短編3
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「ナマエちゃんはフルーツ好き?」
「海は好き?」
「こっちの方が好き?」
最近のサンジの流行りとも言える私への質問責め、質問責めと言っても好きに絞られた質問達。この質問の意図は全く分からないがサンジが楽しそうにしている為、意図を尋ねるタイミングを逃してしまった。そして、今日もまたサンジは飽きもせずに私に質問を投げ掛ける。それに対して私は好きか嫌いかの二択で答えるのだ。好きだとサンジの顔が綻び、嫌いだとサンジの顔が萎む。まるで花の開花を見守っているような気持ちになる。
「好き」
「へへ、おれも」
サンジの瞳は手元の皿を見ていない。今は料理の好き嫌いを聞かれていた筈なのにサンジの爛々と輝く瞳は私の顔を映している。質問の度にこの熱心な視線を浴びせられ、そろそろ顔中に穴が空きそうだ。
「……視線で蜂の巣になりそう」
「蜂の巣?」
「いーえ、こっちの話よ」
その熱心な視線から逃れるように耳に掛けていた髪を横に下げる。だが、サンジはその仕切りを無視するように私の顔を覗き込む。私はサンジの顔に腕を伸ばして、その整った顔面を手の平で押し退ける。ぶはっと情けない声を上げるサンジに私はこの質問責めという行為の理由について尋ねる。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
指の隙間から覗いた碧眼がパチリと瞬きをする。
「それを聞いてどうするんだい?」
「何が、とは言わないのね」
そろそろ質問のネタが無くなりそうだったんだ、とサンジは特徴的な眉毛を下げて笑う。そして、こう言葉を続ける。
「あとは心の準備が出来たからかな」
「心の準備?」
私の問い掛けに数秒の間をおいて、サンジは口を動かした。
「おれを好きですか?って聞く心の準備」
まぁ、ここまで散々、君の好きをつまみ食いして来たけどね、とサンジはテーブルに皿を置いて両手を落ち着き無く動かす。指先を絡めては解いて、私からの返事を待つサンジ。
「サンジは私が好き?」
「嫌いに見える?」
「あら、あなたはつまみ食いもさせてくれないの?」
わざとむくれたフリをすれば、私の指先にサンジの指が控えめに触れる。
「違ェよ、ただ、こういうのは男からだろ」
おれは君が好きだよ、ずっと変わりなく好き、とサンジは言う。まどろっこしい質問を捨て、ド直球な告白を寄越すサンジ。
「どこが好き?」
「そういう欲しがりなところかな」
「……嫌いって言ったら?」
「その時、考えるよ。今はまだ期待させて?」
期待しているならもっと自信がある顔をすればいいのに素直な男だ。その顔には不安が見え隠れしている。なのに、サンジの口は取り繕う事を止めない。
「嫌いの反対」
それに本当の嫌いは無関心よ、とサンジの頬に手を伸ばす。その手はもうサンジの顔を押し退けるような事はしない。
「嫌いだったら質問なんて無視するもの」
「君は優しいから」
「でも、お人好しではないわ」
頬から下に手を下げていき、その手はサンジのネクタイを掴む。そして、自身の方にゆっくりとネクタイを引き寄せて私は最後の質問に答える。その答えは普段とは違って一択の選択肢しか残ってはいなかった。