幻想水滸伝2
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幼い時、好きな人が沢山居た覚えがある。年頃になり恋人も何人かは出来た事があって、その中の2人とは胸が苦しくなる様な恋をした事もあった
いつの時代も戦が続きその上で全てが成り立っていたから、いつしか自然と剣術と紋章術を習って自分が生きる為に傭兵の様な形で雇われて金を貰い生きて来た
上司がクソでも自分が強ければ後ろから撃ち殺してしまえばいい。全て従うものでは無いと剣技を教えてくれた彼は言っていた。
そんな自分が生きている内に残したいものは何かと友人に聞かれた事があった、聞いて来た彼女は誰よりも美しく誰よりも異端で名をジーンと言った。
「セツナが思っている程この世界は悲しい世界では無いわよ。上手くパーツがハマるようになっているし」
そう言って私の顔の血を優しく拭ってくれる。
「そうかね。ジーンは長生きだから、あんたの言う事は正しいのかもしれないよ。でも私は悲しいものを見過ぎた。私はまだそんな風に思えない」
上半身しか無い、名も知らぬ子の死体を抱きながら私は自分が焼き払った地を見つめていた
パチパチと火の粉が巻き上がる草花と人の死体の焼ける匂いに慣れを感じて吐き気がしてこない自分に少しだけ嫌気を感じている。そんな嫌気が顔に出ている私に彼女は慈愛を感じるような微笑みで肩を抱いてくれた。
ファレナからひたすら色々な地を渡り、色々なものを見て色んな人と出会って行く様な暮らしをしてきた私は、たまにこれが星の巡りで運命の様なものなのかなと感じた事があった。まあ、そんな事を言ってしまえば皆そうなんだろうけど。
旅の途中で会った傭兵のデリーと紋章師のルビィラからハイランドの侵攻があるとゆう噂だから、燕北には行かない方がいいと念を押された私は白鹿亭とゆう宿で足止めを食らっていた
「セツナは何処から来たんだっけ?」
私はちぎったパンを口に放り込むと、ルビィラの目を見つめた
「ファレナからぐるっと色々回ったかな。最近まで居たのはマチルダ。あそこは中々良い狩場だったから」
そう言った私にデリーが苦笑いしたように聞こえて、自然に視線はデリーを見つめていた。
「いや、ごめんごめん。マチルダはけっこうモンスターが強いからさ。パーティー組んで無いのに狩場何て言えて凄いな…なんて、」
「…そっか。…それよりさハイランドってどんな国なの?」
マチルダの街道の魔物はあんまり強く無かった何て言える訳も無く、自然と話を聞きたかった事に持っていくと2人は色々な事を教えてくれた。
しかしハイランドは元々どんな国なのかも詳しく知らない私は皇子ルカとアガレスの名前と領土の詳細を聞くだけ聞いたけど、中身はサッパリだった。
3人のランチを終えてから2人に礼を言いつつ周辺を散歩していると、可愛らしい子供が小さな動物達と遊んでいる姿が目に入り私は何と無くジーンと一緒に居た時に抱き上げた子供を思い出した。
また戦が始まるのかなと思うと、武者震いしてくる様な人が死ぬのを見たくない様な不思議な板挟みのような感覚に一度だけ大きく溜息をついた。
適当にその辺の魔物を狩って鍛錬をしていると直ぐに日は落ち、白鹿亭の煙突から煙が上が始めた頃に宿へ戻ると開いた窓からは良い香りが漂っている。
それに釣られる様に入り口のドアを開けようとノブに手を掛けると同時にその手に被せる様に手が置かれた。
「………」
気配の無さにビックリして一瞬固まってしまったが、直ぐに手の主を見れば全く知らない美しい若い男性が私を見てニッコリと微笑んでいた。
「誰?」
「初めまして。此処のお客さんかな?」
「…そうだけど。手離してくれない?」
「ああ。ごめんね」
そう、謝った癖に直ぐに手は離さず私の手を握ると一言こう言った。
「あのさ、実は路銀が尽きちゃって。…相部屋何てしてくれたりしない?」
変な事は絶対にしないからさと付け足した男は金色の髪を風になびかせながら困った様に笑う。彼のぐぅと小さく鳴った腹の虫が面白くて笑ってしまった私はついついオーケーを出してしまった。
「名前は?」
「ナッシュだ。君は?」
「セツナだよ。よろしくね」
2人で自己紹介を済ましながら中に入ると、女将のヒルダさんが私にお帰りなさいと言っておしぼりを渡して来た。
「あら?セツナさんのお連れさんかしら?随分綺麗な顔立ちの人ね」
「あー、はい。急に申し訳無いんですけど同室にしても良いですか?」
「まぁ。恋人なのね。素敵だわ」
普通は男女で特別な関係じゃないと同室にはしないよなぁと思った私は苦笑いでハイ、まぁ。とだけ返すとヒルダさんは微笑んで、食事を2人分部屋に運ぶから休んで居てねとルンルンでキッチンに戻って行った。
「本当に助かるよ」
そう言いながら軽く肩を叩いて来たナッシュに、お金入ったらお酒奢ってねと言ってから部屋に案内する事にした。ベッドが2つ、2人掛けのソファに書き物をするデスクが置いてあるこの部屋は昔はヒルダさんと旦那のアレックスさんの部屋だった所をリフォームしたと言っていた。
「何だベッドが二つある。2人部屋だったのか」
荷物をソファに雑に置いたナッシュは嬉しそうにベッドに横になる。ソファに寝る予定だったから嬉しいと言いながら枕の柔らかさを噛み締めている様に見えた
「着いた時は満員で此処しか空いて無かったからさ」
「広いし、割と良い部屋だな」
2人でそんな事を話していると扉がノックされて、ヒルダさんだと思った私は扉を開けた。野菜のシチューに焼きたてのパン、それにローストポークがたっぷりのお皿を乗せたお盆をヒルダさんは笑顔で2つ私に渡してきた。
甘い夜をと耳に囁かれて苦笑いでありがとうとだけ返すと、昼間に頼んでおいたワインも渡された。1人で飲む気マンマンだった私はワイングラスが2つのっているのを見て、まぁナッシュにもお裾分けしようかなと思いテーブルにお盆を運んだ。
食事を見たナッシュは、まるでシッポでも生えてるのかと思うくらいの犬の様な目の輝き具合を見せてくれた。
「良かったらワインも飲む?」
「これは、群島諸国のワインか」
「ランチの時にすすめられたから、夜に出してくれって頼んでおいたの」
彼がまた目を輝かせたので返事も待たずにグラスに注ぐ。ありがとうと言ったナッシュと、初めましての乾杯をした私達は夜中まで語り合った。
朝、少し胃もたれがする様な気がして目が覚めた。
紋章を使い胃を治してから起き上がると、隣のベッドでスヤスヤと子供の様な顔で寝ているナッシュを見て静かに笑ってしまう。夜中の12時まで呑んで話して笑ってを繰り返して居たからか、いつもは8時くらいには目が覚めるのに時計を見れば10時を過ぎていた
「ナッシュー」
「ナッシュちゃーん」
ベッドにうつ伏せている彼の髪を軽く撫でるが全く応答が無い。明日は仕事をこなさなきゃと言っていた気がするけれど、起こしても起きないものは仕方が無いと諦めて風呂に向かった。ゆっくりと湯に浸かってからホカホカになると、心無しか二日酔いの怠さが抜けた様に感じ、そのまま着替えと支度を風呂の鏡で整えると部屋に戻らずに宿のリビングダイニングに向かった。
「おはよう、お姉ちゃん」
「ピートくんおはよう」
お客さんが誰1人居ないダイニングテーブルに腰掛けてクリクリした目で上目遣いをしてくる可愛いピートくんを抱き上げてから膝に乗せる。他愛も無い会話をしていると、ヒルダさんがブランチのサンドイッチとコーヒーを持って来てくれた。
「おはよう、セツナちゃん。彼は?」
「まだ寝てますよ」
彼って誰?と問いかけてくるピートくんに、笑顔でしらばっくれてからサンドイッチにかぶりついた。コーヒーを楽しみながら昨日の事を思い出す。
彼の話についつい楽しくなってワインを追加して2人で全て飲み干してしまった。初めて会ったのにそんな気がしないで盛り上がれたのはナッシュの人柄のお陰だと思う
隣の椅子に座り、絵を書き出したピートくんの頭を撫でて、ヒルダさんにご馳走様を伝えると部屋に戻った。
扉を開ければ寝ているはずのナッシュは何処にも居なくて、テーブルに宿代の半分のお金とまた会いたいと一言だけ手書きのメモが置いてあった。
また会いたいって言われても世界中を転々としている私が彼にまた会える確率は少ないんじゃないかなと思う。彼の余韻が全く無くなっているシワ1つ無いベッドに寄れば、そこには小さな巾着袋が枕元に置いてあった。
忘れ物だと直ぐに分かったけれど、彼を追うにも全く居場所が分からない。それを手に取り開けるとマジックリングと紙切れが入っているのが見えて、紙切れの方を広げて中を見ればワインのお礼にプレゼントと走り書きで書かれていた。
テーブルの書き置きに一緒にしない所が何とも彼らしく、嬉しいと共にキザで憎らしくなって思わず希少なプレゼントに自然とニヤけてしまった。
マジックリングを指に付けてから、私も荷物を持ち白鹿亭を出発した。
橋を渡ると小さな村に出た。茶を飲んで少し休憩してから直ぐにまた歩き出す。魔力が心元無かったけれど目的のリューべの村はもうすぐな筈だ。ハイランドには行かない方が良いと言われたけれど、食事とお茶が美味いと友人に聞いていたからやっぱり足取りはそちらに向かってしまう。
旅の目的は多少あるのだけれど、何処にいるか分からない人探しみたいな物だから色々な所に行き情報を集めるしか無いと思っていた。
ヒルダさんに書いてもらった地図を頼りに、その方角へと向かって歩き出した。
弱いモンスターばかりだったから、特に紋章も使う事なく日が沈んで間もない薄暗い道を歩いていると少し遠くに馬が横になっている姿が見えてギョッとする
早足でそちらに向かうと倒れているのは馬だけでは無く人間もだった。青いマントの男性は頭から流血をして意識が無い。そっと馬の背を撫でると、ブルルルと少し小さく鳴いた馬はゆっくりと目を開けた。
大丈夫かい?と声を掛けて優しく顔を撫でると、美しい瞳は青いマントの男性を見つめていた。その姿が心配しているように思えて心苦しくなる。
ふと、辺りを見渡すと小さいが材木が積んである小屋が見えて私は立ち上がった。足の骨が折れている馬にマジックリングの力を借りて紋章で治療をすると、馬はゆっくりと立ち上がり、彼の元まで行くとまるで気遣う様に彼の顔を優しく舐めた。
私は青いマントの彼の腕を肩にのせて渾身の力で引き摺る様に小屋に向かって歩き出した。
小屋の中に男性を寝かせると、馬も中に入れる事にした。モンスターに馬は襲われないかもしれないが他人の馬だし、やはりもう暗いので何だか心配だった。
男性のバンダナを取ってから一部だけ金色の前髪を掻き上げて持っていた布で額の血を拭くと、綺麗な顔立ちをしていて少しだけ見惚れてしまう。額の傷は落下した時に石か何かに打ち付けたような傷だった。少しだけ残る魔力で治療してから、ポシェットに入っていた薬を塗って包帯を巻いた
彼の目まで腫れ上がった傷の痛々しさを不憫に思い、包帯の上から搾り出す様に残った魔力を注いでいるとそれが私にとっては良く無かったのか急に視界が見えなくなり意識が遠のいていった。
身体が痛い気がして目が覚めた。疲れているのか怠くて起き上がれないがあのまま彼の腹を枕に寝てしまった様だ。
少しづつ目が覚めてきたので、変な体勢で寝てしまった身体をゆっくり起こしてから男性の傷口を確認しようと思い一度伸びをしてから彼の顔に手を伸ばした
その時、パチリと開いた目にギョッとして思わず手を引っ込めてしまった。彼は私と目が合うと、一度眉を寄せてから警戒した表情になる。そしてゆっくりと自分の額と右目に巻かれている包帯に手をやる
「君が巻いてくれたのか?」
そう言った彼の声は、顔より少し幼い気がした。
コクリと頷いてから彼女が心配してたんでと言って彼に寄り添い寝ている馬を指差すと、彼は少しだけ安堵した様な表情を浮かべた。
「寝たら少し魔力戻ったんで、目と落下した時に打った足腰を治療しますね。額は多分もう塞がっているので」
そう簡単に説明してから彼が口を開く前に紋章を発動させた。水の雫が彼に滴り落ちたのを見てからゆっくりと傷に触らない様に包帯を取っていく。
思っていた通り額の傷は塞がっていて、今の癒しで目の腫れも大分良くなった。
「痛くない?」
「あ、ああ。本当に助かった。」
少し戸惑っていた彼だったが、私に害が無いのが分かったのか優しく微笑んでからフリックだと名前を名乗った。私も名前を名乗ると、起き上がったフリックは軽く身体を動かして手足に不備が無いか確認している様だった。
「なぁ、俺は倒れていたのか?」
「トトから、リューべに向かう道で馬と倒れてたのを見つけました」
「トトから馬でかけていたのは覚えているんだが、その後の記憶がまるで無くてな」
そう言って馬を優しく撫でるフリックに、家は近いのかと尋ねると思い出した様に彼は顔を青くする
「まずい。書類を持ち帰っている途中だったんだ」
「書類?」
「ミューズから砦への書類だ。」
そう言いながら彼は青い顔でマントの中に手を伸ばし探っている様だった。ボンヤリと昨日の落下現場を思い出したけれど紙の様な物は落ちて居なかったはずだ
「すぐそこだからちょっと探して来ようか?」
「いや、俺が行くから馬を見ててくれないか?」
分かったと言った私に軽く頷いてからフリックは外へと出て行った。少し回復した魔力も使ってしまった私は怠くて馬に寄りかかると、その温かさと心臓の音に心地よさを感じてついつい目を閉じてしまった。
温かさと微かに香る懐かしいような匂いに意識は朦朧としているが優しく抱かれている様な感じがした。ゆりかごの様な程よい揺れがまた一層眠りを誘い、私はそのまま心地よさに身を預けて寝てしまった。
それから気付いた時には柔らかいベッドの上で目を覚ました。寝ぼけた頭で此処は何処だろうと考えているとドアの向こうから人の声がする。それも1人では無くて何人もの人が話をしているような声が聞こえてくる。
目をこすり夕陽が照らされる窓辺に立って外を見れば何人かの兵士の様な格好をした若い青年達が剣を交えるのが見えた。
その時、ドアの向こうからフリックの声で開けるな馬鹿と焦った様な声が聞こえて私はドアの方を振り返ると、ガチャリと開いたドアからはガタイの良い男性が笑いながら入ってきて私を見ると一度目を見開いてからニヤニヤと上から下までまるで品定めをしているかの様に見て来た。
「ビクトール」
早足で入ってきたフリックが怒り気味にビクトールと呼んだ男の肩をはたくと、フリックは私を見て起きたのかと言って近づいてくる。
「おはようフリック。迷惑かけてごめんね」
「いや、一日中俺の看病で疲れていたんだろう。まだ寝てて良いんだぞ」
「もう大丈夫」
そう言って微笑んでから、ビクトールと呼ばれていた男にもお邪魔してますと言って頭を下げると彼はニカっと人の良い笑みを浮かべた。
「この砦の隊長をしているビクトールだ。フリックが世話になったな」
手をとられ、握手をしてくるビクトールの手の大きさに少しビックリしながらも、いえいえと彼の手を一度握った。
お腹が空いてないかと聞いてくるフリックに空いたと素直に伝えると彼は食事にしようと言って私について来なと言って部屋をでた。
思っていたよりも食堂は大きく、何十人もの兵士で賑わっていた。女性が居ないこの砦でフリックとビクトールさんの後を歩く私に沢山の好奇心の目が向けられていて、キョロキョロすると周りの男性達と目が合ってしまいそうなので前を歩くフリックのマントのみを見つめていた。
カウンターまで来ると、綺麗な女性が顔を私に向けて笑顔を見せてくれる。
「起きたのかい、フリックが世話になったみたいだね。助かったよ」
「いえ、魔力切れで寝込んでしまったので私も助けてもらった様なものですよ」
そう言って控えめに返して微笑んだ私に、ビクトールさんがビールでも飲むか?と差し出してくれたので私は喜んでグラスを受け取った。それから3人で他愛も無い話をしながら食事をしていると、軽い口調でビクトールは私にお願いをしてきた。
「なぁ、少しの間で良いんだがちょっと仕事を手伝ってはくれないか?」
「えっ?なんの?」
「お前、強いだろ。うちの兵士に剣の稽古をつけてやって欲しい」
「稽古?何で私?」
「フリックと俺が教えてるんだが、全員ほぼその型のみだからな。たまには他の剣士と闘ってみるのも良い経験だと思ってな」
そう言ってビールを飲み干したビクトールの意見には全くもってその通りだと思った。
自分も様々な剣士と手合わせしてもらって今の技を身につけた所もあったからだ。稽古は勝ち負けよりも経験と身体で覚える大事さを分かっているから。
ビクトールは頼むよと、レオナさんに酒のお代わりを頼みつつ人懐こい笑顔を私に向けた。
その笑顔に私がチラリとフリックを見ると、こうゆう奴なんだと言って呆れ果てた顔でビールを飲み干した
いつの時代も戦が続きその上で全てが成り立っていたから、いつしか自然と剣術と紋章術を習って自分が生きる為に傭兵の様な形で雇われて金を貰い生きて来た
上司がクソでも自分が強ければ後ろから撃ち殺してしまえばいい。全て従うものでは無いと剣技を教えてくれた彼は言っていた。
そんな自分が生きている内に残したいものは何かと友人に聞かれた事があった、聞いて来た彼女は誰よりも美しく誰よりも異端で名をジーンと言った。
「セツナが思っている程この世界は悲しい世界では無いわよ。上手くパーツがハマるようになっているし」
そう言って私の顔の血を優しく拭ってくれる。
「そうかね。ジーンは長生きだから、あんたの言う事は正しいのかもしれないよ。でも私は悲しいものを見過ぎた。私はまだそんな風に思えない」
上半身しか無い、名も知らぬ子の死体を抱きながら私は自分が焼き払った地を見つめていた
パチパチと火の粉が巻き上がる草花と人の死体の焼ける匂いに慣れを感じて吐き気がしてこない自分に少しだけ嫌気を感じている。そんな嫌気が顔に出ている私に彼女は慈愛を感じるような微笑みで肩を抱いてくれた。
ファレナからひたすら色々な地を渡り、色々なものを見て色んな人と出会って行く様な暮らしをしてきた私は、たまにこれが星の巡りで運命の様なものなのかなと感じた事があった。まあ、そんな事を言ってしまえば皆そうなんだろうけど。
旅の途中で会った傭兵のデリーと紋章師のルビィラからハイランドの侵攻があるとゆう噂だから、燕北には行かない方がいいと念を押された私は白鹿亭とゆう宿で足止めを食らっていた
「セツナは何処から来たんだっけ?」
私はちぎったパンを口に放り込むと、ルビィラの目を見つめた
「ファレナからぐるっと色々回ったかな。最近まで居たのはマチルダ。あそこは中々良い狩場だったから」
そう言った私にデリーが苦笑いしたように聞こえて、自然に視線はデリーを見つめていた。
「いや、ごめんごめん。マチルダはけっこうモンスターが強いからさ。パーティー組んで無いのに狩場何て言えて凄いな…なんて、」
「…そっか。…それよりさハイランドってどんな国なの?」
マチルダの街道の魔物はあんまり強く無かった何て言える訳も無く、自然と話を聞きたかった事に持っていくと2人は色々な事を教えてくれた。
しかしハイランドは元々どんな国なのかも詳しく知らない私は皇子ルカとアガレスの名前と領土の詳細を聞くだけ聞いたけど、中身はサッパリだった。
3人のランチを終えてから2人に礼を言いつつ周辺を散歩していると、可愛らしい子供が小さな動物達と遊んでいる姿が目に入り私は何と無くジーンと一緒に居た時に抱き上げた子供を思い出した。
また戦が始まるのかなと思うと、武者震いしてくる様な人が死ぬのを見たくない様な不思議な板挟みのような感覚に一度だけ大きく溜息をついた。
適当にその辺の魔物を狩って鍛錬をしていると直ぐに日は落ち、白鹿亭の煙突から煙が上が始めた頃に宿へ戻ると開いた窓からは良い香りが漂っている。
それに釣られる様に入り口のドアを開けようとノブに手を掛けると同時にその手に被せる様に手が置かれた。
「………」
気配の無さにビックリして一瞬固まってしまったが、直ぐに手の主を見れば全く知らない美しい若い男性が私を見てニッコリと微笑んでいた。
「誰?」
「初めまして。此処のお客さんかな?」
「…そうだけど。手離してくれない?」
「ああ。ごめんね」
そう、謝った癖に直ぐに手は離さず私の手を握ると一言こう言った。
「あのさ、実は路銀が尽きちゃって。…相部屋何てしてくれたりしない?」
変な事は絶対にしないからさと付け足した男は金色の髪を風になびかせながら困った様に笑う。彼のぐぅと小さく鳴った腹の虫が面白くて笑ってしまった私はついついオーケーを出してしまった。
「名前は?」
「ナッシュだ。君は?」
「セツナだよ。よろしくね」
2人で自己紹介を済ましながら中に入ると、女将のヒルダさんが私にお帰りなさいと言っておしぼりを渡して来た。
「あら?セツナさんのお連れさんかしら?随分綺麗な顔立ちの人ね」
「あー、はい。急に申し訳無いんですけど同室にしても良いですか?」
「まぁ。恋人なのね。素敵だわ」
普通は男女で特別な関係じゃないと同室にはしないよなぁと思った私は苦笑いでハイ、まぁ。とだけ返すとヒルダさんは微笑んで、食事を2人分部屋に運ぶから休んで居てねとルンルンでキッチンに戻って行った。
「本当に助かるよ」
そう言いながら軽く肩を叩いて来たナッシュに、お金入ったらお酒奢ってねと言ってから部屋に案内する事にした。ベッドが2つ、2人掛けのソファに書き物をするデスクが置いてあるこの部屋は昔はヒルダさんと旦那のアレックスさんの部屋だった所をリフォームしたと言っていた。
「何だベッドが二つある。2人部屋だったのか」
荷物をソファに雑に置いたナッシュは嬉しそうにベッドに横になる。ソファに寝る予定だったから嬉しいと言いながら枕の柔らかさを噛み締めている様に見えた
「着いた時は満員で此処しか空いて無かったからさ」
「広いし、割と良い部屋だな」
2人でそんな事を話していると扉がノックされて、ヒルダさんだと思った私は扉を開けた。野菜のシチューに焼きたてのパン、それにローストポークがたっぷりのお皿を乗せたお盆をヒルダさんは笑顔で2つ私に渡してきた。
甘い夜をと耳に囁かれて苦笑いでありがとうとだけ返すと、昼間に頼んでおいたワインも渡された。1人で飲む気マンマンだった私はワイングラスが2つのっているのを見て、まぁナッシュにもお裾分けしようかなと思いテーブルにお盆を運んだ。
食事を見たナッシュは、まるでシッポでも生えてるのかと思うくらいの犬の様な目の輝き具合を見せてくれた。
「良かったらワインも飲む?」
「これは、群島諸国のワインか」
「ランチの時にすすめられたから、夜に出してくれって頼んでおいたの」
彼がまた目を輝かせたので返事も待たずにグラスに注ぐ。ありがとうと言ったナッシュと、初めましての乾杯をした私達は夜中まで語り合った。
朝、少し胃もたれがする様な気がして目が覚めた。
紋章を使い胃を治してから起き上がると、隣のベッドでスヤスヤと子供の様な顔で寝ているナッシュを見て静かに笑ってしまう。夜中の12時まで呑んで話して笑ってを繰り返して居たからか、いつもは8時くらいには目が覚めるのに時計を見れば10時を過ぎていた
「ナッシュー」
「ナッシュちゃーん」
ベッドにうつ伏せている彼の髪を軽く撫でるが全く応答が無い。明日は仕事をこなさなきゃと言っていた気がするけれど、起こしても起きないものは仕方が無いと諦めて風呂に向かった。ゆっくりと湯に浸かってからホカホカになると、心無しか二日酔いの怠さが抜けた様に感じ、そのまま着替えと支度を風呂の鏡で整えると部屋に戻らずに宿のリビングダイニングに向かった。
「おはよう、お姉ちゃん」
「ピートくんおはよう」
お客さんが誰1人居ないダイニングテーブルに腰掛けてクリクリした目で上目遣いをしてくる可愛いピートくんを抱き上げてから膝に乗せる。他愛も無い会話をしていると、ヒルダさんがブランチのサンドイッチとコーヒーを持って来てくれた。
「おはよう、セツナちゃん。彼は?」
「まだ寝てますよ」
彼って誰?と問いかけてくるピートくんに、笑顔でしらばっくれてからサンドイッチにかぶりついた。コーヒーを楽しみながら昨日の事を思い出す。
彼の話についつい楽しくなってワインを追加して2人で全て飲み干してしまった。初めて会ったのにそんな気がしないで盛り上がれたのはナッシュの人柄のお陰だと思う
隣の椅子に座り、絵を書き出したピートくんの頭を撫でて、ヒルダさんにご馳走様を伝えると部屋に戻った。
扉を開ければ寝ているはずのナッシュは何処にも居なくて、テーブルに宿代の半分のお金とまた会いたいと一言だけ手書きのメモが置いてあった。
また会いたいって言われても世界中を転々としている私が彼にまた会える確率は少ないんじゃないかなと思う。彼の余韻が全く無くなっているシワ1つ無いベッドに寄れば、そこには小さな巾着袋が枕元に置いてあった。
忘れ物だと直ぐに分かったけれど、彼を追うにも全く居場所が分からない。それを手に取り開けるとマジックリングと紙切れが入っているのが見えて、紙切れの方を広げて中を見ればワインのお礼にプレゼントと走り書きで書かれていた。
テーブルの書き置きに一緒にしない所が何とも彼らしく、嬉しいと共にキザで憎らしくなって思わず希少なプレゼントに自然とニヤけてしまった。
マジックリングを指に付けてから、私も荷物を持ち白鹿亭を出発した。
橋を渡ると小さな村に出た。茶を飲んで少し休憩してから直ぐにまた歩き出す。魔力が心元無かったけれど目的のリューべの村はもうすぐな筈だ。ハイランドには行かない方が良いと言われたけれど、食事とお茶が美味いと友人に聞いていたからやっぱり足取りはそちらに向かってしまう。
旅の目的は多少あるのだけれど、何処にいるか分からない人探しみたいな物だから色々な所に行き情報を集めるしか無いと思っていた。
ヒルダさんに書いてもらった地図を頼りに、その方角へと向かって歩き出した。
弱いモンスターばかりだったから、特に紋章も使う事なく日が沈んで間もない薄暗い道を歩いていると少し遠くに馬が横になっている姿が見えてギョッとする
早足でそちらに向かうと倒れているのは馬だけでは無く人間もだった。青いマントの男性は頭から流血をして意識が無い。そっと馬の背を撫でると、ブルルルと少し小さく鳴いた馬はゆっくりと目を開けた。
大丈夫かい?と声を掛けて優しく顔を撫でると、美しい瞳は青いマントの男性を見つめていた。その姿が心配しているように思えて心苦しくなる。
ふと、辺りを見渡すと小さいが材木が積んである小屋が見えて私は立ち上がった。足の骨が折れている馬にマジックリングの力を借りて紋章で治療をすると、馬はゆっくりと立ち上がり、彼の元まで行くとまるで気遣う様に彼の顔を優しく舐めた。
私は青いマントの彼の腕を肩にのせて渾身の力で引き摺る様に小屋に向かって歩き出した。
小屋の中に男性を寝かせると、馬も中に入れる事にした。モンスターに馬は襲われないかもしれないが他人の馬だし、やはりもう暗いので何だか心配だった。
男性のバンダナを取ってから一部だけ金色の前髪を掻き上げて持っていた布で額の血を拭くと、綺麗な顔立ちをしていて少しだけ見惚れてしまう。額の傷は落下した時に石か何かに打ち付けたような傷だった。少しだけ残る魔力で治療してから、ポシェットに入っていた薬を塗って包帯を巻いた
彼の目まで腫れ上がった傷の痛々しさを不憫に思い、包帯の上から搾り出す様に残った魔力を注いでいるとそれが私にとっては良く無かったのか急に視界が見えなくなり意識が遠のいていった。
身体が痛い気がして目が覚めた。疲れているのか怠くて起き上がれないがあのまま彼の腹を枕に寝てしまった様だ。
少しづつ目が覚めてきたので、変な体勢で寝てしまった身体をゆっくり起こしてから男性の傷口を確認しようと思い一度伸びをしてから彼の顔に手を伸ばした
その時、パチリと開いた目にギョッとして思わず手を引っ込めてしまった。彼は私と目が合うと、一度眉を寄せてから警戒した表情になる。そしてゆっくりと自分の額と右目に巻かれている包帯に手をやる
「君が巻いてくれたのか?」
そう言った彼の声は、顔より少し幼い気がした。
コクリと頷いてから彼女が心配してたんでと言って彼に寄り添い寝ている馬を指差すと、彼は少しだけ安堵した様な表情を浮かべた。
「寝たら少し魔力戻ったんで、目と落下した時に打った足腰を治療しますね。額は多分もう塞がっているので」
そう簡単に説明してから彼が口を開く前に紋章を発動させた。水の雫が彼に滴り落ちたのを見てからゆっくりと傷に触らない様に包帯を取っていく。
思っていた通り額の傷は塞がっていて、今の癒しで目の腫れも大分良くなった。
「痛くない?」
「あ、ああ。本当に助かった。」
少し戸惑っていた彼だったが、私に害が無いのが分かったのか優しく微笑んでからフリックだと名前を名乗った。私も名前を名乗ると、起き上がったフリックは軽く身体を動かして手足に不備が無いか確認している様だった。
「なぁ、俺は倒れていたのか?」
「トトから、リューべに向かう道で馬と倒れてたのを見つけました」
「トトから馬でかけていたのは覚えているんだが、その後の記憶がまるで無くてな」
そう言って馬を優しく撫でるフリックに、家は近いのかと尋ねると思い出した様に彼は顔を青くする
「まずい。書類を持ち帰っている途中だったんだ」
「書類?」
「ミューズから砦への書類だ。」
そう言いながら彼は青い顔でマントの中に手を伸ばし探っている様だった。ボンヤリと昨日の落下現場を思い出したけれど紙の様な物は落ちて居なかったはずだ
「すぐそこだからちょっと探して来ようか?」
「いや、俺が行くから馬を見ててくれないか?」
分かったと言った私に軽く頷いてからフリックは外へと出て行った。少し回復した魔力も使ってしまった私は怠くて馬に寄りかかると、その温かさと心臓の音に心地よさを感じてついつい目を閉じてしまった。
温かさと微かに香る懐かしいような匂いに意識は朦朧としているが優しく抱かれている様な感じがした。ゆりかごの様な程よい揺れがまた一層眠りを誘い、私はそのまま心地よさに身を預けて寝てしまった。
それから気付いた時には柔らかいベッドの上で目を覚ました。寝ぼけた頭で此処は何処だろうと考えているとドアの向こうから人の声がする。それも1人では無くて何人もの人が話をしているような声が聞こえてくる。
目をこすり夕陽が照らされる窓辺に立って外を見れば何人かの兵士の様な格好をした若い青年達が剣を交えるのが見えた。
その時、ドアの向こうからフリックの声で開けるな馬鹿と焦った様な声が聞こえて私はドアの方を振り返ると、ガチャリと開いたドアからはガタイの良い男性が笑いながら入ってきて私を見ると一度目を見開いてからニヤニヤと上から下までまるで品定めをしているかの様に見て来た。
「ビクトール」
早足で入ってきたフリックが怒り気味にビクトールと呼んだ男の肩をはたくと、フリックは私を見て起きたのかと言って近づいてくる。
「おはようフリック。迷惑かけてごめんね」
「いや、一日中俺の看病で疲れていたんだろう。まだ寝てて良いんだぞ」
「もう大丈夫」
そう言って微笑んでから、ビクトールと呼ばれていた男にもお邪魔してますと言って頭を下げると彼はニカっと人の良い笑みを浮かべた。
「この砦の隊長をしているビクトールだ。フリックが世話になったな」
手をとられ、握手をしてくるビクトールの手の大きさに少しビックリしながらも、いえいえと彼の手を一度握った。
お腹が空いてないかと聞いてくるフリックに空いたと素直に伝えると彼は食事にしようと言って私について来なと言って部屋をでた。
思っていたよりも食堂は大きく、何十人もの兵士で賑わっていた。女性が居ないこの砦でフリックとビクトールさんの後を歩く私に沢山の好奇心の目が向けられていて、キョロキョロすると周りの男性達と目が合ってしまいそうなので前を歩くフリックのマントのみを見つめていた。
カウンターまで来ると、綺麗な女性が顔を私に向けて笑顔を見せてくれる。
「起きたのかい、フリックが世話になったみたいだね。助かったよ」
「いえ、魔力切れで寝込んでしまったので私も助けてもらった様なものですよ」
そう言って控えめに返して微笑んだ私に、ビクトールさんがビールでも飲むか?と差し出してくれたので私は喜んでグラスを受け取った。それから3人で他愛も無い話をしながら食事をしていると、軽い口調でビクトールは私にお願いをしてきた。
「なぁ、少しの間で良いんだがちょっと仕事を手伝ってはくれないか?」
「えっ?なんの?」
「お前、強いだろ。うちの兵士に剣の稽古をつけてやって欲しい」
「稽古?何で私?」
「フリックと俺が教えてるんだが、全員ほぼその型のみだからな。たまには他の剣士と闘ってみるのも良い経験だと思ってな」
そう言ってビールを飲み干したビクトールの意見には全くもってその通りだと思った。
自分も様々な剣士と手合わせしてもらって今の技を身につけた所もあったからだ。稽古は勝ち負けよりも経験と身体で覚える大事さを分かっているから。
ビクトールは頼むよと、レオナさんに酒のお代わりを頼みつつ人懐こい笑顔を私に向けた。
その笑顔に私がチラリとフリックを見ると、こうゆう奴なんだと言って呆れ果てた顔でビールを飲み干した
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