幻想水滸伝2
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静かに寝息をたてるセツナの髪を撫でる手を止めて、目に留まったのは彼女の首元にうっすらと浮かぶ口付けの痕だった
無意識に自分の眉間に皺が寄るのが分かって、嫉妬とゆう感情を感じながら指の腹でそこを撫でると、余計に腹が立つ様な嫌な気分になった
傭兵隊の砦で会った時からずっとこいつにはもう一度会いたいと思っていた。会いたいのは、また手合わせをしたいだけだとか、怪我を治してくれた礼を言いたいだけだとクルガンに話していたが、苦しい言い訳だなと鼻で笑われた
実際、グリンヒルの門で髪色が変わったセツナを見つけた時に俺は嬉しかった
会いたいと思う気持ちが恋心ならば、俺はこいつに砦で一目惚れをしたんだろうかと少しばかり悩んだが
小さな事で悩むのは性に合わない性格なので、とりあえずセツナと沢山話をしようと思い、話の口実に料理人にシチューを作らせたのがクルガンにバレてまた、からかわれるハメになった
セツナを見ながら物思いに耽っていると、タチの悪い悪戯心が芽生えてきて彼女の首のその痕の上から少しキツく口付けする
少し身をよじったセツナは甘い声でフリックと呟いた。その瞬間に傭兵隊でコイツを攫った青雷のフリックの姿が頭に浮かんだ
いつもは頼れる人がいるからと寂しそうに言ったセツナ。
ハイランドでフリックとビクトールの名前は解放戦争にも参加した強者だと有名だった。青雷のフリックは紋章が使え、剣の腕も立つ色男だと兵の噂で聞いた事があったし、この間セツナを助けた時に見た奴は噂通りの男だと思ったのを覚えている
うーんと寝苦しそうに寝返りをうつ彼女の髪を優しく撫でながら、モヤモヤとする胸のイライラ感に似た何かを抑えながら俺はそのまま彼女の寝顔を静かに見ていた
カチャカチャと何だか聞き慣れない音がして私は目を開けた。音のする方に向くと、何とも面白い姿を発見してしまい自然と笑いがこみあげてくる
あちぃと言って火傷でもしたのかシードは手にフーフーと息を吹きかけながら反対の手で鍋をゆすっている
少しフラフラした気がするけれど、これくらいなら大丈夫だと思い布団から起き上がるとキッチンに立つ彼の横に立って鍋の中を覗き込む。音で分かっていたのかシードはやっと起きてきたかと言って笑うと鍋を掴んでいた手を止めてテーブルにあるパンを焼きだした
「腹減っただろ?」
「うん、ありがとう。ああ!シード…服が…」
白地の軍服にベッタリと付いてるシチューを見て思わず声をあげると、シードはマダラに染まる軍服を見てゲンナリした顔で溜息をついた
「まじかよ…やっちまった…」
「下に一枚着てるんでしょ?シードが料理してる間にお風呂場で洗ってくるよ。今洗えば落ちるから」
わりぃなと言って脱いだ軍服を受け取り風呂場に向かう。焦茶に所々染まった軍服をお湯をかけて手洗いしていると、グワんグワんと頭が痛くなり胸が苦しくなってくる
思わず手に持っていた軍服を落としてしまい、一歩踏み出した私の足に服が絡まり転倒してしまう
ギャっと色気の無い小さな悲鳴が風呂場に響き渡ると膝を打った足がじわじわと痛み出す
私の悲鳴を聞いたのか、何やってんだと呆れた様に風呂場の中に入ってきたシードは私の膝を見て溜息をついてから私を軽々と抱き上げた
「なーにやってんだ、お前は本当に危なっかしいな」
「面目ない…」
「おい、顔真っ青だぞ…」
「う、うん。ちょっとキツイかな」
ずっと一緒に居たわけじゃ無いのに、今日1日で何回もシードの溜息を吐く顔を見た気がした
彼の肩口に顔を置く様な形になると、お日様の様な匂いがして何だかとても安心する
私を抱き上げて顔をマジマジと見てくるシードの顔は本当に心配してくれている顔だった
その顔を見て、大丈夫と作り笑顔で笑った私に、やっぱり血が足りないのかと呟いたシードはそのまま動かず何かを考えている様に見えて、何と無く抱いてくれている手から離れようとした時だった
無表情になったシードがいきなり私の両手を片手で掴むと、風呂場の壁に追いやってくる
「…シード…どうしたの…?」
「…お前はこうでもしねーと飲まねーだろーが」
舌打ちしたシードは私の唇にそっと、その言葉には似つかわしく無い優しい口付けをしてきた
その唇からは血が流れ込んでくる。悲しく成程その血の甘美な甘さに自然と目を見開いてしまう
その反面フリックとした約束を破ってしまったなと少し胸が痛んだ気がした
だが口付けをされている事よりも、どれだけ舌を深く噛んだんだろうと流れてくる血の量の多さに心配になり右手の紋章を発動させようと魔力を込めると
シードも紋章を使う剣士なのか私の魔力の流れを感じとったようで。直ぐに唇を一度離し、今は魔力を使うなと言ってから追い討ちをかけるように睨んでくる
「でも、血が出過ぎてる」
「…男だから大丈夫なんだよ」
「意味わかんないよ、もう平気だから治療させて」
「お前はちょっと黙ってろ」
手を離してくれたけど、直ぐに顎を掴まれてまた深く口付けされる。今度はシードの舌が私の舌にからまるように動いて、思わず固まってしまうと観念した私にシードは少し笑った様に思えた
何分血を貰っていたか分からない、ゆっくり離された唇。お互いに目が合って、私が何も言わずに紋章を発動させるとシードの身体は淡い光で包まれた。
これで舌の傷は治ったはずだ
口元に血が付いている彼に自分の服の裾で拭ってやると彼は何も言わずに私の口元の血を指で拭ってくれた
「急に悪かったな…」
シードのその言葉に何であんたが謝るんだよと私があんぐりと口を開けたまま彼を見ると、何だよと頭を掴んで来たシードに笑ってしまった
フリックもシードもどうしてこう優しいのだろう…
「…ううん、身体が軽い。ありがとうね。それよりさ…焦げ臭いんだけど火は止めたよね…?」
その瞬間、ゲッと言ったシードは凄い速さで風呂場を出て行った
きっとシチューとパンはダメだろうと内心思いつつ、シードの軍服を洗い直していると一度バタンとドアが閉まる様な音がしたが、特に気にせず今はこの服を洗う事に専念する事にした
洗い終わり真っ白になった軍服の水を絞ってハンガーに掛けていると、またバタンとドアの音がして足音が近づいてくる
ひょっこり風呂場に顔を出したシードの手にはいくつか袋が下がっていた
「…シチューが駄目だったから適当に買ってきた」
「また買ってくれたの?私が何か作るからいいのに」
「何だ、お前料理出来んのか?」
「まぁね」
「作ってもらえば良かったな。明日食わせろよ」
今日はこれ食おうぜと言ったシードに笑顔で頷くと私達は食卓についた。シードが買って来てくれたグリンヒルのステーキとサラダにワインを囲んで2人で話をしながら食べる料理は美味しかった
どちらもハイランドや都市同盟の話は一切せずに、只々好きな物や楽しかった事など当たり障りの無い色んな話をした
夜もふけて来るとシードはそろそろ帰ると言って立ち上がった。見送りをしようと、服を取りに風呂場に向かうシードの後ろを歩いていると彼がフラリとしたのが分かった
その身体を咄嗟に支えると、すまねぇと一言呟いたシードに頭を横に振ってから彼を支えてベッドに横にさせる
「急にあんなに血が無くなって、身体がビックリしたんだよ」
「…飯食ってた時は平気だったんだけどな…」
「身体が血を作りたいから食べるの終わるまで待っててくれたのかもよ」
「なんだそれ…やべぇ。ねみぃ…」
その言葉を最後にシードは寝息を立てて直ぐに寝てしまった
子供の様な表情ですやすやと眠るシードの横に座り、彼を静かに見ていた。グリンヒルに来てから寂しくなかったのは敵なのに何だかんだ話しかけてくれるこの人が居たからだなと彼を見ていて思った
サラサラの赤い髪を撫でていると、その手がふいに掴まれる
一瞬起きたのかと思ったが、彼は寝息を立てていて眠っているんだなと確信した。手を強く掴まれてどうして良いのか分からずに片付けようとしていたテーブルの上にのっている食べ散らかした皿をみていると
シードが私の名前を呼んだ
「何??苦しいの?シード?」
答えても返ってこない返事を待っていると、後ろでガチャリとドアが急に開く音がしてビックリしながらも振り返る
そこに立っていたのはフリックだった。
私が目を見開いて笑顔になると、フリックは私では無くシードを見つめていた
「…何でお前の部屋にその男がいるんだ?」
フリックのものとは思えない低い声に私は一瞬ビクリとしたが、食事を持って来てくれて具合が悪くなったから寝かせたと言ってからシードの手を引き剥がし立ち上がった
「…そうか…」
それだけ言ったフリックはツカツカとブーツを鳴らし私の元まで来ると、不機嫌な顔で私の髪を優しく撫でてから前髪をすくいそこに口付けをする
寝てるとはいえ、人前でちょっと恥ずかしいなと思い
シードをチラリと横目で見れば、私が手を離した事で目が覚めたのか薄く瞼を開けてフリックを見つめていた
「…よぉ。青雷のフリック…2度目ましてだな」
「起きてたのか…お前は第4軍団長のシードだったな?セツナに聞いた、傭兵隊の砦ではセツナが世話になったな…」
薄く笑うシードと真顔のフリックのやりとりに、そういえば敵同士なんだったと今更ながら思っていると
シードはゆっくりベッドから立ち上がる
「セツナ、悪かったな。クルガンが待ってるからそろそろ戻るぜ」
「シード…。危ない所を助けてくれて本当ありがとう、お礼は必ずするから」
「…約束忘れんなよ」
「はいはい、料理ね。分かってる」
邪魔したなと言って立ち上がったシードの後ろを外まで見送ろうと、ついて行こうとするとシードが急に口を開いた
「フリック、だったか?ちょっといいか?セツナ、見送りはいらねぇ」
「ええっ?何でフリックなの?」
「…いいだろう。セツナ、此処で待ってろ」
2人にそう言われて、私はしぶしぶ頷いた。
フリックとシードが部屋から出て行くと、テーブルの上の物を片付けながらフリックを待った
10分以上待っても帰って来ないフリックとシードが心配になり、やはり待ってられないとドアを開けるとフリックがドアの前に背を向けて座っていた
「…ビックリした、フリック?何で入って来ないの?シードは大丈夫だった?」
「…ああ。アイツは今さっき帰った」
「…帰ったのなら、何で部屋に入って来なかったの?」
そう言った私にフリックは立ち上がると、私のシャツをいきなり捲り、首元を見ている様だった
「何?急に。どしたの?」
「…クソッ、あの野郎」
珍しくフリックが舌打ちをしたので、少しビックリしてフリックの顔を覗き込む
イライラとしているのか、目も合わさないフリックは私の手を急に引いて部屋の中に入ると乱暴にベッドに押され上から覆い被さる様に乗っかってきた
「…痛いよ、さっきから何??どうしたの?」
「…すまない…お前の首元に…とゆうか、お前鏡見てないのか?」
「何の事?」
「シードに何されたんだ?」
「何かって、…フリックには約束してたから申し訳無いと思ったんだけど…発作がひどくて我慢してたらシードが血をくれたの…ごめん」
「…それはシードからさっき聞いた。お前が飲まないから無理やり自分が口から飲ませたとな」
「…うん。他には何もされてないわよ。只食事をしていただけ」
そう言った私にフリックは首を鏡で見てこいと言ってから一度溜息を吐いた
フリックの気迫に内心恐々しながら風呂場に向かい、鏡で首元を見てみると真新しい口付けの痕が残っていた
これは怒るわと思ったが何も出来ずにそのままの足でベッドに戻ると、フリックの横に座り直す
「…知らなかったのか?」
「…知らなかったよ。何でフリック見てないのに分かったの?」
「アイツに言われたんだよ…」
「シードに?何て??」
「…アイツは…お前が好きだから諦めないって目の前でハッキリ言われた。お前が残した痕は俺が上書きしたからなと言われて、もしかしたらと思った」
私がそれを聞いて何も言えずに小さく溜息を吐くとフリックは怒っていた顔を真顔に変えて私に向き直る
「…お前は…アイツをどう思ってるんだ?」
「どうって?」
「アイツは一応敵の軍団長だ。どうして近づいた?」
「近づいたとゆうか…ラウドに怪しまれてるのを助けてもらったりしたのよ。治療のお礼だと言って食事を持って来てくれたりしたから…嫌な人に思えないし。何より私は特に敵とかの観念が薄いから…ハイランドの人を特に憎んでもいないし」
「…まぁ、元々俺たちが誘って巻き込まれただけだからな。それは分かるが…」
「それよりフリックはどうして此処にいるの?」
「俺は明日からリオウ達の付き添い人でテレーズを探す事になってるんだ。お前と合流する様にシュウに言われてる」
「…そっか。ハイランドがどんな戦略で此処を占領したのか…後ハイランド側はテレーズの居場所さえ掴めていない事とかは詳しく明日リオウに話すね」
「ああ」
お前が急にいなくなるから心配してたんだぞとフリックは私の髪を優しくといてから、首元の痕を見て苛立った様に口付けしてくる
絶対に諦めないと言っているシードを見た訳でも無いのにやけに頭にその言葉が頭に残っていた
長旅で疲れたのかフリックが私を抱きながら眠ってしまったので彼の手を握りながらふと、シードの事を考えていた
彼は私が好きだと言ったとフリックが言っていたが、シードと会ったのはまだ2度目だし好きだなんてあまり信じられなかった
でも、ほんのりとシードの笑顔が頭に浮かぶと心が何だかドキドキするようなこの気持ちに私は知らないフリをしてしまう事にした
元々私の敵はネクロードだけだったので、シードやクルガンの事も向こうがあの態度だからと警戒が薄すぎたのは確かだった
でも、私はシードと居た時間はとても良い時間だったと何と無く感じている事も事実…
そんな悶々とした気持ちで、彼を見つめた。バンダナをしていないフリックは少し幼い顔で静かに寝息を立てて眠っている
彼のこんな寝顔を見るのは何だか久しぶりだ
眠るまでずっと不機嫌だったなと思い出すとつい笑ってしまう、久しぶりに彼の腕の中の心地よさに浸りながらそのまま目を閉じた
朝、起きると直ぐに支度をしてまだ寝ているフリックを揺すり耳元で行ってくるねと囁くと、寝ぼけているのか私の姿を見るなり先生みたいだな…と呟いていた
「先生だってば。シュウから聞いてるでしょ?授業があるから先に行くからね」
「ああ…そうだったな。了解した」
寝ぼけているフリックを置いて宿舎を出ると、少し歩いた所で金色の髪をなびかせながら木の下に寄りかかるナッシュは私に手を振ってくる
早足でナッシュに寄ると、彼は眠そうに瞼を擦った
「何やってんの?朝から…」
「セツナの所で寝ようとしたら、シードとフリックが宿舎の前で話をしていたから気になってな…」
「あー昨日か…」
「それからフリックが部屋に入ってから出て行かないから、部屋に入れず野宿になった」
「…入ってくれば良かったじゃんと言いたい所だけど昨日は辞めて正解だったかも…」
「シードは笑っていたが、二人共殺気立ってたからなぁ。入って斬られたんじゃ困るからな…」
「あー、もう遅刻しちゃう!ナッシュ。話はまた今度」
「セツナ、俺はもう此処を出るから。それだけ伝えたかったんだ」
ミューズの時は唇にされたけど、今度は優しく頬を撫でてから額に口付けされた。君とまた生きて会えます様にとまるで誓いの様な台詞を言ってからナッシュはまた風の様にグリンヒルを去って行った
そして、私は盛大に遅刻をしてジーンに怒られたのであった
ジーンに貰った薬を飲んでから快調になった身体で指導をこなした。午前の授業が終わると受付にいたエミリアにリオウとナナミそれにシロにピリカを紹介され
みんなに抱きつきたいのを我慢して笑顔でよろしくねと頭を下げた
シュウから言われていたのだろう、皆んなブランシュ先生よろしくお願いしますと言って少し含み笑いをしながら頭を下げてくる
エミリアの代わりに彼等に付き添い、施設を見回る事になった私は両手をあげて抱っこをせがむピリカを抱くと、皆に話があると言って使われていない教室に入った
「みんな久しぶり、元気だった??」
何も言わずに抱き締めて来たナナミがギュウギュウと私の胸に頭を擦り付ける
チャコくんを紹介してもらった私はリオウにこれまでの事を詳しく話すと、リオウは少し険しい顔をした
「…うーん。テレーズさん大丈夫かな?その報告だとハイランドに見つかるのは時間の問題かな…」
「テレーズの側近のシンて男は必ず何か知っていると思うんだけど…学舎にいても中々会わないのよね」
それよりフリックは?と私が聞くと、ナナミがフリックさんは変な女の子に追いかけ回されていると話し始める
それを聞いたリオウが苦笑いで、その子を広場で助けたらフリックに惚れてしまったみたいと付け足した
シードにあんな怒ってたけど、フリックも人の事言えないなぁなんて思いながら皆には笑って流す事にした
食堂や教室を紹介してから、生徒用の宿舎まで案内すると日はもう暮れていた
そこで私はシードとした約束を思い出して、急いで皆んなと別れると、市場で野菜と肉を購入して宿舎に急いで帰った
部屋に戻りエプロンをしてから、さっそく簡単な鶏肉のハーブ焼きと玉ねぎのスープを作り手抜きして買って来たパスタをフライパンで温め直す
スプーンでパスタソースの味見をすると、少し薄くてコクが欲しい
焼いた鶏から出た肉汁と塩を足して温めなおしていると、コンコンとドアがノックされる音がした
「シードー??開いてるよー」
少し大きな声でそう言えば、入ってきたのはフリックで顔からして機嫌が悪い
「間違えた。ごめん」
「シードと間違えるなんて良い度胸だな」
珍しく私の頬をつねったフリックに、痛いよーと泣き真似をしてもいつもの様に許してはくれないみたいだ
「たく、本当に料理作ってるのか?」
「約束したし、命の恩人様ですから。フリックの分も勿論あるから拗ねないでね、女の子に追いかけられて疲れてるみたいだから山盛りにしてあげる」
「いや、それはその…違うんだ」
「お前もそんな顔するんだな、コイツにはそんなに弱いとは笑えるぜ」
急に違う声が会話に入ってきて、フリックと一緒に振り返ればシードがドアを開けて私達を見ながら笑っていた
「はぁ、お前か…全く。からかうなよ…」
「シード、早かったのね」
「お前たちの声は外まで聞こえたぞ、一応お忍びだろ?全く、フリックまで危機感がねーなー」
「…何だかお前に言われると腹たつな…」
「内緒にしてやってるんだ、そうカリカリすんなよ」
良い匂いだなと私の元まで来たシードはフライパンを覗いて嬉しそうに笑うと、土産だと言って冷えたワインを渡してくる
喜んで受け取った私はシードとフリックに座るように言うと直ぐに出来た料理を皿に並べてテーブルに置いてゆく
その時、外から聞こえた女性の声に私達は目を見合わせる
フリックさんと呼ぶ声に私とシードはじっとフリックを見つめるとブンブンと首を横に振るフリックにシードがもてるなぁとからかう様に笑った。
先生失礼しますとドアの前から声が聞こえてこちらが返事する前にガチャリとドアが開いた
「先生すみません、こちらに!あっ!居た」
「ニナちゃんだったの、フリックの事追いかけてる子って」
「やっぱり此処にいた!フリックさん夕飯の準備したんです食べて下さい!早くしないと冷めちゃいます」
ニナの勢いにシードとフリックがポカンとしていると
ニナはフリックの袖を掴んで引っ張って行ってしまう
掴むなと言われても全く動じないニナに背中を押されたフリックは、私とシードが見守る中部屋を強引に連れ出されてしまった
「いいのか?セツナ、フリック取られちまうぜ」
「取られるって物じゃないんだから…」
「あーゆー押しが強い女に男は弱いんだぜ」
「シードも?」
「ガキには興味ないな。だが10年経ったら美人になりそうな女だったな」
「私もそう思うよ」
そう言って笑ったシードにフォークとグラスを渡してから席に座ると、彼は持ってきたワインを私のグラスについでくれる
乾杯と差し出されたグラスに私もグラスを合わせると
ふと玄関に人の気配がして私達は同時にそちらを見た
コンコンと静かになるノックに、私は首を傾げる
フリックが帰って来たのかなと思い席を立って扉を開けるとそこに居たのはクルガンだった
無意識に自分の眉間に皺が寄るのが分かって、嫉妬とゆう感情を感じながら指の腹でそこを撫でると、余計に腹が立つ様な嫌な気分になった
傭兵隊の砦で会った時からずっとこいつにはもう一度会いたいと思っていた。会いたいのは、また手合わせをしたいだけだとか、怪我を治してくれた礼を言いたいだけだとクルガンに話していたが、苦しい言い訳だなと鼻で笑われた
実際、グリンヒルの門で髪色が変わったセツナを見つけた時に俺は嬉しかった
会いたいと思う気持ちが恋心ならば、俺はこいつに砦で一目惚れをしたんだろうかと少しばかり悩んだが
小さな事で悩むのは性に合わない性格なので、とりあえずセツナと沢山話をしようと思い、話の口実に料理人にシチューを作らせたのがクルガンにバレてまた、からかわれるハメになった
セツナを見ながら物思いに耽っていると、タチの悪い悪戯心が芽生えてきて彼女の首のその痕の上から少しキツく口付けする
少し身をよじったセツナは甘い声でフリックと呟いた。その瞬間に傭兵隊でコイツを攫った青雷のフリックの姿が頭に浮かんだ
いつもは頼れる人がいるからと寂しそうに言ったセツナ。
ハイランドでフリックとビクトールの名前は解放戦争にも参加した強者だと有名だった。青雷のフリックは紋章が使え、剣の腕も立つ色男だと兵の噂で聞いた事があったし、この間セツナを助けた時に見た奴は噂通りの男だと思ったのを覚えている
うーんと寝苦しそうに寝返りをうつ彼女の髪を優しく撫でながら、モヤモヤとする胸のイライラ感に似た何かを抑えながら俺はそのまま彼女の寝顔を静かに見ていた
カチャカチャと何だか聞き慣れない音がして私は目を開けた。音のする方に向くと、何とも面白い姿を発見してしまい自然と笑いがこみあげてくる
あちぃと言って火傷でもしたのかシードは手にフーフーと息を吹きかけながら反対の手で鍋をゆすっている
少しフラフラした気がするけれど、これくらいなら大丈夫だと思い布団から起き上がるとキッチンに立つ彼の横に立って鍋の中を覗き込む。音で分かっていたのかシードはやっと起きてきたかと言って笑うと鍋を掴んでいた手を止めてテーブルにあるパンを焼きだした
「腹減っただろ?」
「うん、ありがとう。ああ!シード…服が…」
白地の軍服にベッタリと付いてるシチューを見て思わず声をあげると、シードはマダラに染まる軍服を見てゲンナリした顔で溜息をついた
「まじかよ…やっちまった…」
「下に一枚着てるんでしょ?シードが料理してる間にお風呂場で洗ってくるよ。今洗えば落ちるから」
わりぃなと言って脱いだ軍服を受け取り風呂場に向かう。焦茶に所々染まった軍服をお湯をかけて手洗いしていると、グワんグワんと頭が痛くなり胸が苦しくなってくる
思わず手に持っていた軍服を落としてしまい、一歩踏み出した私の足に服が絡まり転倒してしまう
ギャっと色気の無い小さな悲鳴が風呂場に響き渡ると膝を打った足がじわじわと痛み出す
私の悲鳴を聞いたのか、何やってんだと呆れた様に風呂場の中に入ってきたシードは私の膝を見て溜息をついてから私を軽々と抱き上げた
「なーにやってんだ、お前は本当に危なっかしいな」
「面目ない…」
「おい、顔真っ青だぞ…」
「う、うん。ちょっとキツイかな」
ずっと一緒に居たわけじゃ無いのに、今日1日で何回もシードの溜息を吐く顔を見た気がした
彼の肩口に顔を置く様な形になると、お日様の様な匂いがして何だかとても安心する
私を抱き上げて顔をマジマジと見てくるシードの顔は本当に心配してくれている顔だった
その顔を見て、大丈夫と作り笑顔で笑った私に、やっぱり血が足りないのかと呟いたシードはそのまま動かず何かを考えている様に見えて、何と無く抱いてくれている手から離れようとした時だった
無表情になったシードがいきなり私の両手を片手で掴むと、風呂場の壁に追いやってくる
「…シード…どうしたの…?」
「…お前はこうでもしねーと飲まねーだろーが」
舌打ちしたシードは私の唇にそっと、その言葉には似つかわしく無い優しい口付けをしてきた
その唇からは血が流れ込んでくる。悲しく成程その血の甘美な甘さに自然と目を見開いてしまう
その反面フリックとした約束を破ってしまったなと少し胸が痛んだ気がした
だが口付けをされている事よりも、どれだけ舌を深く噛んだんだろうと流れてくる血の量の多さに心配になり右手の紋章を発動させようと魔力を込めると
シードも紋章を使う剣士なのか私の魔力の流れを感じとったようで。直ぐに唇を一度離し、今は魔力を使うなと言ってから追い討ちをかけるように睨んでくる
「でも、血が出過ぎてる」
「…男だから大丈夫なんだよ」
「意味わかんないよ、もう平気だから治療させて」
「お前はちょっと黙ってろ」
手を離してくれたけど、直ぐに顎を掴まれてまた深く口付けされる。今度はシードの舌が私の舌にからまるように動いて、思わず固まってしまうと観念した私にシードは少し笑った様に思えた
何分血を貰っていたか分からない、ゆっくり離された唇。お互いに目が合って、私が何も言わずに紋章を発動させるとシードの身体は淡い光で包まれた。
これで舌の傷は治ったはずだ
口元に血が付いている彼に自分の服の裾で拭ってやると彼は何も言わずに私の口元の血を指で拭ってくれた
「急に悪かったな…」
シードのその言葉に何であんたが謝るんだよと私があんぐりと口を開けたまま彼を見ると、何だよと頭を掴んで来たシードに笑ってしまった
フリックもシードもどうしてこう優しいのだろう…
「…ううん、身体が軽い。ありがとうね。それよりさ…焦げ臭いんだけど火は止めたよね…?」
その瞬間、ゲッと言ったシードは凄い速さで風呂場を出て行った
きっとシチューとパンはダメだろうと内心思いつつ、シードの軍服を洗い直していると一度バタンとドアが閉まる様な音がしたが、特に気にせず今はこの服を洗う事に専念する事にした
洗い終わり真っ白になった軍服の水を絞ってハンガーに掛けていると、またバタンとドアの音がして足音が近づいてくる
ひょっこり風呂場に顔を出したシードの手にはいくつか袋が下がっていた
「…シチューが駄目だったから適当に買ってきた」
「また買ってくれたの?私が何か作るからいいのに」
「何だ、お前料理出来んのか?」
「まぁね」
「作ってもらえば良かったな。明日食わせろよ」
今日はこれ食おうぜと言ったシードに笑顔で頷くと私達は食卓についた。シードが買って来てくれたグリンヒルのステーキとサラダにワインを囲んで2人で話をしながら食べる料理は美味しかった
どちらもハイランドや都市同盟の話は一切せずに、只々好きな物や楽しかった事など当たり障りの無い色んな話をした
夜もふけて来るとシードはそろそろ帰ると言って立ち上がった。見送りをしようと、服を取りに風呂場に向かうシードの後ろを歩いていると彼がフラリとしたのが分かった
その身体を咄嗟に支えると、すまねぇと一言呟いたシードに頭を横に振ってから彼を支えてベッドに横にさせる
「急にあんなに血が無くなって、身体がビックリしたんだよ」
「…飯食ってた時は平気だったんだけどな…」
「身体が血を作りたいから食べるの終わるまで待っててくれたのかもよ」
「なんだそれ…やべぇ。ねみぃ…」
その言葉を最後にシードは寝息を立てて直ぐに寝てしまった
子供の様な表情ですやすやと眠るシードの横に座り、彼を静かに見ていた。グリンヒルに来てから寂しくなかったのは敵なのに何だかんだ話しかけてくれるこの人が居たからだなと彼を見ていて思った
サラサラの赤い髪を撫でていると、その手がふいに掴まれる
一瞬起きたのかと思ったが、彼は寝息を立てていて眠っているんだなと確信した。手を強く掴まれてどうして良いのか分からずに片付けようとしていたテーブルの上にのっている食べ散らかした皿をみていると
シードが私の名前を呼んだ
「何??苦しいの?シード?」
答えても返ってこない返事を待っていると、後ろでガチャリとドアが急に開く音がしてビックリしながらも振り返る
そこに立っていたのはフリックだった。
私が目を見開いて笑顔になると、フリックは私では無くシードを見つめていた
「…何でお前の部屋にその男がいるんだ?」
フリックのものとは思えない低い声に私は一瞬ビクリとしたが、食事を持って来てくれて具合が悪くなったから寝かせたと言ってからシードの手を引き剥がし立ち上がった
「…そうか…」
それだけ言ったフリックはツカツカとブーツを鳴らし私の元まで来ると、不機嫌な顔で私の髪を優しく撫でてから前髪をすくいそこに口付けをする
寝てるとはいえ、人前でちょっと恥ずかしいなと思い
シードをチラリと横目で見れば、私が手を離した事で目が覚めたのか薄く瞼を開けてフリックを見つめていた
「…よぉ。青雷のフリック…2度目ましてだな」
「起きてたのか…お前は第4軍団長のシードだったな?セツナに聞いた、傭兵隊の砦ではセツナが世話になったな…」
薄く笑うシードと真顔のフリックのやりとりに、そういえば敵同士なんだったと今更ながら思っていると
シードはゆっくりベッドから立ち上がる
「セツナ、悪かったな。クルガンが待ってるからそろそろ戻るぜ」
「シード…。危ない所を助けてくれて本当ありがとう、お礼は必ずするから」
「…約束忘れんなよ」
「はいはい、料理ね。分かってる」
邪魔したなと言って立ち上がったシードの後ろを外まで見送ろうと、ついて行こうとするとシードが急に口を開いた
「フリック、だったか?ちょっといいか?セツナ、見送りはいらねぇ」
「ええっ?何でフリックなの?」
「…いいだろう。セツナ、此処で待ってろ」
2人にそう言われて、私はしぶしぶ頷いた。
フリックとシードが部屋から出て行くと、テーブルの上の物を片付けながらフリックを待った
10分以上待っても帰って来ないフリックとシードが心配になり、やはり待ってられないとドアを開けるとフリックがドアの前に背を向けて座っていた
「…ビックリした、フリック?何で入って来ないの?シードは大丈夫だった?」
「…ああ。アイツは今さっき帰った」
「…帰ったのなら、何で部屋に入って来なかったの?」
そう言った私にフリックは立ち上がると、私のシャツをいきなり捲り、首元を見ている様だった
「何?急に。どしたの?」
「…クソッ、あの野郎」
珍しくフリックが舌打ちをしたので、少しビックリしてフリックの顔を覗き込む
イライラとしているのか、目も合わさないフリックは私の手を急に引いて部屋の中に入ると乱暴にベッドに押され上から覆い被さる様に乗っかってきた
「…痛いよ、さっきから何??どうしたの?」
「…すまない…お前の首元に…とゆうか、お前鏡見てないのか?」
「何の事?」
「シードに何されたんだ?」
「何かって、…フリックには約束してたから申し訳無いと思ったんだけど…発作がひどくて我慢してたらシードが血をくれたの…ごめん」
「…それはシードからさっき聞いた。お前が飲まないから無理やり自分が口から飲ませたとな」
「…うん。他には何もされてないわよ。只食事をしていただけ」
そう言った私にフリックは首を鏡で見てこいと言ってから一度溜息を吐いた
フリックの気迫に内心恐々しながら風呂場に向かい、鏡で首元を見てみると真新しい口付けの痕が残っていた
これは怒るわと思ったが何も出来ずにそのままの足でベッドに戻ると、フリックの横に座り直す
「…知らなかったのか?」
「…知らなかったよ。何でフリック見てないのに分かったの?」
「アイツに言われたんだよ…」
「シードに?何て??」
「…アイツは…お前が好きだから諦めないって目の前でハッキリ言われた。お前が残した痕は俺が上書きしたからなと言われて、もしかしたらと思った」
私がそれを聞いて何も言えずに小さく溜息を吐くとフリックは怒っていた顔を真顔に変えて私に向き直る
「…お前は…アイツをどう思ってるんだ?」
「どうって?」
「アイツは一応敵の軍団長だ。どうして近づいた?」
「近づいたとゆうか…ラウドに怪しまれてるのを助けてもらったりしたのよ。治療のお礼だと言って食事を持って来てくれたりしたから…嫌な人に思えないし。何より私は特に敵とかの観念が薄いから…ハイランドの人を特に憎んでもいないし」
「…まぁ、元々俺たちが誘って巻き込まれただけだからな。それは分かるが…」
「それよりフリックはどうして此処にいるの?」
「俺は明日からリオウ達の付き添い人でテレーズを探す事になってるんだ。お前と合流する様にシュウに言われてる」
「…そっか。ハイランドがどんな戦略で此処を占領したのか…後ハイランド側はテレーズの居場所さえ掴めていない事とかは詳しく明日リオウに話すね」
「ああ」
お前が急にいなくなるから心配してたんだぞとフリックは私の髪を優しくといてから、首元の痕を見て苛立った様に口付けしてくる
絶対に諦めないと言っているシードを見た訳でも無いのにやけに頭にその言葉が頭に残っていた
長旅で疲れたのかフリックが私を抱きながら眠ってしまったので彼の手を握りながらふと、シードの事を考えていた
彼は私が好きだと言ったとフリックが言っていたが、シードと会ったのはまだ2度目だし好きだなんてあまり信じられなかった
でも、ほんのりとシードの笑顔が頭に浮かぶと心が何だかドキドキするようなこの気持ちに私は知らないフリをしてしまう事にした
元々私の敵はネクロードだけだったので、シードやクルガンの事も向こうがあの態度だからと警戒が薄すぎたのは確かだった
でも、私はシードと居た時間はとても良い時間だったと何と無く感じている事も事実…
そんな悶々とした気持ちで、彼を見つめた。バンダナをしていないフリックは少し幼い顔で静かに寝息を立てて眠っている
彼のこんな寝顔を見るのは何だか久しぶりだ
眠るまでずっと不機嫌だったなと思い出すとつい笑ってしまう、久しぶりに彼の腕の中の心地よさに浸りながらそのまま目を閉じた
朝、起きると直ぐに支度をしてまだ寝ているフリックを揺すり耳元で行ってくるねと囁くと、寝ぼけているのか私の姿を見るなり先生みたいだな…と呟いていた
「先生だってば。シュウから聞いてるでしょ?授業があるから先に行くからね」
「ああ…そうだったな。了解した」
寝ぼけているフリックを置いて宿舎を出ると、少し歩いた所で金色の髪をなびかせながら木の下に寄りかかるナッシュは私に手を振ってくる
早足でナッシュに寄ると、彼は眠そうに瞼を擦った
「何やってんの?朝から…」
「セツナの所で寝ようとしたら、シードとフリックが宿舎の前で話をしていたから気になってな…」
「あー昨日か…」
「それからフリックが部屋に入ってから出て行かないから、部屋に入れず野宿になった」
「…入ってくれば良かったじゃんと言いたい所だけど昨日は辞めて正解だったかも…」
「シードは笑っていたが、二人共殺気立ってたからなぁ。入って斬られたんじゃ困るからな…」
「あー、もう遅刻しちゃう!ナッシュ。話はまた今度」
「セツナ、俺はもう此処を出るから。それだけ伝えたかったんだ」
ミューズの時は唇にされたけど、今度は優しく頬を撫でてから額に口付けされた。君とまた生きて会えます様にとまるで誓いの様な台詞を言ってからナッシュはまた風の様にグリンヒルを去って行った
そして、私は盛大に遅刻をしてジーンに怒られたのであった
ジーンに貰った薬を飲んでから快調になった身体で指導をこなした。午前の授業が終わると受付にいたエミリアにリオウとナナミそれにシロにピリカを紹介され
みんなに抱きつきたいのを我慢して笑顔でよろしくねと頭を下げた
シュウから言われていたのだろう、皆んなブランシュ先生よろしくお願いしますと言って少し含み笑いをしながら頭を下げてくる
エミリアの代わりに彼等に付き添い、施設を見回る事になった私は両手をあげて抱っこをせがむピリカを抱くと、皆に話があると言って使われていない教室に入った
「みんな久しぶり、元気だった??」
何も言わずに抱き締めて来たナナミがギュウギュウと私の胸に頭を擦り付ける
チャコくんを紹介してもらった私はリオウにこれまでの事を詳しく話すと、リオウは少し険しい顔をした
「…うーん。テレーズさん大丈夫かな?その報告だとハイランドに見つかるのは時間の問題かな…」
「テレーズの側近のシンて男は必ず何か知っていると思うんだけど…学舎にいても中々会わないのよね」
それよりフリックは?と私が聞くと、ナナミがフリックさんは変な女の子に追いかけ回されていると話し始める
それを聞いたリオウが苦笑いで、その子を広場で助けたらフリックに惚れてしまったみたいと付け足した
シードにあんな怒ってたけど、フリックも人の事言えないなぁなんて思いながら皆には笑って流す事にした
食堂や教室を紹介してから、生徒用の宿舎まで案内すると日はもう暮れていた
そこで私はシードとした約束を思い出して、急いで皆んなと別れると、市場で野菜と肉を購入して宿舎に急いで帰った
部屋に戻りエプロンをしてから、さっそく簡単な鶏肉のハーブ焼きと玉ねぎのスープを作り手抜きして買って来たパスタをフライパンで温め直す
スプーンでパスタソースの味見をすると、少し薄くてコクが欲しい
焼いた鶏から出た肉汁と塩を足して温めなおしていると、コンコンとドアがノックされる音がした
「シードー??開いてるよー」
少し大きな声でそう言えば、入ってきたのはフリックで顔からして機嫌が悪い
「間違えた。ごめん」
「シードと間違えるなんて良い度胸だな」
珍しく私の頬をつねったフリックに、痛いよーと泣き真似をしてもいつもの様に許してはくれないみたいだ
「たく、本当に料理作ってるのか?」
「約束したし、命の恩人様ですから。フリックの分も勿論あるから拗ねないでね、女の子に追いかけられて疲れてるみたいだから山盛りにしてあげる」
「いや、それはその…違うんだ」
「お前もそんな顔するんだな、コイツにはそんなに弱いとは笑えるぜ」
急に違う声が会話に入ってきて、フリックと一緒に振り返ればシードがドアを開けて私達を見ながら笑っていた
「はぁ、お前か…全く。からかうなよ…」
「シード、早かったのね」
「お前たちの声は外まで聞こえたぞ、一応お忍びだろ?全く、フリックまで危機感がねーなー」
「…何だかお前に言われると腹たつな…」
「内緒にしてやってるんだ、そうカリカリすんなよ」
良い匂いだなと私の元まで来たシードはフライパンを覗いて嬉しそうに笑うと、土産だと言って冷えたワインを渡してくる
喜んで受け取った私はシードとフリックに座るように言うと直ぐに出来た料理を皿に並べてテーブルに置いてゆく
その時、外から聞こえた女性の声に私達は目を見合わせる
フリックさんと呼ぶ声に私とシードはじっとフリックを見つめるとブンブンと首を横に振るフリックにシードがもてるなぁとからかう様に笑った。
先生失礼しますとドアの前から声が聞こえてこちらが返事する前にガチャリとドアが開いた
「先生すみません、こちらに!あっ!居た」
「ニナちゃんだったの、フリックの事追いかけてる子って」
「やっぱり此処にいた!フリックさん夕飯の準備したんです食べて下さい!早くしないと冷めちゃいます」
ニナの勢いにシードとフリックがポカンとしていると
ニナはフリックの袖を掴んで引っ張って行ってしまう
掴むなと言われても全く動じないニナに背中を押されたフリックは、私とシードが見守る中部屋を強引に連れ出されてしまった
「いいのか?セツナ、フリック取られちまうぜ」
「取られるって物じゃないんだから…」
「あーゆー押しが強い女に男は弱いんだぜ」
「シードも?」
「ガキには興味ないな。だが10年経ったら美人になりそうな女だったな」
「私もそう思うよ」
そう言って笑ったシードにフォークとグラスを渡してから席に座ると、彼は持ってきたワインを私のグラスについでくれる
乾杯と差し出されたグラスに私もグラスを合わせると
ふと玄関に人の気配がして私達は同時にそちらを見た
コンコンと静かになるノックに、私は首を傾げる
フリックが帰って来たのかなと思い席を立って扉を開けるとそこに居たのはクルガンだった
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