短編3
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苛々する、普段から温厚な方ではないが最近は立て続けに苛々の原因にブチ当たってはまた腹を立てる。あー、クソ、と吐き出した声は低くて己の限界が近い事を実感させられる。普段なら気分転換に買い物に出てみたり、照り付ける太陽の光を遮るパラソルの下でサンジ特製のドリンクを飲みながら読書の一つや二つ楽しんで苛々を解消させる事だって可能なのに今の私にはそんな余裕は無い。時間の余裕ではなく、どちらかと言えば心の余裕だろうか。手摺りに凭れ掛かり、ボーッと無心で海を眺める私にひとつの気配が近付いてくる。
「君も一服するかい?」
サンジが差し出してきた煙草から視線を逸らし、私はまた海に視線を向ける。
「気分じゃないわ」
「頭をスッキリさせるには絶好のアイテムだよ」
「麻薬みたいね」
「っ、くく、おれはクリーンだよ」
会話を長引かせたくない私はサンジに碌なリアクションも取らずに、へぇ、と無難な返事を返す。サンジも私の気持ちを知ってか知らずか、特に会話を続ける気は無いようだ。無言で肺を汚す行為を繰り返すサンジ。
「……何でわざわざ此処で吸うの」
「美人を見ながら吸った方が美味いから?」
何それ、とサンジの手から短くなった煙草を奪い取り、吸い口に口を付ける。
「吸いさしでいいのかい?」
「……ほら、美人さんこっち向いて」
そう言って、私はサンジの顔に煙草の煙を吹き掛ける。こんな事をされるだなんて思っていなかったのか、サンジは目をまんまるにしながらこちらを見ている。
「っ、ふふ、間抜け面」
「ご機嫌になった?」
「……そんなに分かりやすい?」
「最近、余裕がねェっつーか本調子じゃねェみてェだからさ」
お節介だったら悪ィ、とサンジはバツの悪そうな顔をする。きっと、今の私は他人から見てもあまりよろしくない状態らしい。
「苛々する事が積み重なって、また苛々して負の無限ループよ」
「そりゃ、最悪だ」
サンジは肩を竦めるとそのまま私の頭に手を伸ばし、ポンポンと優しく撫でる。君に降り掛かる苛々はその辺の野郎に飛んで行け、と雑な台詞と共に撫で繰り回される頭。
「でも、君がその苛々をぶつけたいって言うならおれを選んでね」
「……八つ当たりなんてしないわよ」
「八つ当たりだなんて思ってねェよ」
それに君にされて嫌な事なんて一つとしてねェし、とサンジはポケットから煙草を取り出し、新しい煙草に火をつける。そして、話ならいつでも聞くよ、と視線を揺れる海面に向けるサンジ。無理に聞き出して来ないサンジの態度に救われたような気がした、相変わらず配慮がすこぶる上手い。
「ありがとう、サンジ」
「おれかい?」
何もしてねェよ、と喉を鳴らすように笑ったサンジの高さの合わない肩に凭れ掛かる。
「私は感謝してるわよ、あなたに」
「なら、感謝は受け取っておくよ。どーも、レディ」
それにそっちの短くなった煙草も受け取るよ、とサンジは私の手から短い煙草を引き抜いて自身の携帯灰皿に押し付けるのだった。