短編3
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よく似たピンクとブロンドの姉弟に挟まれている。右からはワンピースを差し出され、左からはセットアップを差し出される。スタイルの良い二人は私の頭の上で顔を突き合わせ、あっちの方が、こっちの方が、と声を荒らげる。互いに譲る気は無いのか、私の顔の前に服を差し出して、どちらかを選べと圧を掛けてくる。
「……えっと、どちらも素敵よ?」
誤魔化すようにへらりと笑えば、二人の特徴的な眉毛がキュッと持ち上がり、それでは納得がいかないとまた頭上で争いが起こる。
「レイジュは何も分かってねェ!」
「あら、サンジの趣味を押し付けないでちょうだい」
何でこうなったんだろう、と頭を抱える私に気付いていないのか二人の争いはヒートアップする。声を荒らげるサンジ、負けずに煽るお姉様。私はどちらかの味方をするわけにもいかず、成り行きをオロオロと真ん中で眺める事しか出来ない。
「おれの方がナマエちゃんの事を理解してる」
「女はね、男に話せない事もあるのよ」
恋人なら尚更、そう言ってセクシーな唇をぺろりと舐めるお姉様は同性の私から見ても美しい。だが、そのセクシーな表情にドキドキする暇も無い。お姉様の発言に動揺したサンジが隣で影を背負い出し、言えねェ事、と消え入りそうな声を漏らす。
「ふふ、残念だったわね。サンジ」
お姉様は勝ちを確信したのか、紙袋などの荷物とサンジをその場に置いてレジに向かう。その手にはサンジの尻ポケットに入っていた革の黒い財布が握られている。
「ごち♡」
そう言って、舌をぺろりと覗かせるお姉様を止めようにも止まらない事を理解している私はサンジに手を合わせてお姉様の背中を追う。
これはお姉様のストレス発散方法だ。何故か弟の恋人である私を休みの度に連れ出して可愛がっては貢ぐ。私に言わせてみれば、サンジのメロリンと大して変わらない奇行だ。
「……やっぱり、姉弟よね」
「ん?」
お姉様と解散した私達は帰路につく。先程までお姉様に振り回されては煽られ、揉めては負かされを繰り返していたサンジは行きよりも数キロ痩せたように見える。
「レイジュさんとあなたってソックリよね」
「……一応、姉弟だからね」
「あら、似てねェって言わないの?」
口元に手を当てて笑う私にサンジは気まずげに視線を逸らす。だが、そのブロンドの隙間から覗いた耳は夕日に照らされたように赤い。
「素敵ね」
「……それで君はどうなの」
「ん、何が?」
「レイジュには話せて、おれには話せない事」
女は男に全てを語らない。きっと、お姉様みたいな美女にはお似合いな言葉だろう。だが、私にはどうもピンとこない。自身のキャラクターに合っていない事もそうだが、サンジに対して何かを隠そうと思った事がない。
「サンジの前だと緩んじゃうから駄目」
口も心も緩んで、サンジに全てを見て聞いて欲しいと思ってしまうのだ。日常の嫌な事も良い事も自身の嫌な部分も良い部分も明け透けにしてしまう。
「……なら逆は?」
「お姉様に話せない事?」
「あぁ」
「……これは絶対、秘密にして欲しいんだけど」
内緒話をするように声を潜めて、私は大袈裟に話し始める。街灯が照らす静かな住宅地にサンジのごくりと唾を飲み込む音が響く。
「姉が出来たみたいで嬉しいの」
それに弟も、そう言ってお姉様の真似をして舌をぺろりと悪戯に出せば、サンジは荷物を持っていない方の手で私の頭をくしゃりと撫でる。
「っ、くく、どちらかと言えば君は妹じゃねェかな?」
「なぁに、サンジお兄ちゃん?」
「駄目、扉が開いちまうから禁止」
「ふふ、堪え性が無いわね」
こんなくだらない会話だってお姉様には聞かせられない。いや、お姉様以外にも聞かせられないだろう。バカップルの馬鹿なお喋りは二人の秘密にしておくのが利口な選択だ。そして、無意識に甘くなるサンジの声色はまだ内緒にしていたい、と誰にも言いたくない独占欲が顔を出すのだった。