短編3
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遠慮や気遣いという言葉の前に「会いたい」が立ちはだかる。メッセージを打とうとしていたサンジの指は通話のボタンを押して、彼女の声を求める。外では新聞配達のバイクの音が鳴り、辺りはまだ暗い。彼女が起床するまであと二時間はある、サンジ自身も仕事に向かう支度を始めなければいけない時間だ。
「……もしもし、サンジ?」
何回目のコール音が途切れ、彼女の眠たげな声が端末の向こうから返ってくる。
「あー……こんな、朝早くからすまねェ」
「んーん、大丈夫よ。それより、何かあった?」
あなたがこの時間に電話を掛けてくるなんて珍しいから、と彼女は言う。些細な違いに首を傾げながら、サンジからの返答を待つ彼女。
「……普段あんまり見ねェんだけどさ、夢を見たんだ」
サンジの声色を聞いている感じでは悪い夢では無さそうだ。サンジはああ見えて繊細なところがある。きっと、これが悪夢だとしたら彼女には言わずに一人で抱え込んで一日を憂鬱に過ごすのだろう。
「夢の登場人物はおれと誰だと思う?」
「ふふ、誰かしら。ヒントをちょうだい」
「……ヒントを言ったら君は簡単に分かっちまうよ」
ヒントはおれが今、一番会いたい人だから、と恥ずかしげもなく甘い声を出すサンジ。寝起きにその甘さは毒のようだ、一気に眠気が吹き飛んで行く。
「今日の夜、そっちに行ってもいいかい?」
「ん、待ってる」
突然舞い込んで来た予定は彼女の心も満たす。朝からこんな飴を与えられたら、会いたくなるのも当然だ。サンジは自分自身の我儘に彼女が仕方なく付き合ってくれていると思っているのか、端末の向こうからホッとしたような吐息が溢れる。
「起きてガッカリしたくねェからさ、お泊りしてもいい?」
「いいけど、ガッカリって?」
「目覚めて隣が空っぽなのは切ねェだろ?」
夢ではあんなにイチャイチャしてたのに、とサンジは夢の全貌を事細かに説明し出す。身に覚えのない自身の発言や行動に彼女は両耳を塞ぐ。そして、静かに枕に顔を埋める。
「……どんな夢を見てるのよ」
「君を夢見てる」
寝ても覚めてもずっと、そう言ってサンジはリップ音を電波に乗せる。
「……夢にしていいの」
「今夜、確かめさせて。君が夢じゃねェって」