短編3
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あまり体格差や身長差を意識した事は無い。意識した事が無いというよりは意識する場面にあまり遭遇していないだけかもしれない。身長差がある恋人同士は声が聞き取り難いと言われているが、私達の場合はサンジの女性限定の地獄耳がある。そして、私が聞き取りやすいように常に猫のように丸めた背中。私がサンジの顔を見上げる前にサンジが先に私の顔を覗き込んでくる始末だ。
「どうかしたかい、ナマエちゃん」
「……サンジって実は大きいわよね」
船を下りた際に、ふわりと肩に掛けられたサンジのジャケット。私の体を包み込んでいるジャケットは二人の体格差を明確にする。ジャケットに袖を通せば、体格差はより強調されて羽織っているというよりもジャケットに着られていると言った方が正しい。袖に隠された指先は袖を数回捲らないと見えやしない。
「ジャケットが歩いてるみてェで可愛い」
「そんな小さくないわ」
「君は華奢だから」
下を見れば、私に合わせられた歩幅。サンジの革靴の先が私を抜かす事は無い。その長い脚なら簡単に私を置いて先にいけるのにサンジはそうしない。
「サンジがこうやって気遣ってくれるから身長差も体格差も忘れちゃうわね」
抱き締められる腕の強さの一つにしてもサンジはまるで壊れ物に触れるような手付きで抱き締めてくる、サンジの目には私が硝子細工や砂糖菓子のように映っているのかもしれない。
「気遣いっつーか、君に馴染んだ結果かな」
「馴染む?」
「君の歩幅はこのぐらいかな、君の柔らかさだったら力はこのぐらいかなとかさ、他にはこの位置だったら君の顔がよく見えるなとか君を知っていった結果だ」
サンジは先程よりも顔を少しだけ近付けると、ここからだと君が近過ぎておれがドキドキしちまうから駄目だ、と戯けるように肩を竦めた。そんな、サンジについ笑みが溢れる。
「ふふ、ドキドキしちゃうの?」
「あぁ、心臓が飛び出ちまう」
自身の胸を押さえながら、サンジはそんな事を言う。きっと、これは比喩でも冗談でもなくサンジの本音だろう。周りから見れば大袈裟だと笑われてしまうかもしれない。だが、サンジなら有り得てしまうのだ。この男は鼻血の一つや二つで死にかける男だ。
「だけど、内緒話をするならこれぐらいの方が都合がいい」
「どんな秘密を教えてくれる気なのかしら」
「君にしか言えねェ秘密かな」
それなら、きっと甘い秘密だ。他人の耳に入れるには毒のような秘密。それが傍に落ちて、私の耳が拾う。
「この距離が一番、キスしやすい」
私の中途半端に開いた唇に蓋をするようにサンジは秘密の証明をするのだった。