幻想水滸伝2
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バーバラさんの荷造りを手伝うと、直ぐに自室に戻り魔力温存の為に少しだけでも寝ておく事にした。
水の紋章がマジックリングで増幅させて何回使えるのか分からないけれど、なるべく回復出来る数を多くしておく必要があった。
昔から戦だらけだった私は慣れもあるのか、特に緊張はしていなかった。もし負けても仕方がない、今はこれが現実なんだと受け入れて危なくなったら直ぐに撤退して命を優先させる事
この部分だけでもしっかり持っていれば、仲間がいるからあとは何とかなるし、また勝つ機会が必ず巡ってくる。昔傭兵をやっていた時の隊長にこの教訓を教えてもらってきた
そういえば大好きだった隊長は何と無くビクトールに似ているな何て事を横になりボンヤリ考えていると私の意識は次第に薄れていった。
肩をゆすられる感覚に目を開ける、目の前に居たリオウとジョウイが、あっ起きたと小さく笑った。
「セツナさん、ビクトールさん達が呼んでますよ。もうハイランド軍が近くまで来ています」
「リオウ、ジョウイ…。」
起こしてくれてありがとうと言って立ち上がった私は何と無く戦う前に2人に聞きたくなった
「2人は故郷の軍と戦うのは大丈夫?辛くない?」
そう言った私に彼等は目を見合わせてから、光が灯る様な強い瞳で僕達は大丈夫です。と言った
子供だけど、子供では無いんだなとその時に感じて私は2人の肩を抱いた。
「勝とうね、勝って今日は祝杯をあげよう。」
「そうですね、必ず勝ちましょう」
3人で祝杯のご馳走は何がいいかなんて話をしながら外に出ると、皆戦の準備が整っていて整列をしていた
少し申し訳無さそうにフリックの隣に並ぶと、小さな声で寝てたのか?と聞かれて素直に頷いた。
君はこんな中良く眠れるなと小さく笑ったフリックにまぁねと自慢気に冗談言うと寝癖付いてるぞとまたデコピンが飛んできた。
アップルの作戦を聞き、ビクトールが兵の士気を上げた所で全員が持ち場に付く為に早足で駆ける。
「お前はどうする?まだ病み上がりだから無理はしないで欲しいが」
ビクトールの問いに、少し戸惑ったけれどやっぱり前線で出軍したいと思った。そんな事を思いながらチラリとフリックを見れば、ジト目で首を横に振って、此処でレオナ達と居ろと言わんばかりの顔だ。
「…ねぇ、フリックの馬の後ろに乗せてくれないかな?」
「何言ってるんだ、ダメに決まってるだろ?俺は最前線に行くんだぞ」
「そんな頭ごなしに怒るなよフリック。セツナ、俺達を納得させられるような策を言ってくれたらフリックも連れて行くのを許すと思うぞ」
「これは私が昔から戦で使う方法なんだけど最前線に出て1番最初に大将に大規模な魔法をぶつけるの。向こうの士気が一気に下がるし怯ませる事が出来る」
後これが戦で1番気持ちが良い。と付け足すと溜息をついたフリックは顔を手で覆い、ビクトールは反対に愉快そうに大笑いをした。
「よし、採用しよう。いいなフリック」
「はぁ。どうせ止めても聞かないんだろ。いいか、絶対に俺の後ろにいろよ」
「はーい」
シンプルな返事で返したけど、ずっと戦場で女扱いされなかった私にとってフリックのこの言葉は少しだけときめいてしまった。
ちょっぴりどぎまぎしている私に一度首を傾げてから、行くぞと手を引かれて私は彼の後ろを歩き出した。
ズラリと遠くに並んで見える水色とシルバーの軍服の兵隊達がどんどん近くなってくる。ドドドドドと馬が数百駆ける音を聞きながら右手の紋章に意識を集中させる
「セツナ、用意はいいか?そろそろだぞ」
「分かってる」
フリックが剣を抜いたと同時に、ハイランド軍のど真ん中に紋章を発動させた
私が右手を上げると空を雲が覆い、地面を凍らせて騎馬隊の馬の足と兵の足を凍らせる。
空気が凍てつく様な寒さになり、そこから一気に大量の氷水の津波で全てを洗うように押し流す
遠目でしか見えないが、どうやら上手くいったみたいだ。この魔法は殺傷能力はあまり無いけれど、大混乱にさせる事には長けていて昔から良く使っていた。相手の出鼻をくじき、パニックに陥れる事が出来る
猛烈な冷たい空気がこちらまで吹き荒れて、仲間の馬が鳴き喚き進軍を止めてしまう。
フリックや仲間の兵が馬を上手く操りながらその場で留まると、私は右手を下げて肩で息をしながらフリックの背中に寄りかかった
「…ごめん。こっちにまで余波が来ちゃったね」
「なんだあれは…。水の紋章の類か…?凄まじい威力だな」
大丈夫か?と声をかけられてハッとする。まだ戦は始まったばかりだ。しっかりしなきゃとフリックの背に預けていた頭を上げると、遠くでビクトールの大笑いと、仲間の歓喜の声が重なって辺りに響いていた。
撤退してゆくハイランド兵を見ながら、私達も一度砦に戻った。ビクトールの熱い抱擁に少し戸惑いながらも勝利に一先ず安心していた。
砦の仲間達も満足そうな顔をしていたが、そんな時焦った様に走って来た顔面蒼白の兵士がルカブライトの軍が森を抜けて来たと叫ぶように伝えて来た。
皆驚きを隠せず束の間の勝利の余韻等に酔いしれる事も出来ずに急いで配置に着き直す
ルカブライトは鬼神の様な男だった。
全ての攻撃を跳ね返し、自分が血を流す事も恐れずにひたすらにこちらを憎んだ目で嘲笑いながら突撃してきた。
途中猛攻の中フリックと離れ離れになってしまったが、ひたすら倒れた兵士に回復魔法をかけながらビクトールに言われていた通りミューズまで逃げろと意識を回復させた兵達に声を荒げながらひたすら走った。
喉が枯れて魔力が尽きかけた時に、ふとピリカの顔が頭を過ぎり近くに居た小隊長のカレダンとその部下の兵達に撤退と声を掛けて一緒に砦まで後退する
裏口から入り、井戸を過ぎた時に突然斬撃が飛んできて。横に居た仲間を庇う様に剣で受け止めると、中々に重く軽く手が痺れた。
「よぉ、さっきの紋章使いじゃねーか。まさか剣術も出来るとはなぁ」
「…こいつは私が相手をするから、貴方達は直ぐに馬でミューズまで逃げなさい」
「…分かりました、ご武運を」
赤い髪の男の強さを直ぐに判断したカレダンは私の言う事に直ぐに頷いてから他の5人と馬小屋まで走って行った。
「彼等が逃げるまで待っててくれる何て随分紳士なのねぇ」
目の前の赤い髪の男に向き直り素直な気持ちを言えば
、ハイランドの男は紳士だからなと強気な笑みで答えが返ってきた。ルカ様に紳士は感じられないけど。
と皮肉を言えば赤髪の男は苦虫を潰した様な顔をしてから剣をこちらに向ける
隙が全くないので小手調べに浅く踏み込んで何回か切り込めば、綺麗に打ち返される。
「綺麗な顔立ちだな、出身は?」
斬り合いには相応しくないような質問に、産まれた所でいいのかな?と真面目に考えてファレナだよと答えながらギリギリで剣を避けると、男はシードだ。と言ってから一度空を切った剣を鞘にしまった。
「シードって…名前?」
「そうだ。お前は?」
私は彼が剣を鞘にしまうのを見て、セツナ。と名前だけ名乗り彼の瞳を見つめた。
「…セツナか。」
見つめ合う2人の視線が交わると、直後砦から爆発音と爆風が吹き荒れて体が風圧で吹き飛ばされる
咄嗟に衝撃に備えて頭と顔を手で覆ったのだが、地面とはまた少し違うものの衝撃で顔を上げた。
目の前にあるシードの顔にギョッとする、彼は私を庇う様に抱き締め、地面と私の間には彼の腕があった。
顔面から地面に直撃を免れた私は思わず敵とゆう事も忘れて目を開けないシードをゆすった。
いってぇと口を開いた彼に少し安堵してから腕から逃れると、彼の背中には無数の窓ガラスの破片が刺さっていた。
「シード、動かないでね」
直ぐに紋章で怪我を治療しながら破片を取り除き彼を仰向けにする。その時、スッと気配も無く現れた銀色の髪の男がいつの間にか私に剣を向けていた。
シードの治療に夢中で気が付かなかった私は治療を続けながら向けた剣をピクリとも動かさない銀色の髪の男に注意を払う。
治療が効いたのか直ぐにシードは軽く目を開けて私達を見ると口を開いた。
「…クルガン、斬るなよ」
「はぁ。全く何をしてるんだか」
そう言って彼は剣をしまった。シードはクルガンと呼んだ男の言葉に違いねえやと少し笑う
「…多分これで大丈夫、痛くない?」
「サンキュ、セツナ」
治療し終えた私は直ぐに立ち上がると、クルガンと呼ばれていた男性に、帰ったら一応シードの背中に消毒をしてあげて欲しいと頼む
困った様な顔で、ああ。分かったとだけ言ったクルガンが私に一歩近づきながら何かを言おうと口を開いた時だった。
激しい雷が私達の間に炸裂する。それを避けたクルガンが咄嗟に剣を抜いた瞬間、私の身体は馬に乗って現れたフリックに簡単に抱き上げられ砦から少し離れた水辺に降ろされていた
「大丈夫かセツナ」
馬を降りたフリックが軽く私の頬と額を拭った。
「ありがとう」
拭われた箇所を自分でも触ると、黒いススがベッタリと手に付いている。砦、無くなっちゃったねと小さい声で言った私に、でも生きてるとフリックは笑った
馬で少し走ると直ぐに日がくれた。ミューズまでは丸一日かかるからとトトの村の空き家に入り休む事にした。
「はぁ、疲れたな」
そう言ってバンダナと防具やマントを外したフリックは少し幼く見える。負けた余韻に浸らない所は流石だなと思っていると、ベッドに転がったフリックは顔を腕で覆いそれから一言も話さなくなった。
一度外に出て紋章で軽くススだらけの顔と体を洗い、先程勝手にクローゼットから拝借した黒いワンピース着て空き家に戻る
この服の持ち主も亡くなったんだろうな、何て考えていると隣のベッドに腰掛けた私に向かって珍しく弱々しい声でフリックが口を開いた。
「…会議室でポールが死んでいた。階段でジャミロとテバリーも。一階でバミダスも」
その名前の兵は、皆私も話した事も一緒に食事した事もあった。甘えん坊で懐こくて気のいい子達だった
腕で目元が覆われていてフリックがどんな顔をしているか分からないけれど、自然と側に寄りたくなって彼の顔の横に座り優しく頭を抱きしめた。
一瞬ビックリしたようだったけど、大人しく抱き締めさせてくれて、フリックは何も言わなかった。
それから直ぐに彼の寝息が聞こえてきて、私も彼に寄り添ってそのまま寝てしまった。
眩しくて目をゆっくり開けると、目の前にある茶色の瞳に少しだけビックリした。
「…ビックリした」
「…すまない、俺も今起きてお前の寝顔が目の前にあったからビックリしてたらお前が目を開けたんだ」
ハハッと小さく笑ったフリックに、少し安心して彼の胸にそのまま顔を埋めた。
お、おい、と非常にドギマギしている彼に、フリックが生きててくれて良かったと心から思っていた事を告げる。
防具を付けていない彼の胸は心音と体温で暖かい。
そんな余韻に浸っていると、少し戸惑いを感じるような手が背中に回された。
「お前が生きてて良かった」
そう言ったフリックはキツく私を抱き締めて優しく首筋に顔を埋めた。
顔を洗い剣を身に付けて身支度を整えてからミューズへと出発した。朝から馬を走らせて、途中休憩を挟み
馬に紋章で回復魔法をかけて進みを繰り返していると日が出ているうちにミューズに辿り着いた。
門番がフリックのことを知っていたのですんなりと通して貰えたのは疲れた身体に非常に有り難かった。
「酒飲み熊さんは酒場にいるかな?」
「プッ、それ会ったら本人に言ってやれよ」
そんな話をしながら酒場に入ると、酒を煽るビクトールを見つけてついつい喜びで声を大声を上げてしまう
「ビクトール!」
自分の名が呼ばれて、私達の方を振り返ると彼は嬉しそうに笑った。
リオウとジョウイ達はまだ到着していなかったけれど砦にいた兵士の大半は生きていてもうミューズに到着していると教えてくれた。
レオナさんに挨拶を済ませてから3人で久しぶりにテーブルを囲い酒を飲みながら砦での戦の話していると、フリックが思い出したかのように口を開いた。
「セツナ、そう言えばお前砦の爆発の後ハイランドの将軍に囲まれていたな」
「今更だなぁ」
「あの時は脱出する事しか考えて無かったからな…。あの2人に囲まれたお前を見た時はヒヤッとしたぜ」
「何だセツナ、ハイランドの将軍と戦ったのか?」
腕前はどうだったか?と楽しそうに聞いてくるビクトールに、ふとシードの顔が過ぎる。
あれから怪我は大丈夫だろうか。庇ってもらった礼を言うのをすっかり忘れていた
「腕前かぁ…。一応戦ったんだけど直ぐに爆発が起きて、その時シードが爆発から私を庇ってくれてさ。背中に刺さったガラスの傷を治療してたら仲間のクルガンて将軍がシードを迎えにきて…その時にフリックに助けられた感じかな」
腕前を見るとゆうよりは、彼の勇姿を見た感じと付け足す
「敵にしては良い男だな」
ビクトールとフリックはハイランドにもそんな奴が居て良かったと頷いていたが、私はフリックがもしあの時来ていなかったら今頃は捕虜になって居たかと思うと内心ゾッとしていた。
2人がこれから兵隊を集めるだ何だ話をし出したので、その合間にお手洗いに行き帰ってくると酒場は少しざわついていた。
ビクトールの座って居た位置の少し後ろ側に誰かが倒れている。ビクトールとフリックが大丈夫かとその人物に声を掛ける中、私も駆け寄って倒れた人物の顔を覗き込んだ。
そこに居たのは白鹿亭で別れたナッシュだった
「ナッシュじゃない、どしたの?」
「セツナの知り合いなのか?ちょっと俺の腕に当たったら倒れちまってな…」
「たく、ちょっとじゃないだろう」
フリックがため息を付きながら彼を担ぎ上げると、レオナさんに部屋を借りて2階に上がって行く。その後ろを私とビクトールが続いた。
ベッドに降ろされたナッシュに近づき、私は手際よくコートを脱がせると紋章を発動させた。只の気絶の様だったので安心したが、後ろに腕を振っただけで気絶させる事が出来るビクトールは凄いと思ってしまい治療中は苦笑いが止まらなかった。
「もう大丈夫。」
そう言った私にフリックとビクトールは胸を撫で下ろしてから部屋を出て行く。
「サンキューセツナ」
「セツナ、行くぞ。ビクトールは後でコイツが起きたら謝るんだぞ」
「私、ナッシュの様子見たいから此処に残るわ、2人は先に行ってて」
「男の部屋に2人きり何かに出来る訳無いだろ」
「知り合いなのよ、それに部屋に2人きりって…昨日ずっと私達は部屋で2人だったじゃないの」
私がそう言って笑えば何も言えなくなったのか、フリックは黙った。ビクトールは笑ってお前の負けだとフリックの背を押しながら部屋を出て行った。
廊下から危ないだろとフリックの声が聞こえたが、ビクトールは知り合いなんだから2人にしてやれよと優しく諭してくれていた。
ちょっと言い過ぎたかなと思ったけれど、ナッシュにまた会いたかった私はベッドの横に椅子を持ってきてそれに腰掛けた。ポケットから出したハンカチを紋章で少しだけ濡らしながら冷やし、彼の額に置いた。
相変わらず綺麗な顔をしているなぁと思いながら髪を撫でていると、撫でて居た手が優しく掴まれた。
「セツナ…か?」
「おはよう、災難だったね。後久しぶり」
まだ少し痛いのか、痛みを堪える様な顔で彼はゆっくりと起き上がった。
「久しぶりだ、元気そうだな」
掴まれて居た手を優しく握り直すと、ナッシュは微笑んだ。あれからどうしてたの?と聞くとナッシュは一度顔を青ざめたが、妖怪電撃オババの舎弟にされて吸血鬼退治をしていたとポツリポツリ話してくれた。
その言葉に私は目を見開きあれこれ詳しく聞いてしまう
その私の様子をおかしいと思ったのか、ナッシュは何か君と関係があるのか?と顔を少しだけ険しくさせた
関係があるから聞きたいと素直に言えば、オババと呼んだのはシエラ、吸血鬼はリィンとナッシュは教えてくれた。
「シエラ長老が都市同盟にいるんだ…」
「シエラとはどうゆう関係なんだ?」
「…内緒」
「そう言うと思ったぜ」
はぁと溜息を付いたナッシュに私は色々教えてくれてありがとうとナッシュの髪を撫でた。
子供みたいに扱うなぁとジト目で見られて、そんなつもりは無いんだけど可愛くてついと笑うと、カッコイイのがいいなとナッシュは口を尖らせた。
「色々話聞かせてもらったから、お礼にご飯奢るよ」
「それは相当ありがたいぜ」
「あはは、言うと思った。路銀不足は解消されていないみたいだね。ちょっと待っててね」
早足で部屋を出て、レオナさんに食事の代金を支払ってから私が作りますと言って厨房に入った。今忙しいから助かるよと言ったレオナさんはジョッキを両手に持ってカウンターを出て行った。
スープの作り置きがあったので、サラダを簡単に作ってから肉を焼いていると戻って来たレオナさんが私を見ている事に気付いて視線を向けた。
「どうしたんですか?」
「それ、あの金髪のお兄ちゃんのかい?」
「ああ、そうですよ」
「…そうゆう事か」
首を傾げた私に何でも無いよ、と言ったレオナさんは少し笑ってから彼に食事を届けて暇になったらでいいからまた少し手伝ってもらえるかい?と言って来たので、すぐに了承すると焼きたての肉とパンをお盆に乗せて2階に上がった。
「ナッシュ出来たよ」
「良い匂いだ、嬉しいぜ」
トレーをナッシュの膝の上に置いてからおしぼりを渡してあげると、温かいおしぼりで手を拭いたナッシュは直ぐに食事に手をつけた。
今まで気が付かなかったけれどコートを脱いだナッシュをまじまじ見るとかなり鍛えている身体付きをしている。
「ナッシュは剣は使うの?」
「んー本当に必要な時くらいかな」
久しぶりの食事が美味すぎて涙が出るだ何だ言ってる彼を見ながら仕事は何をしているんだろうと疑問に感じたが聞くのをやめておいた。
半分まで食べる姿を見てから仕事があるからと部屋を出ようとすると
ミューズに少しの間滞在するから時間が合う時に一度出掛けようと言われて笑顔で頷いてから部屋を出た
「レオナさん、戻りました」
「ああ、すまないね。さっき兄さんに作ってた肉料理を作ってくれないかい?」
「えっ?ああ、分かりました」
キセルを吹かして一休みするレオナさんの横を通り過ぎて厨房に入ると、直ぐ言われた通りに先程と同じ肉料理を作って皿に盛りレオナさんに渡す。
「出来ましたよ」
「ああ、ありがとさん。」
レオナさんはお皿を受け取らずに用意してあったジョッキ2つを手が空いてる片手に渡して来た。
「これをフリックに渡して来ておくれ」
「フリックですか?分かりました」
酒場を見渡すと奥の方にビクトールとフリックが飲んでるのが見えて、直ぐにそこの席へ向かう
私を見つけたビクトールが直ぐに手を上げて私を呼んだ。
「おまたせ、ビールと一口ステーキだよ」
「ん?注文してねーぞ」
「あれ?レオナさんに頼まれたんだけどな」
ステーキ美味そうだなと言ったフリックに私が作ったから食べて欲しいと言えば、ああと言って笑った。
ビクトールのフォークがつかさず肉を3枚重ね刺しにして口に運ぶ。何とゆう早技と私が関心していると、テーブルの下でガツンと鈍い音が鳴ってビクトールが悶えた。
「いってぇな!フリック」
「けっこう思いっきり蹴ったからな」
「ふふふ」
フリックの横に座った私も喉が渇いたので片手に持っていたビールを飲ませてもらう事にした。
「金髪兄ちゃんに飯持ってってたろ?もう具合は平気そうか?」グビグビと喉を鳴らしながら何杯目か分からない酒を飲みながらビクトールはニヤニヤと薄く笑う
「うん、何気に鍛えてるから大丈夫でしょ。てか何でそんなにニヤニヤしてんの」
「お前が飯まで手作りで持って行くからフリックが不機嫌に、いってぇな!また蹴りやがって」
ガタンと椅子を転ばせながらビクトールは立ち上がってフリックに怒鳴ると、うるさい余計な事を言うなとフリックも立ち上がり喧嘩になる。
遠くから、それ以上やるとこれから2度と酒は出さないよとレオナさんの声が聞こえると2人は静かに着席した。
「フリックが何で不機嫌になるの?」
私がそう言ってフリックを見つめると、うっとバツが悪そうに明後日の方角を見ながら、危ないだろと一言呟いた。
「危ないって、何かされるって事?」
「ああ、そうなってからじゃ遅いだろ」
「ナッシュとは2人で同じ部屋に泊まった事もあるから大丈夫よ。」
そう言った途端に、お前なぁとビクトールはゲンナリした顔でフリックを見つめている。
チラリとフリックを見ればいつもの様に顔を手で覆っていた。
「…言葉が足りなかったけど、ナッシュはお金が無くて折半で一緒の部屋に泊まっただけよ、酒盛りしてそのまま寝たけど別に何も危険何て無いし。」
「あのなぁ、ナッシュって奴はたまたま良い奴だっただけだろ。変な奴だったらどうするんだよ」
「変な奴と泊まりませんー」
「分からないだろう、男何て腹で何考えてるか分からんぞ。途中で気が変わるやつだっているかもしれないんだぞ」
「フリックは2人でこの間寝た時、腹で何か考えてたの?」
「………」
「いつ2人で寝たんだ?一緒のベッドか?」
「「ビクトールうるさい!」」
酔っているからか、途中でアホらしいなこの話と思ってきて。フリックの言いたい事も良く分かったけど途中でもう引き返せなくなり私も強気で声を荒げてしまった。
「ごめん、フリックの言いたい事は良く分かってる。只何かされたら氷漬けに出来るから大丈夫」
「そ、それならいいんだ。よ、良くは無いが」
しおらしく謝った私にフリックは少し焦りながら私の髪を撫でた。
「なんでぇセツナ、謝っちまうのか?」
「黙れ熊」
「言ってやれよセツナ、フリックは私を女として見過ぎだからそうゆう妄想に取り憑かれるのよってな」
「プッ、ビクトール何それ笑える」
ビクトールがそう言うと、珍しく顔を赤くしたフリックは立ち上がりご馳走さんと言って部屋に戻ってしまった。
「…急にどしたのフリック」
「図星過ぎて何も言え無かったんだろ」
「何その可愛い三十路」
「あのなぁ、お前は子供扱いしすぎだ。」
「私400歳過ぎてるもん。仕方ないでしょ」
そう言ってニッコリ笑った私に、そりゃあ仕方ねーなーとビクトールは珍しく渇いた笑みを溢した。
「ビクトールごめんね、今まで黙ってて。でも私人の心はしっかり持ってるから」
そう言った私に、彼はいつもの笑顔で分かってると笑ってくれた。
水の紋章がマジックリングで増幅させて何回使えるのか分からないけれど、なるべく回復出来る数を多くしておく必要があった。
昔から戦だらけだった私は慣れもあるのか、特に緊張はしていなかった。もし負けても仕方がない、今はこれが現実なんだと受け入れて危なくなったら直ぐに撤退して命を優先させる事
この部分だけでもしっかり持っていれば、仲間がいるからあとは何とかなるし、また勝つ機会が必ず巡ってくる。昔傭兵をやっていた時の隊長にこの教訓を教えてもらってきた
そういえば大好きだった隊長は何と無くビクトールに似ているな何て事を横になりボンヤリ考えていると私の意識は次第に薄れていった。
肩をゆすられる感覚に目を開ける、目の前に居たリオウとジョウイが、あっ起きたと小さく笑った。
「セツナさん、ビクトールさん達が呼んでますよ。もうハイランド軍が近くまで来ています」
「リオウ、ジョウイ…。」
起こしてくれてありがとうと言って立ち上がった私は何と無く戦う前に2人に聞きたくなった
「2人は故郷の軍と戦うのは大丈夫?辛くない?」
そう言った私に彼等は目を見合わせてから、光が灯る様な強い瞳で僕達は大丈夫です。と言った
子供だけど、子供では無いんだなとその時に感じて私は2人の肩を抱いた。
「勝とうね、勝って今日は祝杯をあげよう。」
「そうですね、必ず勝ちましょう」
3人で祝杯のご馳走は何がいいかなんて話をしながら外に出ると、皆戦の準備が整っていて整列をしていた
少し申し訳無さそうにフリックの隣に並ぶと、小さな声で寝てたのか?と聞かれて素直に頷いた。
君はこんな中良く眠れるなと小さく笑ったフリックにまぁねと自慢気に冗談言うと寝癖付いてるぞとまたデコピンが飛んできた。
アップルの作戦を聞き、ビクトールが兵の士気を上げた所で全員が持ち場に付く為に早足で駆ける。
「お前はどうする?まだ病み上がりだから無理はしないで欲しいが」
ビクトールの問いに、少し戸惑ったけれどやっぱり前線で出軍したいと思った。そんな事を思いながらチラリとフリックを見れば、ジト目で首を横に振って、此処でレオナ達と居ろと言わんばかりの顔だ。
「…ねぇ、フリックの馬の後ろに乗せてくれないかな?」
「何言ってるんだ、ダメに決まってるだろ?俺は最前線に行くんだぞ」
「そんな頭ごなしに怒るなよフリック。セツナ、俺達を納得させられるような策を言ってくれたらフリックも連れて行くのを許すと思うぞ」
「これは私が昔から戦で使う方法なんだけど最前線に出て1番最初に大将に大規模な魔法をぶつけるの。向こうの士気が一気に下がるし怯ませる事が出来る」
後これが戦で1番気持ちが良い。と付け足すと溜息をついたフリックは顔を手で覆い、ビクトールは反対に愉快そうに大笑いをした。
「よし、採用しよう。いいなフリック」
「はぁ。どうせ止めても聞かないんだろ。いいか、絶対に俺の後ろにいろよ」
「はーい」
シンプルな返事で返したけど、ずっと戦場で女扱いされなかった私にとってフリックのこの言葉は少しだけときめいてしまった。
ちょっぴりどぎまぎしている私に一度首を傾げてから、行くぞと手を引かれて私は彼の後ろを歩き出した。
ズラリと遠くに並んで見える水色とシルバーの軍服の兵隊達がどんどん近くなってくる。ドドドドドと馬が数百駆ける音を聞きながら右手の紋章に意識を集中させる
「セツナ、用意はいいか?そろそろだぞ」
「分かってる」
フリックが剣を抜いたと同時に、ハイランド軍のど真ん中に紋章を発動させた
私が右手を上げると空を雲が覆い、地面を凍らせて騎馬隊の馬の足と兵の足を凍らせる。
空気が凍てつく様な寒さになり、そこから一気に大量の氷水の津波で全てを洗うように押し流す
遠目でしか見えないが、どうやら上手くいったみたいだ。この魔法は殺傷能力はあまり無いけれど、大混乱にさせる事には長けていて昔から良く使っていた。相手の出鼻をくじき、パニックに陥れる事が出来る
猛烈な冷たい空気がこちらまで吹き荒れて、仲間の馬が鳴き喚き進軍を止めてしまう。
フリックや仲間の兵が馬を上手く操りながらその場で留まると、私は右手を下げて肩で息をしながらフリックの背中に寄りかかった
「…ごめん。こっちにまで余波が来ちゃったね」
「なんだあれは…。水の紋章の類か…?凄まじい威力だな」
大丈夫か?と声をかけられてハッとする。まだ戦は始まったばかりだ。しっかりしなきゃとフリックの背に預けていた頭を上げると、遠くでビクトールの大笑いと、仲間の歓喜の声が重なって辺りに響いていた。
撤退してゆくハイランド兵を見ながら、私達も一度砦に戻った。ビクトールの熱い抱擁に少し戸惑いながらも勝利に一先ず安心していた。
砦の仲間達も満足そうな顔をしていたが、そんな時焦った様に走って来た顔面蒼白の兵士がルカブライトの軍が森を抜けて来たと叫ぶように伝えて来た。
皆驚きを隠せず束の間の勝利の余韻等に酔いしれる事も出来ずに急いで配置に着き直す
ルカブライトは鬼神の様な男だった。
全ての攻撃を跳ね返し、自分が血を流す事も恐れずにひたすらにこちらを憎んだ目で嘲笑いながら突撃してきた。
途中猛攻の中フリックと離れ離れになってしまったが、ひたすら倒れた兵士に回復魔法をかけながらビクトールに言われていた通りミューズまで逃げろと意識を回復させた兵達に声を荒げながらひたすら走った。
喉が枯れて魔力が尽きかけた時に、ふとピリカの顔が頭を過ぎり近くに居た小隊長のカレダンとその部下の兵達に撤退と声を掛けて一緒に砦まで後退する
裏口から入り、井戸を過ぎた時に突然斬撃が飛んできて。横に居た仲間を庇う様に剣で受け止めると、中々に重く軽く手が痺れた。
「よぉ、さっきの紋章使いじゃねーか。まさか剣術も出来るとはなぁ」
「…こいつは私が相手をするから、貴方達は直ぐに馬でミューズまで逃げなさい」
「…分かりました、ご武運を」
赤い髪の男の強さを直ぐに判断したカレダンは私の言う事に直ぐに頷いてから他の5人と馬小屋まで走って行った。
「彼等が逃げるまで待っててくれる何て随分紳士なのねぇ」
目の前の赤い髪の男に向き直り素直な気持ちを言えば
、ハイランドの男は紳士だからなと強気な笑みで答えが返ってきた。ルカ様に紳士は感じられないけど。
と皮肉を言えば赤髪の男は苦虫を潰した様な顔をしてから剣をこちらに向ける
隙が全くないので小手調べに浅く踏み込んで何回か切り込めば、綺麗に打ち返される。
「綺麗な顔立ちだな、出身は?」
斬り合いには相応しくないような質問に、産まれた所でいいのかな?と真面目に考えてファレナだよと答えながらギリギリで剣を避けると、男はシードだ。と言ってから一度空を切った剣を鞘にしまった。
「シードって…名前?」
「そうだ。お前は?」
私は彼が剣を鞘にしまうのを見て、セツナ。と名前だけ名乗り彼の瞳を見つめた。
「…セツナか。」
見つめ合う2人の視線が交わると、直後砦から爆発音と爆風が吹き荒れて体が風圧で吹き飛ばされる
咄嗟に衝撃に備えて頭と顔を手で覆ったのだが、地面とはまた少し違うものの衝撃で顔を上げた。
目の前にあるシードの顔にギョッとする、彼は私を庇う様に抱き締め、地面と私の間には彼の腕があった。
顔面から地面に直撃を免れた私は思わず敵とゆう事も忘れて目を開けないシードをゆすった。
いってぇと口を開いた彼に少し安堵してから腕から逃れると、彼の背中には無数の窓ガラスの破片が刺さっていた。
「シード、動かないでね」
直ぐに紋章で怪我を治療しながら破片を取り除き彼を仰向けにする。その時、スッと気配も無く現れた銀色の髪の男がいつの間にか私に剣を向けていた。
シードの治療に夢中で気が付かなかった私は治療を続けながら向けた剣をピクリとも動かさない銀色の髪の男に注意を払う。
治療が効いたのか直ぐにシードは軽く目を開けて私達を見ると口を開いた。
「…クルガン、斬るなよ」
「はぁ。全く何をしてるんだか」
そう言って彼は剣をしまった。シードはクルガンと呼んだ男の言葉に違いねえやと少し笑う
「…多分これで大丈夫、痛くない?」
「サンキュ、セツナ」
治療し終えた私は直ぐに立ち上がると、クルガンと呼ばれていた男性に、帰ったら一応シードの背中に消毒をしてあげて欲しいと頼む
困った様な顔で、ああ。分かったとだけ言ったクルガンが私に一歩近づきながら何かを言おうと口を開いた時だった。
激しい雷が私達の間に炸裂する。それを避けたクルガンが咄嗟に剣を抜いた瞬間、私の身体は馬に乗って現れたフリックに簡単に抱き上げられ砦から少し離れた水辺に降ろされていた
「大丈夫かセツナ」
馬を降りたフリックが軽く私の頬と額を拭った。
「ありがとう」
拭われた箇所を自分でも触ると、黒いススがベッタリと手に付いている。砦、無くなっちゃったねと小さい声で言った私に、でも生きてるとフリックは笑った
馬で少し走ると直ぐに日がくれた。ミューズまでは丸一日かかるからとトトの村の空き家に入り休む事にした。
「はぁ、疲れたな」
そう言ってバンダナと防具やマントを外したフリックは少し幼く見える。負けた余韻に浸らない所は流石だなと思っていると、ベッドに転がったフリックは顔を腕で覆いそれから一言も話さなくなった。
一度外に出て紋章で軽くススだらけの顔と体を洗い、先程勝手にクローゼットから拝借した黒いワンピース着て空き家に戻る
この服の持ち主も亡くなったんだろうな、何て考えていると隣のベッドに腰掛けた私に向かって珍しく弱々しい声でフリックが口を開いた。
「…会議室でポールが死んでいた。階段でジャミロとテバリーも。一階でバミダスも」
その名前の兵は、皆私も話した事も一緒に食事した事もあった。甘えん坊で懐こくて気のいい子達だった
腕で目元が覆われていてフリックがどんな顔をしているか分からないけれど、自然と側に寄りたくなって彼の顔の横に座り優しく頭を抱きしめた。
一瞬ビックリしたようだったけど、大人しく抱き締めさせてくれて、フリックは何も言わなかった。
それから直ぐに彼の寝息が聞こえてきて、私も彼に寄り添ってそのまま寝てしまった。
眩しくて目をゆっくり開けると、目の前にある茶色の瞳に少しだけビックリした。
「…ビックリした」
「…すまない、俺も今起きてお前の寝顔が目の前にあったからビックリしてたらお前が目を開けたんだ」
ハハッと小さく笑ったフリックに、少し安心して彼の胸にそのまま顔を埋めた。
お、おい、と非常にドギマギしている彼に、フリックが生きててくれて良かったと心から思っていた事を告げる。
防具を付けていない彼の胸は心音と体温で暖かい。
そんな余韻に浸っていると、少し戸惑いを感じるような手が背中に回された。
「お前が生きてて良かった」
そう言ったフリックはキツく私を抱き締めて優しく首筋に顔を埋めた。
顔を洗い剣を身に付けて身支度を整えてからミューズへと出発した。朝から馬を走らせて、途中休憩を挟み
馬に紋章で回復魔法をかけて進みを繰り返していると日が出ているうちにミューズに辿り着いた。
門番がフリックのことを知っていたのですんなりと通して貰えたのは疲れた身体に非常に有り難かった。
「酒飲み熊さんは酒場にいるかな?」
「プッ、それ会ったら本人に言ってやれよ」
そんな話をしながら酒場に入ると、酒を煽るビクトールを見つけてついつい喜びで声を大声を上げてしまう
「ビクトール!」
自分の名が呼ばれて、私達の方を振り返ると彼は嬉しそうに笑った。
リオウとジョウイ達はまだ到着していなかったけれど砦にいた兵士の大半は生きていてもうミューズに到着していると教えてくれた。
レオナさんに挨拶を済ませてから3人で久しぶりにテーブルを囲い酒を飲みながら砦での戦の話していると、フリックが思い出したかのように口を開いた。
「セツナ、そう言えばお前砦の爆発の後ハイランドの将軍に囲まれていたな」
「今更だなぁ」
「あの時は脱出する事しか考えて無かったからな…。あの2人に囲まれたお前を見た時はヒヤッとしたぜ」
「何だセツナ、ハイランドの将軍と戦ったのか?」
腕前はどうだったか?と楽しそうに聞いてくるビクトールに、ふとシードの顔が過ぎる。
あれから怪我は大丈夫だろうか。庇ってもらった礼を言うのをすっかり忘れていた
「腕前かぁ…。一応戦ったんだけど直ぐに爆発が起きて、その時シードが爆発から私を庇ってくれてさ。背中に刺さったガラスの傷を治療してたら仲間のクルガンて将軍がシードを迎えにきて…その時にフリックに助けられた感じかな」
腕前を見るとゆうよりは、彼の勇姿を見た感じと付け足す
「敵にしては良い男だな」
ビクトールとフリックはハイランドにもそんな奴が居て良かったと頷いていたが、私はフリックがもしあの時来ていなかったら今頃は捕虜になって居たかと思うと内心ゾッとしていた。
2人がこれから兵隊を集めるだ何だ話をし出したので、その合間にお手洗いに行き帰ってくると酒場は少しざわついていた。
ビクトールの座って居た位置の少し後ろ側に誰かが倒れている。ビクトールとフリックが大丈夫かとその人物に声を掛ける中、私も駆け寄って倒れた人物の顔を覗き込んだ。
そこに居たのは白鹿亭で別れたナッシュだった
「ナッシュじゃない、どしたの?」
「セツナの知り合いなのか?ちょっと俺の腕に当たったら倒れちまってな…」
「たく、ちょっとじゃないだろう」
フリックがため息を付きながら彼を担ぎ上げると、レオナさんに部屋を借りて2階に上がって行く。その後ろを私とビクトールが続いた。
ベッドに降ろされたナッシュに近づき、私は手際よくコートを脱がせると紋章を発動させた。只の気絶の様だったので安心したが、後ろに腕を振っただけで気絶させる事が出来るビクトールは凄いと思ってしまい治療中は苦笑いが止まらなかった。
「もう大丈夫。」
そう言った私にフリックとビクトールは胸を撫で下ろしてから部屋を出て行く。
「サンキューセツナ」
「セツナ、行くぞ。ビクトールは後でコイツが起きたら謝るんだぞ」
「私、ナッシュの様子見たいから此処に残るわ、2人は先に行ってて」
「男の部屋に2人きり何かに出来る訳無いだろ」
「知り合いなのよ、それに部屋に2人きりって…昨日ずっと私達は部屋で2人だったじゃないの」
私がそう言って笑えば何も言えなくなったのか、フリックは黙った。ビクトールは笑ってお前の負けだとフリックの背を押しながら部屋を出て行った。
廊下から危ないだろとフリックの声が聞こえたが、ビクトールは知り合いなんだから2人にしてやれよと優しく諭してくれていた。
ちょっと言い過ぎたかなと思ったけれど、ナッシュにまた会いたかった私はベッドの横に椅子を持ってきてそれに腰掛けた。ポケットから出したハンカチを紋章で少しだけ濡らしながら冷やし、彼の額に置いた。
相変わらず綺麗な顔をしているなぁと思いながら髪を撫でていると、撫でて居た手が優しく掴まれた。
「セツナ…か?」
「おはよう、災難だったね。後久しぶり」
まだ少し痛いのか、痛みを堪える様な顔で彼はゆっくりと起き上がった。
「久しぶりだ、元気そうだな」
掴まれて居た手を優しく握り直すと、ナッシュは微笑んだ。あれからどうしてたの?と聞くとナッシュは一度顔を青ざめたが、妖怪電撃オババの舎弟にされて吸血鬼退治をしていたとポツリポツリ話してくれた。
その言葉に私は目を見開きあれこれ詳しく聞いてしまう
その私の様子をおかしいと思ったのか、ナッシュは何か君と関係があるのか?と顔を少しだけ険しくさせた
関係があるから聞きたいと素直に言えば、オババと呼んだのはシエラ、吸血鬼はリィンとナッシュは教えてくれた。
「シエラ長老が都市同盟にいるんだ…」
「シエラとはどうゆう関係なんだ?」
「…内緒」
「そう言うと思ったぜ」
はぁと溜息を付いたナッシュに私は色々教えてくれてありがとうとナッシュの髪を撫でた。
子供みたいに扱うなぁとジト目で見られて、そんなつもりは無いんだけど可愛くてついと笑うと、カッコイイのがいいなとナッシュは口を尖らせた。
「色々話聞かせてもらったから、お礼にご飯奢るよ」
「それは相当ありがたいぜ」
「あはは、言うと思った。路銀不足は解消されていないみたいだね。ちょっと待っててね」
早足で部屋を出て、レオナさんに食事の代金を支払ってから私が作りますと言って厨房に入った。今忙しいから助かるよと言ったレオナさんはジョッキを両手に持ってカウンターを出て行った。
スープの作り置きがあったので、サラダを簡単に作ってから肉を焼いていると戻って来たレオナさんが私を見ている事に気付いて視線を向けた。
「どうしたんですか?」
「それ、あの金髪のお兄ちゃんのかい?」
「ああ、そうですよ」
「…そうゆう事か」
首を傾げた私に何でも無いよ、と言ったレオナさんは少し笑ってから彼に食事を届けて暇になったらでいいからまた少し手伝ってもらえるかい?と言って来たので、すぐに了承すると焼きたての肉とパンをお盆に乗せて2階に上がった。
「ナッシュ出来たよ」
「良い匂いだ、嬉しいぜ」
トレーをナッシュの膝の上に置いてからおしぼりを渡してあげると、温かいおしぼりで手を拭いたナッシュは直ぐに食事に手をつけた。
今まで気が付かなかったけれどコートを脱いだナッシュをまじまじ見るとかなり鍛えている身体付きをしている。
「ナッシュは剣は使うの?」
「んー本当に必要な時くらいかな」
久しぶりの食事が美味すぎて涙が出るだ何だ言ってる彼を見ながら仕事は何をしているんだろうと疑問に感じたが聞くのをやめておいた。
半分まで食べる姿を見てから仕事があるからと部屋を出ようとすると
ミューズに少しの間滞在するから時間が合う時に一度出掛けようと言われて笑顔で頷いてから部屋を出た
「レオナさん、戻りました」
「ああ、すまないね。さっき兄さんに作ってた肉料理を作ってくれないかい?」
「えっ?ああ、分かりました」
キセルを吹かして一休みするレオナさんの横を通り過ぎて厨房に入ると、直ぐ言われた通りに先程と同じ肉料理を作って皿に盛りレオナさんに渡す。
「出来ましたよ」
「ああ、ありがとさん。」
レオナさんはお皿を受け取らずに用意してあったジョッキ2つを手が空いてる片手に渡して来た。
「これをフリックに渡して来ておくれ」
「フリックですか?分かりました」
酒場を見渡すと奥の方にビクトールとフリックが飲んでるのが見えて、直ぐにそこの席へ向かう
私を見つけたビクトールが直ぐに手を上げて私を呼んだ。
「おまたせ、ビールと一口ステーキだよ」
「ん?注文してねーぞ」
「あれ?レオナさんに頼まれたんだけどな」
ステーキ美味そうだなと言ったフリックに私が作ったから食べて欲しいと言えば、ああと言って笑った。
ビクトールのフォークがつかさず肉を3枚重ね刺しにして口に運ぶ。何とゆう早技と私が関心していると、テーブルの下でガツンと鈍い音が鳴ってビクトールが悶えた。
「いってぇな!フリック」
「けっこう思いっきり蹴ったからな」
「ふふふ」
フリックの横に座った私も喉が渇いたので片手に持っていたビールを飲ませてもらう事にした。
「金髪兄ちゃんに飯持ってってたろ?もう具合は平気そうか?」グビグビと喉を鳴らしながら何杯目か分からない酒を飲みながらビクトールはニヤニヤと薄く笑う
「うん、何気に鍛えてるから大丈夫でしょ。てか何でそんなにニヤニヤしてんの」
「お前が飯まで手作りで持って行くからフリックが不機嫌に、いってぇな!また蹴りやがって」
ガタンと椅子を転ばせながらビクトールは立ち上がってフリックに怒鳴ると、うるさい余計な事を言うなとフリックも立ち上がり喧嘩になる。
遠くから、それ以上やるとこれから2度と酒は出さないよとレオナさんの声が聞こえると2人は静かに着席した。
「フリックが何で不機嫌になるの?」
私がそう言ってフリックを見つめると、うっとバツが悪そうに明後日の方角を見ながら、危ないだろと一言呟いた。
「危ないって、何かされるって事?」
「ああ、そうなってからじゃ遅いだろ」
「ナッシュとは2人で同じ部屋に泊まった事もあるから大丈夫よ。」
そう言った途端に、お前なぁとビクトールはゲンナリした顔でフリックを見つめている。
チラリとフリックを見ればいつもの様に顔を手で覆っていた。
「…言葉が足りなかったけど、ナッシュはお金が無くて折半で一緒の部屋に泊まっただけよ、酒盛りしてそのまま寝たけど別に何も危険何て無いし。」
「あのなぁ、ナッシュって奴はたまたま良い奴だっただけだろ。変な奴だったらどうするんだよ」
「変な奴と泊まりませんー」
「分からないだろう、男何て腹で何考えてるか分からんぞ。途中で気が変わるやつだっているかもしれないんだぞ」
「フリックは2人でこの間寝た時、腹で何か考えてたの?」
「………」
「いつ2人で寝たんだ?一緒のベッドか?」
「「ビクトールうるさい!」」
酔っているからか、途中でアホらしいなこの話と思ってきて。フリックの言いたい事も良く分かったけど途中でもう引き返せなくなり私も強気で声を荒げてしまった。
「ごめん、フリックの言いたい事は良く分かってる。只何かされたら氷漬けに出来るから大丈夫」
「そ、それならいいんだ。よ、良くは無いが」
しおらしく謝った私にフリックは少し焦りながら私の髪を撫でた。
「なんでぇセツナ、謝っちまうのか?」
「黙れ熊」
「言ってやれよセツナ、フリックは私を女として見過ぎだからそうゆう妄想に取り憑かれるのよってな」
「プッ、ビクトール何それ笑える」
ビクトールがそう言うと、珍しく顔を赤くしたフリックは立ち上がりご馳走さんと言って部屋に戻ってしまった。
「…急にどしたのフリック」
「図星過ぎて何も言え無かったんだろ」
「何その可愛い三十路」
「あのなぁ、お前は子供扱いしすぎだ。」
「私400歳過ぎてるもん。仕方ないでしょ」
そう言ってニッコリ笑った私に、そりゃあ仕方ねーなーとビクトールは珍しく渇いた笑みを溢した。
「ビクトールごめんね、今まで黙ってて。でも私人の心はしっかり持ってるから」
そう言った私に、彼はいつもの笑顔で分かってると笑ってくれた。