幻想水滸伝2
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気持ちの良い空間にフワフワと浮いている様な感覚
温かい。とても心地よくてフリックの胸の中なのかもしれないと自然と感じた
ぎゅっと手を握られる感覚に少しドキっとすると、スーッと意識がハッキリとしてきてゆっくりと目を開けた。
目の前にあるシードの顔にギャっと思わず声を出せば
シードも驚いたのか少しだけビクリとしてから私を見つめたまま大きく溜息をついた
「起きたかよ。本当に馬鹿な奴だよな」
「⋯寝起きにそんな台詞聞きたくないけど⋯クルガンの剣が喉元にあるのを忘れてたのは言い訳しないよ」
ブハッと笑ったシードを横目に自分の傷口を確認しようと右手を動かすと、シードが手を握っていてくれたのが分かって少し照れくさくて見ないふりをしつつ
反対の手で首元を触る
傷口は綺麗に塞がっていて、痛くも無いし痕も無かった。
「⋯シードが治してくれたの??……痛くない……随分治療の腕が良いのね」
「⋯まぁな。傷は浅かったし直ぐに治療したからな。それなら痕も残らないだろ」
「⋯あー。やっちゃったなぁ⋯。最後に見せた光景があれじゃあ皆心配してるよね」
「⋯だろうな。俺がフリックなら⋯⋯嫌、何でもねぇ」
「俺がフリックなら?何?」
「⋯殺されると分かっていても敵の本拠地にお前を迎えに行く」
「⋯⋯シードなら本当にやりそう」
「何だよ不満か??」
「……殺されたら嫌なだけよ。フリックは絶対に軍師殿とビクトールが止めてくれてるから大丈夫だと……思う。うん」
「風来坊のビクトールか⋯。クルガン役だな」
「⋯とりあえず生きてるってだけでも伝えたいな」
「今は我慢しろ。俺の屋敷に戻ったら手紙を書いていいから」
「はっ?屋敷って何??」
「お前は捕虜って形になってるからな。ほれ」
そう言ってシードは私の右手にある腕輪の様な物を見せた。
「何これ。魔力がここに全部吸われてる感覚がする」
「⋯流石だな、分かるのか??これは外れないし紋章も使えない。真なる紋章封じに賢者が作った物らしいぜ」
クルガンがルカ様から借りてきたとシードは私に水を渡してからベッドに座り直す
何か違和感があったがこの腕輪のせいかと理解した。だが嫌な気分では無い
「⋯ここは何処??」
「今はミューズだ。あれから4日間眠りっぱなしだったからな」
「ミューズに4日で来れるの??早すぎ無い??」
「馬を飛ばして途中で船にすぐ乗り換えたからな」
「ミューズか⋯。懐かしいなぁ⋯」
「⋯何だ?フリックとデートでもした街か??」
意地悪い顔で聞いて来るシードに、そういえばデートもしたし色々買って貰って可愛がってもらったなぁ~と白々しく言えば何も返事は無い
思っても無かった反応にチラッとシードの方を見れば珍しく、そうかよ。と舌打ちしてそのままこちらを1度も見ずに扉の向こうに消えた
1人取り残された私は、余計な事を言うんじゃ無かったと少しだけ後悔する。
惚気けるなよと頬をつねって笑ってくれたらと思っただけだった。もしかしてフリックが言っていた通り本当に私の事を??
半信半疑だったのもあったけど
聞いていた癖に少し意地が悪いのは私だったなと素直に反省した
魔力無し、剣無しで此処から逃げるのか⋯と遠い目をしていると御手洗に行きたくなって来た私は少し迷ったが扉に手をかけた
なるべく静かに歩きながら、ミューズの宿なら2階にも手洗いがあった筈だと思い出し、階段を降りずに真っ直ぐ歩いて突き当たりを右に曲がった所でドンと衝撃を感じて私は壁に背中をぶつける
痛っと、自然に声が出ると突然グイっと髪の毛を引っ張られてそのまま宙に体が浮く
「貴様⋯⋯よく見たら都市同盟の⋯⋯」
「⋯お前は⋯ラウ⋯ド⋯」
私を見てニタっと笑ったラウドは、スパイか??1人単身で突っ込んで来たのか??と言いながら思い切り顔に拳を振り下ろしてくる
右腕で何とかガードしたが、骨にヒビが入ったのが分かり右腕が力無くブラリと落ちる
舌打ちした私に何だその態度はと怒鳴るラウドは何度も拳を顔に打ち込んでくる
悔しい⋯痛い⋯折れた歯が転がったのが見えて血が口から湧き出てくる
ラウドの目に向かってその血を思いっきり吐き出すと
うわっと叫び私を廊下に叩きつけ、許さんぞと言いながら馬乗りになってきた
ワイシャツを破られて、下着が露になった私にお前を売り飛ばせば金になると笑ったその瞬間だった
一瞬で金具の付いたブーツがラウドの顔面を蹴り飛ばし、壁に叩き付けられる
その衝撃でラウドの口から血が吐き出た
「テメェ⋯誰の女に手出してんだ⋯殺してやる⋯」
目を吊り上げて尋常ではなく怒っているシードはそのままラウドの頭を持ち上げると右手を何度も振り下ろす。バキッボコッと悲痛な音が何度も廊下に響き渡った
シード様誤解です!スパイですと血反吐を吐きながら叫ぶラウドにシードは聞く耳を持とうとはしない
唖然としている私に、後ろからそっと脇に滑り込んで来た手が私を優しく持ち上げ膝に座らせられる
「⋯クルガン」
「⋯これは酷いな⋯武器も持たない女性にこれは……」
「ちょ、クルガン、シード止めて!ラウド死んじゃうから」
「……今回は止めません」
そう呟いたクルガンは珍しくシードを止めず、私の体を抱えて直し横抱きにするとポケットからハンカチを出して優しく私の唇に置いた
「いたたたた、シード。もういいからやめて。そいつ、最初の一撃で内臓が傷ついてる⋯。死んじゃうからやめてあげて」
私の言葉にこちらを1度だけ振り返り、舌打ちをしたシードはラウドをそのまま投げ捨てる様に廊下に叩きつける
ヒィと言いながら慌てふためいて走り去ってゆくラウドに何だアイツ元気じゃんと満身創痍の私が笑うと、クルガンはゆっくり私を抱き上げた
「⋯すみません。シードが側を離れたから」
「御手洗い行きたくて部屋から出たらバッタリ会っちゃってさ」
そのまま、お姫様抱っこの様な格好に早足で先程の部屋に戻ったクルガンは私を優しくベッドに降ろすと、まだ目が吊りあがっているシードに声を掛ける
「シード」
「⋯ああ」
私の顔に優しく触れるか触れないかの所に手を置いたシードが紋章を発動させると淡い青い光が私を包んだ
「⋯ セツナ、悪かった⋯」
「⋯シード別に悪くないじゃん」
何も喋らないシードに少し気まずさを感じていると、少しづつ光が弱まってきて、淡い青い光は完全に消えてしまう
「⋯やべぇ、魔力切れだ。クルガン、衛生兵から薬貰ってきてくれねぇか??」
「⋯まぁ朝も紋章使いましたからね。仕方ない」
そう言ってクルガンが扉を出ると、シードはゆっくりと私の頬を撫でる
「痛いか?」
「⋯さっきより全然平気。それより歯が折れたかな?歯残ってるよね?」
「口開けて見せろ⋯⋯。あー⋯2本折れてるな」
「歯抜け嫌だなぁ」
「アイツの歯、全部折っとくからよ」
「⋯ふふ。ご飯食べれなくなると可哀想だからいいよ」
「⋯⋯ハァ。お前は全く……」
そう言ったシードはため息をついてから私の髪を手ぐしで整えてから額に触れるだけの優しい口付けを落とす
「⋯どさくさに紛れて何やってんの?」
「⋯⋯⋯」
「……何か言ってよ。あーあ、それにしても殴られたのは久しぶりだったな」
「⋯前もあるのか?」
「弱かった時は斬られた事も沢山あるよ、男にボコボコにされた事も辱めを受けそうになった事もあった。今思い出しても悔しいなぁ」
「⋯次は絶対⋯俺がお前を守るからよ……」
「⋯シード⋯。ありがとう、今はお願いしようかな」
「⋯今だけか⋯まぁ。仕方ねえか」
そう言って今度は髪をすくい、優しく口付けする姿にドキリと心臓がなったのがハッキリと分かり少し顔が熱くなる。
なんだかこの人といると面白いんだけどペースが掴めないんだよなぁとシードの綺麗な横顔を見て軽く溜息を吐いた
「そういえば⋯紋章と剣が無いと自分の身も守れなかったな。体が鈍りすぎて体術も出来なかった」
「2日寝たきりだったんだ。あの野郎も一応軍人。仕方ないだろ、お前は女なんだから」
「⋯ふふっ。女か」
「⋯本当にすまねぇ」
悔しそうに歯をギリギリと鳴らしそうなくらい拳を握り顔をしかめるシードを見てもう痛くないから大丈夫だよと笑う
柔らかい毛質のシードの髪を優しく撫ぜると、シードは1度だけ驚いた顔をしてから私の手を取りその手に
優しく口付ける
「⋯そうゆう事もうしないで」
「⋯なんでだよ。お前が俺に触ったから触っても良いと思ったんだろ」
「⋯自然過ぎて分かって無かったけど、そういえば私が先に触ったわ」
「⋯何だそれ」
そう言って笑うシードに、薬を持って入って来たクルガンは随分楽しそうだなと呆れていた。直ぐに薬を飲ませて貰うと半分は回復していた怪我はすっかり治ってしまう
その後、シードの護衛付きだったが風呂にも入れて食事も出して貰った。
ミューズ1階の食堂だが人は全然居なくて、シードと私とクルガン。そして向かいに座って居たのは大人しそうな若い男性だった。
王宮に雇って貰っていた時の食事を思い出すようなメニューに私が満面の笑みで食べていると
向かいに座っていた男性にハンカチを差し出された
「どうぞ、良かったら使って下さい」
「悪いな、クラウス」
「セツナさん、ラウドが大変失礼致しました。お体の方は大丈夫ですか??」
「あ、うん。大丈夫、ありがとう。でも何でハンカチ??」
「⋯ セツナ、口の周りがソースだらけですよ」
クルガンに指摘されて、指で口の横を触った私にクラウスは静かにクスクスと笑った
まだ差し出されていたハンカチを受け取ると遠慮無く口の周りを拭かせて貰う。
洗って返すね、と言えば差し上げますと言われて私は素直にどうもと言って頭を下げた
「あれ?クラウスって⋯確かキバ様の息子!?」
ハッと思い出した私の口から出た言葉に隣に居たシードは珈琲を噴き出し、クラウスとクルガンはポカンと私を見つめる
「お前キバ様ってまだ呼んでんのかよ」
「ファンだもん。ハイランドで1番カッコイイ」
「シード、残念だったな」
「お前はいちいちうるせぇな」
「⋯父のファン何ですか??」
「1度だけキバ様の戦いを見た事があって。ビクトールに少し似てるんですよ、戦い方が!何だろう。うーん真っ直ぐで男らしくて本当にカッコイイんですよね」
「確かに私から見てもビクトール殿やキバ殿の戦い方は尊敬に値しますからね」
「⋯そうですか⋯父も喜びます。こんな美しい女性にファンだなんて言われて⋯父は幸せ者ですね」
そう優雅に笑ったクラウスに何だか照れてしまい、どうも⋯と頭を下げた
そんな夕食会だったが私は何だか楽しくて、ずっと笑顔だったと思う。そんな私をシードが優しい顔で見守ってくれているのを知っていたけど、どう対応したらいいのか分からなくて少しだけ戸惑っていた。
クラウスにお礼を言って別れ、シードに送って貰い最初に居た部屋に帰って来ると直ぐにベッドに横になる。
色々あった一日だったなと考えているとお腹が膨れているからかまた眠くなってきて早めに歯を磨いてから毛布にくるまり目を閉じた
鍵を掛けてあるからか安心した私は直ぐに眠りに落ちていった
人の気配がして、ガバっと起き上がりベッドの後ろに隠して置いたナイフを取ると右手首を掴まれてそのまま羽交い締めにされる
「セツナ俺だ、大丈夫だ。様子を見に来ただけだ」
「⋯はぁぁ、ビックリしたなぁ」
ナイフを取られた私はそのままシードに抱き締められてしまう。怒る気力も無い私に、すまねぇと耳元で囁くシードに首を横に降った
夕食時に出たナイフをかすめ取ってきてた事もシードは何も言わないで謝ってくれた
「以外にラウドのパンチが効いたのか、神経がピリピリしちゃってたかも。余裕無くてごめんね」
「……頼むから謝らないでくれ」
その言葉を聞いた私はシードも罪悪感があるんだなって感じて目を閉じた
温かい腕に包まれて、この人は自分を本当に守ろうとしてくれてると感じて胸が熱くなる
でも、シードに口付けや抱き締められる度にフリックを思い出してしまう
ぼんやりフリックの事を考えていると不意に涙が出てきてしまい、目元を手で覆う
泣いてるのか?と1度だけ聞いてきたシードに何も言葉を返さないでいると目元の涙に何度も口付けをされて私は困った様に笑うしか無かった
「⋯ セツナ、俺はお前を都市同盟に帰す気は無い」
「⋯」
「俺の側にいるのは嫌か?」
「⋯⋯⋯。」
「⋯意地悪な言い方したな」
「⋯ううん。でも私は⋯フリックを愛してるから帰るよ⋯」
「⋯お前はフリックに会わずにハイライドに来ていたら俺を愛してたと思う」
「⋯ふふっ何その自信」
「俺はお前を初めて見た時から愛してたからな」
「⋯何それ」
「⋯運命何て知らねーが俺はそう思った。お前がフリックを愛してようが俺はお前を帰さないし絶対に俺のものにする」
「⋯シード⋯。」
それ以上何も言わないシードに私は目を瞑り、温かな体温を感じながらシードが傍にいれば兵に襲われる事も無い、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせる様に念じ
ゆっくりと自分を落ち着かせる
トントンと背中を優しく撫でるシードの手が心地よくていつの間にか意識を手放していた
次の日の朝から直ぐにシード、クルガン、ジョウイの部隊はルルノイエに帰還する為に馬を走らせていた
「⋯こんな早く走って馬バテないの?」
「トトで1度休憩する」
シードに渡されたフード付きのコートが上手く顔を隠してくれているが、シードの前に座っている私に周りの兵士達は気になるのかあちらこちらからチラチラと視線を感じる。
途中ハッとして、ルカはいないのかと聞くと呼び捨てにするなとシードに怒られてしまい笑ってごまかした。
2人きりの時なら良いけどよと続けた言ったシードにコクリと頷くと、耳元でこれから多分ハイランドは色々な事が大きく変わってくる
忙しくなるだろうよ。とボソリと呟いた
その顔がどこか悲しそうな嬉しそうな微妙な顔をしていて、私はふーん。と軽く流す事に決め何も言わなかった
「飛ばすからもう喋るなよ」
そう一言私の耳元で呟いたシードは手網を強く握り直すと馬の腹を軽くブーツで叩く。それに応えるように馬は1度大きな鳴き声を発してから力強く走り出した
途中途中で休憩を入れたりキャンプをしながら何とかハイランドの領地に入った時には私の腰はガタガタだった。馬移動がこんなにキツイなんて思わなかったと涙目でシードに訴える
後少しで屋敷に着くから眠ってろと言われ、揺れすぎて眠れる訳無いでしょと言った私だったけれど気が付いたらシードにもたれかかりすぐに眠ってしまった自分が居た
ゆさゆさと揺さぶられて目を開けると先程まで夕陽が出ていたのに辺りは真っ暗で、周りにクルガンや他の兵士も見当たらない
「⋯⋯あれ?皆は?」
「⋯クルガンは王都に行った。やる事があるからな」
「シードは行かなくていいの?」
「クルガンが、お姫様が疲れてるから労わってやれってさ」
「クルガンナイス」
「言ってろよ」
疲れたー!と言って馬から降りたシードは私に手を伸ばす。その手を取ると、そのまま引かれて横抱きにされ、そのまま連れ大きな屋敷に入ったシードは帰ったぞと一言屋敷のエントランスに響く様に声を発した
「おかえりなさいませ、シード様!!」
「おかえりなさい!シード様!」
パタパタと靴を鳴らしながら走りよって来るのは正装をした小柄なおじさんと若い使用人の女の子だった
嬉しそうに私を見た2人は、お客様ですか??とキラキラした瞳で私を見つめている
「名前はセツナ、俺の婚約者だ」
「はぁ??初耳なんだけど」
「色々事情があって、そうゆう事になった。ラウドの様な馬鹿がいないともわからねーからな。クルガンがそう兵達にも伝えている」
「ああ、そうゆう事ね」
「シード様の婚約者様!!」
若い女の子の使用人が私の手を取り、奥様よろしくお願いいたしますとブンブン手を振ってきて
ど、どうも。と戸惑いながら返事をした私におじさんが自己紹介をしてくれる
おじさんは使用人頭のアダム、使用人の女の子はエメルドと名乗った。
「俺達は先に風呂に入るから、飯の支度を頼む」
「かしこまりました」
「エメルド、何かこいつに何着か服を持ってきてくれねーか??」
「はい!お休み用のローブにドレスでよろしいでしょうか?」
「ドレスは動きにくいから、何か動きやすいのだと助かります」
「・・・ドレスにしとけよ」
「嫌よ、トレーニングも素振りも出来ないじゃない」
「で、では動きやすい美しい服を用意してまいります」
「すみません、ありがとうエメルドさん」
「奥様!エメルドとお呼びください」
奥様に苦笑いの私を見てシードがクスクスと笑っている。ジトリとした目でシードを見つめると風呂行こうぜと手を取られてそそくさと歩くシードの後ろに続いた
何故か脱衣場で服を脱ぎ出したシードに、はっ?と目を見開くと家の風呂なんだから混浴に決まってんだろ
と私が変な奴みたいに言われる
「シードが出てから入る」
「飯の時間に間に合わねぇ。タオル巻け」
「ぐぬぬ・・・シードも巻いてよ」
「当たり前だろ」
そんな阿呆なやりとりをしながらしっかりと大きなタオルを巻くと先に入ったシードの後に続いた
タイル貼りの大きなお風呂に私は感動を隠せずにふわぁーとはしゃぎながらお湯に飛びこんだ
洗ってから入れ!と怒られたけど、私がお湯の中ではしゃいでる姿を見たシードはそれ以上何も言わなかった
「凄いわーお金持ちいいわー」
「何か嫌な言い方だなぁ。おい」
肩まで浸かり手足をばたつかせている私の横に座り目を閉じたシードは疲れたなぁと一言呟くと私の肩に頭を乗せてくる
濡れた赤い髪が鎖骨をくすぐり、長いまつ毛が揺れる
色っぽいオトコだなと内心思ったが何も言わずに私も目を閉じた
何分か経って、脱衣場からシード様と呼ぶアダムの声が聞こえて来て私達は風呂からあがり食堂に移動する
「本日のお食事はオレンジのサラダ、ローストビーフ、シーフードフライ、ポタージュスープに御座います。パンが焼き上がりましたのでお持ちしますね」
「キャー美味しそう!!オレンジサラダ嬉しい!」
その食事を見て半泣きで喜ぶ私に皆がクスクスと笑っているのが分かり私も自分で少し笑ってしまう
「セツナはオレンジサラダが好きなのか?」
シードのナイフとフォーク使いは誰が見ても美しいと思える様な手捌きだった。私に質問をしながら綺麗にローストビーフを切り分けて私の皿に乗せてくれる
「うん。オレンジサラダは思い出のご飯かな」
「なんだよそれ聞かせろよ」
「楽しい話じゃないわよ?」
「いいから」
「……昔、王宮に勤めてた時があってさ。雇われ騎士だったの」
セツナ様カッコイイと、パンを運んできてくれたエメルダが私にキラキラした瞳を向けながら焼きたてのパンを切り分けて皿に盛り付けてくれる
「お前、騎士だったのか??」
「騎士長閣下が知り合いでちょっと頼まれただけだなよ。でもその時のご飯も美味しかったなぁ」
「オレンジサラダが王宮の飯か??」
「ううん。その王都で一時期口説かれて恋仲になった男が毎回浮気してバレて、口聞かなくなった私の部屋に毎回オレンジサラダ作って届けに来るの。そんな思い出の料理」
「……気に食わねぇ」
「はっ??何が?」
「フリックの他にまだ居るのか?」
「シード様!そこなんですか???!」
「20年くらい前の話だよ!」
エメルダと私の突っ込みに黙ったシードを見てアダムが嬉しそうに笑う
「シード様のこんな顔は久しぶりに見ましたな。なぁ、エメルダ」
「はい!最近はたまに帰ってくると目の下が真っ黒だしイライラしている事が多かったので。元気になられて嬉しいです」
「……そういえばそうだったな。悪かった」
「いえいえ、謝る事ではありません。ただ、奥様といる時のシード様はお元気な様で安心しました」
そう言ってホッコリとした笑顔を向けてくるアダムに私も何だかホンワカしてしまい、ニコニコと食事を平らげる
エメルダやアダムの笑顔を見ていたら、この屋敷なら安心出来るかもしれないと少しだけ思えて来て私はホッと胸を撫で下ろした
その日は与えて貰った自室で死んだように眠り気付いた時にはもう日が昇っていた
服を着替えてから身支度を整え、ドレッサーで少し化粧をした。久しぶりに鏡を見た気がする
軽いノックが聞こえて返事をすると、エメルダがフルーツと珈琲にナッツが入ったパンを持って入ってくる
「お休みになれて良かったです」
「ありがとう、凄く体が楽になった」
この服も気に入っちゃったと言ってクルクルとその場で回ると嬉しそうにエメルダは笑う
シードの軍服に少し色が似た白地に赤いラインの女性らしいワンピースは着心地も良くて何より動きやすい
椅子に座り、持ってきて貰った食事に頂きますと言って口いっぱい頬張っていると
窓の外にブルーの軍服を着ている兵士がこちらを見ているのに気付いて私は立ち上がる
確か、ミューズから出る時にクルガンの1番の部下だと紹介された。名前は確かエドガーだったか……
「奥様、お知り合いですか?」
「確かクルガンの部下の人かな?エメルダ、シードは??」
「朝から王都に行っています」
「何かあったのかな?」
窓に近付くと、エドガーは私を見て1度敬礼をしてからペコりと頭を下げた。敵意は感じないので、窓を開けて声を掛ける事にする
「こんにちは、エドガーさん?であってるかな」
「……はい、クルガン様からお届けものです」
「中身は?」
「自分は中身は知りません。ただ、手紙も一緒に預かっています」
「ふーん。分かりました預かります」
小さな小包を受け取ると、エドガーは1度頭を下げてから直ぐに馬に乗り去っていった
包みを開けると、小さな香水瓶と手紙が入っていた
セツナへ
ラウドから受けた傷は大丈夫か??
シードの屋敷の者達は君に対して絶対に危害を加えたりしない。安心して療養して欲しい
この香水は体と心に癒しがある香水だと知人に頂いた物だ。良かったら使ってくれ
クルガン
手紙を読み終えて私は胸が暖かくなる
香水の蓋を開けて香りを嗅げば本当に何だか癒される気がして。初めて嗅ぐような甘い匂いに酔いしれて首筋に数滴付けると瓶をポケットに入れた
「奥様、良い匂いですね」
「クルガンがくれたの!嬉しい」
「左様ですか!クルガン様はクールに見えて優しい方なのですね」
そんな会話をしていると、少しづつ眠くなって来た私はまだ疲れが取れていない見たいと言って肩を鳴らす
さっきまでスッキリしていたのになぁと欠伸をすると、エメルダは優しく長旅でしたもんねと言ってベッドに私を寝かせてくれる
「・・・食事残しちゃってごめんね」
「来客もありましたし、仕方ないですよ。ごゆっくりお休み下さい」
お言葉に甘えようと思い、私はそのまま目を閉じた
「今帰った」
「おかえりなさいませシード様」
「セツナは?」
「お昼に1度起きてお食事を取られてから、まだ疲れが取れないと言ってお眠りになったのですが」
「もう夕方だぞ。流石に起きてんだろ」
「先程様子を見に行ったのですが、まだ眠っておられます」
「見てくる。風呂の準備しといてくれ」
早足でセツナに与えた部屋に向かい、ノックもせずに部屋に入ればスヤスヤと眠る彼女に内心ホッとする
「おい、寝坊助!起きろ」
肩を揺さぶると、うーんと小さく唸るセツナが可愛くて少しだけ笑ってしまった
ゲラゲラと笑う俺の声に起きたのか セツナはゆっくり目を開いて俺を見た
「・・・おかえりなさいシード」
そう言った瞬間、セツナは俺に抱き着いて唇に口付けしてくる。目の前が彼女でいっぱいになり、この想像はしていなかった俺はそのままセツナを受け止めると唖然としたまま背中に手を回す事しか出来ない
「・・・シード??どうしたの?」
「……どうしたのはこっちの台詞だろ」
「・・・??」
「セツナ、何があったんだ?」
「何って何??シード何か変よ」
「変なのはお前だよ」
グリグリと俺の胸に顔を押し付けてくるセツナは溜息を付いた俺を見て子犬の様に目を潤ませてキスをせがむ
嬉しいのに何故か納得が行かずに動けない俺にセツナはただいまのキスもしてくれないなんて冷たいと頬を膨らませるとそのまま立ち上がりスタスタと部屋を出ようとする
「どこ行くんだよ」
「旦那様が冷たいからお風呂ー」
「・・・俺も行く」
「今日は背中洗ってあげないからね」
「洗って貰った事ねーよ」
「はっ?毎日してるじゃない。何なの急に」
「何なの急には俺の台詞だ」
スタスタと歩くセツナの後ろを追いかけながら、少し様子を見る事にして風呂場に入った
恥ずかしがる様子も無く淡々と服を脱ぐ彼女に俺が恥ずかしくなり目を背ける。タオルで前は隠しているが昨日と違い全く恥じらいが無い
シード早く入ろうよと髪を結いながらまだ服を脱いでいない俺を置いてスタスタと入っていったセツナにやはり変だと首を傾げた
「・・・なぁ。近くねぇか?」
「・・・嫌なの?」
「嫌、・・・嫌じゃねぇ。」
むしろ嬉しさでいっぱいだと思う気持ちを感じながら口には出さなかった。お湯に浸かる俺の上に座り首に手を回してくるセツナに疑心暗鬼になりながらも欲望のまま唇に口付ける
もしかしておちょくってるのか?と一瞬過ぎりイタズラ心でそのままタオルの中に手を入れて胸を触ると
ビンタもされずセツナは俺の髪を優しくすくい頬や額に口付けてくる
可愛くて愛おしい気持ちが爆発し、首筋に噛み付いてそのまま秘部に手をゆっくり入れて中を優しく刺激すると、セツナは俺の耳元で小さく喘ぐ。
「・・・シード、もう駄目。イきそ……」
「・・・まだ駄目だ……」
目元に浮かぶ涙を舐め取りながら少し激しめに喜ぶ所を刺激してやると、ビクビクと足が揺れて一瞬高い声が彼女の口から出て来る
タオルを投げ捨てて露になった胸の突起に吸い付きながら肉芽を撫で今まで我慢していた自分の欲を果たすようにセツナが感じる部分を攻め立てる
「・・・シード」
「ん?」
「暑い・・・のぼせちゃう。また後でしよ」
「・・・さすがに無理だ」
ヒョイと彼女を持ち上げて扉に手を付かせるとそのまま自身をあてがい、えっ?ここで?と言った彼女を無視してそのまま根元まで挿入する
セツナのイヤらしい声が風呂場に響いて、下を向いた彼女の顎を掴み顔を上にあげそのまま口付ける
童貞の様にその声だけでイッてしまいそうになる自分に内心少し笑ってしまいそうになった
もっと奥にと早る気持ちが動きを早くさせる。セツナの気持ちが良さそうな声が耳に入る度に限界を感じてしまう
「・・・わりぃ。もうもたねぇ」
返事の代わりに色っぽく小さく笑った彼女に深く口付けるとそのまま自身の熱を吐き出した
「頂きます」
「どうぞ召し上がれ」
テーブルに並べられたステーキとマッシュポテト、コーンスープにトマトとゆで卵のサラダが食欲をそそる
お待たせましましたと言って焼きあがったパンを切り分けて目の前の皿に置いてくれる
「いつもありがとう」
「いえいえ奥様」
美味しいと口いっぱいに頬張っていると、視線を感じてシードを見た。料理にも手を付けてないシードに今日は何かおかしいなと疑問を感じていた
「シード、食べないの??」
「ん?・・・ああ。食うけどよ」
「帰ってきてから様子が変だけど、何かあったの?」
「・・・なぁ、エメルダ。」
「ハイ!シード様」
「今日セツナに変わった事はあったか?」
「・・・うーん。そういえばエドガー様が来ました」
「ハッ?俺は聞いてねーぞ。何しにきた」
「ああ、エドガーさんはクルガンからの贈り物を届けてくれたのよ」
「贈り物?」
「普通の香水だけど・・・。」
「クルガンがねぇ。エドガーが届けに来たならクルガンからで間違いねーが・・・。・・・なぁセツナ、変な事聞くけどよ。この間お前は誰を愛してるって言ってたか覚えてるか?」
「・・・私が愛してるのは5年前に結婚した貴方だけよ。何言ってるの?しかも最近誰を愛してるとかそんな話はしてないわよ」
その私の言葉に、アダムとエメルダが目を見開き目を合わせる
そして、シードが冷静な目で私を見つめてきた
「・・・皆どうしたの?私何か変??」
「奥様・・・」
「セツナ様・・・」
「・・・いや、5年前に俺達はどうやって知り合ったんだ?」
「キャロの町で。お互い一目惚れですぐ結婚したじゃない」
「・・・キャロか・・・。」
「シードったら変なの」
ハイランドで産まれてキャロで出会って初めて恋をしてシードと結婚した。5年経った今も周りから羨ましがられる程仲が良くて私は幸せ者よ
そう私がニッコリ笑っても3人は笑わなかった
温かい。とても心地よくてフリックの胸の中なのかもしれないと自然と感じた
ぎゅっと手を握られる感覚に少しドキっとすると、スーッと意識がハッキリとしてきてゆっくりと目を開けた。
目の前にあるシードの顔にギャっと思わず声を出せば
シードも驚いたのか少しだけビクリとしてから私を見つめたまま大きく溜息をついた
「起きたかよ。本当に馬鹿な奴だよな」
「⋯寝起きにそんな台詞聞きたくないけど⋯クルガンの剣が喉元にあるのを忘れてたのは言い訳しないよ」
ブハッと笑ったシードを横目に自分の傷口を確認しようと右手を動かすと、シードが手を握っていてくれたのが分かって少し照れくさくて見ないふりをしつつ
反対の手で首元を触る
傷口は綺麗に塞がっていて、痛くも無いし痕も無かった。
「⋯シードが治してくれたの??……痛くない……随分治療の腕が良いのね」
「⋯まぁな。傷は浅かったし直ぐに治療したからな。それなら痕も残らないだろ」
「⋯あー。やっちゃったなぁ⋯。最後に見せた光景があれじゃあ皆心配してるよね」
「⋯だろうな。俺がフリックなら⋯⋯嫌、何でもねぇ」
「俺がフリックなら?何?」
「⋯殺されると分かっていても敵の本拠地にお前を迎えに行く」
「⋯⋯シードなら本当にやりそう」
「何だよ不満か??」
「……殺されたら嫌なだけよ。フリックは絶対に軍師殿とビクトールが止めてくれてるから大丈夫だと……思う。うん」
「風来坊のビクトールか⋯。クルガン役だな」
「⋯とりあえず生きてるってだけでも伝えたいな」
「今は我慢しろ。俺の屋敷に戻ったら手紙を書いていいから」
「はっ?屋敷って何??」
「お前は捕虜って形になってるからな。ほれ」
そう言ってシードは私の右手にある腕輪の様な物を見せた。
「何これ。魔力がここに全部吸われてる感覚がする」
「⋯流石だな、分かるのか??これは外れないし紋章も使えない。真なる紋章封じに賢者が作った物らしいぜ」
クルガンがルカ様から借りてきたとシードは私に水を渡してからベッドに座り直す
何か違和感があったがこの腕輪のせいかと理解した。だが嫌な気分では無い
「⋯ここは何処??」
「今はミューズだ。あれから4日間眠りっぱなしだったからな」
「ミューズに4日で来れるの??早すぎ無い??」
「馬を飛ばして途中で船にすぐ乗り換えたからな」
「ミューズか⋯。懐かしいなぁ⋯」
「⋯何だ?フリックとデートでもした街か??」
意地悪い顔で聞いて来るシードに、そういえばデートもしたし色々買って貰って可愛がってもらったなぁ~と白々しく言えば何も返事は無い
思っても無かった反応にチラッとシードの方を見れば珍しく、そうかよ。と舌打ちしてそのままこちらを1度も見ずに扉の向こうに消えた
1人取り残された私は、余計な事を言うんじゃ無かったと少しだけ後悔する。
惚気けるなよと頬をつねって笑ってくれたらと思っただけだった。もしかしてフリックが言っていた通り本当に私の事を??
半信半疑だったのもあったけど
聞いていた癖に少し意地が悪いのは私だったなと素直に反省した
魔力無し、剣無しで此処から逃げるのか⋯と遠い目をしていると御手洗に行きたくなって来た私は少し迷ったが扉に手をかけた
なるべく静かに歩きながら、ミューズの宿なら2階にも手洗いがあった筈だと思い出し、階段を降りずに真っ直ぐ歩いて突き当たりを右に曲がった所でドンと衝撃を感じて私は壁に背中をぶつける
痛っと、自然に声が出ると突然グイっと髪の毛を引っ張られてそのまま宙に体が浮く
「貴様⋯⋯よく見たら都市同盟の⋯⋯」
「⋯お前は⋯ラウ⋯ド⋯」
私を見てニタっと笑ったラウドは、スパイか??1人単身で突っ込んで来たのか??と言いながら思い切り顔に拳を振り下ろしてくる
右腕で何とかガードしたが、骨にヒビが入ったのが分かり右腕が力無くブラリと落ちる
舌打ちした私に何だその態度はと怒鳴るラウドは何度も拳を顔に打ち込んでくる
悔しい⋯痛い⋯折れた歯が転がったのが見えて血が口から湧き出てくる
ラウドの目に向かってその血を思いっきり吐き出すと
うわっと叫び私を廊下に叩きつけ、許さんぞと言いながら馬乗りになってきた
ワイシャツを破られて、下着が露になった私にお前を売り飛ばせば金になると笑ったその瞬間だった
一瞬で金具の付いたブーツがラウドの顔面を蹴り飛ばし、壁に叩き付けられる
その衝撃でラウドの口から血が吐き出た
「テメェ⋯誰の女に手出してんだ⋯殺してやる⋯」
目を吊り上げて尋常ではなく怒っているシードはそのままラウドの頭を持ち上げると右手を何度も振り下ろす。バキッボコッと悲痛な音が何度も廊下に響き渡った
シード様誤解です!スパイですと血反吐を吐きながら叫ぶラウドにシードは聞く耳を持とうとはしない
唖然としている私に、後ろからそっと脇に滑り込んで来た手が私を優しく持ち上げ膝に座らせられる
「⋯クルガン」
「⋯これは酷いな⋯武器も持たない女性にこれは……」
「ちょ、クルガン、シード止めて!ラウド死んじゃうから」
「……今回は止めません」
そう呟いたクルガンは珍しくシードを止めず、私の体を抱えて直し横抱きにするとポケットからハンカチを出して優しく私の唇に置いた
「いたたたた、シード。もういいからやめて。そいつ、最初の一撃で内臓が傷ついてる⋯。死んじゃうからやめてあげて」
私の言葉にこちらを1度だけ振り返り、舌打ちをしたシードはラウドをそのまま投げ捨てる様に廊下に叩きつける
ヒィと言いながら慌てふためいて走り去ってゆくラウドに何だアイツ元気じゃんと満身創痍の私が笑うと、クルガンはゆっくり私を抱き上げた
「⋯すみません。シードが側を離れたから」
「御手洗い行きたくて部屋から出たらバッタリ会っちゃってさ」
そのまま、お姫様抱っこの様な格好に早足で先程の部屋に戻ったクルガンは私を優しくベッドに降ろすと、まだ目が吊りあがっているシードに声を掛ける
「シード」
「⋯ああ」
私の顔に優しく触れるか触れないかの所に手を置いたシードが紋章を発動させると淡い青い光が私を包んだ
「⋯ セツナ、悪かった⋯」
「⋯シード別に悪くないじゃん」
何も喋らないシードに少し気まずさを感じていると、少しづつ光が弱まってきて、淡い青い光は完全に消えてしまう
「⋯やべぇ、魔力切れだ。クルガン、衛生兵から薬貰ってきてくれねぇか??」
「⋯まぁ朝も紋章使いましたからね。仕方ない」
そう言ってクルガンが扉を出ると、シードはゆっくりと私の頬を撫でる
「痛いか?」
「⋯さっきより全然平気。それより歯が折れたかな?歯残ってるよね?」
「口開けて見せろ⋯⋯。あー⋯2本折れてるな」
「歯抜け嫌だなぁ」
「アイツの歯、全部折っとくからよ」
「⋯ふふ。ご飯食べれなくなると可哀想だからいいよ」
「⋯⋯ハァ。お前は全く……」
そう言ったシードはため息をついてから私の髪を手ぐしで整えてから額に触れるだけの優しい口付けを落とす
「⋯どさくさに紛れて何やってんの?」
「⋯⋯⋯」
「……何か言ってよ。あーあ、それにしても殴られたのは久しぶりだったな」
「⋯前もあるのか?」
「弱かった時は斬られた事も沢山あるよ、男にボコボコにされた事も辱めを受けそうになった事もあった。今思い出しても悔しいなぁ」
「⋯次は絶対⋯俺がお前を守るからよ……」
「⋯シード⋯。ありがとう、今はお願いしようかな」
「⋯今だけか⋯まぁ。仕方ねえか」
そう言って今度は髪をすくい、優しく口付けする姿にドキリと心臓がなったのがハッキリと分かり少し顔が熱くなる。
なんだかこの人といると面白いんだけどペースが掴めないんだよなぁとシードの綺麗な横顔を見て軽く溜息を吐いた
「そういえば⋯紋章と剣が無いと自分の身も守れなかったな。体が鈍りすぎて体術も出来なかった」
「2日寝たきりだったんだ。あの野郎も一応軍人。仕方ないだろ、お前は女なんだから」
「⋯ふふっ。女か」
「⋯本当にすまねぇ」
悔しそうに歯をギリギリと鳴らしそうなくらい拳を握り顔をしかめるシードを見てもう痛くないから大丈夫だよと笑う
柔らかい毛質のシードの髪を優しく撫ぜると、シードは1度だけ驚いた顔をしてから私の手を取りその手に
優しく口付ける
「⋯そうゆう事もうしないで」
「⋯なんでだよ。お前が俺に触ったから触っても良いと思ったんだろ」
「⋯自然過ぎて分かって無かったけど、そういえば私が先に触ったわ」
「⋯何だそれ」
そう言って笑うシードに、薬を持って入って来たクルガンは随分楽しそうだなと呆れていた。直ぐに薬を飲ませて貰うと半分は回復していた怪我はすっかり治ってしまう
その後、シードの護衛付きだったが風呂にも入れて食事も出して貰った。
ミューズ1階の食堂だが人は全然居なくて、シードと私とクルガン。そして向かいに座って居たのは大人しそうな若い男性だった。
王宮に雇って貰っていた時の食事を思い出すようなメニューに私が満面の笑みで食べていると
向かいに座っていた男性にハンカチを差し出された
「どうぞ、良かったら使って下さい」
「悪いな、クラウス」
「セツナさん、ラウドが大変失礼致しました。お体の方は大丈夫ですか??」
「あ、うん。大丈夫、ありがとう。でも何でハンカチ??」
「⋯ セツナ、口の周りがソースだらけですよ」
クルガンに指摘されて、指で口の横を触った私にクラウスは静かにクスクスと笑った
まだ差し出されていたハンカチを受け取ると遠慮無く口の周りを拭かせて貰う。
洗って返すね、と言えば差し上げますと言われて私は素直にどうもと言って頭を下げた
「あれ?クラウスって⋯確かキバ様の息子!?」
ハッと思い出した私の口から出た言葉に隣に居たシードは珈琲を噴き出し、クラウスとクルガンはポカンと私を見つめる
「お前キバ様ってまだ呼んでんのかよ」
「ファンだもん。ハイランドで1番カッコイイ」
「シード、残念だったな」
「お前はいちいちうるせぇな」
「⋯父のファン何ですか??」
「1度だけキバ様の戦いを見た事があって。ビクトールに少し似てるんですよ、戦い方が!何だろう。うーん真っ直ぐで男らしくて本当にカッコイイんですよね」
「確かに私から見てもビクトール殿やキバ殿の戦い方は尊敬に値しますからね」
「⋯そうですか⋯父も喜びます。こんな美しい女性にファンだなんて言われて⋯父は幸せ者ですね」
そう優雅に笑ったクラウスに何だか照れてしまい、どうも⋯と頭を下げた
そんな夕食会だったが私は何だか楽しくて、ずっと笑顔だったと思う。そんな私をシードが優しい顔で見守ってくれているのを知っていたけど、どう対応したらいいのか分からなくて少しだけ戸惑っていた。
クラウスにお礼を言って別れ、シードに送って貰い最初に居た部屋に帰って来ると直ぐにベッドに横になる。
色々あった一日だったなと考えているとお腹が膨れているからかまた眠くなってきて早めに歯を磨いてから毛布にくるまり目を閉じた
鍵を掛けてあるからか安心した私は直ぐに眠りに落ちていった
人の気配がして、ガバっと起き上がりベッドの後ろに隠して置いたナイフを取ると右手首を掴まれてそのまま羽交い締めにされる
「セツナ俺だ、大丈夫だ。様子を見に来ただけだ」
「⋯はぁぁ、ビックリしたなぁ」
ナイフを取られた私はそのままシードに抱き締められてしまう。怒る気力も無い私に、すまねぇと耳元で囁くシードに首を横に降った
夕食時に出たナイフをかすめ取ってきてた事もシードは何も言わないで謝ってくれた
「以外にラウドのパンチが効いたのか、神経がピリピリしちゃってたかも。余裕無くてごめんね」
「……頼むから謝らないでくれ」
その言葉を聞いた私はシードも罪悪感があるんだなって感じて目を閉じた
温かい腕に包まれて、この人は自分を本当に守ろうとしてくれてると感じて胸が熱くなる
でも、シードに口付けや抱き締められる度にフリックを思い出してしまう
ぼんやりフリックの事を考えていると不意に涙が出てきてしまい、目元を手で覆う
泣いてるのか?と1度だけ聞いてきたシードに何も言葉を返さないでいると目元の涙に何度も口付けをされて私は困った様に笑うしか無かった
「⋯ セツナ、俺はお前を都市同盟に帰す気は無い」
「⋯」
「俺の側にいるのは嫌か?」
「⋯⋯⋯。」
「⋯意地悪な言い方したな」
「⋯ううん。でも私は⋯フリックを愛してるから帰るよ⋯」
「⋯お前はフリックに会わずにハイライドに来ていたら俺を愛してたと思う」
「⋯ふふっ何その自信」
「俺はお前を初めて見た時から愛してたからな」
「⋯何それ」
「⋯運命何て知らねーが俺はそう思った。お前がフリックを愛してようが俺はお前を帰さないし絶対に俺のものにする」
「⋯シード⋯。」
それ以上何も言わないシードに私は目を瞑り、温かな体温を感じながらシードが傍にいれば兵に襲われる事も無い、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせる様に念じ
ゆっくりと自分を落ち着かせる
トントンと背中を優しく撫でるシードの手が心地よくていつの間にか意識を手放していた
次の日の朝から直ぐにシード、クルガン、ジョウイの部隊はルルノイエに帰還する為に馬を走らせていた
「⋯こんな早く走って馬バテないの?」
「トトで1度休憩する」
シードに渡されたフード付きのコートが上手く顔を隠してくれているが、シードの前に座っている私に周りの兵士達は気になるのかあちらこちらからチラチラと視線を感じる。
途中ハッとして、ルカはいないのかと聞くと呼び捨てにするなとシードに怒られてしまい笑ってごまかした。
2人きりの時なら良いけどよと続けた言ったシードにコクリと頷くと、耳元でこれから多分ハイランドは色々な事が大きく変わってくる
忙しくなるだろうよ。とボソリと呟いた
その顔がどこか悲しそうな嬉しそうな微妙な顔をしていて、私はふーん。と軽く流す事に決め何も言わなかった
「飛ばすからもう喋るなよ」
そう一言私の耳元で呟いたシードは手網を強く握り直すと馬の腹を軽くブーツで叩く。それに応えるように馬は1度大きな鳴き声を発してから力強く走り出した
途中途中で休憩を入れたりキャンプをしながら何とかハイランドの領地に入った時には私の腰はガタガタだった。馬移動がこんなにキツイなんて思わなかったと涙目でシードに訴える
後少しで屋敷に着くから眠ってろと言われ、揺れすぎて眠れる訳無いでしょと言った私だったけれど気が付いたらシードにもたれかかりすぐに眠ってしまった自分が居た
ゆさゆさと揺さぶられて目を開けると先程まで夕陽が出ていたのに辺りは真っ暗で、周りにクルガンや他の兵士も見当たらない
「⋯⋯あれ?皆は?」
「⋯クルガンは王都に行った。やる事があるからな」
「シードは行かなくていいの?」
「クルガンが、お姫様が疲れてるから労わってやれってさ」
「クルガンナイス」
「言ってろよ」
疲れたー!と言って馬から降りたシードは私に手を伸ばす。その手を取ると、そのまま引かれて横抱きにされ、そのまま連れ大きな屋敷に入ったシードは帰ったぞと一言屋敷のエントランスに響く様に声を発した
「おかえりなさいませ、シード様!!」
「おかえりなさい!シード様!」
パタパタと靴を鳴らしながら走りよって来るのは正装をした小柄なおじさんと若い使用人の女の子だった
嬉しそうに私を見た2人は、お客様ですか??とキラキラした瞳で私を見つめている
「名前はセツナ、俺の婚約者だ」
「はぁ??初耳なんだけど」
「色々事情があって、そうゆう事になった。ラウドの様な馬鹿がいないともわからねーからな。クルガンがそう兵達にも伝えている」
「ああ、そうゆう事ね」
「シード様の婚約者様!!」
若い女の子の使用人が私の手を取り、奥様よろしくお願いいたしますとブンブン手を振ってきて
ど、どうも。と戸惑いながら返事をした私におじさんが自己紹介をしてくれる
おじさんは使用人頭のアダム、使用人の女の子はエメルドと名乗った。
「俺達は先に風呂に入るから、飯の支度を頼む」
「かしこまりました」
「エメルド、何かこいつに何着か服を持ってきてくれねーか??」
「はい!お休み用のローブにドレスでよろしいでしょうか?」
「ドレスは動きにくいから、何か動きやすいのだと助かります」
「・・・ドレスにしとけよ」
「嫌よ、トレーニングも素振りも出来ないじゃない」
「で、では動きやすい美しい服を用意してまいります」
「すみません、ありがとうエメルドさん」
「奥様!エメルドとお呼びください」
奥様に苦笑いの私を見てシードがクスクスと笑っている。ジトリとした目でシードを見つめると風呂行こうぜと手を取られてそそくさと歩くシードの後ろに続いた
何故か脱衣場で服を脱ぎ出したシードに、はっ?と目を見開くと家の風呂なんだから混浴に決まってんだろ
と私が変な奴みたいに言われる
「シードが出てから入る」
「飯の時間に間に合わねぇ。タオル巻け」
「ぐぬぬ・・・シードも巻いてよ」
「当たり前だろ」
そんな阿呆なやりとりをしながらしっかりと大きなタオルを巻くと先に入ったシードの後に続いた
タイル貼りの大きなお風呂に私は感動を隠せずにふわぁーとはしゃぎながらお湯に飛びこんだ
洗ってから入れ!と怒られたけど、私がお湯の中ではしゃいでる姿を見たシードはそれ以上何も言わなかった
「凄いわーお金持ちいいわー」
「何か嫌な言い方だなぁ。おい」
肩まで浸かり手足をばたつかせている私の横に座り目を閉じたシードは疲れたなぁと一言呟くと私の肩に頭を乗せてくる
濡れた赤い髪が鎖骨をくすぐり、長いまつ毛が揺れる
色っぽいオトコだなと内心思ったが何も言わずに私も目を閉じた
何分か経って、脱衣場からシード様と呼ぶアダムの声が聞こえて来て私達は風呂からあがり食堂に移動する
「本日のお食事はオレンジのサラダ、ローストビーフ、シーフードフライ、ポタージュスープに御座います。パンが焼き上がりましたのでお持ちしますね」
「キャー美味しそう!!オレンジサラダ嬉しい!」
その食事を見て半泣きで喜ぶ私に皆がクスクスと笑っているのが分かり私も自分で少し笑ってしまう
「セツナはオレンジサラダが好きなのか?」
シードのナイフとフォーク使いは誰が見ても美しいと思える様な手捌きだった。私に質問をしながら綺麗にローストビーフを切り分けて私の皿に乗せてくれる
「うん。オレンジサラダは思い出のご飯かな」
「なんだよそれ聞かせろよ」
「楽しい話じゃないわよ?」
「いいから」
「……昔、王宮に勤めてた時があってさ。雇われ騎士だったの」
セツナ様カッコイイと、パンを運んできてくれたエメルダが私にキラキラした瞳を向けながら焼きたてのパンを切り分けて皿に盛り付けてくれる
「お前、騎士だったのか??」
「騎士長閣下が知り合いでちょっと頼まれただけだなよ。でもその時のご飯も美味しかったなぁ」
「オレンジサラダが王宮の飯か??」
「ううん。その王都で一時期口説かれて恋仲になった男が毎回浮気してバレて、口聞かなくなった私の部屋に毎回オレンジサラダ作って届けに来るの。そんな思い出の料理」
「……気に食わねぇ」
「はっ??何が?」
「フリックの他にまだ居るのか?」
「シード様!そこなんですか???!」
「20年くらい前の話だよ!」
エメルダと私の突っ込みに黙ったシードを見てアダムが嬉しそうに笑う
「シード様のこんな顔は久しぶりに見ましたな。なぁ、エメルダ」
「はい!最近はたまに帰ってくると目の下が真っ黒だしイライラしている事が多かったので。元気になられて嬉しいです」
「……そういえばそうだったな。悪かった」
「いえいえ、謝る事ではありません。ただ、奥様といる時のシード様はお元気な様で安心しました」
そう言ってホッコリとした笑顔を向けてくるアダムに私も何だかホンワカしてしまい、ニコニコと食事を平らげる
エメルダやアダムの笑顔を見ていたら、この屋敷なら安心出来るかもしれないと少しだけ思えて来て私はホッと胸を撫で下ろした
その日は与えて貰った自室で死んだように眠り気付いた時にはもう日が昇っていた
服を着替えてから身支度を整え、ドレッサーで少し化粧をした。久しぶりに鏡を見た気がする
軽いノックが聞こえて返事をすると、エメルダがフルーツと珈琲にナッツが入ったパンを持って入ってくる
「お休みになれて良かったです」
「ありがとう、凄く体が楽になった」
この服も気に入っちゃったと言ってクルクルとその場で回ると嬉しそうにエメルダは笑う
シードの軍服に少し色が似た白地に赤いラインの女性らしいワンピースは着心地も良くて何より動きやすい
椅子に座り、持ってきて貰った食事に頂きますと言って口いっぱい頬張っていると
窓の外にブルーの軍服を着ている兵士がこちらを見ているのに気付いて私は立ち上がる
確か、ミューズから出る時にクルガンの1番の部下だと紹介された。名前は確かエドガーだったか……
「奥様、お知り合いですか?」
「確かクルガンの部下の人かな?エメルダ、シードは??」
「朝から王都に行っています」
「何かあったのかな?」
窓に近付くと、エドガーは私を見て1度敬礼をしてからペコりと頭を下げた。敵意は感じないので、窓を開けて声を掛ける事にする
「こんにちは、エドガーさん?であってるかな」
「……はい、クルガン様からお届けものです」
「中身は?」
「自分は中身は知りません。ただ、手紙も一緒に預かっています」
「ふーん。分かりました預かります」
小さな小包を受け取ると、エドガーは1度頭を下げてから直ぐに馬に乗り去っていった
包みを開けると、小さな香水瓶と手紙が入っていた
セツナへ
ラウドから受けた傷は大丈夫か??
シードの屋敷の者達は君に対して絶対に危害を加えたりしない。安心して療養して欲しい
この香水は体と心に癒しがある香水だと知人に頂いた物だ。良かったら使ってくれ
クルガン
手紙を読み終えて私は胸が暖かくなる
香水の蓋を開けて香りを嗅げば本当に何だか癒される気がして。初めて嗅ぐような甘い匂いに酔いしれて首筋に数滴付けると瓶をポケットに入れた
「奥様、良い匂いですね」
「クルガンがくれたの!嬉しい」
「左様ですか!クルガン様はクールに見えて優しい方なのですね」
そんな会話をしていると、少しづつ眠くなって来た私はまだ疲れが取れていない見たいと言って肩を鳴らす
さっきまでスッキリしていたのになぁと欠伸をすると、エメルダは優しく長旅でしたもんねと言ってベッドに私を寝かせてくれる
「・・・食事残しちゃってごめんね」
「来客もありましたし、仕方ないですよ。ごゆっくりお休み下さい」
お言葉に甘えようと思い、私はそのまま目を閉じた
「今帰った」
「おかえりなさいませシード様」
「セツナは?」
「お昼に1度起きてお食事を取られてから、まだ疲れが取れないと言ってお眠りになったのですが」
「もう夕方だぞ。流石に起きてんだろ」
「先程様子を見に行ったのですが、まだ眠っておられます」
「見てくる。風呂の準備しといてくれ」
早足でセツナに与えた部屋に向かい、ノックもせずに部屋に入ればスヤスヤと眠る彼女に内心ホッとする
「おい、寝坊助!起きろ」
肩を揺さぶると、うーんと小さく唸るセツナが可愛くて少しだけ笑ってしまった
ゲラゲラと笑う俺の声に起きたのか セツナはゆっくり目を開いて俺を見た
「・・・おかえりなさいシード」
そう言った瞬間、セツナは俺に抱き着いて唇に口付けしてくる。目の前が彼女でいっぱいになり、この想像はしていなかった俺はそのままセツナを受け止めると唖然としたまま背中に手を回す事しか出来ない
「・・・シード??どうしたの?」
「……どうしたのはこっちの台詞だろ」
「・・・??」
「セツナ、何があったんだ?」
「何って何??シード何か変よ」
「変なのはお前だよ」
グリグリと俺の胸に顔を押し付けてくるセツナは溜息を付いた俺を見て子犬の様に目を潤ませてキスをせがむ
嬉しいのに何故か納得が行かずに動けない俺にセツナはただいまのキスもしてくれないなんて冷たいと頬を膨らませるとそのまま立ち上がりスタスタと部屋を出ようとする
「どこ行くんだよ」
「旦那様が冷たいからお風呂ー」
「・・・俺も行く」
「今日は背中洗ってあげないからね」
「洗って貰った事ねーよ」
「はっ?毎日してるじゃない。何なの急に」
「何なの急には俺の台詞だ」
スタスタと歩くセツナの後ろを追いかけながら、少し様子を見る事にして風呂場に入った
恥ずかしがる様子も無く淡々と服を脱ぐ彼女に俺が恥ずかしくなり目を背ける。タオルで前は隠しているが昨日と違い全く恥じらいが無い
シード早く入ろうよと髪を結いながらまだ服を脱いでいない俺を置いてスタスタと入っていったセツナにやはり変だと首を傾げた
「・・・なぁ。近くねぇか?」
「・・・嫌なの?」
「嫌、・・・嫌じゃねぇ。」
むしろ嬉しさでいっぱいだと思う気持ちを感じながら口には出さなかった。お湯に浸かる俺の上に座り首に手を回してくるセツナに疑心暗鬼になりながらも欲望のまま唇に口付ける
もしかしておちょくってるのか?と一瞬過ぎりイタズラ心でそのままタオルの中に手を入れて胸を触ると
ビンタもされずセツナは俺の髪を優しくすくい頬や額に口付けてくる
可愛くて愛おしい気持ちが爆発し、首筋に噛み付いてそのまま秘部に手をゆっくり入れて中を優しく刺激すると、セツナは俺の耳元で小さく喘ぐ。
「・・・シード、もう駄目。イきそ……」
「・・・まだ駄目だ……」
目元に浮かぶ涙を舐め取りながら少し激しめに喜ぶ所を刺激してやると、ビクビクと足が揺れて一瞬高い声が彼女の口から出て来る
タオルを投げ捨てて露になった胸の突起に吸い付きながら肉芽を撫で今まで我慢していた自分の欲を果たすようにセツナが感じる部分を攻め立てる
「・・・シード」
「ん?」
「暑い・・・のぼせちゃう。また後でしよ」
「・・・さすがに無理だ」
ヒョイと彼女を持ち上げて扉に手を付かせるとそのまま自身をあてがい、えっ?ここで?と言った彼女を無視してそのまま根元まで挿入する
セツナのイヤらしい声が風呂場に響いて、下を向いた彼女の顎を掴み顔を上にあげそのまま口付ける
童貞の様にその声だけでイッてしまいそうになる自分に内心少し笑ってしまいそうになった
もっと奥にと早る気持ちが動きを早くさせる。セツナの気持ちが良さそうな声が耳に入る度に限界を感じてしまう
「・・・わりぃ。もうもたねぇ」
返事の代わりに色っぽく小さく笑った彼女に深く口付けるとそのまま自身の熱を吐き出した
「頂きます」
「どうぞ召し上がれ」
テーブルに並べられたステーキとマッシュポテト、コーンスープにトマトとゆで卵のサラダが食欲をそそる
お待たせましましたと言って焼きあがったパンを切り分けて目の前の皿に置いてくれる
「いつもありがとう」
「いえいえ奥様」
美味しいと口いっぱいに頬張っていると、視線を感じてシードを見た。料理にも手を付けてないシードに今日は何かおかしいなと疑問を感じていた
「シード、食べないの??」
「ん?・・・ああ。食うけどよ」
「帰ってきてから様子が変だけど、何かあったの?」
「・・・なぁ、エメルダ。」
「ハイ!シード様」
「今日セツナに変わった事はあったか?」
「・・・うーん。そういえばエドガー様が来ました」
「ハッ?俺は聞いてねーぞ。何しにきた」
「ああ、エドガーさんはクルガンからの贈り物を届けてくれたのよ」
「贈り物?」
「普通の香水だけど・・・。」
「クルガンがねぇ。エドガーが届けに来たならクルガンからで間違いねーが・・・。・・・なぁセツナ、変な事聞くけどよ。この間お前は誰を愛してるって言ってたか覚えてるか?」
「・・・私が愛してるのは5年前に結婚した貴方だけよ。何言ってるの?しかも最近誰を愛してるとかそんな話はしてないわよ」
その私の言葉に、アダムとエメルダが目を見開き目を合わせる
そして、シードが冷静な目で私を見つめてきた
「・・・皆どうしたの?私何か変??」
「奥様・・・」
「セツナ様・・・」
「・・・いや、5年前に俺達はどうやって知り合ったんだ?」
「キャロの町で。お互い一目惚れですぐ結婚したじゃない」
「・・・キャロか・・・。」
「シードったら変なの」
ハイランドで産まれてキャロで出会って初めて恋をしてシードと結婚した。5年経った今も周りから羨ましがられる程仲が良くて私は幸せ者よ
そう私がニッコリ笑っても3人は笑わなかった