
赤い騎士に見覚えがあって、何処かで見たなと思いながら彼を注視していると優しい瞳と目が合った。
彼は少しだけハッとした顔になってから優しく微笑むと優雅にウインクをしてくる。
少し気恥ずかしくなって下を向くと、横にいたフリックが一通り見ていたみたいで一瞬だけ眉を寄せた。また不機嫌になったなと思ったけれど今回は知らん顔する事にした。
守る気が本当にあるのかと内心思った。同盟とは名ばかりで信頼も結託も無かった。がアナベルさんは少し違って見える。
ビクトールが見ていて欲しいと言ったからには何かあるんだろうと思っていたけれど彼女がいるから保てるんだろうなと思いビクトールをチラリと見るとビクトールもアナベルさんも見ているようだった。
グダグダとした話し合いは1人の兵士の報告から内容はガラリと変わった。ハイランドがミューズに向けて進軍中と報告を受けたアナベルさんは全軍に有無を言わさず収集をかけた。
直ぐにビクトールとフリックは兵を集めに行ってくると走り出した。正直ジョウイの事が気がかりだったけれど今はハイランドを足止めする事が1番大事。
私は一度宿に戻り剣を持ってからまた丘の上まで上がった。奥の人気が無い所まで来ると上から地上を見下ろす。関所の方から大勢のハイランド軍が小さくこちらにゆっくりと向かって来ていた
ミューズの門の前には都市同盟の兵士が大勢集まっていて、その中にいる黄色と青の服が目立って見える
マチルダから援軍が来るまでこちらが危なくなったら紋章を使って撤退させる事ができれば良いのだが私のこの力は1日一度が限界だ。前に2回ぶっ放して死にかけた事がある
危なくなっても使わない様にしなくてはと決めて、戦が始まるのをその場で静かに待った。
1時間程して、射程内に入ったハイランド軍に向けて紋章を発動する為に集中しようとした時、一斉にハイランド軍から矢の雨が飛んだ
その瞬間にビクトールとフリック、リオウやナナミにジョウイが矢に貫かれる想像が頭にかけぬけると急に右手の紋章が眩い光を放ち、その光の眩しさに私は目を瞑ってしまう。
何秒かして目を開けると矢は全て凍らされていてゆっくりとまるでスローモーションの様に全て地に落ちて行った。
下の同盟の兵士を見れば、負傷者はいないようだが皆光ったのが見えたのかこちらを見ている様だった
フリックとビクトールが私だと気付いたのか少し笑った気がした。2人が出軍と大きな声で叫ぶのが聞こえて兵士の声が大地と空に呼応したように感じた。
途中、マチルダが合流するも直ぐに撤退。そのせいで流れが変わり複数の負傷者が出た。回復の水を上から同盟側に降らせたが守りきれず、ミューズ市内に兵士達が入って来てしまった。
それを見た私は慌てて丘の上からピリカを迎えに暗くなった道を宿に向かって走った。宿の戸を乱暴に開けると既に誰もおらず門から逃げようと走ると市庁舎にリオウ達が入って行くのが見えてそのまま後を追いかけて中に入った。
資料室の前に倒れていた役人の喉元に手を当てるが、既に息は無い。刃物で1突きで殺されていた。
こんな所までもう入ってきてるのか?と不思議に思い剣を抜いてから奥の部屋まで走り慎重に扉を開けると
そこには血を流している女性が倒れていて、水色のバンダナが先程まで会議をしていた彼女を思い出させる
「…アナベルさん…なの…?」
「…あ、ああ。ビクトールの所の…」
声を聞いて生きてると安心したけれど、彼女の腹部の傷はあきらかに致命傷だった。
もう血液の半分は流れてしまっているのかカーペットは血が染み渡っていて。アナベルの肌の色は白く青くなってしまっている。
それでも諦めずに紋章を使い彼女を回復させようと、アナベルは私の右手を取り首を横に降ると、首にしていたネックレスを力任せに千切り震えた手で私に渡した。
「…ビクトールに…わた…し……いっ、…は」
はぁはぁと肩で息をする彼女の口元に耳をつけて、最後の伝言を聞いてから立ち上がった。
「…アナベル、さん。必ず渡しますから」
血まみれのネックレスをポケットにしまうと、何人かの足音が近付いてくる。
ドアを蹴破ってきたハイランド兵を剣で刺し殺し彼女を背負うと門に向かって走り出す。途中何度も剣を向けて来たハイランド兵を凍らせながらミューズを出た
アナベルを背負いながら走るのには限界があった。何かあったらグランマイヤー様に頼ろうと思っていると言っていたビクトールの言葉を思い出してクスクスを目指し走っている最中に血の衝動にかられて胸が苦しくなって、手についたアナベルの血を舐めて虚しくなり1人で泣いた。
泣いて泣いて、目を開けないアナベルを見て泣いていた。彼女とは親しくなかったけれど何故かとても悲しかった。
あんなに早く市内に入られたのは何故だろうとか、ビクトールはアナベルが死んだことを聞いたら大丈夫かとかフリックはもう死んでるんじゃないかとか考えたらキリが無くなった。
声を上げて暗闇の中泣いていると、ガサガサと音がして走ってくるような足音が聞こえた
泣きながら自暴自棄になっていた私は血まみれのアナベルを抱きながら右手の紋章にかかげ、その人影が姿を表すのを待った。
「おい、誰かいるのか?!」
暗闇の中ランプの灯りが私を照らし、聞きたかった声がした。薄明かりの中見えたのはビクトールとフリックで。
「セツナ!」
そう私の名前を叫んでアナベル事抱きしめてくれたフリックとビクトールに私は安堵で彼らにそのまま寄りかかった。
血まみれのアナベルをビクトールは優しく抱いて地に横にすると、自分の持っていた布で顔を綺麗に拭いてやっていた。
それを見たフリックが、苦手だったけど良いやつだったよなと言ってアナベルを見ていた顔を私に向ける
口の血を見られたく無くて思わず下を向いた私の口元に着いた血をマントで拭いながら大丈夫だ。滑稽何て思うなよと言って優しく抱きしめてくれた。
君が生きていてくれればそれで良いと耳元で囁かれて。その温かさが心に染み渡って私の瞳からはまた涙が溢れてしまった。
フリックが火を焚いてくれたおかげで少し温まる事が出来た。無言が続く中私はポケットに入っていたネックレスを取り出してからビクトールの隣に座った。
「…ビクトール、これ。アナベルさんがビクトールに渡してくれって」
「…そうか…ありがとうな。…アナベルは何か言ってたか?」
「…ビクトールに渡して、ビクトール、私はあなたと一緒に…までしか聞き取れなかった。…ごめん」
そう言った私にビクトールは下を向いた。横目で彼をチラリと見ると彼のズボンにポツリポツリと雫が落ちていて、その姿を見て心が痛み思わずビクトールの腕にギュッと抱き付いて私も泣いてしまった。
「寝たか?」
「…ああ。ぐっすりだ。」
俺を慰めようとしてくれたセツナはあれから直ぐに俺にもたれ掛かり泣き疲れて寝てしまった。
アナベルの冷たい体温と最後の言葉に涙が出て来た
泣くのは随分と久しぶりだった。腕にしがみつくセツナの体温が温かい、前に座り火の番をしてくれているフリックはそんなセツナの安らかな寝顔を見て穏やかな顔をしていた。
「お前は…俺に妬かなくなったな」
「…まぁな。それよりセツナはお前を男として見てないからな…」
「はっ、何に見てるって?熊か?殴るぞフリック」
そう言ってケッっと笑った俺にフリックは珍しく薄く微笑んだ。
「…家族みたいに見てる様に感じる。お前の事はな」
そう言ったフリックは静かに横になり目を閉じた。
家族か…セツナから俺に向けられる瞳にはそう感じる事が多いいなと思っていたから。まさかフリックがそれを分かるのかと少し不思議だった。
腕にしがみついたセツナの、血で固まった髪を優しく耳にかけてやると、アナベルのネックレスをポケットにしまってからそっと目を閉じた。
「…何かあったの?」
「セツナちゃん…ジョウイがね、帰って来ないの。ハイランド軍の食糧を見に行ったんだけど…ううっどうしよう」
そう言ったナナミの目は涙で潤み、事態を理解した私はピリカを膝に乗せてから2人になるべく安心する様に笑いかける
「ジョウイの紋章は凄い力を放っていたし、きっと余程の事が無い限り負けないから逃げてくる分には絶対大丈夫よ」
まさか自分が寝ている間にこんなことになって居るなんてと内心少しだけ後悔した。
「そう、ですよね。」
「もし帰って来なかったら私とリオウとナナミで探しに行きましょう。…じっと待つのは辛いよね」
私がそう言うと、ハッとした様にリオウは顔を上げて一度頷いてから下を向き眉を寄せた。
「…ジョウイが怪我でもしていて動けなかったらとかもしかしたら捕まったんじゃ無いかって色々悪い風に考えちゃって」
「それが普通だよリオウ、頭働いてる証拠。」
子供扱いするなとビクトールに言われた事を思い出して、リオウの頭を撫でようとした手を引っ込めた。
私の胸に顔ピッタリとくっつけて目を閉じたピリカを見て、珍しく静かなナナミが肩に頭を乗せてきた。
震えてはいなかったけれど、とても滅入っているような感じで思わず片手で抱き締めてしまう。
それから、私達に会話が無くなって少しして遠くの方に見えた青に皆立ち上がった。
リオウとナナミが目一杯の笑顔でジョウイに向かって駆けて行く。胸で眠るピリカちゃんを起こして、帰ってきたよと声を掛けると彼女も目一杯笑顔になりこちらに走ってきたジョウイに小さな体で目一杯抱き付いていた
「セツナさんにもご心配おかけしました…」
「ううん、誰に頼まれたか知らないけど。もし今度危険な事を頼まれたら私も一緒に行くから言ってね。」
目の前にいるジョウイの肩を優しく抱くと、彼は小さくハイと言って私の背に手を回した。
悪い癖なのかもしれないけれど、頭を撫でてやりたくなるのは子供扱いに入るのだろうか。私から離れピリカを抱き上げたジョウイとナナミとリオウと無事に宿に帰宅した。
酒場に入るとビクトールとフリックが酒を飲んでいて
ジョウイを見た途端に笑顔で立ち上がった
「戻ったか」
「良かったな、リオウ」
ご心配おかけしましたと律儀に2人にも頭を下げているジョウイを見て、育ちが良い子なんだなぁと内心笑ってしまうと同時に関心してしまう。
今はゆっくり休んで明日詳しく聞かせてくれと言ったビクトールに4人は頷いて部屋に戻って行った。
元の位置に座り直した2人は私にご苦労さんだったなと言って酒を飲み出した。ジトリとした目でフリックを睨んでいると、それに気が付いた彼は苦笑いで私に話しかける
「何だよセツナ…何で怒ってるんだ?」
「ふーんだ」
そう言ってフリックの後ろから堂々とテーブルにあった彼の酒を取り全て飲み干す。
それを見てあっはっはっ元気になったなと酒場中に聞こえる声で笑うビクトールに釣られて笑ってしまいそうになるが、空になったジョッキを少し悲しそうに見つめるだけで私に何も文句を言わないフリックの耳元で、フリックのスケベと誰にも聞こえない様に呟くと彼はビシリと固まった
そんな様子にスッキリした私はおやすみーと言って部屋に戻るのだった。
部屋に戻り洋服の整理をして、風呂に入ろうか悩んでいると部屋のドアがノックされて扉を開ければナッシュとビクトールとゆう珍しい組み合わせだった。
「具合はどうだ?」
「全然大丈夫、お酒一気飲みできるくらい平気。ナッシュには悪い事したね」
「いや、顔色が良いから貧血は治ったんだな、安心したよ」
「あんだけ飲めればもう大丈夫だろう、ナッシュもあんまり心配すんなよ、こいつは意外に丈夫だよ」
そう言ったビクトールはナッシュにあんまり長居すると狼にキレられるぞと付け足してから部屋に戻って行った。
ナッシュはその言葉に、狼?と一度首を傾げてから、私に向き直ると俺は明日此処を経つから。とだけ言って少し笑った
「分かった。明日のいつ経つの?」
「昼だな。」
「…最後に見送りくらいさせて頂戴」
そう言って彼の手を握って握手を求めると
「握手は色気が無いな」
そう言って私の髪をすくうように触ると、頬に口付ける。口を開けて呆然とする私に明日見送りよろしくなと言ってウインクをするとそのまま部屋に戻ってしまった。
何だか風の様な王子様だなぁと内心笑ってしまうが、明日最後にお弁当でも作っておいてやるかと決めてベッドに潜り込んだ。
朝中々早く起きれた私は顔を洗い歯を磨くと、ミューズで新しく買った肩が出た黒いワンピースに袖を通した。胸元が少し開いていて、タイトのロングだがスリットが入っていて気に入ってつい買ってしまった。
お腹に上からコルセットを巻くと気に入っているピアスとネックレスを付けた。
今日は戦う予定も無いし剣を下げなくても良いので久しぶりに少しお洒落したくなったのだ。
一階に降りると直ぐに厨房に入りナッシュのお弁当を作る為に作業に取り掛かった。卵焼きに唐揚げ、ウインナーにおにぎりと簡単な物だけど、おにぎりは余分に作って子供達に。唐揚げなどはビクトールとフリックのつまみにと作っていると、レオナさんやビクトールとフリック。リオウ達も起きてきたのか厨房にいても賑わっている声が聞こえてくる
ナッシュのお弁当を詰め終わり、レオナさんと自分の分のオニギリを握っているとビクトールのナッシュを呼ぶ声が聞こえて私は慌てて弁当を片手に厨房を出るとナッシュはもう挨拶を終えて宿を出ようとドアに手をかける所だった。
「ナッシュ!待って」
「セツナ、…可愛いじゃないか。そんな格好もするんだな」
「ふふ。ありがとう、はい。これ唐揚げ弁当」
鳥さんと食べてねと言って渡すと、ドミンゲスが唐揚げを見て何て言うか楽しみだとナッシュは笑った。
「可愛い格好してるじゃねーかセツナ!」
声の方に振り向けばビクトールが笑顔で、なぁフリックと彼に同意を求めている。
フリックはああ。とテーブルに肘を突きながら機嫌が良くなさそうに返事をする。そのフリックにナッシュは少し吹き出していた。
「…なぁセツナ、もしもあの2人から離れる事があったら…。いや、何でもない」
小さな声で顔を私に寄せそう呟いたナッシュはやっぱりいい。と言ってから笑うとジョウイを見張ってろよと言った。
その言葉に、何で?と言おうとした瞬間に彼の顔が目の前にあって唇にチュッと何かが触れた。
その瞬間にフリックが剣に手をかけて立ち上がるとガタンと椅子が倒れた音が響く。ナッシュはそのフリックの様子に笑いながら直ぐに宿を出て行った。
「ちょ、今のどうゆう意味!?!」
慌ててドアを開けて外のナッシュを追いかけ様とすると、もう彼の姿は何処にも無かった
私は1人困惑したまま宿に戻る。扉を開けると案の定ビクトールが大笑いをしながら、あいつやるなぁと言ってレオナさんに酒をねだって断られている所だった
「セツナ、大丈夫か??」
フリックが私の元に来て直ぐにハンカチで口を拭われる。その様子にビクトール以外の皆もフリックに笑ってしまっていた。
普段なら私も笑ってしまっていたけれど、今のナッシュの言葉にまだ混乱して笑える気分では無かった。
ビクトール達は今日は都市同盟の丘上会議に行くと言っていたから、私は留守番でもしてようと思っていたのだがアナベルを一度見ておけと言われて渋々頷いた。
料理途中の厨房に戻り片付けをしてから行くとビクトールに伝えると、早々と厨房に戻り片付けをしてから丘の上まで早足で向かう。
景色が良いのは聞いていたが、風が気持ちよくて気分転換には大分いいなと思いながら歩いていると入り口が騒がしい。
この声はビクトールじゃないか?と苦笑いで足を進めれば案の定俺の顔を知らないのか?通せと怒った様な口調のビクトールがリオウ達と入り口で揉めていた
「またその手か?ビクトール」
「フリック、遅かったな」
「ビクトール、お姉さんに怒鳴らないでよ。」
「セツナも来たか。だけどよ、ミューズ市に雇われてる隊長だって言っても通してくれないんだぜ」
ったくよ、この顔が何よりの証明じゃねーかと悪態を吐いたビクトールに役員のお姉さんは知らん顔をしてフリックを見つめていた。
「あの、青雷のフリックさんですか?」
「ん?ああ。フリックだ。」
「あっ、どうぞお通り下さい」
「…何でお前のことは知ってるんだよ」
「ビクトール、すねないの。行こう」
またうんたら文句を言い出す前に彼の背を押して中に入った。
中に入ると中々立派な会議室にナナミが嬉しそうにはしゃぐとリオウとジョウイがナナミを優しく席に着かせた。
長い間いるだけあって良いコンビネーションだなと思いながらビクトールのフリックの隣に着席すると直ぐにマチルダ騎士団の3人が入場してきた。
赤い騎士に見覚えがあって、何処かで見たなと思いながら彼を注視していると優しい瞳と目が合った。
彼は少しだけハッとした顔になってから優しく微笑むと優雅にウインクをしてくる。
少し気恥ずかしくなって下を向くと、横にいたフリックが一通り見ていたみたいで一瞬だけ眉を寄せた。また不機嫌になったなと思ったけれど今回は知らん顔する事にした。
守る気が本当にあるのかと内心思った。同盟とは名ばかりで信頼も結託も無かった。がアナベルさんは少し違って見える。
ビクトールが見ていて欲しいと言ったからには何かあるんだろうと思っていたけれど彼女がいるから保てるんだろうなと思いビクトールをチラリと見るとビクトールもアナベルさんも見ているようだった。
グダグダとした話し合いは1人の兵士の報告から内容はガラリと変わった。ハイランドがミューズに向けて進軍中と報告を受けたアナベルさんは全軍に有無を言わさず収集をかけた。
直ぐにビクトールとフリックは兵を集めに行ってくると走り出した。正直ジョウイの事が気がかりだったけれど今はハイランドを足止めする事が1番大事。
私は一度宿に戻り剣を持ってからまた丘の上まで上がった。奥の人気が無い所まで来ると上から地上を見下ろす。関所の方から大勢のハイランド軍が小さくこちらにゆっくりと向かって来ていた
ミューズの門の前には都市同盟の兵士が大勢集まっていて、その中にいる黄色と青の服が目立って見える
マチルダから援軍が来るまでこちらが危なくなったら紋章を使って撤退させる事ができれば良いのだが私のこの力は1日一度が限界だ。前に2回ぶっ放して死にかけた事がある
危なくなっても使わない様にしなくてはと決めて、戦が始まるのをその場で静かに待った。
1時間程して、射程内に入ったハイランド軍に向けて紋章を発動する為に集中しようとした時、一斉にハイランド軍から矢の雨が飛んだ
その瞬間にビクトールとフリック、リオウやナナミにジョウイが矢に貫かれる想像が頭にかけぬけると急に右手の紋章が眩い光を放ち、その光の眩しさに私は目を瞑ってしまう。
何秒かして目を開けると矢は全て凍らされていてゆっくりとまるでスローモーションの様に全て地に落ちて行った。
下の同盟の兵士を見れば、負傷者はいないようだが皆光ったのが見えたのかこちらを見ている様だった
フリックとビクトールが私だと気付いたのか少し笑った気がした。2人が出軍と大きな声で叫ぶのが聞こえて兵士の声が大地と空に呼応したように感じた。
途中、マチルダが合流するも直ぐに撤退。そのせいで流れが変わり複数の負傷者が出た。回復の水を上から同盟側に降らせたが守りきれず、ミューズ市内に兵士達が入って来てしまった。
それを見た私は慌てて丘の上からピリカを迎えに暗くなった道を宿に向かって走った。宿の戸を乱暴に開けると既に誰もおらず門から逃げようと走ると市庁舎にリオウ達が入って行くのが見えてそのまま後を追いかけて中に入った。
資料室の前に倒れていた役人の喉元に手を当てるが、既に息は無い。刃物で1突きで殺されていた。
こんな所までもう入ってきてるのか?と不思議に思い剣を抜いてから奥の部屋まで走り慎重に扉を開けると
そこには血を流している女性が倒れていて、水色のバンダナが先程まで会議をしていた彼女を思い出させる
「…アナベルさん…なの…?」
「…あ、ああ。ビクトールの所の…」
声を聞いて生きてると安心したけれど、彼女の腹部の傷はあきらかに致命傷だった。
もう血液の半分は流れてしまっているのかカーペットは血が染み渡っていて。アナベルの肌の色は白く青くなってしまっている。
それでも諦めずに紋章を使い彼女を回復させようと、アナベルは私の右手を取り首を横に降ると、首にしていたネックレスを力任せに千切り震えた手で私に渡した。
「…ビクトールに…わた…し……いっ、…は」
はぁはぁと肩で息をする彼女の口元に耳をつけて、最後の伝言を聞いてから立ち上がった。
「…アナベル、さん。必ず渡しますから」
血まみれのネックレスをポケットにしまうと、何人かの足音が近付いてくる。
ドアを蹴破ってきたハイランド兵を剣で刺し殺し彼女を背負うと門に向かって走り出す。途中何度も剣を向けて来たハイランド兵を凍らせながらミューズを出た
アナベルを背負いながら走るのには限界があった。何かあったらグランマイヤー様に頼ろうと思っていると言っていたビクトールの言葉を思い出してクスクスを目指し走っている最中に血の衝動にかられて胸が苦しくなって、手についたアナベルの血を舐めて虚しくなり1人で泣いた。
泣いて泣いて、目を開けないアナベルを見て泣いていた。彼女とは親しくなかったけれど何故かとても悲しかった。
あんなに早く市内に入られたのは何故だろうとか、ビクトールはアナベルが死んだことを聞いたら大丈夫かとかフリックはもう死んでるんじゃないかとか考えたらキリが無くなった。
声を上げて暗闇の中泣いていると、ガサガサと音がして走ってくるような足音が聞こえた
泣きながら自暴自棄になっていた私は血まみれのアナベルを抱きながら右手の紋章にかかげ、その人影が姿を表すのを待った。
「おい、誰かいるのか?!」
暗闇の中ランプの灯りが私を照らし、聞きたかった声がした。薄明かりの中見えたのはビクトールとフリックで。
「セツナ!」
そう私の名前を叫んでアナベル事抱きしめてくれたフリックとビクトールに私は安堵で彼らにそのまま寄りかかった。
血まみれのアナベルをビクトールは優しく抱いて地に横にすると、自分の持っていた布で顔を綺麗に拭いてやっていた。
それを見たフリックが、苦手だったけど良いやつだったよなと言ってアナベルを見ていた顔を私に向ける
口の血を見られたく無くて思わず下を向いた私の口元に着いた血をマントで拭いながら大丈夫だ。滑稽何て思うなよと言って優しく抱きしめてくれた。
君が生きていてくれればそれで良いと耳元で囁かれて。その温かさが心に染み渡って私の瞳からはまた涙が溢れてしまった。
フリックが火を焚いてくれたおかげで少し温まる事が出来た。無言が続く中私はポケットに入っていたネックレスを取り出してからビクトールの隣に座った。
「…ビクトール、これ。アナベルさんがビクトールに渡してくれって」
「…そうか…ありがとうな。…アナベルは何か言ってたか?」
「…ビクトールに渡して、ビクトール、私はあなたと一緒に…までしか聞き取れなかった。…ごめん」
そう言った私にビクトールは下を向いた。横目で彼をチラリと見ると彼のズボンにポツリポツリと雫が落ちていて、その姿を見て心が痛み思わずビクトールの腕にギュッと抱き付いて私も泣いてしまった。
「寝たか?」
「…ああ。ぐっすりだ。」
俺を慰めようとしてくれたセツナはあれから直ぐに俺にもたれ掛かり泣き疲れて寝てしまった。
アナベルの冷たい体温と最後の言葉に涙が出て来た
泣くのは随分と久しぶりだった。腕にしがみつくセツナの体温が温かい、前に座り火の番をしてくれているフリックはそんなセツナの安らかな寝顔を見て穏やかな顔をしていた。
「お前は…俺に妬かなくなったな」
「…まぁな。それよりセツナはお前を男として見てないからな…」
「はっ、何に見てるって?熊か?殴るぞフリック」
そう言ってケッっと笑った俺にフリックは珍しく薄く微笑んだ。
「…家族みたいに見てる様に感じる。お前の事はな」
そう言ったフリックは静かに横になり目を閉じた。
家族か…セツナから俺に向けられる瞳にはそう感じる事が多いいなと思っていたから。まさかフリックがそれを分かるのかと少し不思議だった。
腕にしがみついたセツナの、血で固まった髪を優しく耳にかけてやると、アナベルのネックレスをポケットにしまってからそっと目を閉じた。