短編3
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レースのカーテンの隙間から柔らかな光が射す、フローリングに敷いてあるラグの上に長い手足を丸めて大きな猫のようにうたた寝をするサンジ。少しだけ開いた窓から、そよそよと心地の良い風が部屋の中に入り、サンジの頬を優しく撫でる。眠りが浅いサンジの邪魔にならないように私は気配を消して少し離れたソファで読書をする。ページを捲る時の紙同士が擦れた音とサンジの小さな寝息だけが響くこの部屋は酷く居心地がいい。
ページは先程から数ページしか進んでいない、珍しいサンジの寝顔に視線は引き寄せられ、読書をしているのか、寝顔の観察をしているのか分からないといった状況だ。ベッドに入っても先に寝てしまうのはいつも私だ、サンジの長い腕に抱き寄せられて背中をあやすようにポンポンと一定のテンボで撫でられてしまえば、私になす術はない。朝だって眠たい目を擦りながらベッドから飛び出せば、意識どころか身なりをキチンと整えたサンジがキッチンで朝食の支度をしている。そして、歯磨きすら済んでいない寝起きの私を抱き寄せて、おはようのチューをしていくのだ。だから、ここまで無防備なサンジの姿を見るのは新鮮で少しだけワクワクする。サンジも人間なんだね、と言ったら目の前の男はなんて言うのだろうか。っ、くく、おれを何だと思ってるんだい?と優しく笑うか、へェ、君には何に見えてるのかな?と意地の悪い表情を浮かべるのか。ノリのいいサンジは何かしらのリアクションをくれるだろう。だが、その整った寝顔を見ていると人間でたまるかという八つ当たりにも似た気持ちが沸いてくる。蜂蜜を溶かしたようなブロンドに同じ色をした長い睫毛、インパクト重視のぐるぐる眉毛だって見慣れた今ではただ可愛らしいだけだ。目が二つ、鼻が一つ、口が一つ、それだけのパーツで表現された目の前の最高傑作の寝顔に溜息を吐く。推しが今日も眩しい、と。
小説をテーブルの上に置いてサンジの観察を続けていれば、サンジの腕が何かを探すように動き出した。目当ての物が見つからないのか、サンジの顔が少しだけ不機嫌に歪む。薄っすらと片目を開けたサンジは目当ての物が無かったのかラグに鋭い視線を向けている。ラグに穴でも空ける気かしら、とくすくすと肩を揺らしていればサンジは私の笑い声に気付いたのか、視線をこちらに向ける。
「おいで」
寝起きの掠れた声で私の名を呼ぶサンジ。酷く甘いその声にグッと下唇を噛み締めた。ぽふぽふと柔らかなラグを叩きながら、未だ寝惚け面を引っ掛けたままのサンジが舌っ足らずな口調で私を何度も呼ぶ。
「はいはい。今、行くから」
わざと素っ気ない返事を返して、寝転がるサンジの横に座り込む。そうすれば、普段よりも少しだけ強引な手付きで腕を引っ張られ、その腕の中にしまわれる。
「……何であんな遠くにいたんだい」
「起こしたくなかったのよ」
気配ですぐ起きちゃうでしょ、とサンジの乱れた前髪を指で整えようとすれば、その手にサンジの指が絡まる。
「君は別だよ、レディ」
普段よりも体温が高いサンジの身体。片手は私を抱き、もう片手は私の手に絡められている。
「ここにいてくれ」
疲れているのか、眠たいのか、また呂律が怪しくなってきたサンジの口から溢れた些細で可愛らしいお願い事。こくりと頷く私を見つめてサンジは安心したような笑みを浮かべる。そして、その身体からゆっくりと力が抜けていく。もう私が離れていかないと分かったのだろう。サンジは満足そうに頷き、もう一度その碧眼に蓋をした。
「おやすみなさい」
愛しい人、そう言ってサンジの閉じた瞼に唇を押し付ける。そして、私も徐々に重くなっていく瞼に逆らう事なく、意識をゆっくりと手放した。