短編3
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プロポーズの言葉は一生ものだ、伝えた側も受け取った側も一生記憶に残る。だが、サンジのプロポーズは一生残すには少しだけ不格好な台詞から始まった。酒の缶を片手に近寄って来たサンジは随分と前に給仕の手を止め、男性陣と酒盛りをしていた筈だ。酒に対して強くもなければ弱くもない、至って普通のサンジ。普段は翌朝の事を考えて程々の量しか飲まないサンジにしては珍しい飲みっぷりだった。ハイスピードで酒の瓶や缶を開けてヘラヘラと笑う横顔をつまみに少し離れた場所で私もナミやロビンとグラスをぶつけ合った。そして、その二人と女部屋に戻ろうと自身達が空けた瓶をまとめている所にサンジは赤い顔でやって来た。二人に後は任せてと手をひらりと振ると私は一人その場に残り、サンジの相手をする。
「売れ残りセール中でーす」
デッキに座り込んでしまったサンジは私の手を引き、自身の胡座の上に座らせる。そして、後ろから抱え込むように私を抱き締めると棒読みの台詞を吐いた。
「売れ残り?」
「君が貰ってくれねェとサンジくん売れ残っちまうよ」
それでもいいの、と充血した瞳で私を見つめてくるサンジ。良いも悪いも決定的な言葉をサンジに貰った事はない。いつも、サンジは恋人以上の関係に進みたいという素振りはするが結婚したいとは言ってこない。言っても冗談未満といったところだ。
はいはいと適当な返事をしながらサンジの手から缶を引き抜き、水の入ったコップを握らせる。サンジは、ぶーと唇を赤子のように尖らすとコップの水を飲む。
「冗談じゃねェのに……」
「酒の席の言葉なんて冗談と一緒よ」
「素面だったら、ちゃんと聞いてくれる?」
「えぇ、勿論」
きっと、明日には忘れてしまうのだろう、この口約束も今の記憶も。そして、また長い長い恋人期間を過ごすのだ。結婚という言葉はまた深い冬眠に入り、次に顔を出すのはいつになるのだろうか。
「……おれね、本気だよ」
「はいはい、また明日ね」
「貰ってくれ、貰ってくれって言ってるけどさ……君を貰う準備も幸せにする準備もとっくに出来てんだ、おれ」
酔っ払いにしては随分とハッキリしている一言だ。そんな事を言われたら、後ろを振り返る事すら出来なくなる。腹に回されたサンジの腕にぎゅっと力が入り、私の肩にサンジの顎がのせられる。
「君のおれになりたい」
耳の傍で溢れたサンジの囁き、それを冗談と決め付けるには些か熱を帯び過ぎていた。私は頬の火照りを誤魔化すようにサンジから奪った缶の中身を一気に煽った。